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リョナゲ・製作所バトルロワイアル 本編投下スレ その3

[1]投稿者:「血の宿命」 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/05/26(Tue) 22:09 No.265  
「・・・・・・ん・・・いい・・・匂い・・・。」

微睡み【まどろみ】の薄明かりの中、鼻腔をくすぐる芳しい匂い。
その匂いに誘われて、私の意識と思考がゆっくりと動き出していく。

「・・・んっ、ふにゃぁぁ〜〜・・・。」

少し重い上半身を起こしながら、大きな欠伸を1つ。
寝惚け眼【ねぼけまなこ】を擦り、私は周りを見渡し匂いの発生源を探った。

「・・・わぁ〜・・・きれい・・・。」

私の周りには、色取り取りの奇麗な花が咲き乱れていた。
私はその、ふかふかの絨毯【じゅうたん】のような花畑の真ん中で眠っていたことになる。

「・・・って・・・あれ・・・?」

その時、何か大きな違和感が私の頭の中で生まれる。
私は確かにど忘れをすることもあるが、昨日眠りについた場所ぐらいは忘れたりしない。
私が覚えている限り、昨日眠りについた場所は此処ではない。
というより、そもそも・・・。

「・・・そうだ、私っ!」

私の脳内に、今日目が覚めてからの光景が再生される。
目が覚めると、ヤケに周りがざわめいていて薄暗かった。
私が飛び起き周囲を警戒しようとした時だった。
あいつ、キング・リョーナが一筋の光の下に現れたのだ。
あいつは確か・・・。

「・・・こんな酷いこと、やめさせないとっ!!」

私の記憶がどんどん鮮明になっていく。
あいつは自分の楽しみのために、私や沢山の人を集めて殺し合いをさせようとしている。
自らこんな酷いことを主催したことを名乗るのだから、相当な自信があるのだろう。

(貴方の思い通りになんて、させないんだからっ!)

私は勢いをつけて立ち上がると周りを見渡す。
すると、地面にバッグが1つ落ちているのが目に入った。

(あいつの言ってた、デイパックってヤツかな・・・。期待はしてないけど、とりあえず中身を確認してみよう・・・。)

私はデイパックの傍まで歩み寄りしゃがむ。
そして、デイパックの中に手を突っ込んでみた。
少し手を泳がしてみると、丸い布袋のような物が1つ手に触れる。

「――!!」

その瞬間、私は凍りついた。
その袋を触った時、小さかったけれども、とても甲高くて【かんだかくて】心地良い音が聞えたからだ。
私は反射的にデイパックからそれを取り出し正体を確認する。

(す・・・鈴だ・・・!?)

袋の口を閉める紐に、小さくて可愛い金色の鈴が2つついていた。
鈴はリンリンと心地良い音を立てて私を誘う。

「――!?%!$!”*!$!?」

私が鈴の音に気をとられていた時だった。
その袋から、とても甘く美味しそうな匂いが漂ってきたのだ。

(・・・し、しまった!! ・・・これは・・・また・・・たび・・・!!)

私は咄嗟【とっさ】に布袋を放り棄てる。
地面に転がった布袋は鈴の音を鳴らし私を誘う。

(ダメッ! ダメだよ私っ!! い、今はあんなものに・・・夢中になってる時じゃあ・・・!!)

私はつい、布袋を掴んでいた右手に視線を落としてしまう。
私の右手には、微かにあの布袋の匂いがうつっていた。
私は衝動に駆られ、右手を舐めようと口元に近付ける。

「・・・ふぅぅ〜・・・ふぅぅ〜・・・!!」
(だ・・・だめ・・・負け・・・ちゃ・・・だめ・・・だから・・・!!)

口元まであと僅かといった所で、私は左手で右手を掴み衝動を抑え込む。
しかし、鼻元に迫った甘い誘惑は私の思考をどんどん焼き焦がし、身体を火照らせていく。

「!?!!」

ほんの僅かに風が吹いた刹那、あの鈴の音が小さく鳴った。
その音は本当に小さくて、普段の私なら聞き漏らしていただろう。
しかし、不幸にもその時の私は聞き漏らすことができなかった。

「ふぅ・・・ぅ・・・にぁ・・・ぁぁっ・・・ぅ・・・!!」
(ダメ・・・だよ・・・私っ!! 見ちゃ・・・ダメだっ!! ダメ・・・だって・・・っ!!)

私は必死に目を閉じ首を背けようとする。
しかし、身体は意に反して視線をあの布袋へと移そうとしていた。
ゆっくり、しかし確実に私の視界にあの布袋が映り込んでくる。

「――っ!!」

布袋が完全に視界に入った瞬間、身体の芯が燃え上がるように熱くなるのを感じた。
その全てを焼き尽くさんがばかりの熱気に、遂に私の思考は焼き切れてしまった。

「にゃぁぁあああああぁぁあぁぁああああんっ!!」

私は布袋に飛びつくと、顔に押し付ける。
リンリンと鈴が鳴り響き、それがまた私の身体を燃え上がらせていく。

(ごめん・・・私・・・もう何も・・・考えられないや・・・・・・。)

【B−2:X4Y4/花畑/1日目:朝】

【ナビィ@リョナマナ】
[状態]:恍惚
[装備]:マタタビの匂い袋(鈴付き)@現実世界
[道具]:デイパック、支給品一式
ブロードソード@アストラガロマンシー(本人は未確認)
ノートパソコン&充電用コンセント(電池残量3時間分程度、主電源オフ、OSはWin2kっぽい物)@現実世界(本人は未確認)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.マタタビの匂い袋(鈴付き)のことで頭がいっぱい
2.キング・リョーナの行いをやめさせる

※マタタビの匂い袋にじゃれ付いてます、周りは全く見えてません、放っておくと1時間はずっとやってると思います

@後書き
ナビィ可愛いよナビィ!
・・・と、勢いだけで考えてやってしまいました。ごめんなさい。
でも、後悔はしてませんw
あと、【】はルビです。(´・ω・`;)
[2]投稿者:「殺意の行方」 Ep1-2 19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/05/30(Sat) 14:48 No.268  
〔Ep1 人狼少女の独白〕

しゅっ……しゅっ………

「これくらいあれば十分かな」

南西の森、毒の沼の森の一本の木から
何かを削る音が淀みなく聞こえ、
その側では幼さを含んだ少女の声が
静かに森に囀りわたる。

がさっ!

「! ふっ!」

ぐさっ!

「きいぃっ!?」

地面を駆ける野鼠の額に尖った石が突き刺さり、
程なくして野鼠は痙攣を起こした後沈黙した。

「うん。十分だね」

声の主は辺りを見回して安全を確認すると
野鼠の転がった場所へと
音もなく降り立った。

降り立った声の主は盗賊のような衣装を纏い
頭にはふさふさとした獣の耳を生やした人狼の少女だった。

「流石にパンだけじゃ心許ないし、愛用の武器もないんじゃ
迂闊に動けないしね」

人狼の少女、エマは誰に聞こえるでもなく
地面に転がった野鼠の死骸を拾い上げて
また元いた木へと上り始めた。

上り終えると、木の枝の上には
木から削り取った即席の矢が10本ほど重ねられている。

「弓を作ってる時間はないか……
いつ敵が来るかも分からないし」

必要最低限の武器と食料の確保は
今までの旅の中で不可欠、
パンなんかじゃお腹は膨れないし
気力も出ない。

ましてや、あんな男が開催するゲームだから
生半可なことは出来ない。

数時間前――――突如見ず知らずの場所に連れ込まれて
人一人を簡単に殺してしまったあの男を見たエマは
ロアニー連中の動向も含めて、初めて迂闊な行動が
簡単に死に繋がることを実感した。

一人旅はナビィ達に会う前に1年は続けていて、こんな風に狩りは
何の問題もなくなっている。
持ち前の射撃や投擲の腕はこの小動物の山が証明してくれていて
ナビィやオルナ達と共に、ロアニーという凶悪な相手にも
決して屈しない戦いが出来ている。
wse
でも、それは自分の手に負える相手の話、
動物的な本能が全身の神経に訴えるのは
あの男が危険な存在だということ。

「シルフィールとも連絡が取れなくなってるし……
何か体が重いような……」

普段はあたしの側で助言をしてくれる
風の統括精霊『シルフィール』からは音信が来ない。
それにいつもの様に体が動かせず、
何処か違和感を感じる。

ここは精霊の力を遮断して、力の制限もしてしまうような場所なのか……
……恐らくはその推測で正しい筈。
あれだけ人影があった場所からあたしだけを
こんな場所に移動させたのだから
あの男はこんな場所を用意するのも造作の無い事なんだろう。

「じゃあ……他の人達はどうしてるだろ?」

連れ込まれたところにはあたしの仲間以外にも
数十人いたみたいで、あの男が
殺し合いをさせるために連れて来たらしい。

「一人が殺された後で数人があいつに飛び掛ったから、
多分その人達も連れてこられた被害者なのかな……?」

そう思えば気が少し楽になる。
殺し合いという名のゲーム、ゴートやリネルの動向、
こんな話ばかりを聞いていたものだから生存者や協力者なんて
夢のまた夢の話になりそうだったからだ。

「よし、決定! ナビィ達を探しながら
協力者を探そう!」

いつもはあまり使わない頭をフルに使用して、
これからの行動の方向性を決定した。
恐らくこれが一番自分に合ってそうな気がするからだ。

がさがさ……

「ん?」

木からではなく、地面に生える雑草の音が
微かに聞こえてきた。

「獣かそれとも……とりあえずは近づいてみよっと」

エマは小動物の躯と10本の矢をデイパックに放り込み、
私は木々をムササビの様に飛び移る。

因みに支給品の中身は怪しげな薬箱と
矢を作るときに使った氷の魔力を秘めたナイフ、
知ってる物にはフレイムローブがあり、後は食料だった。

〔Ep2 失ったイノチと嘆くイノチ〕

時間はほんの少しだけ遡り、近辺の森の中――――

「うっ……うぅっ………ひっく………お姉ちゃん……」

忌み児の子、リゼは、あの惨劇の場所から少し離れた森の中で
人知れずすすり泣いていた。

「人間なんて……全て死ねば、いい……
そうすれば、お姉ちゃんだって……死なずにっ……!」

自分を助けるため、身を挺して助けてくれた
萩の狐……お姉ちゃんのことを思うと、
心の奥底に黒いものが広がっていくような感じがする。

「そうだ……どうせ人間なんて……成り行きで一緒にいたけど、
やっぱり相容れないんだ……あいつだって……いつかは僕を……」

"はっ、忌み子なんて誰も助けねーよ。"
――――ウルサイ……
"何でお前のような化け物を助けなきゃいけないんだよ?"
――――オ前等コソ人トイウ姿ヲシタ悪魔ノクセニ……
"お前みたいな化け物は、見つかったらすぐに殺されるからな。"
――――人ハ違ウノ……?
"どうせ、忌み子なんて生きててもロクな人生じゃないだろ"
――――……………

だんっ!!

「お前等なんかに……分かる訳ないっ!!」

沸きあがる激情に心を任せ、力いっぱいに木を殴りつける。
リゼの殴った箇所は大きくめり込み、
木の内側を外気に曝け出していた。

「力が……戻ってきてる……?」

激しい怒りに駆られたからだろうか、
それとも、殺意に反応して体が力を急速に戻したのか……

「……どっちでもいいや」

力が戻ってきた、この事実だけで十分だ。

お姉ちゃんを殺したあの青髪の女も、
僕の殺そうとする奴等も……あの男も……
みんなこの手で殺してしまえばいい。

リゼは今までにしたことがない程の冷たい瞳で
当てもなく森を駆け出した。

自分以外は全て敵、
害を成す存在だったら躊躇なく葬れる覚悟も出来た。
もう……失うものも何もない。

ボロボロにされた服が走ることの足枷になるが
気にも留めず、リゼは走り続けた。

しかし、リゼの姿を一つの視線がじっと
追いかけていた……
[3]投稿者:「殺意の行方」 Ep3 19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/05/30(Sat) 14:49 No.269  
〔Ep3 腐臭が招いた誤解と鮮血〕

「どうしたんだろ……? あの子」

草の音の元を木の上から見ていたエマは
その視線の先に、自分と同じくらいの歳の
黒髪の少女を捉えた。

ボロボロの服、冷たくて少し淀んだ目をしてはいるが
涙の痕がくっきりとその顔に映っている。

(……誰かに襲われたのかな?
そして隙を見て逃げ出したとか……)

あの子がこのゲームに乗っている人物かどうかの
確証は持てていないが、あんな痛々しい姿をされると
声を掛けないでいる方が酷だと思えてきた。

(よし……)

エマは何かを思い至ったように頷き、
デイパックから何かを取り出して服にしまいながら
大きく口を開いた。

「ねえ! どうしたのー!? そこの君ー!!」

「!?」

発せられた言葉は何の飾り気もない
質問のようなものだったが、
確かにリゼの動きを止めた。

その声に虚を付かれたのか、
リゼはびくっと震え、辺りを必死に見回しはじめた。

「だ、誰!?」

「あ、怯えないで。君を取って食おうなんて考えてないから」

そう言いながらエマは、木からさっと降りた。

どすんっ!

「でっ!?」

「うわ……」

着地に失敗したエマは顔面を地面に打ち付けるように
転んでしまう。

間の抜けた登場をしたエマを見たリゼは
一瞬構えを解いて呆れたような表情をする。

「あはは……失敗失敗! ごめんね、驚かせて」

「……誰?」

顔を土だらけにしながら苦笑いをしている
自分と同年代くらいの少女のことを凝視した。

歳も背丈も自分のそれと同じくらいにしか見えない。
唯一違うところと言えば……

(胸おっきい……)

幼さを残すその顔と身長からは不釣り合いなほど
服に二つの凹凸を見せている。

「話題のロリ巨乳です」

「!?」

視線に気付いたのか、
目の前の少女はおどけながら
双丘を強調するようなポーズを取り出した。

一方のリゼは自分の考えてたことに対して
ジョークで返されたことに恥ずかしくなる。

ぶんぶんと払拭して、改めてリゼは目の前の少女を
見ると、人にはありえないものがあることに気付いた。

「!? その耳……!」

リゼが指を指してエマの耳に驚く。

「ん? 耳がどうかした?」

エマは驚きの意図が読めずきょとんとした顔で
ふさふさの犬耳をピクピクと動かした。

《ふむ、どうやらお主も私と同じように人間ではないらしいな》

「うっ……!?」

ノイズの音がするかのように頭痛が走り、
目の前の少女と狐の耳と6本の尾をもつ人外、
萩の姿が重なった。

「大丈夫? ってあれ? 君も頭に角付けてるじゃん。
じゃあ人外なんて珍しくもないでしょ」

突然蹲ったリゼを見たエマは駆け寄って
介抱しようとする途中でそれを見つけた。

「あ……」

リゼはエマの言葉に気が緩んでしまうのを感じた。

《それより、傷は大丈夫なのか?》

同じだった。萩が自分を助けてくれた時の言葉と……

彼女も忌み子、そして自分を見ても化け物とも思わずに
駆け寄って来てくれたことに萩と同じ雰囲気を感じ取った。

しかし……

「うっ……うぅ………! お姉……ちゃんっ……」

薄れていく殺意に反比例するかのように
失ってしまった萩が脳裏に蘇って涙が溢れ出す。

やっと見つけた、同じ忌み子の仲間。
一人じゃない場所……
お姉ちゃん以外で感じた、幸福だった時。

しかし、それは束の間の幸福として消えてしまった。
人間の仕業とはいえ、自分の弱さが招いた萩の死。

戻ることのない命。そして二度と味わいたくない思い……

ぐっ

「わっと……どうしたの?」

添えた手を押し退けられ、少し驚いた表情をしながら
エマはリゼに問いかけた。

「僕は大丈夫だから……放っておいて……」

視線を落とし、エマから遠ざかるように歩き出すリゼ。

「あっ……ちょ、ちょっと……!」

声を掛けてくれたこの娘のことが、
嫌いだからとかうざったいからじゃない。
それどころか、敵でなければ一緒にいたいとさえ
思ってしまう程だ。

(でも……それは出来ない………
僕なんかと一緒にいたら……この娘も……)

萩が殺されたときのように
リゼは自分達ををモンスターと蔑視して殺そうとしてくる奴がいることを知った。

二度と同じ思いをしたくない。
ましてや、自分のせいでそんなことになってしまったら……

「待ってってば!」

離れて行こうとするリゼの腕をエマが強引に掴んで引き止める。

「……一人なんて、ただ寂しいだけだよ。一緒にいよ……」

リゼが振り向くと、エマは泣きそうな顔で掴んだ腕を強く握ってくる。

(……なんで、泣いてるの?)

自ら独りになろうとしていたリゼには彼女の涙の理由が分からなかった。
こんなゲームの最中、見ず知らずの相手に対してどうして泣く必要があるのか……

リゼはエマに泣きながら引き止められたことに戸惑っているが
エマにはそんな小難しい考えは一切無かった。

出会った相手から離れるのを厭うエマは、
自分の敵だと断定しない限りは
遠ざかるリゼを必死に引き止めることしか頭になかった。

良く言えば従順、悪く言えば全くの無防備、
このゲームでの、本性を隠して友好的に話してくる
ステルスマーダーには致命的な欠点だ。

がばっ!

「わっ!?」

「ね。一緒にいよ。お願い……!」

離さないようにとエマはリゼに抱きついて
ぎゅっ締め付けてきた。

リゼの立場は不安定故にエマへの対応に
明確な行動が見出せないでいる。

しかし……

(うっ……何だろう……この嫌な匂いは……)

エマに抱きしめられた瞬間、仄かに鼻についてくる
異臭にリゼは違和感を覚える。

(この匂いは……死臭……!?
……生き物が死んだ時にする……)

「……………」

リゼはこの匂いの元がエマと認識すると
静かに体の奥底から黒い感情が
再び湧き上がってくるのを感じた。

そして、エマの腰に掛けられている氷で出来たナイフを
視界に捉えると、間髪いれずに抜き取り、そして……

ざしゅぅっ!

「きゃいぃっ!?」

エマの腹を切りつけた。
[4]投稿者:「殺意の行方」 Ep4 19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/05/30(Sat) 14:53 No.270  
〔Ep4 殺意の行方〕

「あ……あぁっ……ひぐっ……うあぁっ……!」

腹部の衣類が切り裂かれ、細い肢体が露出する。
エマは切りつけられた箇所を抑えながら
悲痛な声を出す。

エマからナイフを奪ったリゼからは
いつもの澄んだ赤い瞳は消え失せ、
血走るほどの形相へと変貌し、
エマから少し距離を取って身構えていた。

「……君、友好的なフリをして僕を殺そうとしてたんでしょ?」

「えっ……? ち、違うよ……あたし……そんなことは……」

「君から、生き物の死臭がした……
もう誰かを殺してるんでしょ?」

「こ、これは……!」

「うるさい!」

自分を守るため、リゼはエマの話にも聞く耳を持たず
再びエマに向かって突進し出した。

(うそっ……! まさか食料集めがこんな裏目に出るなんて……)

もしも仲間が増えた時にと狩りをして食料を確保していたが
死臭をそんな風に捉えられてしまったエマは
対処の方法がすぐには見つからなかった。

びっ!!

「くっ!」

間一髪のところで振り回されるナイフをかわすエマ。
遠距離以外の戦闘は不慣れだが、
この娘は普通の人が少し戦いの仕方を身に付けたくらいの
動きだから捌けないことは無かった。

「くそっ! このっ! てやぁっ!!」

「うっ……! っと……きゃうっ!」

(どうやら武器の性質からか……切り付けられた箇所も
凍り付いてて出血はないみたい……)

(でも、どうしたらいいんだろう……)

リゼの猛攻にほんの少しずつ、切り傷を作りながらもエマは考える。
逆上したこの娘から何とか誤解を解くかを……

(いちかばちか……やってみるしかないか……)

「ウィンド!!」

びゅおぉぉぉぉぉっ!

「うわあぁぁっ!?」

エマが風の魔力を付与した掌を突き出して
リゼを大木に打ち付けるように吹き飛ばした。

どすっ!

「あぐぅっ! う……あぁっ……!」

リゼの背中に、文字通り丸太に打ち付けられたような激痛が走り、
苦悶に顔を歪めながら蹲る。
エマはその隙を見て、リぜに向かって体勢を低くしながら
突進していった。

けたたましく地を蹴る音が
段々と自分に近づいてくることにリゼは
萩を殺し、自分も殺そうとした涼子の姿を思い出した。

「うああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ざぐっ……!!

リゼは恐怖、怒り、殺意、そして生への執念が入り混じって
瞳を閉じながらナイフを前へと突き出した。
するとナイフには、弾力を帯びた柔らかいものを貫く感触がある。

「……え……?」

一瞬、世界から音が消えてしまう。

自分に痛みは無い、血が流れて熱くなる感触もない。

なら……これは………

「かふぅっ……ごほっ……!!」

リゼは恐る恐る目を開いていく。

リゼの視界に飛び込んできたものは、
自分の握っているナイフが目の前の少女の
胸を深く貫いている光景だった。

「そ、そんな……どうして………?」

あんな目を瞑った状態での攻撃なんて当たる訳がない。
そして目の前の少女の手も、まるでリゼのナイフを引き寄せるかのように
リゼの腕を強く握っていた。

《ぐ……くぅ……リゼ……に、逃げろ………》

「あ……あぁ………嫌だ……」

ずぐ……

やがて、エマの手の力も弱まっていき、
ゆっくりと体は後ろの方へ倒れ、
胸からナイフが鈍い音を立てて抜けていった。

地面に伏っし、動かなくなったエマ。
貫かれた胸、ナイフの性質で血こそ出てはいないものの
今の光景は、自分が二度と見たくないものそのものだった。

デジャヴとして蘇る萩の姿……しかし、
今度は……自分があの青髪の女と全く同じことを………

「嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ナイフはからんと音を立てて地に落ち、
リゼは虚空へ向かって絶叫した。
[5]投稿者:「殺意の行方」 Ep5 19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/05/30(Sat) 14:54 No.271  
〔Ep5 失くして知らされるモノ 得て守ろうとするモノ〕

「ぐっ……うえぇっ……げえぇっ……!!」

躊躇無く殺せる筈だった。
しかし、リゼは自分があの人間達と全く同じだったと思うと
悲しさと虚無感で強い吐き気を催してしまう。

「はぁっ……はぁっ……!!」

違う……こんな結末を迎えるために
殺そうとしたんじゃない……

「ただ……悔しかった……お姉ちゃんを守れなかった僕……
お姉ちゃんを殺した奴が許せなくて……だからっ……!」

物言わぬエマに向けた言葉なのか、
それとも自分に言い聞かせている言葉なのか……
嗚咽交じりに彼女の生死を確認するが
呼気は感じられない。

「ごめん……なさいっ……! 僕……僕………!!」

リゼは黙しているエマを強く抱きしめ、
擦り寄るように深く深く謝り続けた。

「あいたっ……いでででで……
ちょ、傷口食い込むからもう少し優しく……」

「……へ?」

なんだろう? この間の抜けた声は……

「ちゃんと生きてるから……ていうか、
そんなにきつく抱きつかれたら苦しくてポックリ逝っちゃうよ」

「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」

目も閉じて、呼気も無かった目の前の少女が
苦笑いしながらジョークを飛ばしてきた。

リゼは、もう死んでしまったと思っていた少女が
割と元気にしていることに驚愕し、
果てにはゾンビか何かと思って悲鳴を上げてしまった。

ぎゅうぅぅぅぅ!!

「いだあぁ!? だ、だから強く抱きつかないでってー!!」





「さっきのは擬死ってやつでね、死んだ風に見せて
敵から逃れるための技なんだよ」

なんとか落ち着きを取り戻した二人は事の顛末を話し始めた。

「体を仮死状態に……? で、でも……!
どうして心臓を貫かれたのに死ななかったの……?」

「あーそれはね、これこれ」

エマは服の中に手を入れて、何かを取り出した。

するとあんなにおっきいと思っていた胸が無くなり、
代わりにエマの手には球体状に膨れている野鼠の死体があった。

「そ、それ……」

「これね、ウィンドの魔法を詰め込んで圧縮空気にしたものなんだ。
一回くらいならこうやって攻撃を防げるんだよ」

そう言うとエマは野鼠から空気を抜取る。

「ごめん。騙すつもりじゃなかったんだけど
もしも、君が敵だったらって思って……」

「う、ううん……いいよ……
僕だってそれの匂いを勘違いして襲い掛かっちゃったから」

ようやく誤解も解けて普通に話せるようにまでなり、
お互いのことを確認することが出来るようになる。

「あたし、エマ。ウェアウルフのエマ」

「僕は……リゼ。……忌み子だけど……」

「別に忌むなんて嫌な言葉使わなくてもいーじゃん……
あたしは隔てなくハーフでいいと思うよ」

「そ、そう言ってくれると助かるかな……」

やはり、エマは自分のことを忌み子だからといって
蔑視をしたりしないということを知って安心する。

「えっと……エマさんは……」

「ぶー! さんは禁止! エマって呼んでよ。
あたしもリゼって呼ぶから!」

「わ、分かったよ……エマ……」

「よっし! よろしくね、リゼ」

どうやらエマは堅苦しいのが苦手な性格らしく、
馴れ馴れしくはあるけど、壁を作らない人物のようだ。

リゼは、自分が物静かな方だと自覚しているので
このノリについていけるかが不安だったが、
悪気はないようなので付き合ってみることにした。

「エマは……このゲームには……」

「うん、乗ってないよ。仲間と、協力してくれる人を探してるんだ」

「そ、そうなんだ……良かった……」

「でさ、君を見かけたから、これを渡そうと思ってたんだ」

エマは肩に掛けていたデイパックから何かを取り出して
リゼに手渡そうとする。

「こ、これ……」

手渡されたものは、赤く燃え上がるような文様と
刺繍が施されたローブだった。

「ほらぁ、女の子がいつまでもボロボロの服着てちゃダメ。
私は服も間に合ってるからもらってよ」

「で、でも……エマのことを傷つけた僕が
これを貰うわけには……」

「うん、だからその服ちょーだい。
ボロボロになっても二人の傷を塞ぐ包帯にするからさ」

「……そういうことなら……」

気兼ねしてたのか、なかなか受け取れずにいたりゼだったが、
交換という形で提示したことに納得してくれたようだ。

「で、これからのことなんだけど……やっぱり一緒に行こうよ」

氷のナイフで切り取ったリゼの服を傷口に巻きながら
エマは身を乗り出して、着替えているリゼに
同行の可否を促す。

「でも……僕と一緒にいたら……また……」

お姉ちゃんのように、と言い掛けて口を噤んだ。

あんなこと、エマには知らせない方がいいし、
何より口に出すと自分自身が辛くなってしまうから……

「……そのお姉ちゃんも、もしかしたら生き返れるよ」

「えっ!?」

エマから思いもしない言葉を聞き、
リゼは驚きと同時に深く聞き入ろうとする。

「あの男が、最後の生き残りの願いを叶えるって言ってたじゃん?
あたしの仲間がクリア報酬に『回生光のラクリマ』というのを
貰おうとしてるんだ」

「回生光のラクリマ?」

「うん、世界の至宝とも呼ばれてて……
欠けた体や死んでしまった人でも大勢を
生き返らせることができる魔水晶なんだ」

「それで……お姉ちゃんも生き返らせることが……?」

「そう……だからあたしたちは仲間を集めて、
殺し合いを楽しむ連中を動けなくした後で脱出法を探すか
一人の生存者を決めて、最終的にこのゲーム自体を
なかったことにしたいんだ」

「このゲームを……無かったことに……」

リゼは呆然としていた。
自分はただ、死にたくない、生き残りたいと
考えるばかりで最終的なことなんて考えもしていなかった。

目先の怒りや悲しみに囚われていて、
解決策を見出せず、漠然としていたことに
このままではいけないと考えてしまう。

そして……

「分かったよエマ……僕も、君とその仲間の人と
合流して、そのアイテムを手に入れることに協力する。
僕がお姉ちゃんを生き返らせるんだ!」

リゼは決心した。
憎しみに心を委ねるのではなく、
救済の道を探すことに……

そして……傷つけてしまったエマのことを、
今度は自分が守り抜くことを……

「ありがとっ! じゃ、誤解も解けて仲直りもできたし、
お腹すいちゃったからご飯にしよっか」

そう言ってエマは、二匹の野鼠の骸を取り出して
火を熾す準備をしだす。

希望が見え始めてきたリゼの心には黒いものが消え去り、
殺意も何処かへ消え去っていた………



【C-1:X3Y3/森/1日目:午前】
【エマ@リョナマナ】
[状態]:切り傷多数(応急処置済み)、魔力消費少、軽症
[装備]:投石@バトロワ世界
[道具]:ウインドの薬箱@リョナラークエスト
    即席の矢@バトロワ世界(10本 弓なし)
    デイパック、支給品(食料6/6・水5/6)
[基本]:生き残る、仲間を探す
[思考・状況]
1.リゼと行動する
2.ナビィ達と合流する
3.誤解を増やさないためにも水浴びして死臭を落したい。

※胸は鼠パッドを仕込んでいたので、現在はぺったんこ

【リゼ@リョナラークエスト】
[状態]:背中に打ち身(徐々に回復中)、気力(SP)回復中
[装備]:氷のナイフ@創作少女、フレイムローブ@リョナマナ
[道具]:デイパック、支給品(食料6/6・水5/6)
    メイド3点セット@○○少女
[基本]:生き残る、人間は殺せるなら殺す。
[思考・状況]
1.エマと行動する
2.エマからフレイムローブを貰ったからメイド3点セットは着なかった。(着たくなかった)
3.人間は死ねばいいのに、と思うが、エマとのこともあり多少は相手を選ぶ。
4.萩の死、エマとのことを考慮して、決め手にカラミティを使用。

※リョナたろう、オーガ、モヒカンが参加していることに気付いていません。



後書き………
何か初めてなんで気張って書いたらめったくそ長くなりました。
文章も稚拙な感じですが、読んで頂けたら幸いです。

19スレの1
[6]投稿者:19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/05/31(Sun) 12:21 No.277  
上記のエマの持ち物に修正(エリナと被ったため)
ウインドの薬箱@リョナラークエスト→
グレニアの医療道具@SILENTDESIRE
本文からして極端に支給品が変わってしまうのを
避けたいので、お願いします
[7]投稿者:「策士と殺人鬼」1 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/06/01(Mon) 01:36 No.279  
「伊予那、隠れて!」
「えっ?」

私の突然の指示に、硬直する伊予那。

「(急いでっ!)」

イリスの口調から、説明している時間は無いと分かる。

「危ないっ!」
「はわぁっ!?」

私は伊予那を抱きかかえて、側の茂みに飛び込んだ。
彼女の元いた場所には、氷の剣が振り下ろされていた。



森の中を歩いていた私達は、ついに森の出口を見つけることが出来た。
無邪気にはしゃぐ伊予那だったが、その一方でイリスは不穏な気配を感じ取った。
まだ少女のようだが、極めて危険な空気を纏い、こちらに向かってきたらしい。
そこでイリスも多くを説明せず、短い言葉で私に隠れるよう指示を出した。
だが、このような場面に慣れていないであろう伊予那は、その意味を理解できなかったようだ。



「(また来るよ!)」
「くっ・・・伊予那、逃げ・・・」

逃げようと言いかけて伊予那を見ると、彼女は銃口を少女に向けていた。
手が震えているのも問題だが、それ以上に大きな問題があった。

(あ、安全装置!)

構えられた銃を見て気付いた。安全装置が解除されていない。
しかもさらに悪い事には、相手もそのことに気付いたらしく、うっすらと笑みを浮かべている。
彼女の銃は暴発の防止を優先するため、安全装置の解除に少し手間がかかり、素早い射撃には向かない。
安全装置について教えるにしても、奪い取って撃つにしても、その前に斬られるだろう。

「(エリナ!)」
「(分かってる。)」

私は、一時その場を離れた。
少女は少し私に視線を向けたが、すぐに伊予那の方に向きなおして、少しずつ伊予那に近付いていった。

「そ、それ以上近付くと・・・う、う、撃つぞぉ〜!」

無理にでも強気に見せかける伊予那。だが少女は気にも留めずに近付いてくる。
そこで伊予那は意を決して、震える手で引き金に力を込めた。
しかし・・・

「え・・・なんで・・・」

彼女の意思とは裏腹に、弾丸は発射されなかった。
その様子を見た少女は、手に持った剣をデイパックに入れ、伊予那の拳銃を奪い取った。
そして、わざと彼女に見えるようにして安全装置を解除し、銃口を伊予那に向けた。



「(・・・・・・)」
「(エリナ、そんな無茶しないで、ここは・・・)」
「(私の体力で彼女から逃げられると思う?)」
「(えっと・・・)」

彼女はかなり遠くから、正確に私達の方へ向かってきた。
だとすると、常人とは桁違いの感知能力を持っている可能性が高い。
たとえ私が相手の位置を常に把握しながら逃げたとしても、
スピードの差を埋められるほど優位には立てないだろう。
それならば、今この場で策を以て挑むべきである。

「(・・・分かった。で、どうすればいい?)」
「(・・・・・・)」

私はイリスに作戦を伝えた。
普通に考えると成功率は50%に満たない作戦だが、現時点で考え得る最善手である。
しかも、私の読みが当たっていれば、確率は2倍に跳ね上がる。

「(了解。まかせといて!)」



一方の伊予那は、銃を奪われて完全に戦意を失っていた。
逃げようとしても、腰が抜けて立ち上がることさえ出来ない。

「ひっ・・・い、いやぁ・・・」

それでも懸命に、匍匐前進で少しでも離れようとする。
だが、少女はそんな伊予那を見下ろし、笑みを浮かべていた。



「(伊予那・・・くっ、あと1分!・・・いえ、30秒で!)」

この作戦には大きな欠点があった。それは、多少の準備が必要な事。
だから私が1対1で彼女と対峙していたら、成す術も無く殺されていたはずだ。
今は伊予那が相手の注意を引き付けているおかげで、私は作戦を実行に移すことができる。
とはいえ同時に彼女の命は危機に陥っている。少しでも早く準備を終わらせなければならない。

「(エリナ、焦らないで。失敗してキミまで殺されたら、元も子もないんだ・・・)」
「(・・・分かってる。)」

イリスは不満そうだが、私は気にせずに準備を急いだ。
そして・・・

(終わった!)

