Re: 妖猫幻想草子 ( No.3 )
日時: 2015/03/07 15:25
名前: さくら

#02.にゃーん

 猫の里、と呼ばれる場所に到着した一行。気絶していた状態から目を覚ました
ルナがトカゲの上から降りた。・・・意外と肝が据わっているのか物おじせずに
6本足のトカゲに触っている。そんな彼女を尻目に、周囲を顧みると案の定というべきか、
異形だらけだった。

「なんというか・・・本当にさくらが好きな世界をそのまま固めて作ったような世界だな」

「せやな・・・なんちゅーか、ほんま此奴が大好きな悪魔や妖怪のたぐいを
ごっちゃごちゃに詰め込んで固めて作ったような世界やな」

 そんなことを言いながらあたりを見回す。首のない馬に荷台をひかせる
首を小脇に抱えた少女や、
骸骨が麺の湯切りをしているなどというシュールな情景まで、さまざまだった。

「というか、俺たちここにいて大丈夫なのか?
此奴らにとっては俺たちのほうが異形なんじゃ・・・」

 人間など存在しても少数であろうこの世界において、ましてやこんな魔物だらけの
場所にはどう考えても人間はいないだろう。そうなれば、必然的に。

「大丈夫です。ぶっちゃけて言ってしまいますと、私も女神ですから。
剣神と呼ばれる戦女神の一種です」

「なんだ、そうだったんだ。だから、腰に日本刀なんて履いて・・・
あれ、でも神様と妖怪って喧嘩してたんじゃ」

 そういってメイがちょこんと考えるしぐさ。
それを聞いて、桜花は微笑むと、そのままの表情で言った。

「それはもう何百年も前の話です。もっとも、私もそのころは
神々の軍について妖魔たちを切り刻みつづけていたわけですが・・・。
今でも思い出しますわ、あの血に塗られた戦場を銀の切先と我が身一つで
駆け抜けた日のことを」

 そんなことをふとつぶやいてから、リンという鈴の音を聞いてはたと
全員がそっちを顧みた。そして、それと同時にどうでもよさ気にさくらが目を覚ます。
・・・その瞬間、さくらの顔がぞっとするほど蒼くなる。

「あ・・・うわ・・・」

『・・・げぇ、さくしゃーよりにもよって朝一番のお散歩で、
こんな貧相な下種に会うなんて思ってもみなかったわ。・・・ねぇ、りりちゃん』

「・・・」

 肩に担ぐ大鎌の中から出てきた金髪のウェーブが掛った色白い少女が
半身を乗り出している。そのままさくらを顧みて心底いやそうな顔をした。
半面、無言のままにさくらを見下ろす、大鎌を持つ女性はその場にいるものなら
殆どがその存在を知るものだった。

「リリ」

「リリカ義理姉さん!」

 義鷹が、その名を呼ぼうとした時、それを遮って桜花が声を上げた。
桜花はそのまま女性・・・リリカに駆け寄ると、自身より背の高い彼女を
下から覗き込むようにして言った。

「もう、起きていて大丈夫なのですか!?てっきり、まだお休みなのかと」

「うん・・・もう大丈夫」

『桜花がいないからさー、お散歩がてらごはんでも買いに行こうかと思って
外に出てきたの。ジンも修行だからっていなくなっちゃったし。変な魔力の
波形も感じたから来てみたんだけどぉ』

 そこまで言って、大鎌の少女、サラがさくらをねめつける。そのあとで
その背後にいるメンツをなめるように見回してから
片手で頭を押さえて大げさにため息一つ。

『こんっ・・・なにたくさん異界の異物なんか持ち込んで・・・
あんたら、リリちゃんにあと100歩圏内まで近づいてみなさい、
肉片にしてバジリスクのエサにして・・・』

「・・・サラ、別にいい」

 そう、サラを制したリリカはそのまま生気のない複眼を義鷹たちに向けた後で
さくらの目の前に座り、そのままその頭を撫でた。

「無理、しちゃダメ。書き手がいなくなったら、皆路頭に迷ってしまう」

 そういってから返事をしようとしたさくらの口に中に何かを放り込んだ。
そのあとで、彼女がもごっとほほを動かす動作を見せたのでさくらはそれを噛み砕いた。
・・・瞬間、ぞっとするほどの魔力が全身を呑み込んだ。

