[1] 投稿者:ZETTON 投稿日時:2021/10/28 00:30 (Thu) No.277
あの赤い波が打ち寄せる砂浜にシンジとアスカが帰ってきてから10年。
今日、森の中に置き去りされたようにひっそり佇む教会で行われるのは25歳になった「碇シンジ」の結婚式。
そして純白のドレスに身を包んだその美しさに、列席者から驚嘆の声が上がる新婦の名前は
「綾波レイ」
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幾度か通った控え室への小道。
ただまっすぐな道が続いている。
少し傾いた太陽がその道を真上から照らし、短く刈りこまれた芝を黄金色に染め上げる。
周囲の木々による暗さが、よりその光を際立たせている。
その光景にシンジはどこか既視感を覚えた。
『どこだったろう』
大事な記憶のはずなのだがどうにも思い出せない。
「なにか、この道見慣れちゃったね。」
何度も通ったからだろうと自分を納得させる。
その思いはレイも同様であったのだろう。一点を除いて。
「違うわ。エデンへの路。神の御許を離れたヒトが通った路だもの。」
「綾波?」
思わず昔の言い方でレイを呼んでしまう。いったい彼女は何を言っているのだろう。そう思う。
レイはしっかりと腕を組んだまま、視線を前に固定して歩き続ける。
「あなたが私から離れる時に通った道。それに似ているのよ。」
淡々とした口調。昔のように一切の感情を感じさせない口調。レイが不機嫌になるとこのような口調になる事をシンジは知っていた。
[2] 投稿者:ZETTON 投稿日時:2021/10/28 00:31 (Thu) No.278
「僕が・・・綾波から・・・あっ!」
後になってレイから聞かされたあの戦闘の顛末。
シンジは補完計画の事も多少は聞かされていた。
自分は夢だと思っていた事が、人類の未来を決めたとは未だに信じがたいが、とにかく最後になって、「現実」に生きる事を選らんだ。アスカを選び、レイから離れた。
そして現実に帰ってくる時、一本の金色の道を通った事を思い出したのだ。
一切の闇の中、不安に押し潰されそうになりながら進んで行く。直感に頼りながら進み、後僅かでそこから出られると感じた時、何気なく振り向いたシンジの後ろには、金色の道が出来ていた・・・
「あの時は・・・その・・・」
「何も言わないで。」
思わず謝りそうになるシンジだったが、レイの言葉に何も言えなくなってしまう。
「碇君のあの時の選択は間違っていたとは思わないわ。だからいいの。」
レイはいったん息をつくと、口調も声色も普段の物に戻した。
「それにこれからは私の隣りにいる。それで十\分。」
「レイ・・・」
「そう思えば、あの道は私達の始まりだったのかもしれないわね。」
「そうだね」
そう返すシンジだったが、本当は違うのかもしれないと考えていた。自分が始めて第三新東京市に来た時に見たレイの幻。そこから始まっていたのではないかと思う。
あの変わらない夏の中で繰り返された多くの悲劇と、少しの喜劇。
何もなかったお互いにできた、ほんの少しの絆。
すべての物語はそこから始まったのではないか、そんな気がする。
「僕たちはどこに行くんだろうね」
少々感傷的になったシンジは、遠い目を空に向けながら呟く。
「明日。」
レイの返答に迷いはなかった。
[3] 投稿者:ZETTON 投稿日時:2021/10/28 00:32 (Thu) No.279
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作者はHALさん。
初出は@isaoさんの「Innocent Red Eyes」で現在でも同HPでの閲覧も可能\ですが「綾波展」にもHALさんご自身の
サイトであった『HALの惑星」のサルベージサイトが置かれており、そちらからでも閲覧可能\です。
引用したのは、続編の「これから」を含めると全5編で構\成されている連作中の前半部分「それから」のラストシーンとなります。
TEOE後の比較的早い時期(1997年10月)に発表\された本作ですが、当時はまだ『LRS」展開は少なく、
TEOEをガッチリ受け止めた上で描かれた本作は、After E.O.Eでの『LRS」作品としての本当に極初期の作品だったと
記憶しています。
それだけに本作が当時の綾波系のSS/FF界に与えた影響は大きく、この作品によって(当時の表\現ですが)「補完」された
「アヤナミスト」が数知れないのでは無いか、と思います。
さて本作「それから」は、先に「名場面」を集めていた時にも当初から念頭にあった作品だったのですが、反面、HALさんは
リナレイ系の作者としても人気があったので、他作品とのバランスその他を考え、一旦、選から外れたのですが、どうしても
触れておきたいポイントが有り、敢えて番外としてご紹介したく考えました。