こちらの準備は完了した。あとは・・・彼女の注意を引くだけ。
私は足元の小石を手に取り、少女に投げつけた。
そして素早く、側の大木の陰に身を潜める。

「(状況は?)」
「(・・・小石を左手で払いのけて、こちらを伺ってる。)」

ここまでは順調だ。後は最後の仕上げが成功するかどうか。
タイミングさえ合わせられれば、難しいことではない。

「(来た!)」

私は、イリスの言葉と同時に、それを実行に移した。
[8]投稿者:「策士と殺人鬼」2 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/06/01(Mon) 01:37 No.280  
「ぐぅ・・・ぐが・・・がぁっ!」
「無駄よ。貴女がどれだけ足掻いても、その糸は切れないわ。」

伊予那を放置して私に向かってきた彼女は、私の張った網に見事に飛び込んだ。
それと同時に網の一端を引くことで、計算通りに糸の一本一本が彼女の腕や足、胸、首などに絡みついた。

「知ってる?・・・蜘蛛の糸の強度は鋼鉄の5倍。
 鉛筆程度の太さがあれば、飛行機だって受け止められるの。」
「うぐ・・・ぐあぁっ・・・」
「そしてその糸はカーボンナノチューブ製。
 鋼鉄の20倍の強度で、特に引っ張り耐性はダイヤモンドも凌駕するわ。
 いわば人工の”蜘蛛の糸”ね。」
「ぐぎ・・・ぎぃ・・・」

彼女は何とかこの網から抜け出そうと必死に暴れている。
しかし、もがけばもがくほど糸は身体に深く食い込んでいく。

「まさか、私がこんな”武器”を持っているなんて、思いもしなかったでしょう。
 それが貴女の第一の誤算。」

この糸はもちろん、あの首飾りが変化したものだ。
原子レベルでの構造まで再現できるかどうかは分からなかったが、
彼女の反応を見る限り、どうやら成功しているらしい。

「そして第二の誤算は、これよ。」
「がああああぁああぁぁぁっぁぁあっ!!!」

私は、彼女の右肩を踏みつけた。

「やっぱりその肩の傷、相当深いわね。右腕はほとんど動かないのでしょう?
 おかげで進路を簡単に予測できたわ。戦い慣れている人間が、傷口を相手に晒す事は、有り得ないから。」

罠を張る場合、当然だが相手の進路に合わせなければ意味が無い。
かといって自分の姿を見せて誘導すれば、罠に飛び込んでくる前に射殺される危険性がある。
そこで障害物に隠れるわけだが、その場合相手が左右のどちらから回りこんでくるか分からない。
無論、両方に罠を設置するのがベストだが、今はそんな時間も材料も無い。
だから私は、彼女の右腕の負傷と戦士としての無意識の行動に賭けた。

「ちなみに、私がこの事に気付いたのは、貴女が伊予那の銃を奪うために、
 手に持っていた剣をわざわざデイパックの中に納めたときよ。
 普通ならば右手で奪うか、せいぜい剣を右に持ち替えるわ。
 そうしなかったのは・・・右手を使えないから。それ以外に考えられない。」
「あ・・・ぅあぁ・・・」

踏みつけられた右肩が痛むのか、彼女は動くのを止めて涙を流している。

「さてと・・・喋りすぎたわ。そろそろ終わりにしましょうか。」
「ぐ・・・んんんっっ!」
「安心して。殺しはしない。ただ、しばらく眠ってもらうわ。」

私は彼女の首にかかっている糸を引き絞った。
彼女の身体から力が抜ける。私の勝利が確定した瞬間だった。




「ふう・・・厄介な相手だったわ。」

私は思わず、その場に座り込んだ。
実際には10分にも満たない時間での出来事だったが、数時間分は疲れたような気がする。

しかし、嫌な事ばかりではない。
彼女の配置を考えると、私が町に直行しなかった場合を考えて、キングが用意した”保険”だろう。
彼女の索敵範囲はかなり広い。周辺の地形を考えても、おそらくB3エリア東側からB4エリア全体を覆うことが出来るだろう。
私がその範囲を迂回して町を目指すとすれば、A5エリアから橋を経由する事になる。
だが、さすがにそれは現実的な距離でない。だから町に直行しなかった場合、必ず彼女出会うと言って良い。
つまり彼女は私を殺すための刺客。それを退けた以上、アクアリウムまで邪魔が入る可能性は低くなる。

そんな事を考えていると、イリスが話しかけてきた。

「(あのさ、さっきの話だけど・・・)」

口調から、意としている事はすぐに分かった。

「(そうね、彼女にはもう一つ、最大の誤算があったわ。
  ・・・死角のない透視能力を持つ、私のパートナーの存在よ。)」
「(さっすがエリねえ。分かってるぅ〜!)」
[9]投稿者:「策士と殺人鬼」3 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/06/01(Mon) 01:37 No.281  
その頃、別の場所にて・・・

「アハハハハ!!傷口レイプとか、モヒカン本当は天才だろ!」

なよりを犯すモヒカンを見て、ゲラゲラ笑う男がいた。

「ふーっ、初日からイイもの見せてもらったぜ!・・・と、B4担当のレミングスから連絡だ・・・
 何ぃっ!・・・あの化け物が捕まったって!?・・・相手は・・・富永エリナか。」

東支部で見た彼女は、他の参加者を圧倒する実力と威圧感を持っていた。
そんな彼女が捕まったのだ。彼が驚くのも無理は無い。
だが彼はすぐに、平常心に戻って呟いた。

「へぇ、これは予想外の展開。意外とあの子もやるもんだね。
 まあそもそも、完全に”ノーマーク”だったんだけどねぇ〜。」



「はぁっ、はぁっ、エ、エリナさーん、待ってください〜・・・。」
「・・・・・・」

私と伊予那は、少女の武器を全て奪った後、右肩をもう一度踏みつけて気絶しているのを確認してから、
彼女の拘束を解いてその場に放置し、再び廃墟に向けて歩き出した。
イリスは殺すように言ってきたが、よく見るとまだ幼さの残る少女。そこまで鬼にはなれない。
それから程なくして森を抜け、草原の向こうに廃墟らしき影も見える。
その間、伊予那は何度か話しかけてきたが、私はどうしても会話する気にはなれなかった。

確かに私の作戦によって、私も伊予那も生き延びることが出来た。
しかし、それはあくまで結果である。
私の立てた作戦は、あくまで私が生き残るための作戦。伊予那の生死は考えていない。
実際、あの少女が私より先に伊予那を殺そうとしたら、伊予那の命は無かった。
結局のところ私は、自分のために、伊予那を囮にしたのだ。

「あのぅ・・エリナさん・・・お、怒ってますか・・・?」
「・・・そうね。・・・怒っているわ。」

怒り。
確かに、自分の今の感情を一言で表すと、それが一番しっくり来る。
だがそれは、勝手に使えもしない銃を構えて、勝手に危機に陥った伊予那に対してではない。

「私も伊予那も助ける策を立てられなかった、自分自身のふがいなさにね。」

もし、あの場にいたのが伊予那ではなく、カザネだったら・・・。
確かに彼女は射的のセンスがあるが、実弾を使う銃器の扱いは経験が無いだろう。
きっと伊予那と同じく安全装置が解除できずに、危機に陥ったに違いない。
その時の私の行動は、きっと今と同じではない。
カザネを守ろうとして・・・二人とも、殺されていただろう。

「(ま、いいんじゃないかなぁ〜。)」
「(・・・え?)」

突然、イリスの言葉によって私の思考がさえぎられた。

「(もしも伊予那がカザネちゃんだったら・・・とか考えてたんでしょ。)」
「(う・・・うん・・・。)」

こういう時の彼女は、かなりの精度で私の考えを言い当ててくる。

「(過去の事はどうしようもないんだし、逆に自分の弱点が分かったなら、かなりの進歩じゃない?
  ホラ、敵を知り己を知らば、百点取れるって言うじゃない。)」
「(・・・百戦して危うからず?)」
「(そーそー。やっぱエリねえ、頭いいよね〜。)」
「(それぐらい高校生でも知ってるわよ。)」

・・・でも、イリスの言う通りかもしれない。
過去の事を悔やんでも、それを変えることは出来ない。大事なのは、これからどうするか。
今回の一件を糧として、次からはさらに向上できれば良い。
カザネと一緒に、笠原町に帰るために。




【B−4:X1Y2/平地/1日目:午前】


【富永エリナ{とみなが えりな}&アール=イリス@まじはーど】
[状態]:健康
[装備]:運命の首飾り@アストラガロマンシー(首から提げて、服の中にしまっている)
    ハンドガン@なよりよ(残弾5)
[道具]:デイパック、支給品一式
    ハロゲンライト(懐中電灯型)@現実世界(電池残量十分)
    巫女服@一日巫女
    アイスソード@創作少女
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.伊予那との約束に従って廃墟に一度向かう
2.再び森を通って伊予那と商店街に向かう?
3.アクアリウムに向かう

※なぞちゃん撃退により、アクアリウムまでは安全だと思ってます。
※伊予那はキング・リョーナが用意した『偽合流ポイント』に行かせるための罠だと思っています。
※何かあったら伊予那を守るつもりです。今度こそ。


【神代 伊予那{かみしろ いよな}@一日巫女】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM1934(残弾7+1)(安全装置の解除方法を知りました)
[道具]:デイパック、支給品一式 
    9mmショート弾30発
    SMドリンク@怪盗少女
[基本]:桜と生きて帰る
[思考・状況]
1.エリナについていく
2.桜を探す
3.銃は見せて脅かすだけ、撃ち方は分かったけど発砲したくない

※名簿を「美空 桜」までしか見ていません。
※エリナから霊的な何かの気配を感じ取っています。
※何かあったらエリナを守るつもりです。



【B−4:X1Y1/森/1日目:午前】


【なぞちゃん@アストラガロマンシー】
[状態]:気絶、右腕は再起不能(銃弾+踏みつけ)、身体各所に絞められた跡
[装備]:四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    油性マジック『ドルバッキー(黒)』@現実世界←元ネタは油性マジックのマッキー(黒)、新品でペン先は太い
    たこ焼きx2@まじはーど(とても食欲をそそる香ばしい香りのする1ケースに8個入りの食べ物、でもたぶん冷めてる)
    クマさんクッキーx4@リョナラークエスト(可愛くて美味しそうな袋詰めクッキー)
[基本]:記憶回復時:マーダー
    記憶喪失時:対主催、皆で仲良く脱出
[思考・状況]
1.?

※次に起きた時、記憶はどうなってるか分かりません。(要するに次の人まかせ)
※使い方が分かる現実世界の物は多いようです。
[10]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/06/01(Mon) 01:49 No.282  
【あとがき】

しまった・・・細かく分割しすぎた・・・

それはともかく、エロ回でもリョナ回でもなくてすみません。
女の子視点だとリョナ表現がしにくいという事で、適宜妄想で補ってください。

エリナは知識こそ初香その他に劣りますが、戦術に関してはトップクラスだと勝手に思ってます。
ただキングの意思については相変わらず完全に読み違えているので、死亡フラグは維持です。
というかアクアリウムは結構ヤバい気が・・・
スライムとか銃弾効かなさそうですし、下手すると涼子さん&サーディが首飾り奪いに来るし。
[11]投稿者:「鬼」その一  @間取り 投稿日:2009/06/06(Sat) 08:18 No.290  

 ―その気配を一早く察したのはオーガだった。
 彼の傍らで不安げに話しあっている他の3人――ルーファス、ミア、まゆこはまだそれに気づいている様子はない。
 彼のみが“その気配”に気づく事ができたのは、職ゆえの経験の差か、あるいは――

 (・・・面倒だな)彼は思う。
 だが、“それ”を放置すれば間違いなく事態は思わしくない方向へ向かう。・・・ならば初めから選択肢は限られている。迷っている暇などありはしない。
 体力を温存するため横になっていた彼は、意を決して起き上がる。
 「どうしました?」
 「シッ!」口に人差し指を当て、ルーファスの声を制する。
 その行為の意図を悟った3人の顔に緊張が走る。

 オーガは少し考えた後、危機感を込めた声で3人に言った。 
 「気をつけろ・・・。何か近づいてきているぞ。」
 3人の顔がより一層曇る。

 来訪者の存在。それが必ず好ましいものであるとは限らない。つい先ほどの戦闘で消耗している彼らにとって、これ以上の厄介事はできることならば避けたいものであった。

 “望み通り”の反応を示した3人に、オーガは静かに言った。
 「そこで待ってろ。俺が様子を見てくる」
 そして、一人戸口へ向かおうとする。

 「あの・・・」
 オーガを呼び止めたのはルーファスだった。
 「僕も行きましょうか?」

 扉に手をかけていたオーガは振り返る。見ればルーファスのみならず、ロッドをきつく握り締めたミアも緊張した面持ちでうなずいている。まゆこもまた同様である。

 「いや・・・」
 オーガは首を横に振る。“そうしてもらっては”困るのだ。

 「俺一人で行く。まだ相手が俺らに気づいている様子はない。大所帯でいけばそれこそ相手にこちらの姿を晒す事になっちまうかもしれねぇ」
 「そうですか・・・」

 口からの“でまかせ”だが、ルーファス他2人を納得させるには十分すぎる程だった。
 オーガは再び扉に手を伸ばす。

 「あの!」
 何だ!といわんばかりに、オーガは振り返ってルーファスの顔を見る。

 ルーファスはオーガの名を呼んで言った。
 「気をつけて・・・」

 「・・・ああ」

 オーガは武器庫の扉を開きながら念を押すように3人に言った。
 「いいな。俺が戻ってくるまで絶対にここを動くなよ・・・」




 気配のする方向に向かって森の中を進む。だがオーガに警戒している様子はあまり感じられない。身を隠すでもなく堂々とその方向に向かって突き進む。戦闘慣れしている彼にはおよそ考えられない行動であった。
 しかしその理由はごく簡単な事である。初めから彼は“気配”の正体を分かっていたのだ――


 (それにしても・・・)
 しばらく森の中を歩む内に、彼はずっと前から感じていた違和感を確信する。こんな森の中だというのに動物の気配の一つもない。鳥の鳴き声一つ聞こえない。
 (フツーの環境じゃあありえねえ。一体この島はどこだっていうんだ?)

 気配が近い。オーガは余計な思考を隅にやり、足を留める。そして彼は木々の間の闇に向かって軽い感じに語りかけた。
 「おい」

 闇は何も答えない。だが彼ははっきりと感じている。馴染み深いこの不快な気配をしっかりと・・・
 「てめえなんだろ?出て来いよ・・・モヒカン」

 「ヒャッハーーーーッッッ!!!大当たりィ!」

 奇声と無数の木の葉と共に、頭上から見知ったキモい笑顔が降って来た。

 「やっぱりてめぇだったかァ!オーガ!」
 
 モヒカン―――オーガと同じく「リョナラー連合東支部」に所属する変人である。
 長い付き合いのある同僚であるがゆえに、オーガは遠くからでもいち早く彼の“独特の”気配を察することが出来たといえよう。それが他の2人だった場合は正確に察知できる自身はあまりない。

 オーガはいつもの調子で悪態をつく。
 「お前も相変わらずみてえじゃねえか。・・・ったくこんな状況だってのによ」
 モヒカンの顔面のわけのわからない装飾についてはあえて突っ込まないでおく。


 「何言ってんだてめ!サイッコーのゲームじゃねえかよ!イカした女だらけの犯し放題リョナり放題パーティだぜ!この世のパァア〜〜〜ッッラダイスじゃねえかよ!!!ヒャッハーーーー!!!!」

 モヒカンは必要以上に興奮していた。

 (さてどうしたものか・・・)オーガは考える
 (このままコイツと協力してあいつらを皆殺しにするか・・・)

 オーガは首を振ってその考えを否定する。
 (いや、そりゃダメだな・・・。状況が状況だ。「ミア」とやらの回復能力は頼りになる。このイカレた殺し合いゲームを生き残るためには必要だ・・・。不測の事態なんざ幾らだって考えられる・・・)

 リョナたろうとでも再開できればあるいは代わりになるかもしれないが。それを考慮しても彼女の回復の能力は優秀だ。失うのは惜しい。

 (それにあの「まゆこ」とかいうガキの変身能力は測り知れん。片手を失っている以上俺も無茶をできるわけじゃあないからな・・・)

 他にも理由は幾つかあるが、とにかく結論としてオーガはモヒカンを隔離する選択を選んだ。
 だが・・・。

 (そう簡単にはいかねえようだなァ・・・)
 
 興奮しっぱなしのモヒカンがオーガに語りかける。
 「再開を祝っててめえにいいことを教えてやる!」


 いい予感はしない。
 モヒカンはわざとらしく息を潜めてもったいぶったように告げる。
 「この辺りに女がいるぜ・・・たぶん2人くらいだ!俺のリョナゴンボール・レーダーが告げてやがる!間違いねえ!」

 そうして自分の股間を両手で指差す。
 モヒカンの悪趣味なビキニはゴーヤを詰めたかのごとく盛大に膨れ上がり、ビクビクと痙攣している。キモい。

 (チッ・・・やっぱりか・・・)
 オーガは眉を顰めた。この男のいやに鋭いわけの分からない直感を恨む。

 (どうする・・・とりあえずあいつらは俺の獲物だってことにして他をあたらせるか・・・いや、それを素直に聞くヤツじゃねえ・・・。ならば対象を他のモノに・・・)

 そこで唐突に思い出す。

 (そうだ!あれがあったじゃねえか)


 「ヒャッハーーーー!!!!もうガマンできなーーーい!!!」

 「おい!待て!キモ・・・・じゃないモヒカン!」

 今にも突っ走り出しそうなモヒカンをひとまず制する。

 そして提案を告げる。
 「ありがたい情報提供感謝するぜ、モヒカン。礼をしなきゃならねぇなあ。・・・ところで俺にもいい情報があるんだぜ」

 そして自分の来た道と別の“ある方向”を指刺しオーガは言った。
 「あっちに女の死体がある。今なら犯りたい放題だと思うが」

 「ああん?死体だぁ?」モヒカンはやや乗り気ではないようだった。彼は天性のリョナラーであるがゆえに、いたぶることの出来ない死体は価値が落ちるのだろう。
 ・・・ならばモヒカンの猟奇趣味のニーズに応えるものでなくてはならない。

 「首なしの全裸だぜ」とオーガは言った。
 
 モヒカンはまだ迷っているようだった。
 
 (ならばダメ押しだ・・・)

 「(おそらく)人外だったからなぁ・・・。ひょっとすると・・・今ならまだ“生きてる”かも知れねえぜ?」

 「ヒャッハーーーーー!!!」
それを聞くや否や、歩く不快感は一目散にオーガの指差した方向へ駆け出していった。
 
 勿論生きているなどというのはウソである。十中八九、アレは死んでいたはずだ。
 だが、モヒカンにそんなことは分かるまい、とオーガは踏んだ。
 モヒカンはバカだからである。生きてると言っておけばたとえ死体でも思い込みで都合よく生きていると判断するに違いない。

 (さて、これで時間稼ぎは完了した・・・と)

 オーガはミア達の元へと引き返すことにした。







 「やっぱり・・・誰かが居たの?」戻ってきたオーガの只ならぬ(もちろん演技だが)様子を見て、ミアが不安そうに言う。

 「ああ・・・それにおそらく、敵だ。遠目から確認しただけだが・・・見るからにヤバそうな奴だった」
 
 顔を強張らせる3人に身を寄せ、オーガは声を潜めて続ける。
 
 「まだ、こちらは気づかれちゃいねえ。だが時間の問題だ・・・」

 「じゃあ・・・」まゆこの声は若干震えている。ステッキをより強く握り締めたのが分かる。
オーガはゆっくりと首を振って否定した。

 「いや・・・戦う必要はねえ。相手が気づかないうちにここを離れるのがいいだろう」
 
 ミアとまゆこの顔が若干ほころび、互いに顔を見合わせて微笑んだ。

 (ったく・・・まだ安心するのは早いっつの)
 内心毒づきながらも、トラブルを上手く取り除いた達成感からか、彼自身も多少の安堵くらいは抱いていた。






 荷物を手早くまとめ、出発の準備を整えた。各々の荷物を担ぎあげる。
 
 「それじゃあ行きましょう」ルーファスが静かな声で言う。
 「ああ・・・」オーガもそれに応えた。


 念を入れて裏口から抜け出すことにする。辺りに注意を配りながら、順に建物から慎重に出る。

 「ひゃっ!」最後尾のミアが突然叫んだ。


 「どうした?」

 「その・・・杖が・・・」
 ロッドを横向きでリュックに縛り付けていたため、扉につっかえてしまったようだった。
 「大丈夫、大したことじゃ・・・」

 ガンッ

 軽い感じの音だった。
 
 ミアの体が宙を舞い、オーガたちの後方の地面に落ちてごろごろと転がった。
 杖が扉から抜けた衝撃で・・・か?いや違う。扉の上から何かが・・・。

 たった今ミアの立っていたはずの場所に、異形の存在が立ちはだかっていた。

 
 幼い少女の白い裸体が、宙に浮いている。本来首のあるはずの場所には、何も無い。

 その手足はだらりと垂れ下がり、首の断面から夥しい血を垂れ流している。
 それは間違いなく、先ほどの戦いでオーガがとどめを刺したはずの・・・

 (馬鹿な・・・こいつ、さっきの・・・!?いや、まさか・・・そんなはずは――)

 そして彼は気づいた。


 いや――
 オーガは心の内で己の不備を呪った。
 そうじゃない――
 
 なぜ、どうして気づかなかった。


 その少女の股に、太くどす黒いナニかが突き刺さっている。

 宙をゆらめく少女の足の後ろで、醜い一対の太い脚が地面に突き刺さっている。

 そして、首のないその体の向こうには、いびつな顔面と髪型をした――


 (モヒカン・・・・ッ!!!)

 股間に死体を突き刺したその不快感そのもののような存在は、落下の衝撃で地面に突き刺さった両の脚を引き抜き、高らかに雄たけびを上げた。
 「HyaHhAaaaaaa〜〜〜〜〜ッ!!!!!アァイ〜〜ム!!バァック!!!」
[12]投稿者:「鬼」その弐  @間取り 投稿日:2009/06/06(Sat) 08:22 No.291  
 数分前のこと。

オーガの元を走り去ったモヒカンは、すぐにプラムの死体を発見した。さっそくモヒカンはそれを弄びにかかる。先程のオーガとの再開の事など、この時彼は興奮によってすっかり忘れ去っていた。

その周囲は台風でも起きたのかというほど荒れ果てていた。たった今モヒカンに死体を陵辱されているプラムが暴れまわった跡である。

 バキリ

 頭上で妙な音がしたことにも、モヒカンはさっぱり気づかなかった。

プラムのカマイタチによって折れかかっていたある太く鋭い木の枝が、ついにへし折れた音だった。
 その木の枝はまさにモヒカンの頭頂目掛けて・・・。
 
ザクッ!!!

 「グボァア・・・!!!?」
 たちまち卒倒して白眼を剥くモヒカン。一時の静寂が流れる・・・。しかし一瞬の後に、彼は何事も無かったかのように立ち上がった。だがその眼はうつろである・・・。

「わた・・・」
頭に木の枝が、股間にはプラムの死体が突き刺さったままのモヒカンは白眼を剥いてうわごとのように呟く。

「わたしは、一体ナニをしていたのでしょうか・・・?」口調がおかしい。

モヒカンはなおもうわごとのようにぶつぶつと呟く。

「そうだ・・・ワタシはテンケイをっウケタのデス。そう・・・すべてのオンナをリョナるべしとッ!!!!」

 「HyaHhAaaaaaa〜〜〜〜〜ッ!!!」

 モヒカンは先程自身がオーガに告げた、「レーダー」の対象――すなわちミア達の気配に向かって一目散に駆け出した・・・。頭に木の枝を、股間にはプラムの死体を突き刺したまま。




(畜生っ・・・どうして気づかなかった)
  オーガは内心で毒づく。
(俺としたことが・・・!)

 オーガはそれを己の油断のせいだと断じた。
 確かに、若干はそれが影響していることは否めない。しかし原因の大半はそこにはなかった。
それが頭に突き刺さった木の枝のせいなのか否かは定かではない。しかし、現在のモヒカンからはあの溢れ出すような「キモいオーラ」が消えていたのだ。そしてその代替として、モヒカンは顔をしかめたくなるような「オゾいオーラ」を取得していた。それがオーガのモヒカンに対する気配察知能力を濁らせていたのだ。

オーガは舌を打つ。
(さて・・・どうする・・・もうこうなっちまったら何とかガキ共を始末してしまうしかないか・・・。ん・・・?)
そこでオーガはモヒカンの異様な様子に気づいた。

「ワタシ・・・ハ・・・リョナラーユイイツシンRHWHノケイジ ヲ サズカリシモノ・・・ワレ ハ リョナ・・・リョナ ハ ワレ ナレ・・・バ・・・」

白眼を剥いたモヒカンは口角から泡を吹き出しながら尚も意味不明な言葉をぶつぶつと呟き続けている・・・。

 (待てよ・・・何かおかしいぞ、こいつ・・・)

 「フンガァアアアアァッッ!!!」

ゴッ!!!

 「おぐっ・・・!」
 刹那の出来事であった。MOHIKANは瞬時のうちにオーガの目前へと距離をつめ、思い切り丸太のような足を振り上げた。
 足はオーガの鳩尾を直撃し、彼は盛大に後方へと吹き飛ばされる。

 「ぐおあぁっ・・・!」
 重い一撃・・・意識が飛びかける。

(馬鹿なっ・・・この動き、こいつ本当にモヒカンか・・・!?)


裏返ったままのMOHIKANの両の眼が、突然の事態に腰が抜けて尻餅をついたまゆこを捕らえる。
「ひっ・・・!」

MOHIKANはおもむろにまゆこの片足を掴むと、宙高く引き上げた。

「いやああああっ!!!」

「まゆこさんっ!!!」ルーファスが叫ぶのが聞こえる。

真っ逆さまに吊られたまゆこのスカートはめくれ、幼い下着があらわになってしまっている。しかし羞恥している余裕は無い。

「くっ・・・」
 まゆこは背中にしょったデイパックから飛び出したマジックステッキの柄を掴み、念じる。

(お願い――――

まゆこの体がまばゆい光につつまれる。変身が始まった。
ただちに衣服が分解され、魔力で構成された戦闘服へと再構築される―――

はずだった・・・が。

「あ・・・!?ひええっ!!!?」
 
MOHIKANは、“やってはならないこと”をしてしまった。
変身中のまゆこの手から力任せにバックパックごとステッキをひったくったのである。変身中に攻撃するなんて、決して行ってはならないお約束のはずである。MOHIKANとんでもない外道である。

当然変身は中断され、都合の悪い事に(MOHIKANにとってはいいことだが・・・)
それは・・・。

「いや・・・!いやあああああああああっ!!!!」少女の絶叫がこだまする。


あろうことか、服の分解と再構築の丁度中間。つまり完全に衣服が消滅したままの状態で変身が止められてしまったのだ。狙ってやったとしか思えない。

「やだあ!見ないで!いやああああああっ!!!」

まゆこは必死に2本の細い腕で、生まれたままの姿となった肢体を隠そうとする。しかし肉体の制動を奪われたこの状況ではそれすらもままならない。

「・・・っ!!!」唖然としていたルーファスがハッとして、反射的に慌てて目をそらす。
 ・・・その隙を見逃すMOHIKANではない。

ブォンンッ!!!

「がっ・・・!?」「ぎゃんっ!!!」

鈍い音と叫び声がした。
MOHIKANが、掴んだまゆこの体を武器のように振り回し、ルーファスにぶつけたのである。
吹き飛ばされて地面を転がるルーファス。
遠心力と衝撃によって、まゆこの股関節がぎしぎしと軋む。

「い・・・痛い!痛いよお!」

 その悲鳴が問題だった。つぶさにMOHIKANのリョナラーとしての本能が刺激され。嗜虐嗜好ゲージが一気に最大値を振り切った。

「HYAHAAAAAAAAAAA!!!」

 MOHIKANはまゆこから奪ったマジックステッキの入ったバックパックを森の奥へとぽおんと放り投げて、余った腕でぶらぶらと垂れ下がるまゆこの左腕を掴んだ。そして――

 ボキリ

 嫌な音がした。

 「あ・・・・?ぎゃああああああああああ!!!!」

 まゆこの左肘の関節がありえない方向に折れ曲がっている。それだけでは終わらない。続いてMOHIKANが掴んだのはまゆこの華奢な左肩。

 パキンッ

「ひぎゃああああああああ!??」

MOHIKANの顔が喜悦にキシリと歪む。この世のものとは思えないおぞましい笑顔だった。

「うへっうへへへへっへっへっ・・・」

 パキリペキリと骨の砕ける音と、それが少女のものであるとは思えない搾り出すような悲鳴、そしておぞましい笑い声がコーラスを奏でる。
まゆこの左腕はめちゃくちゃに砕かれ、内出血によって変色し、皮膚が破けて所々から白磁のような骨が突き出し、かつての白く可愛らしい腕は見る影も無い。

次にモヒカンが掴んだのはまゆこの左脚だった。

「あぐううううぅっ!?」

 MOHIKANの太い両腕が力任せにまゆこの脚を左右にめいっぱい開き、その状態で固定した。MOHIKANの眼前にまゆこの薄桃色をした未熟な性器が余すところ無く晒される。

「ひいっ!ひいぃぃいいぃ」
まゆこのそれがどういった感情なのか、もはや自信にも判別はつかない。激しい羞恥と苦痛と恐怖が入り混じり、もはや感情の制御が利かない。

まゆこの両脚はもうすでにこれ以上は無理なほどに開かれている。しかしMOHIKANの両腕はそんな事などおかまいなしに、より一層力を込めて左右の脚を真逆の方向へと引っ張ろうとする。

股関節がミチミチギシギシと嫌な音を立てる。
所々皮膚が破け、うっすらと血が滲み出す。
「っっぎゃあああああ!?痛い!痛い!!!イタイいだいいだひィいいいいいっ!!!」

痛みだけではなかった。脚と脚との丁度中間。誰にも触れさせた事のない“大事な”部分。まゆこはそこに、今だかつて味わった事のない“おぞけ”を感じた。

ぞくり

ヂュパッブヂュパッベチョパッと聞いた事もないような不快な音が響き渡る。
MOHIKANがまゆこの“その部分”に口をつけ、赤黒いナマコのような醜悪な舌でベロベロチュパチュパと嘗め回しているのだ。

(え・・・?)

 ぞくり、うぞうぞぞくぞくぞぐっっ

(何・・・してる・・・?の?この人・・・・?
 何で・・・そんなとこ・・・舐め・・・汚な・・・・)

その事実を認識したとき、形容しがたい不快感が全身を襲った。ミミズやナメクジや毛虫、その他地球上のあらゆる“キモチワルイ”生き物がたっぷり詰まったプールにぶちこまれたような―――。


「ヒィィィイィィィィッ!???」
硝子を削るような悲鳴と共に、まゆこの瞳から急速に光が失われてゆく。

続いてイモムシのようなMOHIKANの舌は“ある部分”を探り当て、そこにその身を埋め始める。

「ギヒッ!ヒッ!ヒヒッ!ヒヘヒッ!!!」もはやそれを悲鳴と呼んでいいのかどうかすら分からない。
 まゆこの“内部”へと入り込んだ汚物のような舌は、ベチョブヂョグヂョグヂョと肉の襞を、入り口から奥のほうまで引っ掻き回す。

(キモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイワチルモキチワルモワチキルイイルワイキキキキキキキキ――

ぷつん、と何かが切れる音がした。
まゆこの目がぐるりと裏返り、MOHIKANのそれのように白眼を剥いた。
 
 そのうちMOHIKANは舐めるだけでは飽き足らず、その部分に思い切り歯を立て始めた。

 「ひぎぇあぁっ!?」

 ギチギチと力が込められ、歯が肉へと深く食い込んでゆく。その間も不快な舌はレロレロと動かされ続ける。やがてMOHIKANは頭そのものを思い切り後方へと引っ張り出した。引きちぎるつもりだ――

「ぎあっ!!!ぎゃはぁああああっ!!あぎがっ!!??」

 ブチブチと共に柔らかい肉が裂け、血が滲み出し始める。
「あぎぃっっ!!!やめっ!ちぎれちゃっっちぎれっ・・・ちぎ・・・!!!」

ブヂャッ!

 「え・・・?」

 MOHIKANの頭がようやくまゆこの股間から離れた。その口がモッチャモッチャと“ナニカ”を咀嚼している。

 やがてMOHIKANはそれをペッと吐き出した。地面に赤黒い塊がベチャリと張り付く。

 まゆこは口をパクパクと動かしながら、空ろな瞳でその噛み砕かれてグチャグチャになった肉塊を見つめる。もはや声すら出ないようだった。

  MOHIKANは白い歯を見せ付けるようにニカァッと笑い、そして再び口を大きく開いた。
[13]投稿者:「鬼」その参  @間取り 投稿日:2009/06/06(Sat) 08:24 No.292  
ドカアッ!!!

 モヒカンの額に白い円盤が深深と突き刺ささり、その行為は中断された。

 「調子乗んなよテメェ・・・!」
 どうにか復帰したオーガの投げたものだった。まだズキズキと腹の奥底が痛む。

「UGAAHAAAAA!!!」

 MOHIKANは額を押さえ、思わずまゆこを放り投げてしまった。
すっかり力の抜けたまゆこの裸体がごろごろと地面を転がる。

 「フンガアアアアアアア!!!」MOHIKANは円盤を引き抜き、咆哮を上げる。

 「来いやコラアア!!!」オーガはMOHIKANを挑発する。が、MOHIKANはそれを無視して投げ捨てたばかりのまゆこの方へ向かおうとする。

 「てめ・・・!」冷静なオーガも流石にカチンと来たようだった。

 「シカトこいてんじゃねえぞコラァ!!!」
 防御する様子すらないMOHIKANの肩に爪による一撃を食らわす。
 肉が爆ぜ、ドロドロとしたゲル状の赤黒い血が飛び散る。

 「あんぎゃあああああ!!!」
 
ブォンッ!!!

「うおぉおっ!?」

間一髪で身をかわしたオーガの頭上スレスレをモヒカンの振り回した棒状のものがかすめた。
 マジックロッドだった。

 (ありゃあミアの武器だったか・・・!?いつの間に・・・!)

「HyaHhAaaaaaa〜〜〜〜〜ッ!!!RyoooooooNAhAAAaaaaaaッ!!!!」
息つく暇も無くMOHIKANの強烈な一撃が次々と繰り出される。オーガは間一髪でそれをかわし続けるが・・・。

ガッッ!!!

「ぐあっ・・・!」

オーガの左わき腹をMOHIKANの一撃がかすめた。
ただそれだけだというのに、焼けるような痛みが襲いかかる。

 (くそ・・・アバラがいったか・・・?いや・・・)
 
 オーガは自分の体が淡い光のようなものに包まれている事に気づく。
 復帰したミアの放ったシールドだった。

 (助かった・・・!)
 だがシールドはあくまでも保険として考えなければならない。軽減されているにも関わらず、かすっただけでこれだけの痛みを伴う一撃。直撃を受ければおそらくひとたまりもないだろう・・・!
 
 「おいお前!」オーガはミアに対して叫んだ。

 「俺が何とか時間を稼ぐ!てめえはそのガキしょってひとまず逃げろ!」

 
 ミアはうなづき、地面に身を委ねたまゆこの方に駆け寄る。それを視線の端で捕らえると、オーガは背負っていたデイパックを無造作に放り投げ、MOHIKANの一挙手一投足 に全神経を集中させた。
 勝算があったわけではない。この目の前のMOHIKANは彼の知っているモヒカンとは段違いなのだと嫌でも実感させられた。
 しかし、“これだけは”引けない理由が彼にはあった。

 (ざけんなっ・・・!てめえなんぞに舐められてたまるか!!!)



 「うう・・・うっ・・・」まゆこをぶつけられて気を失っていたルーファスがようやく目を覚ました。薄目を開き、なんとか周囲を伺う。
 ミアが何とかまゆこを担ぎ上げようとしている。MOHIKANの猛攻をオーガが紙一重で交わし続けている。状況があまり思わしくないことは、一目で分かる。

 ふと、視線の先に転がっている“あるもの”に眼が行った。
 (・・・あれは)

 それはデイパックだった。誰のものかは分からない。口がひらいてその中に入れられていたものが幾つかこぼれ出ている・・・。

 (さっき・・・)彼は思う。

 (さっき荷物は一通り確認したはずだったけど・・・“あんなもの”入っていたっけ・・・?)
 視線は、その内の一つへと注がれていた・・・。



「ShaAAAaaahHAAAA!!!HYAhhahhHaaaaahaaaa!!!」


 「さあ・・・どこからでも来やがれ。痛ェのお見舞いしてやるよ」

オーガは右手に力を込める。飛び込んでこようものなら一片の容赦なく一撃でぶち抜くつもりだ――

「むっ・・・!」

MOHIKANの姿がぶれ、体が5つに分裂した。
5体のオゾい塊が一気にオーガに襲い掛かる・・・!

(【イリュージョン】・・・か!!!)

「だからどうしたってんだよ!!!」

すでにオーガの狙いはある一匹のみへと集中していた。
体勢を低くし一気にその懐へと潜り込む。

(だからてめえの脳みそはサルなんだよ!モヒカンよぉオ!!!)

その一匹には他の分身にはないもの・・・すなわちプラムの死体が刺さったままになっていたのだ。

「食らえ!!!」

渾身の力を込めて右腕をMOHIKANめがけて突き出す。

グボォオッ!

不快な音がしてオーガの右腕がプラムごとMOHIKANの体を貫いた。鮮血が噴出し、オーガの右腕を紅に染める。

(・・・っ!!やりすぎちまったか・・・!?)



 ・・・違和感。
 背筋に氷水をぶち込まれたような寒気がした――

 (バカ・・・な・・・!?)

 貫いたはずのMOHIKANの体が一瞬の内に四散して消滅する。プラムの死体だけを残して――

 誤算・・・ッ!!!

右腕に急激な子供一人分弱の負荷がかかり、オーガは体勢を大きく崩す。
 そしてその目の前には
ロッドを振り上げたMOHIKANの姿が・・・!

  (まず―――――

スロー映像のようにゆっくりと、ロッドが振り下ろされる光景が目の前に映し出される。
 体は動かない。意識だけが死をはっきりと認識する――直撃コース・・・!
 
(こりゃあダメか・・・頭がブチ割れるな・・・)なぜか、思考だけはこれ以上ないほどよく冷え切っていた。
[14]投稿者:「鬼」その肆  @間取り 投稿日:2009/06/06(Sat) 08:27 No.293  
 突如
 目の前でガクンとロッドがぶれた。

(は・・・・?)
 外れた――?

急速に世界に時間が取り戻される。
 ロッドが何も無い地面に叩きつけられ、それと同時にMOHIKANが地に片膝をつく。

 (何だ・・・!?)

 ルーファスだった。

 ルーファスがMOHIKANの右の大腿にナイフを深々と突き立てている。
 
 
 少年の脳裏に浮かぶのはある人物の肖像―――

 「僕は・・・」ルーファスは喉の奥から捻り出すように叫んだ。
 「僕は強くならなくちゃ!いけないんだっ!!!」

 この地獄の中であの人を護りぬかなくてはならないんだ――

 (やるじゃねえか小僧・・・!)
 オーガはプラムの死体から右腕を引き抜いた。
 そして崩れ落ちたMOHIKANの元へと歩み寄る。

 「ウガアッ!!!」
 MOHIKANは腕でルーファスを振り払い。立ち上がろうとする。
 だがもう遅い!!!

