Re: 妖猫幻想草子 ( No.2 )
日時: 2015/03/07 15:24
名前: さくら

#01.ゲヘナ

 閃光が晴れた瞬間、全員が軽い衝撃を持って地面にたたきつけられた。
その少し離れた場所に、ふわりと長い髪をひるがえして着地したさくらが
ふう、と一息ついていた。

「・・・いやぁ、何とか成功したか。この人数一瞬で転移させるなんざ
滅多にやらねぇもんなぁ。失敗したかと思ったぜ、ひゃーっはっはっはっはっはっは!!」

「笑い事じゃねぇえええええええええええええっ!!」

 さくらの高笑いを聞いて、一番に起き上ったカイが素晴らしい角度と跳躍からの
ライダーキックをさくらにぶちかます!!
 ・・・のだが、そこで彼の姿が後ろにすっと移動する。もじどおり、霞を蹴るような違和感にカイがきょとん。

「おやおやぁ?どうしたんですかカイ君。そんな攻撃では
私には傷一つつきませんよ」

「テメこの野郎!!」

「ヒャッハー!そんな攻撃じゃ足りねぇぞクソガキぃ!」

 そんなことを言いながら飛んでくるワンキル君やら体術やらをさばく馬鹿。
 それを見ながら何が起こったと言いたげな義鷹や吉昭。そして、それをみて
キョトンとしたまま、ルナに車いすを押されながらこちらにやってきたイヴ。

「・・・あの、さくらさんってあんな方でしたっけ?一度きりしか
お見かけしたこともないので、私の記憶違いかと疑っているのですが」

「・・・いや、間違いなくあんな奴じゃなかったと思うが。
口調も、なんかどっかの碧の魔道書もった外道みたいになってるし」

「せや。ほんとはもっとええ奴やで。いつもワイらみたいな登場人物
のこと真っ先に考えてくれるやつや。確かに、いつも、むこうの人らに
スボコにされたりストレス解消の道具にされたりしとるけど、
それでも、なんや・・・食えん奴やけどええ奴やと思うで」

「ええ、私も知る限りでは、こんな方ではないはずなんだけど」

 そういいながら、車いすを押すルナともども、三者三様に首を傾げる。
瞬間、カイの攻撃を受け止めたさくらが今度は義鷹たちめがけて片手で
カイをぶん投げた。それに対して、体勢を整えたカイが声を荒げて叫んだ。

「テメェ!いい加減に」

 そういった瞬間、遠くのほうから蹄の音が響き、6本足の馬に乗った
白銀の鎧の騎士たちが大勢でこちらに向かってくるのが見えた。
 さくらはそれを見ながら、全員と同じ場所まで飛びのいてガリッと歯軋りをした。

「・・・っち、暴れればここの世界の住人が出てくるとは思っていたが
こりゃ想像以上に厄介な世界に来ちまったな・・・」

「「そんな理由で暴れてたのかよ!?」」

 思わず全員がそう叫ぶ中で、さくらはこちらを振り返るとひどく真剣な
表情で言った。

「とりあえず、皆さん動かないように!そこから一歩でも動いたら
脅し文句じゃなく本気で死にますよ!?」

「何言ってんだよ、一応、お前の作った世界なんだろ?
お前が事情を話せば助けて」

 カイがそういった瞬間、騎士の手にした槍が天を突きそこから降り注いだ
大量のそれが彼らめがけて降り注ぐ!!

「龍脈皇・Taksaka!!」

 さくらの言葉と同時に現れた巨大なコブラがとぐろを巻いて
楯となって攻撃を防ぐ。それをみて、周囲に突き立つ槍を見て全員が
息をのむ。

「この世界は妖猫、禁断より以前にその原型として作り出した世界にして
全ての元凶となる世界。この世界のIFとして、禁断は存在し、禁断外での私は
一人の執筆者という存在でしかなく、一部存在を除いてはただの外敵、障害扱いです。
・・・その意味、解りますね?」

 つまり、相手はこちらを殺すつもりで攻撃してきている、ということらしい。
一部例外、というのは闇猫族の事かと全員が思った刹那、ひづめの音が鳴り、
6体の馬と騎士が目の前に現れ、同時にさくらの声が響く。

「ソード・アイリス!!」

 さくらの声が響いた瞬間、小さな花びらのような切っ先が宙に舞いあがり、
その切っ先が翻って騎士団を切り刻む!!

