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リョナゲ・製作所バトルロワイアル 本編投下スレ その2

[1]投稿者:「真紅の剣士x金色の銃士」その2 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/01/10(Sat) 02:21 No.141  
@レス制限がありましたので僭越ながら次スレを立てさせていただきました。

私は力強く言い放った。そして、腹を決めた。

「・・行くよ。しっかり掴まってて!」
「お姉ちゃんは、神様って信じてる?」
「へっ!?」

一か八かの敵陣突破作戦を実行に移そうとしていた時だった。
私は彼女の突然の問いかけについ素っ頓狂な声を上げてしまった。

「・・・信じてるよ。エルもこういう時ぐらい、信じてみてもいいんじゃないかな?」

私は彼女が神様を信じてないと言っていたことを思い出して答える。
これから一か八かのことをしようとしているのだ。信じていた方がいくらか気が楽だろう。

「・・そうね。信じてみるのも・・・」
「つっ!・・しまっ・・!!」

彼女との会話で生まれた一瞬の隙を突かれ、足元を蔓が掠め体勢が崩れる。
同時に目前に蔓が迫ってきた。このままではとても避けられそうにない。

「悪くなさそうね!」
「わっ!?」

もうダメかと思った瞬間だった。突然目の前が真っ白に輝き、私は思わず目を瞑った。
その刹那、大きな連続音が一面に響き渡った。

「・・・貴女、誰ですか?」

私が目を開けた時、修道着に身を包み身の丈ほどある大きな十字架を担いだ女性が立っていた。
ついさっきまで私と彼女の他に人の気配は無かったはずだ。
あの一瞬で何が起きたのか、私にはすぐに理解できなかった。

「『誰ですか』って、とんだ挨拶だこと。・・・命の恩人さん。」

彼女は呆れたような顔で困惑する私に近づきながら答える。
そして、徐に私に何かを突き出してきた。

「あっ、これ。・・・まさか!?」

彼女が突き出してきたものは、正しくあの時少女が持っていた小太刀だった。
そして、今もこの付近にある気配は彼女と私のみ。と言うことはもはや疑いようがない。

「エル!?本当に、エルなの!?」
「まっ、ここまで劇的に変身したらフツーは信じられないわね・・。」

目の前で鼻先を軽く掻いてる女性は間違いなく、エルだった。
自身の姿を一時的に変えられる魔法が存在するという噂を聞いたことはあったが、まさかここまで変わるとは思わなかった。

「・・ってしぶといわね!!」
「へっ?うわあっ!!」

彼女は突然後ろを振り向き、肩の十字架を蔓へと向けた。
その次の瞬間、耳を劈くような轟音と供に前方の蔓を粉砕していた。
その音の大きさと威力に私は驚きを隠せなかった。

「それ・・なんですか?凄い音と威力ですけど。」
「・・貴女、銃を知らないの?」
「・・・”じゅう”?」

彼女の口からでた聞き慣れない単語に私は更に混乱していた。
先の変身といい、彼女は何者なのだろうか。
私はただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。

「・・・まぁ、小さい弓矢みたいな物とでも思って頂戴。」
「は・・はい。そうします。」
「兎に角、まずはこの五月蝿い植物どもを何とかしましょうか。アーシャ。」
「・・・そう、ですね。」

何が何だかさっぱり分からなくなっていた私は、彼女の言う通りにすることにした。
彼女の提案に同意した私は、彼女から小太刀を投げ渡された。

「それ、貴女が使って。」
「えっ?でもこれは貴女の大切な・・」
「別に、わたしの物じゃないわよ。ただバッグの中に入ってたから使ってただけ。」
「へっ!?じゃあさっき・・」
「後でゆっくり説明してあげる!・・来る!」

彼女の合図で私は飛び退き、蔓の攻撃をかわす。
私は彼女から受け取った小太刀を右手に構え向かってくる蔓を斬り落とす。

「ちぃっ!思ってたよりも魔力は溜まってないわね・・・。」

彼女はそう悪態をつくと私の方を向いた。

「・・アーシャ。貴女この後、2時間ぐらいわたしを守ってくれるかしら?」
「も、勿論ですよ!・・でも、どうしてそんなことを?」

彼女に突然そんなことを聞かれ、私は思わず聞き返した。
しかし、彼女がその問いかけに答える様子はなかった。

「そう。・・・それを聞いて、安心したわ!」

そういうと彼女は徐に上空へと十字架を放り投げた。
放り投げられた十字架は、彼女の頭上で逆さまにぴたりと停止した。

「植物は植物らしく、大人しく光合成だけしてなさいッ!」

彼女は右手を天高く突き上げ、指を鳴らした。
すると十字架が高速で回転を始め、何かが大量に飛び出してきた。

「うわっ!!」

何かが地面に落ちると同時に、凄い音と風が周囲を包み私は目を閉じて身を固めた。
何が落ちたのかは分からないが、どうやらその何かが大きな音と風を出して周囲の草木を焼き払っているらしい。
ようやく轟音と暴風が収まって目を開けた私の見た光景は、まるで焼き討ちにあった後のような光景だった。

「・・・まったく!蔓の分際で人間様を襲うなんて100万年早いのよ!」

私の傍らで彼女の声がして、私は周囲を見渡す。
そういえば、ついさっきまで目の前に彼女は立っていたはずだ。
相変わらずこの周囲には私と彼女以外の人の気配はしない。と言うことは何処かにいるはずなのに見当たらない。

「・・・何処を見てるのよ。ア・ー・シ・ャ・ち・ゃ・ん?」

やはり、彼女の声がしている。それも凄く近くからだ。
それなのにいくら見回しても彼女の姿が見えない。

「あぁー!もう!下よ!下!」

彼女の怒声に導かれるまま、私は足元へと視線を移す。
そしてようやく彼女を発見できた。それは紛れも無く、初めて出会ったときの彼女だった。

「・・・本当に、エル?」

私は恐る恐る尋ねてみた。
私にはどうしても、先ほどまで目の前に立っていた人物と今目の前に居る人物が同一人物には思えなかった。
それほどまでに彼女のギャップは凄かった。

「・・・もう、いいわ。」

彼女も自身のギャップは承知しているらしい。呆れた顔をしながら怒鳴るのを止めた。
そして、すぐに真剣な顔で私を見る。

「兎に角、この場を離れましょう。多分、暫くしたら再生すると思うわ。」
「・・そうですね。」

確かにあの再生能力を持ってすれば、この焦土も長くは続かないだろう。
私は他にも色々と尋ねたいことがあったが、ここはまず彼女の言う通りにすることにした。

「・・命の恩人にこんなことを言うのは忍びないけど。」

私の提案で南の森へと進路を取ろうとした時だった。

「あたしが変身できるってこと、例え相手が貴女の知り合いだったとしても絶対に喋らないで欲しいの。」

彼女の言葉は続く。

「貴女の知り合いを疑いたくはないんだけど、こんな状況だもの。できる限り手の内は隠しておきたいわ。」

彼女の考えは確かに理に適っている。私は彼女の要望に応じることにした。

「分かりました。誰にも言いませんよ。」
「この姿の時は、畏まらなくてもいいわ。違和感あるし。」
「・・そう、ですね。じゃあ・・・。分かった。誰にも言わないよ。エル。」

彼女は軽く礼をすると突然走り出した。
そして少し先でこちらを振り返り、私を手招きする。

「お姉ちゃーん!早く行こうよー!あたし此処嫌ーい!」
「そ、そうだね。待ってよー!エルー!」
(あははは・・・。なんて変わり身の早い女性{ひと}なんだろう。)

私は呆気に取られつつも、彼女の元へと走り寄る。
そして、彼女と手を繋ぎ南へと向かった。

「えへっ♪お姉ちゃん、だーいすき♪」

彼女は急に私の腕に頬擦りをして甘えてきた。

「ちょっと、危ないから真っ直ぐ歩こうよ、ねっ?」
「は〜い♪きゃはっ♪」
(何だか遊ばれてるような気がしてきたよ。別の意味で疲れそうな予感がするな〜・・。)

私はこの変わり身が早く謎の多い少女と、うまくやっていけるか少しだけ不安になっていた。

【D−2:X3Y2/悪夢の草むら/1日目:朝】

【アーシャ・リュコリス@SILENTDESIRE】
[状態]:所々に軽い擦り傷、軽い肉体疲労、残魔力半分ほど
[装備]:なぞちゃんの小太刀@アストラガロマンシー
[道具]:デイパック、支給品一式
デッキブラシ@La fine di abisso(入っていることにまだ気付いていない)
ヨーグルトx3@生贄の腕輪(入っていることにまだ気付いていない)
[基本]:対主催、できれば穏便に済ませたい
[思考・状況]
1.エルフィーネを守って南の森へと脱出する
2.知り合いを探す
3.首輪を外す方法を探す

※彼女が冒頭で案じていた女性の正体はミアですが、顔も名前も知りません
 但し、出会えれば気付ける可能性はあります
※銃=威力の高い大きな音のする弓矢のような物という認識をしました
※エルフィーネの要望に応え、彼女の変身については誰にも言わないことにしました
※この後何事もなければ、30分ぐらいで今回の戦闘で消費した分の魔力は回復します
※まだ知り合いが巻き込まれていることを確認していません

【エルフィーネ@まじはーど】
[状態]:所々に軽い擦り傷、軽い肉体疲労
[装備]:ロザリオ@まじはーど(残魔力無し)
[道具]:デイパック、支給品一式
モヒカンの替えパンツx2@リョナラークエスト(豹柄とクマのアップリケ付きの柄)
[基本]:対主催、鬼龍院美咲{きりゅういん みさ}を探す
[思考・状況]
1.アーシャ・リュコリスと供に南の森へと脱出する
2.鬼龍院美咲を探す
3.首輪を外す方法を探す
4.今回の一件に付いてアーシャに問い質されたら素直に答えるつもり

※蔓に襲われる前に鬼龍院美咲の名前だけは確認してありました
※とりあえず初めて出会う相手にはエルと名乗ることにしています
※この後何事もなければ、1時間ぐらいで再変身が可能になります
 但し今回の戦闘で消費した分の魔力を回復するには更に30分ほど掛かります

※X3Y2地点の悪夢の草むらはコリオレイナスにより焦土と化しました。しかし、1時間ぐらいすれば元通り再生します。

@後書き
エルフィーネの戦闘スタイルやロザリオの設定に関して、色々と勝手な補完をしてしまいました。
結局、アーシャ像は前に書いた時とあまり変わってない予感も・・。(−−;

涼子と伊織組はもしかしたらマシンガンやミサイルパーティの音を聞いている可能性は否定できませんが、
距離もありますし校内で会話中で聞こえなかったとかそういう感じにしておいてください。(^^;

替えパンツの柄は完全にワタクシの趣味です。
モッヒーなら女を視覚的にリョナるためにあえてヘンな柄のパンツを履いてそうですしね・・。
[2]投稿者:「プロフェッショナルの流儀」 その1  麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/01/15(Thu) 23:50 No.154  
流石の俺も、女に押し倒されたのは、あの時が初めてだ。


「伏せて!!」
女の声が聞こえた。だが俺は、何があったのか分からなかった。
だってよ、森の中だぜ。いきなり「伏せて」なんて言われて、状況が理解できる奴がいるか?
「・・え、何っ?」
とりあえず聞き返した。
そん時だ、アイツが飛び掛かってきたのは、

