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リョナゲ製作所バトルロワイアル 本編投下スレ その5

[1]投稿者:『仇と孤独と狂気 その5』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/12(Sat) 13:53 No.431  

「ぐ……あ……あぎぃぃぃぁぁあぁぁァァァァァッ!!?」

そして、焼き尽くされた悪魔が感じる痛みは、悪魔と精神の大半を共有していた
サーディにもフィードバックした。

耐えがたい激痛を悪魔と共有してしまったサーディはあまりの痛みにのた打ち回る。
暴れるサーディを抑えきれず、エリナは振り払われて倒れてしまう。

「ぐっ……ぐぅぅぅっ……!このガキィィィ……!」

サーディは激痛に身を捩りつつも、伊予那を鬼の形相で睨みつける。

「ひっ……!あ……あぁ……!」

サーディの鬼気迫る迫力に、伊予那は恐怖に慄く。

サーディの内に棲む悪魔は強大だった。
いくら伊予那のお札の力が強力とはいえ、それだけで倒されてしまうほど
軟弱な存在ではなかったのだ。

「殺してやる……!!お前は四肢を引き千切って内臓を抉りだして目を繰り抜いて
 切り刻んで切り刻んで砕いて砕いて、ひたすら苦しめて殺してやるわ……!!」
「い……いやあぁぁぁぁっ!!」

伊予那は恐怖に耐えきれず、逃げだした。
だが、サーディには逃がすつもりなど微塵も無い。

決して足が速いとは言えない伊予那に、サーディはあっさりと追いついて伊予那の背中に
鋭い蹴りを叩き入れた。

「ああぅっ!!」
「ふふ……逃がさないわよ……!まずは左手の指から一本ずつ斬り落としてあげるわ……!」

狂笑を浮かべるサーディ。
伊予那は目に涙を浮かべて歯をガチガチと鳴らす。

「ほぅら……まずは小指から少しずつ切り取って……!」
「……やらせないと……言ったでしょう……!」
「……ふん、まだ動く力があったのね……!」

声のしたほうにサーディが視線をやると、そこには満身創痍でありながらも
眼光鋭くサーディを睨みつけるエリナの姿。
その左手には3枚のお札を握りしめ、サーディへ一歩、一歩と近付いてきている。

「くっ……!」

それを見て、サーディは顔を引き攣らせて後ずさる。

お札1枚ですら、あれほどの激痛だったのだ。
それなのに、もし3枚ものお札をこの身に受けたとしたら……

当然、悪魔は消滅。サーディも痛みに耐えきれずショック死するか、
もしくは激痛のあまり精神崩壊といったところだろう。

「……カザネの仇よ……!」

エリナは胸から夥しい量の血を未だ流し続けている。
右手首は斬り飛ばされており、出血多量のせいか顔色は青白い。

今にも倒れて死んでしまってもおかしくない様相。
だが、それにも関らずエリナはサーディを倒すために、サーディに向かって
走り出した。

「ちっ……いい加減しつこいのよ、アンタはっ!!」

サーディは首飾りからナイフを無数に生み出し、エリナに撃ち出した。
だが、エリナは怯まないどころか速度を上げた。

(今更、怖気づくわけにはいかない……!私はもう……!)

決意を固めるエリナ。そんなエリナに、ナイフは容赦なく襲いかかった。


ザクザクザクザクッ!!


身体に数え切れないほどのナイフが刺さるが、エリナは痛みを無視して走る。


ザクッ!!


足に刺さった。一瞬よろけたが、大丈夫だ。
この程度ならば、まだ我慢できる。

問題無い。まだ走れる。


ジュグッ!!


目に刺さった。凄まじい激痛に足が止まりそうになる。
だが、無理やり体勢を整えて走り続ける。

問題無い。まだ片方は見える。


ゴシュッ!!


喉に刺さった。
ゴボっと喉から血が溢れてきて、吐血する。

問題無い。まだ肺の酸素は残ってる。


ザシュッ!!


心臓に刺さった。
身体がびくりと痙攣し、血液を身体に送ることができなくなる。
これでは身体に酸素を供給できず、もうほとんど動くことができない。

問題無い。もう充分近付いた。


……後は左手をヤツに叩きつけるだけだ。






数え切れないほどのナイフを受けながら、死なないどころか怯みすらしないエリナが
サーディには信じられなかった。

あり得ない。絶対にあり得ない。
まるで不死身の化け物が迫ってきているように感じられ、サーディは恐怖で錯乱した。

「ひっ……!寄るな……寄るなあぁぁぁっ!!」

絶叫して刀を振り回すサーディ。

もう遅いわ、とエリナは言おうとしたが、喉がゴボゴボとなるだけだった。

構わず、エリナはサーディに左手に握ったお札を叩きつけた。


ゴジュアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!


(ガアアアァアッァァァァアアーーーーー!!!)
「ひぎいぃぃぃぃあgぁdjgぁかあぽあああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」

サーディの喉から人間が出すとは思えないような絶叫が迸る。

先ほどとは比べ物にならない、まるで灼熱の業火に焼かれ続けるような激痛。
それは人間に、いや生物に耐えられるようなものでは無かった。

その瞬間、悪魔はその存在を消し去られ、サーディの精神はバラバラに破壊された。





[2]投稿者:『仇と孤独と狂気 その6』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/12(Sat) 13:54 No.432  

エリナはサーディにお札を叩きつけたと同時に力尽き、倒れた。
エリナの傷は元々サーディの攻撃によって、ナイフの弾幕に突っ込む前から
致命傷となっていたのだ。

エリナもそれが分かっていたからこそ、せめてカザネの仇を討つため、また伊予那の
安全を得るために捨て身でサーディに特攻したのだ。

そして、エリナは見事サーディを倒すことに成功したのである。

(しかし……さっきのは本当にキツかったわ……もう二度とやりたくないわね……)

もっとも、やる機会など二度とないだろうけど……。

エリナはそんなことを考えながら、薄れゆく意識の中で自分の内のアール=イリスに
謝罪していた。

(……悪かったわね、こんなことに付き合わせて……)
(……何言ってるのさ、エリナ。私にとってもカザネちゃんは大事な子だったんだよ?
 もし私と君の立場が逆だったとしても、私も同じことをしたさ)
(……そう……そうよね……)
(……それに私たちはパートナーでしょ?水臭いこと言いっこなしさ、エリ姉!
 ここまで来たら、地獄の底まで付き合うさー!)
(……ふふ……最期まで貴女は貴女らしいわね……)

そろそろ意識を保つのが限界に近付いてきた。
死が近づいたことで気になったのは、もう一人の後輩のこと。

カザネと自分が死んでしまって、シノブは大丈夫だろうかと心配になる。
だが、すぐにシノブなら自分たちがいなくても大丈夫だと考え直した。

(シノブなら……この殺し合いも必ず叩きつぶしてくれるはずだわ……)
(マインちゃんもついてるしね、二人とも私たちの分まで頑張ってくれるよ!
 私たちはカザネちゃんやアリアちゃんとのんびり見物と洒落込もうぜぇ!)
(ええ……あの子たちなら……きっ……と……)
(……そうさ……何も心配することはないよ……だからゆっくりお休み、エリナ……)
(………………)

アール=イリスの声を聞きながら、エリナは安らかな表情で息を引き取った。






伊予那は呆然としていた。

目の前には、全身に大量のナイフが刺さったエリナの死体。
傍には、内の悪魔を祓われ、自らの精神も砕かれて倒れている桃色の髪の少女。

「何なの……?何なの、これ……?」

伊予那は恐怖に震えていた。

伊予那はこれまでなぞちゃんとの戦闘を経験した以外は、危険な目にはあっておらず、
死体の一つすら見ていなかった。

そんな伊予那には、この状況は刺激が強すぎた。

「いや……やだよ……!こんなの、嫌だよ……!」

目の前で仲間が殺された。
そして、その殺された仲間の死体が野ざらしにされている。

殺したのは狂人だった少女。
そして、その狂人も激痛で心が壊れてしまった。

これが、殺し合い。

一人は命を奪われ、一人は心を壊された。

現実的で生々しい、目の前の壊れた人間。

そんなものを許容できるほど、伊予那の心は強くなかった。

「……え……?」

しかも、伊予那の心をさらに責め立てることが起こった。

「……な……なんで……?」

桃色の髪の少女が、立っていた。

そして、力の抜けた無表情な顔を伊予那へと向けたかと思うと……。

笑った。
無邪気なほどの、滑稽なくらいの、顔をくしゃくしゃにした満面の笑み。

その笑みに、呆気に取られる伊予那。

しかし、次の瞬間サーディは伊予那に刀を叩きつけた。

「ひっ……!?」

間一髪、伊予那は避けることに成功する。

先ほどまでとは全く違う、切れも技術も無い大ぶりの一撃だった。
だからこそ、その攻撃は運動の苦手な伊予那でも避けることができた。

「ふふ……うふふ……あはは……!」

攻撃を避けられたサーディは、しかし悔しがるでも無く、
避けられたことがおかしいかのように笑っている。

伊予那はサーディのその様子に、ただ混乱するしかない。
だが、思考がまとまらない状況で伊予那は自然と悟っていた。

この少女の心は、やはり完全に壊れてしまったのだということを。

「ヒヒヒャハハハアハハハハハァァァーーーーー!!」
「っ!?」

いきなり奇声を上げて、大声で笑い出したサーディに伊予那は驚く。
天に向かって、吠えるように笑う。ただ笑う。
手に持っていた刀は放りだし、全神経を笑うことに集中させているかのように。
そして、サーディは笑いながら伊予那と逆の方向に物凄い勢いで走り出した。

あっという間に豆粒ほどの大きさになり、ついには見えなくなるサーディ。
それを呆然と見送るしかない伊予那。

あまりにも衝撃的な光景を立て続けに目にすることになった伊予那の疲労は限界に来ていた。
伊予那の脳は主人をその過酷な現実から守るために、一時的に機能を停止することにした。

とどのつまり……伊予那は精神的疲労の限界に達して、意識を失った。








【富永エリナ@まじはーど 死亡】
【残り29名】


【C−3:X3Y2/森/1日目:真昼】

【富永エリナ{とみなが えりな}&アール=イリス@まじはーど】
[状態]:死亡
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料は11食分)
ハロゲンライト(懐中電灯型)@現実世界(電池残量十分)
巫女服@一日巫女
アイスソード@創作少女
ハンドガン@なよりよ(残弾5)
果物ナイフ@こどく



【神代 伊予那{かみしろ いよな}@一日巫女】
[状態]:右手に中程度の切り傷、精神疲労大、気絶
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
9ミリショート弾x30@現実世界
SMドリンク@怪盗少女
[基本]:桜と生きて帰る
[思考・状況]
1.気絶中
2.銃は見せて脅かすだけ、撃ち方は分かったけど発砲したくない

※伊予那のそばには、
  ルカの双刀(一本)@ボーパルラビット、
  ベレッタM1934@現実世界(残弾4、安全装置解除済み)
 が落ちています。







[3]投稿者:『仇と孤独と狂気 その7』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/12(Sat) 13:55 No.433  

涼子となぞちゃんの戦いは熾烈を極め、戦闘を繰り広げるうちに、彼女たちは
エリナたちのいる場所から自然と離れ、どんどん森の奥へと入り込んでいった。

そして、十数分に及ぶ戦闘の結果……。

「う……あぁ……あぁぁぁ……」

なぞちゃんは倒れていた。
その身体には、深い切り傷が幾重にも刻まれており、苦しそうにぜいぜいと
息を乱していた。

なぞちゃんの傷のいくつかは明らかに重要な臓器を傷つけており、
全身から流れ出る血は失血死してもおかしくないほど大量に流れ出ていた。
なぞちゃんの負った傷は、誰がどう見ても致命傷だった。

対して、涼子は左腕を切り裂かれている以外は傷らしい傷を負っていない。
その傷の原因も、涼子が無茶をしたのが原因だった。
涼子はデイパックから武器を取り出す隙を見つけられなかったため、
危険を承知でなぞちゃんから刀を奪ったのだ。
だが、その代償は大きかった。

(やれやれ……ちょっとドジったかな……)

双刀を奪う際に切り裂かれた左腕。
腱こそ断たれていないようだが、自由に動かすことは難しい。

涼子はもっと上手くやるつもりだった。
だが、手負いとは思えぬほど鋭い動きを見せたなぞちゃんに、
油断していた涼子は遅れを取った。

それでも涼子は何とか武器を奪うことに成功し、ゲージ全開無双乱舞を
なぞちゃんに叩きこんで勝利を収めたのだった。
怪我をしている上に武器を持たない状態では、いかに冷酷な殺人機械とはいえ、
参加者の中でもトップクラスの実力を持つ涼子に叶うわけがなかった。

(この子が怪我してなかったら、ヤバかったかもなぁ。
 素の強さなら、若干この子のほうが上っぽかったし……)

「……痛……い……」
「ん?」

なぞちゃんが呟いた声に、涼子は反応する。

「……なん……で……?痛い……寒い……です……。
 ここ……どこ……?ミアちゃんは……?
 エリナ……伊予那は……?皆……どこですか……?」
「あー、死に際で意識が朦朧としてるのかな?」

なぞちゃんは力の入らない身体を必死で動かし、何かを掴もうとするかのように
のろのろと左腕を動かしている。

すでに、なぞちゃんの目は何も見えていなかった。
その腕は、はぐれてしまった仲間を掴もうとしているのだ。
だが、この場には彼女の仲間は一人もおらず、誰も彼女の手を握り返しては
くれない。

そんななぞちゃんが哀れに思ったのか、涼子は刀を構えて呟く。

「……ま、モンスターの仲間とは言え、さすがに不憫だからねぇ。
 ちゃんとトドメ刺して楽にしてやるか」
「寒い……嫌……誰か……助けて……」

涙を流して弱々しく助けを求めるなぞちゃん。
そんななぞちゃんに引導を渡してやるため、涼子は刀を振り上げ……。


「ヒヒヒャハハハハアァァァァーーーーー!!」

いきなり周囲に響いた奇声に、涼子さんビビる。

「なっ!?何ぞ!?」

慌てて周囲をキョロキョロと見回す涼子。
すると、笑いながら物凄い勢いで目の前を走り抜けて行くサーディの姿を
見つけることができた。

呆気に取られる涼子さん。

「サーディ……しばらく合わないうちに元気な子になって……」

とりあえず、ボケる涼子さん。
ほろりと涙を流し、ハンカチを目頭に当てる。

「……って、待て待て、ちょっと待てぇぇ!!?」

だが、サーディが向かった先がどこなのかに気付いた涼子は目を見開き、
慌ててサーディを追いかけ始めた。

「痛い……ミアちゃん……痛いよぉ……」

後には、傷の痛みと全身を襲う寒気に苦しみながら死を待つなぞちゃんが残された。






凄まじい速度で走るサーディを全速力で追いかける涼子。

「サーディちゃん、あーたってそんなに足速かったっけ!?
 あれか!?興奮状態で脳内に発生するアドレナリンとかのせいか!?
 ナチュラルドーピング効果か!?涼子さん、よく知らんけど!!
 って、それはともかく止まれって!!そっちはヤバいから!!」
「ケケケケキャハハハァァァーーーー!!」

だが、サーディは涼子の声が聞こえていないかのように、笑いながら走り続ける。
そして……。


ボンッ!!


禁止エリアに侵入したサーディの首輪が爆発し、サーディの首を吹き飛ばした。

「……っ!!」

涼子は慌てて急ブレーキをかける。
自分まで禁止エリアに侵入してしまっては、間抜けにもほどがある。

涼子の足元に、ごろごろとサーディの首が転がってきた。
その顔は狂気の笑顔を浮かべていた。

涼子さん、再びビビる。

「……何てこったい……さすがにハードすぎでしょ、これは……」

顔を引き攣らせて呻く涼子。

「……で、涼子さんはこれからどうするべきかな」

涼子は考える。
サーディの様子を見る限り、錯乱していたのは間違いない。
あの場にいたモンスターの仲間の二人……十中八九、彼女たちが何かしたせいだろう。

(どうやったら、こんな風に人間を狂わせることができるってのさ……。
 ひょっとして、残してきた二人のほうがあの子よりもヤバい相手だったってオチか?
 何にせよ、急いで離れたほうが良さそうだね……)

涼子は、危険な相手とは極力関わる気は無い。
モンスターの仲間は思った以上に手ごわい相手だった。
サーディも死んでしまったし、わざわざ危険な戦いを続ける必要もないだろう。

サーディの荷物を回収しようと思ったが、走っていた勢いもあって、
サーディの身体とデイパックは禁止エリアの奥のほうに倒れている。
ならば、首くらいは回収して埋めてやろうと涼子は考えたが、首も身体と同じく
禁止エリアの中だった。

「……しゃーない、諦めるか……」

溜息を吐く涼子だが、ふと足元に首飾りが落ちているのに気がつく。

「……サーディの首飾りか……まぁ、形見として持っていってもいいよね。
 高く売れるかもしれないし。……ごめん、嘘。化けて出ないで」

サーディに謝りつつ、涼子はしばらくサーディに黙祷を捧げた。
そして、踵を返してその場を離れる。






涼子がなぞちゃんのところへ戻ると、やはりなぞちゃんは死んでいた。
右腕を伸ばしたまま苦悶の表情を浮かべているところを見ると、
よほど苦しんだのだろう。
少しバツが悪くなる涼子だったが、自分を殺そうとしてきた相手だし、
まぁ自業自得だろうと思っておいた。

とりあえず、死者への礼儀として黙祷を捧げた後、目を閉じさせてやる。

「……来世は普通の女の子に生まれなよー?」

そう言って、なぞちゃんのデイパックを回収した涼子はその場から立ち去って行った。






こうして、彼女たちの邂逅は終わった。

異星の友を持つ女は、仲間の仇を討って果てた。
記憶を失った少女は、苦痛と孤独に苦しみ死んでいった。
悪魔を宿した少女は、狂気に溺れてその身を滅ぼした。

生き残ったのは、霊能力者と遺跡荒し。

殺し合いの地獄は、まだまだ続く。








【サーディ@アストラガロマンシー 死亡】
【なぞちゃん@アストラガロマンシー 死亡】
【残り27名】


【C−3:X1Y1/森/1日目:午後】

【天崎涼子@BlankBlood(仮)】
[状態]:中疲労、左腕に中程度の切り傷(水とハンカチで処置済み)
[装備]:ルカの双刀(一本)@ボーパルラビット
[道具]:デイパック、支給品一式×4(食料のみ23食分)
    エリーシアの剣@SILENTDESIREシリーズ
    防犯用カラーボール(赤)x1@現実世界
    ライトノベル@一日巫女
    怪しい本@怪盗少女
    カザネの髪留め@まじはーど
    銘酒「千夜一夜」@○○少女、
    眼力拡大目薬×3@リョナラークエスト
油性マジック『ドルバッキー(黒)』@現実世界(新品、ペン先は太い)
たこ焼きx2@まじはーど(冷えてる)
クマさんクッキーx4@リョナラークエスト
運命の首飾り@アストラガロマンシー
[基本]:一人で行動したい。我が身に降りかかる火の粉は払う。結構気まぐれ。
    でも目の前で人が死ぬと後味が悪いから守る。
[思考・状況]
1.お宝を探す
2.そろそろ奈々も探してみる
3.モンスターとその仲間を警戒

※運命の首飾りの用途に気づいていません。
※ナビィ、クリス、明空、伊予那、なぞちゃん、エリナをモンスター、
 もしくはモンスターの仲間だと思っています。
※アーシャの剣はルカの双刀に真っ二つにされて使い物にならなくなりました。



【サーディ@アストラガロマンシー】
[状態]:死亡
[装備]:無し
[道具]:競技用ボウガン@現実世界(正式名:MC-1、矢2本、射程30m程度)
デイパック、支給品一式(消耗品は略奪して多めに確保)



【なぞちゃん@アストラガロマンシー】
[状態]:死亡
[装備]:四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:無し








[4]投稿者:289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/12(Sat) 13:57 No.434  
だからなげぇよ、俺……(´・ω・`)
[5]投稿者:『凸凹 その1』289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/19(Sat) 14:54 No.438  

「ぐ……う……!」

リョナたろうは呻きつつ身を起こした。

「……ここは……?」

リョナたろうは気絶する前の状況を思い出そうとしたとき、
横合いから声が掛けられた。

「……起きたんだ」

その声に振り向くリョナたろう。
そこには……。

「……よう、生きてたか」
「そっちもね……ていうか、ここにいるなんて思ってなかったけど……」

頭部に一対の小さな角が生えた少女……見慣れた忌み子の姿があった。








リゼとエマが出会ってから情報交換をした後、
二人はリゼが言うお姉ちゃん ―― 萩の狐を殺した青い髪の女性を
放っておくわけにはいかないという結論に至った。
そして、現在二人はその女性を追って、東へと森を進んでいる最中だった。

「殺し合いに乗った人を放っておくわけにはいかないからね!
 大丈夫だよ、リゼ!今度は私もついてるし、大船に乗った気でいてよ!」
「う……うん……ありがと……」

正確には先に手を出したのは伊織を殺したリゼであり、青い髪の女性 ―― 涼子は
あくまで正当防衛だったのだが、涼子への憎しみがかっていたリゼは心の中でエマに
謝りながらもそれについては黙っておくことにした。

(それに……最初は殺すつもりがなかったみたいだったのに、
 私が忌み子だって知ったらあの女は私を殺そうとした……)

それはつまり……涼子に出会ったら、エマも危ないということなのだ。

ならば、どちらにせよリゼとエマにとっては涼子は敵ということである。
特に訂正する必要も無いだろう、とリゼは心中で自分の行いを正当化していた。

人間を無闇に殺しまわるつもりはもうない。
だが、あの女だけは許すつもりなど微塵もなかった。

(……絶対に殺してやるから……)

胸中を冷たい殺意に満たしながらも、リゼは考える。

(……でも、本当に私たちであの女に勝てるのかな?)

エマは強い。
少なくとも先ほどの戦闘から考えて、萩の狐よりずっと強いのは確かだろう。

だが、それでも……その力は萩の狐を殺したあの女に太刀打ちできるほどのものだろうか?

(……ううん、そんなこと考えても仕方ない……)

リゼは考える。

この殺し合いが最後の一人になるまで続くものである限り、
あの女はいつか必ず壁となって立ちはだかる。

エマたちは、最後には回生光のラクリマによってこの殺し合い自体を
無かったことにするつもりだ。
だが、それもリゼかエマ、もしくはエマの仲間が生き残ってこそのことだ。

それを考えるなら、障害となるあの女はできるだけ早いうちに殺しておくべきだ。
もしエマの仲間が殺されるようなことがあったら、ただでさえ少ない自分たち忌み子の
仲間がさらに少なくなってしまう。

それだけは避けなければならない。

「……リゼ?聞いてる?」
「……え?な、何?」

エマから呼びかけられていることに気づき、リゼは慌てて聞き返す。

「もー、ちゃんと聞いてなよ?
 このまま進むともうすぐ湖が見えてくるみたいだからさ、
 ちょっと水浴びしていかないって言ったんだよ」
「あ……うん、そうだね。私たち、けっこう汚れてるし……」

そう言って、改めて自分とエマの姿を確認する。

リゼは今までの戦闘から、エマは狩りやリゼとの諍いから
あちこちに傷や血の跡がついていた。

曲がりなりにも、二人とも女の子である。
そういったものは気になるし、せっかく湖の近くに来たのだから、
身体の汚れを洗い流しておきたいと思うのも当然だろう。

そんなわけで、リゼとエマは湖へと向かうことにした。

だが、そう決めた直後……。


ぴきぴきぺきぱきぃっ!!!


いきなり前方から何かが凍りつく音が響いてきた。
それと同時に、強大な魔力の奔流が二人を襲った。

「ひっ……!?」

その魔力のあまりの凄まじさにリゼは怯えてぺたんと尻もちをついてしまう。

「これは……まさか、リネルの……!?」

一方、エマはその魔力に覚えがあり、驚愕の表情で呟いていた。

それは宿敵である、ロアニーの幹部リネルが放つ魔力と同じもの。
以前にナビィ、オルナとともに闘い、なんとか撃退はできたものの、
リネルのその恐ろしい強さはエマの心に刻みつけられていた。

(どうしよう……今はナビィもオルナもいないのに……!)

怯えたリゼの様子を見る限り、満足に戦えるとは思えない。
この状態でリネルと出会った場合、実質エマ一人で戦うことになるだろう。

その場合の勝率など考えるまでも無い……ゼロだ。

(早く逃げないと……!)

そう思ったエマ。
だが、ふとあることに思い至った。

今リネルと戦っているのは、誰なのか?
リネルがあれだけ大規模の魔法を放つということは、
よほどの強敵か、もしくは憎き仇敵のどちらかだろう。

だとすると……今、リネルと戦っているのはナビィやオルナかもしれない。
そう考えたら、逃げるわけにはいかなくなった。

「……聞いて、リゼ。今の魔力の持ち主は私の敵かもしれない。
 そして、今その敵と戦っているのは私の仲間かもしれないの……」

エマが語る言葉を、リゼは驚いた表情で聞いている。

「……私、今からそれを確かめてくる。
 だから、リゼはここで待ってて……」
「……わ……私も行く!」

リゼに待っているように言おうとしたエマだが、リゼの言葉を聞いて
驚いた顔を見せる。

「で……でも、危険だよ?
 それに、本当に私の敵や仲間がいるとは限らないし……」

だが、エマの言葉にリゼは首を横に振る。

「危険、なんでしょ……?
 だったら、エマ一人に行かせられないよ……。
 私……せっかく自分と同じ境遇の人を見つけられたのに、
 またいなくなっちゃうのはやだよ……!」

萩の狐は死んでしまった。
この上、エマまで失ってしまうのはリゼには耐えられないのだ。

「……うん……分かった……」

リゼの気持ちが理解できたエマは、もうリゼを止める気などなかった。

「……一緒に行こう、リゼ!」
「……うん!」

そして、二人の少女は共に戦いの現場へと向かった。
だが、その後すぐに……。

「あ゛ーあ゛ー、てすてす。・・・ふぅ、ようやく繋がった。
 ったく、そろそろコレ買い換えないといけないなぁ。」

少女たちの勢いを砕くかのように放送が響いてきた。
足を止めて聞き入る二人。

そして……。

「……嘘……オルナ……!」

残酷な事実がエマに伸しかかった。







[6]投稿者:『凸凹 その2』289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/19(Sat) 14:57 No.439  

「エ……エマ……」

俯くエマに、リゼが恐る恐る声をかける。

「……大丈夫だよ。心配しないで、リゼ」

エマは数秒間答えずに俯いていたが、
すぐに顔を上げて弱々しいながらも笑みを見せた。

「リゼにも言ったでしょ?
 私たちは回生光のラクリマを使って、このゲームを
 無かったことにするんだって……。
 最後にはオルナもリゼのお姉ちゃんも生き返るんだから……。
 だから、大丈夫……」

心配しなくてもいい。
エマはリゼにそう告げて、リネルがいるであろう場所へキッと視線を向けた。

「こんなところで立ち止まってるわけにはいかないよ……!
 ひょっとしたら、この先にはナビィがいるかもしれないんだ……!
 もしそうなら、早く行って助けてあげないと……!」

そう言って、再び走り出すエマ。
慌てて、リゼもそれを追いかけて行った。







「……す……すごい……何これ……!?」
「……とんでもないヤツだって分かってたけど、ここまでなんて……!」

辺り一帯が氷の世界と化した森の中で、リゼとエマはただ圧倒されるしかなかった。

あまりにも桁の違う魔法の威力と規模。
こんなものを見せつけられては、先ほど固く覚悟した決意の念も揺らぎを見せてしまう。

「……リネルは……もういないみたいだね……」
「う……うん、良かった……じゃなくて、良くないのかな……?」
「ん〜……まあ良かったんじゃないかな?
 リネルと戦ってるのがナビィなら一緒に戦おうと思ってたけど、
 戦ってたのはこのトカゲみたいだし……」

そう言って、氷漬けとなったリザードマンをコンコンと叩くエマ。
どうやら、リネルはこんなトカゲにこれだけの大規模な魔法を放ったらしい。

ここまでするとは、よほどこのトカゲが腹に据えかねるようなことを
仕出かしたのだろうか?

考え込むエマだったが、ふとリゼのほうを見ると顔を青くしていた。
どうやら想像以上に強大な敵の実力に怖気づいているらしい。

「……まぁ、もう終わったことみたいだし、
 考えても仕方ないって!それより、湖行こうよ!」

リゼを励ますように、エマは笑顔でリゼの手を引っ張って湖へと向かう。
リゼはそのエマの笑顔が少し強張っており、手が若干震えていることに気がついた。

(……やっぱり、オルナさんが死んじゃったのが辛いんだ……)

当然だと思う。
リゼも姉と慕った萩の狐が死んだときはすごく辛くて悲しかった。
リゼもまだ立ち直れたわけではないが、エマが自分と同じ苦しみを味わっているのなら、
それを支えてあげたいと思う。
そう考えたリゼの瞳からは先ほどの臆病な心は感じられなかった。

自分にどれだけのことができるのかは分からないが、自分に希望を与えてくれたエマには
できる限りの恩返しをしたい。

リゼはそう思って、エマの手を強く握り返した。







だが、湖に着いた直後にリゼはそんなことを考える余裕が吹っ飛んだ。

なぜなら、そこにはリゼのことを奴隷と言って虐めてくる変態野郎が
今にも死にそうな顔で倒れていたからである。

(……元々全体的に灰色っぽいヤツだったけど、今は顔色が白いせいで
 余計に灰色っぽく見えるなー……)

リゼはそんなどうでもいい感想を抱きつつ、冷めた眼で無様な格好の
死に損ないを見下ろしていた。

「た……大変だよ、リゼ!あの人、このままほっといたら死んじゃうよ!」
「…………」

エマの慌てた声に、リゼは答えずにトコトコと変態の前まで近付いていき……。


思いっきり、頭を蹴り飛ばしてやった。


「ぐほっ……!?」

鈍い音とともにくぐもった呻き声を上げる変態。
そのザマに満足気な表情を浮かべるリゼ。

「えっ、ちょっ……リゼ!?」
「気にしないで、エマ。日頃の恨みをぶつけただけだから」

エマに笑顔を向けながら、リゼは言う。

(……ひぅ……!)

その笑顔にビビるエマ。
エマが初めて見たリゼの笑顔は、意外と怖かった。






そして、話は冒頭に戻る。


意識を取り戻したリョナたろうは食事を取りながら
リゼたちと情報交換を行っていた。

「……じゃあ、リョナたろうは本当に殺し合いに乗って無いんだね?」
「しつこいぞ、お前!そんなに俺が信用できないのか!?」
「できない」
「よし、お前泣くまでボコるわ」
「その身体で?今ならカラミティ無しの私でも勝てそうだけど?」
「……後で絶対ボコる。失禁するまでボコる」
「エマ、こいつ置いてっちゃおうよ」
「サーセン、僕が悪かったです!見捨てちゃイヤン!」
「……キモイ」
(耐えろ、俺!ここでいつもと同じ態度を取ったら、
 マジで見捨てられるぞ!)

拳をぶるぶる握り締めながら、怒りを堪えるリョナたろう。
エマはそんな二人を見ながら、笑う。

「あはは、二人とも仲良いんだねー」
「どこ見てほざいてんの?馬鹿なの?」
「目が腐ってるの?死ねばいいのに」
「ひどっ!?リゼまで!?」

シビアな対応に仰け反るエマ。

その後、無駄な時間を取りつつも何とか情報交換は終了した。

「んじゃ、確認するが……探す人物はナビィ、カナリア、オーガ、モヒカン。
 警戒するのはゴート、リネル、短髪ハンマー女、青い髪の女、桃色の髪の女、モヒカン。
 以上で問題ないな?」
「……なんで、モヒカンって人は両方に入ってるの?」
「さっき話したろ?仲間だが、悪人だからだ。
 俺の仲間だと言えば、(たぶん)協力してくれるはずだ」
「本当に、それで大丈夫なの?」
「ああ、(正直不安だが)絶対に大丈夫だ」

自信たっぷりに根拠の無い保障を口にするリョナたろう。
それを半眼で見つめるリゼ。無視するリョナたろう。

「……さて、まずは休憩できる場所に行くぞ。
 はっきり言って、このままじゃ俺の身がもたん」
「……軟弱者」
「はっはっは、忌み子この野郎」
「ほら、二人ともじゃれてないでさっさと行くよ?」

呆れつつ、リョナたろうとリゼを促すエマ。

「まぁ待て。おいリゼ、もう一個パンくれよ」
「……いい加減にしてよ。何個食べるつもり?」
「うっせー、俺は力吸い取られたせいでめちゃくちゃ腹減ってんだ!
 もっと食いもん寄越せ!」
「イヤ」

ギャーギャー喚いてる二人を見て、これはしばらくかかりそうだと
思ったエマは溜息を吐いて、近くの切り株に腰を下ろした。








【C-3:X1Y3/森/1日目:真昼】

【リョナたろう@リョナラークエスト】
[状態]:疲労大、頭にコブ、魔力消費小
[装備]:氷のナイフ(リゼにもらった)@創作少女
リョナたろうの鎖帷子@リョナラークエスト
[道具]:無し
[基本]:主催者を倒す、女の子を襲う
[思考・状況]
1.リゼ、エマと行動(しばらくは大人しくしておく)
2.体力の回復
3.オーガ、モヒカンを探す
4. 主催者を倒すための仲間集めを考える
5. 女の子を襲う
6.リネルを絶対にリョナって殺す
7.リゼは後で泣かす

※リョナたろうの使える魔法は「サーチ」です。
※必殺は「魔弾の力」です。
※桜を爆破の能力、もしくは道具を持つマーダーと認識しました
※失った体力を取り戻すため、大量に食事を取りました。(3食分)



【リゼ@リョナラークエスト】
[状態]:健康
[装備]:フレイムローブ@リョナマナ
[道具]:デイパック、支給品(食料2/6・水2/6)
    メイド3点セット@○○少女
[基本]:生き残る、人間は殺せるなら殺す。
[思考・状況]
1.リョナたろう、エマと行動する
2.リョナたろうは一応信用する
3.人間は死ねばいいのに、と思うが、エマとのこともあり多少は相手を選ぶ
4.カラミティは決め手に使用(不用意に使わない)
5.涼子、リネルを殺す



【エマ@リョナマナ】
[状態]:切り傷多数(応急処置済み)、軽症
[装備]:投石@バトロワ世界
[道具]:ウインドの薬箱@リョナラークエスト
    即席の矢@バトロワ世界(10本 弓なし)
    デイパック、支給品(食料5/6・水4/6)
[基本]:生き残る、仲間を探す
[思考・状況]
1.リゼ、リョナたろうと行動する
2.ナビィ達と合流する
3.オーガ、モヒカンを探す
4.リネル、涼子を倒す


※水浴びはリョナたろうが気を失っている間に済ませました。








[7]投稿者:『溺れる者は……』289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/20(Sun) 20:16 No.440  

焼け焦げた大地、そして巨大な穴が開けられた大木。
エルフィーネの強大な魔法により、辺り一帯は焦土と化していた。

それをなした張本人であるエルフィーネ。
しかし、彼女はこの恐ろしい事態を引き起こした当人はそれを成したときとは
別人のような無気力な様子を見せていた。
だらんと地面に腰を下ろしたまま、彼女は一時間近くその場から動いていなかったのだ。

(私は……これからどうすれば……)

美咲を……大切な人を失った。
そして、大切な人を奪った憎い仇への復讐も果たした。

では、これから自分はどうすればいいのか?

