零号機

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【名場面】Rain

[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/23 01:32 (Wed) No.186


微睡みから目覚めるてみると覚えの無い部屋にいるレイ。

「いいえ、ここは私と彼との部屋だった。」


そぼ降る雨に濡れながら帰宅した彼と共に、静かな時間が過ぎてゆく。


-------------------------------------


 視線を窓辺へ向ける。変わらぬ姿勢の彼。静かにそれでも熱中して鉛筆を動かしている。何かに集中
する彼はいい表\情をしている、と思う。それを見るのは私の望み。私の喜び。眠気でやや意識が散漫に
なっている。不意に窓辺の彼が顔を上げる。目が合ったので一応伝えておこう、と思う。

「・・・ごめんなさい・・・少し眠ってもいい・・・?」

 半分眠ったような自分の顔は一体どんな感じなのだろう、と思う。言葉を受けて彼が少し笑う。変わ
らぬ彼の笑顔。それに出会いたくて、それを見ていたくて私はここに辿り着いたのだろう。温もりが身
体を包む。心地好い・・・。

「うん、いいよ。僕はずっとここにいるから。」

 ずっとここにいるから、という彼の言葉が何度も心の中を流れてゆく。そう、彼がずっといるもの。
そんなことを考えているうちに眠気がより一層進んでくる。まだ。もう一つ、大事なことを伝えておか
ないといけないから。

「・・・もし長く寝てしまっていたら夕方には起こして・・・夕食、作らないといけないから・・・」

 レイの言葉を受けて彼がまた少し笑う。本当に私、どんな顔しているの・・・?恥ずかしいという感覚
は既に遠い所に行ってしまっていた。ただ伝えるべき事だけを伝えたい、という思い。夕食は私が作る
んだもの・・・。

「いいよ、夕食ぐらい。僕が作っておくよ。」

「・・・だめ・・・夕食は私が作るの・・・」

[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/23 01:33 (Wed) No.187


 麻痺しかかっている意識の中でそれでも言葉だけは返す。だってあなた任せにすると、私はいつまで
経っても上手にならないもの・・・。繋げた言葉は確かに伝わったのかどうか分からない。ただ遠くから
彼の言葉が伝わってくる。きっと聞こえたのだろう、と思う。既にうつ伏せの姿勢になっていた。

「分かった。それじゃ、君の寝顔を一枚描いたら起こしてあげるよ。おやすみ。」

「・・・ありがとう・・・」

 テーブルに両手を重ねて顔は横向き。だって彼が描く時に困るもの・・・。薄れゆく意識と視界の中で
彼の優しげな笑顔だけが微かに見て取れる。それがイマージュとなって遊離してゆく意識の中に拡がっ
てゆく。包まれる感触。温かい闇がゆっくりと訪れる。そう、私は独りじゃないから。ずっと彼が側に
いてくれるから・・・。言葉が輪郭を無くし何処までも拡がってゆく。
 意識が静かに降りてゆく感覚。そして光とも闇とも区別のつかない領域で緩やかに拡がり始める。私
の心。私。感覚が解き放たれ全てが無であると同時に有となる。その中でひとつの想いだけが延々と流
れ続けていた。温もり。感覚ではなく印象。それは優しく笑っている。私は見守られて眠りにつく。と
ても大切なひと、愛しているひと。細かな光の粒となったその印象がどこまでも拡がり続ける意識をよ
り大きく包み込む。そう、それは私が望んだこと・・・。

 貴方に見守られて眠りにつくこと
 貴方がいつもそばにいてくれること

 そして


 柔らかな暗闇



------------------------

私の大好きな作家さんのお一人「Kameさん」
一作を選ぶのが本当に難しく、実際当初は別作品の別場面を考えていたのですが、色々考えてこの作品にしました。
「名場面」とはちょっと違うかもしれませんが、大人になったシンジとレイが共に過ごす静かな時間の美しさが
存分に感じられるカットかな?と思います。