「えっ?うわっ!!」
柄にもなく素っ頓狂な声をあげてしまった。
受身も取れず地面に叩き付けられる俺。ダセエ。
その上にアイツが覆いかぶさり、胸が俺の手に当たった。

その直後、アイツが悲鳴をあげた。
「ぐっ!!うわあああ!!」
熱が俺にも伝わる。おそらくは火炎放射器の類か。
そんなモンまで支給されてんのか。本気で殺し合わせるつもりだな。
まあ、俺にはどうでもいいが。
何にせよ、女が焼かれるという良シチュを提供してくれた事には感謝だ。

「はぁっ・・はぁっ・・・くっ。」
アイツが喘ぎながら立ち上がる。根性あるじゃねえか。
にしても、あの悲鳴はなかなか良かったな。声質からして10代半ばか?
胸の凹凸は小さかったが、あの感触はブラをきつく締めているようだ。
年齢の割にはスタイルが良いに違いない。

そんな事を考えていると、アイツが言った。
「・・・逃げてくれ。」
確かに、火炎放射器を相手に立ち向かう訳にはいかない。逃げるのが正解だ。
だが、俺には一つだけ心残りがあった。顔がよく見られなかった事だ。
火炎、悲鳴、ブラで締められた胸と、これだけ条件が揃っていても、
俺は顔が分からなければオカズにはしない。
リスクが高すぎる。

「・・いいから、・・・早く!」
さらにアイツが言った。まさか声が漏れていたか?
俺は時々、自分でも気付かないうちに妄想を声に出す事がある。自重せねば。
仕方なく俺は、戸惑いながらもその場を離れた。


おっと、自己紹介がまだだったな。

俺の名は、強姦男。”ゴウカン オトコ”じゃねえぞ。”ゴウ カンオ”だ。
まあ俺もPCで打ち込むときはゴウカンオトコって打ってるがな。
何、本名かって? んなわけねーだろ。通り名だ、通り名。
そもそも「姦」なんて字は人名には使えん。少し前に騒がれてたのを忘れたのか?
ん、本名が知りたいのか? それは教えられねーな。
俺は強姦のプロだ。プロは簡単に本名をバラしちゃいけねー。
仕事? さっきも言っただろ。強姦だ。
女を襲って、動画や写真を撮って、顧客に売って稼いでる。
結構儲かるんだな、これが。月イチで撮れれば生活には困らない。
やりたくなったか? やめとけ。
捕まらずに成果を挙げるには、かなりの知識と経験と直観力が必要になる。
問題ない範囲で言うと、そうだな、まずは場所の選択だ。
裏通りなんかはNG。悲鳴を近所の人に聞かれたら終わりだ。
行為の途中でも逃げ出すことになる。
俺がオススメする場所は、例えばパチンコ屋の裏にある山林だ。
人通りが多く騒がしい道路と適度な距離だから、悲鳴も防犯ブザーも聞こえない。
しかも有名な心霊スポットの廃病院への近道になっていて、
時々、わざわざ夜にそこを探検しようっていう馬鹿なガキが通る。
そいつを捕まえて犯す。楽勝だな。
ま、お前らが来れる場所じゃねーから言うんだけどな。

それで、だ。俺は今、ポケットに短剣を忍ばせて、茂みの中に隠れている。
短剣は俺の近くに落ちていたデイパックに入っていたものだ。
年代ものだが切れ味は悪くなさそうだ。女を襲うには丁度いい。
そして目の前には一人の女。見た目はやはり10代半ばか。ツリ目で、腕を組んで立っている。
これは良い。見るからに気が強そうだ。
こういう女が襲われ、組み伏せられ、絶望していく姿は、一部でかなり人気が高い。
ただ残念な事に、手元にはカメラの類が無いので、ここは俺一人で楽しむ事にしよう。
俺にとって、仕事と趣味は常に同義なのだ。

しかし、コイツはさっきから一歩も動こうとしない。
もう一時間は経ったように感じる。まあ実際は10分ぐらいしか経ってないのだろうが。
本来俺は、獲物が来るのを待ち構えて、確実に射程内に入った所で襲い掛かるタイプだ。
逃げられない為にはこれが一番良い。
だが、そろそろ待つのも飽きた。
どうせ相手はガキだ。第二の方法を実行する事にする。


「やあ、お嬢ちゃん。」
優しい声と笑顔で声をかける。
何、襲い掛からないのか、だと!?
んな事したら走って逃げちまうだろ。
今は周りに人がいないが、逃げる間に誰かに会ったらどうすんだ。
まずは獲物を射程圏内に入れる。プロとしては当然の行動だぜ。

「君も、このゲームに巻き込まれたのかい?」
そう言って一歩、距離を詰める。
彼女は全く口を開かない。どうやら怯えているようだ。
射程範囲まではあと三歩だな。だがこのまま近付いては逃げられるだろう。
上手く警戒を解く必要がある。プロの腕の見せ所だ。

「怖がらなくても良いよ。実は僕も、君と同じ立場なんだ。」
今度は一旦立ち止まって、声をかける。
焦る事はない。時間は十分あるんだからな。
この一言で、ようやく彼女が口を開く。

「・・・そうか、お前もか。」
お前、だと? 俺のほうが明らかにずっと年上だろ!?
まあそれはともかく、第一段階はクリアだ。
一歩近付いてさらに話す。

「ああ。それにしても、”殺し合いをしてもらう”なんて、酷い事するよな。」
強姦のプロである俺は別に興味なかったが、普通の少女ならショックを受けているだろう。
こう予想して問いかけたのだが・・・

「ホント、どういう神経してんだか。きっと頭がイカれてるよ。」
意外と平気のようだ。まあ、食いついてきたから良し。
それにこの気の強さ、犯られる時の反応が楽しみだ。

「にしても、こんな所でこんなに”可愛い”お嬢ちゃんと出会えるなんてね。」
さりげなく煽てる。半分は本音、いや九割九分は本音だが。
彼女は困惑しているが、まんざらでもないようだ。
その隙にもう一歩近付く。あと一歩。ここでとどめの一言だ。

「なんか、”運命”みたいなものを感じるよな。」
・・・決まった。
どこかの誰かが言っていた。女は”運命”という言葉に弱い。
気の強い彼女も例外ではなかったようで、俺から目を離して後ろを向く。
照れてるのか? ツンデレか? さらにポイントアップだ。
もちろん俺は最後の一歩を踏み込み、ポケットから短剣を取り出して、彼女に襲い掛かる。


あ・・・ありのまま、今、起こった事を話すぜ!
『俺は奴の後ろから左手で口を押さえて首筋に短剣を突き立てたと思ったら、
いつのまにか地面に倒されて奪われた短剣が首の後ろに触れていた』
な・・・何を言ってるのか、わからねーと思うが、
俺も何をされたのかわからなかった・・・
頭がどうにかなりそうだった・・・
ガキ大将だとかオトコオンナだとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・

とにかく今は、この状況から抜け出す方法を考えるしかない。
というかそうしないと殺される。
何か言い訳をしなければ・・・

「見事だ、お嬢ちゃん。それならば安心だ。
 こんな事態に乗じて襲い掛かってくる男がいるだろうから、
 君が襲われても平気かどうか試させてもらったんだよハッハッハッ・・・」
我ながら酷い言い訳をしてしまった。どう考えたって不自然すぎる。
こんなのに誤魔化される超お人好しがどこにいるか。

「そ、そうだったのか、誤解してた。すまん・・・」
・・・ここにいた。


何とか危機を脱出し、短剣も取り返すことができた。
さらに、彼女の提案でしばらく一緒に行動する事になった。俺にとっても好都合だ。
しかし俺には、もう一つ越えねばならない壁があった。

「そういえば名前を名乗ってなかったな。わたしは鬼龍院美咲。お前は?」
・・・これだ。
”強姦男”なんて名乗ったら、間違いなく引かれてしまう。
最悪の場合はさっきの状況に逆戻りだ。
かと言って、本名を名乗るわけにはいかない。プロとして。

「名前か?・・・名前など僕にとっては無意味なものだ。おまえの好きなように呼べばいい。」
どうだ、この見事な切り返し。自分で言えないなら相手に言わせれば良いわけだ。
あとはコイツの言った名前に「それでいい」とでも言えば済む。

ところが彼女は、持っているデイパックの中から、一枚の紙を取り出した。
参加者名簿だ。・・・俺、やっちまったか?
いや、適当な偽名を使うよりはマシか。
彼女が名簿の最初から最後まで目を通し、一つの名を告げる。

「スライム」
・・・は?
こいつ、正気か?
スライムって言ったら、普通プルプルした無機質を想像するだろ?
どこをどう見りゃこの俺がスライムに見えるんだ?
すぐさま俺は否定しようとする。だが、ふと考えた。
・・・待てよ、これは罠だ。
ここで俺が否定すれば、間違いなく俺が名前を言う空気になる。
相手が名簿を持っていて、俺が他の参加者の名前を知らない以上、偽名は使えん。
結果、俺は”強姦男”と名乗るしかなくなる。万事休すだ。
ここは当初の予定通り、肯定しなければ。

「スライム・・・か。まあ、それで我慢してやろう。」
スライムと呼ばれる事に抵抗はあるが、強姦男と知られるよりはマシだ。
俺は彼女の提案を受け入れた、

「行くぞ、スライム。」
彼女が呼ぶ。俺は黙ってその後ろをついていく。

まあ、色々あったが、結果的には悪くない。極上の獲物と同行する事になったのだ。
今のままでは実力的に襲い掛かるのは難しいが、方法はいくらでもある。
オーソドックスなのは寝込みを襲うことだな。
いくら強気といっても、腕でも刺してやればおとなしくなるだろう。
あるいは、このゲームを利用してもいい。
コイツより強いか、あるいは同等の奴と戦わせて、弱った所を襲う。
戦闘で疲労した上に、仲間だと思っていた人間に犯される。面白いシチュだと思わんか?
ともかく、これからが楽しみだ。
俺をコケにした恨み、スライムと呼びやがった恨み、時が来たら存分に晴らしてやるぜ!
[3]投稿者:「プロフェッショナルの流儀」 その1  麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/01/15(Thu) 23:51 No.155  
「ここにいる君たち全員でこれから殺し合いをしてもらう」
アイツはそう言って、それから一人の少女の首が飛ばされた。
今思い出しても腹が立つ。あのような外道、このままでは済まさん。
両手の小指と薬指を詰める。いやそれじゃ生温い。首を落とす。
だが、今の状態でそれは叶わない事だ。
まずは武器と、協力者も探さなければならないだろう。

そういえば自己紹介がまだだったな。
わたしは鬼龍院美咲。”みさき”じゃないぞ。”みさ”だ。
学校ではどの先生にも必ず間違えられる。いちいち訂正するのが面倒だ。
家は代々ヤクザの家系で、私はその四代目か五代目だ。
どちらか未だにハッキリしないが、キリがいいので五代目という事にしている。

側に落ちていたデイパックの中に入っていたのは、
鎖が一本と、薬箱が一箱、あとはアイツの言っていた共通の支給品だ。
鎖の先端には何やら拘束具がついている。本来は何かを取り付けて振り回す武器なのだろう。
ただ私の力では、そんな使い方は出来そうにない。せいぜい首を絞めるぐらいか。
薬箱の中身は、毒薬、痺れ薬などとラベルに書かれたビンが数個と、注射器が一本。
残念ながら病気や怪我を治す薬は入っていないようだ。

