[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/7/23 14:54 (Fri) No.225
「レイはいいわ、零号機のデータは十\分だし、とくに問題はないから。」(本文より)
一人だけ翌日のシンクロテストに参加しないことになったレイ。
連日のテストにレイの体調を心配していたシンジはレイに「ゆっくり休むと良いよ」と
伝えたのだが、その言葉に対し何も言わない紅い瞳がシンジには何故が悲しげに見えた。
翌日、前日の悲しげな様子だったレイのことを気にかけながらシンクロテストに臨んだシンジだったが、
テスト中、不意に頭に入ってきた「「行ってあげなさい」との声。
そしてシンジは意識を失う。
同じ頃、一人で校外授業に参加したレイだったが、下校時、帰路の公園で小さな男の子に遭遇する。
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[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/7/23 14:55 (Fri) No.226
その時、なにかが制服のスカートを引っ張っているのに気づいた。レイが見ると
5歳くらいの男の子が微笑みながらスカートをつかんでレイを見上げていた。
「・・・誰?」
レイの問いかけに男の子は無言で微笑んでいたが、スカートを離して自分の背中
に手を回して身体を揺らしている。視線はレイの紅い瞳を見上げたまま。
「・・・あなた、誰?」
レイの問いかけには答えない。ただニコニコと屈託のない笑みを浮かべている。
レイはそのまま公園から出て行こうとした。すると男の子もトコトコとついてく
る。レイは立ち止まって男の子の方を向くと、鞄を膝に抱えてしゃがんだ。自分
の目線を男の子の目線に合わせると優しく言った。
「・・・何しているの?」
「・・・・・・」
男の子は相変わらず微笑んでいる。
レイは知らない人から見れば無表\情に見えるかも知れないが、優しい表\情をして
いた。
「・・・一人なの?」
「・・・・・・」
男の子は微笑むばかりだ。
「・・・お母さんは?・・・お母さんのところに帰りなさい。」
レイはそう言うと男の子の髪を右手で撫でた。
「・・・さびしくないよ。」
初めて男の子が声を発した。まるでレイに言い聞かせるように。レイは思わず男
の子の髪を撫でる手を止めた。
「・・・さびしくないよ。」
男の子はそう言うと、レイの背中に両手を回して抱きしめた。
「・・・優しいおねいちゃん・・・さびしくないよ。」
男の子はレイを抱きしめたまま言った。男の子の腕ではレイをちゃんと抱きしめ
ることはできないのだが、一生懸命背中に小さな手を回してレイを包もうとして
いる。レイは暖かいものが自分の心をつつんでいくような、そんな気がした。
「・・・優しいおねいちゃん・・・ひとりじゃないよ。」
男の子は精一杯の優しさでレイに言っている。レイにはそれがはっきりとわかっ
た。レイは瞳を閉じて言った。
「・・・ありがとう。」
[3] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/7/23 15:04 (Fri) No.227
「・・・おねいちゃん?」
男の子はレイの背中から手を放すとレイの顔を覗きこみながら言った。レイは目
を開けると男の子の瞳を見つめた。黒い瞳が優しく微笑んでいる。懐かしい優し
さ、誰かに似ている。
「・・・おねいちゃんの目、きれいだね。」
「・・・わたしの・・・目?」
「・・・赤くて、きれいだね。」
「・・・奇麗?」
男の子はレイの頬に手を伸ばすと、白く透き通るような肌に優しく触れた。
「・・・おねいちゃんの、ほっぺた、すべすべしてるね。」
「・・・わたしの・・・頬?」
「・・・おねいちゃんは、優しくて、きれいな人だね。」
「・・・優しい?」
その時、レイの瞳から涙が零れた。男の子はそれを見ると少し悲しそうな表\情を\r
した。そしてもう一度、優しくレイを抱きしめて言った。
「・・・おねいちゃん、どうして泣くの?」
「・・・それ・・は・・・」
「・・・おねいちゃん、悲しくないよ。」
「・・・・・・」
「・・・優しいおねいちゃん、泣かないで。」
「・・・う・・ん・・・」
[4] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/7/23 15:05 (Fri) No.228
男の子はレイを放すと、小さな手でレイの涙を拭った。その真剣な表\情を見て、
レイは思わず微笑んだ。男の子もそれに気づいて微笑む。
「・・・おねいちゃん、笑うともっときれいだね。」
「・・・ありがとう。」
「・・・おねいちゃん、さびしくないように、これあげる。」
男の子はズボンの左ポケットを探ると何かを取り出した。小さな左手を広げると
手のひらにキャンディが3つ。透明な包み紙に包まれた黄色と赤と赤・・・
「おねいちゃんのきれいな目、おんなじ赤いやつ、だいじなやつ、あげる。」
男の子はそう言うと、右手で赤いキャンディをつまんで、レイの瞳の横にかざし
た。
「ほら、おんなじ、きれいな赤だよ、だいじなやつ、あげる。」
男の子はレイの右手をつかんで、赤いキャンディを乗せるとニコッと微笑んだ。
レイもつられて微笑みながら言った。
「・・・ありがとう。」
その時、男の子の笑顔が誰かの笑顔と重なった、レイは一瞬、目の前にいるのが
誰なのかわからなくなった。その時男の子が言った。
「・・・いつもそばにいるからね・・・」
「・・・え?」
男の子はニコッと微笑むとレイの唇に軽くキスをした。そのまま駆け出すとレイ
の背後へと足音が遠ざかって行く。レイは一瞬呆然としていたが立ち上がると男
の子の姿を追って振り返った。レイが振り返った時には、すでに男の子の姿も足
音も消えていた。
・・・碇・・くん?
レイの右手には奇麗な赤いキャンディが残っていた。
[5] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/7/23 15:07 (Fri) No.229
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作者はshinさん。
HP「Fly Me to The Moon」のオーナーであり残念ながら未完となった同名のSS/FFの作者さんですね。
ただ本作の初出は確か自HPではなく、他サイトへの投稿だったと記憶していますが、本作は現在も
「綾波展」に保存されているので閲覧可能\です。
映画的な情景描写の中で描かれるレイの美しさが際立つshinさんの作品群も、当初から何かしら
紹介したいと思っており、そして出来れば「EASY WAY OUT」を掲示したいと思っていたのですが、
場面選択などで色々悩んだ末、一旦shinさんの作品は除外したのですが、今回、改めて
この作品を紹介させていただきました。
これは話中、ラスト少し前、位の場面で、この後、スッキリ暖かいオチに辿り着きますが、ここはここで
少し違った形ではありますが、shinさんらしい優しく美しいLRSの世界だと思います。
ただ、もし出来たら、上掲した「EASY WAY OUT」も合わせて読んでみて頂ければ嬉しいかな。
でも未読の方は、ちょっとだけ覚悟してから読んだ方が良いかも。
「痛い」っていうか「辛い」話なので。
でも、あれが「綾波レイ」って存在だったことも忘れたく無いので。