零号機

【名場面】Rei IV

[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:22 (Sat) No.188

「拾七番目の使徒を殲滅した直後、人類補完計画の正式発動が宣言された。」(本文より)

しかし以降の計画に関して何の発表\もないまま、シンジとレイのシンクロテストだけが
継続されていた。「三人目」という事実とどう向き合えば良いのか分からないまま、
距離縮められないシンジとレイだったが、ミサトの計らいより少しづつ互いの気持ちに
気付いていく。

しかしレイは知っていた。

自分がここには居られない事を。
消えるために自分がある事を。
消えねばならない事を。

やがて「約束の日」がやってきた。

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 シンジは泣きながら水面を見つめていた。
 水面が揺れた。
 セントラルドグマのほの明るい光が、さざ波の上で砕けて煌めいた。
 光……

(……光?……)

 水面が光った気がした。
 だが、気のせいかも知れない。
 さっきの光る雪の名残?

(光……光……青白い、光……)

 目の前の水面が揺れて、光った。
 そう、気のせいなどではない。確かに光った。
 青白い光が、LCLの波のプリズムで妖しく輝いた。
 光は、不思議なことに湖の中から射してくる……

(光……湖の中から、どうして……)

 シンジは光る水面をただ見つめていた。
 煌めく、光。まるで、湖に映る月明かりのように。
 そして光は少しずつその強さを増しているような気がする。

(強くなってる……青白い、光……違う、光が……光が、上がってくる……)

 LCLの赤い水面が白く濁って……いや、濁ったのではなかった。
 青白い光の源が、少しずつ浮き上がってきている。
 それは白い影のようにも見えた。

(影……白い、影……まさか……)

 心の中を一瞬だけ恐怖が駆け抜けたが、シンジはその影から目を離すことができなかった。
 荘厳な青白い光を放つその影は、少しずつ、少しずつ水面へと近づいてくる。
 そして次第にその姿をはっきりさせてくる。

(白い、影……使徒……人? ……人だ……人が……浮いてくる……)

 影は人の形をしていた。
 それはまるで、精巧に作られたガラス細工の人形のようだった。
 真っ白な肌……青白いほどに、透き通るように、白い肌……
 細くしなやかな、手足……折れそうに華奢な、躰……
 そして、澄んだ蒼銀の、髪……
 たとえその双眸が閉ざされていても、見まごうはずもないその愛しき面影……

「あ……綾波……」



[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:24 (Sat) No.189




 思わず声が出る。
 信じられない思いでシンジはその影を見つめ続けた。
 綾波レイ……その可憐な姿が、しずしずと水面に向かって浮き上がってくるのだった。

「綾波……」

 シンジは初号機の足元を離れると、その姿に向かって水面をかき分けていった。
 影は少しずつ水面に近付き、シンジと影の距離も縮まっていく。
 そして綾波レイの姿をしたその影は、水面まで……ついにシンジの手の届くところまで浮かび上がってきた。

「あや……なみ……綾波……」

 シンジはその影に向かって呼びかけ続けた。










……ここは、どこ?
私、消えたのに……
心だけが、あるのね……
ここは……

……夢?
そう、夢を見てるの、私……
二度目の、夢……
夢の中で、声がする……





『綾波!』





この声、知ってる……
碇君……
碇君の、声……
温かい声……
懐かしい感じ……
会いたい……もう一度……










「綾波!」

 綾波レイの姿をしたその影は、シンジの腕の中にあった。
 幻などではない、確かにそこに存在する影。
 シンジはその影をかき抱くと、渾身の想いを込めて呼びかけた。

「綾波!」

 シンジの涙の叫びに、その繊細な人形はうっすらと目を開いた。
 瞼が微かに震え、長い睫毛についた水滴が揺れる。
 赤い瞳が濡れて美しく煌めいた。

「綾波!」








[3] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/26 01:26 (Sat) No.190


夢……私、夢を見てる……
だって、碇君が、いるもの……
また碇君の夢を、見てる……





『綾波!』





碇君の声……
温かい……どうして?
夢なのに……





『綾波!』





碇君の匂いがする……
碇君の温かさを感じる……
私、消えたのに……どうして?





『綾波!』





碇君……泣いてる……また泣いてる……
前にもあった……こんな時……
そう、こんな時、私……










 シンジは見た。レイが僅かに微笑むのを。自分の腕の中で、レイは確かに微笑んだ。

「綾波……」
「……いかり……くん……」

 小さな声だった。

「あやなみ……聞こえるの? 綾波……」
「……碇君……私……」


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作者はA.S.A.I氏。
初出および現在もHP「Artificial Soul〜Ayanamic Illusions 〜」にて公開されています。

数ある本編24話分岐モノの中でもレイな方々にとっては説明無用の名作かと思います。
そしてこのシーン、当時、私が読んだ多数のSS/FF作品中、最も美しいシーンの一つだったと思いますが
「美しい」だけでは無く、何よりレイが戻って来るのですものね。
嬉しかったなぁ、これ初めて読んだ時。

本当はこのシーンに先行する初号機のエントリープラグ内に光の粒が降る場面も、本当に綺麗なのですが
流石に余りに長くなるので割愛しましたが、以前読まれた方も、未読の方も、是非この機会に読む/再読
頂ければと思います。






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