それから、参加者の名簿も確認しておく。
知っている名前は、私を除いて二人。
まずはエルフィーネ。彼女はウチの居候だ。
ロザリオが無ければただのチビだが、逆にそれを利用する術を心得ているので、
こんな状況でもしぶとく生き残るに違いない。
・・・正直、あまり積極的に合流したくはないのだが、一応探してみるべきか。
もう一人は、川澄シノブ。ウチと関係のある組の、組長の一人娘だ。
血の気の多い奴だが、正義感は人一倍強い。
おそらくはあの男を倒すために、行動を開始しているだろう。

とりあえず薬箱と名簿をデイパックに戻し、鎖は緊急時に備えて、腰に巻いておく事にする。
これならアクセサリーの類に、見えなくもない。


それにしても・・・隠れるのが下手な奴だ。
目の前の茂みの中に、さっきから男が息を潜めているらしい。
確かに姿は上手く隠しているが、気配でバレバレだ。
おそらく、わたしを襲うつもりなのだろう。

別に逃げ出しても良いし、普通の少女ならそうするだろう。
だが、これはある意味チャンスだ。
あの隠れ方から言って、アイツの実力はたかが知れている。
武器を持っているかもしれないが、せいぜい刃物や棍棒程度だろう。
少なくとも銃は持っていない。隠れて待つ必要性がないからだ。
それならば、わたし一人で十分撃退できる。
一度力の差を見せておけば、再度襲われる可能性は低くなる。
一緒に連れて行って、いざという時の弾除けにしよう。

そんな事を考えながら立っていると、男がしびれをきらしたらしい。
まだ5分程度しか経っていないのに忍耐力のない奴だ。


「やあ、お嬢ちゃん。」
男が声をかけてきた。彼なりに精一杯優しく接しているのだろう。
しかし・・・まずは自分の顔を鏡で見たほうが良い。
男の顔は、目出し帽で覆われている。”私は怪しい人です”と言っているようなものだ。

「君も、このゲームに巻き込まれたのかい?」
男が一歩、距離を詰めてきた。会話で警戒心を解いて近付くつもりか。
射程範囲まではあと三歩といった所だ。
それにしても、”ゲーム”か。確かにあの男はそう言ったが、その言葉を使うとはな。

「怖がらなくても良いよ。実は僕も、君と同じ立場なんだ。」
”僕”か。似合わない。
それに怖がるなというのは無理な話だ。普通の少女が相手なら。

「・・・そうか、お前もか。」
ただ黙っていてもつまらないので返答した。
すると男の目元がピクリと動いた。”お前”と言われた事が癪に障ったのだろうか。
しかし意外と冷静だったようで、ごく自然に一歩近付いて話を続けた。

「ああ。それにしても、”殺し合いをしてもらう”なんて、酷い事するよな。」
それに関しては同意だ。ヤクザでもそんな事は考えない。
そのためか、自然と口から言葉が出た。

「ホント、どういう神経してんだか。きっと頭がイカれてるよ。」
男が少し驚く。もっと怯えた反応を期待していたのだろう。
生憎だがわたしは、恐怖心を簡単に口に出すようには育てられていない。
男は言葉に詰まり、話題を変えてきた。

「にしても、こんな所でこんなに”可愛い”お嬢ちゃんと出会えるなんてね。」
煽てているつもりか。残念だがその手には乗らない。
そもそも”可愛い”なんて、わたしに対しては褒め言葉にならない。
そう考えていると男がまた一歩近付いた。そして、次の一言。

「なんか、”運命”みたいなものを感じるよな。」
・・・キモい。
”運命”なんて言っていいのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群の美青年だけだ。
目出し帽の男になんか、絶対に言われたくない。
わたしは気分が悪くなり、男から目を離して後ろを向いた。
この隙を男が逃すはずは無かった。

左手は口を塞ぎ、右手は短剣を持って首筋に当ててきた。やはり刃物だ。予想通り。
幼少期から教え込まれた技術で、拘束から抜け出して短剣を奪う。
そして足払いで男を倒れさせ、その上から首にナイフを突きつけた。

男は、何が起こったかわからず、混乱しているようだ。
まさかこんなに簡単に反撃されるとは思っていなかったのだろう。
ここまでは計画通り。だが、問題はここからだ。
不自然にならないように短剣を返して、同行を申し出なければならない。
まずは男の言い訳を聞いて、誤魔化された振りをしよう。
しかし、その言い訳は、予想を遥かに上回るものだった。

「見事だ、お嬢ちゃん。それならば安心だ。
 こんな事態に乗じて襲い掛かってくる男がいるだろうから、
 君が襲われても平気かどうか試させてもらったんだよハッハッハッ・・・」
・・・苦しすぎる。
確かにわたしはお人好しだと言われるが、これでは全く引っ掛かりそうにない。
一瞬、このまま刺すか、返り血が嫌だから絞めるかという考えが浮かんだ。
だが目的はあくまで弾除けの確保。ここで殺せば元も子もない。

「そ、そうだったのか、誤解していた。すまない・・・」
・・・何となく嫌な気分はするが、仕方ない。


わたしは男に短剣を返し、同行を申し出た。
すると男は二つ返事で同意した。まあ当然の事だ。

「そういえば名前を名乗ってなかったな。わたしは鬼龍院美咲。アンタは?」
とりあえず名前を尋ねる。この時は思いもしなかった。この質問が彼の本性を暴く事になるとは。
小学生でも答えられる質問だが、彼は何故か言葉に詰まった。
明らかに不自然だ。これはもしかすると、名前を知られたくない理由があるのかもしれない。
それを私は、次の一言で確信した。

「名前か?・・・名前など僕にとっては無意味なものだ。おまえの好きなように呼べばいい。」
・・・こいつ・・・馬鹿だ。
そんな台詞を言っていいのは、容姿端麗、冷静沈着、女性人気抜群の美青年だけだ。
だが、これで間違いない。コイツは名前を知られるのを恐れている。
それはつまり、名前が彼の秘密、しかもわたしに知られたくない秘密をさらけ出すという事。

デイパックの中から、参加者名簿を取り出した。
すると彼はビクッとして一歩後ずさる。どうやら私の予想は当たっていたようだ。
改めて名簿の最初から最後まで目を通す。思い当たる名前は、一つしかない。

「スライム」
わたしは断言した。
ポイントは、目出し帽、頭の悪い会話、そして名前。
なぜ怪しい目出し帽を被っていたか。答えは簡単だ。被らなければならない理由があった。
普通の人間ならまず被らない。つまり、モンスターが変装していると、容易に推理できる。
おそらく目以外の部分は上手く変装できないから、あのような格好をしたのだろう。
だとすると、頭の悪い会話についても納得できる。
モンスターの知恵ではあの程度、という事だ。
そして、名前。参加者名簿から明らかにモンスターと分かるのは二体。
”スライム”と”リザードマン”だ。
リザードマンは二足歩行だが、人間には変装できそうにない。
それに対してスライムといえば、プルプルした無機質のモンスターだ。
その体質ゆえ、ある程度自在に形を変える事が出来る。
すなわち、彼の正体はスライム。それ以外には、有り得ない。

「スライム・・・か。まあ、それで我慢してやろう。」
やはり、うろたえている。「何故バレたんだ!?」という顔だ。目しか見えないが。
まあこれ以上の追求はやめておこう。いずれ明らかになる事だ。

「行くぞ、スライム。」
スライムに呼びかけると、彼は黙って私の後ろをついてきた。

まあ、色々あったが、結果的には悪くない。弾除けを確保できたのだ。
銃弾が貫通するかもしれない、という不安はあるのだが、居ないよりはマシだ。
さて、これからどうするか。
まずは南部の確保、それから出来ればシノブに会いたい。
それ以外にも仲間は多い方が良いし、一応エルも探さないと。
やるべき事は山ほどある。どれもそう簡単な道ではないだろう。
しかし、逃げるわけにはいかない。
あの男に落とし前つけさせなければ、組の威信に関わるし、何より自分が我慢できない。
必ず奴を倒してみせる。首を洗って待っていろ!





★現在の状況

【E-1:X4Y2/南西の森/1日目:朝】

【鬼龍院美咲@まじはーど】
[状態]:健康
[装備]:隷属の鎖@アストラガロマンシー(腰に巻いている)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    ウインドの薬箱@リョナラークエスト(未消費)
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.南部(変身アイテム)の捜索
2.川澄シノブの捜索
3.一応エルフィーネも捜索
4.仲間を増やす
5.スライム(強姦男)は弾除け

※強姦男をスライムだと完全に思い込んでいます。
※隷属の鎖の能力には気付いていません。


【強姦男@一日巫女】
[状態]:健康
[装備]:真紅の短剣@怪盗少女
    目出し帽@一日巫女(強姦男の私物)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    その他支給品(0〜2個)
[基本]:レイパー、ステルスレイパー
[思考・状況]
1.美咲と同行
2.強そうな相手に美咲をけしかけて疲労させて襲う
3.夜になったら寝込みを襲う

※美咲からもっと恐ろしいものの片鱗を感じました。





@あとがき

はい、宣言通り、ネタに走ってみました。
美咲の支給品がけっこう豪華ですが、強姦男に奪い取って欲しいという意味も込めて。

シノブのフラグを回収したのは良いものの、
余計に厄介なフラグが立った気もします。

というか美咲の性格&口調はこれで良かったのだろうか・・・
[4]投稿者:「→悩む女る眠←」その1 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/01/19(Mon) 02:46 No.163  
「・・・ふぁ?」

私は一瞬だけ身体が軽くなった気がして、重い瞼を擦り少しだけ周りを見回してみた。
何処で寝たのか頭がぼぉっとしていて思い出せないが、此処まで静かな場所ではなかった気がする。

「うぅー・・・?」

そういえば、何だかヘンな夢を見た気もする。
いつも通り寝ていたら何処からか『最後の一人になるまで殺しあえ』とか『首輪がどうのこうの・・』とか聞こえてきた。
それから、突然爆発音が響いて周りが騒がしくなった。
流石に五月蝿かったので黙らせようかと思い、眠い目を擦りながら起き上がろうと―――

「むぅっ・・・?」

・・・という所でこの光景だ。
目の前では何やら文字や図形が描かれた壁が微かに発光しているが、それが何なのかはさっぱり分からない。
ただ、一つだけ言えることは意外と眩しいことだけだ。
私はとりあえず、身体を捻って光を避けた。

「このイス・・・ちょっと硬い・・・。」

動いてみて初めて分かったが、私が居る場所はどうやらイスのようだ。
綿のような物が詰められているおかげか、普通のイスよりは柔らかいがベッド程ではない。
ずっと寝ていたら多分体中が痛くなるだろう。私はもう少し寝やすい場所を探すことにした。

(・・・でも、その前に。後5分だけ・・・。)

夢の中で気持ちよく寝ている所を起こされたせいかやけに眠い。
それに、折角こんなに静かな場所があるのだ。寝ておかなくては損という物だろう。

「ふわああーっ!・・・むにゃむにゃ・・ぅー・・・zzZ」

私は一度だけ大きく欠伸をしてから再び目を閉じ、漆黒の桃源郷へと旅立った。
その時微かに女性の驚く声が聞こえた気がするが、それはもう私にとってはどうでも良いことだった・・。
[5]投稿者:「→悩む女る眠←」その2 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/01/19(Mon) 02:47 No.164  
私は、あの男の私欲を満たすための”ゲーム”になんて付き合うつもりはない。
しかし、この首輪がある限りあの男に立ち向かうのは無理だろう。
ここは先ず、この首輪を何とかする方法を考えるのが先決だ。