「テンペストダリア!!」

 さらにその切っ先が突風に舞い上がり竜巻のようになりながら
騎士たちを襲う。・・・が、その奥でストロボのような閃光が迸り、そのすべてが砕け散る。

「っち・・・やっぱり、この程度じゃ効きもしないか!!」

 さくらが叫ぶ。それと同時に振り上げられた剣をかわし、さらにそこめがけて飛んできた
槍を握り拳でたたき落とす!
が、その手についた傷はいえることなく、さくらは小さく舌打ちをした。

「・・・不死殺し・・・ミスリルの槍か!!」

 それとともに迫ったそれをかわし、後方に飛ぶと同時に鎖の胴体をもつ
蛇が現れ、その槍を肉薄し、弾き飛ばす!!

「ウロボロス!!」

 ガキンと、鎖とやりが打ち合い、その蛇の頭部が口を開いてその喉にかみつくと、さくらが横なぎに腕を振り払う。
それと同時に鎖の胴体が翻って、騎士を隣にいたそれを巻き込んで吹き飛ばす。
蛇の口が首から離れると、そこからどっと鮮血がぶちまけられる。どうやら、喉笛を噛み千切ったらしく、
震えていた騎士の腕がぱたりと落ちた。
 ウロボロスを服のたもとに戻すと同時、さくらが地を蹴り、駆ける!
先程仕留めた騎士の懐から剣を抜き取ると、それを使って
眼前の敵を貫き、返り血をもろともせずに横になぐと、そのまま隣に迫った
騎士を首から逆袈裟懸けに切り捨てる!!

「・・・生と死の狭間に生きる愚かなモノよ、その暗黒の瘴気に
身を食われ、魂を汚されしものの血を代償とし、栄誉ある賛美をその手に抱き、
躯と果ててもなおその栄光にすがり、最期の時まで我が身に仕える栄誉にすがれ!
・・・躯なる蛇よ!死肉を貪りその姿を変えよ!!」

 瞬間、大地がわななき口を開いてさくらが切り捨てた死体を呑み込み、
それと同時に地鳴りが響き、彼の背後から巨大な骨の蛇が現れる。
 否、それは蛇であって蛇に非ずというべきか。蛇腹はすべて人間の
上半身の腕以外の骨で作られ、頭部は無数の頭蓋骨が集まり、眼下の奥には
淀んだ闇が宿っていた。

「出でよ、蛇骨姫!!」

 そのさくらの一言に、骨の蛇・・・蛇骨姫が吠える。そして、その欲望の赴くままに
兵士たちを頭から貪り噛み砕く。

「・・・うぅ」

「げぇ・・・なんや、アレ・・・」

 それを見ていたメイが呻き、吉昭が後ずさる。
ちなみに、イヴとルナはさくらが騎士を一人斬り捨てたあたりで気絶し、
イワンは未だに抜けない痺れに気絶しているようだった。
 兵士の一人が、手にしたミスリルの剣で切りかかる。が、龍神の一種である
ナーガに傷をつけることはかなわず、さらにその騎士を横から現れた蛇骨姫がかっさらう!
 とっさに、蛇骨姫を切り捨てようとするが、切りつけることもかなわず踊り食いのようにそのまま口腔に押し込まれて飲み込まれた。