エルフィーネはすでに生きる希望すら無くしており、何をするにもただ億劫だった。
鬱蒼とした森の中で力の抜けた様子で地面に座るエルフィーネだったが、
ふとシノブとロシナンテの会話を思い出していた。

『心配するな・・・死ぬのは・・・初めてじゃない・・・。』
『はっ!? ど、どういう、意味だよ・・・!!』
『私は・・・既に一度・・・死んでいるんだ・・・。』
『なに・・・言ってんだよ・・・冗談は・・・よせって・・・!!』
『冗談ではない! 私はこの世界に来る前、勇者と名乗る者達と戦い、一度殺されているのだ・・・。』
『なん・・・だって・・・!?』

その会話の内容を思い出したエルフィーネは目を見開いた。

「ちょっと待ってよ……?ロシナンテは一度死んでいた……もしこれが本当なら……!」

ロシナンテの言っていたことが事実なら、彼女は生き返らされた状態でこの殺し合いに
参加させられていたことになる。

それはつまり……。

「主催者には……あのキング・リョーナと名乗る男には、死者を蘇らせる力がある……!?」

そう、ロシナンテが誰かに蘇らせられたのだとしたら、それはこの殺し合いの主催者である
キング・リョーナが蘇らせた可能性が一番高い。
もし蘇らせたのが彼で無くても、全くの無関係ということは無いだろう。

「もし……もし死者を蘇らせることが可能なら、美咲も……!」

エルフィーネの顔は生きる気力を失っていた先ほどとは打って変わり、
その瞳には希望が芽生えていた。

命を失ってしまった大切な人を生き返らせることができるかもしれない可能性を
見つけることができたのだ。
絶望の中に一筋の光明が見えたのだから、今の様子も無理からぬことであろう。

もちろん、エルフィーネは死者が蘇ったというような世迷言を100%信じているわけではない。
いや、普段の彼女ならば考える必要もなく斬って捨てるような考えだっただろう。

だが、今のエルフィーネは鬼龍院 美咲というかけがえの無い存在を失ったことで絶望していた。
そんなとき、目の前に希望の糸が垂らされたのだ。
たとえ、その糸がどんなに細く頼りないものであったとしても、それ以外に縋るものが
無かったとしたら、人はそれに縋りつくのだ。

溺れる者は藁をも掴む。

エルフィーネにとって、美咲のいない世界など考えられなかった。
もし美咲を生き返らせることのできる可能性があるとしたら、
エルフィーネはそれを叶えるためには手段を選ばない。

エルフィーネは幼い容姿に凄絶な笑みを浮かべて呟く。

「そう……そうよ……!もしあの男が美咲を生き返らせることができるのなら……
 この場の全員を殺して私が優勝すれば、願い事で美咲を生き返らせることができる……!」

ヤツは優勝者には一つだけ願いを叶えるといっていた。
つまり、優勝すれば美咲を生き返らせることができるかもしれないのだ。

もしヤツが願い事を叶える気など最初から無かったとしても、問題無い。
キング・リョーナが人間を生き返らせる能力があるのなら、何が何でも美咲を
生き返らせるように脅しつけるなり拷問するなりして従わせればいいのだ。

「やることは決まったわ……!私はこの殺し合いで……優勝するっ!!」

エルフィーネは決断した。
自分はこの殺し合いに優勝する、と。

「……さて、そうするとまずは魔力の回復ね。
 あんなクズに全力を使ってしまったせいで、私の魔力は現在ほぼゼロ……。
 危険はなるべく避けて、慎重に行動する必要があるわ」

エルフィーネは立ち上がり、行動を開始しようとした。

だが、ふと視界の端に何かが映る。
そちらに目をやると、人間らしき影が倒れているのが見えた。

近付いて確認してみると、今の自分とそう年の変わらない少女が右腕を失い、
顔に大火傷を負って死んでいた。

「私の魔法に巻き込まれたのね……悪いけど、謝りはしないわよ。
 私は美咲を生き返らせるために優勝するんだから……」

だが、エルフィーネはこの少女に強い魔力を感じ取った。
すでに死亡していることから、その身体からは魔力が霧散し始めているが、
今ならある程度の魔力補給が可能かもしれない。

「使えるものは何でも有効に活用しないとね……」

エルフィーネはロザリオをかざすと、少女の身体に残った魔力を根こそぎ奪い取った。
半分以上の魔力がロザリオに補給され、エルフィーネは満足気に笑みを浮かべる。

そして、エルフィーネは少女のデイパックを回収すると安全に休憩できる場所を
求めて行動を開始したのだった。






【リネル@リョナマナ 死亡】
【残り26名】

【D−3:X1Y4/森/1日目:午後】

【エルフィーネ@まじはーど】
[状態]:所々に軽い擦り傷の痕、精神疲労中、魔力60%
[装備]:ロザリオ@まじはーど
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料24食分、水24食分)
    モヒカンの替えパンツx2@リョナラークエスト(豹柄とクマのアップリケ付きの柄)
怪盗の心得@創作少女
弓@ボーパルラビット
聖天の矢×20@○○少女、
赤い札×9@一日巫女
弦の切れた精霊の竪琴@リョナマナ
レイザールビーのペンダント@現実世界
木人の槌@BB
サングラス@BB
ラブレター@BB
切れ目の入った杖(仕込み杖)@現実過去世界
ラウンドシールド@アストラガロマンシー
ファルシオン(曲刀)@現実過去世界
首輪探知機@バトロワ(破損、首輪の反応の有無のみ判別可能)
[基本]:優勝して、美咲を生き返らせる
[思考・状況]
1.魔力を回復する

※とりあえず初めて出会う相手にはエルと名乗ることにしています



【リネル@リョナマナ】
[状態]:死亡
[装備]:血染めの布巻き(ボロボロ)、エルブンマント(通常服装、ボロボロ)
[道具]:無し






[8]投稿者:「蒼い涙、黄金色の涙」その1 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/12/23(Wed) 02:24 No.442   HomePage
ジリジリと、蝉の鳴き声が響き渡る。
湿った地面から水分が蒸発し、陽炎を描く。
そんな森の中を、二人の女性が足早に進んでいた。

「シ、シノブちゃん! 気持ちは分かるけど、闇雲に進んでも・・・わぁっ!」
「ダァイジョブ! アタシに任せてよ、アーシャねえ!」

アーシャの心配する声を腕を引っ張って中断させ、シノブは自信に満ちた声で答えた。

「(・・・シノブさん。 私にはこの方角からエルフィーネさんの魔力や気配は感じられないのですが、いったいどうしてこの方角と?)」

マインはシノブに尋ねる。
自分よりも察知能力の劣るシノブの、自信に満ちた態度を不思議に思ってのことだった。
シノブは少しの間を置いて応える。

「(・・・勘さっ。)」
「(――なっ!! そ、そんな、そんな根拠のないっ・・・!)」

マインの言葉を小さな咳払いで遮って、シノブは言葉を続ける。

「(エルは・・・。 エルならきっと、この方角に向かうって思ったんだ。)」
「(ど、どうして・・・そんなことが・・・!?)」
「(”思った”・・・じゃないな。 ・・・”信じてる”だ。)」
「(・・・し、”信じてる”?)」
「(うん、アタシ、エルならこの方角に向かうって信じてる! だから、この方角に行くんだ。)」

暫しの沈黙の後、溜め息混じりにマインは応えた。

「(・・・了解です、シノブさん。 ですが、無理だけは絶対にしないでくださいよ?)」
「(・・・分かってるよ。 無理はしな・・・)」

その時だった。
進む方向とは逆に腕を強く引かれ、シノブは大きく体勢を崩した。
倒れ込むシノブを力強く抱きとめたのは、今までシノブに腕を引かれていた女性だった。
彼女はそのままシノブに覆い被さるように地面に倒れこんだ。

――ズドオォッンッ!

直後、爆発音。
大地を揺るがし、空間を吹き飛ばす轟音が二人を襲った。

「――シノブちゃんっ! 大丈夫!?」
「ア、アーシャねえ・・・。」

シノブに覆い被さっていた人物、アーシャが素早く立ち上がってシノブに手を差し出す。
シノブは差し出された手を掴んでゆっくり起き上がった。

「突然引っ張たりしてごめん、凄く嫌な予感がしたんだ。」
「うん、分かってるさ。 ・・・ありがと、助かったよアーシャねえ♪」

軽く頭を下げようとするアーシャを手で制して、シノブは笑顔でお礼を言った。

「(シノブさん・・・。)」
「(・・・エル、だろ?)」
「(はい・・・。 先ほど衝撃から、エルフィーネさんの魔力が感じられました・・・。)」

マインの歯切れの悪い言葉に、シノブは溜め息混じりに応える。

「(・・・言いたいことがあるなら、言えって。 リト。)」

シノブに促されるように、マインは尋ねた。

「(・・・本当に、勘なのですか?)」
「(なにが?)」
「(エルフィーネさんがこの方角に居ると・・・本当はなにか確実な・・・)」
「(・・・リト、あんたにも親友って居るんだろ?)」

マインの言葉を遮り、シノブは問い掛けた。
マインは一息ついてから答える。

「(・・・はい。 アリアさん、イリスさんは私の大切な・・・)」
「(親友が困ってる時に、傍に駆けつけたいって思うのは、当然だろ?)」
「(・・・ですが、シノブさんには、遠く離れた相手の居場所を掴む術は・・・)」
「(そりゃ、アタシには、いや地球人にはリトのような”テレパシー”だとかできねぇよ。 でもな・・・。)」

シノブは一度大きく深呼吸して、言葉を続ける。

「(そんなもんなくても、感じることぐらいできるんだっ。 ・・・大切な親友【とも】のためなら!)」
「(シ、シノブさん・・・。)」
「(・・・人間、ナメんじゃねえぞ?)」

その言葉を最後に、二人の間に長い沈黙が訪れた。

(・・・私が・・・浅はかでした。)

マインは自分の中に無意識に芽生えていた思いあがりとも言うべき感情に失望した。

(戦う術もなく、身体能力も劣っていて、テレパシーすら使えない、地球人とはひ弱で不憫な生物・・・。 だから私がしっかりと導いて行かなくては・・・だなんて・・・!)

自らの肉体があれば、拳を割れんばかりに強く地面に叩きつけていただろう。
マインは悔しさと悲しさで胸がいっぱいになっていた。

「(こぉらっ! リトッ!)」
「(――はひぃっ!?)」
「(まぁた、そうやって悩むっ! ダイジョブ、アタシに任せとけって!)」
「(シ、シノブさん・・・。)」

シノブは少し恥ずかしそうに俯きながら言葉を続ける。

「(だからよ、もっとかるく行こうぜ?)」

シノブの言葉に胸が熱くなっていくのを感じたマインは、泣きながら応える。

「(あ・・・ありがとう・・・ございます・・・シノブさん・・・!)」
(シノブさん・・・私は・・・貴女と会えて・・・本当にっ・・・!)
「ばっ、バカ、泣くなって!」
「えっ? どうしたの、シノブちゃん?」
「へっ!? あっ!! いや、な、なんでも・・・アハハハッ・・・。」

アーシャの不思議そうな視線を乾いた笑い声で誤魔化し、シノブは先を急いだ。
アーシャはシノブの慌てぶりを不思議に思いつつも、慌てて彼女の後を追った。

〜〜〜〜

(休憩場所・・・どうしたものかしら・・・。)

放置することに何故か違和感を感じて、仕方なく少女の死体を地中に埋めたエルフィーネは一人悩んでいた。

(この姿では、さほど遠くへはいけない・・・。 と言って此処では目立ち過ぎる・・・。)

あれだけの轟音だ。
様子を見に来る者が居てもおかしくはない。
それでも、この場が周囲と同じ状況であればそれでも隠れてやり過ごせただろう。
しかし、此処は既に開けた焼け野原に変わっている。
この異様な光景を見て、その原因を探ろうとしない者はそうはいないだろう。

(変身してこの場を離れる? ・・・ダメね、魔力を無闇に使うことはできないわ。)

変身して移動すれば確かにすぐに離れることはできるだろう。
しかし、明確な行き先もなければその後、安全に休憩が取れる保障はない。
そんな無計画な行動に貴重な魔力を費やすのは、投資ではなく浪費である。

(・・・私は、生き延びなくてはいけない。 絶対に生き延びて、美咲を・・・!)

その時だった。

「――ひゃっ!?」

突然、デイパックから小さな電子音が鳴り、エルフィーネはあられもない悲鳴をあげた。
誰にも見られていないのに、エルフィーネは何故か恥ずかしさを感じた。
エルフィーネは大きく一度咳払いをして気を取り直すと、電子音の主を探し出した。

「・・・これは?」

電子音の主、それはエルフィーネの手には少し大きな円盤状の機械だった。

(前に美咲の家でみた、ボール集め漫画に出てきた道具にそっくりね・・・。)

エルフィーネは機械をクルクルと回してスイッチを探した。
機械の正体がなんであれ、音が鳴り続けられては困るからだ。
円盤の側面にいくつかスイッチらしき物を発見したエルフィーネは、当てずっぽうにスイッチを押してみた。

「止まった・・・わ・・・っ!?」

エルフィーネは人の気配を察して近くの木陰に身を潜めた。

「エルーっ! 何処だぁーっ! 居るんだろー! 出てきてくれー!」
「エルー! 何処に居るのーっ!」

直後、よく見知った人物の大声が聞えた。

(シ、シノブ・・・!? アーシャも・・・!?)

あの二人のことだから、きっと追いかけてくるとは思っていた。
しかし、こんなにも早く会うとはエルフィーネは思ってもいなかった。

(・・・ふふふ、丁度・・・いいわ・・・!)

エルフィーネはゆっくりと二人の声がする方へと歩き出す。

(あの2人なら・・・私を守ってくれる・・・。)

あんな別れ方をしては、普通ならば愛想を尽かれて見捨てられるはずだ。
しかし、あの2人は別だ。
あの2人が愛想を尽かすと言うことは絶対にない。

(だって、あの2人は・・・異常なまでにお人好しだものっ!)

エルフィーネはほくそえんだ。
[9]投稿者:「蒼い涙、黄金色の涙」その2 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/12/23(Wed) 02:25 No.443   HomePage

〜〜〜〜

「――エルッ!!」

エルフィーネの姿を見つけたシノブとアーシャは、彼女の元へと駆け寄った。

「・・・アーシャ、シノブ。」
(フフッ・・・。 さて、冷たい言葉の一つや二つぐらいは、出てくるかしら?)

エルフィーネはゆっくりと顔をあげる。
その直後、乾いた音が一発。
小さく、しかし圧倒的存在感を放った音が、エルフィーネの頬を襲った。
予想だにしなかった状況に、エルフィーネは呆然と立ち尽くすしかなかった。

「シ・・・シノ・・・ぅわっ!?」
「なんで逃げたんだっ!! エルフィーネッ!!」

シノブは、頬を押さえて立ち尽くすエルフィーネをきつく抱きしめて怒鳴った。

「先輩がっ! ミサっちがっ! 殺られた時っ! アタシはなにも、してやれなかったっ!!」
「シ、シノブ・・・。」
「悔しかったっ!! 抗うことさえできなかった、アタシの力の無さが悔しかったっ!!」
「い、痛いって、ちょっと・・・ねぇ・・・。」

エルフィーネはシノブの腕の中から脱出しようと、もがきだした。
しかし、子供の姿のままではどうすることもできず、ただじたばたとするだけだった。

「もう、あんな思いをするの、イヤなんだっ!! だから、エルッ!! あんたは・・・傍に居てくれっ!!」
「ぇっ・・・。」

シノブの言葉に驚き、エルフィーネは動きをとめた。

「あんたになんかあった時、アタシに、親友【とも】として抗わせてくれっ!! エル・・・フィーネ・・・ッッ!!」
「シ・・・シノブ・・・!!」

シノブはエルフィーネの肩に手を置き、ゆっくりと引き離す。
エルフィーネは俯き、呟くように問い掛けた。

「・・・あたしは、ロシナンテを殺したんだよ? シノブの親友の、ロシナンテを殺して、シノブも殺そうとしたんだよ?」
「分かってる。 だから、一緒に背負うんだ。」
「一緒に・・・背負う・・・?」
「アイツの分も、それから・・・あんたが殺ったヤツの分も、生き抜くんだ。」
「!!」

エルフィーネの身体が大きく撥ねた。
シノブは涙でぐちゃぐちゃの顔を笑顔にして口を開いた。

「なーに、驚いてるんだ・・・。 あんたのことだから、もう・・・しまったんだろ?」
「そこまで、分かっていて・・・。 背負うと、いうの? 貴女一人で・・・?」
「・・・シノブちゃん一人じゃない、私も居るよエル。」
「アーシャ・・・。」「アーシャねえ・・・。」

二人の後ろに立ってことの成り行きを見守っていたアーシャが、笑顔で口を挟んだ。
暫しの沈黙の後、エルフィーネが呟く。

「・・・バカよ、貴女達。」
「エルフィーネ・・・。」
「そんなことしても・・・。 貴女達に、なんの得もないのよ。 それなのに・・・ホント・・・ホントに・・・!!」

エルフィーネはシノブの胸に飛び込んで叫ぶ。

「バカなんだからぁぁぁっ!!」

〜〜〜〜

あれから暫く、数え切れないほど『バカ』と泣き叫んだエルフィーネは、シノブに背負われていた。
本当はアーシャが背負うつもりだったが、シノブが自分が背負うと言って聞かず、彼女が背負っていた。

(・・・本当に、バカよ貴女達。)

シノブの背中にもたれ、エルフィーネは一人心の中で呟く。

(魔力が回復するまでの、隠れ蓑に使われるだけだと言うのに・・・。)

シノブの背中から伝わる、熱い体温を身体いっぱいに感じながら。
エルフィーネは薄くほくそえむ。

(私は絶対に生き延びる・・・。 そのためならば、貴女達を犠牲にすることに、なんの躊躇いもない・・・わっ!?)

その時だった。
エルフィーネの視界が滲み、エルフィーネは慌てて瞼をこする。
手の甲についた、冷たい無色の液体を見て、エルフィーネは思わず含み笑いを漏らした。

(・・・なんで、泣いてるのかしら? ・・・私は、私には・・・涙を流す理由なんてないのにっ!)

エルフィーネは人知れず、奥歯を噛みしめた。

(なんで・・・泣いているのか・・・教えてよ・・・美咲ぁっ!)

【D−3:X1Y4/森/1日目:午後】

【川澄シノブ&スピリット=カーマイン@まじはーど】
[状態]:健康(火傷の痕あり)、魔力十分
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    SMドリンクの空き瓶@怪盗少女
    あたりめ100gパックx4@現実世界(本人は未確認)
    財布(中身は日本円で3万7564円)@BlankBlood(本人は未確認)
    ソリッドシューター(残弾数1)@まじはーど(本人は未確認)
[基本]:対主催、”悪”は許さない、『罪を憎んで人を憎まず』精神全開中
[思考・状況]
1.アクアリウムへ向かい富永エリナと合流する
2.ロシナンテのためにも、なるべく大勢で元の世界へ帰る
3.鬼龍院美咲と神谷カザネを殺した”悪”は絶対に許さない

※アーシャを”アーシャねえ”と慕うことにしました。

【アーシャ・リュコリス@SILENT DESIRE】
[状態]:健康(所々に擦り傷や切り傷の痕あり)
[装備]:なぞちゃんの小太刀@アストラガロマンシー
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    デッキブラシ@La fine di abisso
    ヨーグルトx3@生贄の腕輪
[基本]:対主催、できれば穏便に済ませたい
[思考・状況]
1.川澄シノブとエルフィーネを守る
2.エリーが早まった行動をしていないか心配
3.どうにかしてエリーシアとクリステルに合流する

※彼女が案じていた女性の正体はミアですが、顔も名前も知りません
 但し、出会えれば気付ける可能性はあります
※銃=威力の高い大きな音のする弓矢のような物という認識をしました
※エルフィーネの要望に応え、彼女の変身については誰にも言わないことにしました

【エルフィーネ@まじはーど】
[状態]:健康(所々に軽い擦り傷の痕あり)、精神疲労小、魔力60%
[装備]:ロザリオ@まじはーど
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料24食分、水24食分)
    モヒカンの替えパンツx2@リョナラークエスト(豹柄とクマのアップリケ付きの柄)
    怪盗の心得@創作少女
    弓@ボーパルラビット
    聖天の矢×20@○○少女、
    赤い札×9@一日巫女
    弦の切れた精霊の竪琴@リョナマナ
    レイザールビーのペンダント@現実世界
    木人の槌@BB
    サングラス@BB
    ラブレター@BB
    切れ目の入った杖(仕込み杖)@現実過去世界
    ラウンドシールド@アストラガロマンシー
    ファルシオン(曲刀)@現実過去世界
    首輪探知機@バトロワ(破損、首輪の反応の有無のみ判別可能)
[基本]:優勝して、美咲を生き返らせる
[思考・状況]
1.改心したふりをして、アーシャと川澄シノブを利用する
2.でも無意識下では改心しているので、いざという時に利用できないかもしれない

※とりあえず初めて出会う相手にはエルと名乗ることにしています
[10]投稿者:『終わらぬ狂気 その1』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/23(Wed) 23:17 No.446  

リョナたろう、リゼ、エマは昏い街に辿り着いていた。
休憩する場所としては、近くでは昏い街が一番妥当だろうと考えたためだ。

「ようやくついたか……目の前の建物は宿屋のようだし、
 さっそく休むとするか。見張りは頼んだぞ、お前ら」
「死ねばいいのに」
「まぁまぁ、実際リョナたろうは疲れてるみたいだし、
 私たちはまだ元気なんだから、しょうがないよ」

三人はさっそく休息を取ろうと宿屋に入ろうとして……。

「あっ!?お前!?」

いきなり横合いから聞こえてきた声に、三人は振り向く。
そこには、街の探索をしていた桜、鈴音、八蜘蛛が立っていた。

「!」

リョナたろうは桜の姿を確認した瞬間、魔弾を放った。

「なっ!?くそっ!」

桜はそれをハンマーでガードしつつ、鈴音と八蜘蛛を庇うような位置を取る。

一方、リョナたろうが攻撃を行ったことにより、リゼとエマも桜たちから
距離を取り、警戒態勢を取っていた。

「……また会ったね、前髪」
「できれば会いたくなかったけどな、短髪女。
 ……てか、前髪ってひどくね?」

リョナたろうの抗議の声に答えず、桜は目を細めながら言う。

「アンタはやっぱり殺し合いに乗ってんだな。
 あのトカゲは私を助けてくれたってのに……」
「……は?」

桜の言葉に、首を傾げるリョナたろう。

「……リョナたろう、殺し合いに乗ってるってどういうこと?」
「……やっぱり嘘吐いてたんだ。死ねばいいのに」

エマ、リゼから疑惑の目を向けられ、リョナたろうは慌てる。

「い……いや、ちょっと待て!俺は(一応)嘘はついてないぞ!
 俺は殺し合いに乗ってないし、攻撃してきたのはあの女のほうだ!」
「嘘吐け!いきなりさっきの技で攻撃を仕掛けてきたのは、そっちじゃないか!」
「何言ってやがる!それよりも前に、お前が爆破の攻撃を仕掛けてきたんだろうが!」
「はぁ!?知らないぞ、そんなの!?」
「とぼけんじゃねぇ!!」

ギャーギャー言い合いを始める二人。
それに対して、他の4人は困惑する。

「……えーっと……ひょっとしたら、お互いに誤解があるのかもしれないよ?
 二人とも、少し話し合ってみない?」

鈴音の言葉に、黙る二人。

そして、お互いの情報交換が始まった。






「……つまり、あの爆破の攻撃はお前じゃなかったってことか?」
「だから、そう言ってるだろ。全部アンタの誤解だったんだよ」

桜の言葉に、むっとしたリョナたろうは言い返す。

「……まぁ、お前の話が本当だったらだけどな」
「お前、私が嘘吐いてるって言うのかよ!?」

今度は、リョナたろうの言葉に桜が怒りだす。

「ちょ……ちょっと、二人とも落ち着いてよ!?」
「そうだよ!こんなところで喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」

鈴音とエマが二人を止めようとする。
だが、二人の言い合いは止まらない。

「そういえば、お前デイパックをすり替えていったな?
 あれはどういうつもりだったんだ?」
「あ……あれは、私のと間違えただけで……!」
「どうだかな。中に変な道具が入ってたが、
 アレはお前が仕掛けた罠だったんじゃないのか?」
「!……いい加減にしろよ、この野郎!!」

とうとう切れた桜は、ハンマーを構えてリョナたろうと対峙する。
リョナたろうも氷のナイフを構え、桜の動きに警戒の姿勢を取る。

その様子に青くなる鈴音。
リゼとエマは呆れた視線を二人に向け、八蜘蛛は不安そうな面持ちを見せつつ
内心で二人を嘲っていた。



だが、一触即発と思われた両者の空気は次の瞬間、割って入った異物に
よって壊された。



ずしゅっ。



「……え……?」

呆けた声を漏らすリゼの胸を、刃が貫いていた。

「……ぁ……」

心臓を一突きにされたリゼはそのまま力を失って崩れ落ちた。

「……リ、ゼ……?」

エマは呆然とした表情でリゼの名前を呼ぶ。
だが、リゼはそれに反応せず倒れたままだ。



倒れたリゼの後ろには ―― 刀を構えた黄土の巨人・ルシフェルの姿があった。


[11]投稿者:『終わらぬ狂気 その2』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/23(Wed) 23:18 No.447  

「……て……」

リョナたろうの表情がみるみる怒りに染まっていく。

「てめえぇぇぇぇーーーーー!!」

次の瞬間には、リョナたろうはルシフェルへと飛びかかっていた。
氷のナイフでルシフェルの喉笛を描き切ろうとするが、疲労したリョナたろうの動きが
ルシフェルに通じるわけがない。


バキィィッ!!


「ぐあぁっ!!?」

ルシフェルの拳によって殴り飛ばされたリョナたろうは勢い良く吹っ飛び、
民家の壁を破壊して中へと姿を消した。

「リョナたろうっ!?」
「危ないっ!」

リョナたろうの名を叫ぶエマだったが、桜の警告の声に後ろに飛ぶ。
次の瞬間、エマのいた位置に轟音とともに斧が叩きつけられた。

「あ……ありがと……」

間一髪、命を拾ったエマは冷や汗を拭いつつも桜に礼を言う。
それに桜は頷き、ハンマーを構えてルシフェルと対峙する。

「くそっ……!何なんだよコイツは……!?」

桜はいきなり現れた怪物に上ずった声を上げ、鈴音は震えながらも
八蜘蛛を自分の身体で庇いながら、ルシフェルに銃を向けている。

「殺し合いに乗った参加者……っていうより、キング・リョーナが殺し合いを
 煽るために参加させておいた殺人鬼だよ、きっと……」
「……どう見ても平和主義者には見えないしな、くそったれ……!」

険しい表情を浮かべる桜と鈴音。
エマはルシフェルを警戒しながら、そんな二人に話しかける。

「……あのさ、回復魔法か回復アイテムってある?」
「……ごめん、傷を治せるものは持ってない」
「そっか……じゃあ、悪いけどちょっと協力してくれないかな?
 あのモンスターからデイパックを奪いたいんだけど……」

その言葉に、桜は顔を顰める。

「……回復アイテム目当てか?だったら、危険すぎるだろ。
 そこまでするほど、アイツの傷はひどくないだろうし……」

そう言って、桜はリョナたろうが突っ込んだ民家のほうを見る。
だが、エマはリゼのほうを見て答える。

「違うの。助けたいのはリゼのほうなの」
「……あの子は……もう死んでるだろ。
 気持ちは分かるけどさ……」

桜の言葉に、エマは首を振る。

「ううん、リゼはまだ死んでないよ。
 だって、胸が動いてるもん」
「そんな馬鹿な……って、嘘だろ……!?」

エマの言葉を否定しようとした桜は、リゼの胸が上下していることに気づき、
驚愕の声を上げる。

「な……何なの、あの子……!?人間じゃないの……!?」

自分の見たものが信じられない鈴音に、エマが顔を向ける。

「……リゼの頭を見なよ。角が生えてるでしょ?」
「あれって本物!?ってことは貴女の耳も!?」
「なんで偽物だって思うのかなぁ……?」

訳が分からないと首を傾げるエマだが、すぐにそんな場合ではないと気が付く。

「……っと、話が逸れるとこだった!
 ともかくさ、リゼが死んでないことは分かってくれたでしょ?
 だから、あのモンスターのデイパックを奪いたいの。
 回復アイテムがあるか分からないけど、あのままじゃリゼが……」

エマは桜と鈴音にそう話しつつも、さすがに協力を取り付けるのは難しいだろうと
考えていた。いくらなんでも、危険すぎるからだ。
見知った相手ならともかく、桜とリゼはさっき会ったばかりの赤の他人。
協力してもらえる道理など無いのだから。

「……分かった。協力するよ」
「私も……生きてるなら、あの子を助けたいから……」
「……良いの?」

桜と鈴音の言葉に驚きの声を上げるエマ。

「友達が心配だって気持ちは私にも理解できるからな。
 もし倒れているのが伊予那だったら、私だって同じことを
 頼むかもしれないし」
「……ありがと♪良い人だね、君たち」

桜の言葉に、エマは笑顔で感謝の言葉を述べた。

「アンタもな。友達のためにそこまでできるなんて、大したもんだよ」

桜がエマににっと笑みを向ける。
そんな二人に、鈴音も笑みが浮かぶ。
だが、すぐに二人とも表情を引き締める。

「……よし、やるか。
 まずは私が突っ込むから、二人とも援護を頼むよ」
「うん……」
「大丈夫、任せて」

桜の言葉に鈴音とエマは頷く。
それを聞いた後、桜はルシフェルへと突っ込んでいった。

桜はルシフェルの注意を引きつつ、ルシフェルに隙を作ろうとし、
桜が危なくなったときには、エマの魔法と鈴音の銃弾が飛び、
ルシフェルをけん制する。

そして、エマはルシフェルの背後へと忍び寄り……。

「もらったぁーっ!」

見事、ルシフェルのデイパックを奪うことに成功した。

「やったぜ!」

桜はガッツポーズを取る。

「これを!」

エマは鈴音のほうにデイパックを投げ渡す。
すでに銃弾を撃ち尽くしていた鈴音は、銃を捨てて両手でデイパックを受け取る。
そして、急いで回復アイテムを探し始めた。


だが……。


「……無い……!」

鈴音は絶望の声を漏らす。

「無いわ……!剣と銃と、絵しか入ってない!
 傷を治すようなものは入ってないわ!」
「そんな……!?」
「……リゼ……!」

鈴音の言葉に、桜とエマも表情を歪める。


それがいけなかった。


戦闘への集中を欠いた桜は、ルシフェルの攻撃への対処が一瞬遅れる。

「しまっ……!」

何とかハンマーを盾にしたが、斧の一撃で桜は吹っ飛ばされる。

「!?……う、うわっ!?」

桜が吹っ飛んだ先には、エマがいた。
桜はエマにぶつかり、二人とも地面を転がりながら、擦り傷だらけになったころに
ようやく止まった。

桜とエマが呻きつつ身を起こした時には、すでに二人のすぐそばにルシフェルがいて
斧を振り下ろしていた。

桜は慌ててハンマーを盾にしようとするが、しかし手の中にはハンマーはない。
先ほどのルシフェルの一撃でハンマーは桜の手から弾き飛ばされてしまったのだ。
エマが慌てて魔法の詠唱に移るが、どう考えても間に合わない。

それを見た鈴音は先ほど奪ったデイパックから銃を取り出して、ルシフェル目がけて
引き金を引いた。

パァンッ!

渇いた音を立てて、ルシフェルが振り上げた腕に黒点が空く。
ルシフェルがゆっくりと鈴音のほうを向いた。

「!!……八蜘蛛ちゃん、逃げてっ!!」

鈴音の言葉を受けるまでもないと、八蜘蛛は踵を返して逃げ出した。

八蜘蛛が逃げ出すとほぼ同時にルシフェルが鈴音に向かって、物凄い勢いで迫ってくる。

「ひっ……!?」

醜悪な頭部を持った巨人が猛スピードで近付いてくる。
その迫力に、鈴音の膝が笑い始める。

「こ……来ないでぇぇぇっ!!」

鈴音は銃を連射する。

何度か渇いた音を立てて銃弾が発射されたが、すぐに弾切れとなり、
カチカチという音しか出さなくなるトカレフ。

銃弾の数発でルシフェルを止められるはずもなく、すぐにルシフェルは
鈴音へと肉薄し、斧を振りかぶる。

「……あ……」

鈴音は自分に振り下ろされる斧を見開いた眼で観察しながら、思う。
まるでスローモーションのようだと。

死の間際は時間が遅く感じられるのだという話を鈴音は思い出しながら……。


鈴音は脳天から股間までを真っ二つにされて、絶命した。





[12]投稿者:『終わらぬ狂気 その3』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/23(Wed) 23:18 No.448  

桜とエマは鈴音が真っ二つにされたのを見て、目を見開く。

「鈴音さん……!」
「わ……私のせいだ……!
 私が無茶なことを頼んだせいで……!」

エマの言葉に、桜はきっとした視線を向ける。

「馬鹿なこと言ってんな!!悪いのは全部あの化け物だ!!
 そんなこと言ってる暇があったら、アイツを倒す方法を
 考えるんだよ!!」
「分かってるよ……!でも……!」

桜の激しい叱咤に、エマは言葉を濁す。

桜は武器を失い、鈴音は死亡してしまった。
エマも何度も魔法を放ったせいで魔力が心もとない。

こんな状態では、あの化け物と戦うことなど無理に決まっている。
桜がどんなに気合いの言葉をかけようとも、諦めかけているエマの心には届かない。

だが、そのとき二人に声をかける存在があった。

「……おい、短髪女。俺から盗んだファイト一発を寄越せ」
「!?……お前、気がついたのか!?」
「良かった……リョナたろう……!」

二人に声をかけたのは、リゼを担いだリョナたろう。
彼は頭から血を流し、ふらつきながらも桜に話しかける。

「おい、早く寄越せ。ドリンクがあっただろ?
 あれだよ。2本ともくれ」
「あ……ああ、別に構わないけど……」

そう言いつつ、桜はリョナたろうにファイト一発を2本とも渡す。
リョナたろうはそれらを一息に飲み干す。

すると、今までふらついていたリョナたろうの身体に活力が漲り、
失った体力がみるみる回復していった。

「よし、これで少しは動けるな……エマ、こいつを使え」

リョナたろうはエマに何かを放る。
受け取ったエマは驚きの声を上げる。

「これって……弓……!?
 リョナたろう、この弓は……!?」
「さっき突っ込んだ民家にあったんで持ってきた。
 それよりも、お前ら聞け。
 ヤツを倒せるかもしれない方法が一つだけある」
「!?……本当か!?」
「ど……どうやって……!?」
「こいつ……リゼのカラミティだ。
 ヤツにはお前らの攻撃が通じた様子は無いが、
 カラミティの威力なら可能性はある」

リョナたろうの言葉に、しかし二人は表情を曇らせる。

「でも、リゼは……」
「安心しろ。こいつは死んでなければ、どんな傷でも(たぶん)回復する。
 ……時間さえあればな」

その言葉に、エマはリョナたろうの言いたいことが分かった。

「……つまり、時間を稼げってことだね?」
「そうだ……リゼが回復するまで時間を稼ぐ。だが、ヤツ相手には命がけの仕事だ」
「やってやるさ……!あいつは鈴音さんを殺したんだ……!
 このまま終わらせてやるかよ……!」
「私も……あんなヤツを放っておけないし、リゼをこんな目に合わせたヤツは
 許せないよ!」

桜とエマの気合いの入った言葉にリョナたろうは頷く。
そして、弓と一緒にくすねてきた剣を桜に渡し、自身は氷のナイフを構えた。

「……この中の誰かが死んでも動揺するなよ。
 ただ時間を稼ぐことだけ考えろ」
「っ……わ、分かった……!」
「う……うん、頑張る……!」
「よし……行くぞぉっ!!」

リョナたろうのその声を合図に、桜が雄叫びを上げて突っ込む。
それを援護するように、エマが矢を放ち、リョナたろうも魔弾を放った後、
桜に続いて突っ込んでいった。

「おおおおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「うらああぁぁぁぁぁああぁぁぁっ!!」

桜とリョナたろうは気合いの声とともルシフェルに猛攻をかける。
だが、ルシフェルはそれらを意に反さず、邪魔な人間どもを殺そうと斧を振るう。
しかし、ルシフェルの攻撃はエマの矢や魔法によって悉く防がれていた。

桜もリョナたろうもルシフェルと戦えるほどの戦闘力は持っていない。
現状、何とか闘いになっているのはエマのおかげだ。

桜、鈴音、エマの3人でルシフェルと戦っていたときにも言えたことだが、
この中ではエマの実力が一番高く、矢や魔法によるサポート役とはいえ、
実質戦闘の中心となっているのはエマだった。

だが、エマの獲物は弓矢と魔法……どちらも攻撃を放つたびに消費されるものが
あり、攻撃回数は有限となっている。

すでに矢は残り2本となり、魔力もウインドが3、4回撃てる程度しか残っていない。
よって、エマの援護も残りの攻撃回数を考慮するせいでどうしても手薄になっていく。

「く……くそっ……!」

援護が少なくなったことで、リョナたろうと桜の勢いが目に見えて落ちてくる。
その隙を突かれ、ルシフェルの斧が体勢を崩したリョナたろうに叩きこまれた。

ざぐぅっ!!

右肩から肺に至るまでをざっくりと切り裂かれ、リョナたろうはびくりと痙攣した後、
大量の血を流して倒れる。

「リョナたろうっ!!」
「ちくしょおぉぉぉーーーー!!」

やけになった桜が考えも無しに、剣を腰だめに構えて突っ込んでいく。
そして、そのままルシフェルへと体当たりを食らわし、剣をルシフェルの腹部に深々と
突き刺した。

「ど……どうだ……!?」

桜は少しはダメージを与えたと思って、ルシフェルの様子を窺う。
だが、ルシフェルは攻撃が効いた様子も無く桜に視線を向けている。

「ぐっ……ちくしょう……!ちくしょう……!」

桜は絶望に顔を歪ませる。
その心に、とうとう諦めの念がよぎったそのとき……。

バァンッ!!

そのとき、ルシフェルの頭部に何かがぶち当たり、炸裂した。
驚いて目を向けると、絶命したと思われていたリョナたろうが、最後の力を振り絞って
魔弾をルシフェルに放ったところだった。
魔弾を放った手がしばらく震えた後、リョナたろうはがくりと力を失って再び倒れた。

(あいつ……あんな状態になってまで……!)

桜はリョナたろうの執念に戦慄する。
ヤツは最期まで闘いを諦めなかったのだ。

ならば、自分も諦めるわけにはいかない。
気合いを入れ直した桜は、ふとルシフェルが魔弾を受けた後からピクリとも動かず、
身体を固まらせていることに気がついた。

(?……何だ……?)

だが、そう思った次の瞬間には再び動き出し、桜に攻撃を加えてきた。
慌てて避ける桜、それを助けるようにエマが矢を放ち、魔法を唱える。

ルシフェルから距離を取った桜は、先ほどルシフェルの動きが一瞬止まったことについて
疑問を抱いていた。

(まさか……ヤツの弱点は頭なのか!?)

そう考えてみると、今までの戦闘で先ほどのリョナたろうの魔弾以外に頭部に攻撃を
クリーンヒットさせたことはなかった。

(間違いないっ!ヤツは頭への攻撃に弱いんだっ!)

ヤツの弱点は頭だと確信した桜は、それをエマに伝えようと口を開く。

「エマッ!ヤツの弱点は……!」

頭だ、と言おうとして開いた桜の口にルシフェルの刀が突き入れられた。


ぞぐっ!


突きいれられた刀は桜の口の中に突き刺さり、後頭部を貫いた。


「…………―――――――ーーーッッッ!!!」


激痛。ありえないほどの激痛が桜を襲う。
脳が激痛に満たされ、思考が吹っ飛ぶ。

だが、桜の脳にはさらに激しい痛みの信号が送られる。
ルシフェルの刀が桜の口から下へとゆっくりズブズブと切り裂いてきたのだ。

「!!……ッッ!!……―――ッッッッ!!!!!」

痛い。痛い。我慢……無理。無理!無理っ!!痛いっ!!嫌だっ!!イヤダ!!タスケテ!!
痛い痛いいたいいたいイたいイタイイタイィィィ!!

「いぃぃうぅぐぐぅうぅがぁぁぁぁぁぇぇぇええぇぇぅぅぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!!」

感じる痛みが理性を吹き飛ばし、絶叫する桜。
ただただ痛みから逃れたい、解放されたいと身体を捩るが、それが逆に身体をさらに切り刻み、
桜を悶絶させる。

そんな桜の脳裏に、走馬灯の如く一人の少女の姿が浮かび上がる。

神代 伊予那。
幼馴染の、大切な親友の少女。
この殺し合いで、必ず守ると誓った少女。

伊予那の姿が頭に浮かんだ桜は、その瞬間思考を取り戻した。

(……伊……予、那…………守……るっ……!)

桜が思ったことは、伊予那を守ることだけ。
そのために、目の前の怪物を必ず倒さなければならない。

桜の手から光が生まれる。
そして、リョナたろうの放つ魔弾と同じものがその手の中に作り出された。

桜はリョナたろうと再会した時に魔弾で攻撃されていた。
そのときに、桜はラーニングによって魔弾を習得していたのだ。

桜は作り出した魔弾をルシフェルの頭部に放つ。

バァンッ!!

その魔弾は、狙い違わずルシフェルの頭部にぶち当たり、ルシフェルの動きを
再び止めることに成功する。

魔弾を放った桜はそのまま絶命していた。
奇しくも、放った技の持ち主と同じ死に様となった少女はどこか満足気で
誇らしそうだった。





[13]投稿者:『終わらぬ狂気 その4』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/23(Wed) 23:19 No.449  

「いぃぃうぅぐぐぅうぅがぁぁぁぁぁぇぇぇええぇぇぅぅぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!!」

その凄まじい絶叫は、リゼの意識を取り戻させるに十分なものだった。

はっと身を起こし、自分の身に何が起こったのか、今の声は何なのかを確認しようとしてする。
そして、傍で青い顔で目を見開いて震えているエマを見つけ、声をかける。

「……エマ……何が、あったの……?」
「!?……リゼ……!?あ……あぁ……リゼ……!
 リョナたろうが……桜が……!!」
「リョナたろうが……?」

リゼはエマの言葉と態度に不安を抱く。
そして、周りを見渡したリゼは……。

肩から胸までを切り裂かれて絶命しているリョナたろうと、怪物に刀で切り裂かれて
痙攣している桜の姿。

「……え……?」

リゼは一瞬、自分の見たものが何なのか理解できなかった。

(リョナたろうが死んでて……怪物が……女の人を……)

そこまで考えて、ようやく現状を理解したリゼは恐怖が膨れ上がる。

「ひっ……やっ……!いやっ……!」

リゼは怯えて逃げだそうとする。
だが、足がもつれて思うように逃げることができない。

「ま……待って、リゼ!!
 怖いのは分かるけど、リョナたろうもあの子も
 あのモンスターと戦ってあんなことになったの!!
 アイツを倒すにはリゼの力が必要なの!!
 お願い、リゼの力を貸して!!」
「や……やだっ……!怖いっ……怖いよぉ……!」

リゼが涙目で嫌がるのを、エマは必死に説得しようとする。

「お願い……!アイツを倒さなきゃ、私たちは回生光のラクリマを
 手に入れることができない……!
 それじゃあ、死んだ人を生き返らせることができないんだよ……!」
「う……うぅ……!」

その言葉に何とか踏みとどまるリゼ。
萩の狐、オルナ、そしてリョナたろう。
あの化け物を倒さなければ、死んだ人たちが帰ってこないという事実は、
リゼをこの場に押しとどめた。

だが、それでもあの化け物と戦うほどの勇気はリゼには芽生えなかった。
エマですら、恐怖で逃げ出したいくらいなのだ。
元々臆病なリゼにそこまでの覚悟を望むのは酷というものだろう。


だが……。


バァンッ!!

