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妖猫幻想草子
日時: 2015/10/28 08:31
名前: さくら

※おそらく6年くらい前の作品です。
※当時KOBというサイトに掲載されていた作品を
 用いたパロディの・・・残骸です。
※途中まで書いたのにもったいない、ということで
 あげることにしました。
更新はきっと気が向いたらちまちまと。とりあえず
できているところまで上げていこうと思います。

#00.終わりの始まりの終わりのry>>1
#01.ゲヘナ>>2
#02.にゃーん>>3
#03.黄昏酒場ののんべぇにゃーんども>>4
メンテ

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Re: 妖猫幻想草子 ( No.1 )
日時: 2015/03/07 15:24
名前: さくら

#00.終わりの始まりの終わりのry

「さて・・・あともう少しの辛抱ですから、動かないようにだけ注意して
くださいね?」

 一言、そんなことを呟いて少年が振り返る。漆黒の長い髪を揺らしなが
ら顔についたそれを払ってつづける。

「今回、みなさんをお連れするのは・・・まぁ、テーマパークみたいなものです。
そこで、殺人事件が起こるので皆さんで解決してください。
ちなみに、犯人とかそういうのは一切教えませんからあしからず」

 彼がそういうと、その後ろのほうに少しきつめの感覚で座っていた中の
一人が言った。

「なぁ、さくらよ?いつもみたいに禁断で遊ぶんじゃないのか?」

「ええ、まぁ・・・いろいろと、ありまして」

 さくら、と呼ばれた黒い長髪の少年が口を濁すと発言をした少年・・・七石天界こと、カイはヤレヤレと言いたげに口を開いた。
どうせ、またこいつの世界の住人になんやかんや言われたんだろう、と。

「ああはい。たまには別の世界でも作ってみたらどうだ、って・・・」

「だろうと思ったぜ。・・・それにしても、随分と人数が多いな、8人か?
いつも、せいぜい4,5人くらいだろうに」

 カイがそういいながらちらりと背後を顧みる。隣の席に座る弟、冥界を含めて、
その後ろの席にイワンと呼ばれた男、毎度よく一緒にいる風見義鷹に羽柴吉昭の二人。
 その後ろの席にルナ、という名前の少女とイヴというらしい女の子・・・足が不自由なのか、
車いすに座っている。彼女は、ルナと何やら親しげに談笑していた。

「それでさくら?一つばかり聞きたいんだが・・・」

「ああもちろん、事件にかかわるフラグをすべてさければデートもできますよ?
遊園地ですからね、デートスポットも一応用意してありますが、
そこかしこにフラグが転がっているので気を付けて歩いてくださいね」

 彼がそういった瞬間、がたんと全員が乗っているそれが揺れた。船のような形のそれが、
今回さくらが持ってきた移動用の空間で・・・普段は空間を直結させるそうだが、
多数の次元を直結させるときはこれを持ってくるらしい。が、やたらとよく揺れる。

「おい、さくら」

 そんな何度目かの揺れに耐えかねたのか、それまで黙っていた男、イワンが口を開いた。

「はい、なんでしょう?」

「・・・これでかれこれ14回目の揺れだが大丈夫なんだろうな?
いや、お前の世界に移動するのが数える程度だからな。どうしても不安が残るんだが」

「ああ、大丈夫ですよ。定員ギリギリなんで、ちょっとでもあばれたり、
動いたりしたら、
みなさん亜空間の藻屑になっちゃいますけど」

「そうか、それを聞いて安心した」

 そういった刹那、それを聞いた全員が蒼白になってさくらを顧みた。

「ちょっと待てぇ!?亜空間の藻屑ってどういうことだ!?
完全に安全な移動じゃないのかよ!!」

「・・・誰がそんなこと言ったんですか?
もう一度しか言いませんよ?目的地まで絶対に動くな、ちょっとでも
動いたら全員亜空間の藻屑になりますからね」

「な、なぁさくら・・・冗談やろ?
お前いっつもお客さん連れて行くからその分安全面を確保してるて
言うてたやないか・・・いややなぁ、そんな冗談」

「冗談抜きですよ。今回に限っては人数が多すぎてそこまで根回しできて
ないですから。あ、ちなみに私は無事ですよ?
亜空間から別の空間切り裂いて帰ればいいので。まぁ、ここの中なら
空腹になることも、喉が渇くこともありませんからね。・・・真空ですけど。
さすがに、談笑程度なら問題もありませんし、多少歩くくらいも
どうにかできま・・・」

 さくらがそこまで言った刹那、突然席を立ったイワンがカツカツとこちらに
歩み寄る。そしてガッとさくらの襟首をつかんで声を荒げる。

「ふざけるな!!そんな不安定極まりない状態で、この俺たちを招待したというのか!?
どういう了見だ、しんでも構わんというのか!!」

「うわっ、ちょ・・・暴れないでくださいって!?
ただでさ、不安定な空間で動いてるんですよ!?
これ以上暴れられたら、本当に亜空間の藻屑に・・・」

「そういう問題ではないのだ!!・・・いや、それも困るといえば困るが
まず、貴様自分だけ無事に助かるつもりでいただろう!そんなことで・・・」

 ぷすっ

「グハッ」

「まったくもう・・・大人しくしてろ、つっただろうが」

 ドサリと倒れたそれを席に押し戻すと、口調荒くそう言って元いた場所に戻っていくさくら。

「お、おい・・・何をしたんだ?」

「あー・・・面倒くさいから筋弛緩剤ぶち込んだんですよ。2時間くらいで元に戻り・・・」

 さくらがそういった、刹那これまでにない凄まじい揺れが船を襲った。

「「!?」」

「なっ・・・!!まさか!」

 さくらがそう声を荒げながら先ほどから彼がいじっていた機械に駆け寄る。
・・・瞬間、見てもわかるくらいにさくらの顔から血の気が引いた。

「お、おいさくら・・・まさか」

「は、はい・・・今ので完全に軸がぶれました。
この船、あと3分弱でぶっ壊れます」

 カイの言葉にさくらはあはは、と苦笑いしながらそういった。
そうかそうか、3分もあるのか・・・
そう言った刹那に修羅の形相を浮かべたカイがさくらに掴みかかる。

「ふざけるなコルァア!!何があと3分だ!?なんとかしろぉおおっ!!」

「ちょっと放してください、
今如何にかして次元に干渉してるところなんですからぁ!?」

「次元にって・・・お前やっぱり!!」

「全力で全員助ける努力をしてるんです!?最悪の場合は亜空間の藻屑に
なっていただくことに変わりはありませんが、それでも最善はつくします!?」

 そういうが早いか、さくらが向かっていた半透明のキーボードに
思い切り手のひらを滑らせる。瞬間、ポンポン、ポンという軽い音
を伴って、様々な記号の羅列が展開される。
 それを見て思わず手を放してしまったカイを尻目にさくらは
物凄い勢いで・・・それこそ指が倍以上に見える速度でキーをたたき始める。

「・・・第666式拘束機関解除、次元干渉虚数方陣展開・・・
コードSOLが破損している、だと!?・・・っち、別回路・・・
イデア機関あった!イデア機関接続・・・よし、これでとにかくあと
5分程度延命できる・・・それから座標・・・あ」

 そういった瞬間、さくらの顔が固まった。そのあとで、
しばらくの機能停止を経て、再びものすごい勢いでキーをたたき始める。

「周辺に座標指定できる空間がない、だと!?
ンなわけねぇよ!!俺が作った世界にそんな事象があってたまるか!?
禁断の派生パターンだけでも10通り近くあるんだ、それに
没にしたパロディや作る途中で座礁してしまった世界や、二次創作としての
世界なんかもあるはず・・・この近くにある、安定した空間なら何でも・・・
あった・・・あれ、でもこの座標、大丈夫かなぁ」