(・・・とは言っても、触った感じだけじゃよく分からないわ。)

あの男は参加者全員に首輪を付けたと言っていた。
自分の首輪をじっくりと観察するのが難しいのならば、誰かの首輪を観察させて貰えばいい。
無論、私に付けられた首輪と他の参加者に付けられた首輪が同じ首輪である保障は無い。
しかし、それでも何か情報を得ることはできるはずだ。

(本当は、居て欲しくないんだけど・・・。)

そう考えた私は照明用の魔法を唱え、デイパックの中身から名簿を取り出し知り合いの名前を探した。
見ず知らずの者に首輪を観察させてくれと頼んで、必ずしも了解が得られるとは限らない。
そればかりか話ができるだけマシで、中には問答無用で襲ってきたりする輩も居るだろう。
もし知り合いが居るのであれば、探し出して頼んだ方が確実だ。
それに私の知り合いは何れも、あの男に立ち向かう時に大きな助けとなってくれる者達ばかりだ。

(そうね・・。ルーファス君を探そうかな。)

そうして見つけた名前は、アーシャ、エリー、ルーファスの3つだった。
エリーは確実に彼を探すだろう。アーシャもそう考えて動くはずだ。
それならば、私も彼を探した方が良いだろう。
私が彼と合流できた時、もしどちらか一人でも居ればもう一人の捜索に動けば良い。
もし両方居るか或いは居なかった場合は、彼と供に首輪を外す方法を考えていよう。
彼と行動を供にしていれば、何時か二人の方から合流しに来てくれるのだ。
その間に彼と協力して首輪を外す方法を見つけておけば、合流して直に次の行動に移れる。
私は、ついでにバックの中身を漁った。
何か使えそうな物があればと思っていたが、出てきた物はモップ、三角巾、雑巾の3つだった。
これに布のエプロンと丸い桶があれば立派な清掃員である。

「・・・まったく、あの男は私に掃除でもしろというの?」

私は掃除は嫌いではない、むしろ好きな方だ。
仕事に疲れた時などの息抜きとして、掃除は中々良い刺激になる。
しかし、だからと言って今この場で掃除をする気になんてなれない。
私は掃除用具を一旦バッグの中に戻して、先ずは洞窟の外を目指すことにした。

「それにしても・・・これ、本当に凄いわね。どういう仕組みなのかな?」

私の手には、バッグの中に入っていた細長くて丸い棒が握られていた。
棒の先からは光が出ていて、私の進む道を照らしている。
これがあの男の言っていた照明道具なのだろう。
持ってみた感じから、魔力の込められた物というワケではない。
それなのに、ただ小さな突起を少し押し込むだけで照明魔法顔負けの明るい光を発している。
私は異界の照明道具に知的好奇心が激しく擽られていた。

(こんなこと考えてる場合じゃないのは分かってる。分かってるんだけど、持って帰ってじっくり調べたいなぁ〜・・。)

・・・その時だった。

『ふわああーっ!』
「きゃあっ!?」

突然、前方から大きな呻き声が聞こえて私は情けない声を出してしまった。
そして、直に身構えて前方に光を向け声の主を探す。
陰気臭い岩肌に混じって不似合いな光沢を返す物を見つけた。
やけに寸胴な人型のそれは、少なくとも2メートル以上はありそうだ。
光沢具合から表面は硬い物に覆われていると見て間違いないだろう。

(アンデッド?・・・でも。)

目の前の物体からは生気が感じられない。
恐らく鎧のような物に悪霊の類がとり憑いた不死系の魔物なのだろう。
ただ、不死系の魔物にしてはあの呻き声は些か不釣合いな張りがあった。
反響音でそう感じられている部分も確かにある。
しかし、それを差し引いても私の知る限りでは此処まで張りのある呻き声を上げる物は無い。

(・・・となれば、ゴーレム?)

同じ生気を感じない魔物でも、傀儡系の魔物ならば地を揺るがすような雄叫びを上げることもある。
先の呻き声も納得できよう。だがしかし、傀儡系の魔物には無くてはならない気配が無い。
奴等は元々、石や泥など意思を持たぬ物の塊だ。
そこに何らかの原因で魔力が宿り、それが中核となって行動している。
つまり、奴等からは微弱ながらも魔力の気配を感じなくてはならないのだ。

(ここは一旦、様子を見た方がよさそうね・・・。)

相手が何物か分からない以上、こちらから仕掛けるのは少しばかり分が悪い。
下手に仕掛けて虚を突かれれば、最悪の場合それが致命傷となる。
私は退くことも考えたが、今までの道で分かれ道のような場所は無かった。
微かに感じる風の流れは出口に向かっているはずで、その流れは奴の脇を掠めていた。
今の私には何とかして此処を突破するしか残されていないのだ。
いっそのこと奴が問答無用で襲い掛かってきてくれれば、その隙を突いて逃げることも可能だ。
しかし、奴は一向に動こうとはしない。時折、小さく呻き声を上げているだけだ。
私はその様子に不気味な物を感じ少しだけ身震いをした。

(先制して魔法を叩き込む?でも、何を?)

もし、奴が不死系の魔物ならば神聖魔法を使えばほぼ一撃でけりが付くだろう。
しかし、傀儡系の魔物ならば殆ど効果はない。
その後の奴の出方にもよるが、距離的に二発目に高威力魔法を詠唱する余裕は無いだろう。
最高位の属性魔法を打ち込んで、その破壊力で強引にねじ伏せるという手もある。
しかし此処は洞窟だ。そんなことをすれば衝撃で何処かが倒壊する可能性は否定できない。
そしてもし、倒壊したのが出口に繋がる通路だったとしたら・・・。

「もう〜・・・食べられないよぉ〜・・・。」
「・・・はいぃ?!」

〜〜〜〜

―夢を、見ていた。
私は大好物をお腹いっぱい頬張って、ごろりと横になって微睡んでいた。
ちょっと硬いけど暖かい床で、誰にも邪魔されない至福の一時。
その私の前にまた違う食べ物が出てきた。
それはとても魅惑的な匂いで私の眠りを妨げる。
本来ならば叩き潰す所だが、私はその甘美なる誘惑に勝てなかった。
渋々起き上がり、食べ物を手に取りつつ呟く。

「ふわぁ〜・・・もう、食べられないよぉ〜・・。」

〜〜〜〜

(食べる!?何を!?と言うか喋った!?えぇっ!?)

私は混乱していた。不死系の魔物も傀儡系の魔物も人の言葉は喋らない。
と言うより魔物自体、基本的に人の言葉を喋れない。高い知能を持った魔物の一部が喋る程度だ。
私の知る限り、奴らは人間と違って見た目と知力のギャップはそんなに激しくないはずだった。
見かけからは絶対にそんな高い知力があるように思えない。
しかし、目の前の魔物は確かに人の言葉を喋った。
もしかしたら、今まで奴が見せていたのは’知能が低い’演技だったのかもしれない。
もし奴が本当は高い知能を持った魔物であるのならば、それこそ下手に動けば私の負けだ。

(と、とりあえずは、こちらから仕掛けなくて正解だった。・・・だけど。)

あの時、考えもせずこちらから仕掛けていたら私は間違いなく奴の毒牙に掛かっていただろう。
私はこの瞬間ほど、自身の慎重さに感謝したことはなかった。
だが、これで事態が更に悪化したことも紛れも無い事実だった。
相手は自らを知能が低い魔物に見せる芝居ができるほど、高度な知能を持った新種の魔物だ。
どんな攻撃を仕掛けてくるのか、どんな攻撃が有効なのか、まったく予想ができない。
もしかしたらこうしている今も、実は水面下で着々と攻撃準備が為されている可能性もある。
それだけに、余り悩んでもいられない。

(・・・さぁ、クリス。いったいどう動くっ!?)

何時間とも何分とも知れない刻の中で、一人は眠る女、一人は悩む女。
二人はとても近くに居ながら、とても遠いことをしていた。

【B−1:X4Y3/洞窟内部/1日目:朝】

【クリステル・ジーメンス@SILENT DESIRE】
[状態]:健康、魔力残量十分
[装備]:懐中電灯@支給品(電池残量十分)
[道具]:デイパック、支給品一式
モップ@La fine di abisso
白い三角巾@現実世界
雑巾@La fine di abisso
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.洞窟を脱出する
2.ルーファス・モントールを探す
3.その道中でアーシャ・リュコリスかエリーシア・モントールと会えたら合流する
4.首輪を外す方法を考える

※レボワーカーを新種のモンスターだと思っています
※門番が中で寝ていることを知りません
※懐中電灯の使い方を知りました、しかし電気や電池という概念をまだ知りません

【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:健康、熟睡中(大好物をお腹いっぱい食べて幸せな夢を見てます)
[装備]:レボワーカー@まじはーど
(損傷度0%、主電源入、外部スピーカー入、イグニッションスイッチを押せば動作可能な状態で鎮座中)
[道具]:無し
[基本]:寝る!邪魔されたり襲われたら戦う、場合によっては殺す
[思考・状況]
1.一先ず寝る
2.イスがちょっと硬いからもう少し寝たら別の寝場所を探す

※門番は自分が今何処にいるのか知りません
※そればかりか、このゲームに巻き込まれていることにすら気付いていません

※門番のデイパックは鎮座しているレボワーカーの後ろに置いてありますが、まだ誰も気付いていません

@後書き
サイデザ世界の魔法や魔物周りの設定を勝手に妄想してかいてしまったことを先ずお詫びいたします。
そして、門番の大好物って何なんでしょうね・・。(^^;
[6]投稿者:旧778◆R2RkOHq. 投稿日:2009/02/03(Tue) 02:54 No.168  
<ぬるぬるした生き物と女剣士act1>

スライムと聞くと何を思い浮かべるだろうか
化学の時間に作った覚えのある人もいるだろう
工事の最中に生じる廃棄物だと答える人もいるかもしれない
だが、最も多いと予想される答えは
ゲームやファンタジー世界に度々登場する
「彼ら」を思い浮かべることではないだろうか

「殺し合いのゲーム」だから襲われることは必然だと心に留めてはいたのだが
カーラマン・フロッシュ(22)は突然の奇襲に我を失っていた。

「うぐ・・・ぐぅう・・・うっ・・・」

暗い部屋とはいえ、集められたのは人間ばかりだった記憶があった。
これも、奇襲を防ぐことの出来なかった要因の一つと言えるだろう
現在彼女の首から上をすっぽり覆っているのは緑の半透明な生命体、
暗い森の獣道を歩んでいた彼女の頭上に突如降り注いだ悪夢の正体である。
木々の合間合間から漏れる光が彼女の苦悶の表情を映し出す。

「くぅぅっ・・・っう・・・むぅうっ!!!」

声にならない悲鳴が森の闇に消えていく。
ジェル状の身体が頚動脈を圧迫し、粘液が鼻と口を塞ぐ、
必死にもがく彼女をあざ笑うかのようにスライムは伸縮自在の
身体を彼女の身体に這わせてくる。
もがけばもがくほど酸素は消費され、脳内の冷静な思考までも失わせていく。
そして追い討ちをかけるように、スライムの伸びた肢体が彼女の身体を
まさぐろうとしていた。