「……え……?」

いきなり聞こえてきた音に、リゼとエマは音のしたほうを振り向く。
そして、視線の先の光景に二人は目を見開いた。

桜が作り出した魔弾がルシフェルの頭部を直撃し、ルシフェルが
仰け反って動きを止めている。

その光景は、エマにとっては特別な意味を持っていた。

最後まで諦めずに戦ったリョナたろうと桜の執念。
その執念が、桜がリョナたろうの技である魔弾を放つという奇跡を起こし、
どんな攻撃も通じなかったルシフェルの動きを止めることを可能としたのだと。

その光景に勇気づけられたエマの心からは、すでに恐怖は消え去っていた。

(……ゴメン、二人とも……私、ちょっと怖かったけど、もう大丈夫!
 必ずリゼと二人でアイツを倒して見せるから、天国で見ててね!)

エマは決意を新たに、ルシフェルの打倒を誓っていた。


一方、リゼのほうも思うところがあった。

(……リョナたろう……)

リゼは胸中でリョナたろうの名前を呟いていた。

リゼはリョナたろうのことが嫌いだった。
それは間違いない。

だが、彼の全てが嫌いだったわけではなかった。
リョナたろうがたまに気まぐれで優しくしてくれるときは、
内心ではとても嬉しかったのだ。

桜の魔弾がルシフェルの動きを止めたのを見て、リゼはリョナたろうに
叱咤激励されたような気がしたのだった。

『何ビビってんの?腰抜けですか?おむつの替えは大丈夫か、リゼちゃ〜ん?』

……ちょっと腹が立ってきた。

(死ねばいいのに……あ、もう死んでたか)

そんなアホなことを考える余裕も出てきた。

「……ごめん、エマ。心配掛けて。もう大丈夫だよ」
「……私も覚悟決まったよ、リゼ。二人でアイツをやっつけよう!」
「うん!」

リゼの返事に笑顔で頷き、エマは最後の矢をつがえる。

精神を集中し、この一射に全身全霊、全ての力を込めて……


「豪鬼っ!!いっけええぇぇぇぇぇぇ!!」

エマが放ったのは、弓術の奥義・豪鬼。
その矢はルシフェルの頭部に刺さり、ルシフェルを盛大によろけさせた。

「さあ、リゼ!あいつの防御はガタガタになったよ!
 カラ何とかをぶっ放しちゃってよ!」

エマの弓術・豪鬼はそれ自身のダメージも優れているが、それに加えて
さらに優れた効果が存在する。
それは相手の防御を打ち砕き、続く攻撃のダメージを増加させるというものである。

豪鬼を受けたルシフェルの防御は大きく低下したのだ。

エマの言葉を受けたリゼは不敵に微笑み、ある少年の口癖を借りて了承の意を返した。

「……おk」

リゼはルシフェルに向かって掌をかざし、全魔力を込めてカラミティを放つ。

放たれたカラミティがルシフェルに炸裂し、それをまともにくらったルシフェルの頭部は
粉々に吹き飛ばされた。





[14]投稿者:『終わらぬ狂気 その5』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/23(Wed) 23:20 No.450  

「……勝った……」
「……うん……」

エマの呟きに、リゼは頷く。

「私たち……勝ったんだね、リゼ……」
「……うん……勝った……」

エマの顔に笑顔が広がる。
そして、リゼの両手を掴むとぶんぶん振り回し、喜びの声を上げる。

「やったあぁぁぁ!!やったよ、リゼ!!私たちの勝ちだよ!!
 私たち、やったんだよぉぉぉぉ!!」
「ちょ……ちょっとエマ……!落ち着いてよ……!」

エマのテンションの上がりように呆気に取られているリゼに対して、エマは言う。

「何言ってるのさ!?あんなのに勝ったんだよ、私たち!!
 これで落ち着いていられる!?もっと喜ばないと!!」
「……そう……そうだよね……もっと喜ぶべき、なのかな……?」
「そうだよ!!バンザーイ!!」

そう言って、エマは両手を上に上げながら言う。

「ほら、リゼも!!」
「えっ?う……うん……バンザー……」

エマに倣って、リゼもバンザイをしようとして……気付いた。

エマの後ろから迫る、巨大なハリガネムシのようなモンスター。
そのモンスターが身体を鞭のようにしならせて、エマを……。

「エマッ!!後ろっ!!」
「えっ?」

リゼの警告の声に、エマは後ろを振り返り……


モンスターの刃状の身体による一撃は、エマの身体を袈裟がけに真っ二つに切り裂いた。

「エマあぁぁぁぁっ!!」

悲鳴を上げるリゼ。
それを意に反さず、モンスターは身体を何度もしならせ、エマの身体を駒切りにした。

「あ……あ……!」

ばらばらにされたエマ。
それを見たリゼの頭が怒りで真っ白になった。

「あああぁぁぁぁぁっ!!!」

リゼは武器すら持たず、モンスターに突っ込んで行く。
だが、モンスターはそれをひらりと避わし、リゼの身体にその細長い身体を巻きつけて
羽交い絞めにする。

「ぐっ……!放せっ!!放せえぇぇぇっ!!」

絶叫するリゼ。

だが、モンスターはそんなリゼの言葉など効かずに、リゼの体内に自らの身体の先端を
侵入させる。


ずぶずぶずぶっ……!!

「!!……がっ……あがうぅあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

身体の中に侵入され、肉を破って突き進まれる激痛にリゼは泣き叫ぶ。
だが、その叫びも長くは続かなかった。

「!!……がっ……!」

ぶしゅ、ずぶ、ぐしゃっ!!

身体中の全ての臓器を潰されたリゼは、目、鼻、口、耳から血を噴き出した。

「……あ……がふっ……うぁぁ……」

リゼは激痛の中、身体から力が抜けていき、意識が薄れていくのを感じていた。
超回復力を持つリゼでも、ここまでのダメージを受けてはどうにもならなかった。

(……リョナ、たろう…………エ……マ…………お姉、ちゃ……ん……)

……ゴメン、なさい……。

仇を取ることが叶わなかったリゼは、先に逝った仲間に謝りながら死んでいった。






……リゼが死亡してから、数分……。

なんと、リゼの身体がいきなり起きあがった。
そして、何かを確かめるように瞬きをし、両の掌を握ったり開いたりしている。

やがて満足したのか、立ち上がるとルシフェルの死体から生皮の服を剥ぎ取り、
自らの身に纏う。
だが、サイズが違いすぎて動きの妨げになると気付き、仕方なくデイパックの中に
仕舞うことにした。

そして、辺りに散らばった支給品を回収し始めた。
全ての支給品を回収し、さあ持っていこうとしたときに初めてその重量を持ち上げるだけの
腕力が無いことに気が付いたらしい。
仕方なく、あまり必要の無い支給品を適当にポイポイ放りだして、持ち運びが可能な重さに
なるように調整する。

持ち運べる重さになったことを確認すると、彼女はデイパックを背負って昏い街を後にした。



……もうお分かりだろうが、一応述べておこう。

死亡したはずのリゼの身体が動いている理由……それは当然リゼが生きているからではなく、
リゼの身体を動かしているもの……つまり、巨大なハリガネムシのような身体を持つモンスターの
仕業である。

そのモンスターこそ、黄土の巨人ルシフェルの真の姿。
彼は死体に寄生して、その身体を操ることができるのだ。

あの巨人の身体すら、彼にとっては仮宿に過ぎない。
彼が次に定めた仮宿は、リゼの身体。


狂気は未だ終わらず。
少女の姿を借る狂気は、新たな血の宴のために歩み続けるのだった。


そして、歩みを進めつつ、ルシフェルは思う。

この身体は、なるべく頭部へのダメージは避けよう。
前の身体のように脳の損傷が蓄積されているのに気がつかず、
いきなり動かなくなるような不具合を起こされたら困りものだ。


狂気は今回の戦闘で一つ学習したようだ。






【榊 鈴音@鈴の音 死亡】
【リョナたろう@リョナラークエスト 死亡】
【美空 桜@一日巫女 死亡】
【エマ@リョナマナ 死亡】
【リゼ@リョナラークエスト 死亡】
【残り21名】


【D-3:X3Y1/昏い街/1日目/午後】

【ルシフェル(inリゼ)@デモノフォビア】
[状態]:健康
[装備]:ルシフェルの刀@デモノフォビア
フレイムローブ@リョナマナ
[道具]:デイパック、支給品(食料6/6・水6/6)
ルシフェルの斧@デモノフォビア
日本刀@BlankBlood
氷のナイフ@創作少女
ウインドの薬箱@リョナラークエスト
早栗の生皮@デモノフォビア
ルシフェルの服(生皮)@デモノフォビア
[基本]:とりあえずめについたらころす
[思考・状況]
1.奈々の生皮は後で取りに戻る
2.ころす

※奈々の生皮はE-4:X2Y2に干したままです。


【美空桜@一日巫女】
[状態]:死亡
[装備]:青銅の大剣@バトロワ
[道具]:デイパック、支給品一式(食料2/6、水5/6)


【榊 鈴音(さかき すずね)@鈴の音】
[状態]:死亡
[装備]:南部(残弾0)@まじはーど
[道具]:デイパック、支給品一式(食料2/6、水5/6)
ラーニングの極意@リョナラークエスト


【リョナたろう@リョナラークエスト】
[状態]:死亡
[装備]:リョナたろうの鎖帷子(破損、装備不可)@リョナラークエスト
[道具]:無し


【エマ@リョナマナ】
[状態]:死亡、ばらばら
[装備]:弓@バトロワ、投石@バトロワ世界
[道具]:デイパック、支給品(食料5/6・水4/6)






「……行ったようね……」

遠くから様子を窺っていた八蜘蛛はリゼの身体を乗っ取ったルシフェルが
街から離れて行くのを見て、ようやく姿を現した。

「……それにしても、あんなヤツまで参加してるとはね。
 金髪の女といい、ちょっとこの殺し合いを甘く見てたのかもしれないわ」

八蜘蛛は不機嫌そうな顔で呟きつつ、考える。

あの化け物に自分一人で勝つのは、不可能だ。
ヤツが操っている死体になら勝つことは可能だろうが、その直後に身体を
乗っ取られてしまうのでは意味が無い。

身体を乗っ取られるのを防ぐためには、戦闘能力の高い参加者を最低でも一人は
味方につけ、協力して事に当たる必要があるだろう。
場合によっては、自分の実力を協力者に教えておく必要もあるかもしれない。

「……今更だけど、面倒なことに巻き込まれたもんだわ……」

ルシフェルが置いていった支給品を回収した後、死体の養分を吸い取りながら
八蜘蛛はしばらくぼやき続けていた。






【八蜘蛛@創作少女】
[状態]:健康
[装備]:トカレフTT-33@現実世界(弾数8+1発)(使い方は鈴音を見て覚えた)
弾丸x1@現実世界(拳銃系アイテムに装填可能、内1発は不発弾)
[道具]:デイパック、支給品一式×3(食料14食分、水14食分)
モヒカンハンマー@リョナラークエスト
リザードマンの剣@ボーパルラビット
メイド3点セット@○○少女
バッハの肖像画@La fine di abisso
チョコレート@SILENTDESIREシリーズ
[基本]:ステルスマーダー
[思考・状況]
1.ルシフェルを倒す(そのために実力のある参加者を味方につける)
2.エリーシアを殺す
3.人間を養分にする
4.萩、ロシナンテと合流する
5.門番が自分の知っている門番か確かめる

※ルシフェルの本体と能力を知りました。






[15]投稿者:『じじいが往く!!』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/27(Sun) 05:55 No.454  
「ハァーーーーーハッハッハァァァーーーー!!」

レボワーカーを操り、野を駆るゴート。

自分では到底叶うことの無い、疾走感。
その素晴らしさ、快感にゴートは酔っていた。

「クハハハハ、何と素晴らしいものかのう!!
 このレボワーカーなるものは!!」

ゴートは自身の手に入れた、異世界の力に興奮していた。


まさに、じじいハイテンションである。


森を抜けた後、さらに平原を南に駆け抜け、再び森の中へと突き進む。
ゴートが最初に目指したのは、リザードマンの村。

ゴートは禁止エリア以外の施設全てを回るつもりだった。
身一つのゴートならそんなことは考えなかっただろうが、今のゴートには
馬よりも優れた『足』がある。

ならば、出遅れた時間を取り戻すためにも情報を集めることに積極的になるべきだと
ゴートは考えたのだ。

「……む?」

やがて、ゴートの目の前にリザードマンの村が見えてきた。

「ふむ、あれか……」

ゴートはさっそくリザードマンの村に侵入した。
参加者が村の中にいないか、警戒しながらもレボワーカーを歩かせる。

「……参加者が潜んでおる気配は感じられんが……むむぅ!?」

ゴートは村の広場のほうを見て、驚きの声を上げる。

なぜなら、広場には半径15メートルほどの円状の焼け跡が存在したからだ。

「何じゃ、これは?十中八九、魔法によるものだろうが……。
 だが、一体何のために……?」

ゴートはこの焼け跡の意味について考え込む。
そして、一つの仮説を思いついた。

それは、この円状の焼け跡を作ったのは同じロアニーであるリネルの仕業ではないかと
いうものだった。
彼女なら、対峙した参加者を逃がさないために炎で参加者と自分の周りを囲み、参加者が
逃げられないようにした上で、その参加者を嬲り殺しにすることもあり得ないことではない。

「ふん……ヤツもえげつないことをしよるわ……」

ゴートはここで行われたのであろう仲間の残虐な行為を思い、クククッと笑う。


的外れじじい、絶好調である。


その後、村の探索を行ったゴートだが、得られたものは無かった。

「くそっ!無駄な時間を取ったわ!」

探索が時間の浪費にしかならなかったことに憤慨するゴート。
もうこんなところに用は無いと、ゴートは失望とともに村を出た。

「……ふむ、次はどこに行くべきかのう?」

ゴートは地図を見ながら、次の目的地を決めかねていた。

禁止エリアを考慮に入れたうえでは昏い街か螺旋の塔が目的地の候補としては打倒であろう。
どちらにするかで他の施設の回り方も変わってくるだろうし、ここは慎重に考えて決めるべきだと
ゴートは思った。

「……まあ、どちらも東側にあることだし、東へと進みながら考えても問題あるまい」

そう考えたゴートはレボワーカーを操り、東へ向かいながらどちらを目的地とするかを
決めることにした。

東へと進むうちに、ぽつぽつと雨が降り始めたことにゴートは気がつく。

「……む?雨か……そう言えば、放送でそのようなことを言っておったな……」

だが、レボワーカーに乗ったゴートには雨に濡れて体力が奪われる心配も無く、
雨が止むまで探索を中断する必要も無い。

つくづく良い物を手に入れたものだと、ゴートは自身の幸運にほくそ笑んでいた。






【E−2:X2Y1/森/1日目:夕方】

【ゴート@リョナマナ】
[状態]:残魔力中
[装備]:レボワーカー@まじはーど
(損傷度0%、主電源入)
バク@リョナラークエスト
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料11食分、水11食分)
猫じゃらしx3@現実世界
大福x10@現実世界
弓矢(25本)@ボーパルラビット
レボワーカーのマニュアル@まじはーど
[基本]:マーダー、キング・リョーナに復讐する
[思考・状況]
1.仲間のロアニーと合流する
2.キングへの報復方法を考える
3.ナビィ達を見つけたらキングの件とは別に報復する






[16]投稿者:『門番のお散歩日記』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/27(Sun) 12:05 No.455  

未だにここが殺し合いの場であることに気がついていない門番。
度を越した間抜けぶりである。

果たして、彼女がそれに気づくのはいつになるのか?
もしくは、気づかぬうちに命を落としてしまうのか?

それは誰にも分からない。


ゴートに置いて行かれた門番は洞窟から出た後、森を南下していた。
そうして、あてどなく彷徨ううちに井戸を見つけた。

「おー、ラッキー。ちょうど喉渇いてたんだよねー」

喉の渇きを覚えながらうろついていた門番は、ようやく喉を潤せることに喜び、
さっそく釣瓶を使って井戸の水を汲み上げた。

しかし……。

「ゲェーッ!?何この真っ赤な水!?
 なんか変なもんでも混ざってんの!?」

汲み上げた水がどす黒い赤色に染まっていることに、仰天する門番。
さすがにこんな水を飲むわけにもいかず、門番は不機嫌そうな面持ちを見せつつも
喉の渇きを潤すことを諦める。

「あーあ、ついてないなー……おや?」

ふと、門番は釣瓶の桶に何かが引っ掛かっているのに気がついた。

「何じゃコリャ?」

門番、その何かをひょいと摘み上げて確認してみた。

「グローブ……かな?真っ二つになってるけど、
 なかなかイカしたデザインじゃないか」

門番はその布切れがグローブらしいことを見て取ると、もう一方の片割れが無いかを
探し始めた。

「井戸の中かな?ちょっと嫌だけど、もう一回汲み上げてみるか」

そう言って、門番は釣瓶を井戸のそこに落とし、もう一度引き上げる。
そして、引き上げた釣瓶の中には見事グローブの片割れと思われる布切れが浮かんでいた。

満足気に頷く門番。
次いで、門番はそれらを絞って水気を取ると懐に収めた。

(どっかで裁縫道具でも見つけて縫い直してやりゃ、まだ十分使えるでしょ)

鼻歌交じりに気楽なことを考えつつ、歩みを進める門番。

そうして歩き続けていると、ようやく森を抜けて視界の開けた場所に出ることができた。

「はぁー、やっと森から抜けられたよー。
 お天道様とも久しぶりにご対めーん……って……」

お天道様を拝むべく空を見上げた門番だったが、お天道様は雲に覆われていて、
門番とは顔を合わせてくれなかった。

それどころか、ぽつぽつと雨が降り始め、しばらくするとけっこうな勢いとなってきた。

「うわー!?お天道様、もしかして私のことキライなのー!?」

慌てて、雨宿りできる場所を求めて走り出す門番。
すると、すぐ傍に木造の古びた校舎を発見することができた。

「よし。とりあえず、あそこで雨宿りさせてもらおう」

木造校舎に向かって走る門番。

だが、途中の草むらに侵入したとき、異変が起こった。

「お!?おおぉぉ!?」

なんと、草が門番を捕えようと一斉に伸びてきたのだ。

「わっ!?たっ!?ちょっ……こら、やめろって!?」

門番、持ち前の身体能力で伸びてくるツタを回避する。
だが、ツタは休むことなく門番を狙い、何本も何本も門番を襲う。

「だぁーっ!!何なのさ!?何だってのさぁぁぁぁぁ!?」

門番、必死で避ける。避けて避けて避けて……

気がつくと、襲って来るツタは無くなっていた。

「はぁ……はぁ……!あ……あれ……?終わった……?」

門番、ぜぇぜぇと息を切らしながらも辺りを見回してみる。

すると、自分がいつの間にか草むらを抜けていることに気がついた。
どうやら、あのツタは草むらの中でしか襲って来ないらしい。

木造校舎のほうを見てみると、周り一帯が草むらに覆われていた。
これは雨宿りのために利用するのは無理か、と門番は疲れた表情で溜息を吐いた。

「うー、もう結構ずぶ濡れになっちゃったしなー……。
 このままじゃ風邪引いちゃうよー……」

くしゃみをしつつ、身体を震わせる門番。
何か他に雨宿りできそうな場所はないかと辺りを見回してみると、すぐそこに街道が
あるのを見つけた。

「……道があるってことは、この先に街か何かがあるってことだよね。
 問題はどんだけの距離かってことだけど……」

進むべきかどうか考える門番だったが、再びくしゃみが出て、とうとう鼻水まで垂れてきた。

「うーっ!考えてても仕方ないか!とにかく道なりに進んでみよう!」

門番はそう結論付け、街道を全速力で走り抜けて行った。




【D−3:X1Y2/街道/1日目:夕方】

【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:おでこにたんこぶが2つ
[装備]:不眠マクラ@創作少女
[道具]:真っ二つにされたオープンフィンガーグローブ@まじはーど
[基本]:眠くなるまで散歩
[思考・状況]
1.雨宿りできる場所を探す
2.なんか眠くなくなったので、とりあえず散歩する
3.眠くなったら寝る

※第一回放送を聞いてません。
※不眠マクラの効果に気づいていません。
※自分が今何処にいるのか知りません。
※殺し合いに巻き込まれていることに気付いていません。
※ゴートを殴り倒した時の返り血は雨で洗い流されました。
※リョナ・カーズ状態は時間経過で回復しました。






[17]投稿者:『レッツ対主催 その1』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/30(Wed) 20:55 No.456  

初香はある事柄に思い悩んでいた。

(やっぱり、サンプルが必要だよね……)

何のことかと言うと、首輪のことだ。
自分たちに着けられた首輪……これを外さないことには、この殺し合いを
脱出するのは不可能だ。
よって、首輪を解除するためにはまず首輪を調べる必要がある。

だが、さすがに自分たちの首輪をそのまま調べるわけにはいかない。
下手なことをして、首輪が爆発でもしたら洒落にならないからだ。

つまり、首輪を調べるためには首輪のサンプル……死体などから頂いた首輪が必要となる。
もちろん死体の首輪も危険が無いわけではないが、生きている参加者のものを調べる場合と
比較するなら、安全面は比べるべくもない。
また、たとえ爆発したとしても首に嵌ったものに比べれば命を落とす危険性も低いはずだ。

(よし、ちょっと皆に相談してみよう)

思い立ったら即行動、時間は貴重だ。
初香はさっそく自分のプランを他の三人に相談することにした。





そして、初香、えびげん、美奈、ミアは死体の首輪を手に入れることについて
話し合っていた。
ちなみに、会話は盗聴されている可能性が高いと判断した初香の提案によって
話し合いは全て筆談で行われていた。

(首を切り落として首輪を手に入れるって……そんなこと……)

ミアは躊躇している。根っからの善人である彼女には死者の首を切り落とすという行為は
容認しがたいものなのだろう。

(うーん、たしかにちょっと抵抗あるけど……でも、私は必要なことだと思うよ?)

えびげんが悩みつつも、現実的な考えで意見を述べる。
彼女も基本的に善人で人の良い性格だが、ミアに比べれば考え方は柔軟だ。

(しょうがないわよ。そうしないと私たち生き残れないんでしょ?だったらやるしかないわ)

美奈もそれに続いて賛同する。
生き残ることが第一の彼女としては、すでに死んだ者のことを考慮する余裕は無い。
死体を傷つけることで自分たちが助かるなら、当然そうするべきだと考えていた。

ミアはいくらか逡巡した後、複雑そうな表情を浮かべながらもようやく首を縦に振った。

「じゃあ、決まりだね」

初香が立ち上がって外に向かおうとするのを、慌ててミアが止める。

「待って!初香ちゃんは怪我してるんだから、ここで休んでて!
 く……アレなら私が持ってくるから!」
「……でも、僕が言い出したことだし、他の人に任せるわけには……」

ミアの言葉に対して、初香は躊躇いを見せる。

「何言ってるの!?そんなこと、なおさら子供にやらせるわけにはいかないわよ!」

だが初香の言葉を聞いたミアは、怒った表情を見せて初香を叱る。

「で……でも……」
「いいから、ここで美奈ちゃんと一緒に休んでなさい!分かった!?」
「……はい……」

初香はミアの迫力につい素直に従ってしまった。
普段なら子供扱いするなと怒るところだが、どうにもこのミアという少女には
調子を狂わされてしまう。
天才少女も方無しだった。

ふと、横でえびげんがニヤニヤしてるのを見つけて、思いっきり睨みつける。
慌ててそっぽを向くえびげん。

(もう遅いよ、えびげんさん。ミアさんが首輪を持ってくるまでいびり倒してやるから)

ミアが外に出て行くのを見送りながら、初香はえびげんに向かって底意地の悪い笑みを見せる。
それを見たえびげんは冷や汗を流しつつ、引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。

それを見ていた美奈は半眼で呟く。

「……気楽でいいわね、貴女たち……」

殺し合いという異常な状況にもかかわらず、自分と違って余裕のありそうな初香とえびげんを見て、
美奈は膨れ面を浮かべていた。





国立魔法研究所の外に出たミアは、オーガの墓を掘り返していた。
まゆことオーガ、どちらを掘り起こすかといえば、裏切って敵となったオーガを
選ぶことは自然であろう。

だが、敵とはいえ墓を掘り起こして死者の眠りを妨げるのはミアにとって不本意であった。
さらに、ミアは今から死体の首を斬り落として首輪を手に入れなければならないのだ。

「……すー……はー……」

深呼吸をして、気持ちを落ち着けるミア。
涼子のナイフを握りしめた手が、緊張で震えていた。

できることなら、こんなことはしたくない。
だが、これは必要なことなのだ。
皆が生きて帰るために、やらなくてはならないことなのだ。

心の中で何度も自分にそう言い聞かせ、ミアは覚悟を決めてオーガの首にナイフの刃を立てる。


ざくっ……ざくっ……。


黙々と、だが神経をすり減らしながら作業を続けるミア。
額から汗が流れ、顎を伝って地面へ落ちる。
手は血で真っ赤になり、いつしかミアの息遣いが荒くなっていた。


ざくっ……。


そして、ミアは幾ばくかの時間をかけてようやく首を切り落とすことに成功した。


「……ふぅ……」

ようやく終わった。
ミアは安堵の息を吐く。

「後は首輪を初香ちゃんに渡せばいいわね……
 でも、その前に血を洗い流さないと……」
「何やってるんだ、アンタ!?」
「……!?」

いきなり聞こえてきた声に、ミアは慌てて声のした方向に目を向ける。

そこには、ミアと同年代の青年と20代前半の魔術師風の女性、頭に獣の耳を持つ少女が
呆然とした表情を浮かべて立っていた。

「ま……まさか、アンタその人を……!?」

青年が驚きの表情を浮かべてミアに問う。

「ち……違っ……!わ、私は……!」

咄嗟のことに混乱したミアは、上手く言葉が出てこない。
その態度が挙動不審と取られたのか、三人は疑わしげな表情をミアに向ける。

だが、そのとき国立研究所の扉が開けられ、中からえびげんが出てきた。

「ミア終わった〜?ゴメンね、気分悪い仕事押し付けちゃって。
 お茶とお菓子用意できたから、食欲あったら後で……おや?」

えびげん、ようやくミアの他に人がいることに気がつく。
三人の疑惑の視線とミアの狼狽ぶりを見て、えびげんはすぐに状況を理解した。

ミアの誤解を解かなければ。

えびげんはそう思うが、盗聴の可能性を考えると『首輪を取るため』とストレートに
言ってしまってはキング・リョーナに首輪を解除しようとしていることがばれてしまう。

そう考えたえびげんは、咄嗟に頭に浮かんだ言葉を口にした。

「……安心せい、峰打ちじゃ」


……ひゅううぅぅぅぅ……。


冷たい空気が流れた。
三人だけでなくミアまでえびげんを見たまま固まってしまい、
えびげん自身も『やってしまった』という表情で赤くなって固まっていた。

……どれほどの時間が経っただろう。

やがて、凍っていた時が流れ始めた。

「…………」

青年と獣耳の少女が目線を交わし、頷き合う。
そして、青年と少女が据わった目で指を鳴らしながらミアとえびげんに向かって
歩いてきた。

えびげん、ビビる。
ミアもビビる。

えびげん、ミアに視線で助けを求める。

『何とかして!怖い!』

それに対して、同じく視線で答えるミア。

『無理です!私も怖いです!』

それを見て、えびげんは覚悟を決めた。

『よし!逃げよう!』
『だ、駄目ですよ!?誤解を解かないと
 美奈ちゃんや初香ちゃんたちまで……!』

視線だけで会話する、無駄に高性能な二人。
だが、そんな二人に不吉な影が落ちる。

はっとそちらを向くと、やたら怖い目をした男女。

「……で、説明してもらおうか?」
「……私たちが納得できるようにね?」

笑顔。だが、目は笑っていない。
それに対して、えびげんが引き攣り顔で答える。

「えっと、峰打ち……」
『  黙  れ  』
「ハイ」

この期に及んでほざくえびげんを、一言で切って捨てる青年と少女。

「あ……あのっ……!お願いです、話を聞いてください!」

そのとき、やっと舌が回るようになったミアが言葉を紡ぐ。
その言葉を受けて、ミアに視線が向けられる。

「今の状況を見て、貴方たちが私たちのことを信じられるとは思えません!
 でも、これは決して悪意があってやったことではないんです!
 皆が生き残るために必要だと判断したから……!だから……!」
「……ええ、大丈夫。分かってるわ」

ミアの必死の説得に答えたのは、今まで黙って様子を見ていた魔術師風の女性だった。
青年と少女が戸惑った視線を女性に向ける。
それに対して、女性は微笑みながら自分の首輪を指差して言った。

「……目的はコレでしょ?」

青年と少女の誤解が解けたのは、それから数分後だった。




[18]投稿者:『レッツ対主催 その2』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/30(Wed) 20:55 No.457  

ミアたちの目的が首輪であることと、切り取ったのは死体の首だったということを
理解した青年と少女 ―― 明空とナビィはそれでもあまり良い顔はしなかった。
死体とはいえ、人間の首を切り落とす行為に明るい顔をする者などいはしない。

ともあれ、誤解は解けた。
そして、お互いが殺し合いに乗ってない対主催者の集まりだと知った二組は
さっそく情報の交換を行った。

その過程で実際に殺し合いに乗った者がいることを知った明空は、冥夜の死について
不安を抱き始めた。

(……冥夜……お前、まさか本当に……)

表情に影を落とし、弟の身を案ずる明空。

放送を聞いたとき、冥夜の死など信じられなかった。
ゆえに、放送の内容などデタラメだと断じた。

だが、今は放送を聞いたときとは状況が違う。
実際に殺し合いに乗った者が存在するという話を聞き、死体もこの目で確認した。
新しく出会った女性たち……その中でも、初香という少女と美奈という少女は
骨折などの酷い怪我を負っていた。
この少女たちも、殺し合いに乗った者に殺されかけたのだと言う。

明空はそれに対して殺人者に怒りと憤りを感じると同時に、こんな少女たちに手を出す
殺人者がいるというのなら冥夜が殺されたというのもおかしな話ではない、と心のどこかで
考えていた。
それに気付いた明空は首を振って、嫌な考えを振り払う。

(……駄目だ、考えるな!そんなこと、考えたくない!)

だが、その考えはどれだけ振り払っても明空について回り、彼の精神を蝕んでいった。


一方、ナビィも心中穏やかではなかった。

ナビィは放送を聞いたときと比べて、時間が経ったことで冷静になっていた。
情報交換によって殺人者の存在を実感したナビィは、ロアニーの連中がこのゲームに
参加している以上、オルナの死が十分あり得ることだと思い直していた。

(……オルナ……)

ナビィと旅を続けてきた、エルフの魔術師。
いつも自分のことを『クラゲ頭』と馬鹿にする、毒舌エルフ。
だが、ナビィが危険な時にはいつも必ず助けてくれた、大切な親友だった。

(オルナ、嘘だよね……?オルナが簡単に死ぬわけ無いよね……?
 きっといつもの皮肉っぽい顔で現れて、私のこと『このクラゲ頭!』って……)

だが、そこまで考えてナビィの目に涙があふれてきた。
ナビィはすでにオルナは死んだのだと悟っていた。
それでも、それを認めたくなくて心の中で何度も否定しているのだった。


そんな二人に、クリスが近付いてきた。

「二人とも、ちょっといい?」

クリスの声に二人が視線を向ける。
そして、そんな二人の表情を見て、クリスは気付いた。

(……どうやら、放送が真実だと理解したようね)

先ほどの情報交換で冷静な思考が戻り、現実的な考えができるようになったのだろう。
複雑な思いを覚えたクリスだったが、自分に視線を向ける二人を見て、伝えなければ
ならないことがあったのを思い出す。

クリスは二人へと話しかけつつ、メモ用紙を見せる。

「明空が訪れた商店街だけど……あそこでえびげんさんがジュウという強力な武器を
 見つけたらしいの。それで物資の調達も兼ねて、もう一度何人かが向かうことになったの」
『ついでに、首輪の解除に必要な道具も探してくるそうよ』

そして、一拍置いてクリスは二人に告げる。

「……それで、誰が商店街に行くかを今から相談するから、こっちに来てくれる?」

明空とナビィは頷いて、クリスの後をついて行った。





全員が揃ったのを確認した初香は、一同を見回しながら言う。

「さて……これから商店街に誰が行くかを決めるんだけど……。
 商店街がボクや美奈、明空の世界と同じ作りのものだということを考えると
 怪我をしているボクと美奈を除いて、同じ世界の明空か、それに近い知識を
 持ったえびげんさんに行ってもらうのがいいんじゃないかと思うんだ。
 二人とも一度は商店街に訪れたことがあるわけだし、適任だと思うんだけど」

初香の言葉に頷く一同。
それぞれの情報を交換した結果、一同は自分たちの知識・技能が各々の世界の常識で
測れるものだけでは無いということが分かっていた。
この殺し合いの参加者たちが別の世界から連れて来られたのだということは、
この場にいる全ての者にとって既知の事実となっていたのだ。

えびげんは初香の言葉に対して、手を上げて意見を述べる。

「商店街には私が行って来るよ。
 明空君は顔色が悪いみたいだし、疲れているんじゃない?」

えびげんの言葉に、明空はギクリとした。
冥夜のことで思い悩んでいたのを見抜かれたのでは、と思ったからだ。

「……いや、俺は大丈夫さ。
 女の人に任せて、男の俺が休んでるわけにもいかないって。
 俺が行ってくるから、えびげんさんこそ休んでてくれよ」
「無理はしないほうがいいわ。貴方、本当に顔色が悪いわよ」
「そうよ、明空。貴方は少し休息を取ったほうがいいわ」

ミアとクリスが重ねて言うが、明空は納得しない様子だった。
そんな明空に、初香が言葉をかける。

「……あのさ、明空。キミは商店街に行くことが危険なことだと
 思ってるかもしれないけど、実際はここに残ってるほうが危険かも
 しれないんだよ?」
「……え?そうなのか?」
「うん。さっき話したと思うけど、ここって一度殺し合いに乗った
 モヒカン男に襲われてるんだ。
 その男はここから逃げるときに『お前ら全員必ず殺してやる』って
 捨て台詞を残していったんだ」
「……ってことは……」
「そう。ここがもう一度そいつに襲われる可能性があるってことさ」

明空の表情が険しくなる。
殺し合いに乗った人物が再びここを襲うかもしれない。
そして、そのとき明空がここにいなかった場合、女性たちだけでその男に
立ち向かわなければならないのだ。

初香は俯いて肩を震わせながら言う。

「……正直、ボク……不安なんだ……。
 またアイツが来るかと思ったら……怖くて……。
 だから、できれば明空のような頼れる男の人にここに
 残って欲しくて……」

明空は震える初香を見て、こんな幼い少女をここまで怯えさせるほど酷い目に
合わせたモヒカン男に怒りを抱いた。
それと同時に、この少女を必ず殺人者の手から守ってやらなければと思った。

「……分かった、俺はここに残るよ。
 そのモヒカン男が来たって、俺が追い返してやるさ!」
「……うん、ありがとう。頼りにしてるよ、明空」
「おう、任せとけ!」

可愛らしい笑顔を向ける初香に対して、明空は安心させるように大きく頷いた。

(た……単純な……!)