 さくらがそんなことを呟いた瞬間、船がまた大きく揺れた。

「「きゃあああああああああああああっ」」

「っち!!もう、ごちゃごちゃ考えてらんねぇ。面倒だからここでいいや!!
次元干渉虚数方陣展開、コードSOL、イデア機関接続、事象転移システム起動、
空間掌握システムオールグリーン、空間転移方陣、起動!!」

 瞬間、巨大な揺れと同時に当たりは閃光に包まれた・・・。
メンテ
Re: 妖猫幻想草子 ( No.2 )
日時: 2015/03/07 15:24
名前: さくら

#01.ゲヘナ

 閃光が晴れた瞬間、全員が軽い衝撃を持って地面にたたきつけられた。
その少し離れた場所に、ふわりと長い髪をひるがえして着地したさくらが
ふう、と一息ついていた。

「・・・いやぁ、何とか成功したか。この人数一瞬で転移させるなんざ
滅多にやらねぇもんなぁ。失敗したかと思ったぜ、ひゃーっはっはっはっはっはっは!!」

「笑い事じゃねぇえええええええええええええっ!!」

 さくらの高笑いを聞いて、一番に起き上ったカイが素晴らしい角度と跳躍からの
ライダーキックをさくらにぶちかます!!
 ・・・のだが、そこで彼の姿が後ろにすっと移動する。もじどおり、霞を蹴るような違和感にカイがきょとん。

「おやおやぁ?どうしたんですかカイ君。そんな攻撃では
私には傷一つつきませんよ」

「テメこの野郎!!」

「ヒャッハー!そんな攻撃じゃ足りねぇぞクソガキぃ!」

 そんなことを言いながら飛んでくるワンキル君やら体術やらをさばく馬鹿。
 それを見ながら何が起こったと言いたげな義鷹や吉昭。そして、それをみて
キョトンとしたまま、ルナに車いすを押されながらこちらにやってきたイヴ。

「・・・あの、さくらさんってあんな方でしたっけ?一度きりしか
お見かけしたこともないので、私の記憶違いかと疑っているのですが」

「・・・いや、間違いなくあんな奴じゃなかったと思うが。
口調も、なんかどっかの碧の魔道書もった外道みたいになってるし」

「せや。ほんとはもっとええ奴やで。いつもワイらみたいな登場人物
のこと真っ先に考えてくれるやつや。確かに、いつも、むこうの人らに
スボコにされたりストレス解消の道具にされたりしとるけど、
それでも、なんや・・・食えん奴やけどええ奴やと思うで」

「ええ、私も知る限りでは、こんな方ではないはずなんだけど」

 そういいながら、車いすを押すルナともども、三者三様に首を傾げる。
瞬間、カイの攻撃を受け止めたさくらが今度は義鷹たちめがけて片手で
カイをぶん投げた。それに対して、体勢を整えたカイが声を荒げて叫んだ。

「テメェ!いい加減に」

 そういった瞬間、遠くのほうから蹄の音が響き、6本足の馬に乗った
白銀の鎧の騎士たちが大勢でこちらに向かってくるのが見えた。
 さくらはそれを見ながら、全員と同じ場所まで飛びのいてガリッと歯軋りをした。

「・・・っち、暴れればここの世界の住人が出てくるとは思っていたが
こりゃ想像以上に厄介な世界に来ちまったな・・・」

「「そんな理由で暴れてたのかよ!?」」

 思わず全員がそう叫ぶ中で、さくらはこちらを振り返るとひどく真剣な
表情で言った。

「とりあえず、皆さん動かないように!そこから一歩でも動いたら
脅し文句じゃなく本気で死にますよ!?」

「何言ってんだよ、一応、お前の作った世界なんだろ?
お前が事情を話せば助けて」

 カイがそういった瞬間、騎士の手にした槍が天を突きそこから降り注いだ
大量のそれが彼らめがけて降り注ぐ!!

「龍脈皇・Taksaka!!」

 さくらの言葉と同時に現れた巨大なコブラがとぐろを巻いて
楯となって攻撃を防ぐ。それをみて、周囲に突き立つ槍を見て全員が
息をのむ。

「この世界は妖猫、禁断より以前にその原型として作り出した世界にして
全ての元凶となる世界。この世界のIFとして、禁断は存在し、禁断外での私は
一人の執筆者という存在でしかなく、一部存在を除いてはただの外敵、障害扱いです。
・・・その意味、解りますね?」

 つまり、相手はこちらを殺すつもりで攻撃してきている、ということらしい。
一部例外、というのは闇猫族の事かと全員が思った刹那、ひづめの音が鳴り、
6体の馬と騎士が目の前に現れ、同時にさくらの声が響く。

「ソード・アイリス!!」

 さくらの声が響いた瞬間、小さな花びらのような切っ先が宙に舞いあがり、
その切っ先が翻って騎士団を切り刻む!!

「テンペストダリア!!」

 さらにその切っ先が突風に舞い上がり竜巻のようになりながら
騎士たちを襲う。・・・が、その奥でストロボのような閃光が迸り、そのすべてが砕け散る。

「っち・・・やっぱり、この程度じゃ効きもしないか!!」

 さくらが叫ぶ。それと同時に振り上げられた剣をかわし、さらにそこめがけて飛んできた
槍を握り拳でたたき落とす!
が、その手についた傷はいえることなく、さくらは小さく舌打ちをした。

「・・・不死殺し・・・ミスリルの槍か!!」

 それとともに迫ったそれをかわし、後方に飛ぶと同時に鎖の胴体をもつ
蛇が現れ、その槍を肉薄し、弾き飛ばす!!

「ウロボロス!!」

 ガキンと、鎖とやりが打ち合い、その蛇の頭部が口を開いてその喉にかみつくと、さくらが横なぎに腕を振り払う。
それと同時に鎖の胴体が翻って、騎士を隣にいたそれを巻き込んで吹き飛ばす。
蛇の口が首から離れると、そこからどっと鮮血がぶちまけられる。どうやら、喉笛を噛み千切ったらしく、
震えていた騎士の腕がぱたりと落ちた。
 ウロボロスを服のたもとに戻すと同時、さくらが地を蹴り、駆ける!
先程仕留めた騎士の懐から剣を抜き取ると、それを使って
眼前の敵を貫き、返り血をもろともせずに横になぐと、そのまま隣に迫った
騎士を首から逆袈裟懸けに切り捨てる!!