 (目ェ覚ましな!このマヌケがっ!!!)

MOHIKANの無防備な顎を目がけて。
 渾身のアッパーカットが炸裂した――

MOHIKANの体は海老反りの格好で宙を舞い、やがて顔面から地面へと突っ込んだ。そしてもう動く事はなかった。

 
 「割りに合わねえな全く・・・」

 ガクリと体の力が抜け、オーガは背中から大の字に倒れた。


 「今度は・・・」誰かがオーガに語りかける。

 「今度は、うまくいきましたね・・・」ルーファスだった。彼の声には若干の嬉しさがこもっていた。


 「・・・・・ああ」オーガは答える。

 「そうだな・・・・・」


 (このガキには借りを作っちまったなぁ・・・)
 静かだ。相変わらず、小動物が草叢を掻き分ける音も、鳥が囁く声の一つもしない。

 (とりあえず、今は・・・)
 疲れた――
 そう思って目を瞑ろうとしたそのとき・・・
 
 「オーガ!」醜く図太い声が響き渡った!

 「っっ!!!!」慌ててオーガは飛び起きた。
 モヒカンが何事も無かったかのように起き上がり、顎をさすっている。無駄にタフであった。
 
 「ひでぇじゃねえかオーガ!思いっきりアゴぶん殴るなんてよぉ!」

 すぐさまオーガは悟った。
 (まさか・・・こいつ正気に・・・!?)
 モヒカンの頭に刺さっていた木の枝が、アッパーの衝撃で飛び出してしまっていたのだ。それと同時に、モヒカンは本来の彼の自我を取り戻した。

 とっさにモヒカンに対して短刀を構えたルーファスは形容しがたい表情をしていた。


オーガはモヒカンを睨んだ。
(マズいぞ・・・ここままだとコイツは・・・!)
オーガはモヒカンの次の一言を制しようと試みたが

「待t「酷ぇじゃねえか。俺たち“仲間”なのによォ!」

「仲間・・・!?」ルーファスが素っ頓狂な声を上げる。

 (畜生―――)オーガは歯噛みした。
 (ここまで来て・・・!)

彼の視界の端に森の奥へと消えるミアの姿が映った。
一瞬だが、こちらを見ていたような気がした――








 「はあ・・・はあ・・・!」
 気を失ったまゆこを背負ったミアは走り続ける。
 意識の無い人間がこんなに重いものだとは・・・。

 (・・・ここまでっ・・・・来ればっ・・・!)

もう十分に遠ざかったと思われる場所でミアはまゆこを降ろし、その体を木に持たせかけた。
 
「ちょっと待ってて・・・!すぐ戻ってくるから!」
返事はない。だがそれを待っている余裕もない。
 
 彼女は確かに“聞いた”のだ。

―――『ひでぇじゃねえか 『オーガ』 !。俺たち “仲間” なのによォ!』――

 仲間・・・!たしかに聞いた!間違いなく聞いたッ!!!
 だとすると・・・

 「ルーファス君が危ない・・・!」

 




 少し走ったところでミアは足を留めた。
 視界に入ったのはある人物の姿。
 「・・・・ッ!!!」

 「彼」は全身血まみれで、よろめいていた。
覚束ない足取りでミアの元へ近づいてくる。全身酷い傷だらけなのがはっきりと見て取れる。


「・・・ミア」彼は言った。
それは、オーガだった。

「たのむ・・・。回復・・・を・・・」
言葉も途切れ途切れで、しゃべるのが精一杯という様子だった。

 オーガはミアの傍まで来ると、がくりと地面に倒れ伏す。

 カランと音を立てて、彼の腰から銀色の何かが転げ落ちた。
 ナイフだった・・・

 「たのむ・・・は・・・やく・・・」
 倒れたままのオーガが切れ切れに言う。

 「・・・・・・」
 ミアはゆっくりとしゃがみこみ、ナイフを拾い上げると・・・・

それを両手で頭上に構えた。


[15]投稿者:「鬼」その伍  @間取り 投稿日:2009/06/06(Sat) 08:28 No.294  


――――――――――――――――――――――--------





(畜生―――)オーガは歯噛みした。
(ここまで来てこれかよ・・・!)

森の奥へと消えるミアの姿を確かに見た。
一部始終を聞かれたかもしれない。

(どうする・・・追って殺すか?俺が“そっち側“だと言いふらされると厄介だ・・・!)


ルーファスを見た。彼は明らかに混乱している様子だった・・・?

「え・・・?ど、どういう事ですかっ!仲間って・・・?」ルーファスが叫ぶ。

思考を巡らせるオーガをよそにモヒカンが余計な解説をする。

「よう小僧(誰だかしらねえけど)折角だから教えてやるぜ。こいつはな」
といいながらモヒカンは無遠慮にオーガの左肩を思い切り叩いた。身をよじるオーガ。憤怒の形相でモヒカンを睨みつけた。
かまわずモヒカンは続ける。
「こいつはオーガ。俺の親愛なる仲間(パーティ)だぜ」
なぜかすごく自慢げであった。
(半殺しにしておいて仲間とかフザけんな)というオーガの心の声は一片たりとも届かない。
 「分かったか小僧(誰だかしらねえけど)!」無駄な解説を入れるモヒカンは意味の分からない自信に満ち溢れていた。

 「え?・・・オーガって・・・?この人は・・・」ルーファスは明らかに狼狽しているようだった。

 そしてルーファスオーガの顔をキッと見つめた。
「どういうことですか・・・?」オーガに向かって静かに問う。
返答は無い。

「どういうことですか・・・っ」ルーファスは繰り返す。
返答は無い。



「どういう事かって聞いてるんだッ!!!」少年の激昂が森の静寂を裂いた。
 鳥が羽ばたく音の一つもしない・・・。
手足が怒りに震えている。怒りが木々に伝播し、今にも燃え上がりそうなほどだった。

しばしの沈黙の後、オーガは静かに言った。
「どういう事かって・・・聞かれると、なぁ」

ぽん、と軽くルーファスの左肩にポンと手をおく。
「とてもなあ・・・残念なことなんだ」

残念だ。ガキのくせに久々に面白いヤツを見つけたと思ったが・・・。
残念だ。借りなんぞ残したまんまで・・・。

オーガは静かにルーファスに告げた。
                
「そう、とても残念な事なんだよ、ルーファス君」

「え・・・?」
ルーファスはひんやりとした感触を左の首筋に感じた。

「あれ・・・・」



ルーファスの細い首の左側半分に

白い円盤が深深と食い込んでいた。

 ルーファスは驚きの眼でオーガの顔を見た。彼は見た事のない笑みを浮かべていた・・・
 
 ――残念だが、俺らとお前達が相容れる事はないんだ、決してな・・・!――

勢いよく首から円盤が引き抜かれた。

 鮮血が天高く舞い散る。
 苦痛は無かった。
 脳内血圧の急激な低下によって、ルーファスの意識は一瞬にして無の海へと沈んだ――





「さて、落とし前はキッチリつけてもらおうじゃねえか」

股間にプラムの死体をセットし直すモヒカンに向かってオーガは言った。

「何の話だ?」モヒカンには全く心当たりが無いらしい。都合のいい脳みそだ。

「まあいい・・・」内心で滾る怒りを抑える。

「モヒカン、一つ約束しろ」

「何だ?」モヒカンは恐ろしい速度のスクワットを始めた。MPが吸い取られる。

「今後は一切“俺の事を「オーガ」と呼ぶな”」

「何ッ!」モヒカンが硬直する。

(何だと・・・!?どういう事だ・・・こいつはオーガなのに?オーガじゃない・・・?え!何で!?ふしぎ!)

モヒカンは頭を抱える。
「やべえ!おいマジヤベエって、クソヤベエ!どうなっちまうんだ俺、これが・・・これが桃源郷か!?」
意味不明である。

「うおおおおおおっヤベえって!超平方根三千世界超越定理だぜヒャッハーーーー!」
彼の脳内でなんらかのビッグバンが発生したらしい。あるいはビッグクランチなのかもしれない。

「もういっぺん殴ればどうにかなんのか?」オーガは呆れたように言う。
・・・とか、ふざけている場合ではない。何せ時間は無いのだ。

「もういい!いいかモヒカン、てめえ今後一切俺の名前を呼ぶなよ!」

「どういうことだオーガ!」

「殺すぞ!」

モヒカンは可愛子ぶって“お口にチャック”のジェスチャーをした。オゾい。

「まあそれでいい・・・で、コイツの始末だが」
オーガは傍らに倒れるルーファスの亡骸を指差して言った。

「こいつはお前が何とかしろ」

「はァ!?野郎なんてどうしろってんだ!・・・いや待て、女装させればギリギリ・・・」

「隠せって言ってんだよ!!!埋めるなり何なりしてな!」流石にイライラしてきた。

モヒカンは不満げに愚痴る。
「ちょっと待てよ。何で俺がそんな面倒な事せにゃならんのだ。そんなヒマあったらレッツリョナライフだぜヒャッハーーーー!!!」


仕方なくオーガはモヒカンの股間に突き刺さった等身大オナホを指差して言った。
「「そいつ」の情報を教えたのは俺だろうが、礼くらいしてもらうぜ」

「あれ?そうだっけ?」
「そうだ」

モヒカンはしばらく考え(多分大したことは考えていない)た後、しかたねえなぁ、といったふうに了解した。
「わかったよ、礼くらいちゃんとしねえとなぁ」バカでよかった。

モヒカンに一応念を押しておく。
「間違っても俺の後をつけたりするんじゃねえぞ。あの女どもは時期がきたら半分くらいわけてやるよ」

「wktk」
そういい残し、ルーファスを担いだ歩く不愉快は森の奥へと消えようとする。

「ああ待て」オーガはそれを呼び止める。

 最も肝心な事を頼むのを忘れていた。





「さあて・・・」
モヒカンを見送り、残されたオーガは右手の爪を掲げて一人呟いた。
「ちょっとばかしの我慢だ・・・」
[16]投稿者:「鬼」その陸  @間取り 投稿日:2009/06/06(Sat) 08:30 No.295  


――――――――――――――――――――――--------



 「・・・答えて」ナイフを掲げたミアは静かに言った。

「ルーファス君は・・・どうしたの?」

オーガは弱弱しく答える。
「違う・・・」
 
「違う?何が!?」


 少しの間をおいて、オーガは答えた。
「ルーファスは、もう死んでいる」

 ミアの顔色が変わる。
「どういうことッ!?まさかあなたが・・・」

「そうじゃない」オーガは首を横に振る。

 「もう殺されていたんだ、ルーファスというガキは。
 俺たちがヤツに出会ったときには、すでにな」

「な・・・!?」ミアの瞳が驚きに見開かれる。

「な・・・何それ・・・?どういうこと・・・?間違いなく生きていたわよ!あの子は!?」


 「俺がここに来る前・・・」オーガがぽつりぽつりと語り出す。

 「俺はここに来る前、所謂警察のような仕事をしていた・・・」

 「・・・・・」ミアは今度は黙ってそれを聴いている・・・。

 「俺はある“殺人鬼”を追っていた。そいつの名は・・・『オーガ』という」

 「っ・・・!」ミアは狼狽する

 (どういうこと・・・?私はこの人を・・・)

 ミアの動揺など関係なしに、オーガは続ける。
「ヤツにはある能力がある。簡単に言うと殺した相手に成り代わるという・・・な」

「つまりあなたは・・・あのルーファス君は、その『オーガ』ってやつが成り代わった偽者だったっていうのね?」

「そうだ・・・」

ミアは迷う。
(どうしよう・・・。私はてっきりあの変な頭の男が『オーガ』と呼んだのはこの男のことだと思っていたけれど・・・)

ミアはナイフをより強く握り締める・・・。
(私はこの人を信じるべきなの・・・?この『ルシフェル』という男を)



――――――――――――――――――――――--------



「改めて」と、ルーファスは言った。
「自己紹介をしませんか?これから一緒に行動するんだし、互いに情報交換しておいた方がいいと思うんです」

その意見に同意し、各々が自分の名前や技能などを説明する。そしてオーガの番が回って来る。
 「では、次はあなたが・・・」
 「ああ」

 オーガは話し出す。
「俺は・・・

そこでふと、オーガは考えた。
(ここで素直に名乗ってしまってよいものか。
東支部の連中がこのゲームに参加している。つまりいつバッタリ鉢合わせになるか分かったもんじゃないって事だ)

(で、俺はこのメンツが適度で都合がいいと思っている。なのに他の連中――リゼは・・・まぁいいとして。問題はリョナたろうやキモ顔のようないかにも危険人物ですって連中だ。あんなやつらに出会いがしらに「よぉ、オーガ」なんて気さくに話しかけられちまったら、俺の本性がバレちまうかもしれん。だったら・・・)

はじめから『オーガ』なんてやつは知らん事にしとけばいい。彼はそう思った。
そして参加者リストを思い出す。印象に残った名前はいくつかあるが、そのうちの一つを選ぶ事にした。

「俺の名前は・・・・・『ルシフェル』だ」

どんな奴かは知ったこっちゃない。やたら女の参加者が多いこのゲームだが、コイツは名前からは男だか女だかも分かりにくい。だからこそ丁度いい。

 そして、いくつかの技能や考えなどを、適当に披露する。

「と、いうわけだ。よろしくな、ルーファス君」
「はい、よろしく『ルシフェル』さん」


そうだな、いざとなったらあんたに『オーガ』役を押し付けさせてもらうとしようか・・・



――――――――――――――――――――――--------



 ミアは迷っていた・・・。
(どうしよう。この人の言っている事が本当だったら、今すぐにでも回複魔法をかけてあげなきゃならない・・・。でも、もしウソだったら・・・)

 「・・・・・」オーガはもう何も言わない。
 
 だが、彼の意識は途切れるどころか、全くと言っていいほど鮮明だった。


 (そうだ、それでいい・・・とっとと俺の言い分を受け入れろ)
 実際の所、彼は殆ど回復など必要とはしていない。

 彼の全身の傷は彼自身がつけたもの。酷いように“見える”だけで、実際は大した外傷ではない。そして、血はルーファスを殺めたときの返り血である。

 その気になれば魔力の残量が少なく疲弊した彼女など、この場で起き上がって殺してしまうことだってできる。この距離ならば、不意を打って詠唱の隙さえ与えなければいい。

しかし、彼が欲したのは彼女の治癒の能力、そして他の非好戦的なプレイヤーを安心させるための“無害さのイメージ”だった。
ミアはそれを兼ね備えているといえる。ついでに言えば、負傷したまゆこも“同情心”を買うのに使えるかもしれない。

このゲームを無事に生き残るためには“味方”が多いにこしたことはない。彼はそう結論づけたのだった。
 
 
(だが、もしコイツが俺に牙を剥くというのなら・・・)


 ミアは必死に考える。
 (もし、この人が敵なのだったら・・・あそこで私たちをかばったりしただろうか?あの男と協力して私達を全滅させる事だって、あの混乱した状況ではできたはず・・・。そうだ・・・そうだよ・・・私は・・・)
 
 「・・・わかったわ」ミアは、ゆっくりと頷いた。

 「あなたを・・・信用する」

勝ったのはオーガだった。ミアは元々あまり人を疑う事のできる性格ではなかったのだ・・・。

[17]投稿者:「鬼」その漆  @間取り 投稿日:2009/06/06(Sat) 08:31 No.296  
 ミアはまゆこの所までオーガをひきずってゆき、すぐに二人の応急処置を始める。
オーガのダメージは、事実大した事は無かったので処置はすぐに済んだ。

 酷いのはまゆこだった・・・。

 「こんな・・・っ、あんまりよ・・・」
 思わず目を背けたくなるのを必死で留める。
 左肩から先はもはや原型をとどめておらず、股の間接は両方とも外されてしまっている。
 そして、何より痛々しい。彼女の女としての大事な部分は、ほぼ半分ほどが千切り取られてしまっていた。
 傷は外傷だけではない。まゆこの目は見開かれたまま、焦点の合わぬ眼球が小刻みに動いている。口は常に半開きで、端から唾液を垂れ流し続けている・・・。
 彼女は“壊れて”しまったのだ。
 ミアの魔法でできるのはせいぜい出血を止める程度。深い損傷や心の傷を癒す事はとうてい適わぬ事である・・・。

 「ゴメんね・・・」全裸のままの彼女に、せめてもと自分の上着を被せながら彼女は呟いた。


 (プラマイゼロ・・・って所だな)
 オーガはそう思っていた。



 しばしの時間が流れた。途中悪趣味な放送が流れ、禁止エリアと死亡者の名前を告げていった。その中には東連合部の面々名前は無かった。最後に、ルーファスの名が告げられていたのを聞いた――



 その放送が流れてから半刻ほどが過ぎただろうか・・・。
 (そろそろだな・・・)
 オーガはむくりと立ち上がる。

 「どこへ・・・?」ミアが聞く。

 「さっきの場所へ荷物を回収しに行こうと思ってな・・・。お前さんはそいつを看ていてやってくれ」

 「危険じゃないですか・・・?」

 オーガは少し考えるフリをする。
 「確かにな・・・また『オーガ』どもと鉢合わせする可能性はないわけじゃねえ、
だがあんた、あの“ロッド”が必要なんじゃないか?」

 「・・・!」

 プラムとの戦いの時、プラムが持っていたあのロッドをミアが必要以上に注視していたのをオーガは見逃さなかった。おそらく、あれはミアの魔力の強化や、その他のプラスの作用をもたらすものに違いないと、彼はふんだ。

 ミアは素直に答えた。
 「・・・そうです。実はわたしには、まゆこちゃんのような変身能力があって、それをするためにはあれが必要なんです・・・」

 「だったらなおさらだ、あるに越した事はない」

 (どうしてそんな事をもっと早くに言わなかった)という内心は表に出さなかった。

 「無茶はしない。が、30分たっても俺が戻って来なかったら急いでここを離れろ、いいな」そういい残し、彼は例の場所へと引き返した。




 「あれだな・・・」連合支部付近へと戻ってきた彼は、早速目当てのものを見つけた。
 木にデイパックが吊り下げられている。オーガはそれに手を伸ばし、ゆっくりと降ろす。

その際、その真下の地面になにか書かれている事に気づいた。

 「なになに?『べ・・・べつにてめえのためにやったわけじゃねえからな!感謝しろよなっ!』・・・だと?・・・・・・・うぜぇ」

 といいながらも、彼はそれを、モヒカンがしっかりと頼んであった事をやってくれたという証拠だと認識し、安堵した。
 早まる気持ちを抑えながらデイパックを開く。
 ゴクリ、と唾がなった。
 大量に詰め込まれているそれの一つを手に取る。

「ちゃんと血抜きがしてあるな。バカの癖して中々気が利くじゃねえか」
 さすがに相棒、と言ったところなのかもしれない。

 女のものではないとはいえ、彼的には比較的旨いと言える子供の肉である。それに何より新鮮だ。

 一口齧って見る。思ったとおり、中々旨い。舌の上でとろける感じがたまらない。空いた腹には特に心地よい。
 結局ひと塊全部を平らげてしまった。

 「ふー」
 これで彼にとって当面の食糧問題は解決された。満足感が心を満たすのを感じる。
  戦力としてまゆこ、そしてルーファスのコネを失ったのは痛かったが、これはそれを埋め合わせられる程の収穫だと思えた。

「さて、あとは適当に・・・。ん?」周囲に無造作に転がったデイパックを眺めて、彼は違和感に気づいた。
デイパックはミアが持っていったものと、今自分が持っているもの、モヒカンが投げ捨てたまゆこのものを差し引いて、のこり1つしかないはず。

 なぜ2つある?
 片方の、口が開いて中身の散らばったデイパックをよく見た。
 その中身は、東支部の中で確認したものの中にはなかったものであった。

 「なるほど・・・」彼はすぐに納得した。
 「こりゃモヒカンのだな」

 
 結局モヒカンの残していったデイパックの中に入っていた、用途の分からない瓶入りの黄色い液体と、その辺に無造作に転がっていたマジックロッドと、彼自身は食べられない少しばかりの食料を回収して、彼はミア達の元へと戻った。
 




 オーガが戻ってくるまでの間、ミアはぼんやりとまゆこを見ていた。心を失った少女はあいかわらず虚空を見つめている・・・。

 (ごめんね・・・なぞちゃん・・・)彼女は心の中で親友に謝る。
 
 実の所、機会をみて単独でなぞちゃんを探しに行こうとミアは思っていた。たとえ反対されようとも、必ず彼女を探しだし、元の明るくて、どこかおかしくて、そしてとても可愛らしかったなぞちゃんを取り戻して見せよう・・・。その使命感がかつては彼女の心の支えとなっていた。しかし・・・


 (ごめん、なぞちゃん・・・。私・・・この子を置いてはいけないよ・・・)
 彼女の優しさが、この目の前の壊れた少女を見捨てる選択を許さなかった。

 ミアは首を上げて空を仰いだ。木々の間から見える空は、ここが地獄であることを忘れさせるほど深く碧く澄み切っていた――
 


 【ルーファス・モントール@SILENTDESIRE 死亡】
【残り42名】




★現在の状況

【A-5:X2Y4/リョナラー連合東支部付近/1日目:昼】

【ミア@マジックロッド】
[状態]:戦闘および他人の回復による魔力消耗(プラムとの戦闘時と合わせると現在ほぼ枯渇状態)
[装備]:マジックロッド@マジックロッド
四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料7食分)
    火薬鉄砲@現実世界←本物そっくりの発射音が鳴り火薬の臭いがするオモチャの     リボルバー銃(残6発分)
    クラシックギター@La fine di abisso(吟遊詩人が持ってそうな古い木製ギター)
[基本]:対主催、できれば誰も殺したくない
[思考・状況]
1.体力と魔力の回復
2.まゆこを守る
3.巻き込まれた人を守る
4.なぞちゃんの捜索
5.バトルロワイヤルを止めさせる方法を探す

※オーガを信用しました。
※オーガの名前を『ルシフェル』だと認識しています。
※『オーガ』という名の、他人の姿を似せられるマーダーが存在していると信じました。
※オーガに自分の変身能力について教えました。
※まゆこの事で、なぞちゃん捜索の優先度が下がりました。
※今回襲ってきたモヒカンがかつて遭遇したモヒカンと同一人物だとは認識していません(プラムの死体がくっついていた事やその変貌のせいで)



【まゆこ@魔法少女☆まゆこちゃん】
[状態]:全身打撲
    左肩から先の大部分を複雑骨折
左右股関節脱臼
左右の膝の靭帯を損傷
外性器の一部を損傷
(怪我については一応応急処置を済ませてあるので、出血は止まっています)

発狂しました。
ほぼ全裸です。
[装備]:ミアの上着
[道具]:なし (モヒカンとの戦いで喪失)

※オーガの名前を『ルシフェル』だと認識しています。



【オーガ@リョナラークエスト】
[状態]:左手首から先が消失
    全身に自身でつけた軽い裂傷(ミアの回復魔法で止血)
左わき腹に中度の打撲傷
全身にルーファスの返り血
戦闘による疲労
食料の問題が解決したので気分は良好
[装備]:カッパの皿@ボーパルラビット
涼子のナイフ@BlankBlood
[道具]:デイパック、支給品一式(食料5食分)
エリクシル@デモノフォビア
    赤い薬×3@デモノフォビア
    人肉(2食分)@リョナラークエスト
新鮮な人肉(当分は無くならない程度の量)
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.疲労の回復
2.ミア、まゆこと一緒に行動(左手が無いので単独行動は危険と判断)
3.もっと人材が欲しい
4.知り合いとは合流したくない
5.厳しい戦いになりそうな相手(なぞちゃんとか)には会いたくない

※怪我により戦闘力が強めの一般人レベル(強さ6〜7ぐらい?)まで落ちています。
※モヒカンと反対方向(南)へ移動するつもりです。
※一応チェックは済ませてあるので、所有している人肉が、他人によってそれが『人の肉』だとバレるようなことはまずありません。

【モヒカン@リョナラークエスト】
[状態]:顔面に落書き、頭部に木の枝が刺さった跡、カッパの皿が刺さった傷
脚に刺し傷
※ダメージはいずれもバカ補正で苦痛になっていませんが、一応出血はしています。
[装備]:プラムの死体
[道具]:なし(忘れた)
[基本]:女見つけて痛めつけて犯る
[思考・状況]
1.女を見つけたらヒャッハー
2.とりあえずルーファスの死体を適当に隠す

※ミアと再会したことに気づいていません
※オーガ達との戦闘中の記憶が殆どありません
※北へ向かいました
※オーガと再び出会っても名前を呼ばない約束をしました


【ルーファス@SILENT DESIREシリーズ】
[状態]:死亡(失血性ショック死)
[装備]:モヒカンによって死体と一緒に隠されました。
[道具]:なし
※死体の一部はオーガの食料になり、残りはモヒカンによってどこかに隠されました。
※隠したのがモヒカンなので後に死体が誰かに発見される可能性はあります。


補足:
※マジックステッキはリョナラー連合東支部付近のどこか見つかり辛い所に落ちました。まゆこのバックパックに同梱されています。
※リョナラー連合東支部付近に未回収のデイパックおよび道具などが散らばっています
 具体的にはルーファス、まゆこのデイパックとその中身、「涼子のナイフ」「エリクシル」を除いたモヒカンのデイパック、宝冠「フォクテイ」、人体模型、です。
[18]投稿者:@間取り 投稿日:2009/06/06(Sat) 08:36 No.297  
「あとがき」

ふぅ・・・
なんだこれ・・・・・・・なんだこれ

モヒカンを使ったせいなのか、シリアスなんだかギャグなんだかよく分からんモノになつてしもうた

そして見返してみると無駄に長い・・・
[19]投稿者:「牢獄の中で」 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/06/06(Sat) 23:11 No.299  
オルナは目を疑った。
目の前に現れた光景に・・・



彼女が目を覚ました場所は、広い部屋の中。
周囲は石の壁に囲まれており、床にはいくつかの魔方陣が描かれている。
出口は二箇所。扉が一つと、隣の部屋に続くであろう通路。

(どこだろう・・・ここ・・・)

何気なく辺りを見渡す。すると、一つの鞄が目に留まった。

(デイパック・・・あいつの言っていた通りね。)

「君たちを招待した目的はただ一つ!それは、ここにいる君たち全員でこれから殺し合いをしてもらうことだ!」
ロアニーの悪巧みを追っていると、突然、意識が遠のいた。
気が付いた時には薄暗い部屋に入れられ、その言葉を聞かされた。
オルナはその状況から、彼もロアニーの一員だと推測していた。
ただし、ゴートやリネルとは格が違う、組織でも最上位に位置する人物であると。

(とりあえず・・・開けてみましょうか。)

彼の「殺し合いをしてもらう」という言葉が本当なら、デイパック自体に罠がある可能性は低い。
やはりその鞄は何の問題も無く開き、中身も彼の言った通りの物が入っていた。
オルナはまず、その中の参加者一覧を手に取った。

(ナビィ、エマ、それにカナリア・・・やっぱり巻き込まれてるのね。)

最初に目についたのは仲間の名前。
気を失ったとき一緒にいたのだから、この場にいても不思議ではない。
次に彼女は、その後に続く名前に目をやった。

(ゴートに・・・リネルか・・・)

この二人とは戦った事がある。二人ともロアニーの一員だ。
おそらくは他の参加者を痛めつけるために、ゲームに参加しているのだろう。
以前は人数で優位に立てたから勝てたものの、1対1では厳しい。
そして最後にもう一人、彼女の知っている名前が現れた。

(ダージュ・・・!!)

彼とは・・・浅からぬ因縁がある。



参加者の確認を済ませた彼女は、他の荷物を確認した。

(食料と、水、ランプ、地図・・・あいつの言ってた物は、これで全部ね。あとは・・・)

デイパックの中には、あと2つの物が残っていた。
オルナはそのうちの1つ、杖のようなものを手に取る。

(これは・・・魔法の触媒のようね。)

見た目は単純で呪印の類も見られないが、材料自体に力があるらしい。
戦闘のほぼ全てを魔法に頼る彼女にとっては、これ以上ない支給品である。

(こっちは・・・何だろ。)

もう一つの支給品は、見たことも無い形をした鉄の塊だった。
側面に彫られた星のマークが目を引く。
その正体は分からなかったが、何となく嫌な感じがして、それを再びデイパックに戻した。



(さて、と・・・)

地図を見る限り、こんな広い部屋のありそうな建物は三箇所。
A4エリアの国立魔法研究所、A5エリアのリョナラー連合東支部、そしてD4エリアの螺旋の塔だ。

(この中だと、魔法研究所の可能性が高いかな。)

床一面の魔方陣と関係がありそうな所は、そこしかない。

(何にせよ、まずはこの部屋を調べてみましょう。)

オルナは最初に、すぐ近くにあった扉を調べることにした。
鉄でできた枠に木がはまっている、頑丈そうな扉だ。
その隣には石版がある。そこには、こう書かれていた。

『この先「昏い街」』

オルナは違和感を感じ、地図を見直す。

(D3エリアに、そんな名前の場所があるけど・・・)

確かに地図には街の絵が描かれており、「昏い街」という地名も入っている。
だが、そこに直接つながるような建物は無い。

(だとすると、転移の魔方陣があるのかな。)

彼女にとって、転移装置は珍しいものではない。
というより自宅にさえあって頻繁に利用する、ごく身近なものだ。
だが、転移先がハッキリしない場合、安易に使うべきではない。このような状況なら尚更だ。
彼女はひとまずこの場を離れ、他の場所を調べることにした。



(この図形は炎、こっちは氷、雷・・・風と光もあるわね。)

オルナは床に描かれている魔方陣を調べていく。
素人目には差異が分からないが、彼女はそれぞれの図形の意味を、正確に見抜いていった。

(でも・・・既に魔力が失われて久しい。)

描かれてからかなりの年数が経っているらしく、もう力を発揮することは無いだろう。
少なくとも、これからの役に立ちそうにはない。



最後に彼女は、隣の部屋を調べに行くことにした。
通路にはまた石版があった。

『この先「進化の祭壇」』

地図にはそのような名前の場所は無い。おそらくはこの建物内の施設なのだろう。
程なくして、小さめの部屋にたどり着いた。
「祭壇」の名が示す通りの赤い絨毯に彩られた階段が目に入る。

(・・・行ってみましょう。)

オルナは意を決して階段を上り、その最上段にたどり着いた。
そしてそこで、この場所がどこであるか、知る事になる・・・

(ここは・・・!!!)

視界が一気に開ける。彼女は今、塔の最上階に立っていた。



どうやら彼女達が連れてこられた場所は、地図の通りどこかの孤島のようだ。
その地図によると、ここからそのほぼ半分を見渡せていることになる。
海岸線の先は、霧がかかっていて見えない。
ロアニーの連中が他者の干渉を防ぐために島の周囲を霧で囲んでいるのだろうか。
いずれにせよ、彼らを何とかしない限り、この島からの脱出は不可能だろう。

(これはまた・・・用意周到ね・・・)

彼女は溜息をついて、その場を後にした。



(さて・・・残るはここだけね。)

彼女は再び、最初に調べた扉の前に戻ってきた。
ここ以外に脱出口は見当たらなかった。ならば、危険を承知で「昏い街」に行くしかない。
ドアのノブを捻り、引っ張る。幸いにも、鍵はかかっていなかった。
しかし・・・



オルナは目を疑った。
目の前に現れた光景に・・・



(壁・・・・・・)

そこには、周りと何一つ変わらない、石の壁が聳え立っていた。



これぐらい、十分に予想できた事だ。
この先にたとえ転移陣があったとしても、作られた時期は床の魔方陣と変わらないだろう。
床の魔方陣が発動しない以上、同様に力を失っている可能性が高い。
案の定、転移することは出来なくなっている。その結果がこれだ。

オルナは、この程度の予測が出来なかった自分の愚かさと、期待を裏切られたショックで、言葉を失った。



(さて・・・と・・・)

ここから出るルートがあるとすれば、それはここしかない。
オルナは、進化の祭壇の最上段から、遥か遠くの地面を見下ろしていた。

(地面につくまで、4秒・・・)

ここから落ちれば間違いなく死ぬ。多少地面が柔らかくても、その結果は変わらない。
だが彼女は逆に、その高さを味方につけようとしていた。

(・・・大丈夫、間に合う。)

彼女が考えた方法はこうだ。
まず、祭壇から飛び出した直後に、魔法の詠唱を始める。
そして出来るだけ早いタイミングで、真下に向かって『ウェーブ』を放つ。
ただでさえ強力な魔法で、しかも杖によりさらに威力が上がる。
その反動で身体に上向きの力が加わり、落下速度を落とせるはずだ。
もちろん無傷というわけにはいかなくても、ヒールで回復すれば済む程度にはなるだろう。

(・・・よし!)

右手に杖を握りしめ、背中にデイパックを背負う。
彼女は床を蹴って、空中に飛び出した。



しかしその直後、彼女の計画はもろくも崩れ去る。

ズドン!

背中から脇腹にかけて、鋭い痛みが走る。

(ぐ・・・な、何が・・・)

彼女には分からなかったが、無造作にデイパックの中に入れた黒い塊が、火を噴いたのだ。
その正体は拳銃。しかも安全装置が無く、暴発の危険性が極めて高い物だ。
慎重に扱ってさえ事故が起こるのに、銃の存在すら知らない彼女が持てば、こうなるのは当然の事だ。

しかし、それにしてもタイミングが悪すぎた。

(しまった・・・間に合わない!!)