えびげんはその様子を見て、呆れた表情を浮かべていた。

(……明空ね……)
(……明空だねぇ……)

クリスとナビィはもう慣れてきたのか、苦笑いするだけだった。

(露骨すぎでしょ……将来、絶対悪女になるわ、あの子……)

美奈は隣の初香を半眼でジトっと睨んでいた。

(優しい人だなぁ、明空は……)

ただ一人、ミアだけは明空の言葉に感心していた。

(ちょっと媚びすぎかもしれないけど、こういうのはやり過ぎなくらいが
 ちょうどいいからね。それに不安だっていうのも嘘じゃないし……)

見事に明空を説得することに成功した初香は満足げな笑みを浮かべていた。

初香と美奈は怪我をしているため、国立魔法研究所からの移動は体力的に難しい。
よって、待機組として留まることは確定事項となっていた。

モヒカンの恐怖を味わった初香としては、モヒカンが再び襲撃してくるであろう
この場所で待機するということは、かなりの精神的苦痛となるのだ。
できるだけ、頼りになる人物は残しておきたいと思うのが当然だろう。

……もっとも、美奈と初香以外では、悲しいことに明空の戦闘能力が一番低かったり
するのだが、それについては深く考えないことにしよう。




[19]投稿者:『レッツ対主催 その3』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/30(Wed) 20:56 No.458  

そして、話し合いの結果、商店街にはえびげんとナビィが行くこととなった。

ナビィは近接戦闘能力に優れているので、後衛のえびげんと相性が良いというのが
決め手となった。

支給品の整理と交換をした後、えびげんとナビィは商店街に向かうこととなった。
二人を見送りに外に出たクリスがナビィに声をかける。

「……ナビィ、何なら私が代わってもいいのよ?
 明空と同じように、貴女も休息が必要だと思うし……」

クリスの心配そうな声に、ナビィは笑って答える。

「大丈夫だって、クリス!
 そりゃ放送のことはショックだったけど、いつまでも
 凹んでるわけにはいかないでしょ?
 それに、今は身体を動かしたい気分なんだ!」

ナビィは明るく振舞っているが、どう見ても空元気にしか見えなかった。

クリスはえびげんに耳打ちする。

(……ナビィのこと、お願いします)
(大丈夫。できる限りのフォローはしとくから)

えびげんが頷くのを見て、クリスは少し安心する。

手を振りながら去っていくナビィとえびげんを見送った後、
クリスは研究所に戻ろうと踵を返す。

だが、ちょうどそのとき雨が降り出したのに気がつく。

「雨……もう、そんな時間なのね……」

情報交換や今後の方針について話し合っていたせいで、思ったよりも
時間が経っていたらしい。

「大丈夫かしら、二人とも……」

雨の中、商店街へと向かっているだろう二人を心配しながら、
クリスは雨を避けるために研究所へと戻っていった。





【A−4:X2Y3 / 国立魔法研究所 / 1日目:夕方】

【ミア@マジックロッド】
[状態]:魔力ゼロ(回復した分は初香と美奈の治療に使用)
[装備]:マジックロッド@マジックロッド
ブロードソード@アストラガロマンシー
スペツナズ・ナイフx1@現実
四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料12食分、水12食分)
火薬鉄砲@現実世界
(本物そっくりの発射音が鳴り火薬の臭いがするオモチャのリボルバー【残り6発】)
クラシックギター@La fine di abisso(吟遊詩人が持ってそうな古い木製ギター)
エリクシル@デモノフォビア
赤い薬×3@デモノフォビア
人肉(2食分)@リョナラークエスト
新鮮な人肉(当分は無くならない程度の量)
[基本]:対主催、できれば誰も殺したくない
[思考・状況]
1.体力と魔力の回復
2.国立魔法研究所で待機、仲間を守る
3.なぞちゃんの捜索
4.バトルロワイヤルを止めさせる方法を探す

※東支部で襲ってきたモヒカンが今回遭遇したモヒカンと同一人物だとは認識していません。
※オーガの持っていた肉が人肉だと気づいていません。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。



【登和多 初香{とわだ はつか}@XENOPHOBIA】
[状態]:疲労中、精神疲労小、全身打撲、アバラ二本骨折、胸骨骨折
(怪我は魔法で緩和、傷薬と包帯で処置済み)
[装備]:奈々の拳銃(8/8)@BlankBlood
クマさんティーシャツ&サスペンダースカート(赤)@現実世界
[道具]:デイパック、支給品一式
火炎放射器(残燃料100%)@えびげん
ノートパソコン&充電用コンセント
(電池残量3時間分程度、OSはWin2kっぽい物)@現実世界
オーガの首輪@バトロワ
[基本]:殺し合いからの脱出
[思考・状況]
1.首輪について考察する
2.仲間と情報を集める

※魔法の存在を知りました。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。



【加賀 美奈@こどく】
[状態]:疲労中、精神疲労中、右肩複雑骨折
(怪我は魔法で緩和、傷薬と包帯で処置済み)
[装備]:スペツナズ・ナイフx3@現実
先の尖っている石@バトロワ世界
[道具]:デイパック、支給品一式
木彫りのクマ@現実世界(一般的なサイズのもの)
エリクシル@SilentDesire
[基本]絶対死にたくない、元の世界へ帰る
[思考・状況]
1.国立魔法研究所で待機

※モヒカンを危険人物と判断しました。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。
※エリクシル@SilentDesireの効果を知りました。
(貴重品なので、自分や初香の怪我には使用するつもりはありません)



【クリステル・ジーメンス@SILENT DESIRE】
[状態]:健康、魔力残量十分
[装備]:三八式歩兵銃+スコープ(残弾1発、肩掛け用のベルト付き)@現実世界
涼子のナイフ@BlankBlood
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
魔封じの呪印@リョナラークエスト
髪飾り@DEMONOPHOBIA
モップ@La fine di abisso
白い三角巾@現実世界
雑巾@La fine di abisso
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.国立魔法研究所で待機
2.アーシャ・リュコリスかエリーシア・モントールと会えたら合流する
3.首輪を外す方法を考える

※明空のことが何故か気になってます、もしかしたら惚れました
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。
※銃の使い方を教わりました。



【御朱 明空(みあか あそら)@La fine di abisso】
[状態]:健康
[装備]:ツルハシ@○○少女
AM500@怪盗少女(残弾1発)
スペツナズ・ナイフx2@現実
[道具]:デイパック、支給品一式
おにぎり×4@バトロワ
ランチパック×4@バトロワ
弁当×1@バトロワ
ジュース×3@バトロワ
包丁@バトロワ
ライター@バトロワ
マタタビの匂い袋(鈴付き)@現実世界
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.国立研究所で待機、仲間を守る
2.冥夜の死に対して半信半疑

※何かあったら自分が身体を張って仲間を守るつもりです
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。
※銃の使い方を教わりました。
※傷薬と包帯は美奈と初香の治療に使いました。
※殺し合いに乗った者がいること、すでに殺し合いが起こっていることを知りました。





【A−3:X4Y3 / 森 / 1日目:夕方】

【えびげん@えびげん】
[状態]:健康
[装備]:ショットガン(残弾数3+14)@なよりよ
スペツナズ・ナイフx2@現実
メイド服@えびげん
[道具]:デイパック、支給品一式
パンダのきぐるみ@現実世界
豹柄ワンピース@現実世界
ウェディングドレス(黒)@現実世界
ビキニアーマー@現実世界(コスプレ用のため防御力皆無)
[基本]:ハデ夫をぶちのめしたい
[思考・状況]
1.商店街へ向かい、物資と首輪解除のための工具を見つける

※モヒカンを危険人物と判断しました。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。
※エルデクーヘンx3@創作少女は皆で食べました。



【ナビィ@リョナマナ】
[状態]:正常
[装備]:カッパの皿@ボーパルラビット
スペツナズ・ナイフx1@現実
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.商店街へ向かい、物資と首輪解除のための工具を見つける
2.明空についてマタタビの匂い袋が他人の手に渡らないようにするつもり
 (……だったが、放送のショックで忘れている)
3.キング・リョーナの行いをやめさせる

※モヒカンを危険人物と判断しました。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。
※オルナの死を受け入れました。






[20]投稿者:『食べ物 > 妹』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2009/12/31(Thu) 14:13 No.460  

「クッキーうめぇ!」

支給品の焼き菓子に舌鼓を打っているのは涼子さんである。

彼女は先ほど頂いたなぞちゃんの支給品に入っていたクッキーを
三時のおやつとしてバリボリ食べていたのだ。

「うーん、この柔らかな味わいと手作り感溢れるクマさんが
 殺し合いによって荒んだ私の心を癒してくれるぜぃ〜」

涼子さんご満悦である。
だが、涼子さんの顔が一転不満そうな表情へと変わる。

「でも、できればゼリーが欲しかったなー」

涼子さんの好物はゼリーである。
彼女、ゼリーには目が無く、「俺、この仕事が終わったらゼリー食うんだ!」
と無駄に死亡フラグを立てるほどの入れ込みようなのだ。

「このたこ焼きもおいしいんだけどねー。生憎、冷えちゃってるからなー」

涼子さん、今度はたこ焼きを取り出して食しているが、やはり不満顔だ。

「たこ焼きはやっぱりホクホクじゃないと駄目だよねぇ。
 できれば、温めてから食べたいとこだけど……」

そこで、涼子さんはハっとする。

「そうだ!商店街!ここならレンジくらいあるはずじゃない!」

ホクホクのたこ焼きが食べられそうな可能性を見つけて、目を輝かせる涼子さん。

「いや……それだけじゃないぞ!?
 もしかしたら、商店街にはゼリーもあるかも!?
 いや、きっとあるに違いない!!」

ホクホクのたこ焼きだけでなくゼリーまで食べれるかもしれないと、
期待を膨らませる涼子さん。
彼女のテンションはうなぎ上りに上がっていく。

「よっしゃあぁぁぁ〜〜〜〜!!ホクホクのたこ焼きとゼリーが
 私を待ってるぜぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!」

ハイテンションとなった涼子さんは歓喜の雄叫びを上げながら商店街へと向かっていくのだった。

……ちなみに、僅かばかりに探してみようと思っていた妹のことは、食欲に押し出されて
忘れ去っていた。




【B−2:X4Y4/花畑/1日目:午後】

【天崎涼子@BlankBlood】
[状態]:小疲労、左腕に中程度の切り傷(水とハンカチで処置済み)
[装備]:ルカの双刀(一本)@ボーパルラビット
[道具]:デイパック、支給品一式×4(食料のみ23食分)
    エリーシアの剣@SILENTDESIREシリーズ
    防犯用カラーボール(赤)x1@現実世界
    ライトノベル@一日巫女
    怪しい本@怪盗少女
    カザネの髪留め@まじはーど
    銘酒「千夜一夜」@○○少女、
    眼力拡大目薬×3@リョナラークエスト
    油性マジック『ドルバッキー(黒)』@現実世界(新品、ペン先は太い)
    たこ焼きx1@まじはーど(冷えてる)
    運命の首飾り@アストラガロマンシー
[基本]:一人で行動したい。我が身に降りかかる火の粉は払う。結構気まぐれ。
    でも目の前で人が死ぬと後味が悪いから守る。
[思考・状況]
1.お宝を探す
2.商店街に行き、ゼリーを探す
3.商店街に行き、たこ焼きをレンジでチンする
4.モンスターとその仲間を警戒

※運命の首飾りの用途に気づいていません。
※ナビィ、クリス、明空、伊予那、なぞちゃん、エリナをモンスター、
 もしくはモンスターの仲間だと思っています。
※クマさんクッキーは全部平らげました。






[21]投稿者:『仲間かと思ったが、気のせいだったぜ!』 289◆SqVSQKtY 投稿日:2010/01/01(Fri) 13:08 No.461  

森を、山を越えて進む影があった。
その影はぐにょぐにょした半透明の軟体を持ち、その身体は水気と滑りを
帯びており、大きな一つ目を持っていた。

スライムである。

彼(?)は桜に撃退された後、湖で身体に着けられた火を消してから
北へと進み続けていたのだ。

そして、とうとう山を抜けた彼は二人の参加者と出会うことになる……。




鬱蒼とした森の中、二人の男が座り込んでデイパックを漁っていた。
狂気のエルフ・ダージュと、世紀末馬鹿・モヒカンである。

彼らは情報を交換した後、国立魔法研究所の女性たちを皆殺しにするための
作戦を練っていた。
その過程で、ダージュがまだ自分の支給品を確認していないことに気が付き、
デイパックの中身を確認をしていたのだ。

「へぇ……今まで必要無いと思って確かめてなかったが、
 なかなかどうして、面白そうなものが入ってるじゃないか」

自分の支給品を確認したダージュは口元に笑みを浮かべて、
さっそくそれらを利用した参加者の殺し方と嬲り方を考え始めた。
それに対して、同行者であるモヒカンはダージュに怒鳴る。

「おい、長耳!一人で納得してないで俺にも見せやがれ!
 ついでに武器があるなら寄越せ!」
「ああ、悪い悪い。
 見てみろよ、これらを上手く使えば……」

モヒカンに支給品を見せようとしたダージュだが、ふと茂みの向こうに何者かの
気配が存在するのに気づき、息を潜めて警戒態勢を取る。

(何かいるな……相手が気づいているか分からないし、ここは様子を見て……)

だが、それをぶち壊しにする馬鹿がいた。

「おいコラ!!そこにいるのは分かってるんだぜ!!
 誰だか知らねーが、出てきやがれ!!」

気配の方向に向かって指を突きつけ、叫ぶモヒカン。
ダージュは額に手をやって、やれやれと言わんばかりに頭を振る。

「……ま、いいか。どちらにしろ、接触するつもりだったしな。
 おい、聞いた通りだぜ?出てきなよ」

その言葉を受けてか、がさがさと茂みが揺れて現れた者は……。


スライムだった。


「お……!?おおおぉぉぉ!!?」

モヒカン、スライムを見て驚きの声を上げる。
ついで出てきた言葉には、歓喜と親しみが込められていた。

「お前……ベドロゥじゃねーか!?」

嬉しそうに叫ぶモヒカン。
それを聞いたダージュが訝しそうな声を上げる。

「何だよ変態?このモンスターと知り合いなのか?」
「おうよ!コイツはベドロゥ、俺の仲間さ!」
「……そうなのか?」

自信満々に断言するモヒカンに対して、ダージュは半信半疑だった。
だが、モヒカンがそう言うなら間違いないのだろうとダージュは思う。
さすがに、仲間を見間違える馬鹿などいまい。

「よし!ベドロゥ、さっそくだが俺たちに手を貸せ!
 俺たちは向こうの建物にいる4人の女どもを皆殺しに……!」

ゴスッ!

「ごふっ!」

モヒカンが言い終わる前に、鈍い音と呻き声、次いで何かが倒れる音が聞こえた。
音の方向を見ると、ダージュがベドロゥ(仮)の触手に殴られて倒れていた。

「お、おいベドロゥ!!?何やってんだ、そいつは一応仲間で……!!」

ゴスベキグシャドゴッ!

「ウグホオオォォォッ!!?」

モヒカン、ベドロゥ(仮)の触手乱れ打ちを喰らって錐揉み回転しながら吹っ飛ぶ。
そして、近くの無駄に固い大木に頭を打ちつけて気を失った。

油断した二人は、ベドロゥ(仮)……ではなく、スライムにあっさりと負けてしまった。

なんという喜劇……もとい、悲劇であろうか。


ぽつ、ぽつ……ざぁぁぁぁぁ……。


雨が降り始め、森の葉が水を受けてざわつき始めた。
自然の喧騒の中、スライムは二人にトドメを刺そうと触手を伸ばす。

だが、そのとき森の中へと走ってくる足跡が聞こえてきた。
素早く木の上に飛び移り、警戒態勢を取るスライム。

やがて、聞こえてきた声は……

「うわー、けっこう濡れちゃったよー……」
「でも、近くに森があったのは不幸中の幸いだったわね。
 この森はたしか商店街まで続いてるはずだから、
 このまま森を通って商店街まで歩くことにしましょ」
「さんせーい」

えびげんとナビィだった。
彼女たちは出発直後に雨に見舞われたため、慌てて雨を避けるために近くの森へと
走ってきたのだった。

「………………」

二人の女性の姿を確認したスライムは、そのまま彼女たちを追跡し始めた。

すでに不味そうな男たちのことなど、眼中になかった。
より美味そうな獲物を見つけたスライムは、嬉々とした様子でえびげんとナビィを
追いかけ始めたのだった。




「……ぐぅ……!」
「……うぐぉぉ……!」

そして、しばらく時間が経った後、モヒカンとダージュは目覚めた。

「……話が違うぞ、変態……!
 あのモンスター、お前の仲間だったんじゃないのか……!?」
「くそ……!ベドロゥの野郎、まさか裏切りやがったんじゃ……!」
「……おい、変態……アレは本当にお前の仲間だったのか?
 はっきりいって、モンスターなんて同じ種類だったら見分けなんて
 つかないだろう?スライムのようなモンスターなら、なおさら……」

ダージュの言葉を聞いたモヒカンはハッとした表情を浮かべた。

「そ……そういえば、ベドロゥにはあんなデッケェ目玉なんか無かったはず……!」
「おい、ふざけんな!?だったら、完全に別人じゃねーか!?」
「う……うるせぇ!!そんな些細な違いに気づくワケねーだろうが!!?」
「どこが些細なんだよ!!?」

ギャーギャー言い合いを始める二人。
雨の音が響く森の中、彼らの時間は無駄に消費されていくのだった。




【A−3:X4Y4 / 森 / 1日目:夕方】

【モヒカン@リョナラークエスト】
[状態]:小ダメージ、顔面に落書き、頭部に木の枝が刺さった跡、
    カッパの皿が刺さった傷、脚に刺し傷、尻に刺し傷
[装備]:無し
[道具]:無し
[基本]:女見つけて痛めつけて犯る
[思考・状況]
1.女を見つけたらヒャッハー
2.初香、えびげん、ミア、美奈を殺す

※東支部でのオーガ達との戦闘中の記憶が殆どありません
※スライムがベドロゥかと思ったが、そんなことはなかったぜ!



【ダージュ@リョナマナ】
[状態]:小ダメージ、気絶、精神小疲労
[装備]:なし(支給品を確認していません)
[道具]:デイパック、支給品一式
    宝冠「フォクテイ」@創作少女
    デコイシールド@創作少女
    不明支給品1〜3種(ダージュが使えると判断したものが最低でも1種)
[基本]リョナラー、オルナの関係者を殺す
[思考・状況]
1.オルナの関係者を殺す(誰が関係者か分からないので皆殺し)
2.現在は魔法も簡単なものしか使えないので強いヤツを避けながら夜を待つ

※モヒカンに対する信用が下がりました。



【A−3:X4Y3 / 森 / 1日目:夕方】

【えびげん@えびげん】
[状態]:健康
[装備]:ショットガン(残弾数3+14)@なよりよ
スペツナズ・ナイフx2@現実
メイド服@えびげん
[道具]:デイパック、支給品一式
パンダのきぐるみ@現実世界
豹柄ワンピース@現実世界
ウェディングドレス(黒)@現実世界
ビキニアーマー@現実世界(コスプレ用のため防御力皆無)
[基本]:ハデ夫をぶちのめしたい
[思考・状況]
1.商店街へ向かい、物資と首輪解除のための工具を見つける

※モヒカンを危険人物と判断しました。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。



【ナビィ@リョナマナ】
[状態]:正常
[装備]:カッパの皿@ボーパルラビット
スペツナズ・ナイフx1@現実
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.商店街へ向かい、物資と首輪解除のための工具を見つける
2.明空についてマタタビの匂い袋が他人の手に渡らないようにするつもり
 (……だったが、放送のショックで忘れている)
3.キング・リョーナの行いをやめさせる

※モヒカンを危険人物と判断しました。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。
※オルナの死を受け入れました。



【スライム@一日巫女】
[状態]:健康
[装備]:なし(出来ない)
[道具]:なし(持てない)
[基本]:目の前の敵に襲い掛かる
[思考・状況]
1.えびげん、ナビィを追跡する
2.敵を見つけ次第攻撃

※基本的に木の枝をつたって攻撃するようです。
※自己再生能力を持っていますがコアをやられると
 おしまいというステレオタイプなスライムです。






[22]投稿者:「アタシには分かる、アタシは・・・」その1 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2010/01/12(Tue) 13:32 No.465  
「うーっ! 考えてても仕方ないか! とにかく道なりに進んでみよう!」

番が勢いよく第一歩を踏み出した瞬間だった。

「おーい! そこの貴女ー! ちょっと待ってー!」

女性の元気な声に引き止められ、番は渋々振り向き問い掛けた。

「そこの貴女ーって、私?」

番の視線の先には、赤い髪の女性が駆け寄ってくる光景があった。
赤い髪の女性は大きく手を振って門番の問い掛けに答えた。
彼女は番の前で立ち止まると、少し息を整えてから口を開いた。

「引き止めちゃってごめんね。 私、アーシャ・リュコリス。 よろしくね!」
「えっ、ああっ、どうも。 私、門番。」

アーシャの勢いに押されるように番は名乗り、軽く会釈をした。

「って、アーシャ・・・だったっけ、私になんの用?」
「そのことなんだけど・・・。 ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ。」
「手伝うって、なにを? というより、いきなり手伝ってって言われても・・・」
「・・・うーん、ごめん! 説明は後でするね! 今は兎に角、人手が欲しいんだ!」
「――うわぁっ!?」

アーシャは番の腕を掴むと一目散に来た道を走って戻っていった。
突然のことに番は体勢を崩し、前のめりになってしまう。
番は倒れないように慌てて前に足を出しつつ叫んだ。

「わ、分かったよぉ! 走るからちょっと待ってってぇー!」

〜〜〜〜

「お待たせー! 協力してくれる人を連れてきたよー!」

森の入口近くに聳える、太い木に向かってアーシャは呼びかけた。

「えっ、協力してくれる人って、私まだ・・・」

その時、番の反論を遮るように大きな声が幹の向こう側から聞こえた。

「おかえり! アーシャお姉ちゃん!」

同時に、番とアーシャの前に声の主が姿を現した。
その姿に番は思わず目を丸くして覗き込んでしまった。
彼女の前には、修道服に身を包んだ奇麗な人形が立っていたからだ。
人形は彼女を見るなり、水を吸って重くなってしまった修道服を必死に引き摺って近寄る。
そして、唖然としている番に抱きついて問い掛けた。

「わーい! 素敵なお姉ちゃんが助けに来てくれたー! エル嬉しーなぁー!」
「た、助けにって・・・だから私まだ・・・」
(す、素敵なお姉ちゃんだなんて、初めて言われた・・・。 なんだか、照れちゃうなぁ・・・。)
「ええっ! そんなぁっ!」

エルと名乗った人形が、番を見上げて問い掛ける。

「エル・・・お姉ちゃんならきっと助けてくれるって・・・。」
「うっ・・・。」

エルの今にも泣き出しそうな目に、思わず番は視線を逸らそうとした。
しかし、それよりも先にエルにきつく抱きしめられ、番は視線を逸らすことができなかった。

「そう思ってたのに・・・。 素敵な・・・お姉ちゃん・・・ならっ・・・助けてくれるって・・・思ってたのにぃっ! うえぇーんっ!」

エルはついに声を上げて泣き出してしまった。
弱った番はしぶしぶ協力を受け入れることにした。

「ああー、もぉ分かったよぉー! 協力するからー!」
「ホント!? ありがとぉっ! お姉ちゃんっ!」
「・・・へっ?」

番は再び唖然としてエルを見つめた。
エルはさっきまでの泣き顔から一転して、満面の笑みを浮かべていた。

(こ、これはもしかして・・・。 騙されたー!?)

思わず泣きたくなった気持ちを溜め息に変えて、番はがっくりと肩を落とした。

〜〜〜〜

それから、アーシャ達は幹の向こう側へと回った。

「ただいま、シノブちゃん。 調子はどう?」

アーシャはエルを降ろしながら、問い掛ける。

「あ、アーシャねえ・・・。」

アーシャの問い掛けに、木の幹にもたれて座り込んでいたシノブが弱々しい声で答えた。

「すまない、アーシャねえ・・・。 アタシとしたことが、夕立如きで熱だしてぶっ倒れちまうなんて・・・。」
「ううん、気にしないでシノブちゃん。」

シノブはアーシャの後ろで肩を落としている少女に視線を向けた。

「アンタか・・・協力してくれる人って・・・。」
「う、うん、まぁ・・・。 協力するって言っちゃったからね。」

シノブの問い掛けに番は溜め息混じりに答えた。

「すまない・・・。 こんなことに巻き込まれちまって・・・それどころじゃないってのに・・・。」
「ううん、もういいんだー。 ・・・って、こんなこと?」

番は彼女の言葉の意味が分からず聞き返した。
番にとってこの状況だけが巻き込まれたことだと思っていたからだ。

「なにを言って・・・アンタも・・・キングが仕組んだ・・・このゲームに・・・巻き込まれたんだろ・・・?」
「へっ? キング? ゲーム? なんだいそりゃ?」
「・・・えっ?」

一同の間に暫し、雨音だけが鳴り響いた。
その静寂を小さな咳払いで吹き飛ばし、恐る恐るアーシャが口を開いた。

「・・・えっと、番ちゃん。 もしかして、どうして此処に居るのかって・・・」
「ん? そういや、私はどうしてこんなトコに居るんだろう?」
「・・・つ、番ちゃん。 今までずっとなにをして・・・」
「寝てたんだけど、なんだか眠く無くなっちゃって。 仕方ないからお散歩してたんだ。」

この後に及んで、現状を全く把握していない人物が居た。
この事実にアーシャ達は、暫く開いた口が塞がらなかった。

〜〜〜〜

その後、アーシャから簡単に現状を説明された番は怒っていた。

「なんて・・・。 なんて酷いヤツなんだー! キングってヤツはー!」
「番ちゃん・・・。」

憤慨する番をアーシャは宥めようと、肩に手を置こうとした。

「私の楽しみの二度寝を邪魔するなんて許せない!」
「・・・えっ?」
「泣いて土下座するまでぶってやるぅー!」
「な、泣いて土下座するまで・・・ってわぁっ!?」

唖然としていたアーシャは、突然番に両腕を掴まれ体勢を崩しそうになった。

「アーシャ! シノブ運ぶの手伝ってあげるから、キングってヤツを泣かすの手伝ってね!」
「わ、分かった、手伝うよ。」
「よーし、決まり♪ よろしく、アーシャッ!」

番はシノブの傍に駆け寄ると、彼女を背負うべくしゃがみ込んだ。
シノブは軽く頷き、ゆっくりと起き上がって彼女の背にもたれた。

「わわっ、凄い熱。 どうしたの?」
「色々とあってな・・・この夕立で・・・ダウンってワケさ・・・。」
「ふーん・・・。 なんというか、大変だったんだね。」

番はシノブを背負って立つと、アーシャの後に続いた。

「・・・厄介な娘【こ】を連れてきたわね。 アーシャ。」

アーシャに抱きかかえられた状態で、エルはアーシャに囁いた。

「うん、確かに彼女から感じた魔力は何処か、禍々しい感じがしたんだけど・・・。」
「・・・じゃあ、どうして?」
「彼女の気配からは、それほど悪者という感じがしなかったんだ。」
「一か八かに賭けるしかない状況であるというのも確かね・・・。 でも、甘いわよ、アーシャ・・・。」
「そうだね。 自分でも甘い考えかもしれないとは思ってるよ・・・。」

二人の短い溜め息を遮ぎるように、後ろを歩いていた番が声を掛ける。

「ねー、二人とも、前から誰か来るよー。」

番の言う通り、前方から小さな人影がフラフラと近づいてきていた。
アーシャ達は人影の正体を探ろうと目を凝らしたが、夕立のせいではっきりとは分からなかった。

「・・・アーシャ。」

エルの囁きにアーシャは軽く頷いた。
それからすぐにアーシャはエルを下ろすと、小太刀の柄に手をかける。

「皆、私が前にでて様子をみるよ。 万が一・・・ってことがあるといけないから、安全な距離まで下がってて。」

番は一度頷くと、エルの手を握って離れる。
そして、戦闘になっても巻き添えにならないぐらいに離れた所で立ち止まると手を振って合図した。
アーシャは小さく頷くと前方に注意を向けた。

(どうやら小さな女の子みたいだけど、不自然なぐらいに精気が感じられない・・・。)

アーシャの脳裏に不死系の魔物である可能性が浮かび上がった。
不死系の魔物には、少女の姿をしている物も存在しているからだ。

(此処はもうちょっと様子を見て・・・。)

そう思った時だった。

「あっ!!」

突然、目の前の人影が崩れ落ちた。
アーシャは人影の傍へと飛び出した。

(しまった! つ、つい助けようと・・・!)

シノブの例もある。
もしかしたら、彼女もこの夕立に当てられ酷く弱っているのかもしれない。
そんな考えも頭の片隅にあったからだ。
困っている人を黙って見ていることのできない性格も相俟って、反射的に飛び出してしまったのだ。

(くっ、こうなったら・・・。)

理由はどうあれ、此方から行動を起こしてしまった以上、退くか進むかを決めなくてはならない。

(進もう! 本当に弱っているだけということだってありえるから、確認だけはしないと!)

遠くからエルの制止の声が聞えるが、アーシャはあえて聞えないふりをした。
アーシャは心の中で大きく頷くとそのままの勢いで駆け寄る。
そして、崩れた人影の傍で立ち止まった。

(こ、こんな小さな女の子まで、巻き込まれてるの・・・!?)

アーシャは思わず息を飲んだ。
人影の正体が年端も行かないであろう、小さな少女であったからだ。
ボロボロになった赤いローブに身を包んだ彼女は、倒れたまま微動だにする気配がなかった。
アーシャはまずは少女を抱き起こそうと思い、屈み込むことにした。

「あ、貴女! だいじょう・・・」

その時――。

〜〜〜〜
[23]投稿者:その2 投稿日:2010/01/12(Tue) 13:34 No.466  
『あっ!!』

アーシャが慌てて人影に駆け寄っていく様子を、シノブは番の背中越しに見ていた。

「(シノブさん、本当に申し訳ありません・・・。 私に、貴女の体調を回復させる術がないばかりに・・・)」
(やはり、私があの時、予測を間違えなければこんなことにはっ・・・! どうして、私はっ・・・!)

いつも通り、ではなくいつも以上に思いつめた声色のマインに、シノブは溜め息混じりに応える。

「(・・・だーかーらー! 気にすんなって・・・言ってるだろ・・・リト・・・。)」
「(いいえっ! 私のせいで貴女を巻き込んでいるのに、こんな時ですらなんの役にも・・・シノブさんっ!)」

マインの悲痛な叫びから彼女の言わんとしていることを悟り、シノブは気力を振り絞って番に呼びかけた。

「番・・・! アーシャねえがあぶねぇ・・・!」
「えっ? なんだ・・・」
「兎に角っ! アーシャねえを・・・呼んでくれっ! ・・・早くっ!」
「わわ、分かったよぉー! しょうがないなぁー。」

番は渋々息を吸って、アーシャの名を呼ぼうとする。

その直後――。

『あ、貴女! だいじょう・・・』

〜〜〜〜

「――アーシャ、ちょっと待ってーっ!」
「っ!?」

アーシャが呼びかけに反応し動きをとめたのと同時だった。

「ぐっ・・・ぁ・・・っっ!?」

アーシャの赤い髪が鮮やかに宙を舞い、奇麗な一筋の放物線を描く。
くの字に折れ曲がっていた身体が放物線の最高点付近で弓なりに変わり、背中から地面へと落下していく。
そして、地面に激突してもなお、とまらぬ勢いを殺すためアーシャの身体が激しく地表を滑った。

「ぐっ!! ・・・ふぅっ!! ・・・かっ・・・はっ!」

その間、時間にしてほんの数秒。
しかし、番達の目には数分の出来事のように映っていた。

「アーシャッ!?」
「アーシャ・・・ねえっ!!」
「あ、アーシャ・・・っ!?」

すぐに我に返った番達は一斉に彼女の名を叫ぶ。
アーシャは一度だけ頭を強く振って意識を覚醒させ、状況を確認しはじめた。

「う・・・くっ!」
(と、とりあえず、急所は外せたけど、思ってたよりもダメージが・・・! ・・・ともあれまずは、立たないと!)

アーシャは身を起こすため、身体を捩って四つん這いの体勢を取ろうとした。

「――あ、あぶねぇ・・・っ! アーシャねえ・・・っ!!」

その時、シノブの悲痛な声が雨音を切り裂き響いた。
その声に反応したアーシャは素早く視線を背中に向けた。

「――くっ!!」

そこには先ほどまで全く動く様子のなかった少女が、上空から自分を目指して落ちてくる光景があった。
アーシャは地面を転がって回避しようと思ったが、落下速度から見て今からでは到底間に合いそうに無いことを悟った。

(ダ、ダメ・・・間に合わ・・・ないっ!!)

アーシャはせめてもの防御策として、きつく目を閉じ、奥歯を噛みしめ、そして・・・。

〜〜〜〜

「アーシャ・・・ねえっ!!」

・・・ヤバイ。
どう考えても、あのままじゃアーシャねえはあの小さな怪物に殺られちまう!
早く、早くなんとかしねえと!

(だけど、エルは・・・まだ魔力が・・・!)

きっと、あの時に魔力を全て使っちまっている。
もし変身できたとしても、変身限界までにあの怪物を倒しきれないかもしれねえ・・・。

(でも、なんとか・・・! なんとか、しねえと・・・!!)

「あ、あぶねぇ・・・っ! アーシャねえ・・・っ!!」

・・・と、アタシは叫んだ。
・・・叫ぶことしか、できなかった。

(アタシが・・・こんなザマだから・・・!!)

アタシがもし、こんな無様に倒れてなきゃ。
アーシャねえの救出に向かえたし、もしかしたら番の協力も得られてたはずだ・・・。

(・・・アタシ・・・また・・・抗えないのか?)

・・・兎に角、このままじゃ、カッコよくて、優しいアタシの姉貴分が殺られちまう。
アタシの、大切な親友【とも】が・・・また一人、居なくなっちまうっ!
また、一人・・・居なくなるのを・・・。
アタシは、また・・・黙って、見てるしかっっ!

(・・・そんなの・・・イヤだっ!!)

「お願い・・・だ・・・。」

・・・気付いたら、アタシは呟いていた。

「・・・ぅん?」

番が場に不釣合いな間抜け声で反応したが、気にする余裕なんかなかった。

「アタシに・・・力を・・・!!」

アタシは気力を振り絞って言葉を続ける。

「戦う・・・力を・・・!! 親友【とも】のために・・・!」

頭の中で銅鐘がガンガン鳴り響き、目の前がグルグルとジェットコースターに乗ってる時みてえに周ってる。
でも・・・それでも!
アタシは・・・大きく息を吸って。

「――抗う力を、アタシにくれっ!!」

・・・その時だった。
よく知った、水色の眩しくて暖かい光がアタシを包んで。
そして、アタシは・・・!

〜〜〜〜

「・・・あ、れ?」

・・・すぐにくるはずの衝撃がこなかった。
アーシャは恐る恐る目を開き、その原因を探った。

「・・・あ、貴女は?」

アーシャの視線の先には、自分と怪物の間に立つ少女の後ろ姿があった。
一筋の白い線の入った深い赤色の左右非対称な鎧一式と、深い赤色の鎧下に身を包む少女は辛そうに肩で息をしていた。

「ダ、ダイジョブか・・・? アーシャねえ・・・。」
「えっ・・・?」

アーシャは困惑した。
確かによく見ればつい先ほどまで一緒に居た人物、シノブに非常に似ている。
なにより、自分のことを『アーシャねえ』と呼ぶのは彼女ぐらいだ。
しかし、何故か目の前の彼女がシノブだとは思えなかったからだ。
アーシャはシノブが居るはずである番の方へと素早く視線を流す。

「そ、そんな・・・!?」

しかし、そこに居たのは番だけで、その背中にシノブの姿は無かった。

「まさか・・・本当に・・・シノブちゃん?」
「ハハハ・・・。 まぁ、信じられねえってのは、分かるけど・・・。」

シノブはゆっくりと振り返って、手を差し出す。

「アタシだよ・・・アーシャねえ・・・。」

シノブはアーシャを立ち上がらせると、怪物の方へと振り返る。
しかしその時、突然体勢を崩してしまう。
アーシャは慌ててシノブの肩を取った。

「す、凄い熱じゃない!」

シノブから伝わってくる熱が、常人のそれではないことに驚きアーシャは叫んだ。

「へへ・・・ダイジョブ。 変身・・・してりゃ・・・こんぐれぇ・・・。」

シノブはアーシャから離れ、怪物の方を睨みながら答えた。

「大丈夫じゃないよ! もういいから、さがってて!」
「(シノブさん! その身体でこれ以上の戦闘は危険です! 後はアーシャさんに任せて下がりましょう!)」

アーシャはシノブの肩を掴みに行くための一歩を踏み出しながら叫ぶ。

「ダイジョブだっ! 戦わせて・・・くれ!」
「(バカ言うなリト! ようやく・・・変身・・・できたんだ!)」
「シノブ・・・ちゃん・・・。」
「(シノブ・・・さん・・・。)」

アーシャとマインは同時に言葉を詰まらせた。
シノブのか細く、しかし鬼気迫る声音に、彼女の決意の硬さを感じたからだ。

「イヤ、なんだ! これ以上・・・親友のために・・・なんも、できねぇの!」
「(この力さえ・・・あれば! アタシは・・・大切な・・・親友を、守れるんだ!)」
「・・・でも、やっぱりダメだよ。 シノブちゃん。 私は、貴女にこれ以上に無理をして欲しくないんだ。」
「(気持ちは・・・分かります。 ですが・・・。 ――シノブさんっ!!)」
「アーシャねえ・・・。 ――っ!!」

アーシャはシノブの肩にそっと手を置こうとした。
その時、マインの叫びに反応したシノブがアーシャを思い切り突き飛ばす。

「いったぁー・・・っ!?」

突き飛ばされ、尻餅をついたアーシャが目を開いた時だった。
黒い塊が凄い速度で脇を通り過ぎていった。
アーシャはその正体を探るべく振り向く。
雨音に混ざって鈍い音を何度も響かせ、地面を何度も抉っては撥ねた黒い塊の正体。
それは。

「シ、シノブ・・・ちゃんっ!?」

何度も地面を撥ね、泥だらけになって横たわるシノブの姿があった。
小さな呻き声が聞える所から、辛うじて一命は取り留めたのだろう。
アーシャは小さく安堵の溜め息をつき、すぐに怪物の方へと振り向いた。

「もう、容赦しないよ!」

アーシャは素早く立ち上がり、地面を蹴った。
アーシャと怪物との距離が一気に縮まる。

「――避けられたっ!? それならっ!!」

アーシャは居合いの要領で小太刀を抜いたが、怪物は寸での所で飛び退いて避ける。
不死系の魔物とは思えない身の軽さにアーシャは驚きつつも、更に踏み込む。

「たぁぁーっ!!」

アーシャの薙ぎ払いを怪物は更に飛び退いて避ける。
しかし、アーシャは既に見切っていた。

「甘いよ! ファイヤーボールッ!!」

アーシャは薙ぎ払いの勢いを使って片手を突き出し、ファイヤーボールを放つ。
着地間際の無防備な体勢の怪物は、どうすることもできずに吹き飛ばされた。

「これで、終わりだよ!」

怪物の纏っているローブに耐熱効果があると、アーシャは直感していた。
アーシャの読み通り、怪物は吹き飛ばされただけで大した痛手を負ってはいなかった。
アーシャは怪物の着地にあわせるように地面を蹴って距離を詰める。

「はあぁーっ!!」

アーシャ渾身の袈裟斬りが怪物の胸を切り裂いた。
怪物は呻き声1つすらあげずにその場に崩れ落ちる。
アーシャは大きく溜め息をつくと、小太刀を納めて振り返る。

「シノブちゃん!! 大丈夫っ!?」

アーシャはシノブの傍に駆け寄り、シノブの肩を抱き起こした。

「アーシャ・・・ねえ・・・アタシ・・・。」

シノブの声は今にも泣きそうなぐらいに震えていた。
アーシャは小さく溜め息をつくと、笑顔でシノブの顔を覗きこむ。

「・・・シノブちゃんが助けてくれなかったら、私はあの時、やられていたよ。」
「アーシャ・・・ねえ・・・。」

シノブはアーシャの柔らかい笑顔に心を打たれた。
彼女の笑顔に応えたい、そう感じたシノブは目を閉じて気持ちを切り替える。

「ありが・・・」

ゆっくりと目を開いて、笑顔を作ろうとした時だった。
[24]投稿者:その3 投稿日:2010/01/12(Tue) 13:37 No.467  
「――ぅわっ!?」

シノブは振動に煽られアーシャの手からずれ落ちる。
シノブはアーシャの方に視線を向けた。

「ア、アーシャ・・・ねえ?」

シノブの蒼い瞳がゆっくりと見開かれていく。
その瞳に、映りこんだ物は。

「ウソ・・・だろ・・・?」

胸元からなにやら細い物体が顔を出し、自身の髪色よりも赤い血を吐いて項垂れている。
大切な姉貴分、アーシャ・リュコリスの姿だった。

「そんな・・・そんなのって・・・・・・。」

アーシャの胸元から飛び出した物体がうねり、自身が空けた穴を戻っていく。
そして、その先端がアーシャの体内に収まった辺りで動きをとめた。

「そんな・・・の・・・って・・・」
「(――シノブさんっ!! 危ないっ!!)」

マインの叫び声にシノブが我に返るのと、その身体が宙に上がるのは全く同時だった。

「アーシャ・・・ねえ・・・!?」

シノブの首を掴み、片腕で持ち上げていた者の正体は、先ほどなにかに貫かれたはずのアーシャだった。

「どう・・・し・・・ぐぁっ!!」

シノブの問い掛けは、首を絞められ中断させられた。

「――シ、シノブッ!! ちょっと、ちょっと! アーシャ、なにやって・・・」
「・・・無駄よ、番。」
「へっ?」

番が止めに入ろうとするのを、エルは強く手を握って制する。

「アーシャはもう、アーシャじゃないわ。」
「な、なに言ってるんだよー! 兎に角、私は止めに・・・」
「ダメよっ! 番っ!」

とても自分よりも小さな少女とは思えない気迫に圧倒され、番は動きを止める。

「いい? このまま、貴女は私を連れて逃げるのよ。」
「なな、なんでだよー!」

エルの淡白な態度に、番は声を荒げる。

「さっきだって、なんでシノブを助けに行こうとしたの止めたのさー! エルは一体、なにを・・・」
「・・・キングを殺す為よ。」
「ふぇっ?」
「私は絶対に生き残って、キングのもとへ行かなくてはならないのよ。」
「でで、でも・・・だからって・・・!」
「貴女も、キングのもとへ行きたいんでしょう?」
「う・・・。」

エルの冷たく尖った視線に番は言葉を詰まらせた。
エルは大きな溜め息をついて、言葉を続ける。

「今ならまだ、私と貴女だけは逃げ延びられるわ。」
「た、確かに・・・そうだけどさ・・・。」

番はエルの視線が怖くなって思わず目を逸らす。
その瞬間。

「ぐっ!! ぅあぁぁ・・・っ!!」

シノブの苦痛に呻く声が聞え、番は振り向いた。

「シ、シノブッ!?」

番の目に、鯖折りの体勢で締められているシノブの姿が映る。
番は慌てて助けに向かおうとした。
その時だった。

「く・・・来るなぁっ!」

シノブの叫び声で番は動きを止める。

「エルを・・・ぐぅぅっ・・・つれ・・・逃げ・・・ぐあぁっ!! ・・・番っ!!」
「え、でも・・・。」

反論しようとした番をエルが腕を掴んでとめる。

「さぁ、逃げるわよ。」
「うぅー・・・分かったよぉー・・・。」

本人に来るなと言われてしまっては仕方が無い。
番はそう思うことにして振り返り、エルと一緒に一歩を踏み出した。

「ぅぐ・・・うぁああ・・・ぁギぃぃーっ!!」

シノブの苦しそうな呻き声に、番は身体を小さく撥ねさせ足を止める。

(うぅー・・・。 なんとなく・・・だけど・・・なんか、ヒッジョーに・・・。)

番は大きく溜め息をつく。

「ごめんエルッ! 私、なんだかこのまま逃げたらいけない気がしちゃって!」
「あっ! 待ちなさい番っ!!」

エルの制止を振り切り、番はアーシャとの距離を詰める。
番の接近に気付いたアーシャは、シノブを投げ飛ばす。

「――へっ!?」

アーシャから凄まじい魔力の奔流を感じた番は立ち止まる。

「うわぁっ!」

番が飛び退くのと、アーシャの放った火球が番の前で爆発したのはほぼ同時だった。
番は空中で爆風に煽られ体勢を崩す。

「あでっ!!」

番は頭から地面に落下してしまった。

「うぅーん・・・。」
(あっちゃぁ、私・・・いいトコないじゃん・・・。)

番が気を失ったのを確認したアーシャは、息も絶え絶えなシノブの頭を掴み強引に持ち上げる。

「ぐぇっ!!」

アーシャはシノブの腹を思い切り殴った。
それから今度は両手でシノブの頭を掴み持ち上げる。

「うぎっ・・・ああぁっ!!」

頭蓋骨が締め付けられる痛みに、シノブは目を見開き最後の力を振り絞るかのように叫ぶ。
両足をばたつかせ、アーシャの両手を掴んで抵抗を試みる。
しかし、全く効果がなく、次第にシノブの動きが小さくなっていく。
エルはその様子を一瞥すると、大きく溜め息をついた。

(・・・私が生き残るためですもの。)

エルは変身して森へ逃げることにした。
あの様子ではシノブは長く持ちそうになく、何処に逃げるにしても変身しなくては確実に追いつかれてしまう。
同じ変身して逃げるのであれば、遮蔽物の多い森の方が短時間で撒きやすいと判断したからだ。
エルはロザリオを握り、森へと振り向く。

(じゃあね、シノブ、番、アーシャ。 短かったけど、楽しかった・・・わっ!?)

