Re: 妖猫幻想草子 ( No.4 )
日時: 2015/10/28 08:43
名前: さくら

#03.黄昏酒場ののんべぇにゃーんども。

 さくらの案内で桜花の家に帰ってきた3人は、
先にこちらに来ていたメンバーにルルから聞いた話を聞かせた。

「・・・つまり、その材料2つはすぐにでも手に入るのですね?
でも、ほかの材料を手に入れるにはかなりの手間と命がかかる・・・と」

 イヴの言葉に義鷹がうなずく。

「しかも、現場に向かっても確実に入手できるわけではないときた。
そんなところに命を投げ出してまで行く必要はあるのか?
最悪のケースも想定するならば・・・ここは、プロに任せるのが
適任だと思うぞ」

「確かにそうだが、俺たちだってただ何もせずに一週間、
ここにいるだけっていうのも・・・なぁ、なんつーか、わかるだろ?」

 イワンの言葉を聞いたカイは、そういって何とも言えない表情を浮かべる。
まぁ、わからんでもないが・・・と答えてから、彼はさくらを顧みる。
 愛用の日本刀を脇に抱えて、部屋の隅にある桐箪笥にもたれ掛る
ようにして眠る彼は、とにかく疲労を回復のために寝るといっていた。
おそらく明日になったらいの一番に飛び出すだろう。誰もがそう思っていた。

「・・・すぐに集められる材料もあるんだよね、兄さん」

「ああ。そっちの方は、さくらが起きてから桜花や俺たちを
守ってくれたあのデカいコブラに話してもらう算段たててたから、
心配はねぇだろう、だから問題があるとすれば」

「その残り4つ、という訳ですか。
・・・たしかに、このままここでじっと待っているわけにもいきませんよね。
一週間の間に、何が起こるかもわからないですし・・・まぁ、私は
こんななので、結局、ここにいるしかないのですが」

 そういって、自身の座る車椅子をペチペチとたたくイヴ。
心なしか残念そうに見えるのはきっと気のせいではないのだろう。

「・・・私の足が自由に動くのなら、この世界を歩いてみたかったなぁ。
絵本の世界みたいでおもしろそうだったし」

 そうつぶやいた。が、ついさっきトレントの群れに襲われかけた
吉秋やカイたちは割と複雑な表情である。案外、いいもんじゃないぞこの
世界、と言いたげな彼らにイヴはきょとん。

「・・・とにかく、さくらが起きてからもう一回話を」

 そうつぶやいて義鷹がさくらを顧みると、いつの間にか、さくらの
腕に青い長い髪の少女が抱かれ、視線に気が付いた彼女が睨みを聞かせていた。

「・・・何よ?」

「げっ・・・水晶姫やんけ。なんでお前ここにおるねん!?」

 吉秋が狼狽する。その姿を見てほかの面子が顔を見合わせる中、
吉秋がじりっと後ずさる。

「・・・あー、そうやアンタこの間の時に見た面ね?
あによ?また私たちの邪魔しようっての?容赦なくぶっ殺がすわよ?」

「いや、別に邪魔する気はないけどな・・・
いや、ちょいまちぃ?お前が外におるいうことは、またさくら」

「・・・ああ、それなら心配ないわ。
ここは禁断よりはるかに魔力の濃度が濃いからね。世界軸が違うから、
私も自力で外に出てこれるの。だからさくらには別段、これと言って
変化はないはずよ」

 彼女はそういってやれやれねぇ、とためいきをついた。

「でもね、一つ変らないこともあるわ」

 彼女がそういった瞬間、空間が引き裂かれるように縦に割れ、そこから
現れた水晶の切っ先が吉秋たちに向けられる。

「あんたらがさくらに害をなすなら、その時はたとえそれがさくらの
意志に反したとしても、殺すわ」

「・・・あいっ変わらずおっかないねぇちゃんやな。
祭んとき、あんだけはしゃいどったの・・おぉっ!?」

 吉秋が口を開いた瞬間、彼の座っていた場所が盛り上がり、
とっさに身を躱すと同時に、そこから水晶の柱が突き出した。

「・・・・あー・・・いやなこと思い出したわ、
あんた、そこにいたんだったわね。死ね」

 引き裂かれた空間から頭をのぞかせていた水晶の塊が吉秋を襲う。
それをバックステップで回避し、そのまま庭に飛び出した瞬間、さくらの腕から
一瞬の間に飛び出した水晶姫が手にした水晶の刃の刀が振り下ろされた!
 ・・・が、その切っ先は吉秋に触れる直前に粉々に砕け散った。