最早、魔法を使うだけの猶予は残されていない。
彼女の身体はどんどん加速し、地面に近付いていく。


「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

グシャッ




【オルナ@リョナマナ 死亡】




【D-4:X3Y4/螺旋の塔/1日目:朝】

【オルナ@リョナマナ】
[状態]:死亡(転落事故死)
[道具]:デイパック、支給品一式
    霊樹の杖@リョナラークエスト
    トカレフTT-33@現実世界(弾数 7+1発)

※死体と支給品は、螺旋の塔の側に落ちてます。
※たぶんエリーシア達の裏側です。

※参考資料
トカレフTT-33
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%95TT-33
ttp://www.securico.co.jp/report/tokarev.html
(要するに、安全装置が無く貫通力の高い銃と思ってもらえれば)
[20]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/06/06(Sat) 23:16 No.300  
【あとがき風の何か】

超クオリティの直後の投稿は気が引ける部分もありますが・・・

映画でもありましたよね。開始直後に転落死する人。
あっちは二人組で自殺でしたけど。
[21]投稿者:『狂気を纏うエルフ Ep1-2』19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/06/07(Sun) 16:28 No.304  
〔Ep1 狂気を纏うエルフ(ダージュ視点)〕

ホール全体を包む光を浴び、目を眩ませたダージュは
気が付くと全く見知らぬ外にいた。

どうやら船舶のデッキにいるみたいだが、
木ではなく、壁面は鉄の塊で構築されていて
なんとも作りが凝っている。

「何かの転移魔術か……?
くく……それにしても、
なかなかえげつねぇ趣味してやがる、あの男は」

この場所に飛ばされる前、このゲームの主催者と名乗る男が
趣旨の説明のために人一人を簡単に爆殺してしまったことに
少しの皮肉を呟き、共感の感情を覚える。

ゴートのじいさんがあの男、キング・リョーナの誘いで、
少女達を好きに嬲れるイベントに参加するなんて
言い出したもんだから同じロアニーとしては
参加しない訳には行かなかったんだよな。

「殺し合いのゲームか……陳腐だがなかなかどうして、
楽しめそうだと考えてる俺もいるわけで……」

じいさんに付き合って参加することに何の躊躇も無かった。
あの名前を聞き……あの姿を見て……このデイパックとやらに入っていた
参加者名簿の名前を確認したら……断ることの方が愚かに思える。

「くくく……ヤツだ……オルナも参加してやがる」

およそ50年前、エルフの聖域『ユグドゥラシル』に
住んでいた俺は、同じく聖域に住んでいたエルフ『オルナ』と
意見や思想の食い違いを反発し合い、
そして俺の思想が邪悪と判断した族長どもに牢に幽閉されそうに
なってしまうところを、オルナが逃亡の道を作って難を逃れることができた。

「フツーの奴なら助けられたとか思うだろうが、俺は思わねぇ。
あの女は体よく俺を聖域から追っ払ったんだからな……」

族長どもは長い時間を掛けて俺を更正するつもりだったろうが
オルナのヤツはハナっから更正なんて頭に無くて、
俺の思想が他のエルフに蔓延していくのを恐れてそうしたんだからな。

「くくく……けどなぁ……これは逆に感謝しなきゃいけねぇかもしれねぇ」

俺はロアニーという組織を見つけ、そこでじいさんの魔法実験の材料になって
エルフはもちろん、普通の動植物やモンスター、
人や人外にはない特別な力を手に入れることができた。

そして、このゲームにオルナは参加している。
じいさんが少し前に会って殺りあったらしいから
当然ロアニーの動向を察知してこの催しに近づいたんだろう。

どうせヤツは偽善で救済とかほざくだろうが、
これは願っても無い最高のチャンスだ。

「殺すだけじゃ足りねぇ……ヤツ自身も、
ヤツの仲間も……ヤツの願いも全て俺が奪ってやる……!」

復讐だけが目的じゃなく、俺がオルナから全てを奪うことで
ヤツ自身を擬似的に俺のものに出来る。

それは……ヤツに良いように扱われた俺にとって
最高の悦びと化す。

「先ずは……駒を増やすとするか……」

俺は先程から感じる気配の方向をデッキから見下ろす。

そこには辺りを警戒するように
海に浮かぶ桟橋を歩き始める人間の少女の姿があった。

「ホントにいい趣味してやがるぜ。あの男は……」

その少女はあどけなさを残し、着ている物には
薄めのブラウスにスカートと、
随分戦場に似つかわしくない服装と風貌をしている。

あのホールに集まった連中は、卓越した戦闘技術を
持ってるヤツも結構集まっていたが、
どうもあのガキはそういう類の人種じゃないことが分かり、
キング・リョーナの意向で引っ張り出されてきたとしか
考えられないほどだ。

ダージュは先ず、この少女を駒にすることにした。
とは言っても、話し合って仲間にするわけじゃない。
元より俺はじいさんに呼ばれない限りは単独だし、
逆に相手も俺に寄ってくるようなことはないだろう。

あくまで駒は駒、それ相応のやり方で扱えばそれなりの
効果は期待できるだろう……

ざぶ……

俺は指一本に魔力を付与させた爪を作り出し、
桟橋の裏を水に浸かりながら進み、
気付かれないように尾行を始めた………


〔Ep2 暇【いとま】のないゲーム(ダージュ視点)〕

日が天に近づいたくらいの時間が経ち、ようやく橋の先端に辿り着いた。
橋を渡り終えた美奈は、暫くの間誰にも見つからないようにと
岩場の影で身を縮こませて震えていた。

(なんだ……? 何をあんなに怯えてやがる……)

ダージュは桟橋と陸の間に身を隠し、
周囲に何か変化があったのかと見回し始めた。

すると、少し遠くにぶっ倒れた男が一人、
すぐ近くに服を引き裂かれて傷もたくさん作って肩に風穴を開けた
ボロキレのような少女が一人、
そしてその少女の近くで馬鹿笑いを上げている
パンツ一丁のトサカ頭の変態男が視線に入る。

(なるほど……他の参加者達がこの場所でゲームを始めて、
そこに居合わせたこのガキは参加も助けようともせず、
ただ震えてるだけってか……)

ダージュはその姿が滑稽に見えた。

このガキは自分が傷つきたくないの一心で、
襲われた連中を無下にも見捨てた。
恐らくは非力を理由に足を動かさなかったんだろう。

(どう取り繕うと、見捨てたという事実は消えねぇな……
こいつ、純粋な殺人者よりずっとずっと汚くて卑しく見えるぜ)

ダージュは薄ら笑いを浮かべながら、
変態男が去った後で、地面に転がった男と少女の死体を
いじくってデイパックから何かを抜取る美奈を見据えた。

そして死体の身ぐるみを剥ぎ終えたガキは
同じ岩場に戻ってきて、再び震えながら身を隠しだした。

(なるほど……この岩場はあの変態男が歩いていった方向からは
見えない上に東側からはすぐ後ろに海があって敵はいない。
そして、南側は橋が一本あるだけだから隠れるには
もってこいの場所らしいな)

ただ一つの誤算があるとすれば、敵は橋の上を渡ってくるとは
限らないということだけだ。俺みたいにな……

美奈は膝を組んで俯きながら震えてる。
気配を殺しながら近づけば全く気付かないほど
体力的にも精神的にもまいってしまっていて
隙だらけになっていた。

ダージュは無音を保ちながら水面を這い出て、
ゆっくりと、けど確かににじり寄る様に
気付かない美奈に近づき、そして………

「顔を上げろ」

「えっ?」

どすぅっ! べきゃぁっ!!

「ぎっ!? あぎゃあぁぁぁぁっ!?」

ダージュは美奈に顔を上げるよう命令し、
美奈がそれに反応して顔を上げたタイミングを見計らって
美奈の細っこい右肩を踏み潰した。

肩から奇妙な音が聞こえると、それを追うように
断末魔のような獣染みた叫び声が木霊する。

「っといけねぇ。勢い余って骨を砕いちまったか……悪いな、譲ちゃん」

ダージュは心にもない謝罪の言葉を、苦痛でその場を転げまわる美奈に
笑いながら伝えた。
[22]投稿者:『狂気を纏うエルフ Ep3』19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/06/07(Sun) 16:30 No.305  
〔Ep3 自己防衛の虚言(加賀美奈視点)〕

「ひぐっ……! うあぁっ……!! か、肩がぁ……!」

突如、美奈の肩を襲った灼熱のような激痛。

激痛以外に何も考えられず、
気を逸らして痛みを和らげようとしているのか
勝手に辺りを体がのた打ち回る。

(て、敵……!? な、なんで!? そんな姿何処にも……!)

細心の注意を払った上で私はこの岩場に隠れたはずなのに、
その直後にこんな仕打ちを受けている。
私はその事実が信じられずに、痛みに蹲りながらも
答えを探そうとした。

「ちっ……うぜぇ……芋虫みたいに蠢きやがって……」

どすぅっ!! 

「ひぎいぃぃっ!?」

男が腹立たしげに、うつ伏せの私の背中を踏んできた。

その衝撃で私は肺の中の空気が全て吐き出してしまい、
吸い込むことも出来ずに痛みだけが体を駆け抜けていく。

「やっと静かになったか……さて、ガキ……
お前に聞きたいことがある」

男はゆっくりと足を引き、
私の視線の先まで移動してきた。

「はぁっ……はぁっ……!! う……そ、その耳……?」

美奈は顔を上げて男の顔を見ると、
人間の姿はしているが、異様なまでに伸びた耳を見ると
驚きを含む声を漏らしてしまう。

「なんだ? この耳に見覚えでもあるのか? なら話は早い」

がしっ

「あうぅっ!」

男は私から安全ヘルメットを取っ払い、髪の毛を掴み上げ、
自分の顔まで近づけてきた。

顔、体共に線が細く、女性の様に華奢な体つきをしているが
瞳に光は無く、どす黒い視線で私を見つめてくる。

「お前、『オルナ』っていう俺と同じような耳をした
エルフのことを知ってるか?」

「うぅ……オル……ナ………?」

「緑髪のロングの女だ。
袴っていう妙な服装してるやつなんだが……
何処にいるか知ってるんなら教えた方が身のためだぜ」

聞き覚えの無い名前が男から放たれる。

いや、正確に言うなら参加者名簿を見たときに
そんな名前があったような気がする。

だけど、私はその人を見たことが無いし、
そもそもこの男が言ったエルフの言葉に耳を疑いたくなる。

そんなもの、外国のファンタジー小説や
ゲームの中だけの架空の存在という認識しかなかったから、
言うなれば、この男に担がれているのではないか、
それともこの男自身がゲームによって発狂して
おかしなことを言っているのではないかと美奈は思った。

(でも、あの男……キング・リョーナと名乗った男の
あんな不可思議な力があるから、もしかしたら……)

エルフの存在も否定は仕切れない。
だから、この男が求めてる答えを、私自身が慎重に選ばなくてはならない。

(そうしないと……躊躇無く私の肩をへし折ったコイツのことだから
当然殺し合いのゲームに乗っている人物、
下手な返答は死に繋がりかねない……)

運動神経には自身のあった美奈だが、折られた肩に加え、
背中を強く踏みつけられたことで体がうまく動かせず、
逃げ切れそうもないと考えた。

そこで、彼女が口にした言葉は………

「あ、アンタなんかに……仲間のことを売れないわ!!」
[23]投稿者:『狂気を纏うエルフ Ep4』19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/06/07(Sun) 16:32 No.306  
〔Ep4 遅延呪文の刻印(加賀美奈視点)〕

「へぇ……仲間のことは売れないってことはガキ、
お前はオルナの知り合い且つ仲間ということなんだな?」

「そ、そうよ! 例え私が死ぬことになっても
あの人のことをアンタなんかに教える訳にはいかない!」

私はこの男の興味を引くために、知りもしない人物のことを
仲間だと嘘を言った。

(私がその人の仲間だと知れば、コイツは私に利用価値があると思って
まだ殺しはしない……)

美奈は自分が今この状況を打開するため、
恥も投げ出して、利用できるものを利用しだした。

すると男は私の髪から手を離し、
仰向けに寝転がらせて男自身のデイパックを漁り始めた。

「そうか……だったら悪いことしちまったな……
……侘びと言っちゃ難だが、こいつを受け取ってくれ」

何かの治療薬でも取り出したのか、男は私に向かって
握りこぶしをゆっくりと近づけてきた。

(……やっぱり、この男とそのオルナって人は知り合いなのかな……?
だとしても、まだ油断はできないな……)

もしかしたらこの男は、私に案内をしろと
言ってくるかもしれない。

そんなの危険すぎるし、いざオルナって人と鉢合わせたときに
知り合いじゃないということは絶対にバレるから
この男がその時何をしてくるか分からない。

今はこの男から治療を受けて、
隙を見て逃げ出せるようにしておこうと
美奈は打算に打算を加えて生き抜こうとした。

しかし……

「プレゼント・フォーユー!」

どすぅっ!!

「がはぁっ!?」

男の握りこぶしは突然勢いを増し、
仰向けになった私の腹部を深々と抉ってきた。

「がひっ! えあぁっ! ごほっげほげほっ!!」

ぴちゃっ! ぱたたっ……

激しい腹部の痛み、むせ返って口から飛び散る赤い液体。
口の中が鉄臭さで満たされていき、
地面には赤紫の絵の具をこぼした様な水滴が痕を作る。

「あぁくせーくせー……なんつー三文芝居だっつー……」

男はイッているような目で
薄ら笑いを浮かべながら私を見下ろしている。

(な、なんで……!? コイツは……私を治療しようと……)

言っていることとやっていることが180度違うことに
私は痛みと疑念だけが頭を渦巻かせていた。

「バカかテメーは? あっちの街道に転がってる男女二人を
見捨てて隠れ、挙句の果てにはそいつらの荷物までぶん取るような
糞餓鬼に仲間なんている訳ねーだろが」

み……見られてた……?

「それによ……オルナが人間の仲間なんて作る訳ねーぜ?
アイツは人間とは隔離された『ユグドゥラシル』に引き篭もった
エルフ族の女なんだからな」

「ぐぅっ……じゃ、じゃあ……なんであんな芝居を……?」

初めから私が嘘を付いてると見抜いてたなら、
コイツのことならすぐに私を殺したんじゃないか……?

私は少し歪んできた視界に必死に抗いながら
その男を睨み付けて問いかけた。

「理由か? ……強いて言やぁ……
殺すこと=全てを奪うことっつー思想からだな」

「全てを……奪う………?」

「殺すことでそいつの命は奪える。が、
仲間がいる、愛しい人がいる、生きたいと願っている……
そう言った希望を持たれたままだとそいつの心までは奪えない。
それは全てを奪うことにならない……」

「俺は全てを失い、絶望のままに死にたいと願うようになった
女を殺してやるのが最高の愉しみなんでな……
先ずはお前に、仲間なんて作れるわけがない『孤独』を与えてやったのさ」

「……………っ!!」

私は突然、言いようのない恐怖を感じた。

それはこの男が恐ろしいからだけじゃない。
自分のしたこと……他者を生への糧としてしか見ていない自分自身を
突きつけられたこと。
そしてそんな自分を見て、他者は寄ってこないという事実、
『孤独』を突きつけられたことに一筋の雫が瞳から流れ出る。

「さて、それじゃ最後のシメとして人の寄り付かない体にしてやるぜ!」

びりぃっ! べりべりっ!

「い、いやあぁぁぁぁっ!? や、やめてぇ!!脱がさないでぇぇぇぇ!!」

男は私のブラウスとシャツ下着を全て強引に破り捨て、
上半身を外気に曝け出してきた。

(お、犯される……!?)

服を脱がされた……私はその先のことを想像してしまい、
私は悲鳴を上げながらこの男の行為を拒もうとした。

「はっ! んな貧相な体、どーこーしようなんて考えてねーよ。
ただ、おぼこいガキにタトゥーを入れてやろうとしてるだけだっつーの」

にたにたと笑う男の人差し指が赤い光を帯び、
三角形の爪のような形になって私の肌に這わせてきた。

ぞり……ぞりぞりぞりぞり……

「うあぁっ!? ひうっ! はひぃっ!!」

「くくく……ガキの癖にいい反応すんじゃねぇか……」

音を立てて削られているのに痛みはなく、
まるで電気が緩やかに肌に浸透していくような奇妙な感覚が
爪でなぞられた部分からじわじわと湧き出してくる。

私の膨らみの少ない双丘や丹田は
男が赤い刺青をなぞっていく度にびくびくっと痙攣し、
まるで一種の快感に呼応しているかのようだ。

「は……うぅっ……! こ、これは……?」

男が私の肌から指を離すと、
なぞられた部分にはを時折赤く光る魔方陣のようなものが
描かれていた。

「そいつはな……遅延呪文『ディレイ・スペル』を
その中に留めて置くための陣形だ」

男は指の赤い光を消しながらこちらに説明してきた。

「完全に赤い光が灯りきれば
ディレイ・スペルは開放されて魔法が発動する。
くくく……言ってしまえばそいつは魔法の時限起爆装置だ」

「き、起爆装置ですって……!?」

魔法……それはファンタジーにもある不可思議な現象のこと、
あのキング・リョーナが扱っていたような力なんだろう。

そして、その起爆装置が私の体に埋め込まれた。
それは夜になれば装置が作動して、
爆殺された女の子と同じ結末を歩んでしまう可能性がある。

「じょ、冗談じゃない!」

私はまだ動かすことの出来る左手で
体を引っ掻き回し、その刺青を消そうとした。

「この……この……! 消えて……消えてよ………!」

しかし、刺青は全く消えない。
焦りと恐怖から引っ掻く力が強くなって、
私は私自身で肌のあちこちに蚯蚓腫れを作ってしまった。
[24]投稿者:『狂気を纏うエルフ Ep5』19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/06/07(Sun) 16:33 No.307  
〔Ep5 こ ど く(客観視点)〕

「なんで……? なんで消えないのよ……!?」

美奈は肩の痛みも忘れ、刺青を消すことだけに
全ての意識を集中させた。

「無駄だっつーの。そいつを解除したけりゃ
魔術に詳しいヤツ見つけて解いてもらうしかねーって」

ゲラゲラと笑いながらダージュは美奈の行動を否定した。

「ま、割とじいさんやリネル、オルナと魔術師の参加も多いみたいだし、
いつかは巡り会えるとは思うが……
一体誰が歩く罠の様なお前を助けようなんて思うかなぁ? くくく……」

「ひ、酷い……! なんで……私ばっかりこんな目に……」

ダージュは、茫然自失して涙に打ち震えている美奈を一瞥し
笑いながら何処かへ遠ざかって行った。

(もう……嫌ぁ………助けてよ……パパ……伊織………)

利き腕はへし折られ、腹部と背部には強い打ち身、
そして上半身にはいつ起爆するとも知れない魔方陣。
そんな自分の体を嘆き、親しい物、
愛しい者の名を呟き哀願する美奈。

しかし、彼女はまだ知らない。
伊織はすでに、還らぬ人となってしまっていることを……

(くくく……これであのガキは魔術師を探して動き回る……
それは詰まり、オルナの元へ向かう可能性が高くなる……)

あの魔方陣には細工が施されていて、
解呪されればその場所がダージュに鮮明に伝わるようになっている。

彼が彼女を殺さずに瀕死の状態で泳がせたのは
全てはオルナを見つけ出すためだけだった。

しかし、ダージュも知らない……
オルナもすでに死人と化していることを……

そして、もうすぐ流れることになる一回目の放送。

これを聞いたとき、この二人はどう思い、
どんな行動に出るようになるかは誰も知りえない……

恐らく、美奈とダージュ自身でさえ…………



【B-5:X2Y4/岩陰/1日目:昼(11時)】
【加賀 美奈@こどく】
[状態]:疲労大、精神疲労大、右肩複雑骨折、腹部と背部に打ち身、重症
[装備]:先の尖っている石@バトロワ世界(ポケットの中にしまっています)
(安全ヘルメットダージュに捨てられました)
[道具]:デイパック、支給品一式
木彫りのクマ@現実世界(一般的なサイズのもの)
AM500@怪盗少女(残弾1発、安全装置未解除)
※美奈は残弾数について確認していません。
奈々の拳銃(?/8)@BlankBlood
エリクシル@SilentDesire
[基本]絶対死にたくない、元の世界へ帰る
[思考・状況]
1.怪我をどうにかして治したい
2.ディレイ・スペルの刺青を解呪出来る人を探す
3.こどくを味わって茫然自失中

※大怪我は持っているエリクシルで直せますが、
用途に気付けていない上にディレイ・スペルはエリクシルでは解呪できません。
※伊織も探そうとしますが、約1時間後にその生死が知らされることになるので
その時に彼女の精神に多大なダメージが加算されて廃人になる可能性もあります。


【B-5:X2Y4/岩陰(西寄り)/1日目:昼(11時)】
【ダージュ@リョナマナ】
[状態]:普通、魔力消費超微量
[装備]:なし(支給品を確認していません)
[道具]:不明(ランダム支給品を確認していません)
支給品一式
[基本]リョナラー、オルナを探す
[思考・状況]
1.オルナを探す
2.オルナの仲間を探す
3.オルナが死んでいると分かったら彼女に関係する人物を殺す。
4.現在は魔法も簡単なものしか使えないので強いヤツを避けながら夜を待つ。

※オルナはすでに死んでいるので、彼女の死を知った後、
彼は目的を失ってしまうが、それでも彼女との関わりを持つ者を駆逐し、
目的を果たそうとします。
[25]投稿者:「怒る女、怒る爺」 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/06/10(Wed) 22:07 No.315   HomePage
「・・・まったく、あ奴め、面倒な所に出してくれたもんじゃ・・・っ!!」

ゴートは手に持った光を発する棒を前に向けながら悪態をついた。
キング・リョーナとの約束では、あの男と一緒にこのゲームを観戦しながら、集められた女どもを使い実験を続けるはずであった。
しかし、ゴートは今、暗く湿った洞窟の中を彷徨っていた。
参加者名簿を見ると、自分以外にも観戦をするという予定だった者の名前があった。
恐らくは奴らも同じ気持ちで彷徨っているだろう。

「このワシやロアニーを謀るとは・・・覚えておれっ!! キング・リョーナッ!!」

ゴートはあの男の謀りに気付けなかった自分が腹立たしくなり、思いきり壁を叩いた。
その時である。

「――ぬおっ!? なんじゃぁっ!?」

突然、凄い音が洞窟内に響き渡り、壁が揺れ動いた。
ゴートは倒壊の危険を感じ、思わず身を伏せる。
揺れが収まり、倒壊の危険がないことを確認したゴートは、ゆっくりと立ち上がり音の響いてきた方向へと進んだ。

「・・・コレは・・・なんじゃ?」

洞窟を暫く進んだゴートの目の前に飛び込んできた物、それは壁に少し減り込むように鎮座している巨大な物体であった。
定期的に低く小さな唸り声をあげる所から、見たことのない生物であると考えたゴートは身構える。

「詳しくは分からぬが、恐らくは人工生物じゃろう・・・。あ奴め・・・こんな物まで放ってくるとは・・・」
「・・・うーん・・・後、3分だけ・・・。」
「――っ!?」

〜〜〜〜

「・・・まったく、いつものことながら、よく寝るわね。門番。」

気持ちよく眠っていた私に、何処からかやってきた八蜘蛛が溜め息混じりに話しかけてくる。

「うーん・・・後、3分だけ・・・。そしたら・・・起きるよぉ・・・。」

私はゆっくり寝返りを打ち、八蜘蛛の気配に背を向けた。
その時、突然空気が抜けるような音がして、眩しい光が私の目に突き刺さった。

「眩しいっ。やめてよぉっ。後3分したら絶対起きるからぁー・・・っ。」

〜〜〜〜

(喋った・・・じゃと!?)

言葉の意味はよく分からないが、喋ることができる人工生物はそう多くない。
ゴートはキングの技術力の高さに戦慄し、同時に狂科学魔法使いとしての知的好奇心に駆られた。
ゴートは新種人工生物に小さな石を当てて、反応がないことを確かめると、ゆっくり近づき触れてみた。

(この硬さ・・・鉄の身体か。あ奴め・・・小僧のクセに、相当な技術力を持っているようじゃな・・・。)

ゴートが鉄の身体に感心しつつ、手探りを続けていた時である。

「――おわぁっ!?」

突然、空気が抜けるような音と供に、件の新種人工生物の胴体がばっくりと開いてしまった。
ゴートは反射的に飛び退き構える。
しかし、全く反応がないことを不審に思い、ばっくりと開いた内部に光を当ててみた。

「・・・お、女・・・!?」

内部には、淡い光を放つ文字や図形に囲まれ、一人の若い女が眠っていた。
ゴートはその寝息から、先の呻き声の正体が彼女であることを悟った。
彼女はゴートの当てる光に反応して身を捩る。

(あ奴の作ったホムンクルス・・・と言った所じゃろうな。差し詰め、この鉄の塊は、彼女専用の武器じゃろう・・・。)

そう考えた途端、ゴートの中にキングへの復讐心が沸いてくる。

(恐らく、ワシを屠るために放った刺客だったのじゃろう。しかし・・・どうしてか眠ってしまったと・・・!!)

ゴートの口元に自然と笑みが浮かび始める。

「ふっ・・・ふぇふぇふぇっ! ・・・ホムンクルスの女っ! 無能な主人を怨むのじゃなぁっ!!」

ゴートは光を避けるように身を捩った彼女の腕を掴み引いた。

「眩しいっ。やめてよぉっ。後3分したら絶対起きるからぁー・・・っ。」
「やかましいっ! さっさと降りるんじゃっ!」
「わぁっ!」

ゴートに無理矢理引き摺り降ろされ、彼女は頭から地面に倒れこんだ。
彼女は頭を左右に振りながらゆっくり上半身を起す。

「いたぁーい・・・。うぇーん・・・。」
「安心せいっ! すぐに痛くなくしてやるっ! ふぇふぇふぇふぇっ!!」
「眩しいっ!」

ゴートは寝惚け眼の彼女に光を当て、デイパックから矢を1本取り出す。

「眩しいよぉっ・・・! やめてよぉっ・・・!」
「ふぇふぇふぇっ、すぐに暗くしてやろうっ!」
「・・・・・・眩しいって・・・!」
「・・・・・・ふぇっ?」

ゴートは我が目を疑った。
今まで寝惚け眼で泣き言を言っていた彼女から、圧死させられそうなぐらいに激しい殺意の波動を感じたからだ。
ゴートがたじろいだ隙を彼女は見逃さなかった。
素早く立ち上がると、そのまま懐へと飛び込む。

「――しまっ!!」
「言ってるじゃないかぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐぎゃぁっ!!」

彼女の勢いに乗った右拳がゴートの腹に突き刺さり、ゴートの身体を宙へと撥ね飛ばした。
それから彼女は高く飛び上がり、ゴートが宙で仰け反った所に合わせ、前方宙返りからの踵【かかと】落としを食らわす。
ゴートは激しく地面に叩きつけられ再び宙に撥ねた。
着地した彼女はすぐに地を蹴ってゴートの脇に回りこむと、ゴートの胸元に両手を合わせてありったけの力で振り下ろす。
再び地面に激突したゴートは、何度も咽ってどす黒い血を吐き出した。

「ごほっ! ごほっ! ・・・ぐえっ!」
「後、3分したら絶対起きるって! 言ってるじゃないかぁっ!!」

彼女はゴートの上に馬乗りになり、何度も拳を打ちつけた。

「うげっ! ・・・ぎゃぁっ! ・・・はごぁっ!!」
「なのにっ! どうしてっ! きみはっ! 私の邪魔をするんだっ!」

ゴートが動かなくなるまで殴り続けた彼女は、荒々しく息をしながらゴートから降りた。

「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・・・・ふわぁー・・・。」

彼女は大きく欠伸をして、周りを見回す。
真っ暗でよく見えない空間に、一箇所だけ椅子のような場所を発見した彼女は、ゆっくりと向かう。

「よっこいしょ・・・。」

椅子のような場所によじ登った彼女は、もう一度大きな欠伸をして、軽く身を捩った。

「この椅子・・・ちょっと硬い・・・でも・・・後で・・・いいや・・・zzZ」

彼女は再び、至福の世界へと旅立った・・・。

【B−1:X4Y3/洞窟内部/1日目:午前】

【ゴート@リョナマナ】
[状態]:気絶中、残魔力微量、全身打撲
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(懐中電灯除く)
猫じゃらしx3@現実世界
大福x10@現実世界
弓矢(24本)@ボーパルラビット
[基本]:マーダー、キング・リョーナに復讐する
[思考・状況]
1.仲間のロアニーと合流する
2.キングへの報復方法を考える
3.ナビィ達を見つけたらキングの件とは別に報復する

※後1時間ぐらいは気絶しています
※取り出した矢、懐中電灯は手元にスイッチが入ったまま転がってます
※生存本能から、無意識の内にヒールIIを何度も唱えて門番の猛攻に耐えました
 高齢であることを考えると、魔力全快まで半日以上は掛かるかと思われます

【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:健康(おでこにたんこぶが2つできてます)、熟睡中
[装備]:レボワーカー@まじはーど
(損傷度0%、主電源入、外部スピーカー入、キャノピーオープン中)
[道具]:無し
[基本]:寝る!邪魔されたり襲われたら戦う、場合によっては殺す
[思考・状況]
1.後3分経ったら起きるつもりだったのに、邪魔されてとても気分が悪いので寝直す
2.寝直したらもう少し寝やすい場所を探すつもり

※門番は自分が今何処にいるのか知りません
※そればかりか、このゲームに巻き込まれていることにすら気付いていません
※ゴートを殴り倒した時の返り血が顔や服に付着したままです、なおこの件について全く覚えてません

※門番のデイパックはレボワーカーが鎮座していた後ろに置いてあるままです
[26]投稿者:「喪う者達」その1 846◆W/vctTGY 投稿日:2009/06/16(Tue) 21:33 No.322  

エリーシアとルカが対峙してから暫く、両者は一歩も動く事無く時間だけが過ぎていく。

周囲には事態を見極めようとじっと様子を伺っている盲目の少女りよなと、睨み合う女性二人を止めることも出来ず、震えながら事の成り行きを見守っている早栗の姿、そして、鈴木さんの生首がある。

小柄な体躯で素手のまま構えをとり相手を睨み付けるルカに対して、片やエリーシアは日本刀を持っている。しかし、この圧倒的に有利な状況にあっても焦りを抱いているのはエリーシアの方であった。

(どうして、こんな事になるのよ……)

エリーシアの目的は眼前の少女を殺す事ではない。不運な偶然が重なってもたらされた誤解を、何とかして解きたいだけなのだ。刃を向ける事などもっての外、直ぐにでも刀を納めて説得に入るべきである。

(そうよ、分ってる。でも……)

それを許さないのはルカの殺気。剣の達人たるエリーシアであろうとも決して油断の出来る様な相手ではないと理解できる。凄まじい怒気を孕んだ少女の瞳は、エリーシアを殺すことさえ辞さないと明確に訴えてくる。

覆らない戦力差を僅かでも埋める責めの一手。格闘術の心得の無いルカに出来ることは戦闘経験によって培われた相手を圧倒する技術に頼ることだけ。そして、ルカの威圧はエリーシアの行動を制限する点では期待以上の効果を上げていた。

(今の彼女を近づけるわけにはいかない……!)

素手のままではルカに勝利など万に一つも有り得ない。ルカの狙いはエリーシアの構える日本刀唯一つ。エリーシアが少しでも気を緩めたり停戦の意を示せばルカは即座に懐に入って刀を奪い、エリーシアを切り伏せるだろう。

それが分るだけにエリーシアは動けない。彼女が動くことは即ち殺し合いの合図。今にも爆発しそうな程に張り詰めた空気を纏うルカ相手には口を動かすことさえ危険。

唯一の勝機に全霊を賭けるルカを説得など出来よう筈が無い。為す術のない現状に痺れを切らしたエリーシアは説得の意思を捨てた。多少手荒い手段になる事を覚悟してルカと対峙する。

(一先ず眠っていて貰うしか、ないっ!)

瞬時に刀を半回転させ上段から打ち込む。一切の無駄を省いた動きから繰り出されるその一撃はまさに神速。いかにルカが優れた身体能力を持っていようとも避ける事など不可能。

頭部を殴打されたルカは何もする事が出来ずに意識を手放す、筈であった。

「はあっ!」

金属を打ち据える鈍い音が広場に響く。

ルカは峰が反されたのを見て取るや、即座に地を蹴り、迫り来る刀をハイキックで弾き飛ばしていた。

「なっ!?」

自分の剣が受けられる事など夢にも思っていなかったエリーシアは瞬間、動きを止める。その隙を逃さすルカは流れる様な所作で続けて回し蹴りを繰り出す。咄嗟にかわそうとするが時すでに遅く、渾身の一撃がエリーシアの右手を砕かんとする。

「ぐぅっ!」

激痛がエリーシアの右手を襲う。それでも決して剣は離さない。考えての行動ではない。それは、騎士としての意地。たとえ手が砕けていたとしても、自ら剣を手離すことは自身の命を手離すことに等しい。そんなことは絶対に許されない。

それどころか、まだ、手は砕けてもいない。無意識の内に手は刀を握りなおし、エリーシアに迫り来る危険を払う為に、動いていた。

「ちぃっ!」

二人の距離が開く。ルカにとっては致命的な失敗。速さがあっても力の無いルカの一撃では、エリーシアの手から刀を飛ばすには至らなかった。だが、確実にダメージは与えている。諦めずルカは追撃の為腰を落とす。

そこへ、エリーシアの持つ日本刀の刃が、ルカの腹部を一閃した。

「なっ、あっ……」

繰り糸を失ったかの様にうつ伏せに地面に倒れこむルカ。遅れて、彼女の腹部からは血液が流れ出し、地面に血溜まりを作っていく。

「がはっ、ごっ、ほっ、あ……ぅ」

ルカには何が起こったのか分からなかった。気絶させるために手加減された攻撃ではない、相手を倒すためのエリーシアの全力の剣撃は一撃でルカの戦闘力を奪っていた。

唯一の誤算は、日本刀を握り直した事でルカに向かって刃を向ける形となった事。エリーシアが普段使っている武器は両刃の西洋剣、日本刀を扱った経験が無くては無意識の内に峰にまでは気が回らずとも無理はなかった。

「しまったっ!!」

最悪に次ぐ最悪の展開。もう幾つ最悪が重なったのか分らない。内心で頭を抱えながらエリーシアはルカに駆け寄り、急いで傷の具合を確認する。

(よかった……出血はしているけど、致命傷じゃない……)

不幸中の幸いにして傷はそれほど深くは無かった。腰を落とす動作が回避に繋がったのだろう、それが無ければ確実に致命傷だった。ほっと安堵するエリーシアの視界の端に、尻餅を着いて後ずさっている少女の姿が映った。




早栗は今や混乱の極致にあった。目の前で、少女が血を流して倒れている。自分を守ると言っていた少女はその身体を血で染めた金髪の殺人鬼に殺されようとしている。

「貴女、何をしているの。こっちに来て、手伝って。この娘の治療をするから」

「ひっ……!」

殺人鬼が何か言っている。治療をする? そんな筈が無い。たった今、自分が切りつけた相手を治療する殺人鬼が居る筈がない。人を殺すからこその殺人鬼、ならばその行動は全て殺人の過程であるはずだ。だととするのなら、殺人鬼の目的は、ルカを拷問にかけることなのか。治療が済めば、逃げる可能性のある自分を先に殺すのではないか。早栗の思考はどんどんと悪い方向へ流れていく。

逃げなければ。涙が頬を伝ってくる。早栗は何時の間にか、自分が泣いていた事に気付く。立とうと思っているのに、立てない。視界は殺人鬼に釘付けで他のものを見ている余裕は無い。足は空しく地面を滑るだけ、亀の様な速さで後ずさるのことしか出来ない。

早栗の恐怖に気付いたエリーシアは早栗を落ち着かせるために殊更ゆっくりと、優しく話しかけるが、今の早栗にはそれさえ逆効果だ。

「安心して。これ以上、貴女達に危害は加えないから。貴女はこの娘の、仲間でしょう? だったら、こっちに来て、手伝って」

「ひっ、ち、ちがっ…わっ、私は…仲間なんかじゃ……なくて…そっ、その人が…ついてきてって……守ってあげるからって……だ、だから、ついてきただけで……だから、ち、ちがうの……私は、関係、ない……お願い、こっ、殺さないでぇ……」

エリーシアを完全に殺人鬼と認識している早栗には、もはやどんな言葉も届いてはいない様子だった。顔からは涙と鼻水を流し、恐怖の余り失禁までしてしまっている。自分の存在が相手をここまでの恐怖に追いやっているという事に、エリーシアの心も少なからず傷つく。

(やれやれね。本当、どうしてこんな事に……)

このまま放っておいては発狂しかねない。そう判断したエリーシアは素早く魔法によるルカの止血を終えると、立ち上がって早栗に近づいていく。

そして、エリーシアのその行動は、またしても最悪の展開を呼び込む事となってしまう。

「いっ、いやあああぁぁ! こ、来ないでええぇ!!」

「えっ、ちょっと、待って!」

殺人鬼が近づいてくる。ルカではなく、自分を目標として。その事実は今の早栗にも最大の危機として認識できた。立てないなどとは言っていられない。即座にエリーシアに対して背を向けると、早栗は地面に手を付いて犬の様に駆け出していた。後ろで何か言っている。聞こえない。ルカがまだ倒れている。知らない。逃げなければ殺される。自分の命より優先すべき事なんて、早栗には何もない。こうして早栗は、再び森の中へと足を踏み入れていった。




「はあっ、はあっ、はあっ……」

殺人鬼の元から逃げ、一度も立ち止まらずに走り続けた早栗はここに来てついに足を止めた。心臓はバクバクと鳴っている。足はガクガクと震えている。後ろを振り返っても殺人鬼の姿は無い。荒い息を吐きながら早栗は地面に座り込んだ。

まだ逃げ切ったと決まったわけではない。それでも少し休まない事にはこれ以上は走れない。呼吸が落ち着いてくると共に先程の情景が思い返される。置いて来てしまったルカの事を考えると途端に不安になるが、早栗にはもうどうしようもない。

(し、仕方ないよ……逃げなきゃ、私が殺されてたんだから……守ってくれるって、言ったの、あの人なのに……)

守ってくれると言ったのはあの少女の方だ。それが適わないのなら、一緒には居られない。自分が逃げたのは、間違っていない。早栗は無理矢理でもそう考えて納得するしか無かった。誰かに守って貰えなければ、無力な自分はすぐに殺されてしまう。

そう、殺されてしまう。けれど、それは、誰に殺されるというのか?