「ぐうぅうぅっ!!!うーっ!!!」

なんとか払いのけようと身体を横に倒し、ごろごろと地面を往復する。
だが、弾力性のあるスライムの肉体を引き剥がすことは叶わず、
余計に体力を使った挙句、立ち上がることの出来ない状況に立たされてしまった。
スライムの泥状のしわは勝者の笑みと変わり、やがて彼女の肉体を
覆い尽くそうとしていた。

「(もう・・・駄目なのですか)」

薄れゆく意識の中、彼女が最期に見た光景は半透明の液体を通した
虹色の濁った景色であった。
[7]投稿者:旧778◆R2RkOHq. 投稿日:2009/02/03(Tue) 02:55 No.169  
<ぬるぬるした生き物と女剣士act2>

「そんな馬鹿げた結末は・・・ワタシは認めません」

朦朧とする身体を引き起こし、フロッシュは眼前に蠢くジェル状の物体を睨みつける。
酸欠・命の危機・冷静な判断を失う、という最悪の状況が彼女の眠れる生存本能を引き出したのか、
口周りを覆うスライムの一部に噛み付くという行動が、彼女の命を救った。
スライムは突然の反撃に泡を食った格好となり、攻撃を受けた一部を切り離して飛び逃げた。

「そう、痛覚はあるのね」

残留したスライムの破片を振り払い、未だはっきりとしない頭をフルに動かして
彼女は現状を冷静に把握しようと努める。
敵は反撃で怯んだとはいえ、致命傷には至っていない、
すぐにでも攻撃をしかけてくることが予想できる。
一方自分は、体力は有り余っているとはいえ、
この朦朧とした状態は暫く続くだろう。あの反撃方法も
もう一度通用するかは分からない。

じり、じり、とスライムが地を鳴らし、近付き始める音が響いた。
一刻の猶予は無い、彼女は道に落としたデイバッグを拾うと即座に駆け出した。
幸い、ここは自分の守る封印の祠ではない、逃げても咎められることは無い。

数分ほど走っただろうか、もうスライムの姿は見えなくなっていた。
彼女は胸を撫で下ろす。と、同時に荒い呼吸が続く。
ただでさえ酸欠状態に鞭を打って歩き難い獣道を全力疾走したのだ。
膝を折り、頭を垂らし、激しい呼吸を繰り返す。

またも数分、頭も身体もある程度リフレッシュした彼女は
目の前に広がる町とその門の存在に気付く。
人の気配を感じさせない薄気味悪い所だと感じる一方で、
剣や盾のマークの書かれた建物は彼女にとって魅力的だった。

「そうね・・・ここに少し留まるとしましょう」

開け放された門をくぐり、彼女は真っ先に武具の看板の記された店の戸を開いた。

【D-3:X3Y1/昏い町/1日目:朝】

【フロッシュ@アスロマ】
[状態]:やや疲労気味
[装備]:ラウンドシールド(支給品から)
[道具]:デイパック、支給品一式(走った後水を一本消費)
木人の槌@幻想少女
サングラス@BB
ラブレター@BB
[基本]:対主催のようだ
[思考・状況]
1.剣が欲しいと思っている
2.少し休まないとまずいとも思っている
3.協力できる人も探している
4.※注意※スライムを少し食べました。彼女は知りません、

※襲われる前に支給品は確認済み

【C-3:X3Y3/森/1日目:朝】

【スライム@一日巫女】
[状態]:微ダメージ(再生中)
[装備]:なし(出来ない)
[道具]:なし(持てない)
SMドリンク@怪盗少女
ファイト百発@リョナクエ
絶倫ドリンクB@リョナクエ
チョコレート@サイデザ
ヨーグルト@生贄の腕輪
[基本]:目の前の敵に襲い掛かる
[思考・状況]
1.反撃を受けた部分を回復中
2.のっそのっそと移動中、敵を見つけ次第攻撃

※基本的に木の枝をつたって攻撃するようです
※自己再生能力を持っていますがコアをやられると
 おしまいというステレオタイプなスライムにしました
※何故か支給品が食い物と飲み物だけです。
 スライムはデイバッグを持てないのでC-3X3Y3に放棄
※これは本物のスライムですのでお間違えのないよう
[8]投稿者:「少女−ワンデイ・メイデン−」その1 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/02/07(Sat) 13:06 No.172  
私は今、鬱蒼とした森の中をコンパスを頼りに進んでいた。
運良く武器になりそうな物を手に入れられたからと言って、身体能力はあくまで’ただの女子大生’だ。
見通しの悪い森の中では、何時何が何処から飛び出してきてもおかしくない。
状況が状況なだけに飛び出してきた物が死に直結する可能性は十分にある。
普通ならば、こんな森の中を進もうとは思わないだろう。
しかし、あくまで普通ならばだ。

「(ふふふ・・アタシの”セ○ン・センシズ”にかかれば、こんな森など平野も同然なのだぁ!)」

私には彼女が居る。
言葉の意味は分からないが兎に角凄い自信を露わにする彼女は、実際私よりも数段優れた危険察知能力を持っている。
流石に平野同然とまでは行かないだろうが、それでも彼女に悟られずに近付ける’危険’は少ないだろう。
彼女が居る限り、私が森の中で不意を突かれる可能性は低い。
無論、平野でも同様のことが言えるが彼女の察知能力だって無制限ではない。
望遠レンズ等を使った長距離からの狙撃のような物には流石の彼女でも反応できないだろう。
そうした、彼女の知覚外からの襲撃を抑制する意味でも私は森の中を行くことを選択していた。

「(あるぅ日♪森のぉ中♪クマさんにぃ♪出会ったぁ♪)」
「(・・・イリス、少し黙ってて。)」
「(何だよぉ〜、辛気臭い場所を黙々と進むエリねえが不憫だから、気を紛らわせてあげよーって思ったのにぃ〜・・。)」

彼女に姿があれば、きっと河豚か何かのように頬を膨らませて拗ねていることだろう。
私は何時の間にか呑気にそんな想像をしている自分に気付き失笑する。
私の失笑の意味を知ってか知らずか、彼女は釣られて嬉しそうに笑い出していた。

「(・・・待って。)」

突然、彼女が笑うのを止めて制止を促す。

「(詳細は?)」

私は彼女が察した気配は、少なくとも危険な物ではないと読んで切り返した。
もし危険な気配を察したならば制止よりも先に指示を出す、それが彼女だからだ。

「(ん。・・・一人。感覚的に・・・女の子かな、多分大人しい子だと思う。手練という気配では無いね。)」
「(そう・・。)」
「(こっちに向かってくるけど・・・ほぼ確実に、アタシ達には気付いてないよ。)」
「(ふーん・・・と、こんな物で良いかしら?)」

私はすぐ近くにあった手頃な高さの切り株に座り込み、休憩をしている最中のような素振りをしてみせた。

「(おおー!流石エリねえ!説明する手間が省けるよ♪)」

危険な気配でも気になる気配でもないのならば態々制止を促す彼女でもない。
まだそれほど長い付き合いではないが、私は彼女をそう言う人物だと判断していた。

「(・・・こんなことをやっている場合じゃないのよ?イリス。)」

私はあの二人と合流するため、アクアリウムに向かわなくてはいけない。
本当ならば此処で立ち止まっている時間は惜しい。

「(・・・分かってるさ。でも、気になる芽は早い内に・・ともいうじゃん?)」
「(・・そうね。それも一理あるわ。)」

こんな森の中に女性が一人。
今の時間帯も考えると、大きな可能性は2つ。
1つは彼、キング・リョーナに配置されたのがこの森の中だった可能性。
もう1つは何かしらの目的があってあえて森の中に入ってきた可能性だ。
彼女の言う通りの人物像ならば、後者は考えにくいだろう。
となれば前者で、彼が何らかの意図を持って配置した物と見ていいだろう。
そうならば、危険人物ではないように見えて実は危険人物であるという可能性もある。
それならば今のうちに処理をして置いた方が後のためだろう。
そうでないのであれば、脅威にはならない人物の存在が一人確認できる。
此処は多少の時間を犠牲にしてでも正体を確かめておく価値はありそうだ。

(さて、どうなるかしら・・。)

私は例の首飾りを意識しながら、もうじき私を見つけるであろう人物との接触を待った。
[9]投稿者:「少女−ワンデイ・メイデン−」その2 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/02/07(Sat) 13:08 No.173  
(うぅっ・・・やっぱり、戻ろうかなぁ・・・。)

私は一人、鬱蒼とした薄気味の悪い森の中を彷徨っていた。
もう随分と握り締めているせいか、拳銃のグリップは汗でとてもベタベタしている。
このままじゃ何かの拍子で落としてしまいそうだから、私は時々服の裾で拭いていた。
それなのに全く拭き取れている気がしない。気がつけば次第に拭き取る間隔が短くなっていた。

「怖いよぉ・・桜ぁ・・・。」

私は何処に居るのかも分からない親友の名前を口にしていた。

・・・あの時、私は全く人気の無い商店街に居た。
元来、商店街と言えば活気と生活感に溢れている物だ。
豪快で気前の良いおじさんや世話焼きなおばさんがお店を切り盛りしていたり、子供達が元気に走り回っていたりする。
笑顔の絶えない暖かくて心休まる空間のはずだ。
なまじそんな元来の姿を知っているだけに、私にはあの人気の無い商店街がとても異様な光景に見えてしまった。
がらんとした無機質な空間は、皆が私を置いて何処か遠くへ行ってしまったかのような感覚すら覚える。

「イヤ・・そんなの・・・いやぁぁ・・・!」

私の中で孤独という二文字がどんどん存在感を増していく。
その存在感は私の小さな身体を押しつぶさんとばかりに圧迫してきていた。

「桜ぁ・・!桜ぁぁっ・・・!うぇぇっ・・!!」

その圧迫感に耐え切れず、私は頭を抱え前屈みになりながら親友の名前を繰り返して嗚咽を繰り返す。
その時だった。

――――かたんっ。

「!!?!?!!?!」

恐らくは風に煽られた何かが出した物だろう。
しかし、私には途轍もなく恐ろしい何かが物音を立てたように思えてしまった。

「――――っいやあああぁぁあアアああああァぁァああぁあああ!!」

私は今まで出したことの無いような叫び声を上げて、我武者羅にその場を走り去った。

・・・・・そして、今に至る。
地図を広げてみると商店街の東に広がる森の中であることは分かる。
コンパスも手元にあるから、それを頼りに行けばあの場所へ戻ることは可能だろう。
しかし、あの物音の正体が本当に何か恐ろしい物だったらと考えるとどうにも戻る気がしない。
それに、あの圧迫感はできればもう味わいたくない。
此処は確かに薄気味悪い場所だけれども、生命の息吹に溢れていることもまた事実だ。
少なくともあの無機質の森の中よりは暖か味を感じられる。

(でも・・・やっぱり、戻った方が・・いいかも・・。)

冷静になって考えてみれば、いくら怖い物知らずな桜だってこの状況で冒険をするとは思えない。
それに、私が巻き込まれていることを知れば必ず助けに来てくれる。
もし、私が目が覚めた場所があの場所以外だったら、私はとりあえず知ってそうな場所を目指すだろう。
桜もきっとそう考えてくれるはずだ。
私は下手に動き回らず、ずっとあの商店街に居た方が彼女と逢える確率が高いと言える。

(そうなんだけど、そうなんだけどぉ・・・。)

そこまで分かっていても、あの物音がどうにも気になって踏ん切りがつかない。
戻るか戻らないかの決断を先延ばしにしながら、惰性で森の中を進んでいた時のことだった。

「・・・!」

私は先の方に不思議な気配を感じた。
僅かに感じられたそれは幽霊や妖怪の類の物に近いが何かが違う。
少なくとも悪い物ではなさそうだが、今までに感じたこともない気配だった。

(ま・・まさか・・・!)