本作は拙HPで一時期お預かりした「Holiday」のサイドストーリー。
「Rei IV」で有名なA.S.A.I氏のHP「Artificial Soul〜Ayanamic Illusions 〜」 への投稿作品で
現在でも同じ場所で閲覧可能\です。
後のKameさんの作品「Portrait」に繋がる世界観はおそらくこの作品から生まれてきたのでしょうね。


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【名場面】残月

[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/30 00:32 (Wed) No.195

幼馴染のシンジがチェロのレッスンを受けていることを知っているのはアスカだけ・・・
の筈だったに、何故かそれを知っていた銀髪で深紅の瞳の転校生「綾波レイ」。

ある日、シンジの不在の理由がコンクールへの出場だと人づてに知らされたアスカは、
レイに知っていたのかを訊ねてみたが、返ってきた答えは

「私は知らない・・・そう、私は・・・・」。

そしてコンクールが始まった。


----------------------------------------


「5番。碇シンジさん」

その声に僕は立ちあがった。
舞台袖からゆっくりと歩き出し、そして中央の椅子の横でチェロを置く。
観客席を見、そして一礼する。
それらを機械的にする僕。多分今なら、僕の耳元で爆弾が爆発したってびっ
くりしないだろう。
それくらい、僕は極限まで緊張しているから。

カタン。

構\えた弓が引っかかって、下に落としてしまう。
慌てて拾い上げるけれど、僕はもう顔を上げる事も出来ないほどに真っ赤に
なってしまった。




「…何やってるのよ。あのバカ」

口の中でその言葉を飲みこみ、アスカはじっとシンジを見つめていた。
あまり、変わっていない。
自分が知っているシンジと、こんなステージの上に立つシンジにギャップを
感じていた。けれど、今のシンジはアスカの知っている、いや、それ以上に
ドジでグズなシンジだった。

「……何やってるのよ、あのバカシンジ」

ふっと口元に浮かぶ笑み。
見知らぬ他人のように思えたシンジが、また自分の幼馴染に戻ってきたよう
に思えたから。

「すぐ緊張するんだから」

アスカは声をかけたい思いを、必死に押さえてそう呟いた。
さも、しょうがなさそうに。

[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/30 00:32 (Wed) No.196


課題曲を弾こうとする。
けれど緊張のせいか、思うようにそれが思い浮かばない。
どんな風な弾き出しだったか。
それすらも思い出せない。
どんどん、どんどん心拍数が上がって行くのが分かる。
そしてそれに合わせて、頭の中から楽譜が抜け出して行くような気がする。

不意に風が吹いたような気がした。

弾かれたように顔を上げ、僕はその風を感じた場所を見上げる。
そこに『彼女』はいた。
舞台の天井に張り巡らされた鉄骨の上に、そっと腰掛けて。
僕を見ている。
その真紅の瞳。
それに、吸い込まれそうになる。

何かを待っているその瞳。
じっと、僕を見つめてる、その瞳。

僕はゆっくりと目を閉じ、そして弓を引いた。

それまでの、これ以上無いくらいの緊張も忘れて。
そして弾き出された音は、僕と、そして彼女を包んだ。






シンジが不意に顔を上げた。
まるで何かを探しているかのように。
そして上を見、それからゆっくりとにチェロを弾き始めた。
今の今までの、緊張しきったシンジとは思えない、今までの演奏者達の演奏
と比べても遜色の無い、ううん、ずっと、ずっと優しい音。
シンジがこんな音を出せるだなんて、私はずっと知らなかった。
なんだか、シンジが私の知らない人に見える。
……なんだか、怖い。






音は途切れない。
ゆっくりと、そして優しく音色は会場を包んでいた。
それは本当は、たった一人に向けられた音。
けれどその音色は、確かに会場の一人一人を包んでいた。
そして、少年にだけは聞こえていた。
少女の、小さな歌声が。
小さな、本当に小さな歌声が。