不意に、早栗の周囲が暗くなる。

殺人鬼への恐怖から、早栗は完全に忘れてしまっていた。早栗達は、どんな過程を経てあの場所に辿り着いたのか。ルカは、一体何から自分を守ってくれると言ったのか。

早栗が振り向くとそこには、大斧を担いだ、黄土の巨人の姿があった。

[27]投稿者:「喪う者達」その2 846◆W/vctTGY 投稿日:2009/06/16(Tue) 21:35 No.323  

「あ……ひ、ひいいいぃぃぃ!!」

予想もしていなかった事態に早栗の思考が止まる。しかしそれも一瞬の事。たった一人逃げ出したその先に、目の前に再び、血に染まった皮を被り、血に染まった刀と、血に染まった斧を持った巨人が現れた。この状況を鑑みれば嫌でも理解できる。邦廻早栗は、今、この場で、この巨人に、殺されようとしているのだ。

「いや……いやああああああ!!」

たとえ理解できようとも殺されるなどという現実を受け入れられる訳が無い。早栗は再び四つん這いの姿勢で今走ってきた道を駆け戻ろうとする。しかし、黄土の巨人がそれを許すはずがない。巨人は早栗が立ち上がるよりも早く、手に持った大斧で早栗の両足首を切断していた。

「あぐっ、あ、ぎ、ぎぃああああああぁぁぁ!!」

重たい何かが足の上に落とされる感覚、一瞬の後、早栗は激痛と共に自分の足が喪われてしまった事を知る。

「ひぎぁああ!! あ、あし、わたしの、あしがああぁ、いやああああああぁぁ!!」

足を失ったショックと激痛に早栗は涙を流してのた打ち回る。巨人はそんな早栗の姿を見て楽しんでいるのか動きを止めている。呼吸が乱れ、意識も朦朧として来る極限状態の中、早栗は無意識の内に自分を守ると言った少女の名を呼んでいた。

「ひぁ、がふっ……い、いや、死にたくない、死にたく、ない……た、たすけて、ルカ、ルカぁぁぁぁぁぁ!!!」

死の恐怖の中で早栗がすがる唯一の希望。しかし早栗の必死の呼びかけに答えるものはない。この狂った殺し合いの場で、力の無い早栗が奇跡的に出会えた、たった一人の味方。だが早栗はその決して離してはいけない手を離してしまった。そのことを咎めるかの様に、巨人は手にした大斧を仰向けに転がった早栗の胸に向かって打ち下ろす。

「ぐはあああぁぁっっ!!! がひゅっ、が、おぇえええ!!」

骨ごと内蔵を砕く一撃に早栗は、身体を丸めて血と吐瀉物の混じった液体を吐き出す。両足からの出血は止まらず、地面に出来る血溜まりが早栗の身体を覆っていく。視界はかすれ、早栗の意識は完全に途切れようとしていた。そんな中、早栗が最後に思い出すのはルカの言葉。

「あ、ぐ……ごぶっ……う……そ……」

目に見えて活きが悪くなった獲物を、巨人はつまらなげに蹴り飛ばす。早栗はその衝撃で大の字になって転がるが、最早悲鳴すら上げない。ここに至って巨人の、生きている早栗への興味は完全に消え去った。ならば後は、死体にしてから楽しむしかない。

「う……そ……つ…き……まも、るって……いっ、た……の………」

早栗の言葉を聞く事無く、黄土の巨人は手にした刀を早栗の首に向かって振り下ろした。




「えっ、ちょっと、待って!」

悲鳴を上げて走り去る少女をエリーシアは慌てて追いかけようとするが、駆け出そうとした所でその足は止まった。

(くっ、怪我人を置いてく訳にもいかないか)

少女の誤解を受けたままでは後々どうなるか分らない。けれど自衛の為とはいえ、間違いなく自分が傷つけた相手をそのままにしておく事はエリーシアには出来なかった。

ため息を吐いてルカの所へ戻るエリーシアへ、それまで事態を傍観していたりよなが話しかけて来た。

「あの…私はこれから、どうなるんですか…?」

話しかけられて改めて、エリーシアはりよなの存在を思い出す。元はといえばエリーシアがりよなに刀を向けた事がそもそもの原因なのだ。不安そうに聞いてくるりよなの顔を見て、エリーシアの罪悪感が刺激される。

「私は、貴女をどうこうするつもりは無いわ。それよりも、ごめんなさい。私のせいで、貴女を巻き込んでしまった」

「でも、女の子が、殺人鬼って…それに、今…」

争っていたのではないか、とりよなは訴えている。エリーシアはりよなの説得が急務であると悟った。幸いにしてりよなは落ち着いている。鎧に付着した血や倒れているルカの姿が見えないからだろうが、これなら充分に説得は可能である。それに、何よりもりよなの協力なくして事態の打開はありえない。

「私が刀を持って近づいてくる貴女を警戒していたら、女の子がそれを見て私が殺人鬼だと誤解したの。それで、怒った彼女と諍いになってしまった」

あえて生首の事は持ち出さない。ややこしくなるのは目に見えているし、第一エリーシアにも説明できない。りよなもその時のやり取りが聞こえていなかったのか忘れているのか、追及してくることは無かった。

「彼女は今、怪我をして気絶しているわ。それでお願いがあるのだけど、私と一緒に彼女に付いていてあげてくれない?」

「え…どうして、私が……それに、私、なよりを、妹を、探さないと……」

妹、という言葉に思わずエリーシアは反応する。殺し合いに巻き込まれた妹を心配するりよなの気持ちはエリーシアには痛いほど分る。だが、エリーシアもここで譲る訳には行かないのだ。自分一人だけでルカの目覚めを迎えれば、無意味な争いの繰り返しになる事は明白である。早く弟を探すためにもりよなには協力して貰わなければならない。

「彼女が目を覚ますまで一緒にいて。それで私が貴女に対して害意が無いと証明して欲しいの。私と一緒にいる間は貴女に手は出さないし、誰にも手は出させない。貴女が望むならその後で妹さんを探すのを手伝ってもいい。だからお願い、協力して」

真剣な口調で話すエリーシアの声を聞きながら、りよなは考える。元よりこの場でなより以外の人間を信用する気はりよなには無いが、今は選択の余地が無い。女性は刀を持っているとも、女の子を傷つけたとも言った。これでは脅迫も同じだ。そんな相手を前にして要求を断るなんて選択肢は存在しない。生きてなよりに会うためにも、従うしかない。

「わかり、ました…あなたの言うとおりにします。だから、女の子が起きたら、私を解放して下さい」

出来るだけ従順に振舞う。後は殺されない様祈るだけ。上手くいけばこれはチャンスだ。事態を把握する必要はりよなも感じていた。落ち着くことは出来ないけれど待っている間考えることが出来るし、女性に質問すれば自分の知らない情報や視覚的な事も補助して貰えるかもしれない。りよなは今、自分が何を持っているかも分らないのだ。

「ありがとう。私はエリーシア・モントール。約束は必ず守るわ、騎士の誇りに懸けて」

「あ…篭野りよな、です」

何かが手に触れる感触がする。エリーシアと名乗った女性が握手しているのだろう。りよなを驚かせまいと優しく触れてくるその感触は、不快なものでは無かった。

「りよな、私も弟を探してる。だから貴女の気持ちも分るけど一人で無茶をしないで。妹さんも貴女を心配しているだろうから。一緒にいる間は、私も貴女に協力する。何か聞きたい事があれば遠慮なく私に言って」

「………はい」

エリーシアの演技とも思えない真摯な言葉にりよなは面食らう。信用は出来ない。出来ないけれど、間違った事は言っていない。だから今だけは、このエリーシアという女性の力を借りようと思う。そして出来るなら、お互いが無事に弟妹と出会えることを、りよなは祈った。




だが、程なくして彼女達は知ることとなる。

彼女達が守るべきその相手は、もう、何処にもいない。




【邦廻早栗@デモノフォビア 死亡】
【残り40名】


【D−4:X3Y4/螺旋の塔付近/1日目:昼】

【エリーシア@SILENTDESIREシリーズ】
[状態]:右手に疼痛、わき腹に銃傷(処置済み)、治療による魔力消耗
[装備]:日本刀@BlankBlood
エリーシアの鎧(自前装備)@SILENTDESIREシリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式
鈴木さんの生首@左クリック押すな!!
不明支給品0〜1種
[基本]:ルーファスを探す。
[思考・状況]
1.ルカ、早栗の誤解を解く
2.一緒にいる間りよなを守る
3.鈴木さんの生首を埋葬する
4.できれば鈴音の誤解も解きたい

※八蜘蛛は死亡したと思っています。

※首輪には着けた者の魔法の力を弱める効果があると思っています。

※エリーシアのデイパック(右肩掛け損傷)と鈴木さんの生首はエリーシアの近くに転がっています。


【篭野りよな{かごの りよな}@なよりよ】
[状態]:健康
[装備]:木の枝@バトロワ(杖代わりにしている)
[道具]:デイパック、支給品一式
リザードマンの剣@ボーパルラビット
[基本]:対主催、なよりだけでも脱出させる
[思考・状況]
1.エリーシアに従う
2.状況の把握
3.籠野なよりを探す

※籠野なよりが巻き込まれていることは確認していませんが、巻き込まれていると直感しています。


【ロカ・ルカ@ボーパルラビット】
[状態]:気絶、腹部に裂傷(処置済み)
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
(食料4/6、水3/6、地図無し、時計無し、コンパス無し)
[基本]:生存者の救出、保護、最小限の犠牲で脱出
[思考・状況]
1.エリーシアを倒す
2.戦闘能力の無さそうな生存者を捜す
3.ルシフェルを警戒
4.天崎涼子、篭野なよりを探す


【E−4:X1Y2/森/1日目:昼】

【邦廻早栗@デモノフォビア】
[状態]:死亡(首と両足首切断)
[装備]:無し
[道具]:無し


【ルシフェル@デモノフォビア】
[状態]:軽い火傷
[装備]:ルシフェルの斧@デモノフォビア
ルシフェルの刀@デモノフォビア
[道具]:無し
[基本]:とりあえずめについたらころす
[思考・状況]
1.早栗に夢中
2.ころす
3.ころす

[28]投稿者:「火種」その1 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/06/19(Fri) 18:30 No.326  
「・・・来るか。」

ロシナンテが前方に意識を向ける。

「さっきの仕返し、ってとこかな。」

アーシャが小太刀を手に後方を警戒する。

「(リト、敵の数は?)」
「(20・・・いえ、30はいますね。)」

シノブは二人の間で戦闘力の劣るエルを庇う姿勢を取る。

(出来れば、魔力は温存したいのだけど・・・)

エルは首から提げたロザリオを握りしめた。



「遅いっ!」

ロシナンテは炎の鞭を振るった。二匹のモモンガの亡骸が、彼女の足元に落ちる。
その直後、明確な敵意を持ったモモンガの大群が、四方八方から彼女達に襲い掛かった。


「浄化の炎よ、全てを飲み込み、灰塵へと誘え―――メキドフレア!」

アーシャの特大魔法が炸裂し、数体のモモンガを焼き払う。

「・・・引かない、か。」

通常、野生動物は火を恐れる。
アーシャの行動もそれを考えての事だったが、どうやら彼らには通用しないらしい。
それどころか、発動直後の僅かな隙を突いて、一匹のモモンガがアーシャの懐に飛び込んだ。

「甘い!」

アーシャはそれを難なく小太刀で払い落とす。
そして即座に、次の一撃を放った。

「サンダーストーム!」

彼女の手から放たれた電撃の嵐が、目の前のモモンガ達を巻き込んだ。


「そこだっ!」

シノブの裏拳が、モモンガの顔面にクリーンヒットする。
変身していないと威力は落ちるが、シノブの我流拳法はプロの格闘家にも引けを取らない。
アーシャやロシナンテが討ちもらした相手を掃除するには十分だ。

(この分だと、何とかなりそうね。)

そんな三人の活躍を見て、エルは胸のロザリオから手を離した。

しかし、彼女は気付いていなかった。真上から迫る刺客に・・・


「んんんんんんんんんんーーーーーーっっっっ!!!!」

一匹のモモンガが、エルの顔面に取り付き、尻尾を口の中に押し込んだ。
彼女の小さな口にはモモンガの尻尾はあまりにも太すぎて、空気の漏れる隙間も無い。
それどころか、その小さな空間を顎が外れそうなぐらいまで押し広げている。

(ん・・・息が・・・剥がさないと・・・!!)

しかし、このモモンガの力はアーシャでさえ苦戦するほどだ。
エルの小さな体で敵うはずも無く、全くの無駄な抵抗に終わる。

「エルっ!」

そんなエルの状況を察して真っ先に動いたのは、最も近くにいたシノブだった。
しかし彼女にも、別のモモンガが襲い掛かる。

「くぅっ!!」

そのモモンガは、シノブの尻を捕らえ、尻尾をミニスカートの中に入れた。

「え・・・きゃああぁっ!」

そしてその尻尾を器用に使って下着をずらし、彼女の秘部を攻め始める。

「ちょっ、や、やめろ・・・ひあぁっ!!」

シノブの脳裏に、かつて同じように責められ続けた敗北の記憶が蘇る。
振り解こうとしても、全く力が出せなかった。


一方のアーシャも、八匹のモモンガに捉まれて、身動きが取れないでいた。

「ぐっ・・・離れ・・・いあっ、ぎいっ!!」

少しでも身体を動かすたびに、モモンガの爪が彼女の肌に食い込む。

「くうぅっ・・・みんな・・・ゴメン・・・」

もしかすると、草むらで蔓に襲われた時の疲労も残っていたのかもしれない。
アーシャは立っていることさえ出来ず、その場に倒れこんだ。


(所詮、人間の力ではこの程度か・・・)

三人が苦戦する中で、ロシナンテは唯一人、黙々とモモンガ達を狩り続けていた。
周りに被害が出るため、大技は使えない。それでも、自分の身を守る分には十分だ。
しかし彼女の戦闘スタイルは、あくまで広範囲の技で焼き尽くすのが主体だ。
この状況で他者の援護に回るだけの余裕は無い。

(・・・場所を変えるか。)

寄ってきたモモンガ達を振り払い、封じていた大魔法を放つ。


ドゴオオオォォン!!


森の奥で起こったその爆音に、アーシャ達だけでなくモモンガさえも動きを止めた。
何が起きたのか理解できていない彼らを尻目に、ロシナンテは二発目を放つ。

ドゴオオオォォン!!

「ロ、ロシナンテ、一体何を・・・」

シノブが慌ててロシナンテに声をかける。
しかし彼女はそれには答えず、モモンガ達に向かって叫んだ。

「お前達が如何に命知らずであろうとも、住処を焼かれれば黙ってはおられまい。」

その声にモモンガ達が反応し、三発目の魔法を放とうとしているロシナンテに目を向ける。

(そうだ、それでいい・・・)

ドゴオオオォォン!!

三度目の爆音を合図に、全てのモモンガが一斉にロシナンテに襲い掛かった。

「こっちだ、さあ来い!!」

するとロシナンテは、モモンガ達の包囲を抜け、森の奥へと走っていった。
その後をモモンガ達が追いかける。
後に残された三人は、それをただ呆然と見送るだけだった。




「海が・・・綺麗だ・・・」

一人の少女が、岸壁の上からその先に広がる世界に思いを馳せる。
その傍らには一人の男。
彼はその少女を真っ直ぐ見つめて、口を開く。


「その台詞もう10回目だろうがっ!!!」


「違うな・・・13回目だ。」
「余計悪いわっ!!」

俺は強姦男。プロの強姦魔だ。
紆余曲折あって、今はこの鬼龍院美咲という女と行動を共にしている。
というか、連れ回されてる。
確か俺達は、リザードマンの村とかいう所に向かってたはずだ。
最初、当ても無く歩き始めた俺達は、すぐに海にぶち当たった。
そこで、俺が時刻と太陽の位置と海岸線の形から、現在地を島南部の森林の西側だと割り出し、
まずは一番近くの施設に移動しようという事で、当初の目的地をそこに定めた。
と、そこまでは良かったのだが、その後が問題だった。
美咲は俺が持っていた地図を奪い取って、勝手にどんどん歩き始めた。
しかし方向が明らかにおかしい。どうやら地図の見方を知らんようだ。
しかも、俺がどれだけ指摘しても、間違いを認めようとはしない。
彼女いわく、「地図が間違ってる」そうだ。
だが、俺は断言する。間違ってるのはこいつの方向感覚だ。
その証拠に、海に出たのは10回・・・いや、13回目だ。
熟睡してる黄土色の化け物も5回は見た。そういえばここ1時間ほどは見てないが、起きたのかな。

「よし、次はこっちだ。」

美咲はそういって、俺の反応も確かめずに歩き出した。
俺は、無駄だと知りながらも、彼女に意見する。

「明らかに逆だろ! こっからだとリザードマンの村は西だ!」

普通なら、どんなにひねくれた奴でも、これだけ指摘されれば直さざるを得ないだろう。
だが、こいつが俺の言葉を受け入れようとしないのには訳がある。

「スライムなんかの指図は受けん!」

これが、その理由だ。
こいつと会ったとき、俺は素性を隠すために、本名・・・じゃなくて通り名を名乗らなかった。
するとこいつは、あろう事か俺をスライムと呼びやがった。
一瞬でこれが本名を言わせるための罠だと見抜いた俺は、仕方なくその呼び名を受け入れた。
そしたら何と、俺を本当にスライム扱いし始めたんだ。
服の中はどうなってるんだとか、動き続ければ無敵じゃないのかとか、仲間を呼んで合体しないのかとか・・・
かなりの屈辱だが、正体を隠すためには耐えるしかない。
その分、時が来たら・・・絶対犯す。ひたすら犯す。泣いても犯す。

「おい、どうした。早く行くぞ。」

奴が呼んでいる。今は・・・とにかく我慢だ。
[29]投稿者:「火種」その2 麺◇dLYA3EmE 投稿日:2009/06/19(Fri) 18:32 No.327  
(ここまで来れば十分か・・・)

ロシナンテはモモンガ達と出会った場所から、すでに数百メートルは移動していた。
モモンガ達も木々の間を器用に抜けて、彼女の後を追っている。

「その闘志、根性、粘り強さ・・・評価に値する。」

彼女は足を止めて、モモンガ達と相対した。

「だが・・・相手が悪かったなぁっ!!」

突如、彼女の周囲が炎の海と化した。
モモンガ達に、逃げ場は無かった。




「おわぁっちいぃぁっっ」

俺は素っ頓狂な声をあげてしまった。
何てったって、目の前にいきなり火の海が現れたんだ。誰だってこうなる。
美咲だって、悲鳴こそ上げなかったが、相当驚いているはずだ。

「・・・静かに」

なんて事を考えてると、美咲が俺を制止した。
その視線の先には・・・一つの人影があった。

「さっきの炎、あいつがやったのか?」
「ああ、おそらくな。」

そういえば、俺が最初に女と出会ったときも、そいつは背中に炎を浴びていた。
その時は火炎放射器かと思ったが、今回のは規模が違いすぎる。
おそらくガソリンか何かを撒いて火をつけたってとこだろう。
ただ分からんのは、そんな事をした奴の目的だ。
俺達を驚かせるためでも、他の誰かを殺すためでも、手間がかかるしリスクも高すぎる。

「とりあえず、逃げるか?」

まあどんな理由があったとしても、奴が危険人物だって事は間違いない。
俺は事が起こる前に、逃げ出すよう提案した。

「・・・もう遅いようだ。」

しかし美咲はそれを拒否する。
改めて人影の方を見ると、そいつは俺達に向かって近付いてきた。


「その呪われし波動・・・魔の眷属か?」

そいつが言葉を発する。声の高さからいって女だ。
格好は真っ赤なマントにピンクの髪。明らかにヤバい。
しかも、言ってることの意味が全く分からないときた。
それは美咲も同じらしく、奴の姿を見つめたまま微動だにもしない。

「・・・どちらでも構わん。強きものは、狩るのみ。」

突然、俺達の周囲が炎で囲まれた。逃がすつもりは無いらしい。
こんな大掛かりな仕掛けを用意するとは、相当な暇人だ。

「スライム、行け。」

美咲が俺に指示する。が、もちろん俺はあんな危険人物に突っ込むつもりは無い。
というか美咲に命令される筋合いも無い。

「な、何で俺なんだよ。」
「男だったら、か弱い女の子を守るのは当然だろ!」

だれが「か弱い女の子」だ、誰が。というかこんな時だけ人間扱いするな。
ただ、こいつの言う事はもっともだ。何か理由を出さなければ俺が行かされる。

「炎はスライムの弱点だろうが!」

自分でも言ってて悲しくなるような言い訳だが仕方ない。

「う・・・そうか。」

この期に及んでスライム扱いをやめてもらえないのも悲しい。そこまでして俺をハメたいのか。
まあとにかく、奴には美咲が挑む事になったから良しとしよう。


「ほう・・・逃げずに立ち向かうか。」
「・・・そもそも、逃がす気はないんだろ?」

赤マントの女と美咲が言葉を交わす。まさに一触即発だ。

「冥土の土産に教えてやろう。私は魔王三将軍筆頭、炎のロシナンテだ。」
(・・・魔王?)

うわー、今どき魔王なんて、やっぱりメチャクチャ危ない人だ。

「で、その魔王三将軍筆頭が、私に何の用だ?」
「正確にはお前ではない。お前の持つ呪具に興味がある。」
「呪具・・・?」

魔王とか呪具とか、話が物凄いオカルトチックになってきたな。

「・・・何の事だ?」
「気付かぬとでも思ったか。お前のその、腰に巻いている鎖に!」

いや、それは最近流行のファッションだろ。

「これが・・・?」

美咲はその鎖を手に取った。・・・ファッションじゃなかったか?
ぶっちゃけ、最近の女子高生のファッションはよく知らん。観察する前に脱がすからな。

「その形状・・・聞いた事があるぞ。先端に嵌めた物を意のままに操る道具があると。」
(こ、この鎖にそんな力が!?)

要するにマジックハンドだろ。別に珍しい物じゃない。
最近では量産こそされてないが、棒の部分を自由に曲げられるタイプもあるらしい。
美咲の鎖もおそらくその類だろう。

(おお・・・!!)

美咲はさっそく足元にあった小石を掴み、振り回して遊んでる。
動きが微妙に現実離れしてるような気もするが気のせいだ。


「よし・・・行くぞ、ロシナンテ!」
「さあ来い!」

美咲が小石を振り回しながらロシナンテに突っ込む。

「たあぁっ!」

そして勢いに任せて、小石をロシナンテの顔面に振り下ろす。
しかし・・・

「ぐふうぅ!」

ロシナンテの手から火が放たれたかと思うと、美咲の腹の辺りで爆発が起こった。
おそらく小型爆弾を投げつけて、マントの下に仕込んだ火炎放射器で起爆したのだろう。
美咲は数メートル吹き飛ばされて、ぴくりとも動かない。

「そのような直線的な攻撃が、この私に通じると思ったか。
 愚かな・・・持ち主に恵まれぬ呪具は哀れだな。」

いや、そもそもマジックハンドで爆弾と火炎放射器に勝てるわけが無い。

「せめて、その主人から開放してやろう。」

そう言うとロシナンテは、一歩一歩ゆっくりと、美咲に歩み寄る。
絶体絶命のピンチだ。俺はとにかく、この後奴を説得して和解する方法を考えはじめた。

だが、美咲の闘志はまだ消えていなかった。

「くっ・・・な、何だと・・・」
「・・・捕まえた。」

ロシナンテがあと一歩のところまで迫ったとき、美咲のマジックハンドがロシナンテのマントを捉えた。

「あ・・・が・・・うぁっ・・・」
「どうだ。自分のマントに締め付けられる気分は。」

催眠術だ!
そもそもマジックハンドでマントを掴んだからといって、何かが変わるわけではない。
だがロシナンテは自分で、あのマジックハンドが先端に嵌めた物を意のままに操る道具だと言っていた。
その暗示によって、奴は自分のマントに締め付けられているような錯覚を起こしている。
美咲はそれをうまく利用しているだけだが、声をかけるタイミングなど本当に締め付けているかのように上手い。
まさかそんな技術を持っているとは、意外と侮れんな。

「う・・・く・・・調子に、乗るなぁ!」

でも、やっぱり限界はあるわけで・・・

「はあああああああああああっっ!!!」

ロシナンテと美咲が炎に包まれる。
これは最早、火炎放射器とかのレベルじゃねえ。きっと発火能力だ。
あまり知られてはいないが、日本人の1万人に1人は発火能力を持っている。
その中でもその能力に気付くのはごく一部だが、気付いた奴らは影で色々な事に使ってるらしい。
実際、タバコの不始末とかで片付けられる火事の中にも、発火能力による放火が含まれてるらしい。
まあ俺も、本で読んだだけで実際に見たのは初めてなんだが。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

炎が消えた時、美咲は命に別状は無いものの、地面に倒れて動けなくなっていた。
一方のロシナンテは無傷だったが、息を荒くしている。

「私をここまで苦しめるとは・・・お前、名は何と言う?」

美咲は口を動かしているが、声は出ていない。

「喉をやられたか・・・仕方あるまい。」

ロシナンテは名前を聞くのを諦め、美咲に背を向けて、呟いた。

「時間を食いすぎたな。もう、戻らねばならん。名も知らぬ呪具の使い手よ、再戦を楽しみにしているぞ。」

そう言うと彼女は、俺達の前から姿を消した。
[30]投稿者:「火種」その3 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/06/19(Fri) 18:35 No.328  
「遅い!」
「・・・すまない。」

程なくしてロシナンテは、森の中で休んでいたシノブ達と合流した。
シノブはすぐにでもロシナンテを追いかけようとしたが、彼女自身にもそれだけの体力は残っていなかったようだ。
そのため三人は、ロシナンテが戻ってくるのを、その場で待つことにしたのだった。

「で・・・何があった?」
「実はな・・・」




後に残されたのは、俺と美咲の二人。
美咲はロシナンテの炎で焼かれ、息も絶え絶えだ。
着衣も半分ほどが燃えて、所々に焼けた肌が露出している。
特に下着の拘束から逃れた胸は、以前より少し大きく見える。

さて・・・


仕事の時間だ。




【D−2:X2Y4/森/1日目:昼】


【ロシナンテ@幻想少女】
[状態]:少し疲労、魔力そこそこ消費
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分、水は0.25L程度消費)
    SMドリンクx9@怪盗少女
    防犯ブザー@一日巫女(本人は未確認)
    ガトリング(弾無し、安全装置未解除)@えびげん(本人は未確認)
[基本]:強者と戦い打ち滅ぼす
[思考・状況]
1.シノブと行動を供にする
2.自分の死に場所を言ってくれるまで何があってもシノブを死なせない
3.シノブとの約束を果たす前に、アーシャと戦う

※鬼龍院美咲をエルフィーネの母(たぶん20代後半)だと思い込んでいます。
※戦った相手(美咲)の名前を聞けませんでした。


【川澄シノブ&スピリット=カーマイン@まじはーど】
[状態]:火傷の痕、肉体的疲労、精神的疲労、魔力十分
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    SMドリンクの空き瓶@怪盗少女
    あたりめ100gパックx4@現実世界(本人は未確認)
    財布(中身は日本円で3万7564円)@BlankBlood(本人は未確認)
    ソリッドシューター(残弾数1)@まじはーど(本人は未確認)
[基本]:対主催、”悪”は許さない、『罪を憎んで人を憎まず』精神全開中
[思考・状況]
1.ロシナンテ、エルフィーネ、アーシャとアクアリウムに向かう
2.バトルロワイヤルを止めさせる方法を探す
3.なるべく大勢と脱出する
4.ロシナンテについ死に場所を決めてやるなんて言ってしまったがそんな気はない

※エルフィーネを鬼龍院美咲の娘だと勘違いしています


【アーシャ・リュコリス@SILENT DESIRE】
[状態]:所々に擦り傷や切り傷の痕、疲労、魔力少し消耗
[装備]:なぞちゃんの小太刀@アストラガロマンシー
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    デッキブラシ@La fine di abisso
    ヨーグルトx3@生贄の腕輪
[基本]:対主催、できれば穏便に済ませたい
[思考・状況]
1.ロシナンテ、エルフィーネ、シノブとアクアリウムに向かう
2.ルーファス、エリーシア、クリステルを探す
3.首輪を外す方法を探す
4.ロシナンテに対決を申し込まれたが受けるつもりはない

※彼女が案じていた女性の正体はミアですが、顔も名前も知りません
 但し、出会えれば気付ける可能性はあります
※銃=威力の高い大きな音のする弓矢のような物という認識をしました
※エルフィーネの要望に応え、彼女の変身については誰にも言わないことにしました


【エルフィーネ@まじはーど】
[状態]:所々に軽い擦り傷の痕、疲労、魔力十分
[装備]:ロザリオ@まじはーど
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    モヒカンの替えパンツx2@リョナラークエスト(豹柄とクマのアップリケ付きの柄)
[基本]:対主催、鬼龍院美咲を探す
[思考・状況]
1.ロシナンテ、シノブ、アーシャとアクアリウムに向かう
2.鬼龍院美咲を探す
3.首輪を外す方法を探す

※とりあえず初めて出会う相手にはエルと名乗ることにしています


【モモンガ達@ボーパルラビット】
※ロシナンテの活躍で戦闘部隊が全滅しました。
※でもたぶん戦ってなかった連中が夫のカタキとかパパのカタキとか言って出てきます。
※要するに再登場しても問題なし。



【E−2:X4Y1/森/1日目:昼】


【鬼龍院美咲@まじはーど】
[状態]:全身に火傷、声がほとんど出ない、体力消耗、衣服半分焼失
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    ウインドの薬箱@リョナラークエスト(未消費)
    隷属の鎖@アストラガロマンシー(近くの地面に落ちた)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.まずは回復
2.南部(変身アイテム)の捜索
3.シノブ、エルフィーネの捜索
4.仲間を増やす
5.スライム(強姦男)は弾除け

※強姦男をスライムだと完全に思い込んでいます。
※隷属の鎖の能力に気付きました。


【強姦男@一日巫女】
[状態]:健康
[装備]:真紅の短剣@怪盗少女
    目出し帽@一日巫女(強姦男の私物)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    その他支給品(0〜2個)
[基本]:レイパー、ステルスレイパー
[思考・状況]
1.美咲を犯す

※隷属の鎖はマジックハンドだと思い込んでいます。
※ロシナンテは発火能力者だと思い込んでいます。・・・というか正解?

※参考資料
発火能力に関する本
『本当は怖い超能力』 民明書房刊
[31]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/06/19(Fri) 18:40 No.329  
【あとがき】

なんか強姦男のみならず美咲までギャグキャラに・・・
まあ、次のリョナ&エロ展開に期待という事で。
[32]投稿者:「合流−サラダ・ボウル−」その1 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/06/21(Sun) 20:30 No.332   HomePage
「あっ、あれですね。」

私の隣に居た伊予那がそう言って指を指した先には、3分の1ほどしか原型を留めていない建物があった。

「・・・そうね。」

此処から見る限り、御伽話に出てくるような石造りの城がモデルなのだろう。
完全な状態ならば、それなりに幻想的な建物に見えたのかもしれないが、あの様子ではとてもそうは見えない。

「(うっわぁー・・・メルヘンな建物が台無しじゃん・・・。アイツ、絶対に許せないねっ!)」

廃墟を視界の中心に捉えて向かっていると、イリスの間延びした声が私の頭の中に響く。

「(・・・・・・そうね。)」

動機は兎も角、許せないという意見には賛成だ。
下手に反論すると面倒なことになりそうなこともあり、私は同意しておくことにした。

「(・・・とまぁ、じょーだんは置いといて。)」
「(・・・誰も居ないのね?)」

イリスの発言には確かにどうでも良い内容が多いが、時と場合は必ず選んでいる。
その彼女がどうでも良い内容を話すと言うことは、少なくとも周辺には誰の気配も感じられなかったということだろう。

「(むぅぅーっ! ・・・当たってるけどさー。言わせてくれたって、いーじゃなーい、エリねえのけちぃー。)」

言おうとしていた内容をずばり言い当てられ、彼女は不貞腐れた【ふてくされた】ようだ。
彼女の膨れ面を想像して、私は思わず薄く口元に笑みを浮かべる。

「(・・・それで、どうするつもり?)」

突然、彼女が真剣な声色で問い掛けてきた。
内容は確実に伊予那のことだろう。

「(そうね・・・。)」

伊予那は元々、商店街へ知り合いを探しに行く予定である。
しかし、私とイリスの読み通りならば、商店街には殺人狂が配置されているはずだ。
伊予那一人を行かせるワケには行かない。
とは言え、一緒について行ったのでは、彼の思い通りになってしまう。

「(・・・作戦のこと、話しちゃえば?)」
「(私も、そう考えた所よ。)」

私の作戦を伊予那に話し、同行を申し出てしまえば恐らく彼女は断れないだろう。
あの時の素振りからして、彼女が商店街に知り合いを探しに行くというのは、出任せと見て間違いないからだ。
確かに現代にありそうな地名である商店街ならば、知り合いが向かっている可能性はある。
しかし、古い木造校舎や廃墟も現代にありそうな地名だ。
転送された場所によっては先にそれらの場所に向かう可能性も否定できない。
よって、廃墟には誰も居ないことが分かった時点で作戦を話し、アクアリウム経由で古い木造校舎に向かうことを提案すればよい。
彼女にこの道理をひっくり返せる物はなく、承諾する他ないだろう。

(・・・って、かなり強引な手ね。・・・嫌になるわ。)

私は自ら立てた作戦が、また伊予那を強引に振り回すことになるのがやるせなくて、溜め息をついた。

「(・・・まーた、そーやって思い悩むんだからっ!)」

イリスが呆れた気持ちと心配な気持ちが入り混じったような声色で私に話しかけてきた。

「(マインちゃんにも言ったんだけど、キミもあんまり悩んでばかりだとしわとか増えちゃうよーっ?)」

私は偶に、彼女の能天気なまでの明るさが羨ましく思える。
あの緑色の髪をした少女の一件で、絶対的自信のあった知覚能力に隙があったことが分からない彼女ではないはずだ。
彼女だって、内心そのことが気になって仕方ないはずである。
現状、彼女ができることはそれしかないのだから、余計だ。
それなのに、彼女はどうして、あんな台詞がすらすらと言えるのだろうか?
これが経験の差という物なのだろうか?