「っ!」

「・・・増強剤。以前、貴方に使わせていた改良サンプル。
これで、こっちでも大量の蛇を呼べる」

「あ、ありがとうございます」

 さくらがそうつぶやいたのを聞いて、彼女は初めて表情らしきものを浮かべると、
桜花を顧みて立ち上がる。

「お客のこと、貴方に一任する。この街の中での買い物に限っては、
私が持つようにする。あとは任せる」

「はい」

 桜花の返事を聞くと、無表情のままに振り返ってそのまま人ごみの雑踏
に消えて行った。

「待て、リリ」

「わー!ストップストップストップ!?ダメですよ、義鷹さん!こっちのリリカさんは
性格から何もかもがすべて異なるんです!それに、サラさんだって・・・」

 そういってからさくらは静かに義鷹から手を放した。
それを顧みて、彼も静かに肩を落とし、吉昭が口をはさむ。

「と、ともかくや、わいらもどうに雨風しのぐ場所を探さなあかんな。
喰うもんとかは、買い食いする分には必要な金は用意してくれとるんやろ、
せやったら後は・・・」

「・・・難しいこと考えてないで、うちに来ればいいじゃない」

 さらりと隣から聞こえてきた声に全員がそこを顧みる。
こちらを見て、きょとんとしている桜花。さも当然のことを言っていると
言いたげな顔をしている彼女に、イヴが問う。

「よ、よろしいのですか?ただでさえ、ここまで連れてきていただいたというのに、
これ以上ご迷惑をおかけするわけにも」

「かまいませんよ。私の家には今はジンさんと私しかいません。
別に、部屋も大量に余っていますし、この程度の人数なら別段問題視するほどでもありません。
それに、どのみちここであなた方が頼れるのは、おおよそ私達だけでしょう」

 禁断の世界に、なんらかの関係のある方だとするならば。
桜花の言葉に、全員が顔を見合わせる。確かに、ここにいるのは全員、さくらという
禁断の世界のいわば柱によって呼ばれた者たちだ。目的はともかく。

「そうだな・・・ここは、お言葉に甘えるよりほかにないだろう」

「俺も同意見だぜ。さすがに、このままちょろちょろ歩き回って大丈夫な
場所じゃなさそうだしな」

 そういって、義鷹の意見に賛同するカイ。
勿論、早急に帰るためにもその方法は探さなければならないが・・・。

「ま、行き先が決まった以上、あとやるべきは一つですね」

 そういってから静かにため息をついたさくらはそのまま桜花に言った。

「彼らのこと、任せていいですね?私はルルさんのところに行ってきます」

「ええ、わかりました。・・・大丈夫ですか?
まだ、完全な状態ではないと考えられますが」

「あそこに行く程度の道ならまだ覚えていますから、大丈夫ですよ」

 そういって、さくらもまた人の雑踏にまぎれるようにして消えてしまった。

「では、行きましょうか」

 そういって歩き出した彼女の後を、後ろからついて歩きながら
カイが、そしてルナもまた思う。隙がない・・・。背中を見せているというのに、
背後からでも今、攻撃の手を見せれば確実に、叩き伏せられる。
 しばらく歩き、町を離れて山のほうへと向かう。
そのまま小高い山へ続く山道に入り、そのまま登っていくと大きな屋敷が見えた。
 そのままその中に入っていき、玄関を開けて桜花は靴を脱いで上がると、
そのまま後ろにいる人を顧みた。

「さ、上がってください。自宅だと思ってくつろいでいただいて構いませ
んから」

 そういってから、ふと気が付いた。

「・・・あら、先ほどの変な口調の方と、鋭い目の方と・・・もう一方、
リリカ義理姉さんの名前を呼びかけた方がいませんね?」

 そういいながらそんなに足早に移動したかしら、とイヴに問う。
イヴは背後で車いすを押していたメイを顧みてどうでしたか、と問う。

「・・・いえ、そんなに速足じゃなかったと思いますけど。
僕が車椅子を押しながらでも追いつけましたから」

 そういって小首をかしげる二人とルナ。そしてイワンはと言えば
未だに気絶したままだった・・・。まぁ、静かだしこの方がいいかと思う
ルナもいるが・・・。
 そのころ・・・。