それは何処か遠い国の言葉のようにも聞こえる。
けれど、懐かしい。


最後の音色が弾き出され、そしてシンジは目を開いた。
ゆっくりと見上げたそこに『彼女』はいなかった。
けれど、ゆっくりと下って行く視線のその先に、『彼女』はいた。

「……綾波……来て…くれたんだ」

そう呟いた。
そして微笑む。
自然に。
それは、来てくれた事への感謝なのか。それとも、逢えた事への歓喜なのか。
それはまだ、わからない。

シンジは立ちあがり、そして深く一礼をした。
少女のいる席に向けて。

そして少年が顔を上げた時、会場を割れんばかりの拍手が包んだ。
たった一人の、14歳の少年に向けられた、それは盛大な拍手だった。

[3] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/30 00:34 (Wed) No.197


作者はKeiさん。このHPでも1作お預かりしていますね。
この作品は一連の『月』シリーズの4作目で「めぞんEVA」のA04号室で公開されていた筈なので
今でも「綾波展」に行けばDL可能\かと思います。

音楽がとても大きな役目を果たす『月』シリーズは、自身が楽器弾きでもあった私にとって
共感出来る部分が多かった作品群なのですが、今回引用したこのシーンはそこを離れて、
情景の印象が深く残っています。

「舞台の天井の鉄骨にそっと腰掛けているレイ」

もうこの一行だけでご飯3杯行けます。(笑)

でもこの場面、文章だけだとレイ全然目立ってないですね。どっちか?ていったらアスカの方が出番多いし。(笑

ちなみに『月』シリーズは以下6作:

『朧月』『月光』『月天』『残月』『逢月』『皓月』(だと思う)

特に連載作では無く独立した6作品でしたが、後半2作はKeiさんご自身のHPでの公開だったようで、
残念ながら今はもう無いみたいですね。
6作全作品通して本編のレイとはまた一風違う透明で美しいレイが描かれています。

そういえばなんか『皓月』の後が発表\されていたような、いなかったような。
有ったとしたら読みたかったなぁ。


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【名場面】遠雷

[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:32 (Sat) No.192


シンクロテストまでの時間、雨音だけが聞こえる自室で、一人文庫本を読んでいたレイに聞こえてきた遠雷。
その彼方の空の光に照らし出されるようにレイの心に浮かび上がる微かな不安。

シンクロテストまでの時間、ミサトの家のリビングで、一人、ガラス窓を濡らす雨を見ていたシンジに聞こえてきた遠雷。
その彼方の空の光に照らし出されるようにシンジの心に浮かび上がる遠い記憶。