「(・・・貴女なら、どうしてた?)」

気付けば、私は彼女に問い掛けていた。

「(・・・なにを?)」

彼女はいつになく真剣な声色で問い返してくる。

「(あの時のこと。それから、この後のこと。)」

彼女は少しの間を置いて答える。

「(・・・エリナと同じ。)」
「(ウソ・・・。)」
「(・・・うん、ウソ。だって、アタシはキミじゃない。アタシにできてキミにできないことがあるように、キミにできてアタシにできないことがあるもの。)」
「(!?)」

彼女の言葉に私は少し目を細める。

「(・・・あの時、アタシなら魔法が使えたから、伊予那ちゃんを囮にするまでもなかったと思う。)」
「(・・・でしょうね。)」

そう。
彼女は、私と違って自由に魔法を使うことができる屈強な戦士だ。
態々あんな回りくどい作戦をとって伊予那の身を危険に晒さずとも、互角以上に戦えていただろう。

「(でも、その代わり、アタシは躊躇わず、彼女の目の前であの娘【こ】を殺してたよ。)」
「(・・・えっ?)」

彼女のまるで感情の篭っていない冷ややかな声に、私は思わず目を丸くする。

「(あの娘、まるで本能のままに殺し続ける殺人人形【キリング・ドール】って感じがした。そんなヤツを野放しにしておくのは危険だもの。)」

確かに、対峙した時に感じた彼女の視線は、とても生きている人間のそれとは思えないほどに冷え切っていた。
あのまま生かしておいたら、ただ犠牲者が増えるだけだろう。
そういう意味では、あの時、立ち去らずあのまま息の根を止めておくのが正解だ。
しかし、私は躊躇った。
相手が年端も行かない少女だったこともあるが、傍に伊予那が居たこともある。
伊予那は戦いなんて血生臭い世界を知らない、正真正銘の”ただの少女”だ。
私が彼女を殺す所を目撃した時には、発狂してしまいかねない。

「(キミは、その優しさであの娘の命と、伊予那の命と心を救ったんだ。)」
「(伊予那の命と心を・・・。)」
「(アタシには、そんな真似できそうにない。だって、アタシは・・・。)」

一旦、言葉を区切ったイリスは最後に呟くように言う。

「(・・・戦士だもの。)」

イリスの本当に悲しそうな声は、多分初めて聞いた。
私は彼女の心に触れたような気がして、少し後ろめたい気持ちになった。

「(・・・・・・ごめん。)」
「(ばっ! ばっきゃろーい! なしてそこで謝るねーんっ! アタシゃ大丈夫ですたーい!)」

彼女は慌てて声を張り上げた。
微妙に方言のような物が混じったおかしな台詞に、私は思わず笑ってしまった。
今の私の顔を伊予那に見られたら、余計な心配をさせてしまいかねない。
そう考えた私は伊予那の一歩先を進んで誤魔化した・・・。
[33]投稿者:「合流−サラダ・ボウル−」その2 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/06/21(Sun) 20:31 No.333   HomePage
「・・・ぅー・・・ん・・・。」

・・・身体が鉛のように重くて息苦しいです。
それなのに、意識は宙に浮かんでいるような感じがするです。

(なんだか・・・風が吹いたら・・・飛んでいけそうな・・・気がする・・・です・・・。)

それが少し気持ちよくて、つい昏々としていたら、全身を這うような痛みと、身体を貫くような鋭い痛みに襲われたです。
そしたら、身体が勢いよく天高く舞い上がっていくような感覚と、意識が地の底へ叩き落されていくような感覚に襲われ――

「――いっっだぁぁっ!!」

なぞは、力いっぱい叫んで身を起したです。
目の前がぐちゃぐちゃに歪んでて、頬の辺りがすぅーすぅーするです。
多分、なぞ、目を開ける前から泣いてたです。

「痛いですぅぅっ! うぁぁーんっ!」

なぞ、なんとか動かせる左腕で、目を覆って泣いたです。
痛くて、辛くて、苦しくて、いっぱい泣いて叫んだです。

「うぅっ・・・ひっぐっ・・・ひっ・・・ぐっ・・・・・・っ!」

でも、なぞ、知ってるです。
泣いてるだけじゃ痛いのは治らないです。
なぞは奥歯を噛み締めて泣くのをやめたです。
そして、どうしてこんな痛い思いをしたのか、思い出そうとしたです。

「・・・・・・どうして・・・おもい・・・だせない・・・ですか?」

なぞ、確かに色々なこと、よく忘れるです。
この前も、美味しそうな果物が生ってるを見かけて次の日に取り行くつもりでいたら、その場所忘れたです。
でも、さすがにこんな痛い思いをしたことを忘れたりはしないです。・・・・・・たぶん。

「・・・・・・あ・・・れ・・・?」

また、なぞの視界がぐちゃぐちゃに歪んでしまったです。
でもヘンです。
なぞ、痛いので泣くのは、さっき頑張ってやめたです。
それなのに・・・。

「なんで・・・なぞ、泣いてる・・・ですか・・・?」

どうして痛い思いをしたのかを思い出そうとするほど、泣いてしまうです。
これはとても困ったです。
なぞ、こういう時どうやって泣くのをやめたら良いのか、分からないです。
だから、誰かに聞くしかないです。
でも、誰に聞けば・・・。

「・・・ミア・・・ちゃん? ・・・・・・ミアちゃんっ!!」

ずっとなぞの傍に居た友達、ミアちゃんが居ないです。
なぞ、ぐちゃぐちゃな世界の中、周りを見回してミアちゃんを探しました。
でも、見つけられたのはミアちゃんじゃなくて、新しい’謎’です。

「・・・・・・って、なぞ、どうして、此処に居るですか?」

なぞ、確かミアちゃんと一緒に、ヘンな建物が見える辺りに居たはずです。
それなのに、緑色と茶色の景色の中、遠くにミアちゃんと逢った、あの廃墟っぽい物を見つけたです。
ミアちゃんが居ないのも’謎’ですが、なぞがどうして此処に居るのかも’謎’です。

「・・・兎に角、ミアちゃんを探すです。」

なぞ、ミアちゃんに聞きに行くために、痛いのを我慢して立ち上がったです。
そして、ぐちゃぐちゃに歪んだ地面を歩いて廃墟っぽい物のある方へ向かうことにしたです・・・。
[34]投稿者:「合流−サラダ・ボウル−」その3 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/06/21(Sun) 20:33 No.334   HomePage
「・・・あぁーもう、分かったわよ!」

クリスはそう怒鳴ると、土下座を繰り返す青年に背を向けて腕を組んだ。

「このとぉぉりだからっ! ゆるし・・・てっ?」

青年は土下座を中断して、聞き返した。

「許して・・・くれるのか・・・?」

クリスは横目で青年の様子を見る。
砂塗れの額を上げて、不安そうに此方の様子を窺っている彼は、まるで棄てられた子犬のような感じだ。
クリスは頬が赤くなっていくのを感じ、慌ててそっぽを向いた。

「わ、態とじゃないのは貴方の態度でよく分かったから・・・っ!」
(・・・って、どうして私、ドキドキしてるのよっ!)
「・・・・・・うわああーん!! ありがとなぁぁっ!!」
「――っ!?」

青年はクリスの言葉がよほど嬉しかったらしい。
満面の笑みで勢いよく立ち上がって、クリスに抱きつこうとした。
しかし、クリスは反射的に裏拳を飛ばしてしまい、青年は顔面を強打する結果となった。

「・・・・・・うぐぅ。」
「――って!? ちょっと! 大丈夫っ!?」

地面に崩れ落ち、動かなくなった青年にクリスは慌てて駆け寄った。

〜〜〜〜

「・・・ごめんなさい。突然のことだったからつい、ね。」
「・・・いや、いいよ。許して貰っただけでも奇跡だと思うし。・・・おぉいってぇっ。」

クリスの介抱ですぐに目を覚ました青年は、殴られた辺りを手で擦りながら起き上がった。
青年は地面に座ったままのクリスを脇目に、突き刺さったツルハシを引っこ抜く。

「ホント・・・自分でもビックリしたよ。ヒマだから振り回して歌ってたら、凄い勢いですっぽぬけちまってさ。」
「・・・そう、なの。」

クリスはゆっくり立ち上がって、服の汚れを叩き落とす。
そして、青年に向かって問い掛けた。

「・・・それで、貴方は?」
「んっ? ・・・ああ、俺? 明空。御朱明空【みあかあそら】。18歳。乙女座。趣味はバスケとかサッカーとかっ♪」

明空と名乗った青年は、子供のような笑顔でクリスに答えた。
クリスは思わず顔を背ける。

「そ、そこまで聞いてないわっ。・・・私は、クリステル・ジーメンス。」
(お、乙女座って・・・私と同じじゃないの・・・!)
「クリスでいい・・・わっ!?」

何気なく視線を戻してみると、何時の間にか明空が間近に迫っていて、クリスは思わず飛び退いた。
明空は興味津々な様子で目を丸くしていた。

「ぅおおぉぉーっ! や、やっぱ、ガイジンさんだったんだぁっ! すっげぇー! 俺、初めて間近で見たよぉーっ!」
「なっ、なに言ってるのよっ? 『がいじんさん』って、私の名前はクリス・・・」
「なぁなぁっ! 何処の国の人? てか、日本語うめーなっ! 日本暮らし長いの?」

明空にずいずいと迫られ、クリスは一歩ずつ後退る。

「ど、『何処の国の』って、アレスティア王国・・・って言うか、『にほんご』なんて話してないし、『にほん』なんて国は聞いたことすらないわっ!」
「えっ!? でも俺、日本語しか話してないぜ? ・・・しかも、『アレスティア王国』って国は聞いたことねぇよ。」
「・・・えっ?」

二人は同時に黙り込み首を傾げた。
暫しの静寂が流れ、クリスが口を開く。

「・・・どうやら、住んでいた世界自体が違うと考えるしかなさそうね。でも何故か、言葉は通じると・・・。」
(違う世界の住人同士を一緒くたにできるなんて・・・。キングという男、想像以上に凄い力を持っているということね・・・。)

クリスは真剣な表情で俯いた。

「・・・なんか、夢みたいな話だなぁ。」

呆然とクリスの言葉を聞いていた明空はそう呟いた。
クリスは彼の率直過ぎる感想に苦笑しながら軽く頷く。

「・・・でさ、クリステル・・・」
「クリスでいいわ。歳もそんなに離れてないみたいだしね。」
「ん、じゃあ・・・クリスは、この後どうするんだ?」

クリスは少しだけ悩む素振りを見せてから答える。

「そうね、北に向かおうかと思ってるわ。地図を見たら商店街ってのがあったはずだもの。」
「ああー、あの商店街? それなら、俺、通ってきたけど。」
「えっ? そうなの?」

クリスの言葉に明空は大きく頷いて、経緯【いきさつ】を説明した。

「・・・で、今に至るってトコ。大きな街だったけど、人が居るって感じはしなかったなぁ・・・。」
「そう・・・。」
(彼がこの場でウソをつく理由はないはずだから、誰も居なかったというのは信じても良さそうね・・・。)

クリスは顎に軽く手を当て、俯いた。

(入れ違いの可能性もあるけど、彼の話を聞く限りでは発生している可能性は低そうだし・・・そうね。)

クリスはゆっくり顔を上げて口を開いた。

「・・・知り合いを探しに商店街に寄る予定だったんだけど、それなら、先に廃墟に向かうことにするわ。」
「そっか、クリスは知り合いを探してるんだ・・・。俺は、弟と合流するために木造校舎に向かおうとしてたんだ。」
「・・・なるほどね。」

クリスは地図を頭の中に思い浮かべ方向が違うことを確認すると、一度溜め息をついた。
そして、何故か後ろ髪を引かれるような思いを感じながら踵を返した。

「・・・じゃあ、此処でお別れね。お互い、無事に逢えると・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」

明空の言葉にクリスは振り返りながら尋ねる。

「・・・なに?」
「その・・・さ。一緒に行ってもいいか?」

クリスは明空の申し出に心臓が撥ね上がるのを感じるが、平素を装って切り返す。

「一緒にって・・・弟さんと合流するんじゃなくて?」
「そうだけどさ・・・やっぱ女性一人でうろつくのは危険かなーって思うし・・・。」
「心配してくれるのはありがたいけど、私なら大丈夫よ。」
「それによ、ちゃんと侘びも入れてぇし。あいつなら、俺よかしっかりしてるから、少しぐらい遅れても大丈夫だろうし・・・。」

明空は恥ずかしそうに頭を掻いて俯く。
クリスは心臓が高鳴っているのを悟られないよう、大きく溜め息をついてから答えた。

「・・・分かったわ。一緒に行きましょう。」
「い、いいのかっ! 俺、頑張って守るぜ!」

明空の屈託のない笑顔に、クリスは慌てて視線を反らす。

「べっ! 別にそんな頑張らなくてもいいわっ。 私、こう見えても結構強いのよっ。」
(異性から『守る』なんて・・・初めて言われたわ・・・。)

クリスは高鳴る鼓動を悟られないよう、早足で歩き出す。
明空は慌ててクリスの後を追いかけた。
[35]投稿者:「合流−サラダ・ボウル−」その4 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/06/21(Sun) 20:34 No.335   HomePage
「にゃはぁぁっ! ふにゅぅぅうぅーーっ!」

・・・あれから、どれぐらいの時間が経ったのだろう。
私はあいつの用意した罠から抜け出せそうになかった。

「にゃぁああんにゃんっ!」

甲高く【かんだかく】心地良い鈴の音が私を誘い、甘くて美味しそうな匂いが私の身体をどんどん蕩【と】けさせていく。
私の意識は桃色の地獄に堕ちていた。

「――にゃっ!?」

その刹那、風に乗って別の臭いが僅かに流れてきた。
私は本能的に袋を投げ捨て、デイパックを拾い近場のくさむらに伏せる。

(人の・・・臭い・・・!?)

意識は桃色の地獄に沈んだまま、身体が条件反射で周囲を警戒する。
すると、少しずつではあるが人の気配が近づいてくるのが分かった。
私の身体は、いつでも飛び出せるように身構えて様子を窺うことにした・・・。

〜〜〜〜

「うわーっ! すっげーキレイな花畑だなー!」
「本当、綺麗ね。」

あれからクリスと明空は東へ森を進み、出口付近で山脈を目撃した。
二人は相談した結果、山越えを敬遠して南に迂回することにし、花畑へと踏み入っていた。
二人が花畑の予想外の美しさに心を奪われながら進んでいた時である。

『にゃぁああんにゃんっ!』

突然、盛りのついた獣の鳴き声が聞え、二人は現実に引き戻された。

「な、なんなの、今の鳴き声っ!?」
「なんだって、猫じゃないの?」
「た、確かに猫みたいな鳴き声だったけど・・・!」

クリスの脳裏に”ルシフェル”の件が思い出された。
今回もあの男が放った魔物で、猫を装った新種の可能性がある。
クリスは身構え、声のした方角に意識を集中した。

「・・・あっ! ちょっと、明空っ!」
「俺、ちょっと見てくるよっ! 実は俺、猫好きなんだっ♪」
「見てくるって! 危ないわよっ! あの男が用意した魔物かもしれないわっ!」
「大丈夫だって♪ もし、化け猫だったらダッシュで逃げてくるからさっ♪」

クリスの心配を他所に、明空は笑顔で声のした方角へ走り出した。
クリスは溜め息を混じえながら慌てて明空を追いかけた。

〜〜〜〜

「・・・うーん、この辺のような気がするんだけどなー。おーい、猫ー、でてこーい。」

明空は猫の鳴き声がした辺りで立ち止まり、周囲を見回しながら呼びかけた。

(・・・仕方ない、こうなったらいつでも戦えるようにして警戒するしかないわね。)

一歩遅れて到着したクリスは、いつでも魔法が放てるように身構えて周囲を警戒した。
明空が周囲を歩き回っていた時である。

「・・・んっ? 鈴の音?」

明空の足になにかが当たり、鈴の音が小さく鳴った。
明空はそれを拾い上げてみる。

「・・・なんだろこれ?」

明空は拾った物をクリスに見せて問い掛けた。
クリスはそれに少し顔を近づけ観察してから答えた。

「・・・微かにマタタビの臭いがするわね。匂い袋と言った所じゃないかしら?」
「へー・・・マタタビって、あの猫が好きなヤツだよな?」
「そうね。・・・でも、どうしてそんな物が此処に?」
「――それ、返してっ!!」

突然、誰も居ないと思っていた方角から怒鳴り声が聞えて、二人は慌ててその方角へ振り向く。
そこには頭に猫のような耳をつけた女性が立っていた。
彼女は、自分で声を掛けたにも関わらず、何故か呆然と立ち尽くしていた。
三人の間に静かで重苦しい時間が流れる。

「・・・あ、ああ。ごめん。返すよ。」

明空が持っていた匂い袋を投げ渡そうとした時である。
彼女の身体が僅かに撥ねると、突然明空に飛び掛った。
あまりに突然のことに、明空は体勢を崩し、そのまま押し倒されてしまった。

「いでぇっ!!」
「――明空っ!?」

クリスは慌てて魔法を放とうとするが、それよりも早く彼女は飛び退いた。

「――あっ! ご、ごめんっ! 大丈夫だった!? 貴方っ!!」

彼女は慌てて頭を下げ、明空に手を貸した。
クリスは彼女の行動の真意が測れず、少し彼女と話をしてみることにした。

「・・・貴女、何者?」

クリスの警戒心丸出し態度に、彼女は少し飛び退いて身構えた。
彼女が身構えたことに反応して、クリスも素早く身構える。
少しだけ呼吸を整え、彼女は答えた。

「・・・ナビィ。」

クリスはナビィと名乗った少女の姿を鋭い眼差しで観察する。

(あの猫の耳・・・本物の耳のようね・・・。でも、魔物にしては酷く人間味があるわね・・・。)

ナビィの分類に迷ったクリスは、ナビィの行動に注意しながらずばり問い掛けることにした。

「貴女は、魔物? 人間?」
「・・・その、中間の中間みたいな物だよ。」

クリスの問い掛けに彼女は少し悲しそうな声で答えた。
少しの間が開いた後、今度は彼女が問い掛ける。

「今度は私が聞く番だね。・・・貴女、何者? 凄い魔力を感じるけど・・・?」
「クリステル・ジーメンス、魔法使い・・・って言えばいいかしら。」

クリスは不敵な笑みを浮かべて答えた。
それから程なくして、無言で見つめ合っている二人の間に不穏な空気が渦巻く。
その空気に耐えられなくなった明空が口を挟んだ。

「あーもうっ! 二人とも、睨めっこはやめて、仲良くしようぜっ!」

明空の叫び声に反応して、二人は同時に明空へ顔を向ける。
暫しの間が開いた後、クリスが態と大きな溜め息を付いて構えを解いた。

「・・・そうね。どうやら貴女は話が通じる相手のようだし、あまり肩を張る必要はないようね。」

次いで、ナビィも構えを解く。

「・・・そうだね。貴女達、ロアニーの人間って感じじゃなさそうだし。少し、話し合ってみようか。」

それから、三人はお互いのことについて軽く情報を交換しあうことにした。

「・・・で、廃墟に向かおうとした途中に貴女に出会ったのよ。」
「そうなんだ・・・。私は・・・その、あいつの行いをどうやったら止めさせられるか、考えてたよ。」
(マタタビに夢中だったなんて・・・口が裂けても言えないよ・・・。)

ナビィは咄嗟にウソをつき、表情を隠そうと俯いた。
クリスはその様子を疑問に思うが、彼女が恥ずかしそうにしているので、あえて言及しないことにした。

「・・・それで、ナビィはこれからどうすんだ?」

明空は二人が黙り込んだ隙に、すかさず口を挟んだ。
ナビィは少し間を置いてから答える。

「うーん・・・とりあえず、あいつの行いを止めるのを手伝ってくれそうな人を探そうかなって思う。」
「じゃあ、俺と目的は一緒ってことだなっ♪」

明空は満面の笑みでガッツポーズをした。

「そーいうことだから、仲良くしようなっ♪ ナビィ♪ クリス♪」
「・・・って、ちょっと明空。私はそんな話初めて・・・」
「・・・えっ? 俺、クリスは一緒に戦ってくれるって思ってたんだけど?」

明空の純真無垢な視線に思わずクリスは目を背け、態と大きな溜め息をつく。

「・・・分かったわよ。確かに、私もあの男は倒したいし、同胞は多いに越したことはないしね。」
「そーだろっ、そーだろっ♪」

明空は大きく何度も頷き、二人の手を取り重ねていった。
突然のことに二人は驚くが、彼の真意を悟り、仕方なく付き合うことにした。

「よーっし! この調子で仲間を集めて、あのヤローを倒すぞーっ! おーっ!」
「お、おーっ!」
「・・・おーっ!」

三人の足並みの揃ってない掛け声が花畑に響き渡る。
明空は足並みが揃わなかったことが少し不満であったが、彼女達は二度は付き合わないと言わんばかりに先に歩き出してしまった。
明空は仕方なく後を追うことにした。

〜〜〜〜

「・・・・・・あっ!」

その道中、明空が突然声を上げ立ち止まった。
一歩後ろを歩いていた二人が驚いて明空の様子を窺う。
明空はズボンのポケットに入れたままの匂い袋を取り出した。
その瞬間、微かに鈴が音を出し、ナビィの身体が僅かに撥ねる。

「ぅっ・・・!?」
「そうだそうだ、コレ、返すよ。」

ナビィの変調に気付かない明空は、笑顔で匂い袋をナビィに差し出した。
ナビィは身体の芯が熱くなっていくのを感じ、慌てて飛び退く。

「ご、ごめんっ! それ、やっぱ要らないよっ! 明空のデイパックに仕舞っててっ!」
「えっ? でも・・・」
「いいからっ!! でも絶対に無くしたりしないよう、底の方に入れといてねっ!! お願いだよっ!!」

ナビィの反応に釈然としない物を感じながらも、本人が持ってていいと言うので、明空はデイパックに仕舞うことにした。
言われたとおり、底の方に仕舞いこんで、明空は再び歩き出した。

(ナビィ・・・。貴女って、やっぱり・・・・・・猫なのね・・・。)

その一部始終を傍で見ていたクリスは、ナビィの猫としての本能に必死に抗う姿に思わず同情していた・・・。
[36]投稿者:「合流−サラダ・ボウル−」その5 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/06/21(Sun) 20:39 No.336   HomePage
「・・・うーん、誰も居ませんね・・・。」

伊予那は周囲をきょろきょろと見回しながら話しかけてきた。
あれから、間もなくして私達は廃墟へ踏み入った。
廃墟はまるで意図的に4等分したかのように、原型を留めている所と荒地に近い状態になっている所が分かれているようだった。
私達は荒地になっている部分から南下するように捜索をしていくことにしていた。

「そうね。・・・もう少し、南へ行ってみましょう。」
「あ、はい。」

私の提案に伊予那が頷いたことを確認し、更に南へと向かおうとした時だった。

「(――エリナ。)」
「――隠れてっ。」
「――えっ?」

イリスの呼びかけで、私は反射的に伊予那の腕を掴んで、彼女を強引に物陰へと身を潜めさせた。
彼女は私に向かって少しだけなにかを言いたそうな顔をしたが、私の様子から状況を悟ったのかなにも言わず身を丸めた。
私は伊予那の隣で身を潜め、胸元の首飾りを意識しながらイリスに問い掛ける。

「(状況は?)」
「(・・・北から人が来るよ。)」

その瞬間、私の脳裏に先に気絶させた少女のことが思い出された。

「(・・・彼女?)」
「(・・・そう、なのかもしれない。)」
「(『かもしれない』・・・?)」

彼女にしては、とても自信のなさそうな返答だ。
そう感じた私はその理由を問い詰めることにした。

「(どういうこと?)」
「(気配としてはさっきの娘の気配と、全く一緒なんだ。でも・・・。)」

彼女は一旦言葉を切って、再び話しだした。

「(・・・”生きてる”んだ。)」

彼女の言う『生きてる』とは、文字通りの意味ではない。
私はあの時、気を失わせただけなのだから、死んでいるワケがないからだ。
文字通りの意味ではない、『生きている』とは・・・。

「(・・・心がってこと?)」
「(そう、なるのかな・・・。兎も角、あの時の彼女の感じとは違う、明るくて優しい感じがするんだ。)」
「(そう・・・。)」
「(・・・それで、どうする? もうじき、彼女の姿や声がキミや伊予那でも遠巻きに確認できるぐらいの距離になるよ?)」

私は少しだけ考えて、結論を出した。

「(そうね・・・ひと目、確認してから決めるわ。)」

私の出した結論に、彼女は溜め息混じりで問い詰めてきた。

「(・・・もしもアタシの気のせいで、彼女があの時の彼女のままだった時は?)」

私は含み笑いを浮かべて答える。

「(逃げるか、戦うか。・・・貴女が居れば、どっちもできるでしょう?)」
「(・・・あ、あったりめぇーだのくらっかーだよ! アタシに任しとけぇーっ!)」

彼女の声は頼られた嬉しさと恥ずかしさで少し上ずっていた。
私は伊予那に悟られないように小さく失笑する。

(・・・頼りにしてるわ。)

直後、私は無意識の内に彼女を”単なる協力者”以上の相手として見ていたことに気付き、溜め息を漏らした。
そして、私の言いつけ通りに息を潜めたままの伊予那に話しかける。

「伊予那・・・。」
「・・・はっ、はぃ。」

私が小声で話しかけたのに合わせて、伊予那も小声で返事を返してきた。

「私は様子を見てくるから、伊予那は暫く此処で隠れてて。」
「・・・・・・はぃ。」

伊予那は手に持った拳銃を握り締めて頷いた。

「・・・それと。」
「はい?」
「・・・銃は、仕舞っておいた方がいいわ。見せびらかしても相手が驚かなかったら、みすみす武器を渡すことになるもの。」

伊予那は私の言葉に無言で頷くと、持っていた銃をデイパックに仕舞った。
私はその様子を確認すると、物陰から少しだけ顔を覗かせた。
その直後、イリスの情報通り、一人の少女らしき姿が見えた。
同時に、彼女の声が聞える。

「・・・泣いてる?」

聞えてきたのは時々嗚咽が混じった泣き声で、彼女はどうやら左腕で時折涙を拭っているようだった。
私は思わず、そのまま見入ってしまった。

「ぐずっ・・・ミア・・・ちゃん・・・何処に・・・居るですかぁー・・・?」

彼女はどうやら、誰かを捜しているようだ。
しきりに、ミアという名を口にしては周囲をきょろきょろと見回していた。

「(・・・確かに、彼女だね。)」
「(ええ。あの傷、服装、髪色、忘れられるワケないもの。)」

私は彼女の様子を少し観察することにした。
彼女は泣きながら、此方へとゆっくり近づいてくる。

「(――なっ!? 隠れてっ!!)」

突然、イリスが叫び私は反射的に身を隠した。

「――だ、誰か居るですかっ!? ひっぐ・・・其処に・・・ミアちゃん・・・居るですかぁっ!?」

彼女は明らかに、私が隠れている方へと嗚咽混じりに呼びかけてきている。
私は物陰からいつでも飛び出せる体勢で、彼女に気付かれた理由を問い詰めた。

「(イリス、どうして気付かれたのっ!?)」
「(・・・彼女、突然物凄く鋭い視線で気配を探り出したんだ。)」
「(なんですって!?)」
「(きっと、無意識の内にやったんだ。じゃなきゃ、アタシが完全に虚を突かれるワケがないよ。)」

彼女は平素を装っているつもりだろう。
しかし、その声は少し上ずっていて、彼女がにわかには隠しがたい焦りと驚きを感じているのを物語っていた。
私は隣で不安そうな顔を見せる伊予那を手で軽く制すと、イリスに話しかけた。

「(・・・出てみるわ。)」
「(・・・そうだね。このままじゃ、伊予那ちゃんまで巻き添えにしてしまう。)」
[37]投稿者:「合流−サラダ・ボウル−」その6 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/06/21(Sun) 20:40 No.337   HomePage
彼女に気付かれたのは私一人のはずである。
それならば、私が姿を現して気を引けば、最悪の場合でも伊予那だけは逃がすことができるだろう。
私は彼女の前に身を晒すことにした。

「ぐじゅっ・・・うぅー・・・出てきて欲しーですーっ・・・なぞ、怖くないですーっ・・・!!」
「・・・何者?」

彼女は私の姿を見つけると、その場で立ち止まり、涙を拭ってから口を開いた。

「・・・・・・ミア・・・ちゃん・・・じゃないです・・・うぅっ・・・。」
「・・・それで、何者なの?」
「えと・・・その・・・前に・・・です・・・ひっくっ。」

私は質問に答えようとしない彼女に若干苛立ちを感じながらも、彼女の次の言葉を待った。
彼女は涙を拭い、鼻を強く吸ってから言葉を続ける。

「どうしたら・・・泣くの・・・止まるですか?」
「・・・はっ?」

私は彼女の質問の意図が全く掴めず、眉を顰めた。
彼女は私の苛立ちに全く気付いていないのか、或いはあえて無視しているのか。相変わらずの口調で問い掛けてくる。

「なぞ、痛いの我慢して、どうして痛い思いをしたのか、思い出そうとしてるです・・・。でも、痛いの我慢してるのに、涙止まらないです・・・。」

私は思わず、呆然とその場に立ち尽くしてしまった。

「(・・・・・・”ドジッコ”ってヤツ、なのかな?)」

流石の能天気宇宙人、イリスも彼女には唖然としてしまったようだ。
まるで覇気のない声で私に話しかけてきた。

「(・・・そのようね。)」

私は溜め息混じりで彼女に同意した。
そして、彼女の質問に直感で答えることにした。

「・・・思い出すのを、やめたら?」
「・・・・・・やって、みるです・・・。」

彼女はそういうと、目を閉じて大きく何度か深呼吸をした。
そして、ゆっくりと目を開いて涙を拭う。

「・・・おぉぉぉぉーっ!! とまったですぅーっ!! 凄いですぅーっ!」

どうやら彼女なりに相当、思い悩んでいたらしい。
彼女は満面の笑みで何度も飛び跳ねた。
私は彼女に聞えるように大きく咳払いをして、三度同じ質問を問い掛けた。

「・・・で、貴女は?」
「・・・ふぇっ?」

彼女の間の抜けた返答に、私の苛立ちは更に募る。

「・・・何者?」
「・・・あ、えっと・・・なぞ。ですっ♪」

私は彼女の名乗った名前が名簿にあったか、暗記していた内容を反芻した。
その結果、確かにそのような名前があったのが確認できた。
正直、名前なのかどうか疑わしくもあったが、どうやら本当に名前だったようだ。

「それで・・・なぞ。」

私はそこで一旦言葉を切った。
本当はなにをしに来たのか等を問い詰める予定だったが、この様子では聞くまでもないだろう。
私は大きな溜め息を一つつき、別の質問をすることにした。

「・・・ミアって人とは、何処まで一緒だったの?」
「えっ? ・・・えと、この近くで友達になって、それから、ずっとあっちに行って・・・。」

私は苛立ちが募るのを必死で抑え、彼女のペースに合わせる。

「それから・・・あっ! 思い出したです! なぞ、森の中にあった変な建物の前で、空に浮かんでた女の子を見かけて・・・それから・・・それから・・・。」

彼女の声が突然小さくなっていく。
そして、また泣き出してしまった。

「あ、れ・・・なぞ・・・また・・・泣いてるです・・・。」

多分、彼女はそこでなんらかの理由でミアとはぐれてしまったのだろう。
その理由は多分、彼女が原因で起きたことで、その辛さや悲しさから逃れるため、記憶を閉ざしたという所だろう。
私はそう推測した。

「(・・・なるほどね。・・・それで、このなぞって娘、どう見る? エリナ。)」

イリスも恐らくは同じ結論に達したのだろう。
私が今から相談しようとしたことを先に相談してきた。

「(・・・今は、無力ね。とても、あの時の彼女と同一人物とは思えないくらい。)」
「(あー、”にじゅうじんかく”ってヤツ? あの、紫色の刺々しい髪型の男子みたいな・・・。)」
「(・・・二重人格って線はありえるわね。)」

少なくとも、彼女では意図的に別の人格を演じることは不可能だろう。
無意識の内に記憶を封じていたりすることも踏まえると、二重人格者である可能性はある。

「(むぅー・・・で、どうするの?)」
「(一応、連れて行くわ。)」

幸い、この人格の彼女は極めて無力だ。
それに、別人格の時のこととは言え、右腕に重傷を与えた責任も一応感じている。
せめてその分ぐらいは面倒を見ないと、私の気が済みそうになかった。

「(・・・大丈夫なの?)」
「(そうね・・・。二重人格者ならば、性格が入れ替わる条件さえ分かれば、或いは・・・)」

人格が切り替わる条件が分かれば、知らない内に人格が切り替わってたという事態は防げるはずである。
私のいわんとしていることを悟ったイリスが口を挟んだ。

「(・・・オーケー。エリナ、キミに任せるよっ♪)」

私は小さく頷くと、まだ声を大にして泣いているなぞに話しかけた。

「・・・ほらっ、なぞ、思い出すのをやめなさい。」
「うえええーんっ・・・ひっぐ・・・・・・あっ、とまったです! えと、ありがとですっ♪ んと・・・」
「・・・エリナ。」
「エリナッ♪ なぞはエリナと逢えて嬉しいですっ♪」

なぞの屈託のない笑顔に、私は思わず恥ずかしさを感じて視線を逸らした。

「そ、そう。・・・それで、なぞ。貴女はミアという人を探しに行くのね?」
(逢えて嬉しいなんて・・・初めて言われたわ・・・。)
「うんっ、なぞはミアちゃんを探すですっ! ミアちゃん、きっと寂しくて泣いてるですっ!」
「・・・・・・そうね。」
(『厄介なのが居なくなって嬉しい』って、思ってるかもしれないわね・・・。)

私は一度溜め息をついてから、次の質問をする。

「・・・当てはあるの?」
「んと、その・・・ないです・・・。実はなぞ、ミアちゃんと最後にみた建物の場所・・・覚えてないです・・・。」
「そう・・・。」

私の予想通り、彼女は思い出せた順に探し回るつもりであったようだ。
それならば、どうとでも理由をつけて、彼女を暫く一緒に同行させることは可能だろう。

(”思い出そうとする”ことは、鍵ではなさそうだから・・・。次は、コレね・・・。)

私は最後に、あの時の彼女が持っていた拳銃を取り出して、見せてみることにした。
別人格の時に使っていた凶器を見ることが、人格変動の鍵の1つとして考えられるからだ。
それに今ならば、もし人格が変動しても伊予那を巻き込む心配もない。

「・・・ちなみに、貴女。これに見覚えは?」
「そ、それは・・・っ!?」

拳銃を見るなり彼女がとても驚いたように目を丸くした。
私は人格変動を想定し身構える。
しかし、その後の彼女の行動は私の予想を見事に裏切るものだった。

「・・・カッ、カックイーですっ! エリナっ、そういうの集めるですかっ!?」
「・・・はぁっ!?」

私の驚愕の声も聞かず、彼女は瞳を爛々と輝かせ興味深そうに拳銃を見ていた。
私が呆然としていると、彼女は興奮気味に尋ねてきた。

「そ、それ、持ってみていいですかっ!?」
「・・・えっ!? ・・・ええ。」
(・・・しまったっ!)
「やたっ♪」

私がうっかり同意してしまったことを後悔していると、彼女は掠めとるように私から拳銃を取っていった。
彼女は私の心配を他所に、手にした拳銃を興味深そうに手の中でくるくると回して観察した。

「ありがとですっ♪ これ、返すですっ♪」
「あ・・・ありがとう・・・。」
(・・・・・・どうやら、これは鍵の可能性が低そうね。)

私は彼女から受け取った拳銃を再び仕舞い、大きな溜め息を1つついた。
それから、彼女に同行を提案することにした。

「・・・それで、なぞ。良かったら、暫く一緒に・・・」
「なぞ、一緒に行くですっ! なぞ、エリナと友達になったですっ!」
「・・・・・・そう。よろしく、なぞ。」
「はいっ♪ 此方こそよろしくですっ♪ エリナ・・・と後、そこに居るひとー♪」
「――っ!?」

私は慌てて彼女の視線を追うように振り返った。
そこには確かに私と伊予那が身を潜めていた物陰があり、彼女の視線は寸分違わずそこへ向いていた。
つまり、彼女は私が気付かない内に伊予那の存在も認識していたことになる。

「(イリスッ!!)」
「(あー、ごめん。彼女、今さっきさりげなく気配を探ってたよー。言うの忘れてたぁー。はっはっはっ。)」
「(なっ! そんな大事なことをどうしてっ!)」

私の問い掛けにイリスの感情の篭ってない笑い声でただ笑うだけだった。
私は、その様子から既にイリスの中で現在の彼女が脅威でないと判断したのだと悟った。

「(・・・・・・了解。)」

それならそうと言ってくれればいいものをと思いながらも、溜め息混じりに私は答えた。
そして、恐らくは物陰で突然呼びかけられ、心臓を鷲掴みにされたような気分を味わっているであろう伊予那に声をかける。

「・・・大丈夫よ。伊予那。」

私の呼びかけで、伊予那はゆっくりと物陰から姿を現した。
私となぞとのやり取りを聞いていたのもあってか、伊予那は自らなぞに自己紹介を始め、彼女と廃墟を捜索することに同意してくれた。
それから間もなくのことである。

「(・・・エリナ、南西からこっちに近づいてくる気配があるよ。)」

イリスの声色から、警戒の度合の高い相手ではないことを推し量りつつも、私は一応尋ねる。

「(・・・詳細は?)」
「(んっ・・・。人が3人まとまってる。中に男の子が一人居るみたい・・・。悪い感じは・・・しないかな。このまま南下すれば、遭遇するかも。)」
「(そう・・・。一応、警戒しつつ南下しましょう。)」
「(りょーかいっ。アタシのセブンセンシズに任せなさいっ♪ エリねえは泥船に乗った気で居ていいよっ!)」
「(・・・『大船に乗った気で』でしょう?)」
「(そーともいう♪)」

私は二人にはこのことを暫く隠して、南下していくことにした・・・。
[38]投稿者:「合流−サラダ・ボウル−」その7 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/06/21(Sun) 20:42 No.338   HomePage
「・・・ホント、まさに廃墟って感じだなー。」

明空は遠巻きに見える半分以上荒地と化している城に向かいながら呟いた。

「そうね・・・。不自然な壊れ方って印象も受けるけど・・・。」

明空の言葉にクリスは右隣で頷きつつ、自身が持った感想を述べた。

「うん、私も確かにヘンな壊れ方をしてる気がする・・・。」

その一歩後ろに居たナビィがクリスの言葉に同意して頷いた。

「よっしゃ! 善は急げって言うし、さっさと行こうぜっ!」

明空は胸元で右手を左手に勢いよく打ちつけ気合を入れると、廃墟へと走り出した。

「あっ、明空っ! 待ちなさいって!」
「むっ! 走りなら負けないよっ! 明空っ!」

クリスとナビィは明空の後を慌てて追いかけた。
それから三人は、廃墟に駆け込むまでずっと走ったままだった。

「・・・全く・・・こんな・・・走らされたの・・・久しぶりよ・・・っ!!」
(アーシャに付き合ってる時ぐらいだわ・・・っ!)