「・・・生と死の狭間に生きる愚かなモノよ、その暗黒の瘴気に
身を食われ、魂を汚されしものの血を代償とし、栄誉ある賛美をその手に抱き、
躯と果ててもなおその栄光にすがり、最期の時まで我が身に仕える栄誉にすがれ!
・・・躯なる蛇よ!死肉を貪りその姿を変えよ!!」

 瞬間、大地がわななき口を開いてさくらが切り捨てた死体を呑み込み、
それと同時に地鳴りが響き、彼の背後から巨大な骨の蛇が現れる。
 否、それは蛇であって蛇に非ずというべきか。蛇腹はすべて人間の
上半身の腕以外の骨で作られ、頭部は無数の頭蓋骨が集まり、眼下の奥には
淀んだ闇が宿っていた。

「出でよ、蛇骨姫!!」

 そのさくらの一言に、骨の蛇・・・蛇骨姫が吠える。そして、その欲望の赴くままに
兵士たちを頭から貪り噛み砕く。

「・・・うぅ」

「げぇ・・・なんや、アレ・・・」

 それを見ていたメイが呻き、吉昭が後ずさる。
ちなみに、イヴとルナはさくらが騎士を一人斬り捨てたあたりで気絶し、
イワンは未だに抜けない痺れに気絶しているようだった。
 兵士の一人が、手にしたミスリルの剣で切りかかる。が、龍神の一種である
ナーガに傷をつけることはかなわず、さらにその騎士を横から現れた蛇骨姫がかっさらう!
 とっさに、蛇骨姫を切り捨てようとするが、切りつけることもかなわず踊り食いのようにそのまま口腔に押し込まれて飲み込まれた。

「・・・無駄だ、此奴は幾千の死者の憎悪の念と、躯、そして・・・
お前らの血と不死殺しの銀を取り込んだ。お前らごとき雑魚じゃ勝てネェよ」

 さくらの言葉とほぼ同時間、蛇骨姫が全ての騎士を食い散らかし、その身を腐らせるように
溶けて消えた。・・・食い粕の中に、さくらが静かに膝を折った。

「さくら!?」

 それを見た義鷹が、塒を解いた龍脈皇・Taksakaの中から出てくると、
そのままさくらを抱き起す。

「いやぁ・・・ちょっと無茶したなぁ、禁断だったら術の反動で
かけらも残さず消し炭になってたかも」

 そういいながらほっと一息。土ぼこりをはらって義鷹に肩を借りて立ち上がる。そのあとで、タクシャカのもとに歩み寄って、気絶している二人を
顧みて苦笑を漏らした。

「あー・・・やっぱり女性には刺激が強かったですかね。
まぁ、大体さっきの輩が出てきた時点で場所と時間帯もわかりましたし、
取り敢えず目指すは猫族の里ですね」

 さくらはそう言いながら、媒体である小さなポットを動かしている。
・・・この小さなポットが、彼曰く次元を移動する装置であり、現在の
彼の作品の中枢をやりくりするための代物なのだという。
現在、次元移動の機能は失われたそうだが、それでもその他の機能はまだ生きている、と本人談。

「・・・猫族の里、っていうことは」

「ええ、闇猫族がいます。もっとも、いろいろと禁断とは異なるところも
ありますが―――!」

 そこまでさくらが言った瞬間、がさりと近くにあった草木が揺れた。
義鷹を背にかばうようにして立ち、腰にはいた水晶蓮華の鯉口を切る。
が・・・その奥から出てきたのは、さくらとうり二つの女性だった。

「やっぱり、作者さんじゃないですか!どうしたんですか?遠目で見張っていたら
このあたりで蛇骨姫が見えたので、もしかしたらと思ってきてみたんですよ」

「お・・・桜花さん・・・ふええええ・・・あえてよかったぁああ・・・」

 そういいながら、へたりと腰を落としてマジ泣きしてるさくらに、全員がドン引きである。
さっきまでとの差は一体何だったのだろうか。

「あらあら、大丈夫ですか?怪我はなさそうですが・・・
まぁ、随分魔力を使ってしまってますね。すぐに休養しないと」

 そういいながらさくらをひょいと背中に背負うと、彼女は義鷹たちを
顧みて言った。

「申し訳ありませんが、皆さんほかの方を運んでもらえますか?
私一人では2人くらいまでしか一緒には運べないので」

「・・・あの、私歩けますけど」

「無理しないでいいですよ。そんな状態で」

 桜花がそういった刹那、ガサリと草が揺れその奥から現れた獣
背中に白い毛の生えた3対の脚をもつ巨大なトカゲがあらわれた。
 桜花は、それを見てそのトカゲの上にさくらをぺいっと投げ置くと、
義鷹たちを見て言った。

「そこにいるしびれてる方もこちらに乗せればいいでしょう。
私が使っている、移動用のペットのようなものです。なんなら、ほかの方も」

 そういわれたが、結局そこに乗ったのは気絶していたイワンとルナだけで、
ほかは歩きを選択した。さくらはと言えばそこに乗せられてすぐに寝息を立て始めてしまった。

「よう寝れるわ、こんな状態で」

「しょうがないですよ。彼の魔力で召喚を4連発したんですから。
召喚って、しまって出してする分には結構な力を使いますからね。
・・・出しっぱなしにしておけば、出す時の魔力だけで済むんですが」

 それを見ながらため息をつく吉昭を顧みて、クスリとほほ笑んだ桜花が言った。
まぁとはいってもだ、あんなものを出しっぱなしにされても・・・
義鷹がそう思っていると、ずるりずるりという音が聞こえて、振り返る。
そこに、先ほど彼らの周囲にとぐろを巻いていた蛇がいた。

「・・・あら、どうやらしまい忘れてしまったようですね。とは言え、タクシャカの
絶対防御はこの人数がいるなら必要不可欠かしら。・・・まぁ、
いざとなったら彼に戻してもらえばいいんですし、
人を取って食うようなこともないでしょうからこのままでいっか」

 そんなことをぽつぽつとつぶやいてから、彼女は何事もなかったかのように
歩き始める。ちなみに、なぜか車いすを押していたメイを後ろから吻端で
小突きながら速く進むように促して、カイに睨まれていた。無論、そのたびに
クックと不気味に喉を鳴らすだけだったが・・・。
 桜花に続いて森を歩くこと数十分程度。やがて開けた場所につき、
彼女はあたりを顧みるとその空間の一か所に手を触れた。同時に、空間がゆがみ
周囲に町が現れた・・・。

「!」

 全員がその光景に目を見開く中、目の前にいた桜花が振り返り、クスリと笑った。

「ようこそ、猫の里へ」
メンテ
Re: 妖猫幻想草子 ( No.3 )
日時: 2015/03/07 15:25
名前: さくら

#02.にゃーん

 猫の里、と呼ばれる場所に到着した一行。気絶していた状態から目を覚ました
ルナがトカゲの上から降りた。・・・意外と肝が据わっているのか物おじせずに
6本足のトカゲに触っている。そんな彼女を尻目に、周囲を顧みると案の定というべきか、
異形だらけだった。

「なんというか・・・本当にさくらが好きな世界をそのまま固めて作ったような世界だな」

「せやな・・・なんちゅーか、ほんま此奴が大好きな悪魔や妖怪のたぐいを
ごっちゃごちゃに詰め込んで固めて作ったような世界やな」

 そんなことを言いながらあたりを見回す。首のない馬に荷台をひかせる
首を小脇に抱えた少女や、
骸骨が麺の湯切りをしているなどというシュールな情景まで、さまざまだった。

「というか、俺たちここにいて大丈夫なのか?
此奴らにとっては俺たちのほうが異形なんじゃ・・・」

 人間など存在しても少数であろうこの世界において、ましてやこんな魔物だらけの
場所にはどう考えても人間はいないだろう。そうなれば、必然的に。

「大丈夫です。ぶっちゃけて言ってしまいますと、私も女神ですから。
剣神と呼ばれる戦女神の一種です」

「なんだ、そうだったんだ。だから、腰に日本刀なんて履いて・・・
あれ、でも神様と妖怪って喧嘩してたんじゃ」

 そういってメイがちょこんと考えるしぐさ。
それを聞いて、桜花は微笑むと、そのままの表情で言った。

「それはもう何百年も前の話です。もっとも、私もそのころは
神々の軍について妖魔たちを切り刻みつづけていたわけですが・・・。
今でも思い出しますわ、あの血に塗られた戦場を銀の切先と我が身一つで
駆け抜けた日のことを」