しかし、何故か身体が動かずエルは目を丸くした。
エルは小さく咳払いをすると自分に問い掛ける。

(・・・なにを、今更。 ・・・躊躇っているの?)

エルは嘲笑いながら答える。

(躊躇う? 私が? ・・・なにを?)

エルは一度だけ呼吸を整えて言葉を続ける。

(利用するだけ利用して、使えなくなったら切り捨てる。 こんなこと、今まで何度もやってきたじゃない。)

エルは口元に薄く笑みを浮かべる。

(そう、何度も。 何度も。 何度も・・・何度もっ!)

エルの脳裏に今まで自分が行ってきた行為が、走馬灯のように流れる。

(何度もやってきた! 今回もそれをやるだけ! 久しぶりに・・・っ!?)

自分の言葉に驚き、エルは小さく身体を撥ねさせ問い掛ける。

(・・・久しぶり? ・・・どうして? 私は何度もやって・・・っ!!)

エルは少しだけ目を見開く。
そして、小さく咳払いをして言葉を続けた。

(そういえば、私・・・。 彼女に出会ってから一度も・・・こんなことしてないわね。)

忌み嫌われ蔑まれてきた自分に、一人の人間として接してくれた彼女。
エルの脳裏にその彼女と出会った日のことが浮かび上がる。

(無愛想で不器用なくせに、誰かを見捨てることが貴女はなによりも嫌いだったわね・・・。)

エルはロザリオを握る手に少しだけ力を込める。

(でもね、なにかを手に入れるためには、必ずなにかを切り捨てなくてはならないのよ。 それが・・・世界の道理なのっ!)

エルは目を閉じ懇願するかのように言葉を続ける。

(・・・理解【わか】って! 鬼龍院、美咲っ!)

その時だった。

「なに・・・ぃぎぁっ! してるっ! ・・・はや・・・ガぁぁ! ・・・逃げろ・・・エルフィーネェッ!!」
「――シノブッ!?」

シノブの叫び声にエルは振り向いた。
もう殆ど直立不動に近い状態のシノブの、頭蓋骨が砕かれようとしている光景がエルの前に広がる。

(そうよ・・・。 もう、手遅れ。 だから・・・だ、だから・・・)
(・・・それ・・・わ・・・み・・・か・・・エル・・・ッ!!)
(・・・えっ?)

エルは聞き覚えのある声が聞えた気がして周囲を見渡す。

(それ・・・私の・・・右・・・か・・・・・・フィーネッ!!)
(その・・・声・・・は・・・!?)

エルは動きをとめる。
エルの目の前が揺らめき、見覚えのある人物の姿が映る。

(――それでも、私の右腕か! エルフィーネッ!)
(美咲っ!?)

美咲の姿をした揺らめきに、エルは叫びかける。

(そんな・・・。 そんなこと言ってもっ! もうシノブはっ!)
(・・・人間ってのはな、諦めが悪いんだ。 なにもしてないで諦めるのは血も涙もない外道のすることだと、言わなかったか?)
(――っ!!)

美咲の姿をした揺らめきは、穏やかな笑顔で口を開く。

(お前は・・・血も涙もない外道なんかじゃない。 暖かい血の流れる人間。 ・・・そうだろ? 鬼龍院、エルフィーネ。)

暫しの沈黙の後、エルは大きく溜め息をつき、ロザリオを握る。

「・・・そうね。 ・・・その通りよ、五代目。」

エルの身体を白い光が包みこむ。

「貴女の右腕、鬼龍院エルフィーネは・・・」

エルは身の丈までに巨大化したロザリオを抱え地を蹴る。
その先には・・・。

「暖かい血の流れる・・・人間よっ!!」

エルはロザリオを水平に薙ぎ、アーシャの姿をした怪物だけを器用に吹き飛ばした。
そしてその勢いのまま近づき、支えを失い崩れ落ちるシノブの身体を片腕で受け止めた。

「・・・エル・・・どう・・・して・・・?」

エルにゆっくりと地面に横たわらされつつ、シノブは問い掛けた。
エルは怪物の方に振り向きながら答えた。

「・・・人間、だからよ。」
「・・・人間・・・だから・・・。」

シノブはゆっくりと、エルの言葉を繰り返す。

「・・・後は任せて、貴女は休んでなさい、シノブ。」
[25]投稿者:その4 投稿日:2010/01/12(Tue) 13:38 No.468  
エルはロザリオを抱え、怪物の様子を伺う。
怪物はフラりと立ち上がり、エルの出方を窺っているようだった。

(・・・どうやって本体を叩くかだけど。)

エルはあの時アーシャの胸元を貫いた物体が、怪物の正体だと直感していた。

(あの大きさで、あれだけ素早く動けるんだとしたら・・・狙い撃ちは厳しいわね。)

エルフィーネのロザリオは、その大きさ故に小回りが利き難い。
その欠点を補うのがマクベスと呼ばれる、誘導式ミサイルだ。
だがしかし、マクベスを持ってしてもあの怪物の素早さには対応しきれそうになかった。

(アーシャの身体ごと消し飛ばすのも手、だけど・・・。)

本体に脱出する隙を与えないよう、一撃で跡形も無く消し飛ばす。
マクベスやロケット砲”オセロー”ならば、それも可能だろう。
しかし、どちらも直撃させなければ脱出の隙を与えてしまう。
アーシャと戦っていた時の怪物の身のこなしを見る限り、あの怪物は乗っ取った肉体をかなり自由に操れるのだろう。
いくら弾速が速くとも、質量のある”物体”である以上、反応されてしまう可能性はある。

(キング・リアなら・・・。)

例えどれほど反応速度に優れていようとも、光速で飛んでくる物にまでは流石に反応しきれない。

(だけど、魔力残量から考えると・・・1発が限度ね。)

エルは唾を飲み込む。

(チャンスは1発・・・それも・・・直撃させないとダメだなんて・・・。)

少しでも狙いを外せば、怪物はアーシャの身体を脱出してしまうだろう。

(もし、そうなれば追撃できるだけの魔力は無い・・・。 そうなったら・・・。)

怪物は新たな身体を求めて行動するに違いない。

(・・・シノブか番が犠牲になってしまう!)

もし襲われても、今は二人ともロクな抵抗の出来ない状態だ。
従って脱出した時の距離によって、どちらかが襲われるのは確実だろう。
エルは奥歯を噛みしめる。

(使用する魔力を2発分ぐらいに絞れば・・・だけど。)

キング・リアは距離が離れれば離れるほど拡散して威力が減衰してしまう。
とは言え2発分に消費魔力を抑えても、人間を消し飛ばすに十分な威力は確保できる。
しかし、それには厳しい条件が1つ。

(至近距離から直撃させる・・・しかないなんて・・・。)

無論、成功させる自信はある。
しかし、相手は近接戦闘に長けたアーシャの身体を乗っ取っている。
元々、かなり自由に乗っ取った肉体を操れる怪物だ、万が一ということは十分にありえる。
エルはより確実な手を考えたかった。

(・・・より確実な・・・手!)

その時、エルの脳裏に妙案が浮かんだ。

(うふ、ふふふ・・・っ!)

エルの口元が思わず緩む。

(あるじゃない! ・・・簡単で、確実な手が!)

エルは一旦呼吸を整えると、怪物を見据えて叫んだ。

「覚悟なさいっ! 他人様【ひとさま】の安らかな眠りの時を弄ぶ外道っ!!」

エルはロザリオを肩に担ぎ、ハムレットを起動させる。
そして、怪物の側面に回り込むように走りつつ、怪物に向けて連射させた。
怪物はエルとは逆方向に走って迫る火線から逃げつつ、ファイアボールで反撃をする。
襲来してきた魔法がアーシャの使う魔法であったことに多少驚きながらも、エルは難なく避ける。

(・・・そろそろ、ね。)

エルは作戦通り怪物を誘導し、シノブと番から遠ざけたことを確認する。
エルは滑り込むようにしゃがむと、すぐさまキング・リアを起動させた。

「喰らいなさいっ! キング・リア!!」

そして、キング・リア用に溜めておいた魔力を開放させた。
眩い光の奔流が怪物に向かう。

「(そんな、消費する魔力を絞って・・・!?)」

その輝きからマインは、エルが全ての魔力を打ち出していないことを悟り叫んだ。

「(何故ですっ!? あれでは怪物を倒すことが・・・)」
「・・・やめ・・・ろ・・・エル・・・フィーネッ!!」
「(――えっ?)」

シノブの制止の意味が分からず、マインは呆然としてしまった。

「(シノブさん、やめろとはどういう・・・)」
「エルは・・・自分を・・・道連れに・・・!!」

シノブが全てを叫ぶよりも先に。

「――私の負けよっ! さぁっ、来なさい、外道っ!! 私の新鮮な身体を使わせてあげるわっ!!」

エルがロザリオを天高く放り投げ、両腕を大きく広げて叫んだ。
左腕が消し飛び、ぼろ雑巾のようになったアーシャの身体が、片足を引きずりながらエルの傍へと近づく。
その途中で、突然アーシャの身体が崩れ落ちた。

「グッうぅっ!!」

その直後、エルが苦悶の声をあげる。

「エルフィーネッ!!」

シノブは鉛のような全身に鞭打ち、地面を這いながら叫ぶ。

「・・・あははっ! ・・・かかった・・・わね・・・外道がっ!!」

エルは肩で荒く息をしながら、口元に笑みを浮かべて叫んだ。

「これで・・・絶対に・・・逃げられないっ! ・・・逃がさないっ!!」

エルの言葉でなにかを悟った怪物が、慌ててエルの身体から抜けようとする。
しかし、エルは怪物の細長い胴を握りしめ、貫かれた腹部にありったけの力を込めた。

「・・・外道と・・・対魔師・・・忌み嫌われているもの同士・・・仲良く逝きましょう? ・・・キング・リアッ!!」

エルが穏やかな笑顔で上空を見上げるのと同時に、キング・リアの砲門が彼女の顔面で咆哮した。

「エ・・・エルフィーネェェェーーッ!!」

しかしシノブの叫びは、キング・リアの咆哮の前に虚しく掻き消される。
彼女の全身全霊を込めた叫びが終わった頃、主を失い小さな首飾りとなったロザリオが小さな金属音を鳴らした。
[26]投稿者:その5 投稿日:2010/01/12(Tue) 13:38 No.469  
「ぅぁ・・・あぁ・・・ぁ・・・。」

シノブはゆっくりと身体を丸め、横たわったまま自分の両肩を抱く。

「あ・・・アタ・・・シ・・・アタ・・・シは・・・。」
「(シノブ・・・さん・・・。)」
「アタシ・・・はぁぁぁああーっ!!」
「(お、落ち着いてくださいっ! シノブさんっ!!)」

シノブは叫んだ。
声がでなくなっても、叫び続けた。
身体中の水分を、全て吐き出すかのような量の涙がシノブの頬を伝い落ちる。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁっ・・・。」
「(シノブさん・・・落ち着いてください・・・。)」
「・・・・・・リト。」
「(は、はい、なんですか?)」
「・・・・・・アタシ・・・持てる力の・・・全てで・・・抗った・・・んだよな・・・?」
「(シノブ・・・さん・・・!?)」

二人の間に暫しの沈黙が訪れる。
マインは深呼吸でその沈黙を破ると答える。

「(・・・シノブさんの、言う通りです。 貴女は、できる全てのことを、やり遂げました。)」
「・・・そっか。」
「(ですから・・・今は、休んでください。 お願い、します・・・。)」
「・・・そう・・・する。」

シノブがゆっくりと目を閉じたので、マインは安堵の溜め息を漏らした。

(・・・アタシの全てでも・・・守れなかった。)

しかし、マインは知らなかった。

(この力さえ・・・あれば・・・。 絶対に・・・守れると・・・思っていたのに・・・。)

この時、自分の選択した答えによって。

(・・・・・・足りなかったんだ。)

シノブの中で、なにかが狂ったことを。

(力が。 ・・・アタシに、力が、足りなかったんだ!!)

シノブはゆっくりと蹲る。

(どうして! アタシは、どうして!! 守れるだなんて!! こんなっ!! こんなチッポケな力で、守れるだなんてっ!!)

シノブはゆっくりと歯を食いしばる。

(許せないっ!! 思いあがりで・・・皆を、親友を殺したっ!! アタシが・・・!! アタシがっ!! 許せないっ!!)

シノブは両肩をきつく抱きしめる。

「・・・アタシには・・・分かる。」
「(・・・えっ?)」
「・・・アタシには分かる、アタシは・・・。」
「(――っ!?)」

この時になって、ようやくマインは自分の犯した失敗に気付いた。
マインは慌てて、シノブに呼びかける。

「(シノブさんっ!! ダメですっ!!)」
「アタシは・・・!」
「(落ち着いてくださいっ!! シノブ・・・)」
「アタシは”悪”だっ!! 力をよこせっ!! このっ!! 思いあがった、アタシをっ! ぶち殺す!! 絶対的な力ぁぁぁーっ!!」

その時だった。
シノブの身体を蒼く重苦しい光が包み込む。

「・・・コレは?」

その光が収まった時、シノブが横たわっていた所には、自身の姿を物珍しそうに覗き込む少女が立っていた。
血のように赤い小振袖の着物を着て、左側にスリットの入った膝丈の袴と不釣合いな黒い編み上げブーツを履いた少女。

「・・・?」

少女は懐になにか硬い物を感じ、右手で取り出してみることにした。

「コレが・・・力?」

懐から引き出された少女の右手に現れた物、それは6連発式の回転式拳銃だった。
次いで、少女は左太腿にも硬い物を感じ、左手で取り出してみる。

「!!」

少女の左手に握られた物、それは柄の部分に小さなストラップが付いた懐刀だった。

「ふふ・・・。」

それを見た途端、少女は笑い出した。

「ふふふっ・・・あははは・・・ははははっ!!」

少女の笑い声が段々と大きくなっていく。

「アハハハハハハッ!! イイぜっ!! コレなら・・・コイツならっ!!」

少女は大きく息を吸って、叫ぶ。

「ぶち殺せるっ!! ”悪”に、負けるような・・・”悪いヤツ”をなぁぁっ!!」

その瞬間。
少女の周りの音が吹き飛び、雨が逆流し、空間が押し曲げられ、虹色に煌き出した・・・。

〜〜〜〜
[27]投稿者:「アタシには分かる、アタシは・・・」その6 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2010/01/12(Tue) 13:39 No.470   HomePage
ビビビビビィィィーッ!! ぼんっ!!

「――うおっ!!?」

オヤツのポテトチップスを片手に、ゲームの様子を呆然と眺めていたキングは突然の電子音に身体をびくつかせた。
そして、音の主を見つけると、頭を掻きながら口を開く。

「あー・・・、マジっすか?」

相変わらずの、人を舐めきった口調でキングは言葉を続ける。

「ああー、そっか。 先週見たアニメに出てきた”すかうたぁ”なる道具が面白そうだったから、今回の首輪にその機能をくっつけてたんだっけか。」

キングは鼻をほじりながら、首輪を壊した人物の姿を確認する。

「どーせ大丈夫だろと思って、カンストしたらぶっ壊れる機能も忠実に再現してたんだけど・・・。 まさか、この娘【こ】がカンストたたき出しちゃうなんてなぁー。」

キングは取れたカスを傍に居たレミングスに擦りつけながら言葉を続ける。

「んまっ。 僕の知覚能力を持ってすりゃ、あんなオモチャなんかなくても、居場所やら会話やら簡単に把握できちゃうから別にいいんだけどねぇー。」

キングは彼女の姿を一瞥すると溜め息混じりに言葉を続ける。

「・・・どーせ、あの様子じゃぁ、長くはないだろー? まっ、精々空回りして自滅しちゃってよ、川澄、シ、ノ、ブ、ちゃぁーん。」

〜〜〜〜

(シノブさんっ!! 正気に戻ってくださいっ!! シノブさんっ!! お願いですっ!!)

マインは必死に呼びかける。

(お願いですっ!! シノブさんっ!! 私の・・・私の声を、聞いてくださいっ!! シノブさんっっ!!)

しかし、マインの呼びかけにシノブは答えようとしない。

(お願い・・・ですから・・・私の・・・ぅぅ・・・私の・・・・・・ぅぁぁ・・・!!)

マインの声に泣き声が混ざり、終いには泣き声しかなくなっていた。

(・・・どうして・・・私は・・・あの時っ!!)

マインの誰にも聞えない怒声が虚しく木霊する。

(私が、もっと考えて答えていればっ!!)

マインの怒声は続く。

(私のせいで、シノブさんは・・・シノブさんはっ!!)

マインの怒声はそこでとまり、再び泣き声が響く。

(・・・・・・どう、すればいいのですか?)

マインが呟くように、問い掛ける。

(・・・どうすれば、シノブさんを、助けられるのですか? ・・・私になにが、できるのですか?)

マインの問い掛けが、誰にも聞えない空間に吸い込まれていく。

(言葉を話すことしかできない私にっ! どうすれば、シノブさんを助けられるんですかっ!! アリアさんっ! イリスさんっ! ・・・何方でも構いませんっ! 私に・・・教えてくださいっ!!)

マインの悲痛な問い掛けを、空間はただ吸い込んでは無言で嘲笑うだけだった・・・。

【アーシャ・リュコリス@SILENT DESIRE 死亡】
【エルフィーネ@まじはーど 死亡】
【ルシフェル@デモノフォビア 死亡】
【残り18名】

【D−3:X1Y2/森の入口/1日目:夕方】

【川澄シノブ&スピリット=カーマイン@まじはーど】
[状態]:暴走変身中
[装備]:真っ二つにされたオープンフィンガーグローブ@まじはーど
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    SMドリンクの空き瓶@怪盗少女
    あたりめ100gパックx4@現実世界(本人は未確認)
    財布(中身は日本円で3万7564円)@BlankBlood(本人は未確認)
    ソリッドシューター(残弾数1)@まじはーど(本人は未確認)
[基本]:”悪”に負けたヤツは敵、ぶち殺す
[思考・状況]
1.”悪”に負けたキングは敵、ぶち殺す
2.”悪”に負けたヤツは敵、ぶち殺す
3.”悪”に負けた自分は敵、ぶち殺す

※首輪が外れキングの監視下から外れます
※キングが注意をそらした隙に洞窟内部や深い森の中や地下室等の暗い場所に息を潜めればキングは所在を見失います
※暴走状態が続けばその内に生命力が底を尽きて死亡します
※暴走中の武器は、何物も断ち切る魔法の懐刀1本と、26式拳銃がイメージモデルの、何物も撃ち貫く魔法の拳銃が1丁です
※通常変身時の魔法も使用可能、詠唱時間は通常の10分の1ぐらい、消費量は普段より僅かに少なく威力は2倍ぐらいです
※詳細は後日UPします

【アーシャ・リュコリス@SILENT DESIRE】
[状態]:死亡
[装備]:なぞちゃんの小太刀@アストラガロマンシー
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    デッキブラシ@La fine di abisso
    ヨーグルトx3@生贄の腕輪

【エルフィーネ@まじはーど】
[状態]:死亡(持ち物も跡形も無く消え去った)
[装備]:
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料24食分、水24食分)
    モヒカンの替えパンツx2@リョナラークエスト(豹柄とクマのアップリケ付きの柄)
    怪盗の心得@創作少女
    弓@ボーパルラビット
    聖天の矢×20@○○少女、
    赤い札×9@一日巫女
    弦の切れた精霊の竪琴@リョナマナ
    レイザールビーのペンダント@現実世界
    木人の槌@BB
    サングラス@BB
    ラブレター@BB
切れ目の入った杖(仕込み杖)@現実過去世界
    ラウンドシールド@アストラガロマンシー
    ファルシオン(曲刀)@現実過去世界
    首輪探知機@バトロワ(破損、首輪の反応の有無のみ判別可能)

※ロザリオは地面に落ちています

【ルシフェル@デモノフォビア】
[状態]:死亡(跡形も無く消え去った)
[装備]:フレイムローブ@リョナマナ
[道具]:デイパック、支給品(食料6/6・水6/6)
ルシフェルの刀@デモノフォビア
ルシフェルの斧@デモノフォビア
日本刀@BlankBlood
氷のナイフ@創作少女
ウインドの薬箱@リョナラークエスト
早栗の生皮@デモノフォビア
ルシフェルの服(生皮)@デモノフォビア

※持ち物はリゼの死体が背負ったデイパックに入ったままです

【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:気絶中、健康(おでこにたんこぶが3つ)
[装備]:不眠マクラ@創作少女
[道具]:
[基本]:キングを泣きながら土下座させる、そのための協力者を集める
[思考・状況]
1.キングを泣かすのに協力してくれる人を探す

※不眠マクラの効果に気づいていません
[28]投稿者:14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2010/01/12(Tue) 13:55 No.471  
パスワード設定ミスったっぽいので訂正依頼・・・。

(その1のところ)
「そして、唖然としている番に抱きついて問い掛けた。」

「そして、唖然としている番に抱きついた。」

(その1のところ)
「エルと名乗った人形が、番を見上げて問い掛ける。」

「エルと名乗った人形が、番を見上げる。」

@あとがき
やべぇ、長くてgdgdしてる。
もうだめぽ・・・。><;
[29]投稿者:「お仕置き大作戦!?」その1 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2010/01/16(Sat) 17:11 No.475   HomePage
「うむっ、流石私。」

涼子は窓から外の雨模様を脇目に、たこ焼きを頬張る。

「とりあえずっ、雨宿りだと思ってっ、テキトーに入ったトコがっ、定食屋だったっ、とかっ。」

涼子は小刻みに息を吐きつつ、呟く。

「日頃のっ、行いがっ、いい証拠っ、ですねっ。 わかりっ、ますっ。 おぁちちっ。」

涼子が雨宿りと称して飛び込んだ場所、そこは所謂定食屋と呼ばれるような内装の小さな建物であった。
涼子はそこで早速、電子レンジを拝借して、たこ焼きを暖めることにした。
電気が通っていることに多少驚きつつも、涼子は無事、熱々のたこ焼きを頬張ることに成功したのだった。

「ふぅー! やっぱ、たこ焼きは熱いのに限るねー♪ 外がカリカリじゃなかったのが心残りだったけど。」

たこ焼きを平らげた涼子は手元のお絞りで口の周りを吹きつつ、外を眺める。
その時だった。

「・・・むっ!?」

窓の外に人影を見た気がした涼子は、素早く壁に身を潜める。
そして、ゆっくりと首だけを出して窓の外を確認した。

(あ、あれは・・・。 いつぞやの、モンスターっぽいヤツ!?)

涼子の目に映った人物、それは数時間前にサーディと目撃したモンスター一団の筆頭とも言うべき少女の姿だった。

(むむむ・・・。 仲間の仇を討とうと私を追ってきたってトコかぁー?)

獣耳少女は酷く慌てた様子で数軒隣にある大きな建物に入っていった。

(片っ端から調べるつもりとは、余程・・・ってんおっ!?)

涼子は思わず身を乗り出してしまい、慌てて壁に隠れた。

(・・・涼子さん、初めて見たよ。)

涼子は獣耳少女の後に続いて建物に入った女性の姿を思い出す。

(メイド服なんて、ヲタが二次元彼女に着せるためにしかないような服を恥ずかしげも無く着てる女とか! 涼子さん初めて見た!)

涼子は込み上げる笑いを口元を押さえて必死に抑えつつ、座り込む。

(あんなイタい女、初めて見たー! ヤベェー! 笑うしか、笑うしかないー!)

涼子は声を上げて笑いたい気持ちを静めるため床を叩いた。
数回叩いた所でなんとか気持ちを静めることができた涼子は、小さく溜め息をついて立ち上がる。

「・・・先手必勝、よねー?」

涼子は荷物を背負い、1本だけとなった刀を握りしめてゆっくりと出口へと向かった。

〜〜〜〜

「・・・全くっ! 万屋『まんゲフゲフや。』って、ホント、あのハデ夫のセンスのなさには反吐が出るわねぇっ!!」

えびげんは近くにあった柱を叩きつつ怒鳴った。

「ま、まぁまぁ・・・。 とりあえず、此処は色々とありそうだから、手分けして使えそうな物を探そうよ?」

ナビィは両手でえびげんを宥める。
えびげんは大きく溜め息をついてから、軽く頷いた。

「・・・そうね。 じゃっ、私奥の方を見てくるから、ナビィは入口近くをお願いね。」
「うんっ、任せてよっ。」

えびげんは商品棚の合間を縫うように店の奥へと入っていく。
彼女の背中を暫し見送ったナビィは、近くの商品棚へと視線を移した。

(・・・そういえば、『まんゲフゲフや。』って、どういう意味だったんだろう?)

ナビィはふと、えびげんがセンスがないと激怒していた店名が気になった。
ナビィは少しだけ首を傾げるが、小さく頷くと傍にあった商品を手に取る。

(まぁ、今はそれどころじゃないよね。 後でえびげんに聞いてみることにしようっと。)

〜〜〜〜

「・・・えーと、ヤツらが入ってたのは確かあそこだったなぁ。」

涼子は向かい側の建物の影に身を潜め、獣耳少女達が入っていった建物の様子を伺う。

「なになに・・・。 万屋『まんゲフゲフや。』・・・プッ!」

建物の入口上に大きく描いてある店名を読むなり、涼子は吹き出してしまった。
その直後、涼子はあんぐりと口をあけて肩を落とす。

(りょ、涼子さん・・・。 一生の不覚ぅぅぅぅぅぅぅぅーーっ!!)

涼子は今の状況も忘れて地面に崩れ落ちると、悔し涙を流しながら何度も地面を叩いた。

「・・・格なる上はっ。」

涼子はフラりと立ち上がると刀の柄を強く握る。

「あのモンスターをズピャッと殺って気分爽快としゃれこみますかぁーっ!」

涼子は大きく頷くと建物に向かって走り出した。

〜〜〜〜

(おお、居た居た・・・。)

入口をそっと開けて忍び込んだ涼子は、近くの商品棚の影に隠れて通路を覗き込んでいた。
彼女の視線の先には、壁際の商品棚を見てなにやら探している標的の姿があった。

(なにを探してるかは知らないけど・・・。)

涼子は刀の柄を握り、商品棚の影伝いに標的との距離を詰める。

(涼子さんの験直し【げんなおし】のために、死んぢゃってくれっ!)

涼子は一度だけ大きく深呼吸すると刀を振り上げ一気に飛び出す。

「あっ、せぇのっ!!」
「――えっ!?」

〜〜〜〜
[30]投稿者:「お仕置き大作戦!?」その2 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2010/01/16(Sat) 17:13 No.476   HomePage
(や、やられるっ!?)

女性の威勢の良い掛け声に驚き振り返ったナビィは、目前に迫っていた刃に目を見開いた。
刃は完全に自分を捉えていて、今からでは急所を外すことすら叶わない。
ナビィはせめてもの抵抗としてきつく目を閉じ、歯を食いしばろうとした。

「――ふぎゃっ!?」

その時だった。
視界の隅から突然飛んできた黒い物体が、刃を振るう女性の顔面を抉りそのまま吹き飛ばした。
目前まで迫っていた刃はナビィの前髪を掠め、女性の後を追うように飛んでいく。

「ナビィッ!! 大丈夫っ!?」

黒い物体が飛んできた方向から聞き覚えのある大声が響き、ナビィは振り向く。
そこにはなにかを思い切り投げ終わった体勢のえびげんの姿があった。
えびげんはナビィに駆け寄りながら問い掛ける。

「怪我とかしてないっ?」
「あっ、うん。 助かったよ、ありがとう。」
「そう。 それなら良かったわ。」

えびげんは大きく溜め息をつきつつ言葉を続ける。

「天井の鏡に人影が映った気がして、嫌な予感がしたのよねぇ。 それで、一応ナビィの様子を見に行こうと思ったら、コレよ。」
「天井の・・・鏡・・・?」

ナビィはえびげんの言葉に誘われるように、天井を見上げる。
すると確かに所々に鏡が設置されていて、通路の様子を映していた。
ナビィはえびげんの観察力の高さに驚き目を丸くした。

「か、鏡・・・だとぉ・・・!?」

その直後、女性の驚く声が響きナビィは視線を声のした方へと移した。
そこは片手で頬を押さえながら天井を見上げる、自分と同い年ぐらいの少女の姿があった。

「ちぃーっ! 高が防犯ミラーと油断していたのが仇となったかー!」
「うふふっ! 高が防犯ミラー、されど防犯ミラー! 防犯ミラーを笑う者、防犯ミラーに泣くってねっ!」

えびげんは悔しがる少女にショットガンの銃口を突きつけ、勝利の快感に顔を歪めた。

「さーって、問答無用で他人様【ひとさま】の連れに襲い掛かる悪い娘【こ】は、お仕置きしなくちゃねぇ・・・♪」
「・・・えぇーい、もうどーにでもなーれっ!」

涼子は大の字に寝転がると叫んだ。

「さー好きにしろー! この天崎涼子っ! モンスターなんぞに情けを掛けられて生きるくらいなら、誇り高き死を選ぶぞー!」
「・・・ふぅーん。」

えびげんは涼子と名乗った少女の姿をじっくりと観察すると、少しだけ視線を逸らす。
やがて、なにかを納得したかのように小さく頷くと、淡々とした口調で口を開いた。

「そうねぇ・・・。 じゃ、好きにさせてもらうわ。」
「え、えびげんっ!?」

ナビィは慌ててえびげんを諭そうとした。
確かにいきなり襲い掛かってきたのは悪いことだが、彼女は完全な悪者という感じがしない。
もしなにか事情があるのならばまだ話し合いの余地があると、ナビィは考えていたからだった。
しかし、えびげんは大きな咳払いでナビィを一蹴すると、言葉を続けた。

「・・・まずその物騒な得物を棄てて、ゆっくり立ち上がりなさい。」

えびげんから今まで感じたことのない威圧感を感じ、思わず硬直していたナビィは我に返って口を開いた。

「ちょっ、ちょっと待ってよえびげ・・・」
「ナビィは黙ってなさいっ!」
「ぅっ!」

えびげんの鋭く冷たい視線と、低く凄みのある怒声にナビィは再び硬直してしまう。
涼子はその様子を一瞥すると、言われた通りに刀を放しゆっくり立ち上がった。
えびげんは口元に薄く笑みを浮かべて言葉を続ける。

「じゃあ、荷物を下ろしたら両手を上げて目を閉じたらじっとしてなさい。」

えびげんはなにかをいいたげな表情のナビィを一瞥すると、小さく咳払いをして口を開いた。

「・・・ナビィ。」
「えっ、えびげ・・・」
「床に転がってる、アレ。 取って。」
「にぁっ?」

えびげんの視線に誘われるまま、ナビィは床へと視線を落とす。
そこには、先ほど涼子を吹き飛ばした物体が転がっていた。
ナビィが物体に手を伸ばしたのを確認したえびげんは言葉を続ける。

「それを、あの涼子って娘【こ】に被せなさい。」
「こ、これは・・・?」
「いいから、早くなさい。」

えびげんに急かされ、ナビィは渋々手に持った物体を涼子の頭に被せた。

(・・・ぬおっ!? なんか暖かい物が被せられたっ!?)

視界を遮られている涼子は、突然被せられた物体に小さく身体を撥ねさせた。
勿論、目を閉じているだけなので、薄目を開ければ外の様子は窺える。
しかしえびげんから感じられる”プロ”の気配から、下手な真似はしない方がいいと涼子は直感していた。

(コイツぁまさか・・・。 漫画やらアニメやらに良くある洗脳マシーンってヤツっすか!?)

涼子はこれから自分に行われることに9割の期待と1割の不安で胸が満たされていくのを感じていた。

「ナビィ、天辺にあるボタンを押して。」
「う、うん・・・。」

えびげんに言われた通り、ナビィは謎の物体の天辺にあったボタンを押した。

(うわーっ! どうしよー! 洗脳されちゃうー! 涼子さん最大のピーンチ!)

機械が低い作動音を上げ、少しずつ熱くなってくるのを感じ、涼子の胸が高鳴り出す。
しかし、数分で音が鳴り止み、涼子は心の中で首を傾げた。

(あ、あれあれ? 洗脳ーはー?)
「・・・ナビィ、コレを持ってなさい。」
「にゃっ!? ・・・わわ、分かったっ!」

えびげんは手に持っていたショットガンをナビィに投げ渡す。
そして、メイド服の隙間から用意しておいた油性マジックを取り出した。

(な、なんか口元に描かれてるっ!? ・・・そうかっ!!)

涼子の中で機械が止まった理由が浮かび上がった。

(最後は手書きで洗脳の証を描き入れる、これがヤツら流の洗脳儀式なんだよっ!! ・・・な、なんだってー! AA略ぅー!)

涼子が心の中で一人劇を演じ終わった頃、口元に感じていた動きが止まった。

「ナビィ、そこの鏡を押してその辺に立てて。」
「あ、う、うん・・・。」

ナビィは首を傾げつつも、言われたとおりにする。
ナビィが鏡を押して来たことを確認したえびげんは、涼子の後ろに回り込む。
そして、頭に被せた物体に手を掛けつつ、涼子に話し掛けた。

「いい? いち、にの、さんで目を開けなさい。」
「んぇっ!? ・・・わ、分かった。」
(あ、あれあれぇ!? せせ、せんのーはせんのぉーっ!?)

えびげんは涼子の慌てように僅かに疑問を感じたが、小さく息を吐いて気を取り直した。

「いち、にの・・・さんっ!」

えびげんが勢いよく、涼子の頭に被せた物体を外す。
その直後、彼女の身に起きた出来事に全員の目が大きく見開かれた。

(――アッ、アフロになってるぅぅぅぅーーっ!!)