「なんやさくらのやつ、こっちのこと気がついとったんやろうか?見えんようになってしもた」

「そりゃねぇと思うぜ?俺たちの気配なんて、こっちじゃないようなもの
なんだ。そう簡単にばれるかよ」

「・・・いや、しょっぱなからばれてただろ。あいつしきりこちらに
悪いことが起こらないか気にしながら歩いているようだったからな」

 まぁ、禁断とは悪すぎる意味で場違いな場所だからな。と、義鷹。
しかし、ルルに会いに行くといったさくらはなぜ、こんなところに来たのだろう。
誰もがそう思っていた。

「どうなってんだ、ここ・・・森か?」

 あたりを見てもどこを見ても木が生い茂るそこは、確かに森に見えた。
しかし、そこは森特有のにおいはなく動物の気配もしないのである。
森の中にあるのはうっそうと茂る木々のような何かだけだった。もちろん、
はたかれ見ればそれは確かに木、なのだが・・・。

「木の実感がない、なんといえばいいかわからないが」

「まあ、確かにな。
なんとも言いにくいが、確かに違うような気がする。いや、
何が違うのかといわれると何とも言い難いんだが」

 義鷹とカイが意見をかわす。それと同時に、せやろか、とつぶやいて
吉昭が木に触れた・・・瞬間。

「!・・・あぶねぇ!!」

 いち早くそれに気が付いたカイがカード状のそれをブン投げる。
通称ワンキル君と呼ばれるそれは機に突き刺さるとそのまま爆ぜる。
・・・そこに、くぼんだ穴が開き、その上部にも同じ穴が開いて
その奥で、不気味な光が灯っていた。

「なんや・・・妖怪!?」

「トレントか?・・・樹木に宿る精霊の類だったはずだが」

「そんなこと流暢に解説してる場合か!!来るぞ!?」

 そんなことを、カイが叫ぶ。三人背中を合わせて・・・どこからわいたか
周囲を取り囲むように現れたそれらに向かい合う。武器になりそうなものは
カイの持つワンキル君程度、吉昭はそれと言って武器を持たないがそれでも
デュエリスト、デュエルディスクだって横に薙ぎ払えばそれなりに武器になる。・・・通じるかは知らん。
 そんなことを思っていた、刹那。何処からともなく雷のような大声が、
しかし透き通った水のように澄んだ声があたりに響いた。

「おやめなさい!!わたくしの無二の親友のお連れ様に暴挙を働くようなら、
この森ごと貴方方を滅します!!」

 凛と張ったその声を聞いて、トレントたちが道を開く。その奥に、二階建ての
レンガ造りの家がたつ小高い丘が見えた。
 その家の扉の前に大きな杖を持つ白いローブを羽織った・・・猫のような
耳をはやした獣人が立っていた。

「・・・なんや、この展開。どっかで見たことあるんやけど」

「ああ、俺もだ」

 二人そろってそういい合ってから樹木たちが開いた道を歩いていくと、
その先に二階建ての家が見えた。その玄関先にさくらと、もう一人・・・
長い黒髪に白い猫のような小さなさ角形の耳の女性がいた。・・・さくらが
逢いに来ていた人物、ルル・エイジェリングである。

「すいません、うちの門番どもが迷惑をおかけいたしました。
ようこそ、アトリエ・ルルへ。何もおもてなしもできませんが、どうぞごゆるりと」

 アトリエ、という言葉に三人が顔を見合わせた。確か、禁断では彼女は
医者をやっていたはずだが・・・。そんな思いとは裏腹に、3人に向かい合うように座った
さくらが大きくため息をついた。

「・・・皆さん一体何でついてきたんですか。てっきり、桜花さんのお宅に
もうついてる頃だと思って安心してたのに」

「お前な、いきなり消えて言った奴が何言ってんだよ」

 カイがそういいながら呆れたように片肘をつく。
それを顧みながら吉昭は言った。

「せや。ワイらも一応当事者やからな。安全な場所でのんびり待っとけ
言われてのんびり待てるかいな。それにな、もしかしたら
逢えるかもしれんやん、その・・・わかるやろ?」

「・・・貴方の会いたがってる人にあったら食い殺されますよ?」

 さくらの声にけだるげな重さが入ってそう言った。それを聞いて、
彼はまた冗談を言ってからにと言っていたが、義鷹のほうはそうは思わないようだ。

「・・・いや、あながちウソではないかもしれないぞ?
何せ、サラの性格がリリカとほぼ逆転していたからな」

「あー・・・そういえばそうだったな、俺はあんまり詳しく知らないけど、
サラってたしかもっとのんびりしてる感じだったよな?」

「そやな・・・今まであったメンツで唯一さくらの事けぎらっとるやつやったもんな」

 そういってから頭をかく吉昭。禁断ではほぼ自作キャラ全員に嫌われている中、
サラこと、沙羅魔堕羅とカカオくらいが唯一、作者を気に掛ける存在だったというのに、
こちらではあったその場で嫌な顔をされた位である。