両手を膝に突き、肩で激しく息をしながらクリスは悪態をついた。

「・・・じゃ・・・じゃあ・・・走らなきゃ・・・よかった・・・じゃない・・・。」

柱だった物の残骸に寄りかかり、何度も大きく呼吸を繰り返しながらナビィが応えた。

「仕方ない・・・じゃない・・・あ・・・明空が・・・走るん・・・ですもの・・・っ!」
「な・・・なんだよ・・・二人とも・・・ずっと走ってるから・・・俺もつい・・・走ったまま・・・だった・・・だけだぜ・・・。」

手頃な瓦礫に座って休んでいた明空は、クリスの言葉に反論した。
しかし、三人とも走り疲れているせいでそれ以上の会話をする気力が沸かず、それ以降は暫し呼吸音だけが響いていた。
それから少しして、大分呼吸が落ち着いてきた三人は廃墟の捜索を開始した。
三人が少しずつ北へと捜索を進めていた時であった。

「・・・誰か近づいて来るよっ。」
「・・・そのようね。」

クリスとナビィは同時に立ち止まり、気配を感じた方向に身体を向けた。
ナビィはクリスの傍らに近寄って問い掛ける。

「・・・クリス、どうする?」
「そうね・・・って明空っ!」

二人が相談していることに気付かない明空は、こともあろうに気配のした方向へと進んでいた。

「おーいっ!! 誰か居るかーっ!? ってうわっ!?」

無用心にも大声で呼びかける明空を、二人は慌てて羽交い絞めにした。

「な、なにすんだよクリスっ! ナビィっ!」
「ごめん明空っ! 誰か近づいてきてるんだっ!」
「そういうことよっ! 相手が悪人だったらどうするのっ!」

しかし、明空を羽交い絞めにするのが遅かったようだ。

「誰か居るですかーっ!? 今、なぞとエリナと伊予那、そっち行くですーっ!」

気配のした方向から、恐らくはその気配の主と思われる女性の声がした。
彼女の台詞から、どうやら向こうも3人で行動しているらしい。
二人が反応を考えている隙に、明空が羽交い絞めを振り切って応える。

「おおーっ! 此処にいるぞーっ! ってうわっ!」

二人は慌てて明空を羽交い絞めにする。

「ちょっ! 明空っ! 勝手に答えないでってばっ!」
「そうだよっ! もし悪い人だったらどうするのっ!」
「な、なんでだよー! 可愛い声だったじゃねぇかっ! 悪いヤツだなんて俺には思えないぜっ!」

明空のなんともいい加減な結論に、二人は声を荒げて反論する。

「な、なによ、その、声が可愛いから悪いヤツじゃないって! いい加減過ぎるわっ!」
「そうだよっ! 罠かもしれないよっ!」
「なんでだよぉっ! クリスもナビィもイイヤツだったから、間違ってないだろっ!」
「――なっ!?」「――に゛ゃっ!?」

明空の言葉に二人は思わず顔を赤らめ、拘束を解いてしまった。
明空はすかさず走って声のした方向へと向かう。

「・・・あっ! こらっ! 明空っ! 待ちなさいっ!」
(アレってつまり・・・私は可愛い声って、ことよねっ? そんなこと、初めて言われたわ・・・っ!)
「・・・あっ! 明空ぁっ!」
(可愛い声・・・って初めて言われたよぉ・・・っ!)

二人は慌てて明空の後を追いかけた。

〜〜〜〜

それから程なくして、三人は件の三人組に遭遇した。
三人組は其々、エリナ、伊予那、なぞと名乗った。
簡単な自己紹介の後、6人はこのゲームに巻き込まれて初めての食事をすることにした。
6人は手頃な瓦礫や石を円状に持ち寄って座り、食事をしながらこれまでの経緯を語りあう。

「・・・で、伊予那となぞの知り合いを探すため、三人で廃墟を進んでいたのよ。」

エリナはこの廃墟につくまでのことを、別人格だった頃のなぞに襲われた件を省いて説明した。
なぞと伊予那はエリナの言葉に短く頷く。

「へーっ、じゃあ俺達と一緒の目的だったんだなぁー。」

明空は商店街から持ってきた弁当を食べながら大きく頷いた。

「・・・一緒の目的?」
「ええ。私の知り合いがこの廃墟に居るかもしれないと思ってね。」
「そう・・・。」

エリナの問いにクリスが一言で返す。
エリナは小さく頷いてから切り返した。

「それなら、今まで得た情報を交換した方がいいわね。」
「そうね。」

エリナとクリスは同時に含み笑いを見せて、手早く荷物を纏めると地図とメモ帳を広げた。

「じゃあ、まず、私からね・・・。と言っても、私も彼女らも他の施設に訪れてないから、特に情報はないわ。」

エリナは二人との遭遇地点やなぞの怪我のことを適当に見繕いつつ説明した。
クリスはその話に違和感を感じながらも、複雑な裏事情があることを察してあえて言及しなかった。

「そう・・・。私の方は、彼が商店街を通って来たけど誰も居なかったと言っていたわ。」
「・・・本当?」

クリスの言葉がエリナにはにわかに信じられなかった。
エリナにとって、商店街はキングが罠を仕掛けている場所だという想定があったからだった。

「・・・彼が、私を騙せるようなウソをつけるように見える?」

クリスが目で明空を指し、エリナも明空の様子を一瞥する。
明空は二人の視線に気付くこともなく、タコの形をしたウインナーをなぞの頂戴攻撃から必死に守っていた。

「・・・無理ね。」

エリナの答えで、二人は同時に苦笑した。

「(・・・どうみる? イリス。)」
「(作戦が読まれてたかどうかは、今となっては確認のしようがないけど、少なくともエリナの声は彼に届いてなかったということだね。)」
「(そうね。・・・ともあれ、これで伊予那を連れてアクアリウムに行けるわね。)」
「(そうだね、明空君が一度見てきてるからっていう分かりやすい理由があるからね。)」

イリスは一度深呼吸をしてから再び口を開く。

「(・・・でさっ! エリねえっ! 明空君ってどことなーく、ハヤト君に似て・・・)」
「(・・・お祓い。)」
「(・・・ないですよねー。うん、アタシ、そー思ってたよーエリねえー。)」

エリナは一度溜め息をつくと、クリスに提案した。

「・・・それで、クリスさんはこれから国立魔法研究所に向かうのね?」
「ええ。・・・エリナさんは?」
「そうね・・・。もう少し南下して、アクアリウムに向かおうと思っているわ。」
「そう・・・。」

クリスは溜め息をつき、空を見上げて呟く。

「残念ね・・・。貴女となら、話が合いそうなのに・・・。」

エリナは微笑み、クリスと同じように空を見上げて呟く。

「・・・そうね。無事、元の世界に帰れるよう健闘を祈ってるわ。」
「貴女もね・・・。」

二人は目で互いの道中の無事を祈りあった。
それから、同時に立ち上がって4人に声を掛けた。

「聞いて。私はこれからアクアリウムへ、クリスさんはこれから国立魔法研究所へ向かうつもりよ。」
「えぇーっ!? 皆で一緒に行かないですかっ!?」
「そーだぜっ! 折角だしさーっ!」

文句を言う明空となぞをクリスは手で制し、話し始めた。

「安全だから全員で行動したいという意見も分かるわ。でも・・・。」

クリスは一旦言葉を切り、4人の顔を一瞥してから続きを切り出す。

「行く先が違うんですもの、仕方ないわ・・・。」
「そこで、二組に分かれようと思うわ。チーム分けは、特に異論がなければ出会った時のままでいいと思うけど・・・。」
「最終的にどうするかは貴女達の判断に任せるわ。」

二人の提案に、其々が自分の意見を言おうとした時である。
あの、忘れたくても忘れられない声が頭上から響き出した。
その声がこれから全ての思惑を突き崩すとも知らず、6人は頭上を見上げるのだった・・・。
[39]投稿者:「合流−サラダ・ボウル−」その8 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/06/21(Sun) 20:44 No.339   HomePage
【B−4:X1Y4/廃墟/1日目:昼】

【クリステル・ジーメンス@SILENT DESIRE】
[状態]:健康、魔力残量十分
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
モップ@La fine di abisso
白い三角巾@現実世界
雑巾@La fine di abisso
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.全員で行動することには反対しないが、行き先を変えるつもりはない
2.道中でアーシャ・リュコリスかエリーシア・モントールと会えたら合流する
3.首輪を外す方法を考える

※明空のことが何故か気になってます、もしかしたら惚れました

【御朱 明空(みあか あそら)@La fine di abisso】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
おにぎり×4@バトロワ
ランチパック×4@バトロワ
弁当×1@バトロワ
ジュース×3@バトロワ
包丁@バトロワ
ライター@バトロワ
傷薬@バトロワ
包帯@バトロワ
マタタビの匂い袋(鈴付き)@現実世界
ツルハシ@○○少女
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.全員で行動したいが判断はクリスに任せる
2.行き先はクリスの意見に従うつもり
3.本音は冥夜を捜しに古い木造校舎へ向かいたい
4.殺し合いに乗る人なんていないと思ってる

※何かあったら自分が身体を張って全員を守るつもりです

【富永エリナ{とみなが えりな}&アール=イリス@まじはーど】
[状態]:健康
[装備]:運命の首飾り@アストラガロマンシー(首から提げて、服の中にしまっている)
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
ハロゲンライト(懐中電灯型)@現実世界(電池残量十分)
巫女服@一日巫女
アイスソード@創作少女
ハンドガン@なよりよ(残弾5)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.全員で行動することには反対しないが、行き先を変えるつもりはない
2.伊予那にはアクアリウムに同行してもらうつもり
3.とりあえず、なぞちゃんもアクアリウムに同行させるつもり

※なぞちゃん撃退により、アクアリウムまでは安全だと思ってます
※何かあったら伊予那を守るつもりです
※なぞちゃんを二重人格者であると思っています、人格反転の鍵が分かるまではイリスが警戒をすることにしました

【神代 伊予那{かみしろ いよな}@一日巫女】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
ベレッタ M1934@現実世界(残弾8)(安全装置未解除)
9ミリショート弾x30@現実世界
SMドリンク@怪盗少女
[基本]:桜と生きて帰る
[思考・状況]
1.エリナについて行って、桜を探す
2.銃は見せて脅かすだけ、撃ち方は分かったけど発砲したくない

※エリナから霊的な何かの気配を感じ取っています
※何かあったらエリナを守るつもりです

【なぞちゃん@アストラガロマンシー】
[状態]:右腕は再起不能(とりあえず明空の持っていた包帯で傷口は隠してある)、記憶喪失中
[装備]:四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
油性マジック『ドルバッキー(黒)』@現実世界(新品、ペン先は太い)
たこ焼きx2@まじはーど(冷えてる)
クマさんクッキーx4@リョナラークエスト
[基本]:記憶回復時:手当たり次第に殺す
    記憶喪失時:対主催、皆で仲良く脱出
[思考・状況]
1.皆で一緒に行動したい
2.できれば一緒にミアを探して欲しい

※記憶反転中の出来事は全く思い出せません
※記憶反転の鍵はまだ不明確です
※使い方が分かる現実世界の物は多いようです

【ナビィ@リョナマナ】
[状態]:正常
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(パン1食分消費)
ブロードソード@アストラガロマンシー(本人は未確認)
ノートパソコン&充電用コンセント(電池残量3時間分程度、主電源オフ、OSはWin2kっぽい物)@現実世界(本人は未確認)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.皆で一緒に行動したい
2.でも分かれそうなら、明空についてマタタビの匂い袋が他人の手に渡らないようにするつもり
3.キング・リョーナの行いをやめさせる

@後書き
凄く長くなりました。
しかもなんか無理矢理集めちゃった感じが否めません。><
[40]投稿者:『鷲の少女 Ep1』19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/06/21(Sun) 21:55 No.340  
〔Ep1 小さな復讐者〕

「……一人で行動したかったとはいえ、
まさかこんな所に飛ばされるなんてね……」

陽が自分の真正面に上っている光景を見て
ハーフエルフの少女リネルは自分の現在地を知って落胆する。

「デイパック……というものらしいけど、
中に入っていた地図でとりあえず大体の位置は分かったわ」

そう、ここはB-3の山の頂……
このゲームの主催者キング・リョーナが転移魔法を使って
私を含む参加者をバラバラに飛ばしたんだろう。

そして私は不運にも(いや、幸運なのだろうか?)
こんな隔離されたような場所に飛ばされてしまい、
一人で現状把握をしていた。

「ゴートやダージュも離れてくれて助かったわ……
同じロアニーのメンバーではあるけど、
足手まといは何のメリットにもならないからね」

元より団体行動なんて邪魔以外の何物でもない上、
よぼよぼの爺とイッてるエルフと同行する気なんて
さらさらないリネルは、こんな険しい山頂でも
あまり文句の言葉は出さなかった。

もし……文句があるとすれば……

「……くっ……あの男……屈辱だわ………
ルールとはいえこんな首輪を付けられるなんて……」

リネルは首に取り付けられた爆弾付きの首輪を
ちゃらちゃらと動かし、恨めしげにキング・リョーナに悪態を飛ばす。

彼女は、常に自分が主導権を持ちたい思想の持ち主故に、
誰かに従するような錯覚の起こるこの首輪は、
自身を常に辱めてるようにも思えて仕方がなかった。

そんな屈辱を受けながらもリネルがゴートを介して
このゲームに参加したのには二つの理由があった。

「ナビィ……オルナ……エマめ………
今度は前のようにはいかないわよ……」

理由の一つは復讐だった。
捕らえてロアニーのアジトに連れて行くはずだったのに
三人の人外の少女達に返り討ちにされてしまったことに
彼女は激しい憤りを感じていた。

しかし、それだけの理由だったらこの舞台に参加せずとも
いくらでもその機会はあった。

「ここにはあの男が集めた、強い生気を持つ女が参加している……
私の目標を成就するために、必要な獲物が……」

信じられない話ではあるが、この幼い姿のリネルの実年齢は500を超える。
これはハーフエルフである彼女が女性から生気を奪い取り、それを禁術という、
高度だが、外道と分類される技術で若さへと転換している。

とある目標のため、彼女はこのゲームに参加した(させられた)
女性から生気を奪い取って殺すことが二つ目の理由だった。
[41]投稿者:『鷲の少女 Ep2』19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/06/21(Sun) 21:56 No.341  
〔Ep2 気付かぬ利害〕

すぐにでも行動を開始したいリネルだったが、
ゲーム開始前のホールには実力者がかなりいるのを感じ取り、
迂闊な行動は逆に自身を陥れてしまう。

彼女はデイパックを開き、自分の力と支給品と称される
道具の確認を始めた。

先ずは先程取り出した地図、
次に出てきたのは何かの会得書だ。
二つとも役に立つかどうかは期待薄といった所だ。

後は食料のパンと水の入った変わった筒が入っているだけで
戦闘に関係するアイテムは皆無だ。

「あの男……! 本気で私を馬鹿にしてるわね!?」

人一人を意図も簡単に殺せるのだから
当然のこと武器も豊富に持っていると踏んでいたため
こんな役にたたなそうなものを配られた側としては
遺憾としか思えなかった。

「もういいわ……そんなもの無くたって
私の力だけで参加者を皆殺しにしてあげる!!」

だんっ! だんっ!

激昂したリネルは何処とも知れず、
ただ獲物だけを追い求めて山を駆け下り始める。

リネル自身は頭に血が上っていて気付いていないが、
彼女が今現在駆け下りているスピードは
鷲が獲物を見定めて滑空するそれと
なんら変わり無いほどになっていた。

その訳は、無意識のうちに魔法を発動し、
ある文章を術式印語に転換したが故のことだった。

その文章とはリネルが先程取り出した本、
『怪盗の心得』という会得書に羅列されているもので
全貌は術式化出来なかったが成功した文面にはこう記されている。

雄々しき岩場あれば 其は鷲となりて空を舞うべし
海の如し水場あれば 其は蓮となりて水面に浮くべし
背の高き森閑あれば 其は風となりて狭間を縫うべし

怪盗の心得とは、盗みの技術が記されている訳ではなく
あらゆる地形を淀みなく、そして鋭敏に
行動するための心構えを詠ったものだ。

リネルの体はその文章の一つ目を付与して
あっという間に山を駆け降りて
真南方向の森の中へ入り込んだ。

驚異的な素早さをその身に宿したリネルだが、
哀れにも、その方角には復讐の対象となるナビィ達はおらず、
女性の影もどんどん薄れていくことを知りもせずに
ただ木々の間を縫うように走り抜けるだけだった………



【B-3:X2Y3→C3:X2Y2/山→森/1日目:午前】

【リネル@リョナマナ】
[状態]:健康、憤怒、素早さ急上昇
[装備]:血染めの布巻き エルブンマント(通常服装)
[道具]:デイパック、支給品一式、地図
怪盗の心得@創作少女
[基本]:リョナラー、ナビィ達か女性を探す
[思考・状況]
1.ナビィ達を殺す
2.女性を殺す
3.キング・リョーナには叶えてもらう望みもあるがぶっとばしたい
4.怪盗の心得を術に転換して素早さブースト中

※このまま直進しても桜は1マス先に進んでしまうので鉢合わせません。
※湖があるので書き手さんによって立ち寄るかそうでないかを決めてください。
※もしかするとリザードマンやリョナたろうに鉢合わせる可能性が高いです。
※冷静を欠いていて、奇襲で激しく傷つくことはありませんが
屈辱的な行為を受けてしまう可能性もあります。

※力がルシフェルなら、速と魔力はリネルで
同様に参加者を蹂躙します。
[42]投稿者:「お使い大作戦!?」 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/06/27(Sat) 18:05 No.344  
「・・・どうしたの? 早くしてよ。」

初香はメイド服の女性を急かした。

「もぅ、分かってるわよっ。」

えびげんは少女に急かされ、渋々言われたとおりの体勢を取ろうとした。

「・・・あ、待って。」
「・・・なに?」

急かした本人に呼び止められ、えびげんは苛立ちを込めて問い返した。

「その前に、背中のデイパックをゆっくり足元に降ろして。で、一歩下がった所でやってよ。」
「・・・分かったわよ。」
(完全に私のこと信用してないわね、この子・・・。はぁっ・・・。)

えびげんは銃口で促され、ゆっくりとデイパックを足元に降ろし、床に伏せて両手を頭の上に組んだ。

「・・・これで、いいんでしょ?」
(うぇー・・・この床、結構冷たぁーい・・・。)

えびげんは少しだけ顔をあげて、少女に問い掛けた。

「・・・まぁ、いいよ。」

初香はメイド服の女性が不機嫌そうに問い掛けてきたのが鼻につき、態と溜め息混じりに答えた。
そして、彼女が予想通りに嫌そうな顔をしたのを、心の中で嘲笑【ちょうしょう】してから口を開いた。

「・・・どうやら、少しは信用してよさそうだね。」
「じゃあ、もう立っていい・・・」
「まだだよ。」
「はぁっ?」

彼女はショットガンを構えたまま制止を促すと、ゆっくりと近づいてくる。
えびげんは少しでも早く床から離れたかったが、まだ銃口は向けられている。
えびげんは仕方なく、そのままの体勢を保つことにした。

「・・・ねぇー、まだかなぁー? この床、意外と冷たいんだけど。」
「うん、ボクも裸だから床が冷たいのはよく分かる。・・・だからこそってのもあるんだよ。」

えびげんの問い掛けに少女は余裕の笑顔で答えた。
そして、えびげんにゆっくりと近づきながら口を開く。

「文句いいながらもちゃんと言うとおりにしてるなんて・・・。あなた、結構いい人だね。」
「・・・そう? そう思ってくれたなんて、嬉しいなー。」

そう思ってないクセに。と、二人は同時に心の中で悪態【あくたい】をつき、溜め息を漏らした。
それからすぐに、初香はメイド服の女性の傍らで立ち止まり、頭に銃口を突きつけた。
えびげんは頭上に微かに感じた冷たい感覚に、思わず固唾を飲み込む。
初香はゆっくりとしゃがむとえびげんのデイパックを片手に掴み、後退った。
えびげんは少女の行動に驚き、思わず顔をあげて問い掛けた。

「・・・って、ちょっ!? なにをしてるのよっ!?」
「あなたを信用してもいいけど、条件があるよ。」

えびげんの問い掛けに、少女は後退りながら答えた。
少女の言動に納得がいかないえびげんは問い詰める。

「いやっ、信用してるなら、私のデイパック持ってく必要なんて・・・。って、いうか条件ってなによっ。」

えびげんの問い掛けに少女は満面の笑みで答えた。

「とりあえず、テーブルクロスとかカーテンとかシーツみたいのを探してきてよ。デイパックはそれと交換ってこと。」
「・・・それって、人質、いえ、モノ質という・・・」
「あなたの立場で、ボクに反論が許されるとでも思ってるの?」

少女の嘲笑混じりの質問に発言を掻き消され、えびげんは溜め息混じりに答えた。

「・・・はーい。探してきまーす。」

えびげんは少女を刺激しないようゆっくりと立ちあがり、服の乱れを整える。

(ホンット、可愛くない子。楽な死に方できなくても知らないわよー。)
「・・・楽な死に方ができるなんて、思ってないからご心配なく。」
「――へっ!? えっ!? あ、いやっ・・・いっ! 行ってきまーすっ!」

少女に心の中を見透かされた気がして、居た堪れ【いたたまれ】なくなったえびげんは素早く踵を返して部屋を後にした。

〜〜〜〜

「・・・はい。これでいいですか、お嬢ちゃんっ?」

えびげんは建物内から集めてきた様々な布を、処女の足元へ態と乱暴に投げた。
初香は僅かに眉を顰【ひそ】めて答える。

「・・・まぁ、いいよ。・・・うん、あなたは少なくとも殺し合いには乗ってないみたいだね。」
「だーかーら、最初からそう言ってたじゃないっ!」
「そうだったっけ? ボク、そんな些細なことを一々覚えていられる程、優秀じゃないんだよね。」

初香は怒鳴り声をあげたメイド服の彼女を鼻で笑いながら、笑顔で応えた。

「はいはい、そうですかー。そうですかー・・・。」

少女の人を見下したような態度に、えびげんは怒りを通り越して呆れるしかなかった。
えびげんの呆れ口調に構うことなく、少女は投げ置かれた布の中から、手頃な大きさの赤いテーブルクロスを引き抜く。

「・・・ふぅ、これでとりあえず全裸だけは間逃れたよ。」
「それは、良かったねー。・・・で、良かったついでに、そろそろショットガン、下げてくれないかなぁ・・・。」

えびげんの提案に少女は溜め息混じりに頷くと、ゆっくりとショットガンを下げた。
そして、赤いテーブルクロスをローブのように身体に巻きつけ、ズレ落ちないようしっかりと固定した。
えびげんは命の危険を回避できたことに安堵の溜め息を漏らし、少女に話し掛ける。

「・・・でさ。」
「なに?」

少女の明らかに煩わしそうな視線に、神経が逆撫でされるのを感じながらもえびげんは平素を装って言葉を続ける。

「お互い、殺し合いにのってないことが分かったんだし、一応、自己紹介とかしない?」
「・・・名前だけならね。」

少女の素っ気無い反応にえびげんは心が折れそうになり、自己を奮い立たせるため態と少し声を大きくして自己紹介を始めた。

「私は、えびげん。」
「ふーん・・・。」
(『ふーん・・・。』って、まさかのノータッチですか・・・。流石を感じます。)

お世辞にも自分の名前、というよりコードネームは人名とは思えない。
普通ならば、なにかしらの反応があるはずである。
しかし、少女はなんの反応も示さなかった。
コードネームであることが見抜かれているのか、はたまた大して興味がないのか。
今までの言動からどちらの可能性も否定できないだけに、えびげんは彼女の反応に釈然としない思いを募らせた。

「ボクは、初香。」

そんなえびげんの思いを汲もうともせず、初香は淡々と名前を告げた。
そして、少し間を置いてから言葉を続けた。

「さて、早速なんだけど・・・。えびげんさん、1つ依頼したいことがあるんだ。」
「・・・なに?」

どんな厄介事を押し付けるつもりかと思ったえびげんは、少し強張った声で問い返す。
彼女の問い掛けに、初香は少し大きく息を吸ってから答えた。

「恐らく、此処から西へ1キロぐらい行った所に商店街があるはずだから、そこでボクが着れそうな服を数枚取ってきてくれないかな?」
「『取ってきて』って・・・面倒だし、一緒にくればいいじゃん。」

えびげんの溜め息混じりの反論に、初香は少し顔を俯かせて答える。

「・・・この格好で、ボクに表を歩かせるつもりなの?」

初香の恥ずかしそうな表情に、不意を突かれる形になったえびげんは思わずたじろいだ。

「う・・・わ、分かったわよ。仕方ないわね。」
(まぁ、元々行ってみるつもりだったしね・・・。)
「・・・助かるよ。・・・そうだ。もし首尾よく済ませることができたら、刃を飛ばせるナイフを1本あげるよ。」

ナイフ一本だなんてケチなことを言わずにショットガンを寄越せ。と言いそうになった口を慌てて押さえて、えびげんは何度も頷いた。
その様子を怪訝そうに見つめる初香だったが、面倒そうなので言及しないことにした。

「じゃあ、頼んだよ・・・。ボクはあなたが帰ってくるまで、此処で待機してるから。」

えびげんはデイパックを返してもらうと一旦初香と別れ施設を後にした。
そして、お使いを済ませるために急ぎ西へと向かった。

【A−4:X2Y3 / 国立魔法研究所 / 1日目:朝】

【登和多 初香{とわだ はつか}@XENOPHOBIA】
[状態]:健康
[装備]:ショットガン(残弾数3+15)@なよりよ
赤いテーブルクロス@バトロワ
[道具]:デイパック、支給品一式
火炎放射器(残燃料100%)@えびげん
スペツナズ・ナイフx10@現実
[基本]:殺し合いからの脱出
[思考・状況]
1.えびげんが服を探してくるまで待機、見事気に入った物があったらスペツナズ・ナイフを1本あげる予定
2.仲間と情報を集める

【A−4:X1Y3 / 草原 / 1日目:朝】

【えびげん@えびげん】
[状態]:健康
[装備]:メイド服@えびげん
[道具]:デイパック、支給品一式
髪飾り@DEMONOPHOBIA
エルデクーヘンx3@創作少女
魔封じの呪印@リョナラークエスト
[基本]:武器が欲しい
[思考・状況]
1.仕方ないので商店街まで初香の服を探しに行く
2.ついでに武器になりそうな物を漁る
3.ナイフはないよかマシ、でも本音はショットガンが欲しい

@後書き
即投下してみました。
かなり原作と違うキャラになってしまった気がしてます。orz
[43]投稿者:『翼を携える守護剣士Ep1』19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/06/27(Sat) 23:30 No.345  
〔Ep1 純心と赤い煌めき(カナリア視点)〕

「は……はひぃ〜〜……
やっとまっすぐ飛べるようになってきました……」

ふらつきながら、地上より少し高めに浮遊している
羽衣を纏った少女、カナリアは街道を斜め方向に進んでいた。

すでに日は高く、ゲーム開始時刻からかなり経っている。
彼女はこのゲームが開催されてから丸々2時間ほど
目を回しながら辺りを飛び回っていた。

「もぉ〜……急にあんな閃光が広がるんですもの……
避けれる訳ないじゃないですか……」

彼女は光を操る下位の精霊の一種だが、
逆に光に弱い一面も持つ。

先程、ゲーム開始時にキング・リョーナが転移魔法を使用した時に
放った閃光に目を眩ませてしまい、
まるで目印となる光を失った虫の様に
右往左往上下と平衡感覚を取り戻すために飛ぶことになってしまった

彼女は自身で使用するなら光の屈折レベルを変化させて
幻影投射をしたり、目くらましすることも可能だが、
自分以外からの強烈な光を受けると感覚器官が弛緩して
手足や飛行まで動作がままならなくなってしまう。

「まぁ……ロアニーにもその他の悪い人達にも
見つからずに済んだだけ、不幸中の幸いとしましょうか……」

無作為に飛び回っていて、体力に不安が残るが
動けないということはなさそうだ。

「それでしたら……ナビィ様達をお探ししますか、
それか一緒に来てくれる方をお探ししましょう」

なるべく多くの生存者……それも、
このゲームへの参加を良しとしていない人達を探して
生還の道を探すためにカナリアは前もってナビィ達と打ち合わせをしていた。

もし、ナビィ達と最初からはぐれてしまう状況だとしても
惑わされずに目的を果たそうと……主人の望みを叶えようと
カナリアには強く決意していた。

「とは言っても……戦闘は避けたいところですね……
愛用の竪琴も手元にないことですし……」

精霊である彼女は物理的な攻撃手段に乏しく、
魔力を帯びた竪琴の音色を物質化して攻撃するものや
神聖系統の魔術を扱うため、大事な時意外での体力やマナの消耗は
避けたいところだった。

「あ、そういえば支給品があるんでしたっけ……」

ゲーム参加者に配られたデイパックという荷物入れを
肩から降ろし、何か使えそうなものはないかと調べ始めた。

「あ、この中に入ってたんですね。私の竪琴」

デイパックの形が変形していなかったから気付かなかったが
没収されたと思っていた『精霊の竪琴』が入っていたことに
安堵の言葉が出てきた。

「後は……食料と地図と……宝石?」

精霊だから普通の食事は体力の代わりにはならないが、
マナに転換することで魔力はごくわずかなら回復できるが、
後者の支給品には疑問だけしかなかった。

竪琴と同様に、デイパックの中にあることがとても違和感のある
赤く煌めくルビーのペンダントが入っていた。

「……使い道、あるんですかね?」

全く意図の読めない支給品に頭を捻らせながら、
まんざらでもないようにカナリアはペンダントを首に掛け、
また街道を斜めに渡っていく。

すると、何やら大きな門が構えている町の様なものが視界に入ってくる。

「えーと……地図によると、ここは昏い街……」

街とは言ってはみたものの、人の気配どころか
もう人がいたという雰囲気にはまるで見えないほど寂れていて
昏い街という名前は、言い得て妙な街だった。

「あれ? でも、門は半開きになっていますね」

門に掛けられた扉は人一人分くらいの隙間を空けて、
風の通り道になっていた。

長い間このまま放置されていたのか、それとも
誰かが空けたままにしたのだろうか。

「……行ってみましょうか」

もう、私には選択肢がある。
ナビィ様のためにも、私は自分自身で
私に出来ることを私の意志で進めていかなくてはならない。

そう思うと、例え待ち受けているものがこのゲームに乗っている
凶悪な人物だとしても、足取りは淀むことが無い。

私は臆することなく、その街の一角にある
武具の看板の記された店へと向かっていった。
[44]投稿者:『翼を携える守護剣士Ep2』19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/06/27(Sat) 23:31 No.346  
〔Ep2 精霊の存在(フロッシュ視点)〕

「ぐ……うぅ………」

昏い街の武具店から浮かび上がる呻き声。

「くっ……武器は見つけたというのに……
なぜ、このように私の腹は痛みを吐き出すのですか……!」

大凡一時間前、得体の知れない粘質の化け物から逃れ、
この街に留まって体力の回復と武器の調達を図ったフロッシュだったが、
その最中で突然起こった謎の腹痛に、彼女は身動きが取れなくなっていた。

(このままではまずい……! こんなところを先程の化け物や
このゲームとやらに参加した連中に見つかりでもしたら……)

ぱたたた……

「っ!?」

店の外から妙な音がこちらに近づいてくる。

(敵……!? それとも非参加者なのでしょうか……?
ど、どちらにしてもこちらに確実に近づいてきているのは確実……!)

フロッシュは最悪の事態も考慮して、
敵だとしても、そうでない相手だとしても
先手を仕掛けて攻撃手段を遮らなくてはいけない。

ぱたた……ぴた……

(動きが止まった……なら、もうドアの手前にいるでしょうね……
よし、体は動かせずとも……扉を蹴破るくらいなら……)

幸い、この店の戸は外からは引いて開けるものだったから
一矢報いることも可能だ。

「くっ……!」

腹痛で集中力が途切れてしまいそうになるが、
フロッシュは今この状況を打破するために耐えて耐え抜き、
ドアノブが傾くのを凝視した。

そして……

かちゃ………

「あぁぁっ!!」

ばたぁん!! ばぁん!!

「ぴあっ!?」

フロッシュがドアを思い切り蹴破った直後、
何かにぶつかる音と共に奇妙な声がして、静寂が訪れた。

フロッシュは体を引き摺りながら声の主を確認しようと
店の戸から顔を覗かせた。

「こ、子供……!?」

フロッシュの視線の中には
金髪にカールの掛かったセミロングの髪型の少女が
鼻血を出しながら目を回して倒れていた。

どうやら、ドアの向こうにいたのはこの子らしいが
フロッシュは攻撃を仕掛ける相手を間違えてしまい、
後悔の気持ちでいっぱいになってしまった。

「は……はひぃ〜〜……」
「ちょ、ちょっとアナタ……! 大丈夫!?」

腹痛に体が悲鳴を上げるが、
フロッシュはそんなことを気にしてられず、
目の前の倒れている少女の開放に向かった。


…………………………………


「しっかり……!」
「はぇ……? 私は……?」

だらしなく垂れている鼻血をふき取り
肩を揺らして少女の安否を確認すると、
少女はゆっくりと目を開き、何かを呟きながら
こちらに視線を向けてきた。

「? 貴女は……?」
「私は……カーラマン・フロッシュ。
先程は済まない、私が乱暴に戸を開けてしまったために……」
「あ……いえ……私は大丈夫なので気にせず……」
「……本当にだいじょう……ぐっ!?」

無理に動いてしまったため、フロッシュに激痛が走る。
目の前の彼女を介抱しなくてはならないのに
体が言うことを聞かず、その場に屈してしまう。

「……体のなかで、何かが貴女を蝕んでいますね」
「なっ……何を……!?」

蹲っているフロッシュを見て、目の前の少女は
冷静に彼女の症状を見定め、手をかざしてきた。

「変なことはしません。だからじっとしていてください」

ひいぃぃぃぃん……

「!?」

ずぶ……

そう言い終えると、少女の手は白光し、
私の腹の中に沈みこんでいった。

「かっ……!? えぅ……?」
「……どうやら、お腹の中に魔物……スライムが潜伏して
暴れまわっているようですね……」

沈みこんだ手は私に痛みを感じさせず、
まるで同化するように私の中に浸透していった。

「アナタ……一体……?」
「……私、人間じゃなくて精霊ですから出来るんです……
光の下位精霊カナリエル……『カナリア』……それが私の名前」
「精……霊………?」

私が持つ唯一の娯楽、読書の中でそんな単語を
見た覚えがあるが、それはあくまで活字に羅列されたもの、
非現実の産物の筈なのだが、この少女はそれがさも当たり前のように
その単語で自分を括っている。

でも、恐らくそれは事実。

あの男の力、先程の化け物、そしてこの少女の不可思議な力、
それらは本の中の世界がおもちゃ箱をひっくり返したように
私という現実へと流れ込んできた。

私は悟った。
ここは確実に自分のいた世界とはまるで異なる場所、
よくよく言えば、私がおもちゃ箱の中に連れ込まれたんだろう。

「今からこのスライムを除去しますから少しの間動かないでください。
手元がくるって貴女の体の一部を消滅させてしまいたくはありません」

「う……わ、分かったわ……」

消滅という過激な言葉を耳にして、私は萎縮するように固まる。
ずんずんとこの少女は話を先へと進めていっているが、
顔は真剣なので、本当のことなのだろう。

「……セイントっ!!(イレイス)」
「ん……! あぁぁっ!!」

目映い閃光が私を包み込み、
それと同時に私を蝕んでいたお腹の痛みも消え去ってしまう。

「……これで、大丈夫です」

「あ、ありがとう……」
[45]投稿者:『翼を携える守護剣士Ep3』19スレの1◆eFkq.CTY 投稿日:2009/06/27(Sat) 23:33 No.347  
〔Ep3 翼を携える守護剣士〕

「アナタ……私を助けてくれたくらいだから、
このゲームには参加していないのよね……?」
「ハイ……私はナビィ様……仲間達と一緒に
このゲームから抜け出すために協力してくれる人を探しています」
「そう……」

フロッシュは胸を撫で下ろした。

理由は二つあり、自分が先程まで絶体絶命の窮地だったことと、
こんな幼い子までゲームに乗っている人物かと思ってしまったからだ。

「? どうしたんですか?」
「いえ……別に……ただ、アナタが健気にみえてね……」

カナリアは首をかしげてフロッシュを見る。
当のフロッシュは自分の疑念がとてもちっぽけなものに感じ、
心の中で自分を笑っていた。

「それじゃあ、アナタは協力してくれる人第一号を手に入れた訳ですね」
「え……! それでは……?」
「そう……私もアナタに付いていきましょう。
幸い、私は守護することに関しては右に出る者無しと自負しています」
「……ありがとうございます!!」

異世界に来てしまったフロッシュは、ここでの守るべきもの
見定めることが出来た。

この子と……この子の仲間ならこのゲームを
終わらせることが出来るかもしれない……
だとしたら自分はそれの守護者になればいいと思えたからだ。

「さて、さっきの鼻血の侘びも兼ねて私が少し負ぶっていこ……」
「お願いしますぅー! フロッシュさ〜ん♪」

がばぁっ! すりすりすり……

「わっ!? こ、こら! カナリア!
そんなにくっついては………」
「嫌ですぅー! 私達、もう仲間なんだからいいじゃないですかぁー♪」

フロッシュがカナリアの手伝いをすると決めた途端、
カナリアは仲間という言葉にかこつけて
背中に飛び乗って甘えだした。

恐らくはカナリア自身も完全な確証が持てない時には自重していたが、
その心配も無くなったことで、地の部分が浮き彫りになったんだろう。

「……ほら、協力者を探すのでしょう? もう行きましょう」
「はいぃ〜♪」

その時、昏い街に一つの光が灯り、出口へとゆっくり進んでいく。
この光が、ゲームを終わらせる薄明の導き手となるのだろうか……



【D-3:X2Y3→X3Y1/街道付近の平原→昏い街/1日目/午前】

【カナリア@リョナマナ】
[状態]:疲労小、魔力消費小、ご機嫌♪
[装備]:精霊の羽衣(通常服装)、精霊の竪琴@リョナマナ
レイザールビーのペンダント@現実世界
[道具]:デイパック、支給品一式、地図
[基本]:ナビィ達を探す
[思考・状況]
1.ナビィ達を探す
2.フロッシュと行動
3.フロッシュが気に入ったのでべったり
4.敵と遭遇すれば臨戦態勢

※セイントは2タイプあり、ブレイク(破壊)とイレイス(消滅)で使い分けている。
※ナビィはブレイクしか使えない。
※レイザールビーとは、光を原料にルビーの中心に収束してレーザーを照射するもので、
光が強ければ強いほど威力が増す。
※リョナ要素に盛り込むため、精霊も鼻血仕様になっております。

【カーラマン・フロッシュ@アスロマ】
[状態]:疲労回復、腹痛も回復
[装備]:ラウンドシールド(支給品から)
ファルシオン(曲刀、昏い街武具店で調達)@現実過去世界
[道具]:デイパック、支給品一式(水5/6)
木人の槌@BB
サングラス@BB
ラブレター@BB
切れ目の入った杖(仕込み杖)@現実過去世界
[基本]:対主催のようだ
[思考・状況]
1.ブロートソードが欲しかった
2.カナリアと行動
3.敵が来れば全力でカナリアを守る。
4.協力者も探す。

※昏い街からはファルシオンを主軸武器に持ち、
怪我をした時のために杖を持ってきた(仕込み杖とは知らない)。
※お腹の中のスライムは消滅しました。
[46]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/07/05(Sun) 15:01 No.351  
≪とりあえず餓死は免れたようです part1 ≫

鈴音は八蜘蛛を背負って、地図に『昏い街』と書かれた街を目指して歩いていた。

しかし、幼い少女とはいえ、人一人とそれなりの重量のデイパックを2つも背負って
いるせいで、どうしても足取りは遅くなってしまう。
途中、何度か休憩を挟んだこともあって、街に着くまでに思ったよりも時間がかかってしまった。

ようやく街の門を潜った鈴音はすぐ正面に宿屋を見つけたので、その宿屋に入って背中の少女を
休ませることにした。




「よいしょ……っと……。」

少女をベッドに寝かせて、人心地ついた鈴音は椅子に座って息を吐く。
ぼんやりと窓を眺めながら、この殺し合いについて考える。

「……どうすればいいのかなぁ……。
 殺し合いなんてしたくないし……でも、ここから逃げだすのも無理そうだし……。」

先の見えない状況のせいで徐々に考えが暗くなり始め、慌てて頭を振る。
暗くなっても仕方がない。とにかく今はこの少女の意識が戻るまで休むことにしよう。

「もしかしたら、休めば良い考えも浮かんでくるかもしれないしね。」

鈴音は自分の考えにうんうんと頷く。
実際は現実逃避に近い考えだったのだが、この状況においてはあながち間違いとはいえないだろう。
ごく普通の18歳の少女に、この恐るべき殺し合いを打破するための考えなど簡単に
浮かぶわけはないし、疲労した頭では余計にろくな考えも出てこないだろう。
それよりは疲れた身体を休めるほうが有益というものだ。

そこまで深くは考えていたわけではなかったが、ともあれしばらくは休むことにした鈴音は
窓をぼーっと眺めながら思う。

(それにしても変な街だなぁ…武器屋とかあるし、まるでゲームみたい…。)

そこまで考えたところで、鈴音は自分が空腹であることに気付いた。

「そういえば、ここに連れて来られてから何も食べてなかったっけ…。」

支給された時計を見ると、ゲーム開始からそれなりに時間が経っていた。
朝食を取っていなかったことを考えれば、空腹を意識するのも仕方の無い時間だろう。

「今のうちにゴハン食べておこっと。」

空腹だと気が滅入るし、あんなことがあった後なのだ。食事でもして気分転換しよう。
そう考え、鈴音はデイパックからパンを取り出して頬張り始める。

「…なんか、味気無いなぁ…。」

水を一口飲み、胃の中にパンを流し込みながら鈴音は呟く。
不味いわけではない。しかし、ひどく味気の無い食事に現代っ子である鈴音は不満だった。
ふと、ベッドで寝ている少女のデイパックにチョコレートがあったのを思い出す。
だが、ぶんぶんと頭を振ってその考えを振り払う。

さすがに、気絶している子供のお菓子をとるのはいかがなものか。

とはいえ、殺人鬼との遭遇、そしてここまで少女を運んできた鈴音は肉体的にも
精神的にも疲労している。
そんな鈴音には、少女のデイパックに入ったチョコレートはとても魅力的である。
ぱさぱさしたパンを水で流しこむ作業のような食事も、チョコレートがあるだけで
かなり違うことだろう。

「…っていうか、この子を助けたのは私なんだから、ちょっとくらいは…。」

そして、鈴音はとうとう誘惑に負けて、子供のお菓子を奪うという暴挙に出ようと…。


ギシッ……ギシッ……。


「っ……!?」

しかし、階段が軋む音が聞こえてきたことで鈴音の身体は凍りつく。

(誰かが上がってきた……!?ど……どうしよう……!?)