正体が何にせよ、私の知る限りそうした物に憑かれているような人物は一人しか居ない。
怖い物知らずで我が侭、でも格好良くて頼りになる、絶対に失うことのできない私の親友。

(桜!!)

当然、別人の可能性だってあった。
しかし、私はそんな可能性を考えたくは無かった。
例え別人だったとしても、誰かに出会えるというのが嬉しいからだ。
それが悪い人だったら拳銃を見せて追い払えばいいし、そうじゃなかったら一緒に来て欲しい。

(桜じゃ・・ない・・。でも・・。)

そんなことを考えながら草木を掻き分けた先に居た人物は、ウェーブの掛かった黒いセミロングが素敵な女性だった。
歩き疲れて休憩しているのか、切り株に腰をかけていた。
恐らくは彼女もこんなことに巻き込まれて途方に暮れているのだろう。軽く溜め息をついている。
少し怖そうな印象も受けるが、少なくとも悪い人ではなさそうだ。
勇気を出して話しかけてみようかと思ったがふと立ち止まる。
あの不思議な気配は間違いなく彼女から出ているのだ。
此処まで近づいても僅かにしか感じられないから、あまり強い物ではないのかもしれない。
しかし、幽霊とも妖怪とも付かない物に憑かれている彼女は正気なのだろうか?
もしかしたら既に何処か変調をきたしていて、私を見つけたら問答無用で襲ってくるかもしれない。

(どうしよう・・。話しかけて・・大丈夫なのかな・・?)

「・・・誰?誰か居るの?」
「――っ!?」
[10]投稿者:「少女−ワンデイ・メイデン−」その3 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/02/07(Sat) 13:09 No.174  
「(エぇ〜リぃ〜ねぇ〜えぇ〜?)」
「(・・・分かってるわよ。)」

例の人物は私を見つけたはいいが話しかけるのを躊躇っていた。
物陰に隠れてちらちらと此方を窺っているつもりなのだろうが、私からは殆ど丸見えに近い。
どうやら彼女の言う通りの人物のようで、その手には拳銃のような物を握っているのも見えたが撃つつもりはなさそうだ。
となれば何故、彼女が私に話しかけるのを躊躇っているのかはイヤになるほどよく分かる。
私は心の中で一度大きく溜め息をついてから、さも今気付いたかのような素振りで声をかけた。

「・・・誰?誰か居るの?」

〜〜〜〜

(気、気付かれちゃった!?どど、どうしよう!!)

伊予那は心の準備が整わない状態で声をかけられ完全に動揺していた。
エリナは伊予那の警戒を解くため、その場から動かずゆっくりと言葉を続けた。

「私、富永エリナ。・・・貴女は?」
「えっ!?えっと!その!い、い、いよな!・・神代、伊予那ですっ!!」

伊予那は突然エリナから名前を聞かれ、どもりながらも答えた。
エリナはゆっくりと立ち上がりながら口を開く。
伊予那は思わず一歩だけ後ろに下がった。

「信用して。・・なんて虫の良いことは言わないわ。でも、私は貴女を襲うつもりはないわ。」
「・・・ホント、ですか?」
「信じるかどうかは・・貴女の自由よ。」

エリナはそれだけ言うと、ゆっくりと後ろを振り返り立ち止まった。
伊予那はその様子を暫く観察すると、恐る恐る口を開いた。

「あ・・あの・・エリナ・・さん?」
「何?」
「あの、えっと・・何か最近『肩が重い』とか『時々記憶があやふやになる』とか・・」

エリナは伊予那が何を聞きたいのかが何となく理解できた。

「・・・もしかして、貴女。コレの気配が分かるの?」
「(コレ言うなー!)」
「えっ!?」

伊予那は心底驚いていた。
幽霊に憑かれた本人がそのことを自覚できていることは稀であり、益してやそれをそのままにしている人が居るなんて聞いたことがないからだ。
基本的に憑かれて利のある幽霊なんて居るワケがないのだから普通は祓うだろう。

「幽霊に似てるけど・・少なくとも、貴女の考えているような物ではないわよ。」
「(むぅー!幽霊じゃない!意識体だー!)」
「そ、そうなんですか?」

エリナは軽く溜め息をつきながら、唖然としている伊予那を諭した。
彼女はまだ振り返る素振りもないし、淡々とした口調だが悪い人という感じはしない。
伊予那はエリナを信じても良いかもしれないと少しずつ思い始めていた。

「・・・そろそろ、振り向いて良いかしら?」
「えっ、ええ。いいですよ。」

エリナはゆっくりと振り返りそして、伊予那の手に握り締められている物を見つける。
その視線に気付いた伊予那は慌てて拳銃を身体の後ろに回して隠した。

「・・・どうやら、少しは信用してくれたみたいね。」
「えっ、はい・・。」

意外にも優しく微笑むエリナに、伊予那は思わず顔を俯かせながら答えた。
エリナはその様子に軽く溜め息をついてから話を切り出す。

「・・・貴女。こんな所で、何をやっていたの?」
「えっ、それは・・。」

ただ来た道を戻るのが怖くて何となく進んでいただけ。とも言えず、伊予那は口篭ってしまった。

「・・・私は、知り合いを探している途中よ。」
「えっ?」
「この森を抜けて、とりあえず廃墟にでも向かおうかと思っていたの。」
「そ、そうなんですか。」

エリナは口篭った伊予那を見かねて、適当な理由を言って彼女に助け舟を出してみた。

「それで、伊予那。貴女は?」
「・・・わ、私も。その、友達を・・」
「捜していたのね?」
「はい・・。友達を捜して・・町に行こうかなと思って・・」
「それで、この森で迷ってたね?」
「はい。」

伊予那は少しだけ声が上ずっていた。
彼女の口調は相変わらず淡々としているが、そこには暖かくて心安らぐ何かが確かに感じられたからだった。

「町ね・・。此処から西に行くと見えると思うわ。」
「えっ、あっ、ありがとう、ございます。」
「・・・連れて行ってあげるわ。伊予那。」
「えぇっ!?」

伊予那の反応で、自分と離れたくなさそうな気配を感じたエリナは同行を申し出た。
伊予那は彼女のまさかの申し出に驚嘆した。しかし、すぐに彼女の目的を思い出す。

「で、でも・・エリナさんは、知り合いを捜しに廃墟に行くんじゃ・・。」
「気にしないでいいわ。」
「い、いえ!そ、そういうワケにも・・。」

怖くて胸が張り裂けそうだったこの世界で、初めて心安らぐ人と出会えた。
確かに桜では無かったけど、恐らくこの人はとても優しい良い人だろう。
そんな人と別れるのは正直イヤだ。
しかし、見ず知らずの人間である私の我が侭にそこまで譲歩して貰うのは流石に忍びない。

「そ、そうだ!此処からなら廃墟も近いと思います!だから、先にそっちに行ってみて・・。」
「・・・無理しなくてもいいのよ。」
「む、無理なんてしてません!してませんよ!本当に、近いと思うんですって!」

伊予那は口から出任せを言って兎に角彼女の目的にあわせようとした。
ほぼ確実に、自分のウソは見抜かれているだろう。伊予那はそれでも必死に出任せを言っていた。

「・・・分かったわ。先に廃墟へ向かってから町に行くことにしましょう。伊予那。」
「は、はい!あ、ありがとうございます!」
「ありがとうって、貴女が合わせてくれたんじゃない。お礼を言うのは私の方よ?」
「えっ!?あ、そ、そうですね!イヤだなぁ!私ったら!アハハハ・・」

伊予那は目に涙を溜めながら、頭を軽く掻いて照れ笑いをしていた。
エリナはその様子を少しだけ見守ってからそっと彼女の手をとって歩き出す。
伊予那は突然のことに少し驚いたが彼女の手をしっかりと握り直して歩き出した。

「(・・・って、そんな約束しちゃっていいの?エリねえ。)」
「(いいのよ。彼に対するパフォーマンスにもなるもの。)」

彼が私の作戦通りに動いたのであれば、これは彼女を出しに私を盗み聞きした合流ポイントに行かせる罠だろう。
恐らくは私が警戒して真っ直ぐ合流ポイントに向かわない可能性を考えていたに違いない。
これも彼の考える『自分の思い通りにならないかもしれない状況』だと言える。
だから、私はこの罠を回避する素振りを見せてから罠に掛かってみせた。
人は勝利を確信した時ほど油断する瞬間は無い。彼とて例外ではないだろう。
特に今回の場合、『一度は思い通りにならなかったと思ったが、結局は思い通りになった』ことになる。
彼のことだからこうなった場合の喜びは一入だろう。油断する可能性は大いに高まるはずだ。
それに、彼女はそんな彼の作戦に利用されていることを知らない。
あのまま一人で町に行かせていたら、彼が用意しているであろう殺人狂と遭遇していただろう。
彼女は一応武器を持っていたが、あの様子では使い方を知っているとは思えない。
私がこの罠を回避したのならば、その代償として彼女の命が失われることになる。

(詭弁・・そんなの分かってるわ。でも・・。)

彼と本気で対峙するのであれば此処は何としても非情に徹するべきだろう。しかし、私はそこまで強くなれそうにない。
幸い、私の手元には武器になりそうな物がある。いざとなれば彼女だけでも助けられるはずだ。

(全く・・・私って、ダメね。)
「(ふぅ〜ん、パフォーマンスねぇ。エリねえって伊予那ちゃんのことそーいう目で見てたんだぁー。ひっどーい。)」

イリスの何時も通りの軽口がエリナは少しだけ癇に障った。

「(・・・貴女って、幽霊じゃないのよね?)」
「(だ〜か〜ら〜!意識体だよ!幽霊なんかじゃないよ!)」
「(そっ・・・じゃあ、御祓いとかされても大丈夫よね?)」
「(当たり前じゃん!大丈夫だよ!・・って、まさか!)」

エリナの言葉から、何をするつもりかを察したイリスの声に焦りの色が混じる。

「伊予那。お祓いって今できたり・・・」
「(わーー!!やっぱ何か怖いですぅー!ごめんなさーい!お許しくださぁい、エリナおねぇさまぁ〜!)」
「(ふふっ・・・冗談よ。)」
「(・・・むぅぅぅ!エリねえのいぢわるぅ〜・・。)」

エリナはイリスの膨れっ面を想像して失笑した。
そんな二人のやり取りを知る由もない伊予那は、何故名前を呼ばれたのか分からず不思議そうに首を傾げていた。

【A−3:X3Y4/森/1日目:午前】

【富永エリナ{とみなが えりな}&アール=イリス@まじはーど】
[状態]:健康
[装備]:運命の首飾り@アストラガロマンシー(首から提げて、服の中にしまっている)
[道具]:デイパック、支給品一式
ハロゲンライト(懐中電灯型)@現実世界(電池残量十分)
巫女服@一日巫女
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.伊予那との約束に従って森を抜けて廃墟に一度向かう
2.再び森を通って伊予那と商店街に向かう
3.アクアリウムに向かう