「まぁ、そこらへんも逆転させてる場所ですからね。
禁断では、闇猫族の方たちがいて悪魔側が聖戦を収めたことになってますが、
妖猫では闇猫族は戦争にかかわる前に滅ぼされたことになっています。
・・・もっとも、実際は郷を捨ててほうぼう散り散りになってるだけなんですが」

「―――ですが、そのことは表沙汰にしてはならぬ禁忌。
神々が己の絶対的勝利を確実にし、反逆を許さぬための偽り。
故にそれを破ったものたちには、始末という名の罰が下りますわ。
・・・さぁ、お茶をどうぞ、冷めないうちにのんでくださいませ」

 さくらの言葉を引き継ぎながら、えげつないことを言いながら
きれいな笑みを浮かべたルルがいた。

「・・・それにしても、先ほどの会話を聞いていて思ったのですが。
御一方、変わった口調で話す方がいらっしゃいますね。
その口調を聞いていると、まるで夜深姉様を思い出してしまいますわ」

 そういいながらため息をついた彼女。
彼女の言葉に全員が顔を見合わせた。

「ちょっとまちぃ、今・・・姉様言いはったか?」

「はい。夜深は私の姉、リリカ姉様の双子の先児になりますが・・・
それが、どうか?」

「あー、禁断だとですね・・・ごにょごにょ」

 小首をかしげるルルに、さくらはそっと耳打ちした。
それを聞いてふむふむ、と聞き入っていた彼女はそう言う設定で
書いているのですね、とうなずいた。

「なるほど、確かにそれならば顔を見合わせるのもわかりますわ」

 そういってから一息おいてからルルは言った。

「会いたい、というのならば塒くらいは教えて差し上げますわ。
もっとも、そこに行って無事に帰ってこれるとは思えませんが」

 そういってから、さてと、とさくらを顧みてルルはいった。

「先ほど預かった移動用のシステムですが、修理は無理ですわ。
ムラクモユニットもほか機能のうち、空間移動に関するすべての
データが壊れて使い物になりません。早急に新たなものを作らねばなりませんが、
少し用があって3日ほどあけねばなりませんので1週間程度
待っていただくことになるかと」

「・・・マジかよ」

 それを聞いてカイは小さくため息を漏らした。おまけに、材料も
余り残っていないのでそれを収集してからになるため、1週間ということらしい。

「その材料、俺たちで集められないのか?
流石に、すべてを集めることはできないかもしれないが、簡単なものなら」

「やめておいた方が無難だと思いますわ。
簡単なもの、と言ってもほとんどが仕入れではなく、原料を調達して
錬成するモノですから、店先にはありませんし、採掘場所にいったからと言って
確実に取れるわけでもありませんからね」

「いったい何がいるっていうんだよ・・・その何とかって機械に」

 カイがそういうと、ルルはメモ帳のようなものを開きながら
・・・さくら曰く、彼女の妖力を媒体にしたエアメモ帳というものらしいのだが。
その質問に答えた。

「・・・簡単なものですが、第3位以上の天使の翼、緑眼の銀竜の鱗、
龍脈皇の牙、ヨーウィの唾液ですかね。まぁ、他の材料は今ある端末から
元素分解すれば手に入るので問題なさそうですが、最低でも
この4つのものだけは現物が必要不可欠ですので」

「龍脈皇の牙、ってのはすぐに手に入りそうだな。
さくらの連れてる蛇が確かそんなのだったはずだし」

「ええ、ヨーウィの唾液もすぐですね。桜花さんの連れていたトカゲ、
アレがヨーウィです。なので、後は2つ・・・難題だ」

 そういった後で、さくらがくたんと頭を机に落とした。それをみて
苦笑しながらルルが言った。

「まぁ、そういうわけですので。ほか2つが・・・
まぁ、私が出張れば1日あればすべて回収できると思いますが、
皆さんではどれだけかかることか」

「それでもかまわん、やらせてくれ」

 義鷹の言葉に、残りの2人も一瞬顔を見合わせたが、誰ともなくうなずいた。

「・・・しょうがありませんわね。
わかりましたわ、調達可能な場所をお教えいたします。
ただし、絶対にさくらを伴っていくこと、無理はしないこと、
ついでにもう一つ、その腕についている機械を
貸していただけますか?」

 曰く、それを使って戦えるようにしてくれるらしい。
カイたちは腕から外したそれを彼女に預けて、さくらとともにルルのアトリエを後にした。