 そんなことをふとつぶやいてから、リンという鈴の音を聞いてはたと
全員がそっちを顧みた。そして、それと同時にどうでもよさ気にさくらが目を覚ます。
・・・その瞬間、さくらの顔がぞっとするほど蒼くなる。

「あ・・・うわ・・・」

『・・・げぇ、さくしゃーよりにもよって朝一番のお散歩で、
こんな貧相な下種に会うなんて思ってもみなかったわ。・・・ねぇ、りりちゃん』

「・・・」

 肩に担ぐ大鎌の中から出てきた金髪のウェーブが掛った色白い少女が
半身を乗り出している。そのままさくらを顧みて心底いやそうな顔をした。
半面、無言のままにさくらを見下ろす、大鎌を持つ女性はその場にいるものなら
殆どがその存在を知るものだった。

「リリ」

「リリカ義理姉さん!」

 義鷹が、その名を呼ぼうとした時、それを遮って桜花が声を上げた。
桜花はそのまま女性・・・リリカに駆け寄ると、自身より背の高い彼女を
下から覗き込むようにして言った。

「もう、起きていて大丈夫なのですか!?てっきり、まだお休みなのかと」

「うん・・・もう大丈夫」

『桜花がいないからさー、お散歩がてらごはんでも買いに行こうかと思って
外に出てきたの。ジンも修行だからっていなくなっちゃったし。変な魔力の
波形も感じたから来てみたんだけどぉ』

 そこまで言って、大鎌の少女、サラがさくらをねめつける。そのあとで
その背後にいるメンツをなめるように見回してから
片手で頭を押さえて大げさにため息一つ。

『こんっ・・・なにたくさん異界の異物なんか持ち込んで・・・
あんたら、リリちゃんにあと100歩圏内まで近づいてみなさい、
肉片にしてバジリスクのエサにして・・・』

「・・・サラ、別にいい」

 そう、サラを制したリリカはそのまま生気のない複眼を義鷹たちに向けた後で
さくらの目の前に座り、そのままその頭を撫でた。

「無理、しちゃダメ。書き手がいなくなったら、皆路頭に迷ってしまう」

 そういってから返事をしようとしたさくらの口に中に何かを放り込んだ。
そのあとで、彼女がもごっとほほを動かす動作を見せたのでさくらはそれを噛み砕いた。
・・・瞬間、ぞっとするほどの魔力が全身を呑み込んだ。

「っ!」

「・・・増強剤。以前、貴方に使わせていた改良サンプル。
これで、こっちでも大量の蛇を呼べる」

「あ、ありがとうございます」

 さくらがそうつぶやいたのを聞いて、彼女は初めて表情らしきものを浮かべると、
桜花を顧みて立ち上がる。

「お客のこと、貴方に一任する。この街の中での買い物に限っては、
私が持つようにする。あとは任せる」

「はい」

 桜花の返事を聞くと、無表情のままに振り返ってそのまま人ごみの雑踏
に消えて行った。

「待て、リリ」

「わー!ストップストップストップ!?ダメですよ、義鷹さん!こっちのリリカさんは
性格から何もかもがすべて異なるんです!それに、サラさんだって・・・」

 そういってからさくらは静かに義鷹から手を放した。
それを顧みて、彼も静かに肩を落とし、吉昭が口をはさむ。

「と、ともかくや、わいらもどうに雨風しのぐ場所を探さなあかんな。
喰うもんとかは、買い食いする分には必要な金は用意してくれとるんやろ、
せやったら後は・・・」

「・・・難しいこと考えてないで、うちに来ればいいじゃない」

 さらりと隣から聞こえてきた声に全員がそこを顧みる。
こちらを見て、きょとんとしている桜花。さも当然のことを言っていると
言いたげな顔をしている彼女に、イヴが問う。

「よ、よろしいのですか?ただでさえ、ここまで連れてきていただいたというのに、
これ以上ご迷惑をおかけするわけにも」

「かまいませんよ。私の家には今はジンさんと私しかいません。
別に、部屋も大量に余っていますし、この程度の人数なら別段問題視するほどでもありません。
それに、どのみちここであなた方が頼れるのは、おおよそ私達だけでしょう」

 禁断の世界に、なんらかの関係のある方だとするならば。
桜花の言葉に、全員が顔を見合わせる。確かに、ここにいるのは全員、さくらという
禁断の世界のいわば柱によって呼ばれた者たちだ。目的はともかく。

「そうだな・・・ここは、お言葉に甘えるよりほかにないだろう」

「俺も同意見だぜ。さすがに、このままちょろちょろ歩き回って大丈夫な
場所じゃなさそうだしな」

 そういって、義鷹の意見に賛同するカイ。
勿論、早急に帰るためにもその方法は探さなければならないが・・・。

「ま、行き先が決まった以上、あとやるべきは一つですね」

 そういってから静かにため息をついたさくらはそのまま桜花に言った。

「彼らのこと、任せていいですね?私はルルさんのところに行ってきます」

「ええ、わかりました。・・・大丈夫ですか?
まだ、完全な状態ではないと考えられますが」

「あそこに行く程度の道ならまだ覚えていますから、大丈夫ですよ」

 そういって、さくらもまた人の雑踏にまぎれるようにして消えてしまった。

「では、行きましょうか」

 そういって歩き出した彼女の後を、後ろからついて歩きながら
カイが、そしてルナもまた思う。隙がない・・・。背中を見せているというのに、
背後からでも今、攻撃の手を見せれば確実に、叩き伏せられる。
 しばらく歩き、町を離れて山のほうへと向かう。
そのまま小高い山へ続く山道に入り、そのまま登っていくと大きな屋敷が見えた。
 そのままその中に入っていき、玄関を開けて桜花は靴を脱いで上がると、
そのまま後ろにいる人を顧みた。

「さ、上がってください。自宅だと思ってくつろいでいただいて構いませ
んから」

 そういってから、ふと気が付いた。

「・・・あら、先ほどの変な口調の方と、鋭い目の方と・・・もう一方、
リリカ義理姉さんの名前を呼びかけた方がいませんね?」

 そういいながらそんなに足早に移動したかしら、とイヴに問う。
イヴは背後で車いすを押していたメイを顧みてどうでしたか、と問う。

「・・・いえ、そんなに速足じゃなかったと思いますけど。
僕が車椅子を押しながらでも追いつけましたから」

 そういって小首をかしげる二人とルナ。そしてイワンはと言えば
未だに気絶したままだった・・・。まぁ、静かだしこの方がいいかと思う
ルナもいるが・・・。
 そのころ・・・。

「なんやさくらのやつ、こっちのこと気がついとったんやろうか?見えんようになってしもた」

「そりゃねぇと思うぜ?俺たちの気配なんて、こっちじゃないようなもの
なんだ。そう簡単にばれるかよ」

「・・・いや、しょっぱなからばれてただろ。あいつしきりこちらに
悪いことが起こらないか気にしながら歩いているようだったからな」

 まぁ、禁断とは悪すぎる意味で場違いな場所だからな。と、義鷹。
しかし、ルルに会いに行くといったさくらはなぜ、こんなところに来たのだろう。
誰もがそう思っていた。

「どうなってんだ、ここ・・・森か?」

 あたりを見てもどこを見ても木が生い茂るそこは、確かに森に見えた。
しかし、そこは森特有のにおいはなく動物の気配もしないのである。
森の中にあるのはうっそうと茂る木々のような何かだけだった。もちろん、
はたかれ見ればそれは確かに木、なのだが・・・。