一瞬、周囲の空気が絶対零度にまで下がった。

「アッハハハハハハッ!! ホントだっ! ホントにすぐにできるんだぁーっ!! ウヒッ! うひひひひっ!!」

ただ一人、えびげんだけが腹を抱えて笑い転げていた。

「あ・・・アフロ・・・私が・・・アフロ・・・。」

涼子は鏡を見ながら、変わり果てた自分の髪型を撫でる。

「・・・しかも、ちょ、ちょびヒゲまで描かれ・・・プッ!」

ナビィは思わず吹き出してしまい、慌てて口元を押さえた。

「いやぁー、コードレスアフロセットマシンっての見つけちゃってねぇっ! 『すぐできる』って書いてあるもんだから、ホントかなーって! そしたらホントにできて、アハ、アハハハハッ!」
「え・・・えびげん・・・まさか・・・。」
「えっ? ああー、大丈夫大丈夫っ! 明空君で試そうって思ってたからっ! しっかし、ホントにすぐできるんだものっ! 笑いが止まらないわぁっ!」
「――もう許さないぞお前達ぃーっ!!」

えびげんの笑い声を吹き飛ばすように、涼子の怒声が響き渡った。
えびげんはゆっくり立ち上がると、涼子の方へと振り向く。

「穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めたSTH、その更に上を行くSTH2涼子さんの力でっ!!」

涼子はえびげんを睨みつけて吼える。

「お前も同じ目に遭わせてやるぅーっ!! 覚悟しろエセメイドヲタ女ぁーっ!!」
「できるものならやってごらんなさい♪ あと、エセメイドはいいけど、ヲタ女は違うわっ♪ 覚えておきなさい、ヒ・ゲ・ア・フ・ロ♪」
「む、ムキィーッ!!」

高笑いをしながら走り出したえびげんを、涼子は全力で追いかけた。
ナビィが大きく揺れるアフロに笑いが込み上げるのを我慢していると、頭上から聞き覚えのある砂嵐が鳴り響いた。
ナビィが慌てて外を見ると、いつの間にか雨がやんでいて、外が薄暗くなっていた。

「もう、そんな時間なんだ・・・。」

ナビィは二人の様子を一瞥する。
二人は追いかけっこに夢中で、放送を聞く余裕なんてないだろう。

(・・・もぉ、しょうがないなぁ。)

ナビィは軽く溜め息をつきつつ、悪夢の放送に耳を傾けることにした。
[31]投稿者:「お仕置き大作戦!?」その3 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2010/01/16(Sat) 17:15 No.477   HomePage
【A−2:X4Y4 / 商店街(万屋『まんゲフゲフや。』内) / 1日目:夜】

【えびげん@えびげん】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズ・ナイフx2@現実
メイド服@えびげん
[道具]:デイパック、支給品一式
パンダのきぐるみ@現実世界
豹柄ワンピース@現実世界
ウェディングドレス(黒)@現実世界
ビキニアーマー@現実世界(コスプレ用のため防御力皆無)
コードレスアフロセットマシン@バトロワ(後3回使用可能、アフロ化と元の髪型に戻すことができる)
コードレスアフロセットマシン専用充電器@バトロワ(使用には家庭用100V電源が必要、コード長1m)
油性マジック『ドルバッキー(黒)』@バトロワ(おろしたて、ペン先極太)
[基本]:ハデ夫をぶちのめしたい
[思考・状況]
1.アフロ+ちょびヒゲになった涼子をからかう
2.本質的には悪者ではないと直感したので殺しはしない
3.放送内容は後でナビィに聞く

※モヒカンを危険人物と判断しました。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。

【ナビィ@リョナマナ】
[状態]:健康
[装備]:カッパの皿@ボーパルラビット
スペツナズ・ナイフx1@現実
ショットガン(残弾数3+14)@なよりよ
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.えびげんと涼子のケンカをやめさせたい
2.放送が始まってしまったので聞く
3.明空についてマタタビの匂い袋が他人の手に渡らないようにするつもり
 (……だったが、放送のショックで忘れている)
4.キング・リョーナの行いをやめさせる

※モヒカンを危険人物と判断しました。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。
※オルナの死を受け入れました。


【天崎涼子@BlankBlood】
[状態]:アフロヘア化、顔にちょびヒゲの落書きアリ、左腕に中程度の切り傷(水とハンカチで処置済み)
[装備]:無し
[道具]:無し
[基本]:一人で行動したい。我が身に降りかかる火の粉は払う。結構気まぐれ。
    でも目の前で人が死ぬと後味が悪いから守る。
[思考・状況]
1.えびげんを同じ目に遭わせてから、モンスター諸共ズピャッ
2.でもそんな悪いヤツじゃなさそうって気もしているので同じ目に遭わせて面白かったら今回だけ許してやってもいいかも
3.放送が始まったけどえびげんを同じ目に遭わせる方が先

※運命の首飾りの用途に気づいていません。
※ナビィ、クリス、明空、伊予那、エリナ、えびげんをモンスター、もしくはモンスターの仲間だと思っています。
※持っていた物は全てナビィの足元に置いたままです。

@あとがき
相変わらず、ロワっぽいことしてなくて申し訳ない・・・。
どうにも、自分には無理のようです。><;
[32]投稿者:「守るべきもの」その1 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/02/16(Tue) 11:21 No.482  
ガシャン、ガシャン、ガシャン・・・

巨大な鉄の塊が、昏い街を歩き回る。
八蜘蛛はそこの宿屋の二階に、身を潜めていた。

(あれも、あの人間の放った化け物かしら・・・だとしたら辛いわね。)

先程5人の人間を殺していった黄土色の巨人も、十分厄介な相手だ。
しかし目の前の化け物はそれ以上の大きさで、おそらく力も硬さも上。
デイパックにはハンマーと剣が入っているが、八蜘蛛の身体能力ではとても相手にならない。
糸による攻撃も、力があれば振りほどかれるし、生命力が全く感じられないので精力吸収も期待できない。
言葉が通じるのなら是非とも味方にしたい所だが・・・おそらく無理だろう。

(とりあえず、こっちに気付かずに行ってくれれば良いんだけど・・・)



「むぅ・・・ここも外れかのう・・・」

リザードマンの村で何も得られなかったゴート。
彼が次の目的地に選んだのは昏い街だった。
思えばバトルロワイアル開始から今まで、出会った参加者は1人だけ。
そろそろ他の参加者に、レボワーカーのパワーを見せ付けたくなったらしい。
そこで、「街というからには誰かおるじゃろ」という単純な考えで、ここまでやって来たのだが・・・

街のどこを見ても、人の姿は見当たらない。
どうやらこのじじい、そうとう運が無いようだ。

「誰もおらんのなら仕方あるまい。」

ゴーとはあきらめて次の施設に移動しようとした。

だがその時、コクピットに並ぶ計器の一つが、反応を示した。

「おおっ、これはっ!!! えーっと・・・」

ゴートは分厚いマニュアルを開き、その計器の説明を探し始めた。



(止まった・・・まさか、気付かれた!?)

化け物が立ち止まったのは、八蜘蛛の隠れている部屋の窓の、すぐ前だった。

八蜘蛛は敵の姿を確認する。
平たい頭に盛り上がった肩、突き出た胸、背中に背負った「何か」。
相手は見るからに鈍重だ。倒すのは不可能でも、攻撃を避けるぐらいなら出来るはず。
そう思った八蜘蛛は集中力を高め、敵の攻撃に備えた。

しかし、化け物は全く動こうとはしない。
何百ページもあるマニュアルから目的のページを探し出すのは、
優秀な頭脳を持つゴートにとっても、やはり困難なことなのだろう。
もっとも、八蜘蛛はそんな事情を知る由もないが。



数分後。

ウィーン・・・

不気味な機械音と共に、化け物の背中の「何か」が動いた。
そしてそれは、尖った部分を八蜘蛛の部屋の窓に向けて停止する。

(・・・来る!)


ガシャアアアン!!!

物凄いスピードで射出された「何か」は、窓ガラスを貫き、天井に突き刺さった。

(は、速い!!・・・逃げないと!)

予想外の速さに驚き、慌てて部屋を飛び出す八蜘蛛。
そのまま階段を駆け下り・・・ようとした所で、足を止めた。

(違う。今のは・・・囮。)

魔王三将軍の一人として、実戦経験豊富な八蜘蛛は、すぐさま敵の狙いを察知した。

さっきの飛び道具は、弾速は速いものの照準を合わせるのに時間がかかっていた。
しかも攻撃は直線的で回避は難しくない。
隠れている相手を狙うならともかく、通常の戦闘ではおそらく役に立たないだろう。
ならばあの化け物の主力武器は何か。
考えるまでも無く、巨体とパワーを活かした直接攻撃で間違いない。

(どうやら、建物から飛び出した所を狙おうって魂胆ね。)

あの巨体では、建物内に入るのは不可能だ。
壁も見たところかなり頑丈で、さすがにあの化け物でも壊せそうにない。
つまり、八蜘蛛が建物内にいる限り、化け物は回避しやすい飛び道具しか撃てないのだ。

そのことに気付いた八蜘蛛は、今度は別の部屋に入って、再び身を潜めた。

(さて・・・どう出るかしら。)



ガシャン、ガシャン、ガシャン・・・

化け物は宿屋の入口の前で、獲物が出てくるのを今か今かと待ち構えているらしい。

(ふふっ、この八蜘蛛様にはそんな姑息な手段、通用しないわ。)

その様子を思い浮かべて、八蜘蛛はふっと笑みを浮かべる。

しかし・・・

(う・・・あ・・・なに・・・こ・・・れ・・・)

全身の力が抜け、その場に倒れこむ八蜘蛛。
彼女の背後には、割れた窓から侵入した、夢の精霊バクの姿があった。
[33]投稿者:「守るべきもの」その2 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/02/16(Tue) 11:22 No.483  
ゴギッ

「いぎっ・・・があああぁぁああっ!!!」

八蜘蛛は右足に鋭い痛みを感じ、一発で目を覚ました。

『ふぇふぇふぇ・・・気が付いたようじゃの』

化け物の顔の辺りから、不気味な声が流れる。
この部分に取り付けられたスピーカーが、コクピット内の音声を流しているのだ。

「き、貴様・・・この八蜘蛛様をよくも・・・!! ぐあっ!」
『口のきき方に気をつけるんじゃ。この状況が分からんわけでもあるまい。』

八蜘蛛は今、化け物に両足を掴まれ、逆さ吊りにされている。
しかも右足の骨が折れているらしく、化け物が少し手を動かしただけで激痛が走る。
持ち物は全て奪われ、デイパックも、大事な帽子も砲台も、離れた所に転がっている。

「ぐ・・・う・・・」
『しかし、まさか隠れていたのが、このような少女だったとはのう。』



マニュアルを読み返した結果、宿屋の前で反応した計器は、「熱感知レーダー」というものだった。
有効範囲はせいぜい数メートルで、暖房機器などにも反応するという欠点はあるが、
生物の放つ熱をかなり正確に探知できるらしい。
それによると、窓の裏側に、何らかの反応がある。
ここでゴートは考えた。
レボワーカーで直接建物内に乗り込むのは不可能だ。
かといって、生身で乗り込めば返り討ちにあう可能性もある。
そこで、まずは相手を驚かせ、宿屋の外に出そうとした。
ここまでは八蜘蛛の読み通りである。
唯一の誤算は、ゴートの支給品にはバクという人を眠らせる力を持った精霊がいたこと。
彼は相手が出てこないと分かると、その精霊を建物に潜り込ませ、
相手の位置を教えて眠らせるという方法を取ったたのだ。
結果、作戦は成功し、八蜘蛛は囚われの身となってしまった。



『存分に楽しませてもらうぞぃ!』

グギッ

「あがぁぁぁあああうっ!!」

巨大なレボワーカーの腕が、八蜘蛛の左足を握りつぶした。

『さて、お次は・・・』

ゴートが手元のレバーを器用に操作すると、レボワーカーの手がわずかな隙も無く移動し、
八蜘蛛の身体を両腕で抱える、ベアハッグの体勢になった。

「な、何を・・・」
『決まっておるじゃろ。ほれ。』

両腕に徐々に力が入り、八蜘蛛の身体を締め上げる。

「い・・・ぎ・・・あ・・・」
『苦しくて声も出んか? まだまだこれからじゃぞ。』

締め付けはどんどん厳しくなっていく。
八蜘蛛は既に、呼吸すら困難な状態だ。

『ふぇーっふぇっふぇっ。愉快愉快。さて、次はどうしようかの?』
「か・・・ぷはぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

呼吸が出来てホッとしたのも束の間。今度は八蜘蛛の身体が、空高く掲げられた。

『ほいっ!!!』

八蜘蛛の身体が地面に叩きつけられる。

「ひいぃっ!」

ゴシャッ

ようやく拘束を解かれた八蜘蛛だったが、既に動く力は残っていなかった。



「さてと、もう良いじゃろ。」

ゴートは八蜘蛛が動かなくなったのを確認して、レボワーカーから降り、彼女の元へ歩み寄る。

「!!!・・・貴様、何者だ・・・!」
「ふぇふぇふぇ、こいつの主人、とでも言っておこうかの。」

驚きと憎しみの混じった視線を投げかける八蜘蛛に対し、ゴートはレボワーカーを指差して笑う。

「くっ・・・この八蜘蛛様が・・・こんな・・・こんな人間ごときに・・・!」
「おお怖い怖い。そんな子には・・・おしおきじゃっ!」

ゴートは八蜘蛛の胸を、思いっきり踏みつけた。

「ぅあああっっ!!」

普段の彼女なら何とも無いレベルの衝撃だが、満身創痍の身体には厳しすぎる。

「ほっほぅ、良い声で鳴くのぉ。ほれ、ほれ、もっとじゃ!」

肩、腰、腹、頭と、ゴートは八蜘蛛の身体のあらゆる場所を蹂躙する。
そのたびに八蜘蛛は苦しそうな悲鳴を上げ、ゴートは喜びの声を上げた。



だが、ゴートは気付いていなかった。
この光景を見て駆け寄ってくる少女の存在に。

「さてと、そろそろとどめを・・・はごあぁっ!」

ゴートの頭に、何か固いものが飛んできた。

「むぅ・・・これは、支給品の水ではないか。一体誰・・・があああぁぁっ!」

彼がペットボトルに気を取られている隙に、少女は手に持った杖で、彼の背中を殴打した。

「あんた、大丈夫?」

その少女が八蜘蛛に声をかける。

八蜘蛛は彼女の姿を見て、思った。
羽の生えた帽子に長い髪、木でできた杖に、簡素な一繋ぎの服。
どう見ても肉弾戦の心得があるようには見えない。
だが、見た目と実力が比例するとも限らない。実際、鈴音や桜の例だってある。
そして何より、はっきり見えたわけではないが、さっきの攻撃は全く動きに無駄がなかった。
この女は、使える。

「ふぇ・・・ふぇぇぇぇん」
「おお、怖かったか。よしよし、もう大丈夫だからね。」

少し嘘泣きをすると、いとも簡単に彼女を味方につけることができた。
八蜘蛛は心の中で舌を出しながら、無力な少女の演技を続けた。

「ちょっと待っててね。お姉ちゃんが、あいつをやっつけてあげるから。」
「へ・・・」

自分に浴びせられる鋭い視線に、こっそりレボワーカーに戻ろうとしていたゴートが思わず振り向く。

「いたいけな少女にこんな酷いことするなんて・・・神様が許しても、あたしが許さない!」
「わ、ま、待った、話せば、話せば分かる・・・」
「分かりたくもないわ! 天罰!!!」
「ウボァー」

少女の杖が脳天に直撃し、ゴートは気を失った。
[34]投稿者:「守るべきもの」その3 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/02/16(Tue) 11:22 No.484  
「ぐ・・・か、はっ・・・」

ルカが脇腹を押さえてうずくまる。
その視線の先には、こちらに銃口を向ける、青髪の少女の姿があった。

「あんたは・・・”悪”だ。」

杖を持った女と、倒れている人間が二人。
普段のシノブであれば、もっと冷静な判断が出来たかもしれない。
しかし今の彼女には、その女が他の二人を襲ったとしか、考えられなかった。

「くっ・・・」

ルカはひとまず、相手を刺激しないように、杖を地面に追いて両手を挙げた。
相手の武器の正体は分からないが、少なくとも遠距離から攻撃できることは確か。
自分は負傷している上、武器は杖一本。この状態で抵抗するのはあまりにも無謀だ。
いや、仮に自分が万全の状態であったとしても、勝てる見込みは薄い。
目の前の少女の発する威圧感は、巨大なモンスターをも遥かに上回る。

(でも、これで納得してくれる相手じゃなさそうね。)

ルカの予想通り、シノブは銃口を下げようとはしない。

「”悪”は・・・殺す!」

シノブが引き金に力を込める。

だがその時、背後から声が聞こえた。



「ルカ、さん・・・どこ・・・?」
「誰だっ!!」

シノブが振り返ると、一人の少女が覚束ない足取りで、こちらに向かって歩いてくる。

「リヨナ!」

ルカが思わず叫んだ。
この一声が、シノブに二人の関係を気付かせる事になる。

「・・・お前の、仲間か。」
「なっ・・・!」

自分の迂闊な行動を悔いたが、もう遅い。
シノブは、ルカに銃口を向けたまま、もう片方の手に短刀を握り、りよなに鋭い視線を向けている。

「リヨナ、逃げて!!」
「え・・・どうしたんですか急に?」

必死に訴えるが、りよなは足を止めようとしない。
目が見えず、状況が分からない以上、仕方のない事だろう。
今、ルカに出来ることは一つしかなかった。

「ちょっとあんた、目の見えない子を殺すつもり!?」

目の前の少女に訴える。
彼女に少しでも良心があれば、りよなだけでも助けられるだろう。

「目が、見えないのか?」
「そうよ、生まれつき、ね。・・・だから彼女はあんたの言う”悪”じゃない。」
「そうか・・・」

シノブが短刀をホルスターに戻す。
どうやら、説得は成功したようだ。



「あ、あの・・・」

りよなが、シノブのすぐ後ろで立ち止まった。
さすがにここまで近付けば、人がいる事は気配で気付くのだろう。
そしてその人が、ルカではない誰かである事も。

「失せろ。あんたに用は無い。」

シノブが冷たく言い放つ。

しかし、りよなの返答は、彼女の予想とは異なるものだった。

「あなたには無くても、私にはあるんです。」
「!!!」

ごおおおっ

りよなが素早くデイパックから取り出したサラマンダーが火を噴き、シノブの背中を焦がす。

「ルカさんが言った事、訂正します。」

ごおおおっ ごおおおっ

炎を放ちながら、りよなが語りかける。

「私・・・本当は見えるんですよ。・・・強い光なら。
 そう、例えば・・・あなたが撃ってルカさんを貫いた、光の玉とか。」

ごおおおっ ごおおおっ

「それに、たとえ見えなくても・・・音や匂いで、人の位置は分かります。」



「リヨナ・・・」

ルカは唖然としていた。

もし彼女のいう事が本当ならば、彼女は、ルカが負傷したのを知った上で、
あえてその相手に近付いていった事になる。
出会った頃の彼女からは考えられない行動だ。

しかしそれ以上に気になるのは、彼女の使っている、炎を放つ武器。
焼死体となった女性の姿が、ルカの脳裏に浮かぶ。

「リヨナ、まさか、あなた・・・」
「ああルカさん、無視してしまってごめんなさい。
 でもその身体だともう戦うのは無理ですよね。後でちゃんと殺してあげますから。」

「エリーシアさんと、同じように。」
「なっ!!・・・そん、な・・・」

りよなの言葉に対して、ルカは何も言うことが出来なかった。



「そう、か・・・あんたは、仲間を・・・」

不意に、ただ炎を浴びていたシノブが口を開いた。

「”悪”だ・・・」
「悪?私がですか?」

その一言を聞いたりよなが反論する。

「私が悪なわけないじゃないですか?なよりを助けるために頑張ってるのに。
 なよりが死ぬなんてありえないんです。生き返って当たり前なんです。
 だから私が正しいんですよ。悪はあなた達です。」
「・・・・・・」

りよながさらに続ける。

「私一人生き残って、願いを叶えてもらう。
 なよりを生き返らせてもらう。それが一番じゃないですか。
 だから、だから、なよりの為に、みんな死んで!!」

すでに、正気ではない。
彼女の事を全く知らないシノブにも、はっきり分かった。
たが正気でない事は、この場において免罪符になりはしない。

ドンッ!

シノブが片手で、りよなを突き飛ばした。
不意の反撃を受けたりよなは、数メートル吹き飛んで尻餅をついてしまった。

「そん、な・・・どうして・・・あんなに、焼いたのに・・・」

りよなが放った炎は、人間一人焼き払うには、十分すぎる量だった。
それでもシノブが倒れなかった第一の理由は、雨という天候により、大幅に低下した火力。
しかしこれはりよなにも分かっていた事だ。だから出来るだけ身体に密着させて火を放った。
だがもう一つ、りよなが想定できなかった理由がある。

「・・・アタシは、もっと強い炎使いを知ってる。
 アイツの炎に比べたら、熱くもなんともねえっ!」

今は亡き、シノブの親友。
彼女のためにも、シノブは倒れるわけにはいかなかった。

「どうして・・・どうして邪魔するんですか!?
 なよりが泣いてるのに!!なよりが怖がってるのに!!
 あなた達を殺してなよりを生き返らせてあげないといけないのに!!!」

もはや意味を成さない叫びを聞き流しながら、シノブは短刀を手に、一歩一歩、りよなに近付く。

「なより・・・待っててね。お姉ちゃんが助けてあげるから。」

完全に錯乱しているりよなに対して、シノブが短刀を突き出す。

ザクッ
[35]投稿者:「守るべきもの」その4 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/02/16(Tue) 11:23 No.485  
刺した者も、刺された者も、見守る者も。
その場の誰もが、言葉を失った。
雨音だけがやかましく鳴り響く。

その静寂を破って、一人の少女が、口から血を吐いた。

「ぐ・・・はっ・・・さすがに、こたえるわね・・・」
「ルカ・・・さん・・・?」

ルカは、りよなを庇った。
彼女の腹には短刀が突き刺さり、もう助かりようのない深い傷を作る。

「・・・ルカ、さ、ん・・・」
「リヨナ、無事、ね・・・逃げて・・・」

かすれた声で、りよなの身を案じる。

「早く!」
「は、はい!」

ルカの言葉で我に返ったりよなは、方向も分からぬまま、とにかく走り出す。

「くっ・・・逃がさん!」

シノブがそれを追いかけようとする。

「・・・させない!」

それを阻止しようと、最後の力を振り絞って、ルカがシノブの両腕を掴む。

「な、に・・・離せ!!」

シノブは振り解こうとするが、ルカの力は異常なほど強く、全く外れる気配が無い。
その間に、りよなの姿は、雨の中へと消えていた。



「何故だ・・・何故、アイツを庇った!!!」
「無償の愛、ってやつかな。・・・わたし、一応見習い神官だし。」
「愛、だって・・・!?」

ルカの言葉に、シノブが動揺する。
それでも彼女は、それを押さえつけるように、大声を出す。

「あんたは憎くないのか! 仲間を殺した、アイツがっ!!」

仲間を殺した相手を、庇う。
こんな事は今回が初めてではない。
しかも前は、逆の立場だった。
シノブはそれを、自分の言葉によって思い出した。



「ソイツは!! 美咲をっ!! 鬼龍院美咲を殺したのよっ!!
 シノブッ!! 貴女、憎くないのっ!! ソイツは親友を見殺しにしたのよっ!!」

甲高い声が、シノブの頭の中で響く。

「憎くない・・・わけない。・・・だけど・・・」



「・・・憎い。」

ルカが小さな声で呟く。

「エリーシアが死んだ時、誓った。彼女の代わりに、リヨナを守るって。
 だけど、エリーシアを殺したのがリヨナだって知ったら・・・
 憎しみが湧いてきた。許さないって思った。殺してやりたい、とも。
 ・・・無償の愛って言っても、結局はこんなもんね。」

自分自身に言い聞かせるように、ルカが語る。

「だったら!」
「だけど!! わたしはリヨナを守る!
 私の使命は、何もしてくれない神様の代わりに、みんなを守る事だから!」

命に関わる傷を受けているとは思えないほどの、力強い言葉。
さらに一呼吸おいて、続ける。

「・・・それに、リヨナはわたしの大切な、仲間だから!」



「アタシにとってはロシナンテも、もう親友なんだっ!」

シノブ自身の声だった。
親友を見殺しにロシナンテは許せない。
だが親友であるロシナンテを見捨てることは出来ない。
彼女は、ロシナンテを庇った。
ルカと、同じだった。

しかし、その末路は・・・

「ぐああああああぁぁああっ!!」
「――ロシナンテッ!!」

ロシナンテは死んだ。シノブの目の前で。
彼女だけではない。多くの親友が、この戦いで命を落とした。

(その時、アタシは・・・何をしていた?)

美咲が死んだ時、アーシャが死んだ時、エルが死んだ時・・・
自分にもっと力があれば、彼女達が死ぬことは無かったかもしれない。



「・・・何も、出来なかった。」
「え・・・?」
「美咲は死んだ! ロシナンテは死んだ! アーシャは死んだ! エルは死んだ!
 アタシは、何も出来なかった! ”悪”を、潰せなかった!!
 親友を・・・守れなかった!!!!」

今度は、ルカが驚く番だった。



彼女も、シノブと同じ。
多くの人と出会いながら、そのほとんどを既に亡くしている。
しかも、彼女が何も出来ないまま。

目の前の少女も、同じ苦しみを味わってきた。
その事実だけでルカは直感した。
彼女は、ただ人を殺すことを楽しむような殺人鬼ではない。
行き場の無い怒りを抱えて苦しむ、血の通った人間なのだ。



「だったら・・・分かるでしょ・・・」

ルカが目に涙を浮かべて、シノブに訴える。

「私も、守れなかった・・・早栗も、奈々も、エリーシアも・・・
 だから今度こそ、りよなを守りたい・・・」
「・・・・・・」

シノブは黙って、ルカの言葉に耳を傾ける。

「ううん、それだけじゃない。」

一呼吸置いた後、ルカが続ける。


「わたしは、あなたを救いたい。」


怒り、悲しみ、苦しみ・・・
自分も仲間を失ったから分かる。

でも、自分は立ち直ることが出来た。
りよなが、居たから。

守るべき仲間が、居たから。

人は、弱い存在。
一人だけでは生きていけない。
だけど人は、どんな苦難も乗り越えられる。
仲間との絆があれば。

だから今は、僅かな時間でも、彼女の側にいたい。
それで彼女が、救えるのならば。



「そう、か・・・」

シノブが静かに口を開く。
その落ち着いた様子を見て、ルカは安堵した。
彼女の表情からは、先程までの激しい怒りが消えていた。
この様子なら、もう大丈夫だろう。



そう思ったのも、束の間だった。

ザクッ

「かっ・・・」

シノブの短刀が、ルカの喉を切り裂いた。

「”救い”なんていらない。
 アタシは・・・”悪”だ。」

(あ・・・く・・・?)

ルカは聞き返そうとするが、喉をやられて声が出ない。
その様子を見たシノブは、さらに言葉を続けた。

「そして・・・あんたも、”悪”だ!」

大切な相手を守れない、弱い者。
”悪”に負けた、弱い者。
それでもなお、今度こそはと守るべき相手を見定め、
力足らずに、不幸を撒き散らす。

「あたしは、”悪”を許さない。全ての”悪”を、ぶち殺す。
 そして最後に・・・あたしを殺す!」

(そん、な・・・彼女の苦しみは、わたしじゃ受け止められないの?
 また・・・何も出来ないの?)

既に抵抗の術を失ったルカに、シノブが迫る。

(神様、どうか・・・)

ただ目を閉じて、祈ることしか出来ないルカ。

(リヨナを・・・この子を・・・)

その直後、彼女を激しい衝撃が襲った。
[36]投稿者:「守るべきもの」その5 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/02/16(Tue) 11:25 No.486  
暖かい・・・
今までの冷たい雨が嘘のような、心地よさ。

自分は、死んだのだろうか。
神の御許に、行けたのだろうか。

おそるおそる、目を開ける。
彼女の目に映ったものは・・・

(なに、よ・・・これ・・・)

大量の蜘蛛の糸に縛られた、青髪の少女の姿だった。

「とんだ茶番だったわね。もっとも、おかげでこっちは準備する時間が出来たんだけど。」

背後から声が聞こえた。
振り向こうとするが、身体が動かない。
彼女もまた、蜘蛛の糸に包まれているのだ。

「あなたには感謝してるわ。私が力を取り戻せたのも、あなたがあの人間を倒してくれたおかげだしね。」

(わたしが・・・倒した?・・・まさか!)

ルカは、この声の主が誰なのか理解した。
この戦いで自分が倒したのは、幼い子を痛めつけていた老人一人。
それに対して感謝するというのだから、自ずと相手は限られる。

「それにしても、あなたが単純で助かったわ。あんな嘘泣きで騙されるなんて。」
(だまされた?・・・そんな・・・)

ボロボロの少女とそれに迫る老人を見て、ルカは特に疑いもせず、少女を守ろうとした。
しかしその行為は、ここに来て完全に裏目に出た。後悔しても、後の祭りである。

「ああ、でも嬲られてたのは演技じゃないわ。
 この八蜘蛛様があそこまでやられるなんて、思い出しただけで腹が立つ!
 まあその分、あの人間が枯れるまで吸ってやったけど。」

ルカには見えなかったが、八蜘蛛の側には、骨と皮だけになったゴートの死体が転がっていた。

「でもねぇ、さすがにあんな年寄りじゃ養分が全然足りないのよ。
 あの子を逃がしたのは惜しかったな。後で追いかけなきゃ。」
(あの子?・・・まさかリヨナ!!)

最悪の状況を想像してしまったルカは、慌てて糸から抜け出そうとする。
しかし、抜け出すどころか、指一本動かすことさえ出来ない。

「うふふ、無駄よ。あなた程度の力じゃ、この糸は切れない。
 ・・・それより、一つ提案があるんだけど。」
(提案・・・?)

「私としても、死体とか死にかけの人間から養分を取るのは、効率が悪くてね。
 出来れば、生きた人間を一人ぐらい、確保しておきたいのよ。
 で、何だかんだ言ってもあなたも死にたくないでしょ。
 だから、私の家畜にならない?
 もしなってくれるんなら、糸を通して生きるのに必要な栄養をあげるわ。
 その代わり、定期的に生命力を吸わせてもらうけどね。
 ふふ、良い考えでしょ。」

(なっ・・・)

彼女の「提案」は、ルカの常識を超えていた。
人間から養分を取って生きる魔物が居る事は知っている。
しかし、栄養を与えて生命力を奪うなんて、牛や豚にやる事ではないのか。
そもそも家畜なんて、神様から人間に与えられる物だ。
それなのに自分が家畜になるなんて・・・有り得ない。

だが、今の彼女には声を出すことも、首を振って拒否の意思を示すことも許されない。
それを十分に承知した上で、八蜘蛛は続けた。

「返事が無いって事は・・・OKって事よね。」

八蜘蛛がさらに糸を放ち、ルカの身体を包み込む。
その繭の中でルカは、深い眠りに堕ちていった・・・



「さて、次はあなたの番ね。」
「・・・・・・」

シノブは、糸に縛られてから、ずっと黙ったままだ。

「・・・かなり燃費が悪いわね。何もしてないのに生命力がどんどん落ちてるわ。
 今のうちに、全部吸っちゃおうかしら。」
「・・・・・・」

依然、シノブは言葉を発しようとしない。

「その前に、あなたに聞いておきたい事があるんだけど・・・
 あなた、さっきロシナンテが死んだって言ったわよね。詳しく教えてくれる?」
「ロシナンテ・・・!?」

シノブは、ロシナンテの言葉を思い出した。

彼女は自分を魔王軍の一員だと言っていた。三将軍の一人とも。
そして、勇者と戦い、一度殺されたと・・・

三将軍の一人がこの戦いに参加している以上、他の二人も居ると考えるのが自然だ。
そして目の前の少女は、ここに来てから出会ったはずの無い、ロシナンテを知っていた。
そこから導き出される結論は・・・彼女もロシナンテと同じ、魔王軍三将軍の一人であること。

(いや、違う・・・ロシナンテは、こんな奴とは違う・・・)

ロシナンテは、ただ強者との戦いのみを望み、無抵抗の相手を殺したりはしなかった。
だが目の前の相手は、動けない老人を殺し、傷ついた少女を家畜にし、さらには盲目の少女まで襲おうとしている。

シノブは彼女に向かって、強く言い放った。

「あんたに、話す事なんてねぇっ!」
「あ、そう。じゃあ良いわ。死んで。」

八蜘蛛の反応は、冷たいものだった。
彼女にとってロシナンテは、知り合い以上の何者でもないのだ。

八蜘蛛はさらにシノブの周囲に糸を張り巡らし、
シノブに向けて、蜘蛛の使い魔を大量に召喚した。

「ふふっ、特別に見せてあげるわ。
 八蜘蛛流奥義・・・天網天鎖連結無限!!!」



(また・・・負けんのか?)

蜘蛛に身体を蝕まれながら、シノブは自分自身に問いかける。

(ぶち殺せるんじゃ、なかったのか・・・?)

”悪”を潰すために得た力。
だが強大な力は、身体への負担も大きかった。
力の代償として消耗するシノブの生命力は、もうほとんど残っていない。

(こんな・・・こんな酷え”悪”を前にして・・・)

今自分が戦っている相手は、その前に出会った少女達とは、比べ物にならないほどの外道。
こんな大事な時に力を使えずに負けたら、死んでも死に切れない。

(ちくしょう・・・ちくしょう・・・)

シノブの目から、涙が零れ落ちた。



「(・・・さん)」

その時、誰かの声が聞こえた。

「(シノブさん!!)」

今度は、ハッキリと。
彼女の名は・・・

「(リト!)」
「(シノブさん・・・良かった、無事で。)」

シノブが共に戦ってきた相棒の名を呼ぶと、彼女もそれに応えた。

「(リト・・・ごめん。あたし、勝手に暴れちまって、歯止めが利かなくなって・・・)」
「(もう、良いんですよ、シノブさん。こうやって元に戻れたんですから。)」
「(それだけじゃない。この力があれば、”悪”に負けねえって思ったのに、
  肝心なところで動けなくなって、それで・・・
  結局あたしは、この程度の弱い奴だったんだな・・・)」

シノブが自嘲気味に語る。
だがリトは、それを認めなかった。

「(そんな事ありません!)」
「(リト・・・?)」
「(シノブさんは、勝ちます。)」
「(だけど・・・もう力なんてどこにも・・・)」

シノブ自身は、魔力や生命力を感知することは出来ない。
それでも、自分の身体に力が残っていない事は良く分かっていた。

「(力なら、ここに。)」
「(・・・リト・・・?)」
「(私の全魔力を、シノブさんに注入します。)」
「(えっ・・・)」

そんな事をしたら何が起こるか。
シノブの知識では全く分からないが、リトにとって悪影響がある事は、容易に想像できる。

「(そんな事したら、リトは・・・!)」
「(はい、良くて意識不明。下手すると消滅してしまうかもしれませんね。)」
「(なっ・・・馬鹿ヤロウ! なんであたしなんかの為に!)」

シノブが激昂するが、リトはあくまで落ち着いて答えた。

「(”悪”を許せない・・・シノブさんの想いは、私の想いでもあるんですよ。)」
「(リト・・・)」

「(さあ、時間がありません。)」



まばゆい閃光が、シノブから発せられる。
八蜘蛛は目を閉じて耐えるしかなかった。

そして、彼女が目を開けた時には・・・


大量の糸も、蜘蛛の使い魔も全て消えて、一人の少女が雨の中に立っていた。
[37]投稿者:「守るべきもの」その6 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/02/16(Tue) 11:25 No.487  
顔も同じ。服装も同じ。見かけは何一つ変わらない。
しかし彼女の発する鋭い気は、以前の何倍もの強さだった。

「あたしは、あんたを許さない。・・・あんたは、”悪”だ!!」

シノブが高々と宣言する。
これだけで八蜘蛛は、恐怖の余り震え上がった。

ザッ
「ひいっ!」

シノブが拳を握りしめ、八蜘蛛に向かって一歩踏み出す。
一方の八蜘蛛は、戦うにしても、逃げるにしても、身体が全く言う事を聞かない。

(う・・・ひくっ・・・この、八蜘蛛、様、が・・・)

目からは涙が流れ、太股には黄色い筋が通っている。



その時だった。

一筋の剣閃が、シノブに襲いかかる。
奇襲を受けた彼女は、後ろに飛び退くしかなかった。

二人の視線が、その剣閃を放った人物に集まる。

「真剣・・・『五代十国』」



「番・・・!」
「門番!!!」

彼女の名を呼ぶ二人の声が重なる。
それを聞いた門番は、二人の顔を見比べて、八蜘蛛のところに駆けつけた。

「何故・・・お前」
「やくもーん!!!」

八蜘蛛の言葉をさえぎるように、門番が彼女に抱きついた。

「うぁ、く、苦しい、分かったから離れろ・・・あと私の名前は”はちぐも”だ。」
「あぁー、ゴメンゴメン。でも目が覚めてから初めて知り合いに会ったんだもん。」
「そ、そう・・・(なんだか今日はいつになく元気ね)」

普段とは全く違う門番の様子に戸惑いながらも、
八蜘蛛は彼女が自分の知っている門番だと認識した。

「じゃあさじゃあさ、ロッシーとハギーは?」
「(誰よそれ・・・)えっと、ロシナンテなら死んだらしいわ。萩は知らない。」
「ええっ、あの人死んじゃったの!?」

門番が目を丸くして、大袈裟に驚く。
八蜘蛛はその様子を呆れた様子で見ていた。
その時、彼女の持っている剣が、八蜘蛛の目に留まった。

「あれ、その剣は・・・」

見間違いでなければ、門番の持っている剣は、八蜘蛛のデイパックにあったものだ。

「ああっ、あれってあなたのだったの?」

門番は最初から剣を持っていたわけではない。
八蜘蛛が襲われているのを見て、咄嗟に近くに落ちていたデイパックから引き抜いたのだ。

「うーん、それじゃあ・・・あっ!!!」

いくらこんな状況でも、人の物を盗むのは泥棒。この剣は八蜘蛛に返さなければならない。
そう思った門番だったが、すぐに状況が変わった。



ダンッ

シノブの放った銃撃が、門番の足元に突き刺さる。
いつでも攻撃できるという意思表示だ。
その事を理解した門番は、八蜘蛛に告げた。

「八蜘蛛・・・この剣、暫く借りる。」
「え、ええ、構わないわ。(雰囲気が・・・変わった?)」



「番・・・そいつを、庇うのか・・・?」
「・・・ああ。」

シノブの問いに、門番が静かに答える。

「何故だっ! そいつが、どんなに酷い奴か、分かってんのか!!」
「・・・分かってる。」

八蜘蛛が味方すら切り捨てるような者である事は、門番もよく知っている。
シノブが彼女に怒りを感じる理由も、何となくだが想像できる。
だが、彼女がどのような人物であるかは、門番には関係の無いことだった。

「私は、魔族を守護する者。同族を見捨てはせぬ。」
「そうか・・・分かった。ならばあたしは、あんたを倒す!」

シノブにとって、門番と戦う必要は無い。
しかし、”悪”を庇うのであれば、戦わないわけにはいかない。



「・・・行くぞ。突剣・・・」

先に仕掛けたのは門番だ。
剣先を真っ直ぐシノブに向けた構えのまま、一気に間合いを詰める。

「『乾坤一擲』」
「遅い!」

残り3メートル程の所で、攻撃態勢に入る門番。
しかしスピードはシノブの方が上だった。
僅か一瞬のうちに、門番の懐に潜り込む。

「サンダーステーク!」
「がっ!」

電撃を纏ったアッパーで、門番の身体が宙に浮く。
空中で動けない隙を狙って、シノブはさらに追撃する。

「シャイニングシュート!」
「ぐあぁっ!」

魔力を込めた蹴り上げにより、門番が空高く舞い上がる。
たった二発で相当量のダメージを受けた彼女に対して、シノブは追撃の手を緩めない。

「スパークルカッター!」
「くぅっ!」

空中で門番を捉え、同時に魔法の刃で腹部を切り裂く。
だがこれは、次の一撃への布石に過ぎなかった。

「ツインチャージ・アイスストーム!!」
「うぐっ、おおあああああぁぁぁあああ!!!」

零下40度の氷の拳が、腹部の傷にピンポイントで突き刺さる。
その衝撃で門番は大きく吹き飛ばされ、強烈な冷気は彼女の内臓を蝕む。
外側だけでなく内側からも、強烈な痛みが彼女を苦しめる。



ドサッ

門番は、成すすべなく地面に叩きつけられた。

(くぅ・・・これ程とは・・・)

相手の方が上であることは、予想していた。
しかし、ここまで差があるとは思っていなかった。
何故なら彼女は、本気を出せば魔王相手でもそれなりに打ち合える程の実力者だからだ。