ここにいるということは、殺し合いの参加者であることは間違いないだろう。
重要なのは、相手が殺し合いをするつもりなのか、そうでないのかということだ。
殺し合いに乗っていなければ問題は無い。
信頼できそうな人なら一緒に行動したいし、そのほうが鈴音もこの少女も安全である。

しかし、階段を上がってくる人物が殺し合いに乗っているならば…。

「……この子を連れて逃げるのは無理だし……置いていくわけにも行かないよね……。」

鈴音は支給された銃……南部を構えて、侵入者の元へと向かっていった。
[47]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/07/05(Sun) 15:03 No.352  
≪とりあえず餓死は免れたようです part2 ≫

グキュルルル……。

「くっそー……!まさか、デイパックを間違えて持ってきてたなんて……!」

変な動物の鳴き声みたいな音を鳴らし、巨大なハンマーを引きずりながら
よろよろ歩く少女の名は美空 桜。
鳴っている音は彼女の腹の音である。

年頃の少女が奇怪な音を腹から出しながら間抜け面でよろよろ歩く様は、実に度し難い。
百年の恋も冷めるような無様さである。

「ていうか、何で食料が少しも残って無いんだよ!?全部食っちゃったってことか!?
 まだ半日も経ってないのに、何考えてんだよあのトカゲ!?
 いや、トカゲにそんなこと言っても仕方ないし、別にトカゲが悪いわけじゃないけどさ!
 ていうか、ぶっちゃけ悪いのはデイパック間違えた私だけどさ!」

大声でグチグチと不満をぶちまける桜。
竹を割ったような性格の桜には珍しいことと思われるかもしれないが、
いかんせん彼女は空腹なのだ。
空腹は人をイラつかせ、心に余裕を無くさせる。
加えて、この異常な状況で食料を紛失するという事態に桜もいささか動転しているのであろう。

「あー……腹減ったよー……。
 伊予那ー、メシー、メシー、伊予那ー、メシー。」

訂正。
だらんと猫背になり、半目であーうーと呻きながらのろのろ歩く桜の姿は全く動転している
ようには見えなかった。
そして、どうでもいいが伊予那の名前よりメシのほうが多いのはどういうわけだろうか。

そんな感じでだらだら歩いていた桜だが、ようやく森を抜けることができた。
目の前には、街。

「!」

桜の目がギラリと輝く。


現在の桜の思考 【街 → 食料がある → メシ食える】


「うおっしゃあぁぁーーーメシだぁぁぁーーー!!」

桜は先ほどのだらけ具合もどこへやら、イノシシのごとくの勢いで『昏い街』へと
かっ飛んでいくのだった。


恐るべきスピードで街の門を走り抜けた桜は、門から一番近い宿屋に一直線に駆け込んだ。

「メシ!メシ!」

大声でメシメシのたまう桜。
もはや女子の嗜みなど完全に忘れている。
最初からなかったかもしれないが。

しかし、宿屋に駆け込んだ桜の目には食料らしきものは全く見つからなかった。
唯一食料と関連があるのは、棚にいくつか置かれた酒瓶だけである。
もっとも、全て空だったが。

「……メシは……?」

呆然と立ち尽くす桜さん、ちなみに若干涙目である。
だが、しかし……。

「!?……この匂いは……!」

空腹で研ぎ澄まされた桜の嗅覚は二階でかすかに香る食物の匂いを嗅ぎ付けた。

「二階か……くくく、待ってろよ私のメシ!!そこを動くな!!」

桜は意味不明なテンションで二階を駆け上がり、食料の匂いのする部屋へと……。

「動かないで!!」

入る前に、部屋の前に立っていた少女に銃を突きつけられ、両手を上げて固まってしまった。
[48]投稿者:289◇J9f1Lk6o 投稿日:2009/07/05(Sun) 15:04 No.353  
≪とりあえず餓死は免れたようです part3 ≫

鈴音が部屋を出て侵入者を迎えようとしたときには、侵入者は物凄い勢いで
こちらに向かってきていた。

その表情は鬼気迫っていた。

目を見開き、口元に不気味な笑いを浮かべて向かって来る侵入者の姿は
鈴音にとって恐怖を覚えさせるに充分なものであり、鈴音はその侵入者に向かって
反射的に銃を突き付けていた。

「動かないで!!」

口に出した後、『あ、今度はちゃんと言えた。』と呑気な感想を覚えながらも
鋭い視線で侵入者……良く見ると、まだ自分よりも幼い少女であるその人物に銃口を
向けて威嚇する。

「ちょ……ちょっと待った!?落ち着け、私は何もしないって!?」

少女は必死で弁明しているが、鈴音は疑いの眼差しを向けている。
あんな恐ろしい顔でハンマー片手にこちらに向かってきたのだ。
信じられるわけがない。

しかし、そのとき……。


グキュルルルル……。


再び鳴る、桜の腹。

訪れる沈黙。
呆気に取られる鈴音。
さすがに人に聞かれたのは恥ずかしかったのか、顔を赤くしている桜。

やがて、先に喋りだしたのは桜だった。

「えーっと……悪いんだけど、食べ物恵んでくれない……?」




結局、鈴音はあの後、桜に対する警戒を解いて部屋に招き入れた。
桜が殺気立っていたのは単に腹が減っていただけだということが分かったからだ。

そんなわけで、鈴音は桜と一緒に食事を再開し、そのついでにお互いの情報を
交換することにした。

「伊予那ちゃんか……ごめんね、私はこの子と殺し合いに乗ってる金髪の女の人しか見てないの。」
「そっか……。」

鈴音の言葉に落胆する桜。
そんな桜を見て、鈴音も気の毒に思う。
聞けば、桜はこんなところに友達まで連れてこられているというのだ。
さぞかし心配なことだろう。

そして、次に桜の出会った人物のことを聞いた鈴音は耳を疑った。

「えーと……手から光の弾を撃つ男の子と二本足で歩くトカゲって何?」
「何って言われても、そのまんまだよ。
 後、触手を伸ばしてくるスライムにも会った。」
「……えー……?」

桜の出会ったという参加者は、全員が全員とも鈴音の常識では考えられない人物?ばかりだった。
信じられないのも無理は無いだろう。
疑わしげな目を向ける鈴音に、桜は少し不満そうな顔で言う。

「そりゃ信じられないかもしれないけどさ……でも、世の中にはそういうヤツもいるんだぜ?
 私だって幽霊に乗り移られたこともあるし、伊予那だって霊感とか持って……。」
「幽霊!?会ったことあるの!?」
「うわっ!?」

いきなり目を輝かせて顔を近づけてきた鈴音に、桜は仰け反る。

「どんな幽霊だったの!?乗り移られたってどういうこと!?
 伊予那ちゃんの霊感ってどんなものなの!?何か見えたりするの!?」
「ちょっ……!?鈴音さん、顔近いって!落ち着いてよ!?」

オカルト好きのスイッチが入ってしまった鈴音は、機関銃のごとく桜に質問を浴びせまくる。
そんなこんなで結局、桜が廃病院の事件について全て話し終えるまで鈴音は落ち着いてくれなかった。




「……ご……ごめんね……!私、ああいう話とか好きで、つい……!こんな状況なのに……!」
「いや、謝らなくてもいいって、鈴音さん!弘治さんそっくりのスライムがいるんだし、
 話しといたほうが良かったとは思うからさ!」

我に返って平身低頭で謝る鈴音に、桜は慌ててフォローを入れる。

「とりあえず、気を取り直して情報交換を続けようよ!
 そうだ、支給品とかも確認しといたほうがいいだろ?
 いざというときに、お互いの持ってるものが分からなかったら困るしさ!」
「あ……う、うん!そうだね、そうしよう!」

桜と鈴音はデイパックから支給品を取り出して並べていく。


桜が持っていたのは、巨大なハンマーとファイト一発というドリンクが二つ。
ファイト一発は、説明書によると疲労を回復できるドリンクらしい。

「ま、栄養ドリンクみたいなもんかな。」
「みたいだね……でも、こういうものって割と重要かもしれないよね。」
「うん、ここでは疲れが溜まったりすると結構やばいだろうしな。」

次は鈴音の支給品を確認する。
鈴音の支給品は大型自動拳銃の南部、そして文庫本程度の大きさの指南書だった。

「今まで読むヒマがなかったから、放っといたんだけど……。」
「何々……『ラーニングの極意』?」

桜はそのラーニングの極意と書かれた本をぱらぱらと流し読みしてみた。

「へー、受けた敵の技を覚えることができるんだってさ。」
「て……敵……?技……?」
「いや、ホントかどうかは分からないけどさ。
 でも、やり方は分かりやすく書かれてるし、結構いけそうな感じだよ。
 上手くいけば、さっきの男の技とか奪えるかもしれないし。」

桜は笑いながら言うが、鈴音にはさっぱり意味が分からない。
返してもらったラーニングの極意を鈴音も読んでみたが、さっぱり理解できなった。

(どこが分かりやすいんだろ……やっぱりただのハズレだよ、この本……。)

鈴音にはこの本はでたらめのトンデモ本で、ただのハズレとしか思えなかった。

最後に未だに目を覚まさない少女の支給品を確認する。
出てくるのは、チョコレートのみ。

「食っていい?」
「駄目、この子のなんだから。」

チョコレートに手を伸ばそうとする桜を抑える鈴音。
自分も食べようとしていたことは忘れることにしたらしい。

一通りの情報を確認し終えた鈴音は、時計を見て気付く。

「……そろそろ、あの男の言ってた放送の時間だね……。」

その言葉に桜がぴくっと反応する。

「伊予那……大丈夫だよね……。」
「きっと大丈夫だよ。私たちだって無事だったんだから。」

心配そうに呟く桜を鈴音が励ます。
桜の顔は今までとは違い、不安そうだった。
放送が近付いてきたことで、心配になってきたのだろう。

(無理もないよね……。)

桜は鈴音より4つも年下だとは思えないほど、行動力があってしっかりしていると思う。
だが、それでもやはり大切な友達の生死を知らせる放送が近付いてくれば、
落ち着かなくなるのは当たり前だろう。

(もし伊予那ちゃんの名前が呼ばれたら、私がこの子を支えてあげないと……。)

殺人鬼から助けた少女も未だに目を覚ます様子はないし、この上に桜まで
再起不能になってしまったらと思うと不安でしょうがない。
しかし、この中では自分が一番年上なのだ。
やれるだけのことはやってみるしかないと、鈴音は決意する。


それからしばらくして、どこからともなく不快な声が響き渡ってきたのだった。




【D-3:X3Y1/昏い街・宿屋二階/1日目/昼】

【美空桜@一日巫女】
[状態]:小ダメージ、小疲労、ラーニング習得
[装備]:モヒカンハンマー@リョナラークエスト
[道具]:デイパック、支給品一式(食料2/6、水5/6)
ファイト一発*2@リョナラークエスト
[基本]:伊予那を探す・助ける・協力する(伊予那に害をなす奴を倒す)
[思考・状況]
1.伊予那を探す

※サーディの顔は脳裏に焼きつきました。出会えば「夢」の人物だと分かるでしょう。
※リョナたろうをマーダーと認識しました。
※リザードマンを殺し合いに乗っていない優しいトカゲと認識しました。
※特殊な能力を持つ参加者の存在を知りました。
※1日目の昼時点で鈴音と情報交換をしました。
 エリーシアをマーダーと認識しました。
※ラーニングの極意を読んだことでラーニングを習得しました。
 自分が受けた技(魔法以外)をラーニング可能です。


【八蜘蛛@創作少女】
[状態]:気絶
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式
チョコレート@SILENTDESIREシリーズ
[基本]:ステルスマーダー
[思考・状況]
1.エリーシアを殺す。
2.人間を養分にする。
3.萩、ロシナンテと合流する。
4.門番が自分の知っている門番か確かめる。


【榊 鈴音(さかき すずね)@鈴の音】
[状態]:健康
[装備]:南部(残弾4)@まじはーど
[道具]:デイパック、支給品一式(食料2/6、水5/6)
ラーニングの極意@リョナラークエスト
[基本]:何とか殺し合いから脱出したい。
[思考・状況]
1.殺し合いに乗ってない人を探して、一緒に行動する。

※エリーシアを危険人物と認識しました。
※一日目の昼時点で桜と情報交換をしました。
 リョナたろうをマーダー、リザードマンを優しいトカゲ?と認識しました。



【ラーニングの極意とラーニングについて】
ラーニングの極意を読むことで、相手から受けた技を
覚えることができるラーニングを習得することができます。
ただし、ラーニングを習得するには特殊な才能が必要です。
(鈴音は覚えることができませんでした。)
また覚えることのできる技は一つだけで、二つ目を覚えた時点で
前に覚えていた技は忘れてしまいます。
魔法は覚えることができません。
(ただし、作品ごちゃまぜの本ロワでは魔法の定義・基準は曖昧なので、
 魔法と明言されていない技は覚えることができる可能性があります。)

ラーニングはリョナクエ勢ではリョナたろうしか習得できません。
リョナクエ以外のキャラがラーニングを習得できるかどうかは書き手の方にお任せします。

[49]投稿者:「夢」其の一◇マシュマロ的な @間取り 投稿日:2009/07/05(Sun) 22:26 No.355  

 「・・・・・・・・・!!!」
 彼女は半ば跳ねるように飛び起きた。まるで全速力で駆け抜けたかのように呼吸が激しく、動悸が荒い。全身が不快な汗でべとべとに濡れている。
 彼女は辺りを見回した。それは狭くてうす汚いホテルの一室のような場所だった。部屋の真中に置かれている質素な木製のテーブルを中心に、まるで溢れだしたかのように部屋のところかしこに、様々な――あるものは豪奢で、あるものはシンプルな――多種多様な形状をした財宝やその類のものが散らばっている。

 彼女は自分が寝ていたベッドで、自分と背中合わせで眠っていた人物に目をやった。そこにはよく見知った華奢な背中が横たわっており、その肩が呼吸とともにゆっくりと上下している。時折いびきと、意味のわからない寝言が発せられる。


 「・・・お姉ちゃん」
 天崎奈々の口から、弱弱しい声が漏れ出た。
 返事はない。



 「お姉ちゃん・・・・!」

 語気が少しばかり強くなる。彼女の心は、よくわからない何かで今にも張り裂けそうだった。 

 「・・・んー?」

 体勢を全く変える事なしに、目の前の人物が声のみでそれに応じた。


 「奈々ぁ―?どーしたー?」

 眠気と惰気を存分に含んだ、気の抜けるような声だった。だが、その声こそが奈々の荒んだ心を安堵で濡らしてゆく。

 そして、入れ替わりに激しい情動が奈々を襲う。
泣きたいような、叫びたいような、怒りとも嘆きとも悲しみともつかぬ、激情――
 

 「あ・・・・」
 その感情のうねりが、奈々の口をついてあふれ出ようとする。が・・・彼女はすんでのところでそれを押し留めた。

 「ん?どした・・・?」気づけば涼子が怪訝な表情で奈々の顔を見つめている。鈍い彼女でも、流石に奈々の奇妙な様子に気がついたようだった。
 

 「・・・・・・別に」
 それだけをそっけなく言うと、奈々は再び涼子に背中を向けてベッドに転がった。

幾らイヤな夢を見たからって、そんな下らないことで姉に泣きつくなんて柄じゃない、バカバカしい。
 自分自身に生じた甘えた感情に腹を立て、不貞腐れたように奈々は目を瞑った。


 むにゅ


 奈々は背中に柔らかくて暖かい、そしてなぜか無性に腹立だしいものが押し当てられるのを感じた。
 「何の・・・」

 ・・・つもり、という奈々の言葉は姉がとったその次の行動によって遮られた。
 奈々の頭の後ろから白くて細く、それでいて引きしまった腕が伸ばされ、そしてそれは奈々の頭を優しく包んだ。


 「っ・・・!」
 姉とは思えぬ突然の奇行に、思わず身をよじって逃げ出そうとする。しばらくばたばたともがいたが、頭をしっかりとホールドされているためそれも適わず、結局あきらめた。

 涼子の方といえば「よーしよし、どうどう」などとアホな事を言っている。


 「・・・何のつもり」
 改めて奈々は姉に問う。

 「いやぁ、何となく」帰ってきたのはいつもの姉といえば姉らしい、直感的な返事だった。奈々は溜息をついて、それ以上尋ねるのを止めた。どうせ無駄だという事を理解したからだ。それに、少しばかりだが・・・こう思った。このままでいるのも、悪くは無い。
 


 それからしばらくお互いに話しかける事もなく、静かな時だけが流れた・・・。
 その静けさの中、奈々は思った。考えてみたら・・・こんな事は別に初めてではなかった。そんな気がする。

 ずっと昔・・・それこそ奈々がまだ銃の扱いすら知らなかったほどの昔・・・こんな事もあったのかもしれない。あるいはそれは・・・夢か、妄想か、思い込みなのか、あるいは美化された記憶にすぎないのかもしれない・・・。だが、奈々が感じていたのは、確かに記憶の源泉に眠る、懐かしくて、柔らかで、心地よい暖かさだった。


 「ねえ、お姉ちゃん・・・」

 「んー?」



 何だろう、何の話をしようとしていたのだろう。忘れてしまったのか、最初から考えてなかったのか。


 「私達・・・ずっといっしょだよね」

 意識の奥底から、彼女の口をついて出た言葉はそれだった。

 涼子は穏やかな声で答えた。
 「もちろん!」

 表情は分からない。


 「私達はずっと一緒だよ。ずっと・・・ずっと・・・」


 「うん・・・」


 涼子の腕の中に包まれたまま、奈々は静かに眼を閉じた。




もう、寂しさはなかった―――
 







 「でもさ、奈々」

やがて、涼子は改めて静かな口調で話しだす。片手で、奈々の柔らかな髪を優しく撫でながら。




「弱いアンタは、嫌いだよ――


 頭を撫でていた涼子の手がおもむろに、奈々の髪を乱暴に掴んで引きずり上げた。

 「がっ・・・!?」

 穏やかな深淵に沈もうとしていた意識が急激に覚醒する。

 「お・・・おね・・・・・・・ちゃ・・・!」

両手を伸ばして、なおも髪を強く引っ張り上げる姉の手を振りほどこうとする。

だが・・・なぜか、いつまでたっても姉の手にたどり着かない。まるですり抜けるように、そこには何一つとしてない・・・


「あ・・・」

奈々は気づいた。


違う、無いのは姉の手じゃない・・・。



私の手が――――


掴まれた髪ごとぐるんと頭を回され。奈々は己を苛むその存在と対面する・・・。



「うあああっ・・・あっ・・・・あ・・・・!」

そこに姉などいない。初めからいなかった。
優しい幻想の世界に亀裂が入り、砕け散る。



黄土のバケモノ、ルシフェルがそこにいた。つい先程、彼女を苛んでいたばかりの暴力の権化が――
[50]投稿者:「夢」其の二◇のうしょうジュース  @間取り 投稿日:2009/07/05(Sun) 22:27 No.356  
 その光景に、奈々の思考は走馬灯のようにスパークした。

 なぜ――              燃やして――
      これも夢?    現実は――       違う――
   殺したはず――            お姉ちゃんは――
こいつは――
これが夢?          殺し合い――
人が死んだ――       どれが夢?        腕が――
     血が――
                          何が夢?
 
 何が――――


 ドズン

 「うげああっ!??」


 鳩尾にルシフェルの拳が捻じ込まれ、奈々の思考が強制的に中断される。臓物が無造作に押し動かされ、圧迫され、引っ掻き回される。

 胃液とドロドロに溶けた食物が吐き戻され、びちゃびちゃと地面に散らばる。胃酸に刺激された鼻の粘膜がつうんと痛む。

 ドズン!ドズン!ズブッ!

 ルシフェルはさらに奈々の腹へと数回拳をめり込ませ、奈々がすっかり胃の内容物全てをぶちまけてしまうまで、その行動を続けた。

 「はあ・・・はあ・・・げはっ、げほ・・・」

抵抗はできない。先程失った右腕のみならず、彼女は左腕すらも奪われていたからだ。両腕の付け根は固く縛られて完全に止血されていた。
そして彼女は、もはや自分が衣服や下着のひとつすら身にまとっていない事にも気がついた。慌てて体を隠そうとするものの、手を失っている以上どうしにもならない。彼女にできることはせめて足を閉じて大切な部分を守ろうとする事くらいだった。

結局彼女は逃げ切れなかった。眠りから覚めたルシフェルは、血のあとを辿って半死の奈々を見つけ出し、ご丁寧にも処置を施したのち、ゆっくりとこの晩餐の支度を整えたのだ。


 眩暈がする。多量の血を失ったせいなのか、この絶望に眩んだせいなのか。もういっそ気を失ってしまいたい。だが、溢れ出す脳内物質がそれを許してはくれない。活きよと命ずる彼女の生存本能がそれを認めてくれない。

(ここは・・・一体・・・)
 そこが森の中である事は理解できた。だが、そうと理解するまでには時間がかかった。あまりにも異様な光景がそこには広がっていたからだ。

 周囲の木々に動物のものと思われる肉片や骨、あるいは内臓の類が、まるでモビールの前衛芸術のように釣り下げられ、飾られている。まるで悪趣味な黒魔術の儀式か何かをその場で執り行ったのような有様だった。


 「あがっ・・・!?」
 奈々の分析は中断される。
 ルシフェルは奈々の口に、血がべっとりとついてごわごわとした親指を押し込んだ。そして、その指で奈々の歯を一つづつ、ぼきり、べきりとへし折り始めた。


 「ぎあがっ・・・ぐがっ・・・」
 口腔内に鉄の味が広がる。ルシフェルの指を噛んで抵抗したが、彼女の弱い顎の力では一向に堪える気配が無い。
 
 「うべ・・・ぶえっ・・・」
 巨人の指が奈々の口から離れる。それと同時に奈々は咳き込むように、血とそれに混じった無数の白い塊を吐き出した。

 
 「はあ・・・はあ・・・」
 この状況においてなお、奈々は思考を巡らせつづける。どうしたらいい。どうすればこの状況を打開できる?先程のようにはいかない。もはや腕すら残されてはいないのだ。だが、それでもまだ足が残っている・・・!諦めるにはまだ早い・・・隙はないか、隙は・・・

 「ひぁっ・・・!」
 そのあがきももはや無駄に終わった。ルシフェルは奈々の髪から手を離すと、代わりに奈々の細い右足を掴んで力任せに引き上げた。高々と上げられたルシフェルの片腕によって、奈々は無様にも逆さ吊りにされてしまう。
 残った左脚で何とか抵抗を試みるも、焼け石に水である。


 「くっ・・・・!」
 彼女は辺りを見回した。最後まで諦めるつもりはなかった。最後の最後まで――

 ふと、あるものに視点が止まった。辺りを彩る奇妙なオブジェの一つ。地面に丁度、動物の脊椎にあたるパーツがつき立てられている。その先端に付けられている“あるもの”に違和感を感じた。
 「ひっ・・・!」

 その違和感の正体を理解して、奈々の咽の奥から悲鳴が漏れた。

 それは動物などではない。人間のものだ。

 人間の頭の、顎から上の・・・

 「ひいぃっ・・・!?」
 
 途端にその全容を理解する。
 地面から生える脊椎の先端に、顎の部分を千切りとられた上半分だけの人間の頭がくっつけられていた。剥き出しの歯茎と空ろに開かれてばらばらの方向を見つめている両の目が、かろうじてそれが人間のもので“あった”事を示している。頭の部分も抉り取られてしまっていて、その中には脳髄の代わりに赤黒いどろどろとした液体がたまっている。それが大人のものなのか子供のものなのか、男なのか女なのかすらも、もはや分からない。
 
 そして・・・それが人間のものであるとしたなら。辺りに結界のように飾りつけられている無数の肉片や骨や臓物の破片などもきっと・・・。

 「あひ・・・・あ・・・・」
 奈々の顎がガチガチと音を鳴らす。普段ならこんな光景を見たとしても、すぐに落ち着きを取り戻すことだってできるかもしれない。

 しかし、それはその対象が全くの他人であった場合の話。
これは・・・目の前の“これ”は自分なのだ。数分・・・いやひょっとすると数秒後の自分の姿かもしれないのだ・・・。
 きゅううと心臓が縮み、脊髄に冷たい液体が流れ込む。
 途端に焦燥と恐怖が現実味を帯びて、まだ先程の夢うつつに片足を突っ込んでいた彼女の意識を完全に呼び起こす。心の片隅にあった、これは単なる悪夢なのではないかという“甘え”を完全に否定する。

 (逃げなきゃ・・・早く逃げなきゃ・・・どうやって?手も足ももう使えないのに・・・?声だってもうほとんど出せないのに・・・?え?つまりどういうこと?にげられない?え?え?だれか助けに・・・こんな森の奥まで誰が都合よく助けに来る?え?え?え?死ぬの・・・私死ぬの?私もこんなめちゃくちゃのぐちゃぐちゃのぶちゃべちゃにされて死――

 可能性が彼女を否定する。恐ろしい現実のみが、彼女をはっきりと包み込んだ。

 もうお前は、絶対に、逃げられない。


          死

 
 「ひいぃっ・・・ひいいいいいいい!!!」
 そして、彼女の不屈の“心”は完全にへし折れた。


 「やめ・・・やめへ!たひゅけっ・・・たひゅけへ!ひやあああああああっっ!!!」咽の痛みも忘れて死にもの狂いで叫ぶ。歯を残らずへし折られた彼女の口からは情けなく滑稽な音しか出ない。

 そして彼女は“処刑台”を目にする。

 丈夫な木の枝に、丈夫そうな蔦が間隔を空けて結び付けられている。だらりと垂れ下がったそれらの先は、小さな輪になっている。ただそれだけのシンプルなものである。
 しかし、ただそれだけでも奈々に己の末路を知らしめる為には十分すぎるものだった。
 自分がどんな凄惨な“殺し方”をされるのかが――

 (うぁああ・・・やだ・・・いやだ・・・)
 
 抵抗むなしく奈々はその“処刑台”へと固定され、完全に自由を奪われてしまった。
両の足が間隔を空けた蔦の先の輪に結ばれ、頭は下へとだらりと垂れ下がる。両腕を失った奈々はまさしく“Y”の字の形で固定される事となった。

 「はひ・・・ひゃめ・・ひゃめへ・・・」 

 ルシフェルは一旦奈々の元を離れ、地面に突き刺しておいた刀を抜き取ってから戻ってきた。

 奈々は唯一自由に動く首をぶんぶんと振って止めてと訴える。届くはずない事なんて分かり切っているのに。

 ルシフェルがゆっくりと両手で掴んだ刀を上段に構える。その狙いは60°程に開かれた奈々の股間の丁度正中線を目掛けて・・・


「ひやら・・・やら!やら!ひやらぁああああああ!!!」

 
 ブォン、と空を裂く音がその叫びをかき消した。
[51]投稿者:「夢」其の三◇プチ膨張  @間取り 投稿日:2009/07/05(Sun) 22:29 No.357  
突如、涼子が立ち止まった。
奇妙な、危機感とも焦燥ともとれぬ感情が彼女を襲ったからだ。

「どうかした?」背後にいたサーディが尋ねる。


「・・・・いや」
その感覚が訪れたのはごく一瞬の事で、ただちに煙のように掻き消えた。それでも、その強い印象をすぐに忘れる事は出来そうになかった。

これが始めてではない。先程から何度も何度も、この奇妙な感覚が定期的に訪れてくる。

(・・・・気のせいかな?)涼子は首を捻った。 

 彼女の脳裏に浮かんだのは妹の姿だった。
 今よりもずっと昔の、幼い頃の奈々の姿。
 彼女は泣いているように思えた。狭くて暗い、どこか寂しい所で独り・・・。

「涼子?さっきからどうしたの?」
呼びかけるサーディの声が涼子を引き戻す。

 涼子は首を振った。
 (何を考えてんだ私は・・・)

 “あいつ”がそう簡単にやられるわけ無いじゃないか。いつだって一緒にやってきた。だから分かる。あいつだったら絶対に・・・


 絶対?何が絶対なんだ?私にあいつの何が分かってるっていうんだ?いままであいつに一つでも姉らしい事でもしてやれたっけ?
 私は――

 パァン!

 乾いた音が響いた。涼子が自身の頬を自分の両手で叩いた音である。

 「あいっっつてえぁああああ!!!」そして、思いのほか痛かったようだ。


 背後のサーディは呆気に取られている。
 涼子は振り返り、手振りで「なんでもない」事を示すと再び歩みを始める。

 そうだ、そんな事は・・・決して考えてはいけない。それはきっと『裏切り』だ。
 信じる事・・・それが唯一自分に出来る事・・・。
 涼子はそう結論づける事にした。
しかし心の奥底には、未だ気持ちのわるい何かが蠢き続けていた・・・。



 (こいつ・・・さっきから何やっているの?)
 サーディは涼子の様子を訝しく思った。あきらかに様子がおかしい。ついさっきからそわそわと落ち着きが無いように見える。まるで隙だらけで、先程恐ろしい程の戦闘力を発揮した人物と同じとは到底思えない。

 (今だったら)サーディは思った。

 (今だったら殺れるんじゃないかしら・・・“アレ”がなくても)
 ふらふらと歩く涼子の背中を睨む。心ここにあらずと言った様子・・・。

 (ボウガンでは構えた音で悟られる・・・)
 両手の剣を強く握りしめ、獲物を襲う肉食獣のように狙いを定める。

涼子の無防備な背中に飛ぶように襲い掛かった。
 (隙だらけ・・・よ!)
 反撃の隙など与えない!右の刀を使っての袈裟による一撃・・・!


 「・・・・!?」
 深々と切り込んだはずの刀はすでに手の内にない。そして、それが地に転がる金属音を聞いた。
 (ばかな・・・!)
 涼子は相変わらずこちらを見てはいない。しかしその手に握られた剣の柄が、サーディの右手首の骨を確実に砕き割っていた。サーディの白い手の平がだらりと垂れ下がる。

 「ちぃっ!!!」
 間髪いれず左の刀で下段からの斬撃をあびせる。しかしそれは空を切るのみにとどまった。

 (消えた・・・!?どこに・・・!)

 胸の中心に“熱さ”を感じ、サーディは自分の体に目を移す。胸から血に濡れた刃の切っ先が顔を出している。
 口の中がごぽりと酸味を帯びた液体で溢れる。心臓を一突き。先程涼子によって屠られた萩の狐と全く違わぬ末路・・・。

 (やっぱり・・・ムリか・・・)

 サーディの口角が捩れるように上がった。
 「うふふっ・・・!」

 素晴らしい――

 全身を恍惚が駆け巡り、思わず足が縺れそうになる。脚と脚の間にじんじんと熱さを感じる。ありとあらゆる動脈がどくどくと踊り狂う、久々の感覚・・・!

 背後に立つ涼子の“幻影”が薄れ、虚空へと消える。
 
 (13戦中2勝11敗・・・“今の”私では勝率2割にも満たない・・・!)


 “イメージ”の世界から回帰し、依然ふらふらと前を歩く“実体”の涼子の背中を再び睨む。
 “まだ”無理だ・・・一見スキだらけに見えても、こちらが僅かでも殺気を表せば、たちまちに戦いの鬼へとこいつは姿を変えるだろう。サーディはそう直感していた。


ああ、早く「首飾り」を取り戻したい。

 早く貴女と殺し合い【たたかい】たい・・・!

私は、私の中の悪魔は!貴女が“欲しい”のよ、涼子・・・!

貴女の全力に私の全力をぶつけたい。今すぐにでもあなたの心臓に刃を突き刺して抉り出したい!
貴女の鮮血はどんな色?貴女の血肉はどんな味?貴女の血潮はどんな音を奏でるの?―



再び激しい恍惚が体の芯を襲い、足が崩れ落ちそうになる。

 (ふぅ・・・落ち着きなさい。もうすぐよ、もう少しなのよ・・・)
 衝動に狂う己の中の悪魔を制す。

 目の前には巨大な建造物の廃墟が横たわっている。
 彼女と首飾りを繋ぐ“運命”はそこが目的地だと告げている。
 距離はもはや遠くない――

 そのとき、2人は足を止めた。そして空を見上げる。
 不愉快なハウリングの音が響き、その後にあのキング・リョーナの嫌味な声が流れ出した。
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