   「大丈夫…まだ遠くよ…あなたの上には落ちてこないわ…」
      
シンクロテストが終わった後、何かを伝えたい二人だったが、それが何かはわからず、
その想いが伝わることは無かった。

帰宅後、虚脱感と疲労感を感じたシンジが、幼きあの頃に戻っていくまどろみの中に
ふいに現れた少女が言った言葉

    「あなたは死なないわ…私が守るもの…」

翌日・・・



------------------------------------


翌朝、空はうって変わって快晴だった。

常夏の陽射しが遠慮なく街全体に降り注いでいる。

青々とした夏草の葉に、昨日の雨の名残が輝く。

大気は暑い日になる予\感に満ち、何匹かの蝉の声も混じり始めている。

サファイアの光沢を持つ空に、雲は少なかった。

綾波レイはマンションの階段を降りきった。

まだ湿り気を残す砂が靴の下でジリッと音をたてた。

階段を降りきったところに、大きな女郎蜘蛛の巣が出来ていた。

昨日の雨がその巣に水滴を散りばめ、賑やかに飾り立てている。

朝日の中の水滴は、光り輝く宝石にさえ見えた。

ふと見ると、そこには一匹の蝶がかかっていた。

眩い光の中に密やかな死があった。

そこにあるのは、息絶え、蜘蛛に食されることだけを待つ命の抜け殻であった。

レイには、それはどこか巧妙に作られた贋作のように見えた。

生への歓喜溢れる朝の風景の中で、蝶の死骸だけが虚構\で塗り固められたフェイクであるかの如く浮き上がっていた。

屍となったこの蝶の複眼に、世界はどのように映るんだろう…

そんな取り止めもない考えが心を掠めていった。

空を仰ぐと、眼が痛くなるほどの青と、眩しき陽光があった。

柔らかな風が、レイの空色の髪を僅かに揺らす。

レイはいつものように本部への道を歩き始めた。

そこかしこに生命の蠢く濃密な夏の気配が満ちてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

   その日、空に輝く円環の使徒が舞った。

[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:33 (Sat) No.193


作者はぐっちーさん。
ご自身のHPでの掲載だったと思います。

恐らくさほど有名な作品では無く(失礼!!)とても短い作品のエンディング部分なのですが、
初読時、蜘蛛の巣と蝶の描写がとても鮮烈に印象に残りました。
またこの鮮烈でリアルな描写の後のアルミサエルの描写が、嫌になるくらいリアル感を
増長させてくれたのを憶えています。

本当はもっと早い段階で登場させたかったのですが、私の文章力では冒頭に付与している
「あらすじ」がどうしても書けず、一時断念しようかとも思ったのですが「ま、いっか」と思い、
ともかく出してみました。

残念ながら恐らく現状、読めない作品かな?と思いますが「読んでみたい」と思われた方は
書き込み頂ければ、何か考えます。


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【名場面】Rei IV

[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:22 (Sat) No.188

「拾七番目の使徒を殲滅した直後、人類補完計画の正式発動が宣言された。」(本文より)

しかし以降の計画に関して何の発表\もないまま、シンジとレイのシンクロテストだけが
継続されていた。「三人目」という事実とどう向き合えば良いのか分からないまま、
距離縮められないシンジとレイだったが、ミサトの計らいより少しづつ互いの気持ちに
気付いていく。

しかしレイは知っていた。

自分がここには居られない事を。
消えるために自分がある事を。
消えねばならない事を。

やがて「約束の日」がやってきた。

----------------------------------

 シンジは泣きながら水面を見つめていた。
 水面が揺れた。
 セントラルドグマのほの明るい光が、さざ波の上で砕けて煌めいた。
 光……

(……光?……)

 水面が光った気がした。
 だが、気のせいかも知れない。
 さっきの光る雪の名残?

(光……光……青白い、光……)

 目の前の水面が揺れて、光った。
 そう、気のせいなどではない。確かに光った。
 青白い光が、LCLの波のプリズムで妖しく輝いた。
 光は、不思議なことに湖の中から射してくる……

(光……湖の中から、どうして……)

 シンジは光る水面をただ見つめていた。
 煌めく、光。まるで、湖に映る月明かりのように。
 そして光は少しずつその強さを増しているような気がする。

(強くなってる……青白い、光……違う、光が……光が、上がってくる……)

 LCLの赤い水面が白く濁って……いや、濁ったのではなかった。
 青白い光の源が、少しずつ浮き上がってきている。
 それは白い影のようにも見えた。

(影……白い、影……まさか……)

 心の中を一瞬だけ恐怖が駆け抜けたが、シンジはその影から目を離すことができなかった。
 荘厳な青白い光を放つその影は、少しずつ、少しずつ水面へと近づいてくる。
 そして次第にその姿をはっきりさせてくる。

(白い、影……使徒……人? ……人だ……人が……浮いてくる……)

 影は人の形をしていた。
 それはまるで、精巧に作られたガラス細工の人形のようだった。
 真っ白な肌……青白いほどに、透き通るように、白い肌……
 細くしなやかな、手足……折れそうに華奢な、躰……
 そして、澄んだ蒼銀の、髪……
 たとえその双眸が閉ざされていても、見まごうはずもないその愛しき面影……

「あ……綾波……」



[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:24 (Sat) No.189




 思わず声が出る。
 信じられない思いでシンジはその影を見つめ続けた。
 綾波レイ……その可憐な姿が、しずしずと水面に向かって浮き上がってくるのだった。

「綾波……」

 シンジは初号機の足元を離れると、その姿に向かって水面をかき分けていった。
 影は少しずつ水面に近付き、シンジと影の距離も縮まっていく。
 そして綾波レイの姿をしたその影は、水面まで……ついにシンジの手の届くところまで浮かび上がってきた。