とりあえず、身体を起こしてみる。なんとか立ち上がる事は出来た。
でもそこまで。走ったり飛んだりは出来そうにない。
それでも・・・諦めるわけには行かない。

一方のシノブは、戦意を失っていない門番の姿を見て、膨大な魔力を右手に集めた。
どうやら、本気で門番を消し飛ばすつもりらしい。

「フ・・・最早、避けられぬか。」

大きなエネルギーを纏って突っ込むシノブに対し、門番は胸に手を当て、目を閉じた。

「イノセント・デストラクタァ!!!」

シノブの最大の魔法が、炸裂した。
[38]投稿者:「守るべきもの」その7 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/02/16(Tue) 11:26 No.488  
閃光の後、静寂。

立ち尽くす者と、地面に倒れた者。

その一部始終を見届けた八蜘蛛が、足を引き摺って倒れた仲間のもとへ歩み寄る。

「門番・・・」
「ぅ・・・ん・・・」

名前を呼ぶと、彼女は弱弱しい声で答える。

「見せてもらったわ。あなたの実力。
 まさか、あの人間を相手に・・・」

八蜘蛛は、シノブの方に目を遣る。

「・・・勝ってしまうなんて。」



シノブは、死んでいた。
拳を放った姿勢のままで。

八蜘蛛が手を触れると、バランスを崩した身体はその場に倒れこんだ。



「一体、何なの?・・・あなたの最後の”技”」

シノブの一撃が当たった瞬間、門番が動いたように見えた。
ただ、それ以上の事は、八蜘蛛には分からなかった。

「ああ、あれは・・・」

門番は深くうなずいて、語り出す。

「致命傷を受けながら、なお生きんとする意思に任せて、相手の生命を奪い取る。
 生と死の狭間より、溢れ出る無限の力。
 秘剣・・・『自虐無間』」





【D-3:X3Y1/昏い街/1日目/夕方】


【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:体力激減、負傷、冷気による内臓損傷
[装備]:リザードマンの剣@ボーパルラビット
    不眠マクラ@創作少女
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料13、水11)
    SMドリンクの空き瓶@怪盗少女
    あたりめ100gパックx4@現実世界
    財布(中身は日本円で3万7564円)@BlankBlood
    ソリッドシューター(残弾数1)@まじはーど
    霊樹の杖@リョナラークエスト
[基本]:キングを泣きながら土下座させる、そのための協力者を集める
[思考・状況]
1.まずは体力回復
2.とりあえず食事?
3.八蜘蛛を守る
4.キングを泣かすのに協力してくれる人を探す

※不眠マクラの効果に気づいていません
※ロシナンテが死んだらしい事を知りました
※一回目の放送は聞いていません
※シノブ、ルカの分の支給品を手に入れました
 もしくは八蜘蛛に持たされました
※技の性能が原作より大幅に上がってるのは仕様です
 というか原作の自虐無間が微妙すぎる(ピンチ技なのに威力普通の単体吸収攻撃)
 原作では寝起きかつ怒り補正が無かったので実は実力の半分も出せてないと勝手に予想



【八蜘蛛@創作少女】
[状態]:全身、特に足にダメージ(養分吸収である程度回復)
[装備]:トカレフTT-33@現実世界(弾数8+1発)(使い方は鈴音を見て覚えた)
    弾丸x1@現実世界(拳銃系アイテムに装填可能、内1発は不発弾)
[道具]:デイパック、支給品一式×3(食料14、水14)
    モヒカンハンマー@リョナラークエスト
    メイド3点セット@○○少女
    バッハの肖像画@La fine di abisso
    チョコレート@SILENTDESIREシリーズ
    ロカ・ルカ@ボーパルラビット
[基本]:ステルスマーダー
[思考・状況]
1.ルシフェルを倒す(そのために実力のある参加者を味方につける)
2.エリーシアを殺す
3.人間を養分にする
4.萩、ロシナンテと合流する

※ロシナンテが死んだらしい事を知りました
※一回目の放送は聞いていません



【ロカ・ルカ@ボーパルラビット】
[状態]:腹部に致命傷、八蜘蛛の繭の中、意識混濁
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本]:生存者の救出、保護、最小限の犠牲で脱出
[思考・状況]
1.何も考えられない

※八蜘蛛の繭から栄養を得て、辛うじて生かされている状態です
※何らかの原因で繭から出れば、特別な事情が無い限りすぐに死にます
※支給品は門番に奪われました



【川澄シノブ&スピリット=カーマイン@まじはーど】
[状態]:死亡

※支給品は門番に奪われました



【ゴート@リョナマナ】
[状態]:死亡、養分は全て八蜘蛛に吸われた
[道具]:デイパック、支給品一式×2(食料11、水11)
    レボワーカー@まじはーど(損傷度0%、主電源入)
    バク@リョナラークエスト
    猫じゃらしx3@現実世界
    大福x10@現実世界
    弓矢(25本)@ボーパルラビット
    レボワーカーのマニュアル@まじはーど

※レボワーカーは昏い街の近辺に放置されています
※デイパックと支給品は、バクも含めてレボワーカーのコクピットの中です





「はあっ、はあっ、はあっ・・・」

りよなは雨の中、道も分からず、ただ走っていた。
自分を殺そうとする者から逃げるために。

「きゃっ!」

何かに躓いて、転ぶ。目の見えない彼女にとっては、仕方の無いことだ。
そもそも、ここまで普通に走って来られた事が、奇跡に等しい。

「う・・・うぅ・・・なより・・・」

大切な妹の名を呼ぶ。
しかし、応えは返ってこない。



そんな彼女に、転機が訪れた。

「・・・これは・・・!?」



【D-3:X3Y1から少し移動/1日目/夕方】

【篭野りよな@なよりよ】
[状態]:疲労、精神不安定
[装備]:サラマンダー@デモノフォビア
    木の枝@バトロワ
[道具]:デイパック、支給品一式(食料9、水9)
[基本]:マーダー、なよりを生き返らせる
[思考・状況]
1.善良な参加者を見つけて利用する

※「何か」を見つけました
 「何か」が何なのかは次の書き手さんに任せます
 まさかの大逆転でも、まさかのギャグ展開でも、どうぞご自由に
[39]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/02/16(Tue) 11:27 No.489  
【あとがき】

すいません、結局さらに遅くなりました。こだわり始めるとキリが無いという悪循環。
なんかものすごい設定改変とか捏造とかしてしまった気がします。

1日目の夕方にして、ほぼ南側の決着がついてしまったという恐ろしいほどのハイペース。
2日目まで生き残ってる参加者はいるのでしょうか。
とりあえず・・・りよなに期待です。
[40]投稿者:黒猫◆ZeGoU3RI 投稿日:2010/02/28(Sun) 01:46 No.494  
(やっぱり魔術的なトラップがかかってる、それもかなり複雑な)
(解けそう?)
(たぶんいけるとおもう)

ナビィとえびげんを見送った後クリスと初香は早速手に入れた首輪の分析にかかっていた。
盗聴を警戒して相変わらず会話は筆談である。

(魔法で首輪を壊そうしたり、単純に力で引きちぎろうとすると即爆発する仕掛けみたい)

このトラップを解除するには起爆キーに触れないように慎重に魔術を逆算していかなくてはならない。
針の穴に糸を通すような作業だが、自分ならできないことはないだろう。

(そっちはどう?)
(詳しいことは分解してみないとわからないけど首輪に一定以上の負荷がかかると爆発するんだと思う。他にもレーザーなんかで焼き切ったり、電気ショックで壊されたりしないようにできてると思うんだ。具体的にはどこかにセンサーが……)

すさまじい速さで紙に文字を書きなぐっていく初香をクリスはあわてて静止する。
初香の世界の専門知識を長々と解説されてもクリスには理解できないだろう。
だから単刀直入に聞く。

(解けそう?)

正直クリスは初香にこの首輪をはずすことができるとは思っていなかった。
あれだけ複雑な魔術トラップがかけられていたのだ、おそらく初香の世界の技術を使ったトラップも相当複雑なものだろう、こんな小さな子供がどうにかできるとは思えなかった。
しかし、

(解ける)

初香は当然だといわんばかりに断言した。
初香は十歳にして十以上の国家資格を持つ天才少女だ。
その膨大な知識の中には爆発物の処理や電子機器に関するものの含まれていた。
クリスは驚きに目を丸くしたが、そういう反応をされるのには慣れている。

(でも解体するには道具が要る、えびげんさんたちが帰ってこないとどうしようもないね)
(それじゃあまず、わたしがやってみる)

そういってクリスが手をかざすと首輪の周りの空気が淡く発光しだした。



一方、ミアと明空は少し離れた所で今後の予定について話していた。

(やっぱ脱出するにはこの船しかないとおもうんだ)

明空が指したのは地図の南東にある豪華客船だった。

(でも、操縦できるかしら?)
(大丈夫だって、こんなの勘で何とかなるって。俺、携帯の説明書とか見たことないけど使えるもん)

何とかなるわけがない。
モーターボートぐらいなら何とかなるかもしれないが、ここにあるは豪華客船である。
素人が操縦できるはずがない。

(そうね、これだけの人数がいれば何とかなるかも)

一方でミアはというと帆船のようなものを思い浮かべている。
無論、ミアはキングリョーナを倒すまで脱出するつもりはなかったが、あの男と戦う前に美奈や初香を含めた戦闘力のないものたちを逃がさなくてはならないだろう。



そんな二人を少し離れたところで冷ややかに見つめているのは美奈である。

(この人たち、バカ?)

どうやら本気で豪華客船で逃げるつもりらしい、ばかばかしくてつっこむ気も起きない。

「私は私でどうやったら生き残れるか考えといたほうがよさそうね」

やむ気配のない雨の音を聞きながら、美奈は小さく独り言ちた。





時間は少し戻って、国立魔法研究所に程近い森の中。
ぐごおぉぉおおぉぉ、がおおぉぉぉぉ、と、森にはひどく不似合いな怪音が響いていた。
そこへ、ぽつりぽつりと、雨が降り始める。

「ふごぁ?!」

怪音の主は突然顔に当たった水滴に驚いて飛び起きる。

「なんだ、雨かよ。人が気持ちよく寝てんのに」
「やっと起きたかよ、がーがーいびきかきやがって」

モヒカンとダージュである。
二人は出会った後すぐにでも国立魔法研究所を襲撃するつもりだった。

そのために、まずダージュのデイパックの中身を確認して使えそうなものを見繕い、魔法でモヒカンも怪我を回復して、準備を整えいざ、というときに問題が発生した。
モヒカンのイリュージョンが使えないことが判明したのである。
いままではしゃぎまくって考えなしに乱発してきたのだから、魔力が尽きるのも当然の結果である。

敵はあの強力なボウガンのような武器を所持しているだろうからイリュージョンが使えないのは非常にまずい。

仕方なく二人は食事としばらくの休息をとることにした。

「で、どうだ?調子のほうは、いけそうか?」
「おう!ばっちりだぜ」
「そうか、じゃあまず状況を説明する。お前が寝ている間にずいぶん状況が変わった」



「と、言うわけだ、一人増えたが後から来た男はどうも素人くさい、敵は実質二人ってとこだろう」
「ちっ、俺はオーガを殺したあのふざけたメイド女が一番殺りたかったんだがな」

えびげんが別行動をとったことを聞いたモヒカンは悪態をつくが、ダージュは気にすることもなく木に立てかけてあった槍と盾を手に取る。
この槍はダージュのデイパックから出てきた支給品のひとつだった。

「まあ、あそこを乗っ取って待ち伏せしてりゃそのうち帰ってくるだろう」

それを聞いてモヒカンもしぶしぶ太い木の枝を折って作っておいた即席の棍棒の束を抱える。

「よし!じゃあいくとするか、これ以上雨にぬれたら俺様の自慢のヘアーが崩れちまうぜ。
………そういや雨が降ってるが“あれ”は大丈夫か?」
「問題ない、デイパックの中にしまってある。作戦は頭にはいってるな?」
「まかせとけ!」

自信満々に言い切るモヒカン。
その態度に逆に不安になる。

(いくらバカでもこんな簡単な作戦を忘れるとは思えないが、念のためもう一度確認しておくか)

彼らの出陣はもう少し後になりそうだ。





「できた……」

緊張の糸が切れて思わずつぶやいてしまった言葉に全員が反応する。
あわてて口を押さえるクリス。

(解除成功)

クリスの差し出した紙を見て、全員の顔に希望の色がさした。
ガッツポーズをとる明空、微笑むミア、ほっと息をつく初香。
しかし、美奈だけはすでに次を考えていた。

どうすれば自分が一番に首輪をはずしてもらえるか?

もうこんな忌々しいものは一秒でも早くはずしてしまいたかった。
しかし、あまり露骨に自分を優先すれば角が立つ。
そんなことを考えている間に、ほかのメンバーはすでに筆談で話を進めてしまっていた。

(わたしは自分のを解除するとなると時間がかかるから後でいいわ)
(僕も自分のは外せないからね)
(こういうのはやっぱレディーファーストだろ)
(わたしも後でいいから先にみんなのを)

と、言うことで何をするまでもなく美奈が一番に決まった。
どうやれば自分が始めに外してもらえるかばかりを考えていた美奈は若干の罪悪感を覚えないでもなかったが、このチャンスを棒に振るつもりはない。
でも、一応聞いておくことにする。

(いいの?)

全員が大きく首を縦に振った。
また、ちくりと胸が痛んだ。
[41]投稿者:黒猫◆ZeGoU3RI 投稿日:2010/02/28(Sun) 01:47 No.495  
クリスが美奈の首輪の解除を始めようとしたまさにそのとき、外がにわかに騒がしくなった。
誰かの足音と、何かを叫ぶ声……
一番初めに気づいたのはミアだった。

(この不快な気配は……間違いない!)
「みんな!!」

遅れて戦闘態勢に入るクリス、まだ事態を飲み込めずにキョトンとしている三人。

「おおぉぉぉーーーー!!」

という雄叫びとともに勢いよく扉が開け放たれる。
入ってきたのはモヒカン頭の変態。

「ここにいやがったかてめぇら、約束どうり殺しに来てやったぜぇーー!!」
「アホかぁ!!雄叫び上げながら奇襲する馬鹿がどこにいやがるんだ!!」

ここにいた。世紀の馬鹿の誕生だ。
後から入ってきた男を見て美奈がひっ、と吐息を呑んだ。

「あ、あいつ私に変な魔法をかけたエルフ……」
「ん?ああ、お前か」

言われた本人は心底どうでもよさそうに生返事を返す。
すぐさまミア、クリス、遅れて明空が初香と美奈を庇ってモヒカン達に立ちはだかる。
初香もとっさに銃とオーガの首輪を手に立ち上がる。

「二人とも、奥の部屋に隠れてて」
「で、でも、僕も援護を……」
「いいから!ここは任せて」

実際、初香は戦える状態ではなかった。
足は震え、銃を持つ手は強張っていた。
いくら強がっても十歳の少女にとって犯されかけ、殺されかけた恐怖はそう簡単に拭い去れるものではない。
それでも初香は動こうとはしなかった。
天才少女としての矜持が、初香をその場に縫い付けていた。

「美奈ちゃん、連れて行って」
「わ、わかった」

と、小さく答え美奈は初香の手をとると強引に奥の扉へと連れて行った。

「初香ちゃん!」

去り際にクリスが呼びかける。

「絶対に死んじゃだめよ」

やさしく微笑みながら。

「私たちは希望なんだから」

初香が何かを言い返す前に、二人は扉の奥へと消えていった。



「さーて、それじゃあ……」

思いっきりもったいぶって……

「ぶっ殺してやるぜぇーーー!!」

高らかに宣言した。
ダージュもため息をひとつつくと、槍と盾を構える。

「なぁ、戦う前にひとつ聞いていいか?」

出し抜けにダージュが問いを発する。

「オルナって女、知ってるか?」
「オルナ?」

唐突に出てきた名前にクリスは思わず反応してしまう。
その瞬間ダージュの目の色が変わる。

「オルナっていや、確かナビィの……」
「明空!だめ!!」

慌ててクリスが静止するがもう遅い。

「おい、ナビィってのはどいつだ?オルナとはどういう関係だ?」
「答えることは何もないわ」
「お前ら二人だけが反応したってことは、最初からお前らと一緒にいたあのハーフキャットだな?」

クリスは顔色ひとつ変えない。
明空もこれ以上何も言うまいと口をしっかりと閉じている。

「クックック、まあいい、てめぇらを拷問して吐かせりゃいいんだからな」

ダージュもようやく気分が乗ってきたといわんばかりに一歩踏み出した。

「おい!動くな!こっちには銃があるんだぞ!」

不慣れな感じで銃を構えながら、明空が精一杯威嚇するが、もともと銃についての知識が乏しいモヒカン達にはほとんど効果がなかった。
加えて、明空の銃の構え方は銃についての知識がないものでも、一目で扱い慣れていないとわかるほどガチガチに強張っていた。

「それがどうしたってんだ?」

その言葉とともに、モヒカンが五人に分身する。
唖然とする明空を尻目に、モヒカン達は抱えていた棍棒を分け合うと、そのうちの一人がどしどしと明空のほうに向かってきた。

(ぶ、分身!どれが本物だ?弾一発しかねぇのに!)
(と、とにかく撃つんだ!でも、もし本物だったらあたったら死んじまうよな……)

人殺しにはなりたくない。
しかし、明空が迷っている間にもモヒカンはずんずん迫ってくる。

(足だ!足を撃つんだ!)

覚悟を決め、モヒカンの足に狙いをつけ引き金を絞る。
ズバァン!
銃声とともに悲鳴が上がる。
しかし、

「ぐああぁぁぁ!!腕が、腕がぁぁぁぁ!」

悲鳴を上げたのは明空のほうだった。
明空の持っていた銃はAM500。
素人が使えば肩が外れてもおかしくないほど反動の強い強力な銃だ。

当然、一般的な日本の高校生である明空に銃を撃った経験などあるはずがない。
結果、弾は誰にもあたることなく、明空自身が吹っ飛ばされてしまった。
手からすっぽ抜けて飛んでいった銃が、床に落ちて耳障りな音を立てる。

モヒカンはもう目の前に迫っていた。

「あ………」
「男をなぶる趣味はねぇからよ、一撃で楽にしてやるよ!!」

ビュン!
風切音とともに悲鳴が上がる。
しかし、

「いってぇぇぇ!!なんだこりゃぁ!」

悲鳴を上げたのは今度はモヒカンだった。
明空を守るように光の壁が二人の間に現れていた。
クリスの魔法リフレクト。
あらゆる攻撃を防ぐ光の壁を作り出す魔法だ。
モヒカンは今しがた光の壁を思いっきり殴ってしまった右手をぶらぶら振りながら、クリスのほうに向き直る。

「このやろぉ」
「明空はそこでじっとしてて」

モヒカン軍団はいっせいにクリスへと向かっていく。
ダージュはミアと対峙していた。

(かっこ悪いな、俺)

目の前で繰り広げられる戦闘を呆然と眺めながら、明空はそんなことを考えていた。



戦いは拮抗していた。

モヒカンを相手に戦うクリスは、リフレクトで攻撃を防ぎながら次々と魔法を繰り出す。
クリスはえびげんから銃を預かり、一通りの使い方は教わっていた。
しかし、明空の失敗を見て、やはり使い慣れない武器は使わないほうがいいと考え、使い慣れた魔法で戦うことにした。

純粋な戦闘力ならクリスの方が上だ、しかしモヒカンは五人いる、加えてクリスは根っからの魔導師だった。

(騎士団養成学校にいたときに基本的な戦闘訓練は受けたけど、わたしにはアーシャやエリーみたいな立ち回りはできない。この攻撃をかわしながら詠唱に時間のかかる強力な魔法は使えない。なら!)
「闇に抱かれなさい」

クリスが呪文を唱えると、突如うごめく闇の鎖がモヒカンの一体を拘束する。

(一体づつ確実に倒す!)
「光よ!」

聖なる光が動けないモヒカンを打ち抜く。
と、すぐさまモヒカンは消滅した。

(よし!いける!)
(それにしても……)

クリスは戦闘に参加せずに離れたところで一人だけこちらを伺っているモヒカンを見る。

(あんなところで一人だけ高みの見物なんて、あれが本物ですって言ってるようなものじゃない。どこまで馬鹿なの?)

あれが罠という可能性もあるだから今は直接攻撃してくる残り三対のモヒカンを優先して倒すことに集中する。



ダージュを相手に戦うミアは苦戦していた。

(あの槍、ただの槍じゃない!)

ダージュの振るう魔法の槍「トルネード」は竜巻の名が示す通り風を操る槍だ。
一突きごとに突風が吹き荒れ、ミアの動きを制限する。
だが、ダージュ自身は槍の扱いに慣れていないのか隙は多い。
その隙を突いて槍の間合いの内側に入り攻撃を仕掛ける。
狙うは、盾で防ぎ切れていない足。

「やああぁぁぁーーー!!」

しかし、ミアの剣はダージュに届く寸前で盾に防がれてしまう。

(またこの盾!まるで自分の意思を持って動いているみたいに!)

まさにその通り、ダージュがリョナラー連合東支部で見つけたまゆこの支給品デコイシールドは、攻撃のおとりとなって装備したものを守る盾。

ミアは槍の一振りで突風に引き飛ばされ、再び間合いが開いてしまう。

(せめてもう一本剣があれば………!!)

言い知れぬ悪寒を感じ、とっさにその場からとびのく、その瞬間ダージュの魔法アイスが発動し、さっきまでミアがいた場所を尖った氷柱が貫く。

(くっ、盾で口元が隠れて発動のタイミングが読めない!)

その上、ミアにもう魔力は残っていない、すべて初香と美奈の回復に使ってしまった。

(このままじゃまずい!)
(それにしても……)

間一髪でダージュのサンダーをかわしながらミアは思う。

(あの二人は大丈夫かな?)

自分が窮地に立たされていても、ミアが心配するのは先に逃がした初香と美奈のことだった。



廊下を走る初香と美奈は、開いている扉を見つけると飛び込んで鍵をかける。
それほど長く走っていたわけではないが、怪我のせいで二人ともすでに息が上がっていた。
ここはどうやら資料室のようだ。
部屋中にある棚は本で埋め尽くされ、机の上には資料が山積みになっていて、部屋の奥には小さな窓がある。

「みんな、大丈夫かな………」

少し落ち着いてきたところで初香が呟いた。

「きっと大丈夫よ。ミアさんはすごく強いし」
「でも………」

ミアの強さは知っている。
自分も一度助けられた。
でも………

本当に逃げていいんだろうか?

「もう!私達がいたって足手まといになるだけよ!今はここで待ちましょう」
「………うん」

納得したわけではなかったが、確かに自分がいても足手まといになる確率が高い。
今は信じて待つしかない。

静かだった。
美奈も初香もそれっきり口を閉ざしたままだ。
ミア達の死闘の音がかすかに聞こえてくる以外、何も音を立てるものはない。
ただひたすら静かだった。

静かだったからこそ、その音はより鮮明に、より異質に響いた。
粘性の高い液体が落下したような、ベチャ、という音が。
何もないはずの……部屋の奥から……
不気味に………響いた…………
[42]投稿者:黒猫◆ZeGoU3RI 投稿日:2010/02/28(Sun) 01:50 No.496  
拮抗は突然崩れた。

どこからともなく聞こえてきた、少女たちの悲鳴にミアとクリスは一瞬気をとられた。
その一瞬が致命的だった。

「ヒャッハァー!つかまえたぜぇーー!!」
「しまった!」

後二体になっていたモヒカンうち、ずっと傍観を決め込んでいた一体がクリスに飛び掛り羽交い絞めにする。

「は、離しなさい!」
「やなこった!ついでだから教えといてやる、俺は分身だぜぇ!」

「クリ……!!」

皆まで言えなかった、今までクリスと戦っていたモヒカンがミアに標的を変えて襲い掛かってきたからだ。
間一髪、剣で振り下ろされた棍棒を受け止める。

「いまだ!!やっちまえーーー!」

その言葉を合図にダージュがデイパックの中から何かを取り出す。
それは手のひらに乗るほどの小さな樽だった。
それを羽交い絞めにされて動けないクリスめがけて投げつけ、すぐさま魔法を唱え始める。



今まさに命の危機にあってクリスの頭は冷静に状況を分析していた。
この状況で、最後までとっておいた分身を捨て駒にして自分に投げつけられた小さな樽。
あの樽はおそらく……

(爆……弾………)

樽はスローモーションのように飛んでくるが、今からではリフレクトは間に合わない。

(ここまで……かな?)

ゆっくりとまぶたを閉じると、走馬灯のように親しかったものたちの顔が頭をよぎる。

(アーシャ、エリー、ごめんね)

そして、

(どうか、生き延びて)

叶うはずのない願いを心の中で唱えた瞬間、火花のように雷光が走り、視界は白一色に塗りつぶされ、すべての音が消し飛んだ。
ただ、衝撃が自分の体を貫いた感覚だけがはっきりと残った。



人間は、“未知”に遭遇すると激しい恐怖を感じる、彼女たちも例外ではなかった。
だから“それ”に遭遇したとき彼女たちは声の限りに叫んだ。
彼女たちにとって、小さな窓から侵入してくる蠢く半透明の液体はあまりに“未知”だった。
恐怖に震える手で、もたつきながら扉の鍵をはずすと、部屋から転がり出て脱兎のごとく駆け出した。

“スライム”

彼女たちの世界には存在しない、ゲームの中の怪物。
それが今、目の前にいて自分たちに迫っている。

逃げ惑ううちにいつしか国立魔法研究所から飛び出し外を走っていた。
しかし、二人とも怪我をしていて満足に走ることができない。
スライムはなおも二人に迫る。

(このままじゃつかまる!)

美奈は横目で息も絶え絶えに隣を走る初香を見る。

(この子をおとりにすれば………)

やり方は簡単だ、足を引っ掛ければ初香はいとも簡単に転ぶだろう。
でも………

殺し合いが始まってすぐ自分をひどい目に合わせたエルフの言葉がよみがえる。

『バカかテメーは? あっちの街道に転がってる男女二人を
見捨てて隠れ、挙句の果てにはそいつらの荷物までぶん取るような
糞餓鬼に仲間なんている訳ねーだろが』

魔法をかけられ、歩く時限爆弾にされてしまった自分を受け入れてくれ、事情を話すと自分のことのように怒ってくれたミアの顔がよみがえる。

誰から首輪を外すかが問題になったとき、自分が打算から発した問いに誰一人迷うことなく頷いてくれたみんなのしぐさがよみがえる。

(いいの?)

再びたずねる。
今度は自分に。

(本当にいいの?そんなことをして?)

そんなことをすれば、自分はもう二度とみんなと一緒にいられない気がする。
その先に待っているのは再びの“こどく”。
ずっと一人でさまよい続ける惨めな“こどく”。

(しかた……ないじゃない………)

もう一度横目で初香を見る。

(このままじゃ、二人とも、死んじゃうんだから……)

“死”と“こどく”どちらの方がましか。

(やるしか………)

そんなことを考えていた罰が当たったのだろうか。
美奈は小さな石につまずいて派手に転んだ。



「美奈!!」

慌てて急ブレーキをかけ、振り返る。
スライムはもう美奈の下半身を覆い尽くしていた。

「ひっ、た、たすけ……んぐ!」

そして、そのまま全身を飲み込まれる。
必死に手足をばたつかせて抵抗するが、まったく意味をなさない。

(ど、どうしよう)

決まっている、助けるんだ。
でも、どうやって?

明らかに初香の世界の常識を超越した、生物かどうかも怪しい怪物に、どうやって対抗する?
何かないか?と、周りを見回すと、自分の手に銃を見つけた。
灯台下暗し、というフレーズが思い浮かんだ。

初香はどうでもいい思念を振り払うと、基本に忠実に両手で銃を構えた。
しかし、手はがたがたと振るえ、なかなか照準が定まらない。
下手をすると美奈に当たってしまいそう。
それでも、歯を食いしばって引き金を、引く!

しかし、弾はポシュ!という軽い音とともにスライムに飲み込まれる。
それでも構わず引き金を引く!

引く!引く!引く!引く!引く!引く!引く!引く!引く!引く!引く!引く!

当然九回目からはカチ、カチ、とむなしい音が響くだけだったが構わず引き金を引きつづける。
数十回目に引き金を引いたとき、ようやく初香は自分のやっていることの無意味さに気づいた。

ゆっくりと、スライムが体の一部を初香に向けて伸ばす。

「あ…あぁ………」

万策尽き果て銃を取り落し、後ずさりする初香。

『初香ちゃん!』

そのとき、唐突に別れ際のクリスの言葉がよみがえった。

『絶対に死んじゃだめよ』

やさしい微笑みがよみがえった。

『私たちは希望なんだから』

何度も、何度もよみがえった。

(ぼくは……希望…なんだから…………)

必死の形相で美奈が何かを叫ぶが、その叫びは泡となるだけで、初香には届かなかった。

(絶対………死んじゃ……だめなんだから………)

美奈はなおも何かを叫び続けている。
初香にはそれさえ『逃げろ!』と叫んでいるように見えた。

………ようやく、わかった

「う……ぁ………」

………あのとき、ぼくは

「うわああああぁぁぁぁぁ!!」

逃げちゃ、いけなかったんだ



きびすを返し、振り返らずに、全力で、走り出した。

あのとき、美奈の手を振りほどいて戦わないといけなかったんだ。
あのとき、すでにぼくは逃げ出していたんだ。
あのとき、逃げ出したぼくは、もう戻れない。
もう、逃げ続けるしかない。
振り返らずに。



(いやだ!置いていかないで!助けてよ!!)

走り去る初香の背中に必死で叫ぶが、やはり声は届かない。

(あのとき、迷わなければ!余計なことを考えずにやっておけば!)

自分は生き残れたかもしれないのに………

ついさっき、“死”と“こどく”を天秤にかけた。
今なら判る、天秤にかけるまでもない、“こどく“の方が圧倒的にましだ、死ぬよりはずっといい。

当然ながらスライムに完全に取り込まれてしまった美奈は息ができない。
酸欠でだんだんと意識が薄れていく。

(いや、だ………死にたく……ない)

完全に意識が闇に飲み込まれる寸前、肺に空気が送り込まれ、美奈は再び覚醒する。
見るとスライムの中にできた気泡が、美奈の口に向かってのろのろと動いてきていた。

(空気!空気!!)

美奈は空気を求め、金魚のように口をパクパクさせる。
だが、美奈の口に触れるか触れないかというころで気泡は美奈から離れていく。

(そ、そんな!死ぬ!死んじゃう!!)

必死に首を伸ばして空気を吸おうとするが、ぎりぎり届かない。
再び意識が遠のく。
が、今回も意識を失う直前、気泡が美奈の口に触れる。
しかし、大きく息を吸っている途中で気泡は口元を離れ、代わりにスライムが気管へと流れ込み美奈は咽て吸い込んだ空気をすべて吐き出してしまう。

(まさか……私弄ばれてる?)

こんなわけの判らない怪物に?
腹の奥からふつふつと怒りが湧き上がってくる。
だが、結局どうすることもできない、相変わらず金魚のように必死になって酸素を求め、スライムを飲まされては咽返る、その繰り返しだった。

そんな状態がしばらく続いた後、状況に変化が生じた。
大量のスライムが口に流れ込んできたのだ。
いや、口だけではない、目から、鼻から、耳から、秘所から、菊門から、ありとあらゆる穴から容赦なく侵入してくる。

(なに、これ!!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ……!!助けて!誰か助けてよ!!)

のどの奥を犯される強烈な吐き気に、眼孔、耳奥、鼻腔を犯される圧倒的な恐怖に、秘所を、菊門を犯される耐え難い羞恥に、美奈の心は狂いそうになる。

そのとき、突然目に激痛が走った、思わず目を閉じるがもはや無意味、スライムはすでに眼孔の奥まで侵入しているのだから。
それと同時にすさまじい胸焼けと、体の内側が痛痒いような感覚に襲われる。
恐る恐るまぶたを開くと視界が真っ赤に染まっていた。
スライムが強力な酸を分泌し始めたのだ。

(ぎああああぁあああぁぁあああぁぁ!!タスケテ、イタイ!イたイよ!!タスけて、タスケテたすケてたスケテtすケteタすkeてたsけテ)

思いつく限りの人の名前を呼び、助けを求める。
しかし、名前は思い出せるが、顔が思い出せない、ついさっきまで一緒にいたのに、どうしても思い出せない。

(ナンデ?ドウシテミンナ、デテキテクレナイノ?ドウシテ、タスケテクレナイノ?)

理由は簡単、美奈が“こどく”を選んだから、選ぼうとしたから。

(イヤダ、パパ、タスケ、テ……………)

やっぱり、顔は思い出せなかった、大好きだった父親の顔さえも。



何も見えない、何も聞こえない、何の匂いもない、何の味もない、痛みも痒みも暑さも寒さも感じない。

自分の顔すらも思い出せない、自分の存在がどんどん消えていって………

美奈は本当の“死(こどく)”に墜ちた。



一人の少女が亡骸が横たわっていた。
口はだらしなく開いたままで、見開かれた目には眼球がなく、さながら埴輪のよう。
腹部は陥没し、臓器は何一つ残っていない。
それは、一人の少女の抜け殻だった。

少女からすべてを奪ったものは、次の獲物を求めて動き出す。
[43]投稿者:黒猫◆ZeGoU3RI 投稿日:2010/02/28(Sun) 01:53 No.497  
いつの間にか暗転していた視界がぼんやりと回復しだした。

(何が………あったんだっけ?)

ぼんやりとした頭で思い出す。

(たしか、変態と戦って……図書館で調べ物をして……つるはしが飛んできて……羽交い絞めにされて……ルーファス君が死んで……アーシャとエリーと世間話をして……首輪が爆発して…………あれ?)

思考がまとまらない、記憶の断片が次々と浮かんできて、何がどういう順番で起こったのか思い出せない。
それに体中が痛い、重い。

(……爆発?そうだ、爆発したんだ)

確か自分は爆弾を投げつけられて、そして………

「いき……てる………?」

生きてる。
われながら信じられない。
でも、体がいやに重い。
どうやら何かが自分の体を押しつぶしているみたいだ。

(重い……これ、どけないと……)

自分の体の上にのしかかっている“それ”をどけようとした手が、

ぬるりと滑った。

「え………?」

ようやく、クリスは自分に覆いかぶさっていた“それ”が何なのか把握した。

「あ…そ……ら………?」

明空だった。



部屋の中は惨状としか言いようのない有様だった。
もうもうと粉塵が立ち込め、天井は崩落し瓦礫の山と化していた。

「クリス!」

いち早く体勢を立て直したミアはすぐさま粉塵の中に飛び込んだ。

爆発の瞬間、爆心地に背を向けていたモヒカンは爆風に煽られて壁まで吹き飛び、そのとき、モヒカンに押し倒されたミアは地に伏せる形になり、結果的に爆発の影響をほとんど受けずにすんだ。

(クリスだけじゃない!)

爆発の寸前、明空が飛び出していくのが見えた。

粉塵のせいで目を開けていられない、息を吸えば容赦なく気管に砂粒が突き刺さり咳き込んでしまう。
でも、そんなことを気にしていられない。

(二人とも無事でいて)

しかし、

「!!」

粉塵の中、二人は折り重なるように倒れていた。
クリスはまだ、かろうじて生きているようだ。
しかし、明空の方は今まで数々の死線をくぐってきたミアでも、思わず目を背けそうになってしまうほど悲惨な状態だった。
背中は大きくえぐれ、白い骨が露出している。
間違いなく即死だろう。

明空の死体をずらし、クリスを助け起こす。
クリスの純白のローブは明空の血で真っ赤に染まっていた。
よく見ると左腕がおかしな方向に曲がっていたし、体中打撲痕と擦り傷だらけだ。

「クリス!しっかりして!!」
「う………ぁ……ぐ………」

(目の焦点が合ってない、目立った外傷はないみたいだけど頭を打ったのかも)

「くっそ!あの大きさでなんて威力だ」

粉塵の向こうからダージュが悪態をつく声が聞こえる。
どうやらこの大爆発は相手にとっても予想外だったらしい。

(この状況は、まずすぎる!)

クリスはとても戦えるような状態じゃない。
自分はもともとダージュ一人が相手でも劣勢だった。
クリスを守りながら、あの二人と戦っても絶対に勝てない。
逃げるしかない。

クリスを背負い、もう動かない明空に声をかける。

「ごめんなさい、連れて行けなくて。ありがとう、クリスを守ってくれて。
クリスは私が必ず守りぬくから。………さようなら」

それだけ告げると、二人は粉塵の彼方に消えていった。





「いってぇ」

静かになった国立魔法研究所でモヒカンが目を覚ます。
もう辺りは暗くなっていた。

「お前はよっぽど昼寝が好きらしいな」

瓦礫の山に腰掛けたダージュが皮肉に満ちた声で言った。

「どうなった?」

ダージュは親指で捨て置かれた明空の死体を指差しながら。

「逃げたよ、あいつらは。死んだのはそいつだけだ。一通り建物の中も見て回ったが、さきに逃げたガキ共も消えてた」
「ちっくしょおぉぉぉ!また俺が寝てる間に!!今から追いかけてぶっ殺してやる!!」
「無理だよ。てめぇどれだけ寝てたと思ってるんだ。それにお前は別行動をとったメイド女を殺してぇんだろ?だったらどこに逃げたかもわからないあいつらを追うより、ここでじっとしていたほうがいい。」

実際には追いかけようと思えば不可能ではない。
あの魔導師の女はおそらく相当の深手を負っているだろし、すぐに自分たちが追いかけてくる可能性を考えれば、逃げる場所は最初に自分たちがいた森しかない。

だが、ダージュは追わなかった。
ダージュにとって今一番重要なのは、ナビィとかいうオルナと関係の深いらしいハーフキャットをここで待ち伏せして殺すことだ。
それにこの建物を占拠することもダージュの目的の一つだった。

「でもよぉ!」
「まあ落ち着け、落ち着いてあれを見ろ」

ダージュの指差した先には五つのデイパック。
ミアたちの敗走は彼らに多くの支給品をもたらした。
ここにはありとあらゆるものがある。
大量の食料、威力の高い重火器、強力な回復アイテム、魔封じの呪印………

そして何より、

(もうすぐ、夜が来る)

夜になればダージュは格段に魔力、身体能力が上がるだけでなくディレイ・スペルが使えるようになる。
ダージュの得意技、ディレイ・スペルは逃げ場の少ない屋内では最大限の力を発揮する。
地雷のように使うことのできるこの魔法が張り巡らされた屋内では、敵は満足に動くこともできない。

今より、国立魔法研究所はリョナラーたちの要塞と化した。



ミアたちはダージュの予想通り、国立魔法研究所から南西にある森の中にいた。
暗い森を奥へ、奥へ、と進みながらミアはジレンマに陥っていた。

美奈と初香のことだ。
戦いの最中に上がった二人の悲鳴。
あの時点で二人の身に何かが起こったのだ。
仮に、その危機を自力で脱していたとしても、まだ国立魔法研究所に残っているとしたら、あの二人に襲われる可能性は非常に高い。
今すぐにでも戻って二人の安否を確かめたかった。

しかし、クリスをこのまま放って行くわけにもいかない。
クリスはまだ意識が朦朧としており、もし殺し合いに乗った人間に見つかれば簡単に殺されてしまうだろう。

(わたしはどうすれば………)

「ミ…ア……」
「!!クリス!大丈夫?!」

突然声をかけられ敵かと思ったが、すぐにクリスの声だと気づいた。

「わたしは……大丈夫………だから……初香ちゃんと………美奈ちゃんを………」
「大丈夫なわけないでしょう!!貴方をおいていけないよ!」

自分で大丈夫かと聞いておきながら何を言ってるんだとも思ったが、大丈夫じゃないことは明らかだ。

「でも、あの子達は……もっと、危険な…目に……あってるかも……しれない………」
「でも………」
「大丈夫……もう…暗いし、森の……中なら……誰にも…みつからない……よ、だから…」
「……………」

しばらくの逡巡の後、ミアはクリスを木陰に下ろした。

「すぐに帰ってくるから」
「うん………でも、お願い……無茶は……しないで」
「わかってる」

ミアは立ち上がり、今まで歩いてきた道を振り返る。

しかし、このとき二人は気づいていなかった。
より大きな悪夢が目前に迫っていることに。

それは、ミアが一歩踏み出そうとした瞬間、耳障りな雑音を伴って二人の元に届いた。



初香は走り続けていた、逃げるために。

今まで一度も振り返らなかった。
振り返れば、溺れているように手足をばたつかせながら、必死の形相で何かを叫んでいる美奈が、すぐ後ろにいるような気がして。

初香はずっと、後を追いかけてくる美奈の亡霊から逃げるために走り続けていた。

しかし、それももう限界だった。
足がもつれ、地面に突っ伏す。
起き上がろうと上体を上げたとたん、強烈な吐き気に襲われ食べたものを全て吐き出す。

「はぁっ、はぁっ、げっほ、げほっ」

そして、

「うっ、うぅ……ひっく、うあああぁぁぁぁぁん」

恥も外聞もなく泣き叫んだ。

初香の矜持はもはや跡形もなく砕け散っていた。
この頭脳があれば何でもできると思っていた。
しかし、自分には何でもできるどころか、何一つできなかった。
すべて自分の思い上がり、傲慢だったのだ。
どんなに知識があっても、体も、心も、所詮は子供、何の役にも立たなかった。

長時間は走り続けた体は酸素を要求していたが、初香は声の限りに泣き続けた。

(何が天才少女だ!何が!何が!何が!)
(ぼくは餓鬼だ!最低の糞餓鬼だ!ぼくは……ぼくは………!)