「「!」」

「・・・水晶姫、私の預かったお客様に手を出して、ただで済むとは
思っていませんよね?それに、これはあなたの私怨であって、条件に
当てはまる行動ではない。そうなった場合はこちらからあなたを阻害する
事が出来る事をおぼえていますね?」

 そういいながら、横から歩み寄ってくる桜花。
刀の間合いからは確実に外側のはずだが、鞘に納めた刀の鯉口を切って抜刀の
体制に入っている。が、水晶姫だけは気が付いていた。それが、抜刀の体制ではなく、
納刀の前、つまり居合抜きから鞘に刀が戻った後の状態であるということに。

「・・・っち、わかったわかった。私が大人げなかったわよ。
作者の条件1、キャラクターとして作中に登場する場合、それが精神的、
または肉体的に作者本人に害がない場合を除き、既存のキャラクターを殺すことはできない。
・・・ちゃーんと覚えてるわよ、わすれるもんですか」

 水晶姫はそう言ってヤレヤレ、と言いたげに被りを振った。
それを見た桜花は、それならばよしと柄から手を離す。そして、
緊張感に包まれた中で静かに口を開いた。

「さくらの持つ刀とはいえ、所詮はジンさんの持つ蓮華冥火の模造刀なのですから、
余り無謀なことはしないことですね。・・・死にますよ?」

「模造刀だから何だっていうの?
あんたこそ、精霊すら憑かないような鈍で無茶はしないことね、
殺すわよ?」

 そういって、クックと喉を鳴らして笑う水晶姫。対して桜花は
目を伏せがちにため息をついて踵を返して奥へと引っ込んでいった。

「・・・ったく、いけ好かないったらありゃしな」

 水晶姫がそういった刹那、その横っ面が思いっきり殴り飛ばされた。
誰もが一瞬、それに目を奪われると同時に目を見開く。
 そこには赤紫色の髪をした、水晶姫とうり二つの少女が立っていたからだった。

「いったあ・・・ちょっと、冥晶姫!?いきなり何するのよ!!」

「あら、いきなりじゃないわ。ちゃんと予備動作を見せて差し上げてよ?
貴方、さくらと一緒に出て行って以来、鈍りきってるんじゃなくて」

 そんなことを言いながらつかつかと水晶姫に歩み寄ると、
その襟をつかんでひっぱりあげる。

「・・・・まぁそれはともかくとして、あなた、私のツレに
なんて失礼な口をきいてくれたのかしら?これはしつけが必要ですわね」

「ちょっと!?」

 がっしりと水晶姫の襟首をひっつかんだ冥晶姫だったが、
その手をはたいた水晶姫とそのままジッ・・・とにらみ合う。
瞬間、二人の周囲を取り囲むように円錐状の水晶の柱が大量に生えた。

「・・・」

 お互いににらみ合う、一瞬。軽い音を伴って両者の水晶が
粉々に砕け散った。見ると、いつの間に飛び出したのかさくらが
刀の鯉口を切った状態で二人の間に割って入っていた。

「・・・いい加減にしてください。水晶姫の言い分が悪いのは
十分承知していますが、お二人が殴り合うことが解決にはならないでしょう?
ほら、水晶姫も・・・桜花さんに謝りに行きましょう?」

 そういいながら冥晶姫に目をやって苦い笑みを浮かべたさくらは、
水晶姫の手を取って縁側の方に引っ張っていき、そのまま家屋の奥へと
消えていった。

「・・・まったく、興が削げてしまったわ」

 その一言だけをつぶやいて、冥晶姫もまた姿をくらませた・・・と、
思った矢先にさくらたちが戻ってきたらまたあらわれた。

「っと、そうでした、さくらに伝言。夜深さんが飲むから来い、だそうよ」

「・・・げぇ・・・明日は二日酔いだな、これは」

 さくらはそうつぶやいてヤレヤレだ、と頭を押さえた。
それを聞いていた吉秋が、そそそ・・・・とさくらに近づいた。

「な、なぁさくら?せっかくやからわいもつれてってーな?」

「・・・はぁ。つぶされても知りませんよ?
あの人飲み始めると何升でも飲み干しますからね」

 さくらの言葉になんやそれは、と言って彼は笑っていたが、
さくらの目が完全に笑っていなかった。

「・・・折角です、みなさんもどうですか?
どうせ、食事代はリリカさんもちなんだし・・・」

 そういえばそんなことを言っていましたね、とルナ。
イヴはどうやら外に出ていくことが楽しみなのか、そこはかとなく嬉しそうだ。
 それを受けて、さくらを吉秋たちを含む全員がゾロゾロと部屋を出て玄関に向かう。
玄関に向かう途中で、同じく外に出かけようとしていた桜花と鉢合わせた。