「木の実感がない、なんといえばいいかわからないが」

「まあ、確かにな。
なんとも言いにくいが、確かに違うような気がする。いや、
何が違うのかといわれると何とも言い難いんだが」

 義鷹とカイが意見をかわす。それと同時に、せやろか、とつぶやいて
吉昭が木に触れた・・・瞬間。

「!・・・あぶねぇ!!」

 いち早くそれに気が付いたカイがカード状のそれをブン投げる。
通称ワンキル君と呼ばれるそれは機に突き刺さるとそのまま爆ぜる。
・・・そこに、くぼんだ穴が開き、その上部にも同じ穴が開いて
その奥で、不気味な光が灯っていた。

「なんや・・・妖怪!?」

「トレントか?・・・樹木に宿る精霊の類だったはずだが」

「そんなこと流暢に解説してる場合か!!来るぞ!?」

 そんなことを、カイが叫ぶ。三人背中を合わせて・・・どこからわいたか
周囲を取り囲むように現れたそれらに向かい合う。武器になりそうなものは
カイの持つワンキル君程度、吉昭はそれと言って武器を持たないがそれでも
デュエリスト、デュエルディスクだって横に薙ぎ払えばそれなりに武器になる。・・・通じるかは知らん。
 そんなことを思っていた、刹那。何処からともなく雷のような大声が、
しかし透き通った水のように澄んだ声があたりに響いた。

「おやめなさい!!わたくしの無二の親友のお連れ様に暴挙を働くようなら、
この森ごと貴方方を滅します!!」

 凛と張ったその声を聞いて、トレントたちが道を開く。その奥に、二階建ての
レンガ造りの家がたつ小高い丘が見えた。
 その家の扉の前に大きな杖を持つ白いローブを羽織った・・・猫のような
耳をはやした獣人が立っていた。

「・・・なんや、この展開。どっかで見たことあるんやけど」

「ああ、俺もだ」

 二人そろってそういい合ってから樹木たちが開いた道を歩いていくと、
その先に二階建ての家が見えた。その玄関先にさくらと、もう一人・・・
長い黒髪に白い猫のような小さなさ角形の耳の女性がいた。・・・さくらが
逢いに来ていた人物、ルル・エイジェリングである。

「すいません、うちの門番どもが迷惑をおかけいたしました。
ようこそ、アトリエ・ルルへ。何もおもてなしもできませんが、どうぞごゆるりと」

 アトリエ、という言葉に三人が顔を見合わせた。確か、禁断では彼女は
医者をやっていたはずだが・・・。そんな思いとは裏腹に、3人に向かい合うように座った
さくらが大きくため息をついた。

「・・・皆さん一体何でついてきたんですか。てっきり、桜花さんのお宅に
もうついてる頃だと思って安心してたのに」

「お前な、いきなり消えて言った奴が何言ってんだよ」

 カイがそういいながら呆れたように片肘をつく。
それを顧みながら吉昭は言った。

「せや。ワイらも一応当事者やからな。安全な場所でのんびり待っとけ
言われてのんびり待てるかいな。それにな、もしかしたら
逢えるかもしれんやん、その・・・わかるやろ?」

「・・・貴方の会いたがってる人にあったら食い殺されますよ?」

 さくらの声にけだるげな重さが入ってそう言った。それを聞いて、
彼はまた冗談を言ってからにと言っていたが、義鷹のほうはそうは思わないようだ。

「・・・いや、あながちウソではないかもしれないぞ?
何せ、サラの性格がリリカとほぼ逆転していたからな」

「あー・・・そういえばそうだったな、俺はあんまり詳しく知らないけど、
サラってたしかもっとのんびりしてる感じだったよな?」

「そやな・・・今まであったメンツで唯一さくらの事けぎらっとるやつやったもんな」

 そういってから頭をかく吉昭。禁断ではほぼ自作キャラ全員に嫌われている中、
サラこと、沙羅魔堕羅とカカオくらいが唯一、作者を気に掛ける存在だったというのに、
こちらではあったその場で嫌な顔をされた位である。

「まぁ、そこらへんも逆転させてる場所ですからね。
禁断では、闇猫族の方たちがいて悪魔側が聖戦を収めたことになってますが、
妖猫では闇猫族は戦争にかかわる前に滅ぼされたことになっています。
・・・もっとも、実際は郷を捨ててほうぼう散り散りになってるだけなんですが」

「―――ですが、そのことは表沙汰にしてはならぬ禁忌。
神々が己の絶対的勝利を確実にし、反逆を許さぬための偽り。
故にそれを破ったものたちには、始末という名の罰が下りますわ。
・・・さぁ、お茶をどうぞ、冷めないうちにのんでくださいませ」

 さくらの言葉を引き継ぎながら、えげつないことを言いながら
きれいな笑みを浮かべたルルがいた。

「・・・それにしても、先ほどの会話を聞いていて思ったのですが。
御一方、変わった口調で話す方がいらっしゃいますね。
その口調を聞いていると、まるで夜深姉様を思い出してしまいますわ」

 そういいながらため息をついた彼女。
彼女の言葉に全員が顔を見合わせた。

「ちょっとまちぃ、今・・・姉様言いはったか?」

「はい。夜深は私の姉、リリカ姉様の双子の先児になりますが・・・
それが、どうか?」

「あー、禁断だとですね・・・ごにょごにょ」

 小首をかしげるルルに、さくらはそっと耳打ちした。
それを聞いてふむふむ、と聞き入っていた彼女はそう言う設定で
書いているのですね、とうなずいた。

「なるほど、確かにそれならば顔を見合わせるのもわかりますわ」

 そういってから一息おいてからルルは言った。

「会いたい、というのならば塒くらいは教えて差し上げますわ。
もっとも、そこに行って無事に帰ってこれるとは思えませんが」

 そういってから、さてと、とさくらを顧みてルルはいった。

「先ほど預かった移動用のシステムですが、修理は無理ですわ。
ムラクモユニットもほか機能のうち、空間移動に関するすべての
データが壊れて使い物になりません。早急に新たなものを作らねばなりませんが、
少し用があって3日ほどあけねばなりませんので1週間程度
待っていただくことになるかと」

「・・・マジかよ」

 それを聞いてカイは小さくため息を漏らした。おまけに、材料も
余り残っていないのでそれを収集してからになるため、1週間ということらしい。

「その材料、俺たちで集められないのか?
流石に、すべてを集めることはできないかもしれないが、簡単なものなら」

「やめておいた方が無難だと思いますわ。
簡単なもの、と言ってもほとんどが仕入れではなく、原料を調達して
錬成するモノですから、店先にはありませんし、採掘場所にいったからと言って
確実に取れるわけでもありませんからね」

「いったい何がいるっていうんだよ・・・その何とかって機械に」

 カイがそういうと、ルルはメモ帳のようなものを開きながら
・・・さくら曰く、彼女の妖力を媒体にしたエアメモ帳というものらしいのだが。
その質問に答えた。

「・・・簡単なものですが、第3位以上の天使の翼、緑眼の銀竜の鱗、
龍脈皇の牙、ヨーウィの唾液ですかね。まぁ、他の材料は今ある端末から
元素分解すれば手に入るので問題なさそうですが、最低でも
この4つのものだけは現物が必要不可欠ですので」

