零号機

蒼き淵にて

[1] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/8 20:46 (Tue) No.155

蒼き淵にて

「全ての使徒を撃退した筈なのに」
予\想外の最後の使徒の出現により引き起こされたサードインパクトの結果、人類は滅んだ。
初号機にシンジとレイ、弐号機にアスカだけを残して。
絶望的な状況の中、プラグの機能\により提供される過去の記憶の幻影による安らぎと後悔を道連れに
3人だけの時間が静かに時が過ぎていく。

**************

「ええ、わたし行くわ」

「無茶だ!」

「ええ、恐らく帰りまでエネルギーがもたないでしょうね。
 でも、今そこへ戻ればもう二度と外へ出ることはできない気がするの。
 テストに使っちゃってロケットがもうないし」

「駄目だよ!」

「そう、駄目なのよシンジ。わたしはもう待っていられない。
 何もすることが無くなってここでただ待つだけなんて気が狂うわ。
 お願い、黙って行かせて。
 きっとなんとかなるわ。勘だけどね」

「…アスカ」

「そういうことよ。じゃ、行ってくるわ、シンジ。
 うまくいったら助けに戻るからね。
 それからファースト、」

 レイが顔を上げる。

「みっずいーらずぅ!シンジとお幸せにっ」

「アスカってば」

シンジがうろたえ、モニタのアスカがウィンクし、弐号機が身を翻して、通信は途絶した。

[2] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/8 20:49 (Tue) No.156


アスカは帰らなかった。
シンジの苛立ちは日ごとに募っていった。
当たり前といえば当たり前だ、彼女は当てもなしに出ていったのだ。

「全く、どっちがバカなんだよ」

そう言うシンジを自己嫌悪が襲う。
なんとしても引き止めるべきだったのではないか?

シンジは塞ぎ込んでいた。レイも話すことがなかった。
無言の一日が暮れた夜、シンジは悪夢にうなされた。

彼の前に、アスカとカヲルが無残な姿で倒れている。
周りを取り囲む人々がシンジを責めている。
自責の念に押しつぶされる彼の脇へ立って、レイは人々を追い払った。
すると、全員がゲンドウになった。

偽者、と呼んでやると今度は子供のシンジになって逃げ惑った。

次の日、レイは初号機を動かして施設の点検作業をしていた。
シンジは補助シートで力なく横たわっていた。

ふとレイは、シンジが自分を見つめていることに気付いた。
見返しても目線を逸らそうとしない。
無視して作業を続けていると、唐突に話し掛けてきた。

「奇麗だな、綾波は」

しばらく固まっていたレイは、ゆっくりとシンジの方を向いた。

「この照明の中で、近くで見てるとまるで妖精みたいだ。
 外で制服を着ていたときとは全然感じが違う」

「そう」

「うん。でも僕は、太陽の下で、学校での綾波をまた見てみたいんだ。
 もう無理だけどね」

「…」

「でもその代わりに、僕らは一緒だ。ずっと、いやでも、死ぬまで」

にっこりと笑った。

「碇君」

レイの抵抗は弱々しく、シンジは容易に彼女の自由を奪っていた。
両手首を頭の上へ押さえつけて、唇を重ねる。
レイは体を強張らせながらも、逃げようとはしなかった。
シンジの指がスイッチを探り当て、レイのプラグスーツが音を立てて緩んだ。
シンジは無表\情にそれを脱がせ始める。
レイは顔を背けていた。上半身を露にされてしまうと、彼女は目を閉じた。

しばらくの間、二人は、そのまま動かなかった。
レイが再び目を開くと、シンジは彼女に覆い被さったまま、肩を震わせて泣いていた。

息がし難くて顔が火照るのはどういうことだろう、などとレイは考えていた。

[3] 投稿者:管理人 投稿日時:2021/6/8 20:53 (Tue) No.157


Sadaさん作。本放送放映直後に上梓された作品だと思われますが、初出、初出場所は不明です。

あくまでも静かに、ある種突き放した文体で描かれる透明な絶望感と閉塞感。
今回、久しぶりに再読してみましたが、TV本放送を受けての作品なので、新劇場版はもちろん旧劇場版とも違う世界観と読後感が強く印象りますね。

転記したのは、物語ラスト前、アスカが可能\性を求めて外界で出ていく場面とそれに引き続いてのシンジとレイの情景。
本当は一番ラストのシーンで描かれるのレイそれはそれは綺麗なのですが、流石にラストシーンはねぇ。

この作品で描かれるとにかくクールなレイって、TV本編から「綾波レイ」と付き合ってきた方々にとってはある種懐かしいレイかと思いますが、
新劇でのレイのイメージとは、しみじみかなり距離ありますね。





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