「あら、皆様そろってお出かけですか?
・・・そうですか、夜深義姉さんに。ああ、いえ。胃薬と腸薬、用意しておきますね」

 そういって少しため息をついてから奥の方へと戻っていく彼女と別れて
さくらたちは外に出てそこから山道を降りて・・・車いすのイヴをどうやって
運ぶのかと思ったら、さくらが何事もないかのように車いすごと
肩に担いで歩き始めた。

「だ・・・大丈夫ですか?」

「ええ、この程度なら存外たいしたことはないですよ?
いつももっと重たいものを何千何百と背負ってますからね・・・」

 人の乗った車椅子よりもさらに重いものを背負っているといっているが、
一体何を背負っているのだろうか、と、皆が思う。ふもとに降りてから
さくらにそのことについて聞いてみたが、彼はからからと笑うだけで
何も答えることはなく、そのまま車いすを押しながら先頭を歩いて行った。
 しばらく歩いて里の入り口近くにやってきた一向。さくらが
しきりにきょろきょろと挙動不審に辺りを見回している。誰かを探している、
という訳でもなさそうだったが、やがて近くにあった家屋に向かうと
おもむろにそこの壁をこつこつとたたき始めた。

「・・・あの、さくらさん?
そんなに壁を叩いたら、中に住んでいる方が・・・」

 すぐ近くでそれを見ていたイヴが思わずそう口を開くが、
さくらは気にした様子もなくさらに壁をたたき続け、ゴトン、と音がして
壁板が剥がれて浮き出た場所を思いっきり押し込んだ。・・・瞬間。

「「!!」」

 あたりの空気が一変し、周囲の光景がかわる。つりさげられた提燈、その
火の元に並ぶ無数の屋台と居酒屋の数々・・・。

「な・・・なんだ、ここ!?」

「はい、ここは黄昏酒場と言いまして・・・いわゆる、外食チェーン
通りですね。・・・飲兵衛専門の」

 飲兵衛専門の一言に、一抹の不安を覚えた面々だったがそのまま
車いすを押して進んでいくさくらについて6人は歩みを進めていき、
やがて一軒の店の前についた。
 店の入り口は引き戸で、それを開けて中に入ると店奥にカウンターがあり、
周囲には丸机がいくつも並んでいた。その机についてもしゃくしゃと食べて
飲んでしているのは九割が妖怪鬼悪魔悪神邪神悪霊死霊の類で
体の一部や全体が獣や人外のそれを呈していた。
 ・・・そんな中、そのいちばん奥のテーブル。周囲に大量の
酒瓶が転がっているそこに座っているのは人型の存在だった。
 長く伸びた銀の髪、少し尖り気味な耳に黒っぽいワンピースの女性は、
さくらたちの存在に気が付いたのか、おーいと声をかけて手招きしてきた。

「なんやおそかったやーん、とりあえず駆けつけ6本でええか?
おっちゃーん!いっちゃん強いやつ48本追加ええかー?」

「いや、あの、飲めない人未成年多数いますから、私の分だけで・・・」

 さくらの言葉を聞いて女性・・・夜深・エイジェリングは非常につまらなそうな
顔をして眠たげな眼でさくらを顧みた。

「なんやぁ、ええ歳したガキが5人もおってほとんど飲めんのか。
ええか?こっちやったら酒は産まれたばっかの赤ん坊でも飲むねんで?
産まれた子にはまず、産湯やのうて酒に潜らせるっちゅー習わしがあるんや。
種族によっては母乳の代わりに酒を・・・・」

「すべて嘘です。それは夜深さんがいつものように、人(妖)に
無理やりに飲ませるために作った、見せかけにもならない嘘っぱちです」

 夜深がすべてを口に出す前にさくらがざっくりと切り捨てる。
まぁ、そんな気はしていたがと思いながらも、この世界ならあり得るんじゃ
なかろうか、そう考えてしまったメイは苦笑いを浮かべていた。

