[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/16 00:49 (Wed) No.166
あの夏から10年、晴れて夫婦となったシンジとレイに同窓会の案内状が届く。
愛娘の「アヤ」を連れ訪れた会場の隣ではなんとNERVの面々も飲み会の真っ最中。
アスカも居ればミサトもいるしオペレーターズに冬月副指令、そしてゲンドウも。
こうなってしまってはタダで済むわけも無く、案の定、色々と騒ぎが起こるのだが・・・
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レイが駆けた。
立ちはだかり、ゲンドウの前にアヤをそっと差し出した。
ゲンドウはそれを見つめた。自分を見つめる四つの目。特になんの汚れもない
小さな瞳がゲンドウの心に突き刺さった。
逡巡が心の中を駆ける。出そうとした掌に、血の幻覚が見える。
ゲンドウはそれを振り払うように拳を握りしめた。
血塗られた手には決して触れてはならないものがある。今のゲンドウにはアヤが
そうだった。
「お義父さん‥‥」
レイが言った。今度は迷わなかった。
ゲンドウの胸にアヤを押しつけ、まっすぐにその瞳を見つめる。レイばかりでは
ない。ゲンドウは背にシンジの視線を痛いほど感じていた。
それでもゲンドウはしばし手を出そうとはしなかった。
ゲンドウに手を出させたのはアヤだった。
預けられた胸に無い手がかりを求め、アヤはその小さな手で服地をしっかりと掴
んだ。まるでゲンドウによじ登ろうとでもするように‥‥
それが思わず手を出させた。反射的にアヤの腰を支えた。
体重を支えた事を確認して、レイは手を引いた。
一歩。そしてもう一歩、レイが下がる。
それでアヤは完全にゲンドウの腕に抱かれた。
「あなたの‥‥おじいさんよ」
レイはアヤに小さく言った。
アヤはゲンドウの腕の中でしばらくその顔を見上げていた。初めての人間に対し
て見せる赤ん坊特有の表\情。まるで相手のすべてを見透かしてるような、後ろめた
い人間には恐くなるような顔でじっとゲンドウを見ていた。
どのくらいそうしていただろうか、アヤはその均衡を自ら破った。
おもむろに小さな手を伸ばすと、ゲンドウのあごひげを鷲掴みにして引っ張った
のだ。
アヤにしてみれば父親にないそれに興味を持ったのだろう。
ゲンドウの顔が奇妙に歪む。
それを見てアヤが笑った。もう一方の手も動員し、両手で髭を引っ張る。
「やめなさい、アヤ」
慌ててレイが止めようとする。
「いや、いい」
ゲンドウはそれを制した。
[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/16 00:51 (Wed) No.167
アヤが髭から手を離したのを見計らって、ゲンドウは放り投げるように高く頭上
にかざす。アヤはこれが、高い高いが大好きだった。いつもはシンジがしてやるが、
その度に大喜びする。
甲高い声、手足を可能\な限りバタつかせ、まるでもっとしろと言うようにゲンド
ウを見つめる。その顔に浮かんでいるのはこぼれ落ちるような満面の笑み―\―\
ゲンドウはそれに釣られた。不思議と自然に笑みがこぼれた。
「ははは、そらッ!」
二度、三度。下げてからまた上げる。それを繰り返す。その度にアヤは嬌声を振
りまいた。
「シンジの子だな。おまえも高い高いが好きか‥‥」
ゲンドウがポツリと呟いた。
顔立ちはレイに似ているが、父親から譲られた黒い髪。目元が似ているせいか笑
うと幼いときのシンジを彷彿とさせる。
あの時もそうだった。赤ん坊の頃のシンジもこうして高い高いをしてやると喜ん
ではしゃぎ回った。
幸福だった思い出と、苦い思いが共によみがえった。
ゲンドウはもう一度アヤを自らの腕に抱き、それからレイの腕に戻した。
「シンジ‥‥」
振り返ったゲンドウはシンジと目をあわせた。その表\情には見たことのない薄笑
みが浮かんでいた。
「ありがとう」
恐らく、誰も聞いたことのないゲンドウの言葉だった。
作者は「特2−22」さん。
初出はNIFTYだったと記憶していますが、Web公開がどこだったのか?は不明です。
TEOE前に書かれた作品なためLRSなんて発想自体が存在せず、ただ素直にTV本編の後日談を描いた作品なため、
夫婦となっているシンジとレイの関係も妙にベタベタせずとても自然な分、逆にリアリティがあり結果として
これ以上ほのぼの暖かいLRS作品もそうは無かったと思います。
以降ある種お約束となるドタバタ劇含め、どこをとっても幸せなシーンが続きますが、引用したのはゲンドウとの場面。
やはりゲンドウとシンジの和解有ってこそレイも本当に幸せになるれのだと思います。