そしてまた愕然とする。
どんなに探しても、それ以上自分を罵倒する言葉が思いつかない。
再び思い知った、自分はこんなにも自惚れていたのだと。

偉そうな話し方も、いつの間にか染み付いていた“ぼく”という一人称も、登和田初香という人間の何もかもが嫌いになって、

ただ、ひたすら泣き叫び続けた。



どれくらいの時間がたっただろうか?
ついに大声で泣き叫ぶ体力も尽きた初香は地面に仰向けになって倒れていた。
降り続く雨が火照った体を冷やしていく。
もう声も枯れてしまった。
それでも、涙はいまだ枯れず、止めどなくあふれ続ける。

(これからどうしよう)

ぬかるんだ地面に寝転びながらぼんやり考える。
何もできない自分は、これからどうすればいいのか?

そのときふと、自分が何かを握り締めていることに気づいた。

“首輪”

突然押し付けられた支配と隷属の象徴。
初香には今それが一筋の希望のように思われた。

(ぼくにはまだ、できることがあるかもしれない)

この首輪を完璧に解除する。
そんなことをしても、実際には誰も助からない。
しかし、それでもこの首輪を解除することには大きな意味が在る気がした。
それができれば失ってしまったものを少しだけ取り戻せる気がする。

(まずは、道具を探さないと)

頭の中で地図を広げ、ここがどこなのかを考える。
ここは“道”だ。
地図上で道が描かれていたのは国立魔法研究所から螺旋の塔まで。
視界は悪いが近くにぼろぼろの建物も見える。
ここは島の東側の道、廃墟の近くだ。

次に道具を手に入れられそうな候補地を探す。

一番確実なのは商店街。
しかし、商店街に行けばえびげんたちと鉢合わせになるかもしれない。
今は誰にも会いたくなかった、少なくとも“自分に何ができるか”を証明するまでは。
しかも、商店街に行くには国立魔法研究所方面に戻らなくてはならない。
それだけは絶対にいやだった。
またあの化け物と遭遇するかもしれないし、途中で無残な姿の美奈に出会うかもしれない。
そんなことになれば確実に自分は発狂する。

(他には……)

豪華客船。
ここなら工具ぐらいは置いてあるだろう。
目的地は決まった。

(雨が止んだら……行こう)

砕け散った矜持を少しでも繋ぎ止めるため、初香は決意を固める。

(この雨が止むころには、ぼくの涙も止まるだろうか?)

雨はもう、ずいぶんと小降りになっていた。
[44]投稿者:黒猫◆ZeGoU3RI 投稿日:2010/02/28(Sun) 01:54 No.498  
クリスと初香、参加者全員の運命を左右するかもしれない希望は真っ二つにわれた。
二つの希望が再び出会うことはあるのか?
それはまだ、誰にもわからない。





【御朱 明空(みあか あそら)@La fine di abisso 死亡】
【加賀 美奈@こどく 死亡】
【残り14名】




【A−3:X3Y4 / 森 / 1日目:夕方】

【ミア@マジックロッド】
[状態]:魔力残量 少(少し回復)、疲労 中
[装備]:マジックロッド@マジックロッド
ブロードソード@アストラガロマンシー
スペツナズ・ナイフx1@現実
四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:なし
[基本]:対主催、できれば誰も殺したくない
[思考・状況]
1.初香、美奈との合流
2.できるだけ早くクリスの元へ戻る
3.なぞちゃんの捜索
4.バトルロワイヤルを止めさせる方法を探す

※東支部で襲ってきたモヒカンが今回遭遇したモヒカンと同一人物だとは認識していません。
※オーガの持っていた肉が人肉だと気づいていません。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。




【クリステル・ジーメンス@SILENT DESIRE】
[状態]:意識朦朧、左腕骨折、全身に打撲と擦過傷
血まみれ、魔力残量 中、疲労 大
[装備]:なし
[道具]:なし
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.ミアが帰ってくるまで待機
2.怪我の治療
3.アーシャ・リュコリスかエリーシア・モントールと会えたら合流する
4.首輪を外す方法を考える

※明空のことが何故か気になってます、もしかしたら惚れました
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。
※銃の使い方を教わりました。
※頭を打っていますが、命にかかわるほどではありません。



【A−4:X2Y3 / 国立魔法研究所 / 1日目:夕方】

【モヒカン@リョナラークエスト】
[状態]:顔面に落書き、おでこにたんこぶ、生傷多数
[装備]:手製棍棒
[道具]:手製棍棒×4
[基本]:女見つけて痛めつけて犯る
[思考・状況]
1.女を見つけたらヒャッハー
2.国立魔法研究所でえびげんたちを待ち伏せ
3.初香、えびげん、ミア、美奈を殺す
4.ミアたちの持ち物をあさる

※東支部でのオーガ達との戦闘中の記憶が殆どありません
※これまでに受けた傷はダージュの魔法でかさぶた程度まで回復しました。


【ダージュ@リョナマナ】
[状態]:疲労 中、精神疲労 少、魔力消費 中
[装備]:トルネード@創作少女
デコイシールド@創作少女
[道具]:支給品一式(食料、水なし)
(モヒカンが食い尽くした)
宝冠「フォクテイ」@創作少女
[基本]リョナラー、オルナの関係者を殺す
[思考・状況]
1.国立魔法研究所でナビィを待ち伏せして弄り殺す。
2.オルナの関係者を殺す。(誰が関係者か分からないので皆殺し)
3.ミアたちの持ち物をあさる

※ダージュの支給品はトルネード@創作少女
樽詰め爆弾@○○少女
でした。



【御朱 明空(みあか あそら)@La fine di abisso】
[状態]:死亡
[装備]:ツルハシ@○○少女
AM500@怪盗少女(残弾0発)
スペツナズ・ナイフx2@現実
[道具]:デイパック、支給品一式
包丁@バトロワ
ライター@バトロワ
マタタビの匂い袋(鈴付き)@現実世界

※おにぎり×4@バトロワ
ランチパック×4@バトロワ
弁当×1@バトロワ
ジュース×3@バトロワ
は全員で食べました。



※国立魔法研究所玄関ホールの天井が崩落、瓦礫となって散らばっています。
※国立魔法研究所には明空の装備、道具と
デイパック、支給品一式×4(食料21食分、水21食分)
(描写はありませんでしたが、ミアたちも食事を取りました)
火薬鉄砲@現実世界
(本物そっくりの発射音が鳴り火薬の臭いがするオモチャのリボルバー【残り6発】)
クラシックギター@La fine di abisso(吟遊詩人が持ってそうな古い木製ギター)
エリクシル@デモノフォビア
赤い薬×3@デモノフォビア
人肉(2食分)@リョナラークエスト
新鮮な人肉(当分は無くならない程度の量)
魔封じの呪印@リョナラークエスト
髪飾り@DEMONOPHOBIA
モップ@La fine di abisso
白い三角巾@現実世界
雑巾@La fine di abisso
三八式歩兵銃+スコープ(残弾1発、肩掛け用のベルト付き)@現実世界
涼子のナイフ@BlankBlood
木彫りのクマ@現実世界(一般的なサイズのもの)
エリクシル@SilentDesire
火炎放射器(残燃料100%)@えびげん
ノートパソコン&充電用コンセント
(電池残量3時間分程度、OSはWin2kっぽい物)@現実世界
ミアたちが筆談に使っていたメモ用紙(支給品の一部)
が残されたままです。



【A−4:X3Y4 / 国立魔法研究所付近 / 1日目:夕方】


【スライム@一日巫女】
[状態]:ダメージ 少、
[装備]:なし(出来ない)
[道具]:なし(持てない)
[基本]:目の前の敵に襲い掛かる
[思考・状況]
1.敵を見つけ次第攻撃

※基本的に木の枝をつたって攻撃するようです。
※自己再生能力を持っていますがコアをやられると
 おしまいというステレオタイプなスライムです。
※火傷は完全に回復しました。



【加賀 美奈@こどく】
[状態]:死亡
[装備]:スペツナズ・ナイフx3@現実世界
先の尖っている石@バトロワ
[道具]:なし

※近くには奈々の拳銃(0/8)@BlankBlood
が落ちています。



【B−4:X3Y2 / 廃墟付近 / 1日目:夕方】

【登和多 初香{とわだ はつか}@XENOPHOBIA】
[状態]:疲労 極限、精神疲労 極限
全身打撲、アバラ二本骨折、胸骨骨折
(怪我は魔法で緩和、傷薬と包帯で処置済み)
[装備]: クマさんティーシャツ&サスペンダースカート(赤)@現実世界
[道具]:オーガの首輪@バトロワ
[基本]:殺し合いからの脱出
[思考・状況]
1.オーガの首輪を解除する
2.雨が止んだら豪華客船に向かう
3.今は誰にも会いたくない
4.仲間と情報を集める

※魔法の存在を知りました。
※参加者がそれぞれ別の世界から集められていることに気付きました。
[45]投稿者:黒猫◆ZeGoU3RI 投稿日:2010/02/28(Sun) 02:03 No.499  
長々と失礼しました。
いろいろ詰め込もうとしすぎました、
今度書かせていただく機会があれば、
もっとスマートな文章になるよう心がけたいと思います。

289さん
どこの馬の骨ともわからない自分の予約に返信をしていただき
ありがとうございました。
テンションがうなぎ登りでした。
リョナクエ六章プレイさせていただきました。
モヒカンがかっこよかったですね。
彼には本編でもロワでも更なる活躍を期待しています。

それでは、お目汚し失礼いたしました。
[46]投稿者:「からまわりの、だいいっぽ。」その1 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2010/03/03(Wed) 23:53 No.505   HomePage
遥かに遠くで、なにかが落ちている。
小さく、忙しなく、連続的な、なにかが落ちている。

(・・・とおく?)

確かに、遥かに遠くでなにかが落ちている。
それなのに何故か、私はそれを遥かに近くで感じている。

(とおく・・・で・・・ちかく・・・で・・・?)

遠くのなにかを、近くで感じられて。
近くで感じられてるのに、遠くのなにか。
遠いのに、近い、近いのに遠い、遠いのに、近いのに、遠い・・・。

(わか・・・らない・・・よ・・・。)

あっと言う間に思考が混濁してしまった。
なんともしがたい不快感と嘔吐感が、渦を巻いて私を襲う。

(いや・・だ・・・! わから・・・ないよ・・・!)

そもそも、私の感じているなにかとはなんだろう。
この、とても懐かしく、とても悲しく、とても冷たいなにかとは、いったいなんだろう。

(わからない・・・! イヤだ・・・! きもち・・・悪い・・・! 助け・・・て・・・!)

私はなにかをよく知っている。
私はなにかを見て、物思いに耽っているのが嫌いではない。
私はなにかをとても身近に感じている。
であるにも関わらず、なにかがなにか出てこない。
どうしようもないもどかしさに、苛立ちと不快感が増していく。

(どう・・・しよう・・・! 寒いよ・・・気持ち・・・悪いよ・・・! 助けて・・・助けて――)

「さくらぁっ!!」

瞬間、目の前が鮮やかに色づき、滲む。
焼け付くような高熱と耳障りな風音と不快な重量感を感じる。
少し遅れて、私はそれらが全て自分自身が発するものであることを悟る。

「・・・あ、め?」

私の熱を奪っていく物の名前を呟く。

「そう・・・雨・・・かぁ・・・。」

遠くで近いなにか、その正体が分かった私は肩を下ろす。
凍り付いていた思考が少しずつ動き出し、次の疑問を私に投げかける。

「・・・此処は?」

私は頭をゆっくり左右に振って、辺りを確認する。
見たことがあるようで、見たことがない光景が映し出される。
ふらふらと、私の思考が回り始める。

(此処が何処かは・・・分からない。 だけど、私は此処に、少し前から居て・・・?)

その時、私は気を失っていたことを悟る。
そして、別の疑問が沸き起こる。

「私、どうして気を失って?」

何気なく視線を落とした時、その疑問は解決した。

「――っ!!?」

落とした視線の、その先にあったもの。
それは真っ赤に染まって横たわる、よく見知った。

「エリ・・・ナ・・・さんっ!?」

見るも無残な姿になった彼女の名を口にした時、頭の中に彼女と会った時の光景が映し出される。

(そうだっ! 私は、森でエリナさんと会って!)

初めて会った彼女の姿が映る。

(物静かで冷たい感じがして、だけど話してみたら全然そんなことはなくて!)

一緒に森の中を歩いていた光景が映る。

(とても優しくて、あの時も私を守ろうとして・・・!?)

血みどろになりながら、少女のような化け物に立ち向かう彼女の姿が映る。

「そう・・・私は・・・! あの化け物に・・・私・・・!」

ようやく、私が気を失っていた理由が分かった。

「私は・・・! 化け物に襲われて・・・! それで・・・!」

その時の光景が映る。
次いで襲いくる、許容しがたい寒気。

「死んだと思っていたのに・・・! あの時・・・エリナさんと一緒に死ん・・・っ!?」

そう、死んだ。
彼女は死んだ。
私を守ってくれた、彼女はもういない。
しかし、まだあの化け物は生きている。
生きてこの世界の、どこかにいる。

「イヤだよ・・・! 怖いよ・・・! 帰り・・・たいよ・・・!」

気を失う直前の、おぞましいあの光景が映る。
此処に居る限り、いずれ私はあの化け物と出会うだろう。
そうなればまた、私はこの光景を見ることになるだろう。
その時、地面に転がっているのはきっと・・・。

「イヤ・・・イヤだ・・・私・・・!」

私は四つん這いになって這うように、彼女の傍らへ向かう。
そして、彼女の肩を揺らす。

「助けてっ! 起きてっ! エリナさん・・・っ!」

変わり果てた彼女の身体がどんどん激しく揺れていく。

「怖いよぉっ! 助けてよぉっ! エリナさんってばぁっ!」

突然、彼女の顔と向かい合わせになる。

「――ひっ!!」

彼女が突然蘇ったのかと思い、私は手を離す。
すぐに錯覚だと悟り、次いで不快な電流が全身を駆け巡り全身を震わせる。

「イヤ・・・寒い・・・!」

その場にへたり込んで、きつく自分の肩を抱く。
しかし、震えは収まらず、むしろどんどん激しくなっていく。

「なに・・・これ・・・止まらな・・・!」

全く言う事を聞かない身体に、絶望的な恐怖と不快感を感じる。

「イヤ・・・止まって・・・イヤ・・・イヤイァ・・・!!」

歯の根が合わない音と降り頻る雨の音が、耳障りな不協和音となって襲いくる。

「うる・・・さい・・・止まって・・・よぉ・・・・・・っ!」

鳴り響く不協和音に、私は堪らず耳をふさぐ。
しかし、嘲笑うかのように音は鳴り響く。
その鳴り響く音を掻き消すように、沸き起こる不快感に突き動かされるように。
私は絶叫する。

「いやぁああああああぁぁああああああぁああぁぁあああああぁぁぁっっぐぶっ!!」

突然の嘔吐感に口を塞がれ、私は地に伏せる。

「うぉえっ!! うぇえぇっ!!」

透明で苦い物が吐き出される。
激臭に刺激され、更なる嘔吐感が私を咽らせる。
それから暫く、なにもでてこなくなるまで、私は咽び吐き続けた。

「・・・さくらぁ・・・どこ・・・?」

荒々しく息をしながら、私は桜の名を呟く。
こんな時、彼女は必ず傍に居て私を守ってくれる。

「さくらぁ・・・怖いよ・・・助けて・・・よぉ・・・っ!」

例え何処に居ても、彼女は私を助けてくれる。
いつだって、そうだった。
今回だって、いつものように助けに来てくれる。

「居るんでしょうっ・・・! 助けてよ・・・さくらぁぁっ!!」

しかし、彼女は助けに来てくれなかった。
代わりに助けてくれた女性は、もういない。
このままでは私はきっと。

「――死ぬっ!?」

口にした瞬間、私の身体が凍り付く。
あの時のおぞましい光景の、無残に転がる姿に私が映る。
私はゆっくりと顔を左右に振る。

(なんでも・・・いい・・・助けて・・・!)

しかし、視界に映るのは、見たこともない草木と、見たこともない彼女と、見たこともない鉄の塊。

(――見たことも・・・ない!?)

その瞬間、私の中で一つの文字が煌いた。

「・・・夢。」

気が付いたら見たこともない場所に居て、見たこともない物が周りにある。
現実にそんなことが起こりえるワケがない。

「・・・そう、夢なんだ!」

降り頻る雨が熱を奪っていく、この感覚も。
突き刺すような右手の、この感覚も。
現実にこんな感覚が感じられるワケがない。

「全部・・・夢なんだ!」

そしてなによりも、絶対に現実ではありえないことがある。

「桜が・・・助けに来ないなんて・・・夢だからだっ!!」

私は見たこともない鉄の塊を額に押し当てる。
この冷たい感覚も、現実では感じられるワケがない。

「夢なら・・・コレで・・・!」

この手の夢は、命の灯が消える瞬間に覚める物だ。
私はそう聞いたことがある。

「コレで・・・覚めることができる!」

私はゆっくりと引鉄に指をかける。
見たこともない物の使い方を知っているのも、やはり現実ではありえない。

「目が覚めたら・・・きっと・・・!」

私はいつもの見慣れた部屋に居る。

「そうしたら・・・きっと・・・!」

今にも泣きそうな顔をして、私の顔を覗きこんでいる。

(――桜がいるっ!)

私は引鉄にかけた指に力を込める。
その時だった。
[47]投稿者:「からまわりの、だいいっぽ。」その2 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2010/03/03(Wed) 23:55 No.506   HomePage
「(――おろっ? アタシ、どうして・・・ってチョイチョイチョーイ!!)」

突然、何処からともなく女性の声がして、私は慌てて辺りを見回した。
しかし、誰の姿も見えず、私は問い掛けた。

「誰・・・!? 何処に・・・居るの・・・!?」
「(何処にって・・・キミの中、って言えばいいのかなぁ?)」
「・・・えっ?」
「(んー・・・。 不本意なんだけど、ユーレイってヤツかな?)」

彼女の答えに、私は少しだけ意識を集中してみる。
すると、弱いながらも私の中に確かに霊体のような気配を感じられた。
現実でも感じられるこの感覚に、私は僅かに安堵する。

「(・・・で、そんな物騒な物持って、なにしようとしてたの?)」

幽霊とは思えない、とても気さくな感じの彼女が問い掛けてくる。
不思議と煩わしさや禍々しさを感じないこともあって、私は答える。

「夢から・・・覚めるんです。」
「(・・・夢?)」
「はい。 コレは全部、夢です。」
「(ふぅーん・・・。 それで?)」
「夢から覚めるには・・・コレで・・・!」

私は手に持っている物を額へ向ける。

「(わーっ! ストーップ! 危ないよ、死んじゃうよー!)」

彼女が酷く慌てた様子で叫ぶ。

「大丈夫ですっ! 夢ですから、こうすれば絶対に・・・!」
「(・・・指先、震えてるよ?)」

彼女の指摘に、私は指先を確認する。
彼女の言う通り、私の指先は震えていて、引鉄にうまく引っかかっていなかった。

「あ、あれ? どう、して・・・?」
「(・・・死んじゃうって分かってるからじゃない?)」

彼女が少し低い声色で答えた。

「そんな・・・そんなはずない・・・だって、コレは夢!」
「(・・・どうして、夢なの?)」
「だって! こんなこと! こんな時に、桜が助けてくれないなんてこと! 夢以外じゃあ!」
「(・・・助けてくれないと思う。)」
「ふぇっ?」

彼女の呟くような一言に、私は何故か言葉を詰まらせてしまう。

「(桜って娘【こ】は、きっとキミを助けないと思う。)」
「なんで・・・どうして・・・桜は!!」

幽霊のクセに、私と桜のなにを知っている。
私は苛立ちに突き動かされるように叫ぶ。

「桜はっ!! 私をどんな時だって見捨てたりなんてしないっ!! 貴女になにが・・・」
「(分からないよ。 その娘がどんな娘かなんて。 ただね・・・。)」

彼女は一度呼吸を整えると、言葉を続ける。

「(例え夢でも、自ら命を絶とうと考えるようなキミを、その娘は絶対に助けたいとは思わない!)」
「なっ!!」
「(どんな時でも自分の助けを信じて、待っていてくれるキミが居るから! 彼女はどんな時でもキミを助けるんだ!)」
「――っ!!」
「(今のキミは、彼女を信じていない。 信じているならば・・・自ら死を選ぶことなんてしない!)」
「そん・・・な・・・。」

私は言葉を失った。
彼女は小さく溜め息をついて言葉を続ける。

「(彼女を信じて、生きてみようよ。 信じる心は、絶対無敵なんだから、さ。)」
「信じる心は・・・絶対無敵・・・。」
「(それに・・・。)」
「・・・それに?」
「(そんなので自分撃ったら死ぬほど痛いよ? 死ぬほど痛いの、イヤでしょ?)」

彼女の言葉に再び私は言葉を失った。
次いで湧き上がってきたのは、堪えきれないほどの笑い。
理由はよく分からないが、兎に角私はお腹がよじれそうなぐらいの笑撃を受けた。

「し、『死ぬほど痛い』って、当たり前じゃないですかぁっ! な、なにをそんなこと、真面目な声色で言って!」
「(な、なんだよぉ! アタシ、割と真面目に言ったんだぞぉ! 笑われるなんて心外だなぁっ!)」
「ご、ごめんなさい、でも、可笑しくって!」
「(・・・うん。 やっぱ、キミは笑っている顔が一番可愛いよ。 伊予那。)」
「――えっ!?」

私は彼女に、一度も名乗っていない。
それのなのに、何故彼女は私の名前を知っているのだろう。
私の驚愕に応えるのように、彼女は言葉を続ける。

「(ずっと、傍に居たからね。 彼女と一緒に。)」
「彼女・・・? 貴女はいったい・・・?」
「(と、そろそろ限界・・・みたい。)」
「えっ?」
「(キミの霊感とやらが、発散していくアタシを一時的に繋ぎとめてくれたみたいなんだけど、限界みたい。)」
「そんな・・・!」

彼女の言う通り、私の中の霊体のような気配がどんどんと弱くなっていく。
その感覚に何故か、私は焦りを感じていた。

「(ま、気にしないでいいよ。 それに、いい加減逝ってあげないと、彼女また一人で塞ぎ込んじゃうから。)」
「待って! 貴女はもしや、エリナさんのっ・・・」
「(じゃ、頑張ってね。 彼女が命懸けで守った、可愛い・・・)」

彼女の言葉はそこで途切れた。
仕方なしに、私は周りを見回す。
いつの間にか雨はやんで、辺りは薄闇に包まれていた。

「・・・・・・信じる。」

私は一言呟いて立ち上がる。

「・・・桜が助けてくれるって・・・信じる!」

荷物をまとめ、無造作に転がったままの人物の傍らにしゃがみ込む。
そしてそっと仰向けに直して、胸の上で腕を組ませる。
乱れた髪を整え、血だらけの顔を少し拭いてあげる。

「信じる心は絶対無敵・・・ですよね! エリナさん。」

無残な姿に変わってしまったけれど、それでもとても奇麗な彼女。
物静かで、カッコよかった彼女。
出会って間もない私を、優しく受け入れてくれた、憧れのお姉さんのような彼女。
私の脳裏に、彼女の姿と声が幾つも浮かんでは、涙となって流れていく。
私は強く目をこすって、笑顔を作る。

「私・・・頑張ります!」

ゆっくりと立ち上がって、私は踵を返す。
そして、目下の所の目標を考える。

(・・・とりあえず、アクアリウムに行ってみよう。)

頭の切れる彼女のことだ。
目的地にしていたのは、なにかしらの意図があったに違いない。
私はアクアリウムを目指して歩き出した。


〜〜〜〜

「(・・・エゴだよなぁ、コレは。)」

薄れていく意識の中、アタシは溜め息混じりに呟いた。

「(あのまま、死んでいた方が、彼女のためだったかもしれないのに・・・。)」

今までの言動から、彼女自身に身を守るだけの力が無いことはよく分かっていた。
この先、死ぬよりも辛い出来事が彼女を襲うことも、簡単に想像できた。

「(それでも、アタシは彼女に生きる道を選ばせてしまったよ・・・。)」

知り合いに死ぬよりも辛いことを強要するのは、やはり気分のいい物ではない。
しかし、知り合いに死なれることはそれ以上に気分のいい物ではない。

「(この後に及んで・・・結局アタシが可愛かっただけ・・・なのかな。)」

アタシは大きく溜め息をつく。

「(・・・ってアタシが思い悩んでるなんて、他人のことは言えないね。 ・・・ねぇ、エリナ。)」

協力者とは名ばかりの、親友の名前を口にする。
いつも通りのキツイ突込みをしてくれる彼女を想像して、アタシは口元を緩ませる。
それから軽く咳払いをして、アタシは意識が薄れていく感覚に身をゆだねた。

「(ごめんね、伊予那。 アタシは彼女と、アッチで見守ってるから・・・。)」

【C−3:X3Y2/森/1日目:夜】

【神代 伊予那{かみしろ いよな}@一日巫女】
[状態]:右手に小程度の切り傷
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
9ミリショート弾x30@現実世界
SMドリンク@怪盗少女
ベレッタM1934@現実世界(残弾4、安全装置解除済み)
[基本]:桜を信じて生きる
[思考・状況]
1.とりあえずアクアリウムへ行ってみる
2.カザネの他にもエリナの知り合いが居たら全てを話すつもり
3.銃は見せて脅かすだけ、撃ち方は分かったけど発砲したくない

@あとがき
伊予那を壊しすぎました。
霊感設定をだしにウチのコを喋らせすぎました。
申し訳ない。
[48]投稿者:「第2回キンアワ〜おねむのキングさま編〜」 14スレ目の74 投稿日:2010/03/15(Mon) 23:57 No.512   HomePage
参加者の頭上で、キングのわざとらしい泣き声が鳴り響く。

「うぅっ・・・ごめんなさい・・・なんと言ってお詫びすればいいのやら・・・。」

キングは思い切り鼻をかんで、言葉を続ける。

「実は、気象を元に戻す言葉のRとLの発音を間違えてしまいまして・・・。」

キングは大きく深呼吸をして、言葉を続ける。

「・・・朝まで雪が降り続けることになっちゃいましたぁー! えへへっ、ごめーんネッ☆」

キングの言葉が終わると同時に、明らかに録音物と分かる不自然な笑い声が響く。
笑い声は数秒鳴り響くとぶつりと途切れ、入れ替わりにキングの高い声が響く。

「とまぁ、それはおいといてー。 お待ちかねの死亡者の発表に移りたいと思いまーす。 いっくよぉー!
ロシナンテ、天崎奈々、エリーシア・モントール、フロッシュ、カナリア、強姦男、オーガ、まゆこ、富永エリナ、
サーディ、なぞちゃん、リネル、榊鈴音、リョナたろう、美空桜、エマ、リゼ、アーシャ・リュコリス、ルシフェル、
エルフィーネ、ゴート、川澄シノブ、御朱明空、加賀美奈。 以上、24名ー。
ふぅ・・・。 おっぱい、もとい、いっぱい死んじゃったねぇー。」

キングは下衆な笑い声をあげる。

「・・・ああ、そうそう。 2時間後の禁止エリアはA−4、4時間後はD−5なんでそこんとこよろしくぅっ。」

キングは大きな欠伸をする。

「もう夜だし、僕は良いコだから寝るよぉ・・・。 寝てる間の出来事はビデオで撮っといてあげるから、頑張ってねー・・・。」

【残り14名】


※2日目の朝まで、フィールド全体に雪が降り続きます。 積雪量は10cm程度で雪質は新雪です。
 それに伴い気温も氷点下になります。
[49]投稿者:『時限式モヒカン爆弾』  289◆SqVSQKtY 投稿日:2010/03/22(Mon) 20:21 No.516  

爆発により荒れ果てた国立魔法研究所。
そこで、ナビィやえびげんを待ち伏せるために罠を張っていたダージュは
放送が終わったと同時に、忌々しそうに吐き捨てた。

「くそったれが……!
 よりによって、ここが禁止エリアに指定されるとは……!」

先ほどの放送によって、A−4エリア……つまりダージュたちがいる国立魔法研究所が
2時間後の禁止エリアに指定されてしまった。

それはすなわち、この場にてナビィたちを待ち伏せることができなくなったことを
意味する。

「……まぁ、こうなった以上は仕方ない。
 さっさと支給品をまとめて、ここから離れるぞ」

ダージュは待ち伏せの手を潰されたことにいつまでも拘泥する愚を犯さず、
速やかにこの場を離れることを同行者に提案する。

だが、同行者であるモヒカンは呆然とした表情で固まっているだけだった。

「……おい、どうした?」

ダージュはモヒカンの様子がおかしいことに気が付き、怪訝な表情で問いかける。
だが、モヒカンはその問いかけに答えない。

そして、彼の表情はみるみる憤怒の色に染まっていった。

「……ふざけるんじゃねぇぞ……!
 オーガだけでなく、リョナたろうたちまで……!」

地獄の底から響いてくるかのようなモヒカンの怨嗟の声。
それを聞いたダージュはモヒカンの変貌の理由を理解し、目を細める。

(……なるほど、お仲間が死んじまったってわけか……)

ダージュにとっては、モヒカンの仲間が死のうがどうでもいいことだ。
モヒカンの仲間なら利用できる駒にはなったかもしれない。
だが、元よりダージュは必要以上に他の人間と慣れ合うつもりなどないのだ。
死んだなら死んだで構わないし、興味など無かった。

「……ま、ご愁傷様と言っておこうか。
 だが、俺たちのやることは変わらないはずだぜ。
 まずは支給品をまとめて、一度ここを離れる。
 ヤツらを殺すのはそれから……」
「何言ってやがる!!?ここが禁止エリアになっちまったなら、
 あのメイド女がここに戻ってくる保証はねぇだろうが!!?
 一刻も早くヤツらを追うべきだ!!」

ダージュの言葉を遮り、モヒカンは吠える。
モヒカンの言葉に、ダージュは冷たい視線を向ける。

「落ちつけよ、変態。俺たちは先ほどの戦いで消耗してる。
 罠を張って待ち伏せるならともかく、こっちから出向くのは
 悪手だぜ。ここは一旦引いて……」
「うるっせぇんだよ、もやし野郎が!!」

モヒカンはダージュの胸倉を掴み上げる。
その表情は赫怒に染まり、今にもダージュをくびり殺さんばかりの勢いだった。

ダージュは息苦しさに表情を歪めながら、モヒカンを睨みつける。

「いい加減にしろよ、テメェ……!
 テメェは今、あの分身の魔法をどれだけ使える……!?
 せいぜい、あと1回使えるかどうかってとこだろ……!」
「……ぐっ……!」

ダージュの言葉に詰まるモヒカン。

襲撃前に休息を取ったとはいえ、モヒカンの魔力は完全には回復していなかった。
その状態で、モヒカンはクリスと激しい戦闘を繰り広げたのだ。
そして、クリスのリフレクトによって的確に攻撃を防がれていたせいで、
戦いはかなりの長期戦となっていた。
そのせいで、モヒカンはイリュージョンを持続させるために大量の魔力を消費せざるを
得なかったのだ。

「……関係ねぇ!!俺はヤツらを追うぜ!!
 俺はもう我慢ならねぇんだよ!!
 アイツらは全員死んじまったってのに、
 オーガを殺したあのメイドはのほほんと生き残ってやがる!!
 1分1秒でも早くぶっ殺してやらねぇと腹の虫が収まらねぇ!!」
「……そうかよ、じゃあ勝手にしやがれ」

ダージュは完全に頭に血が上った様子のモヒカンを見て、もはや説得は無駄だと
判断した。

「俺は別行動を取らせてもらうぜ。
 お前の暴走に付き合ってやる義理はないからな」
「はっ、逃げたいなら逃げやがれ!!
 その代わり、お前が殺したがってたナビィって女も俺が頂くがな!!」

モヒカンの言葉にダージュの瞳が一瞬鋭くなる。
だが、モヒカンはそんなことに気づかず、今にも商店街に向かおうとしていた。
ダージュの話から、えびげんたちが商店街へと向かったのは分かっている。
急いで走りだそうとするモヒカンを、ダージュは呼びとめる。

「……そこのツルハシとデイパックの一つくらいは持っていったほうがいいだろ。
 ツルハシ程度でもその粗末な棍棒よりかは役に立つはずだし、食料や地図が
 無いと困るだろ?」

そう言って、ツルハシとデイパックをモヒカンに放るダージュ。
受け取ったモヒカンは戸惑った顔を見せたが、舌打ちしてそっぽを向く。

「……礼は言わねぇぜ」

そう吐き捨て、その場から走り去っていった。
それを見送ったダージュは目を細め、酷薄な笑みを浮かべる。

(……ま、せいぜい女どもに手傷を負わせた上で死んでくれよ?
 そのために、特別なプレゼントもしてやったんだからなぁ……?)

ダージュはモヒカンがえびげんたちに勝てるとは露ほども思っていなかった。
よって、ダージュはモヒカンが殺されることを見越して、罠を仕掛けた。

ダージュがモヒカンに渡したデイパックと支給品……実は、それら全てにダージュの
ディレイ・スペルが掛けられていたのだ。

モヒカンを倒したえびげんたちは、当然彼の支給品を回収するだろう。
そして、何も知らない彼女たちは支給品にかけられたディレイ・スペルが
発動したときには、防御も回避も臨めない。
間違いなく、為すすべもなく大ダメージを受けるだろう。

その場合、ただの人間であるえびげんはあっさり死ぬかもしれない。
だが、人描と人間のハーフであるナビィは、ダメージを受けつつも持ち前の敏捷さと
反射神経で生き残る公算が高いとダージュは考えていた。

そして、ディレイ・スペルの発動によってナビィの居場所を感知したダージュは、
その場へと赴き、ナビィを嬲り殺すという作戦だった。

つまり、ダージュは制御不可能となったモヒカンを切り捨て、罠として
利用することにしたのだ。

「くくっ……悪く思うなよ?お前だって俺を利用する気だったんだろうし、
 お互い様ってやつさ……」

そう言って、ダージュは低い声で嗤い続ける。

後はディレイ・スペルが発動するのを待つだけだ。
モヒカンが自分の都合の良いように動いてくれるのを期待しつつ、
ダージュはゆっくりと歩き出すのだった。
 
 


【A−4:X2Y3 / 国立魔法研究所 / 1日目:夜】

【モヒカン@リョナラークエスト】
[状態]:顔面に落書き、おでこにたんこぶ、生傷多数
[装備]:ツルハシ@○○少女
[道具]:手製棍棒×5
≪以下ディレイ・スペル付与支給品≫
デイパック、支給品一式
包丁@バトロワ
ライター@バトロワ
マタタビの匂い袋(鈴付き)@現実世界
スペツナズ・ナイフx2@現実
三八式歩兵銃+スコープ(残弾1発、肩掛け用のベルト付き)@現実世界
[基本]:女見つけて痛めつけて犯る
[思考・状況]
1.女を見つけたらヒャッハー
2.商店街へ向かう(途中でミアたちを見つけたら殺す)
3.初香、えびげん、ミア、美奈、クリスを殺す

※東支部でのオーガ達との戦闘中の記憶が殆どありません
※これまでに受けた傷はダージュの魔法でかさぶた程度まで回復しました。


【ダージュ@リョナマナ】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(小)、魔力消費(大)
[装備]:トルネード@創作少女
デコイシールド@創作少女
[道具]:デイパック、支給品一式×5(食料21食分、水21食分)
宝冠「フォクテイ」@創作少女
火薬鉄砲@現実世界
(本物そっくりの発射音が鳴り火薬の臭いがするオモチャのリボルバー【残り6発】)
エリクシル@デモノフォビア
赤い薬×3@デモノフォビア
魔封じの呪印@リョナラークエスト
髪飾り@DEMONOPHOBIA
涼子のナイフ@BlankBlood
エリクシル@SilentDesire
火炎放射器(残燃料100%)@えびげん
モップ@La fine di abisso
白い三角巾@現実世界
雑巾@La fine di abisso
木彫りのクマ@現実世界(一般的なサイズのもの)
人肉(2食分)@リョナラークエスト
新鮮な人肉(当分は無くならない程度の量)
クラシックギター@La fine di abisso(吟遊詩人が持ってそうな古い木製ギター)
ノートパソコン&充電用コンセント
(電池残量3時間分程度、OSはWin2kっぽい物)@現実世界
AM500@怪盗少女(残弾0発)
ミアたちが筆談に使っていたメモ用紙(支給品の一部)
[基本]リョナラー、オルナの関係者を殺す
[思考・状況]
1.モヒカンを利用して、ナビィに手傷を負わせる。
2.ナビィを弄り殺す。
3.オルナの関係者を殺す。(誰が関係者か分からないので皆殺し)




[50]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/04/30(Fri) 23:11 No.525  
キリが悪くて新スレ立てたので埋めときます。
[51]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/04/30(Fri) 23:12 No.526  
あ、51まで行けたんでしたね・・・
だったら無理矢理まとめても良かったかも・・・

すみません。
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