※伊予那はキング・リョーナが用意した『偽合流ポイント』に行かせるための罠だと思っています
※何かあったら伊予那を守るつもりです

【神代 伊予那{かみしろ いよな}@一日巫女】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM1934(弾数 7+1)(安全装置未解除、説明書には撃ち方までは書いてなかったことにします)
[道具]:デイパック、支給品一式 
9mmショート弾30発
SMドリンク@怪盗少女
[基本]:桜と生きて帰る
[思考・状況]
1.エリナについていく
2.桜を探す
3.銃は見せて脅かすだけ、発砲をする気はないし撃ち方も知らない

※名簿を「美空 桜」までしか見ていません。
※エリナから霊的な何かの気配を感じ取っています
※何かあったらエリナを守るつもりです

@後書き
うーん、辻褄合わせにやはり自信がない・・。orz
イリスの察知能力も高すぎた気がしないでもw
でも、結局動くのはエリナなのでまぁ大丈夫・・かな?(´・ω・`;)
[11]投稿者:「MARDER × MARDER」 その1 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/02/09(Mon) 01:05 No.175  
「何か・・・聞こえないか?」
「・・・うん、聞こえる。」
二人は森の中で、奇妙な歌声を耳にした。


「ブ〜キブキブキ武器がない♪」
「あのー、涼子さーん、そんなに声を出すと周りの人に気付かれちゃいますよー。」
そんなの分かってる。いやむしろ分かって歌ってる。
というか誰か気付いて。そしてこの子のお守りを代わって。
「ない、ない、ない、武ー器ーがNAI♪」
彼女はさらに大きな声で歌い続けた。


「どうやら、『武器がない』と言っているようだな。」
「・・・うん。」
声のする方を見ると、二人の人間の姿が見えた。
歌っているのは青い髪の女。もう一人は、それを止めているように見える。

八蜘蛛からの指示はこうだ。
”首輪を外せる知識を持った人間以外はできるだけ殺しなさい。
 首輪を外せそうな人間は脅すなり騙すなりして、私の元に連れてくるのよ。”
すなわち、まずは彼女らが首輪を外せそうかどうか、確かめねばならない。
いきなり襲ってくるリスクはあるが、相手は丸腰だ。
それに対して萩の手には、リゼのデイパックから出てきた長剣がある。
リゼには使えそうにないという事で、彼女が持っているのだ。
本来の得物は小刀だが、刀剣の類ならばある程度の心得はある。問題なかろう。

そう考えて、二人に近付こうとした萩を、リゼが止めた。
「お姉ちゃん、逃げよう。」
「逃げる?・・・何故逃げる必要がある。相手は丸腰だぞ。」
不機嫌そうに萩が尋ねる。
「だって・・・『武器がない』なんて、相当自信がないと言えないよ。
 普通だったら武器が見つかるまで大人しくしてるんじゃないかな。」
確かに、リゼの言うことも一理ある。
武器が無くても戦える人間はいくらでもいるし、そもそも”武器がない”というのが嘘かもしれない。
一つ判断を誤れば死に繋がる状況下で、軽率な行動はすべきではない。
「だがら、逃げ・・・」
「様子を見よう。」
とりあえず、木の陰に隠れて様子を伺うことにした。

「あの・・・お姉ちゃん。」
リゼが問いかける。
「戦わなきゃ、ダメ?」
「ああ。あの者達が攻撃の意思を見せれば、な。」
萩が当然のように答える。身に降りかかる火の粉は払わねばならない。
それについてはリゼも同感だ。実際今までもそのようにして生きてきた。
しかし二人の間には、考え方の決定的な相違があった。
「でも、私達が立ち去れば、戦いにはならないよね。」
リゼが戦うのは、あくまで逃げ道が無くなった時。自分自身の生存の為。
だから、自分から積極的に戦闘を仕掛けることなど無かった。
だが萩は違う。一時身を隠してはいるが、隙あらばいつでも仕掛けるつもりだ。
「確かに戦う意味は無いかもしれない。だが、これは命令だ。」
「命令・・・?」
リゼが首をかしげる。
「ああ。首輪の外し方を知らない者は殺す。知る者は捕らえる。」
「・・・・・・」


「ブ〜キブ〜キ武器がほし〜♪」
相変わらず元気に歌ってる。でも誰も現れない。
「・・・こ・・・涼子さ・・・」
おや、私の名を呼ぶのはどなたかな?
「涼子さんっ、涼子さん!」
コイツしかいないか。
「どした?短剣くれるってか?」
「あげません♪」
なんだ、くれねーのか。だったら呼ぶな。しかも何で嬉しそうなんだ?
「そんな事よりー、さっきあそこに人影が見えましたよー。」
彼女の指差すほうを見る。が、何の気配もない。
「なんかの見間違いでしょー?」
「違いますっ!確かに誰かいるんですよ。」
「だいたい、あんたが気付いてこの涼子さんが気付かないなんて有り得ないでしょ。」
仮にも様々な修羅場を潜ってきた私だ。誰かいれば私が真っ先に気付くはず。
「でも、確かに見たんです。嘘だと思うなら自分で確かめに行ってください。」
「じゃあ短剣ちょうだい?」
「ダメです。」
「ケチ。」
武器も持たずに偵察に行けってか?ったくこの女は・・・
「んなら、あんたが行けば?」
「もう・・・仕方ないなぁ。」
結局、彼女は短剣を手に、渋々歩き始めた。


(向かってくる!気付かれたか!?)
この距離で隠れている相手に気付くとは、相当な実力と思われる。
迂闊に出て行かなくて正解だったかもしれない。
(それに、あの者の服・・・)
少しデザインは異なるが、彼女の服は萩の服とそっくりだ。
デザイン自体はシンプルだが、誰にでも着こなせるものではない。
(実はかなりの実力者かもしれん。)

仮に能力が同程度だとすれば、重要になるのが最初の一撃だ。
上手く決まれば相手を動揺させ、運がよければ圧倒する事も出来る。
相手は短剣を持って歩いてくる。攻撃範囲に入るまで十数秒。
タイミングが命だ。失敗は許されない。
長剣を握る手に力が入る。

しかし、最初に動いたのは、萩ではなかった。

「ぅあ・・・が・・・」
向かってきた少女に、強大な魔力の塊が襲い掛かる。

リゼだった。



伊織が、倒れた。
その直前に木の陰から飛び出した、一人の少女。
彼女が放った、”何か”。

考えるより先に、涼子は伊織に向かって走り出した。
そして伊織の手から短剣を奪い取り、リゼの腹に突き刺した。

トレジャーハンターとしての勘が告げていた。彼女は、危険だ。
何が起こったかは分からないが、少なくとも彼女が何かをして、伊織が倒れたのは間違いない。
仮に逃げたとしても、相手の能力が分からない以上、安全とは言えない。
それならばまずは武器の確保だ。そして・・・

「あがぁ・・・ひぐぅっ」
素早く短剣を引き抜き、今度は右腕を切りつける。
相手の能力が分からないならば、先の先を取る。すなわち先制攻撃で黙らせるしかない。
「いぎいいぃいいぃぃぃ!!」
逃げようとする彼女の背中を切ると、ひときわ大きな悲鳴を上げて倒れこんだ。

(・・・さすがに、ちょっとやり過ぎたかなー)
伊織を攻撃したとはいえ、相手は子供だ。
短剣を持った伊織に怯えて攻撃しただけかもしれない。
「・・ふぇ・・・えぐ・・・ヒック・・・やめ・・やめてよお・・・」
彼女が哀願する。どうやら殺意は無いらしい。
それならばこちらも、これ以上攻撃する理由は無いのではないか。
涼子がそう思って、リゼに手を差し伸べようとした時だった。
(ハッ、これは!)
リゼの傷が涼子の目の前でみるみるうちに回復していった。
(再生能力!?それに・・・)
よく見ると、彼女の頭には二本の角。

「うぎゃああああぅああぁぁぁ!!」
涼子は再び、短剣を突き刺した。
油断していたためか、先程よりも深く刺さったらしい。
「な・・ケホッ、な、なんで・・・」
「・・・この涼子さんを騙そうなんて、一万年と二千年早いのよ!」
騙す・・・リゼには、そんな自覚は無かった。
訳が分からず言葉を失うリゼに、涼子の厳しい一言が投げかけられる。
「あんた、モンスターでしょ。」


”モンスター”
普通の人間ならば、否定して終わりだろう。
しかしリゼは人間とモンスターのハーフ、忌み子。
人間から疎まれ、モンスターからも蔑まれる存在である。
彼女にとってこの一言は、極めて厳しい言葉だった。

”モンスターみたいなもんだから、人に嫌われて当たり前だよな。”
――え・・・
”こんな化け物にお姉ちゃんとか呼ばれて、さぞかしおぞましかったことだろうよ。”
――ちが・・・
”どうせ、お前だって信じてないんだろ。忌み子の自分なんかと本気で仲良くしてくれたなんてな。”
――違う・・・違う!!

思い出したくない記憶が蘇ってくる。
リゼはそれを何とか振り払おうとするが、刻み込まれた苦しみはそう簡単に消えない。
それどころか、今まさに肥大化しようとしている。

「あぎぃぃああぁァあああアアああ!!」
リゼの腹の中が、ナイフで抉られる。
「それっ、もういっちょ!」
「ぎああぅァあおぇああぃイいっ、!!!」
涼子はリゼの腹の中を、ナイフで掻き回した。
(いくら再生能力があっても、内臓がこれだけ傷つけば無事にはすまないでしょ〜)
「いっ、いあっ・・・がぁっ・・・」
最早、リゼの身体の中は傷だらけ。回復どころか生命の維持さえ危うい状態だ。
涼子はそう確信していた。

だがリゼの再生能力は予想の上をいっていた。
「なっ、何ですとぉっ!」
ナイフが刺さっている所の傷が閉じていく。
「まずい、このままじゃ・・・」
武器が奪われるという危険を考え、涼子はナイフを引き抜く。
リゼの腹からおびただしい量の血が噴き出す。
「うぐうぅウゥっ・・・ふあっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
さすがに体力を消耗したのだろうか。リゼの呼吸は乱れている
しかし命には全く別状がないらしい。
それどころか、僅かな時間で傷は完全に閉じ、服に空いた穴と血痕のみが残った。
[12]投稿者:「MARDER × MARDER」 その2 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/02/09(Mon) 01:06 No.176  
(まさか、これ程とは・・・涼子さんピンチ!?)
トレジャーハンターの稼業は、常に危険と隣り合わせである。
身長が二倍ぐらいある怪物や、侵入者を撃退するロボット、時には苦手な蛇だって。
これまでたくさんの敵と戦ってきたが、リゼのような相手は初めてだ。
彼女のように、どれだけ斬っても回復されるような相手は。
(でも、やるしかないでしょ!)