「あや……なみ……綾波……」

 シンジはその影に向かって呼びかけ続けた。










……ここは、どこ?
私、消えたのに……
心だけが、あるのね……
ここは……

……夢?
そう、夢を見てるの、私……
二度目の、夢……
夢の中で、声がする……





『綾波!』





この声、知ってる……
碇君……
碇君の、声……
温かい声……
懐かしい感じ……
会いたい……もう一度……










「綾波!」

 綾波レイの姿をしたその影は、シンジの腕の中にあった。
 幻などではない、確かにそこに存在する影。
 シンジはその影をかき抱くと、渾身の想いを込めて呼びかけた。

「綾波!」

 シンジの涙の叫びに、その繊細な人形はうっすらと目を開いた。
 瞼が微かに震え、長い睫毛についた水滴が揺れる。
 赤い瞳が濡れて美しく煌めいた。

「綾波!」








[3] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:26 (Sat) No.190


夢……私、夢を見てる……
だって、碇君が、いるもの……
また碇君の夢を、見てる……





『綾波!』





碇君の声……
温かい……どうして?
夢なのに……





『綾波!』





碇君の匂いがする……
碇君の温かさを感じる……
私、消えたのに……どうして?





『綾波!』





碇君……泣いてる……また泣いてる……
前にもあった……こんな時……
そう、こんな時、私……










 シンジは見た。レイが僅かに微笑むのを。自分の腕の中で、レイは確かに微笑んだ。

「綾波……」
「……いかり……くん……」

 小さな声だった。

「あやなみ……聞こえるの? 綾波……」
「……碇君……私……」


-----------------------------------



作者はA.S.A.I氏。
初出および現在もHP「Artificial Soul〜Ayanamic Illusions 〜」にて公開されています。

数ある本編24話分岐モノの中でもレイな方々にとっては説明無用の名作かと思います。
そしてこのシーン、当時、私が読んだ多数のSS/FF作品中、最も美しいシーンの一つだったと思いますが
「美しい」だけでは無く、何よりレイが戻って来るのですものね。
嬉しかったなぁ、これ初めて読んだ時。

本当はこのシーンに先行する初号機のエントリープラグ内に光の粒が降る場面も、本当に綺麗なのですが
流石に余りに長くなるので割愛しましたが、以前読まれた方も、未読の方も、是非この機会に読む/再読
頂ければと思います。



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【名場面】明日の一歩前

[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/23 01:21 (Wed) No.181

銀髪に紅瞳、そして抜けるような白い肌の転校生「綾波レイ」。
そんな彼女の転校以来、幼馴染のアスカとの関係をイジられ続ける毎日に困惑しつつも、どこか意識してしまっているシンジに対して、
レイはいつも至って無邪気なまま。
そんなある日、風邪をひいたレイの見舞いにアスカやいつもの面々と一緒行き、またぞろ散々イジられたシンジだが、
帰宅後、レイの部屋に忘れ物をしたことに気づき、一人取りに行ったのだが。

-------------------------

「な、何言ってるんだよ!アスカとは関係ないよ!」

思わず僕は大声を出してしまった。何でこんな時にアスカの名前が出て来るんだよ。どうも昔から綾波は僕とアスカをくっつけようとしたがる。やめて欲しいよね。

「ゴメン。大声出して。でもさ、綾波がどう僕たちのこと思ってるか知らないけど、僕はアスカとは幼なじみでしかないって。変なこと言わないでよ、ホントに。」

僕の大声に始めは目と口で3つの「O」を作った綾波だったけど、すぐに表\情を思い詰めたような、それでいて覚悟を決めたような、そんな複雑な物に変えて僕をまっすぐ見つめてきた。

(どうしたんだろう・・・綾波が・・・いつもと違う・・・)

普段の綾波なら、絶対あそこで更にからかってきたに違いなかった。それに僕が必死で反論して、そんな僕を綾波が大笑いしてそれで終わり、のはずだった。

「じゃあさ、碇君にとって幼なじみ以上って・・・アスカ以上の人ってどんな人なのかな・・・」

言われた瞬間、僕は心臓が飛び出しそうなほど驚いた。この展開ってもしかして・・・

都合のいい方へと僕の思考は流れ始める。けれど頭の片隅で、この2年間散々綾波にからかわれた経験が、危険信号を発するのもまた理解していた。

(ちょっと待てよ、シンジ。何度こうやって綾波に騙された?綾波は僕をからかうのにいろんな手段を使ってきたじゃないか。もしそうじゃなくても今は綾波は風邪引いて動揺してるだけだよ。たまたま僕がそばにいたからこんなに優しいんだ。それにつけ込もうって言うの?ホントにそれでいいの?納得できるの?)