「なんやぁつれんやっちゃなぁ。・・・まぁええわ。
とりあえず、そこら辺適当にすわりや?椅子足らんかったらそこらにあるの
適当にとってきぃ。文句言うやつはうちが泣かす」

 そういいながら口元を吊りあげて醜悪な笑みで嗤う夜深。なんとも
楽しそうな顔だが、見ているこっちは血の気が引く思いだった。

「・・・おい、さくら?」

「ハイ、なんですか吉秋さん」

「・・・わいの知っとる夜深ちゃんと違う」

 さくらの隣にそっとすり寄った吉秋が、ぽつりとそうつぶやいた。
さくらはそれを聞いて苦笑いを浮かべながら言った。

「・・・まぁ、種族からして死神から闇猫族に変わってますし。
・・・あ、そういえば、夜深さん?たしか、誰かよんでるって
冥晶姫からうかがってたんですけど」

「おお、せやで。・・・作者だけやったらまず間違いなく
飲み代たらんやろうからな、もう2,3人呼んどいたんやけどまだ
こーへんな」

 夜深はそう言いながらんー、と背筋を伸ばして入口の方を注視している。
しばらくそこを凝視していたが、やがてまぁええわとつぶやいて背筋をまげて
猫背になると、手元にあったグラスにトクトクトクとウィスキーを注ぎ始める。
 よく見ると、周りに転がっているのも同じ瓶で、彼女が好んでこの酒を飲んでいるのがわかるが・・・。

「・・・割らないのか」

「あん?にーちゃん割って飲むんか?あかん、あかんで割って飲んだら。
割って飲んだらな、酒が死ぬ。酒の味、アルコールの辛み、渋み、喉に絡みつく
唾液と酒の絡み、その味を割ってしもうたら全部まとめて殺してまう。
割って飲むんは安酒と水だけや。他の混ぜて飲むんはな、酒の愉しみかたを
知らん邪道のやることや」

 そういって、口入ッとグラスに入ったウィスキーを飲み干した。

「んまぁ、いうてもや。そのほうが飲み易い人もおるんは確かや。
せやからほかの人が割って飲むのは何も言わん。けどうちはそういう飲み方は
あんまり好かん。それだけ覚えとき」

 夜深はそう言いながらコクコクとウィスキーを傾けて飲み始める。
もういっそ瓶で一気に飲んだ方がいいんじゃなかろうか、誰もがそう思っていたその時。
 からんからんからんと古ぼけたベルの音が鳴り、戸口が開いておくから
血のように赤い瞳の少年と、光の加減で薄く銀に輝く白い瞳の少女が
こちらに歩み寄ってきた。

「おー、やっときおったか!
見てみぃリリス!さくらやでさくら!」

 夜深がそういい名が歩み寄ってきた赤目の少年、リリスにさくらを指さして
声をかけた。それを見て溜息をついたリリスはポリポリと頭を書きながら答える。

「・・・あのな、夜深姉。突然飯食ってるところにやってきて
『珍しい客がいるから飲みに来い』とか抜かして台風のようにいなくなった
理由がさくらかよ・・・?」

 彼はそう言って大げさに頭を押さえて見せる。すると、それをみた
四季が苦笑交じりにリリスに言った。

「まぁまぁ、リリィ。いいじゃない、邪険にしなくても。
リリカ義姉さんから聞いてるわ、あなたたち異世界人ね?私は四季・エイジェリング。
で、こっちが私の旦那のリリス・エイジェリングよ?」

 よろしくね、と言ってころころと笑う彼女に安堵した面々が
それぞれに自己紹介をした。それを聞いてうんうん、と言いながら
きいた名前を復唱すると口を開いた。

「まぁ、大体の理由はさくらから聞いてるけどさ。災難だったわね。
ま、この里にいる間はゆっくりしておきなよ。どうせ、いつ帰れるかも
解らないんだからさ?」

 そういいながらすっ・・・と床に手をかざすと床がめりめりと浮き上がり、
そこから白い椅子が生えてくる・・・・よく見れば、椅子の足は
足の骨で作られており、座面はあばら骨と骨盤をメインに組まれており、
肘掛けはおそらく腕と手のひらの骨だろうか。そして背もたれもまた、
肩甲骨を積み上げて組まれており、その左右の上部には首骨が伸び、
髑髏が飾られていた。