「龍脈皇の牙、ってのはすぐに手に入りそうだな。
さくらの連れてる蛇が確かそんなのだったはずだし」

「ええ、ヨーウィの唾液もすぐですね。桜花さんの連れていたトカゲ、
アレがヨーウィです。なので、後は2つ・・・難題だ」

 そういった後で、さくらがくたんと頭を机に落とした。それをみて
苦笑しながらルルが言った。

「まぁ、そういうわけですので。ほか2つが・・・
まぁ、私が出張れば1日あればすべて回収できると思いますが、
皆さんではどれだけかかることか」

「それでもかまわん、やらせてくれ」

 義鷹の言葉に、残りの2人も一瞬顔を見合わせたが、誰ともなくうなずいた。

「・・・しょうがありませんわね。
わかりましたわ、調達可能な場所をお教えいたします。
ただし、絶対にさくらを伴っていくこと、無理はしないこと、
ついでにもう一つ、その腕についている機械を
貸していただけますか?」

 曰く、それを使って戦えるようにしてくれるらしい。
カイたちは腕から外したそれを彼女に預けて、さくらとともにルルのアトリエを後にした。
メンテ
Re: 妖猫幻想草子 ( No.4 )
日時: 2015/10/28 08:43
名前: さくら

#03.黄昏酒場ののんべぇにゃーんども。

 さくらの案内で桜花の家に帰ってきた3人は、
先にこちらに来ていたメンバーにルルから聞いた話を聞かせた。

「・・・つまり、その材料2つはすぐにでも手に入るのですね?
でも、ほかの材料を手に入れるにはかなりの手間と命がかかる・・・と」

 イヴの言葉に義鷹がうなずく。

「しかも、現場に向かっても確実に入手できるわけではないときた。
そんなところに命を投げ出してまで行く必要はあるのか?
最悪のケースも想定するならば・・・ここは、プロに任せるのが
適任だと思うぞ」

「確かにそうだが、俺たちだってただ何もせずに一週間、
ここにいるだけっていうのも・・・なぁ、なんつーか、わかるだろ?」

 イワンの言葉を聞いたカイは、そういって何とも言えない表情を浮かべる。
まぁ、わからんでもないが・・・と答えてから、彼はさくらを顧みる。
 愛用の日本刀を脇に抱えて、部屋の隅にある桐箪笥にもたれ掛る
ようにして眠る彼は、とにかく疲労を回復のために寝るといっていた。
おそらく明日になったらいの一番に飛び出すだろう。誰もがそう思っていた。

「・・・すぐに集められる材料もあるんだよね、兄さん」

「ああ。そっちの方は、さくらが起きてから桜花や俺たちを
守ってくれたあのデカいコブラに話してもらう算段たててたから、
心配はねぇだろう、だから問題があるとすれば」

「その残り4つ、という訳ですか。
・・・たしかに、このままここでじっと待っているわけにもいきませんよね。
一週間の間に、何が起こるかもわからないですし・・・まぁ、私は
こんななので、結局、ここにいるしかないのですが」

 そういって、自身の座る車椅子をペチペチとたたくイヴ。
心なしか残念そうに見えるのはきっと気のせいではないのだろう。

「・・・私の足が自由に動くのなら、この世界を歩いてみたかったなぁ。
絵本の世界みたいでおもしろそうだったし」

 そうつぶやいた。が、ついさっきトレントの群れに襲われかけた
吉秋やカイたちは割と複雑な表情である。案外、いいもんじゃないぞこの
世界、と言いたげな彼らにイヴはきょとん。

「・・・とにかく、さくらが起きてからもう一回話を」

 そうつぶやいて義鷹がさくらを顧みると、いつの間にか、さくらの
腕に青い長い髪の少女が抱かれ、視線に気が付いた彼女が睨みを聞かせていた。

「・・・何よ?」

「げっ・・・水晶姫やんけ。なんでお前ここにおるねん!?」

 吉秋が狼狽する。その姿を見てほかの面子が顔を見合わせる中、
吉秋がじりっと後ずさる。

「・・・あー、そうやアンタこの間の時に見た面ね?
あによ?また私たちの邪魔しようっての?容赦なくぶっ殺がすわよ?」

「いや、別に邪魔する気はないけどな・・・
いや、ちょいまちぃ?お前が外におるいうことは、またさくら」

「・・・ああ、それなら心配ないわ。
ここは禁断よりはるかに魔力の濃度が濃いからね。世界軸が違うから、
私も自力で外に出てこれるの。だからさくらには別段、これと言って
変化はないはずよ」

 彼女はそういってやれやれねぇ、とためいきをついた。

「でもね、一つ変らないこともあるわ」

 彼女がそういった瞬間、空間が引き裂かれるように縦に割れ、そこから
現れた水晶の切っ先が吉秋たちに向けられる。

「あんたらがさくらに害をなすなら、その時はたとえそれがさくらの
意志に反したとしても、殺すわ」

「・・・あいっ変わらずおっかないねぇちゃんやな。
祭んとき、あんだけはしゃいどったの・・おぉっ!?」

 吉秋が口を開いた瞬間、彼の座っていた場所が盛り上がり、
とっさに身を躱すと同時に、そこから水晶の柱が突き出した。

「・・・・あー・・・いやなこと思い出したわ、
あんた、そこにいたんだったわね。死ね」

 引き裂かれた空間から頭をのぞかせていた水晶の塊が吉秋を襲う。
それをバックステップで回避し、そのまま庭に飛び出した瞬間、さくらの腕から
一瞬の間に飛び出した水晶姫が手にした水晶の刃の刀が振り下ろされた!
 ・・・が、その切っ先は吉秋に触れる直前に粉々に砕け散った。

「「!」」

「・・・水晶姫、私の預かったお客様に手を出して、ただで済むとは
思っていませんよね?それに、これはあなたの私怨であって、条件に
当てはまる行動ではない。そうなった場合はこちらからあなたを阻害する
事が出来る事をおぼえていますね?」

 そういいながら、横から歩み寄ってくる桜花。
刀の間合いからは確実に外側のはずだが、鞘に納めた刀の鯉口を切って抜刀の
体制に入っている。が、水晶姫だけは気が付いていた。それが、抜刀の体制ではなく、
納刀の前、つまり居合抜きから鞘に刀が戻った後の状態であるということに。

「・・・っち、わかったわかった。私が大人げなかったわよ。
作者の条件1、キャラクターとして作中に登場する場合、それが精神的、
または肉体的に作者本人に害がない場合を除き、既存のキャラクターを殺すことはできない。
・・・ちゃーんと覚えてるわよ、わすれるもんですか」

 水晶姫はそう言ってヤレヤレ、と言いたげに被りを振った。
それを見た桜花は、それならばよしと柄から手を離す。そして、
緊張感に包まれた中で静かに口を開いた。

「さくらの持つ刀とはいえ、所詮はジンさんの持つ蓮華冥火の模造刀なのですから、
余り無謀なことはしないことですね。・・・死にますよ?」

「模造刀だから何だっていうの?
あんたこそ、精霊すら憑かないような鈍で無茶はしないことね、
殺すわよ?」

 そういって、クックと喉を鳴らして笑う水晶姫。対して桜花は
目を伏せがちにため息をついて踵を返して奥へと引っ込んでいった。

「・・・ったく、いけ好かないったらありゃしな」

 水晶姫がそういった刹那、その横っ面が思いっきり殴り飛ばされた。
誰もが一瞬、それに目を奪われると同時に目を見開く。
 そこには赤紫色の髪をした、水晶姫とうり二つの少女が立っていたからだった。

