[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:32 (Sat) No.192
シンクロテストまでの時間、雨音だけが聞こえる自室で、一人文庫本を読んでいたレイに聞こえてきた遠雷。
その彼方の空の光に照らし出されるようにレイの心に浮かび上がる微かな不安。
シンクロテストまでの時間、ミサトの家のリビングで、一人、ガラス窓を濡らす雨を見ていたシンジに聞こえてきた遠雷。
その彼方の空の光に照らし出されるようにシンジの心に浮かび上がる遠い記憶。
「大丈夫…まだ遠くよ…あなたの上には落ちてこないわ…」
シンクロテストが終わった後、何かを伝えたい二人だったが、それが何かはわからず、
その想いが伝わることは無かった。
帰宅後、虚脱感と疲労感を感じたシンジが、幼きあの頃に戻っていくまどろみの中に
ふいに現れた少女が言った言葉
「あなたは死なないわ…私が守るもの…」
翌日・・・
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翌朝、空はうって変わって快晴だった。
常夏の陽射しが遠慮なく街全体に降り注いでいる。
青々とした夏草の葉に、昨日の雨の名残が輝く。
大気は暑い日になる予\感に満ち、何匹かの蝉の声も混じり始めている。
サファイアの光沢を持つ空に、雲は少なかった。
綾波レイはマンションの階段を降りきった。
まだ湿り気を残す砂が靴の下でジリッと音をたてた。
階段を降りきったところに、大きな女郎蜘蛛の巣が出来ていた。
昨日の雨がその巣に水滴を散りばめ、賑やかに飾り立てている。
朝日の中の水滴は、光り輝く宝石にさえ見えた。
ふと見ると、そこには一匹の蝶がかかっていた。
眩い光の中に密やかな死があった。
そこにあるのは、息絶え、蜘蛛に食されることだけを待つ命の抜け殻であった。
レイには、それはどこか巧妙に作られた贋作のように見えた。
生への歓喜溢れる朝の風景の中で、蝶の死骸だけが虚構\で塗り固められたフェイクであるかの如く浮き上がっていた。
屍となったこの蝶の複眼に、世界はどのように映るんだろう…
そんな取り止めもない考えが心を掠めていった。
空を仰ぐと、眼が痛くなるほどの青と、眩しき陽光があった。
柔らかな風が、レイの空色の髪を僅かに揺らす。
レイはいつものように本部への道を歩き始めた。
そこかしこに生命の蠢く濃密な夏の気配が満ちてきていた。
その日、空に輝く円環の使徒が舞った。
[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:33 (Sat) No.193
作者はぐっちーさん。
ご自身のHPでの掲載だったと思います。
恐らくさほど有名な作品では無く(失礼!!)とても短い作品のエンディング部分なのですが、
初読時、蜘蛛の巣と蝶の描写がとても鮮烈に印象に残りました。
またこの鮮烈でリアルな描写の後のアルミサエルの描写が、嫌になるくらいリアル感を
増長させてくれたのを憶えています。
本当はもっと早い段階で登場させたかったのですが、私の文章力では冒頭に付与している
「あらすじ」がどうしても書けず、一時断念しようかとも思ったのですが「ま、いっか」と思い、
ともかく出してみました。
残念ながら恐らく現状、読めない作品かな?と思いますが「読んでみたい」と思われた方は
書き込み頂ければ、何か考えます。