それは「天使としての綾波レイ」というポイント、イメージについて、です。
本作が書かれた当時、一部の考察系のSS/FF読み手や書きての中では「綾波レイ」というキャラクターは受け手側の嗜好や解釈に
よって、そのイメージが大きく変化するキャラククターだ、というある種のコンセンサスが得られ始めており、同時に
「タイプ別綾波レイの分類」的な試みも行われていました。
そのひとつの結果が拙HPの「綾波補完委員会ーANNEX-」に置いてあるmalさんの「4人のレイ」ですね。
[4] 投稿者:ZETTON 投稿日時:2021/10/28 00:34 (Thu) No.280
ただ、malさんの「4人のレイ」は「個人の性格」としての「綾波レイ」の分類なのですが、同時に「設定」としての「綾波レイ」の
部類も一部議論されており、例えば「本編系」「異世界系」「リナレイ」などの分類がされていたと思います。
そしてその中の「本編系」のレイを描く際の大きな分類分けとして「人間なのか、そうでは無いのか?」という分け方が
存在していたと記憶しています。
そして仮に「人間では無い」として場合、ある種「聖化するか、しないか」などもある種の分類分けになっていたと思います。
※例えばdoc_itohさんの「I burn for you」のレイは、ある種「聖化」の典型かと思います。
※反面、例えば「記憶のノート」のレイや「時が、走りだす」のレイは「人」では有りながらも「聖少女」的に描かれたレイだと
※思いますが、これはこれでまた別な観点での分析が有った(と、いうかある種もっとも批判/否定された綾波レイ)と言えるかも
※知れませんが、それはまた別途。)
私個人は当時、徹底的に「綾波レイ=少女」に拘った人間だったので、そもそもTEOEでレイが「リリス」にされてしまった
事自体が耐えられなかった癖に、反面、どこか綾波レイに「天使」というか「聖化」的な部分を感じているめんどくさい嗜好の
持ち主だったため、結果としてその両面、「少女的」なレイと「天使的」なレイが描かれる作品を好んで読んでいましたが、
同時にいつも「矛盾」を感じながら読んでいました。
そんな中、本作「それから」はそんな私の中の矛盾を解決(?)してくれる作品だったんです。
本作にはリツ子の台詞として以下のような部分も有りました。
[5] 投稿者:ZETTON 投稿日時:2021/10/28 00:35 (Thu) No.281
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「これから話す事は、あくまで状況証拠とレイの記憶に頼った推測になるのですが、レイはサルベージされました。誰の意志かは不明です。レイ自身か、シンジ君か、他の誰かか、単なる偶然か。ですが当時、人の溶けたLCLとリリスの構\成物質が大量にあった事は事実です。それを基に身体を再構\成したのではないでしょうか。証拠はありませんが、話を統合しますと最も高い可能\性です。」
「機械の力なしにか・・・まさに神の業だな・・・で、君はそれを知ってどうしようというのだね。」
「別に何も・・・知りたかっただけですから」
口にはそう言う。
『神様ね、あの時の神様はおそらくレイ。その栄光の座を捨ててあなたは何を求めたの?』
思ったのはそれだった。
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TEOEで「神、もしくはそれに類する存在」にされてしまった綾波レイ。
本作のレイは「リリス」で有りながら、その部分を自ら捨て去り「一人の人間の女性」として生きていく判断をしています。
当時、私はこの展開に心底安堵し、嬉しかったことを覚えています。
別に「人間」が神に勝るとか劣るとかではなく「共に生きる」ということ。
自分自身が何であろうと、相手が何であろうと、そのようなこととは無関係に「共に生きる」ということ。
それこそが「LRS」の理想なのでは?
本作の初読後、そんなことを感じたことを記憶しています。
ただねぇ、ここにある議論が有るんですよ。私的に。
貞本さんのコミック版と Kameさんの「 Holiday」、そして「Portrait」
また「EASY WAY OUT」や「PIECE」、「時が」や「記憶のノート」での「綾波レイ」。
私自身が最も望んでいた「綾波レイ」は、どのレイ?
じゃ、本当のレイはどれ?どこ?
「絆」のレイや、いっそ「秋日和」のレイは受け入れられる?
今回はそんなところで。
[6] 投稿者:ZETTON 投稿日時:2021/10/28 00:36 (Thu) No.282
あぁ、出来たらいつか「LAS」について少し書けたら、と思っています。
大したことはかけないけど、私、『LAS」には若干の尊敬というか、感謝、というか、いずれにせよ
どちらか?といえばポジティブなイメージあるので、その辺りを少し書けたら、と備忘も含めて。
では。