「いったあ・・・ちょっと、冥晶姫!?いきなり何するのよ!!」

「あら、いきなりじゃないわ。ちゃんと予備動作を見せて差し上げてよ?
貴方、さくらと一緒に出て行って以来、鈍りきってるんじゃなくて」

 そんなことを言いながらつかつかと水晶姫に歩み寄ると、
その襟をつかんでひっぱりあげる。

「・・・・まぁそれはともかくとして、あなた、私のツレに
なんて失礼な口をきいてくれたのかしら?これはしつけが必要ですわね」

「ちょっと!?」

 がっしりと水晶姫の襟首をひっつかんだ冥晶姫だったが、
その手をはたいた水晶姫とそのままジッ・・・とにらみ合う。
瞬間、二人の周囲を取り囲むように円錐状の水晶の柱が大量に生えた。

「・・・」

 お互いににらみ合う、一瞬。軽い音を伴って両者の水晶が
粉々に砕け散った。見ると、いつの間に飛び出したのかさくらが
刀の鯉口を切った状態で二人の間に割って入っていた。

「・・・いい加減にしてください。水晶姫の言い分が悪いのは
十分承知していますが、お二人が殴り合うことが解決にはならないでしょう?
ほら、水晶姫も・・・桜花さんに謝りに行きましょう?」

 そういいながら冥晶姫に目をやって苦い笑みを浮かべたさくらは、
水晶姫の手を取って縁側の方に引っ張っていき、そのまま家屋の奥へと
消えていった。

「・・・まったく、興が削げてしまったわ」

 その一言だけをつぶやいて、冥晶姫もまた姿をくらませた・・・と、
思った矢先にさくらたちが戻ってきたらまたあらわれた。

「っと、そうでした、さくらに伝言。夜深さんが飲むから来い、だそうよ」

「・・・げぇ・・・明日は二日酔いだな、これは」

 さくらはそうつぶやいてヤレヤレだ、と頭を押さえた。
それを聞いていた吉秋が、そそそ・・・・とさくらに近づいた。

「な、なぁさくら?せっかくやからわいもつれてってーな?」

「・・・はぁ。つぶされても知りませんよ?
あの人飲み始めると何升でも飲み干しますからね」

 さくらの言葉になんやそれは、と言って彼は笑っていたが、
さくらの目が完全に笑っていなかった。

「・・・折角です、みなさんもどうですか?
どうせ、食事代はリリカさんもちなんだし・・・」

 そういえばそんなことを言っていましたね、とルナ。
イヴはどうやら外に出ていくことが楽しみなのか、そこはかとなく嬉しそうだ。
 それを受けて、さくらを吉秋たちを含む全員がゾロゾロと部屋を出て玄関に向かう。
玄関に向かう途中で、同じく外に出かけようとしていた桜花と鉢合わせた。

「あら、皆様そろってお出かけですか?
・・・そうですか、夜深義姉さんに。ああ、いえ。胃薬と腸薬、用意しておきますね」

 そういって少しため息をついてから奥の方へと戻っていく彼女と別れて
さくらたちは外に出てそこから山道を降りて・・・車いすのイヴをどうやって
運ぶのかと思ったら、さくらが何事もないかのように車いすごと
肩に担いで歩き始めた。

「だ・・・大丈夫ですか?」

「ええ、この程度なら存外たいしたことはないですよ?
いつももっと重たいものを何千何百と背負ってますからね・・・」

 人の乗った車椅子よりもさらに重いものを背負っているといっているが、
一体何を背負っているのだろうか、と、皆が思う。ふもとに降りてから
さくらにそのことについて聞いてみたが、彼はからからと笑うだけで
何も答えることはなく、そのまま車いすを押しながら先頭を歩いて行った。
 しばらく歩いて里の入り口近くにやってきた一向。さくらが
しきりにきょろきょろと挙動不審に辺りを見回している。誰かを探している、
という訳でもなさそうだったが、やがて近くにあった家屋に向かうと
おもむろにそこの壁をこつこつとたたき始めた。

「・・・あの、さくらさん?
そんなに壁を叩いたら、中に住んでいる方が・・・」

 すぐ近くでそれを見ていたイヴが思わずそう口を開くが、
さくらは気にした様子もなくさらに壁をたたき続け、ゴトン、と音がして
壁板が剥がれて浮き出た場所を思いっきり押し込んだ。・・・瞬間。

「「!!」」

 あたりの空気が一変し、周囲の光景がかわる。つりさげられた提燈、その
火の元に並ぶ無数の屋台と居酒屋の数々・・・。

「な・・・なんだ、ここ!?」

「はい、ここは黄昏酒場と言いまして・・・いわゆる、外食チェーン
通りですね。・・・飲兵衛専門の」

 飲兵衛専門の一言に、一抹の不安を覚えた面々だったがそのまま
車いすを押して進んでいくさくらについて6人は歩みを進めていき、
やがて一軒の店の前についた。
 店の入り口は引き戸で、それを開けて中に入ると店奥にカウンターがあり、
周囲には丸机がいくつも並んでいた。その机についてもしゃくしゃと食べて
飲んでしているのは九割が妖怪鬼悪魔悪神邪神悪霊死霊の類で
体の一部や全体が獣や人外のそれを呈していた。
 ・・・そんな中、そのいちばん奥のテーブル。周囲に大量の
酒瓶が転がっているそこに座っているのは人型の存在だった。
 長く伸びた銀の髪、少し尖り気味な耳に黒っぽいワンピースの女性は、
さくらたちの存在に気が付いたのか、おーいと声をかけて手招きしてきた。

「なんやおそかったやーん、とりあえず駆けつけ6本でええか?
おっちゃーん!いっちゃん強いやつ48本追加ええかー?」

「いや、あの、飲めない人未成年多数いますから、私の分だけで・・・」

 さくらの言葉を聞いて女性・・・夜深・エイジェリングは非常につまらなそうな
顔をして眠たげな眼でさくらを顧みた。

「なんやぁ、ええ歳したガキが5人もおってほとんど飲めんのか。
ええか?こっちやったら酒は産まれたばっかの赤ん坊でも飲むねんで?
産まれた子にはまず、産湯やのうて酒に潜らせるっちゅー習わしがあるんや。
種族によっては母乳の代わりに酒を・・・・」

「すべて嘘です。それは夜深さんがいつものように、人(妖)に
無理やりに飲ませるために作った、見せかけにもならない嘘っぱちです」

 夜深がすべてを口に出す前にさくらがざっくりと切り捨てる。
まぁ、そんな気はしていたがと思いながらも、この世界ならあり得るんじゃ
なかろうか、そう考えてしまったメイは苦笑いを浮かべていた。

「なんやぁつれんやっちゃなぁ。・・・まぁええわ。
とりあえず、そこら辺適当にすわりや?椅子足らんかったらそこらにあるの
適当にとってきぃ。文句言うやつはうちが泣かす」

 そういいながら口元を吊りあげて醜悪な笑みで嗤う夜深。なんとも
楽しそうな顔だが、見ているこっちは血の気が引く思いだった。

「・・・おい、さくら?」

「ハイ、なんですか吉秋さん」

「・・・わいの知っとる夜深ちゃんと違う」

 さくらの隣にそっとすり寄った吉秋が、ぽつりとそうつぶやいた。
さくらはそれを聞いて苦笑いを浮かべながら言った。

「・・・まぁ、種族からして死神から闇猫族に変わってますし。
・・・あ、そういえば、夜深さん?たしか、誰かよんでるって
冥晶姫からうかがってたんですけど」

「おお、せやで。・・・作者だけやったらまず間違いなく
飲み代たらんやろうからな、もう2,3人呼んどいたんやけどまだ
こーへんな」

 夜深はそう言いながらんー、と背筋を伸ばして入口の方を注視している。
しばらくそこを凝視していたが、やがてまぁええわとつぶやいて背筋をまげて
猫背になると、手元にあったグラスにトクトクトクとウィスキーを注ぎ始める。
 よく見ると、周りに転がっているのも同じ瓶で、彼女が好んでこの酒を飲んでいるのがわかるが・・・。