「・・・無駄だ、此奴は幾千の死者の憎悪の念と、躯、そして・・・
お前らの血と不死殺しの銀を取り込んだ。お前らごとき雑魚じゃ勝てネェよ」

 さくらの言葉とほぼ同時間、蛇骨姫が全ての騎士を食い散らかし、その身を腐らせるように
溶けて消えた。・・・食い粕の中に、さくらが静かに膝を折った。

「さくら!?」

 それを見た義鷹が、塒を解いた龍脈皇・Taksakaの中から出てくると、
そのままさくらを抱き起す。

「いやぁ・・・ちょっと無茶したなぁ、禁断だったら術の反動で
かけらも残さず消し炭になってたかも」

 そういいながらほっと一息。土ぼこりをはらって義鷹に肩を借りて立ち上がる。そのあとで、タクシャカのもとに歩み寄って、気絶している二人を
顧みて苦笑を漏らした。

「あー・・・やっぱり女性には刺激が強かったですかね。
まぁ、大体さっきの輩が出てきた時点で場所と時間帯もわかりましたし、
取り敢えず目指すは猫族の里ですね」

 さくらはそう言いながら、媒体である小さなポットを動かしている。
・・・この小さなポットが、彼曰く次元を移動する装置であり、現在の
彼の作品の中枢をやりくりするための代物なのだという。
現在、次元移動の機能は失われたそうだが、それでもその他の機能はまだ生きている、と本人談。

「・・・猫族の里、っていうことは」

「ええ、闇猫族がいます。もっとも、いろいろと禁断とは異なるところも
ありますが―――!」

 そこまでさくらが言った瞬間、がさりと近くにあった草木が揺れた。
義鷹を背にかばうようにして立ち、腰にはいた水晶蓮華の鯉口を切る。
が・・・その奥から出てきたのは、さくらとうり二つの女性だった。

「やっぱり、作者さんじゃないですか!どうしたんですか?遠目で見張っていたら
このあたりで蛇骨姫が見えたので、もしかしたらと思ってきてみたんですよ」

「お・・・桜花さん・・・ふええええ・・・あえてよかったぁああ・・・」

 そういいながら、へたりと腰を落としてマジ泣きしてるさくらに、全員がドン引きである。
さっきまでとの差は一体何だったのだろうか。

「あらあら、大丈夫ですか?怪我はなさそうですが・・・
まぁ、随分魔力を使ってしまってますね。すぐに休養しないと」

 そういいながらさくらをひょいと背中に背負うと、彼女は義鷹たちを
顧みて言った。

「申し訳ありませんが、皆さんほかの方を運んでもらえますか?
私一人では2人くらいまでしか一緒には運べないので」

「・・・あの、私歩けますけど」

「無理しないでいいですよ。そんな状態で」

 桜花がそういった刹那、ガサリと草が揺れその奥から現れた獣
背中に白い毛の生えた3対の脚をもつ巨大なトカゲがあらわれた。
 桜花は、それを見てそのトカゲの上にさくらをぺいっと投げ置くと、
義鷹たちを見て言った。

「そこにいるしびれてる方もこちらに乗せればいいでしょう。
私が使っている、移動用のペットのようなものです。なんなら、ほかの方も」

 そういわれたが、結局そこに乗ったのは気絶していたイワンとルナだけで、
ほかは歩きを選択した。さくらはと言えばそこに乗せられてすぐに寝息を立て始めてしまった。

「よう寝れるわ、こんな状態で」

「しょうがないですよ。彼の魔力で召喚を4連発したんですから。
召喚って、しまって出してする分には結構な力を使いますからね。
・・・出しっぱなしにしておけば、出す時の魔力だけで済むんですが」

 それを見ながらため息をつく吉昭を顧みて、クスリとほほ笑んだ桜花が言った。
まぁとはいってもだ、あんなものを出しっぱなしにされても・・・
義鷹がそう思っていると、ずるりずるりという音が聞こえて、振り返る。
そこに、先ほど彼らの周囲にとぐろを巻いていた蛇がいた。

「・・・あら、どうやらしまい忘れてしまったようですね。とは言え、タクシャカの
絶対防御はこの人数がいるなら必要不可欠かしら。・・・まぁ、
いざとなったら彼に戻してもらえばいいんですし、
人を取って食うようなこともないでしょうからこのままでいっか」

 そんなことをぽつぽつとつぶやいてから、彼女は何事もなかったかのように
歩き始める。ちなみに、なぜか車いすを押していたメイを後ろから吻端で
小突きながら速く進むように促して、カイに睨まれていた。無論、そのたびに
クックと不気味に喉を鳴らすだけだったが・・・。
 桜花に続いて森を歩くこと数十分程度。やがて開けた場所につき、
彼女はあたりを顧みるとその空間の一か所に手を触れた。同時に、空間がゆがみ
周囲に町が現れた・・・。

「!」

 全員がその光景に目を見開く中、目の前にいた桜花が振り返り、クスリと笑った。

「ようこそ、猫の里へ」