「・・それは・・僕にとっては・・・・・・」

そこで言葉が切れてしまう。理性が勝った訳じゃない。ただ、この期に及んでどうしても最後の一言が出ない。最初の言葉を口にしようと口は上下に開くのに、声帯がおかしくなっちゃったのかな、声が全然出てこない。

僕たちはただ見つめ合っている。

[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/23 01:21 (Wed) No.182



綾波が何を考えてるのかは分からない。僕だって心の整理がついてるわけじゃない。けどこの雰囲気は捨てたくなかった。

こんなに静かだったら、絶対聞こえるはずの時計の音も聞こえない。明るいはずの部屋も、目の前以外全く見えない。頭の中の警告音がすうっと遠くなっていって真っ白になっていく。

微かに綾波の唇が動いた。

ギシ・・・

ベッドがきしみ、そして綾波が体を寄せてくる。

・・・ゆっくりと目の前の紅が閉じられていき、軽く開いた唇が近づいてくる。まるで磁石に引き寄せられるように、僕の体も自然に前に傾いていた。

(綾波・・・僕は・・・)

僕は首を軽く傾けて、ゆっくり綾波の頭に接近させていく。それが、本当にゆっくりした動きなのか、時間がゆっくり感じられたからなのかは分からない。

ただ、今感じられるのはボーっとした自分の意識と、近づいてくる綾波の呼気だけ。

あと10センチ・・・3センチ・・・5ミリ・・・1・・・







コンコン

(!!)


(え?)

私はその乾いた音で我に返った。

そして、瞬間的に私達が何をしようとしていたかを理解して、右手で唇を押さえながら慌てて体の距離を取る。

(・・・私・・・何をしようと・・・)

きっと私今、困った顔してる。だって目の前の碇君がそうだもん。

二人の視線があった瞬間、私は碇君の方を見ていられなくなって、まるで逃げるようにベッドから身を起こした。

「あ、私が行くからいいって。見てくるね。」

「あ、うん。」

碇君も同じ事考えてたみたい。椅子から腰を浮かそうとしてたけど、私はそれを制して立ち上がった。

今は碇君見てられないし、とにかく何でもいいから動いていないと頭がおかしくなっちゃう。それに、こんな時間に碇君が出たら、それこそ他人に何を勘ぐられるか分かったものじゃないわよね。

「はーい」

どことなく落ち着かなそうな碇君を残して玄関に向かう。こんな時間に誰かしら?お見舞いにしては時間が遅すぎるし、回覧かな?

「どなたですかー」

外にも聞こえるようにちょっと大きめの声で聞いてみる。

返事はすぐに返ってきたけど、それは私にとってかなり意外な声だった。

『レイちゃん?私よ、ユイ。開けてくれる?』

[3] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/23 01:22 (Wed) No.183


作者はHALさん
この作品の初出はHP「ぴぐのへや」への投稿作だったと思いますが、その後ご自身のHP「HALの惑星」内でも
公開されたと記憶していますが、同HPは現在は「綾波展」内にサルベージされており、そこでの閲覧・DL可能\です。

HAL氏にはこういった「学園・リナレイ物」以外にも本編サイド、本編分岐の作品が多数有り、当時の一部LRS陣営(?)の
中では圧倒的な人気を誇った作家さんでしたが、特に「それから」「これから」の2作に救われた方も多かったのでは
無いでしょうか。

また引用したこの作品は、先行して公開されていた「LAST TRAVEL」の前日譚なので、もしそちらの作品を未読の方がいらっしゃったら
そちらも併せてお読みになるとさらに「ゴロゴロ」(古い表\現多謝:笑)出来ると思います。


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