「な・・・なんですか、この椅子・・・」

 それを見たイヴがそうつぶやく。顔が少し青い気がするが四季はそれを見て
ほくそ笑みながらそれに腰かけて足を組んでみせる。

「素敵な椅子でしょ?何年もかけて積み上げ、厳選して選び抜いた人骨で
出来てるの。・・・まぁ、流石に古い骨もあるからね、ちょっとそろそろ
朽ちてきてるのもあるんだけどさ」

 そういいながら四季の白銀に光る瞳がぎょろりと動く。
流し見るように、なめまわすようにねっとりと瞳を動かし、その目がイワンを見て
止まると、同時に背後から現れた骨の群れがイワンを取り押さえた。

「ぬぉおおお!?な、なんだこれは!?」

「・・・あなた、いい骨してるわね?その肩甲骨、頂戴」

「ふっ・・・ふざけるなぁああああああっ!?
貴様の嗜好に従って骨をくれてやる必要などそもそもないだろうがああああああ!?」

 そういいながら暴れるが骨の拘束がきつすぎて身動き一つとれない。
筋肉すらないというのになぜだと思う。吉秋と義鷹、カイがその骨を外そうと
尽力するが一向に外れる気配を見せない。

「・・・おい四季、やめないか。リリカ姉に殺されるぞ?」

 そういいながら、隣に座っていたリリスが呟く。
どうやらリリカはこちらでは兄弟間におけるストッパーの役割を
になっているところがあるようだ。その一言に、四季が退屈そうに
眉を顰める。

「・・・分かってるわよ。冗談に決まってるじゃない」

 四季がそういうと同時に崩れるように骨が消える。やっと自由に動く
ようになった体でじりりっっと体制を整えるイワン。しかし四季はそんな
彼には今度は目もくれずにイヴに目を向けている。

「な、なんでしょうか・・・・」

「あなたかわいいわね?ねぇリリィ!彼女持って帰ってもいいかしら!?」

「・・・やめろ。どうせお前のことだから痛めつけて殺した後に骨になるまで
なめまわしながら自×にいそしむ気でいるんだろ?そんなことしたら、
今度こそ、リリカ姉に消し炭にされるぞ?」

 リリスがそういって頭を押さえる。それを聞いてゾッと青い顔をしたイヴが
隣に座るルナの服の裾をひっつかむ。

「あ、あの・・・さくらさん?彼女、まさか」

「・・・エロトフォノフィリアとネクロフィリアとニンフォフィリアの
同時併発をしてる感じです。制御できるのはリリスさんと
リリカさんくらいです。夜深さんもできるとは思いますが・・・」

 そんな夜深はくいくいと酒を飲んでおり、さらにリリスは頭を押さえるだけだ。
そして件の四季はそう言ってはいるものの動こうとしてはいない。やはりというか、
リリカと夜深に行為そのものを阻害されるのも嫌なのだろう。

「・・・あとリリスさんは過度のヘマトフィリアとバンパイアイズムを
併発しているので目の前で怪我でもしようものなら大変なことになりますからね」

 さくらがそうつぶやくと同時に四季とリリスからガタガタと席を遠ざけ、
さくらと夜深の近くによる。それを見たリリスが口を開いた。

「失礼な奴らだ。わたいの性癖なんてありふれたもんだろ?
四季の方はともかくとしてだな・・・大体、人間の成人男性の
半分くらいはマノフィリアの気質があるようなもんだろうが」

「単独の×尉とマノフィリアは異なるものだったような気もするがな。
いずれにせよ、どんな嗜好を持っていたとしてもこちらを殺してまでそれを
満たそうと本気でしていないなら、さほど気にするほどのこともないさ」

 そう答えた義鷹は、静かに夜深から受け取った杯を傾けている。
ほかの面子は夜深やさくらのそばから恐ろし気にコップや食器に手を伸ばすが・・・。

「それと夜深姉はアクロモトフィリアとアポテムノフィリアと
ブレードハッピーの併発型だ。わたいたちよりはるかに性質が悪いから
気に入られないように気をつけな」

 その一言で、今度はほぼ全員がさくらの背中に隠れたのは言うまでもなく、
そして隠れきれるはずもなくただ密集してるだけになったのはもはやお約束だろう。