[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/17 01:36 (Thu) No.171
カメラマンとなったケンスケに声を掛けてきた兵士「碇シンジ」
戦場での僅かな休息時間での語らいでは埋めきれない10年の歳月と、癒せない心。
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硝煙の匂いが流れ込んできた。俺はカメラを構\えてみた。ファインダーを覗く
と、そこには戦争があった。殺し、殺される戦争。破壊し、破壊される戦争。ご
く一般的な戦争がそこにあった。ナショナリズムに根ざした戦争。停戦協定が破
られ、UN軍との間に起こった小競り合い。ありがちな、世界の裏じゃ誰も気に
しない様な戦争。
俺はフィルムを1本写し終えた。次のフィルムを用意しようとした時、一人の
兵士が立ち上がってゆっくりと歩きはじめた。ライフルを持たずに、その男は歩
いていた。俺はフィルムを入れすぐにファインダーを覗き込んだ。
「何をしてるんだ……気でも狂ったか」
男はゆっくりと教会に向かってきた。素早くピントを合わせる。戦車の機銃が
掃射され、男の傍を土煙が走った。それほど距離がある訳でもないのに当たらな
かった。ゆっくりと土煙が晴れる。
「シンジ……」
俺の呟きは爆音にかき消された。シンジはゆっくりと歩いていた。土煙が晴れ
ていく。再び爆音が鳴り響き土煙が立ち上った。至近弾だった。シンジの姿が消
える。俺は教会を飛び出した。
なんなんだ……何をしてるんだシンジ……いったい。俺は教会の大きな扉を開
け放った。土煙の中からシンジの姿が現われる。シンジは何も持たずにゆっくり
と歩いていた。ただ歩いていた。俺は立ち止まった。
不思議な光景だった。硝煙の立ち込める戦場を、飛び交う銃弾を気にも留めず
に、ただ歩いていた。通りを、教会に向かって、ゆっくりと………まるで日曜の
お祈りにでも行くかの様だった。俺はカメラを構\えシャッターを押した。
美しかった。その姿は……ただ、美しかった。俺はシンジを撮り続けた。しか
しそれは長く続かなかった。シンジは教会から20m程の所でひざまずいて、腕
を前に伸ばした。何かを優しく抱きしめるかの様に。そう……シンジは何も無い
空間をそっと抱きしめていた。
そして……血しぶきが舞った。
[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/17 01:37 (Thu) No.172
オフィス街の中の小さな公園を通り抜け、俺達はある国連機関のビルの前まで
来た。前を歩いていたアスカはくるりと振り返った。
「明日の晩、開けときなさいよ」
「なに?デートのお誘い?」
「ぶーっ。鈴原とヒカリ呼んで、アンタの帰国祝いするからね」
「そりゃどうも」
「みんな心配してたんだからね。全然連絡無かったし」
アスカが口を尖らせて文句を言う。
「俺だって心配してたよ。生きて帰れるのかってね」
「全く無茶ばっかりして……。いつまで日本にいるの?」
「しばらくいるよ。ゆっくりしたいし。先輩がさ、山の写真撮らないかって誘
ってくれてるんだ」
「やま?」
「セカンドインパクト以後の日本アルプスの植生の変化を写すんだって」
「ふーん」
アスカは興味なさそうに肯いて時計を見た。
「いけない、行かなくちゃ。時間と場所、電話するね」
「ああ。じゃ、頑張って」
アスカは小走りでビルに入ってく。俺はその形の良いお尻を眺めていた。素晴
らしい、そう思った瞬間アスカがこっちを向いた。
「ねえ……シンジの……探し物って何だったのかな」
「さあ…聞かなかったから」
「見つかったのかな」
「………たぶんね」
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作者はdoc_itohさん。ご自身のHPでの公開だったと記憶しています。
読み直して改めて思い出したのですが、この作品、作中レイは一言も話さない、というより
上記の引用の後の1シーン、いやたった一言で描かれだけなんですよね。
なので流石にそこを引用するのは止めておきました。
まぁ、上記を読めば判っちゃいますけどね。
言ってしまうば某有名アニメジブリ映画でのヒロイン登場シーンと同じでは
あるのですが、こんなにも印象が違う上に、こんなにも美しいシーンになるんだ、
と初読の時に感激したのをよく覚えています。
TEOEの先を想った時にありうる未来。
哀しむのでは無く、ただ受け入れる。
それが最も「正しい」気がした作品です。
※このケンスケだったらアスカに似合うよね・・・