「・・・割らないのか」

「あん?にーちゃん割って飲むんか?あかん、あかんで割って飲んだら。
割って飲んだらな、酒が死ぬ。酒の味、アルコールの辛み、渋み、喉に絡みつく
唾液と酒の絡み、その味を割ってしもうたら全部まとめて殺してまう。
割って飲むんは安酒と水だけや。他の混ぜて飲むんはな、酒の愉しみかたを
知らん邪道のやることや」

 そういって、口入ッとグラスに入ったウィスキーを飲み干した。

「んまぁ、いうてもや。そのほうが飲み易い人もおるんは確かや。
せやからほかの人が割って飲むのは何も言わん。けどうちはそういう飲み方は
あんまり好かん。それだけ覚えとき」

 夜深はそう言いながらコクコクとウィスキーを傾けて飲み始める。
もういっそ瓶で一気に飲んだ方がいいんじゃなかろうか、誰もがそう思っていたその時。
 からんからんからんと古ぼけたベルの音が鳴り、戸口が開いておくから
血のように赤い瞳の少年と、光の加減で薄く銀に輝く白い瞳の少女が
こちらに歩み寄ってきた。

「おー、やっときおったか!
見てみぃリリス!さくらやでさくら!」

 夜深がそういい名が歩み寄ってきた赤目の少年、リリスにさくらを指さして
声をかけた。それを見て溜息をついたリリスはポリポリと頭を書きながら答える。

「・・・あのな、夜深姉。突然飯食ってるところにやってきて
『珍しい客がいるから飲みに来い』とか抜かして台風のようにいなくなった
理由がさくらかよ・・・?」

 彼はそう言って大げさに頭を押さえて見せる。すると、それをみた
四季が苦笑交じりにリリスに言った。

「まぁまぁ、リリィ。いいじゃない、邪険にしなくても。
リリカ義姉さんから聞いてるわ、あなたたち異世界人ね?私は四季・エイジェリング。
で、こっちが私の旦那のリリス・エイジェリングよ?」

 よろしくね、と言ってころころと笑う彼女に安堵した面々が
それぞれに自己紹介をした。それを聞いてうんうん、と言いながら
きいた名前を復唱すると口を開いた。

「まぁ、大体の理由はさくらから聞いてるけどさ。災難だったわね。
ま、この里にいる間はゆっくりしておきなよ。どうせ、いつ帰れるかも
解らないんだからさ?」

 そういいながらすっ・・・と床に手をかざすと床がめりめりと浮き上がり、
そこから白い椅子が生えてくる・・・・よく見れば、椅子の足は
足の骨で作られており、座面はあばら骨と骨盤をメインに組まれており、
肘掛けはおそらく腕と手のひらの骨だろうか。そして背もたれもまた、
肩甲骨を積み上げて組まれており、その左右の上部には首骨が伸び、
髑髏が飾られていた。

「な・・・なんですか、この椅子・・・」

 それを見たイヴがそうつぶやく。顔が少し青い気がするが四季はそれを見て
ほくそ笑みながらそれに腰かけて足を組んでみせる。

「素敵な椅子でしょ?何年もかけて積み上げ、厳選して選び抜いた人骨で
出来てるの。・・・まぁ、流石に古い骨もあるからね、ちょっとそろそろ
朽ちてきてるのもあるんだけどさ」

 そういいながら四季の白銀に光る瞳がぎょろりと動く。
流し見るように、なめまわすようにねっとりと瞳を動かし、その目がイワンを見て
止まると、同時に背後から現れた骨の群れがイワンを取り押さえた。

「ぬぉおおお!?な、なんだこれは!?」

「・・・あなた、いい骨してるわね?その肩甲骨、頂戴」

「ふっ・・・ふざけるなぁああああああっ!?
貴様の嗜好に従って骨をくれてやる必要などそもそもないだろうがああああああ!?」

 そういいながら暴れるが骨の拘束がきつすぎて身動き一つとれない。
筋肉すらないというのになぜだと思う。吉秋と義鷹、カイがその骨を外そうと
尽力するが一向に外れる気配を見せない。

「・・・おい四季、やめないか。リリカ姉に殺されるぞ?」

 そういいながら、隣に座っていたリリスが呟く。
どうやらリリカはこちらでは兄弟間におけるストッパーの役割を
になっているところがあるようだ。その一言に、四季が退屈そうに
眉を顰める。

「・・・分かってるわよ。冗談に決まってるじゃない」

 四季がそういうと同時に崩れるように骨が消える。やっと自由に動く
ようになった体でじりりっっと体制を整えるイワン。しかし四季はそんな
彼には今度は目もくれずにイヴに目を向けている。

「な、なんでしょうか・・・・」

「あなたかわいいわね?ねぇリリィ!彼女持って帰ってもいいかしら!?」

「・・・やめろ。どうせお前のことだから痛めつけて殺した後に骨になるまで
なめまわしながら自×にいそしむ気でいるんだろ?そんなことしたら、
今度こそ、リリカ姉に消し炭にされるぞ?」

 リリスがそういって頭を押さえる。それを聞いてゾッと青い顔をしたイヴが
隣に座るルナの服の裾をひっつかむ。

「あ、あの・・・さくらさん?彼女、まさか」

「・・・エロトフォノフィリアとネクロフィリアとニンフォフィリアの
同時併発をしてる感じです。制御できるのはリリスさんと
リリカさんくらいです。夜深さんもできるとは思いますが・・・」

 そんな夜深はくいくいと酒を飲んでおり、さらにリリスは頭を押さえるだけだ。
そして件の四季はそう言ってはいるものの動こうとしてはいない。やはりというか、
リリカと夜深に行為そのものを阻害されるのも嫌なのだろう。

「・・・あとリリスさんは過度のヘマトフィリアとバンパイアイズムを
併発しているので目の前で怪我でもしようものなら大変なことになりますからね」

 さくらがそうつぶやくと同時に四季とリリスからガタガタと席を遠ざけ、
さくらと夜深の近くによる。それを見たリリスが口を開いた。

「失礼な奴らだ。わたいの性癖なんてありふれたもんだろ?
四季の方はともかくとしてだな・・・大体、人間の成人男性の
半分くらいはマノフィリアの気質があるようなもんだろうが」

「単独の×尉とマノフィリアは異なるものだったような気もするがな。
いずれにせよ、どんな嗜好を持っていたとしてもこちらを殺してまでそれを
満たそうと本気でしていないなら、さほど気にするほどのこともないさ」

 そう答えた義鷹は、静かに夜深から受け取った杯を傾けている。
ほかの面子は夜深やさくらのそばから恐ろし気にコップや食器に手を伸ばすが・・・。

「それと夜深姉はアクロモトフィリアとアポテムノフィリアと
ブレードハッピーの併発型だ。わたいたちよりはるかに性質が悪いから
気に入られないように気をつけな」

 その一言で、今度はほぼ全員がさくらの背中に隠れたのは言うまでもなく、
そして隠れきれるはずもなくただ密集してるだけになったのはもはやお約束だろう。
メンテ

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