涼子は、弱気になろうとする自分を奮い立たせて、リゼに襲い掛かった。
一ヶ所を集中的に攻めてダメだったなら、今度は手数で勝負だ。
胸、腕、足、顔、背中・・・リゼの身体のあらゆる箇所に切り傷が出来上がり、そのたびに彼女は悲鳴を上げた。
(よし、回復より攻撃の方が速い。これなら・・・)
「くうぅぅああぁぁアアアああっっ!!!」
激しい攻撃を受け、ついにリゼは地面に倒れ込んだ。
涼子はその上から、馬乗りになって切りつける。
「これで・・・とどめっ!」
「いやぁっ・・助けてえぇぇぇ!!!」

”はっ、忌み子なんて誰も助けねーよ。”
――・・・い・・・
”何でお前のような化け物を助けなきゃいけないんだよ?”
――・・・あぁ・・・ぅああぁぁ・・・!
”お前みたいな化け物は、見つかったらすぐに殺されるからな。”
――・・・っう・・・そんなぁ・・・!
”どうせ、忌み子なんて生きててもロクな人生じゃないだろ。”
――・・・ひぐっ・・・ぅぅっ・・・

「うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!」
リゼが大きな泣き声を上げた。しかし涼子は気にも留めずに短剣を振りかざす。
「・・・だから、涼子さんは騙されないって言ってるでしょ。」
そしてその短剣を、リゼの喉に突き刺した。

「がっ・・・・・・」
リゼは途端に呼吸困難に陥った。悲鳴を上げようにも声さえでない。
そんな彼女に、涼子はさらに追い討ちをかけようと、再び短剣を振り上げた。
絶体絶命の危機。だがその時、ギリギリの所で助けが入った。


「痛っ!」
涼子の手首にどこかから飛んできた石が当たり、思わず短剣から手を離してしまった。
そしてその反動で短剣は手の届かないところまで飛んでいく。
(落石の罠かッ!・・・あ、でも洞窟じゃないや。)
全く的外れな分析をしていると、近くの茂みから女性が飛び出し、長剣で涼子に斬りかかってきた。
それを一歩下がって回避し、次の攻撃に備えて身構える涼子。
相手の服装は伊織と似ているが、大きく異なるのは耳と六本の尻尾。
(あちゃー、モンスターの仲間がいたか!)
予想外の事態に戸惑いながらも、相手の動きを見極めようと身構える。
武器が奪われているため戦うのは無謀だ。何とか隙を見て逃げ出さなければならない。

「リゼ、済まない。私がもっと早く決断していれば・・・」
助けに入った女性、萩は、つい先程まで迷っていた。
リゼに襲い掛かった女、おそらくは普通の人間だが、身体能力は圧倒的だ。
自分よりは間違いなく上。もしかすると三将軍筆頭のロシナンテをも上回るかもしれない。
いくら魔法があるとはいえ、戦えば苦戦は免れないだろう。
だが幸いにも、今はリゼばかりに気を取られていて、まだ自分の存在には気付いていない。
不本意だが、今のうちに逃げて、八蜘蛛らと合流してから挑むのが得策である。
しかし・・・そうすればリゼは間違いなく殺される。
戦いに犠牲は付き物、とは言うものの、萩にはそれが耐えられなかった。
あらゆる魔族を統べる魔王軍三将軍の一人として。それ以上に、一人の魔族として。

「・・・ぅ・・・ぉ・・・」
「もういい、喋るな。傷口が開く。」
何かを伝えようとするリゼを制して、萩は涼子を睨みつけた。
涼子も負けずに睨み返し、しばらくの間沈黙が続いた。

その静寂は、突然破られた。
「ひゃあぁっ!」
涼子の足元の地面が揺れた。萩の魔法である。
相手の剣ばかりに意識を集中していたため、足元がお留守になっていた涼子は、
大袈裟に転んで尻餅をついてしまった。
(地震!?こんなタイミング良く・・・って、あっ!)
涼子も気が付いた。この地震は、目の前の相手が起こしたものだと。
そして自分は今、無防備な姿勢で座り込んでいると。
(ヤバい!!!)

だが、それは杞憂に終わった。
萩はリゼを抱きかかえ、森の中を走っていった。



「はあぁ〜・・・折角いい短剣だと思ったのに・・・」
リゼを切り刻んだ短剣は、既に刃が欠け、血と脂でギトギトだった。
はっきり言って、もう使える状態ではない。

(やっぱあれって、”魔法”かなぁ・・・)
伊織を襲った何か、洞窟でもないのに飛んできた石、タイミングよく揺れた地面、それに驚異的な回復。
涼子の世界ではまず考えられない事だが、小説やマンガやアニメなど、
フィクションの世界ではよくある”魔法”である。
(あんなモンスターまで参加してんのか・・・)
もしそうだとしたら、自分の戦い方が通用しない可能性もある。何か対策を立てなければならない。
逆に、魔法を使える人間を仲間に出来れば、これほど心強い事はないのだが。

(それにしても・・・)
涼子は、倒れている伊織に歩み寄り、手を触れる。
「呼吸・・・停止。心拍・・・停止。瞳孔・・・散大固定・・・」
伊織は死んだ。
倒れた時からほぼ間違いないと思っていた事だが、実際に確認するのとは訳が違う。
「まあ、厄介払い出来たのは間違いないんだけど。」
そもそも涼子は、伊織と何とかして分かれたいと思っていた。
望まぬ形であったとしても、その希望が叶えられたのは確かだ。
それに、もしこの一件が無かったとして、伊織があんな化け物のいる森の中で生き残れただろうか。
遅かれ早かれ、こうなる事は目に見えていたのだ。
「でも・・・やっぱ、後味悪いわ。」
涼子はとりあえず、伊織の亡骸を、近くの柔らかそうな地面に埋めてやった。



「ふぅ・・・何とか、逃げ切ったか。」
萩はリゼを抱えて数百メートル走り、ある木の側で立ち止まって、
リゼを木にもたれかかるように座らせると、自分もその隣に座った。

「・・・おねえ・・・ちゃん・・・」
リゼが声をかける。萩は前を向いたままで、それには応えなかった。
「ありがとう・・・」
「・・・感謝する事は無い。私が最初から飛び出していれば、傷つく事も無かったのだ。」
「でも、私を助けてくれたよ・・・」
萩は迷っていた自分を悔いていた。だからこそ、感謝されるのが辛かった。

「それより、傷は大丈夫なのか?」
萩が話題を変える。
「うん、もうちょっと休めば平気。でも・・・」
言いかけてリゼは口をつぐんだ。代わりに萩が言った。
「さっきの技は使えない、か?」
リゼはその言葉に驚いた。さっきの技、カラミティが使えなければ、自分は戦力にならない。
その事を知られれば置いていかれると思って、言わなかったのだが・・・

「安心しろ。私はお前を見捨てたりはしない。」
リゼの心を読み取ったのか、萩が優しい言葉をかける。
「え・・・本当に?」
「ああ。我が誇りにかけて誓おう。」
自分が優柔不断だったために、仲間であるリゼに、辛い思いをさせてしまった。
簡単に償うことは出来ないだろう。だが、彼女のために何かをせずにはいられない。
自分に出来る事は・・・戦う事。リゼに襲い掛かるものを、片っ端から薙ぎ倒す。
元々八蜘蛛の指示で、人間は殺すことになっているのだ。
その対象が人間以外にも広がった。ただ、それだけの事だ。

「ふぇ・・・えぐ・・・ひっく・・・」
「・・・リゼ、泣いてるのか?」
「うわああああああああああん」
リゼは涙を流し、萩に抱きついた。

彼女は、ずっと一人だった。
一緒に生活する人間はいた。リョナラー連合の皆や、お姉ちゃん。
しかし彼らは人間、自分は忌み子。どうしても壁が出来てしまう。
だが、目の前にいる女性は、自分と同じ忌み子。
しかも、自分を見捨てない、と言ってくれる。
彼女は、生まれて初めて、安心できる場所を見つけた気がした。

泣きじゃくるリゼを、黙って抱きしめる萩。
彼女もまた、一人だったのかもしれない。
魔王三将軍とは言っても、歴然とした上下関係があり、八蜘蛛やロシナンテと仲良くは出来ない。
かといって、配下の魔族も、魔王と自分の力を恐れて従っているだけだ。
彼女もまた、この時間を喜んでいた。

しかし、それは長くは続かなかった。



――ミツケタ
[13]投稿者:「MARDER × MARDER」 その3 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/02/09(Mon) 01:07 No.177  
ダンッ!
発射音と同時に、一本の矢が飛んでくる。
「危ない!」
二人はその場に伏せて、それを辛うじて避けることができた。

「フン、避けたか。」
矢の飛んできた方から、桃色の髪の少女が歩いてきた。
「曲者!それ以上近付くならば容赦はせんぞ!」
「あらら、嫌われちゃったわね。」
萩の大喝に驚きもせず、その少女、サーディは歩みを進める。
「まずは一人仕留めてからと思ったんだけど・・・こうなった以上仕方ないか。」
彼女は手に持っていたボウガンを投げ捨て、二本の剣を構えた。
萩も長剣を手にしてそれに応じる。

「覚悟!!!」
最初に仕掛けたのは萩の方だった。
少女に向かって15メートルほどの距離を一直線に突っ込み、突進力を活かした突きを繰り出す。
当たれば致命傷だ。だがその分直線的な攻撃は見切りやすい。
サーディはギリギリまで引き付けて左に避け、すれ違いざまに斬りつける。
が、萩もそこまで読んでいたらしい。お互いの攻撃は空を切った。

「成る程、お主の身のこなし、中々のものだ。」
「お褒めに与って光栄だわ。尤も、もうすぐ死ぬ人に褒められても意味はないけど。」
「・・・ぬかせ!!」
萩が長剣を両手で握り、右から左へ薙ぎ払う。
サーディは一歩退いて避け、絶妙のタイミングで右手の突きを放つ。
それに対して萩は体勢を低くして避けると同時に、サーディの足元を狙う。
跳んで避けるサーディ。しかし、それこそが萩の狙いだった。
空中にいるという事は、僅かながら全く動けない時間があるという事。
萩はそれを見逃さずに斬り上げる。だが、サーディの姿はそこにはない。
同時に背後から殺気を感じた。サーディが今にも双剣を振り下ろそうとしていた。
急いで、しかし冷静に振り返って対処する萩。間一髪、彼女の攻撃を受け止めた。

「あなたの動きだって、悪くないわよ。」
「・・・当然だ。人間ごときに遅れは取らぬ。」
「あははは、いいわ、あなたのその落ち着いた態度。でもいつまで耐えられるかしら。」
今度はサーディが仕掛けた。左手の剣を力まかせに振り下ろす。
萩はそれを長剣で受け止めるが、次に右手からの攻撃が繰り出される。
避ければさらに左。流れるような連続攻撃で、萩は次第に防戦一方になる。
しかし萩も黙ってはいない。攻撃が大振りになった一瞬の隙を突いて斬撃を放つ。
これにはサーディも驚いて、バックステップで間合いを離した、

「ふぅ、そう簡単にはいかない、か。・・・でも、そろそろ疲れが見えるわよ。」
「・・・くっ・・・」
サーディの言う通りだ。涼子からリゼを救い、彼女を抱えたまま全力疾走、さらにこの戦闘。
疲労していないはずがなかった。萩の額から汗が滴り落ちる。
「あはは、図星のようね。じゃあそろそろ、殺してあげる。」
サーディが萩に向かって静かに近付く。が、次の瞬間、

「ぐっ・・・」
サーディがその場に膝をついた。咄嗟に手で押さえた口からは、血が漏れている。
「う・・・何故だ・・・身体が・・・」
身体の自由がきかない。”悪魔”とは違う。肉体を直接蝕まれる感じだ。
深まる疑問に、萩が答えを出した。
「・・・『毒の大地』」

この付近の地面は、近くに毒沼があるためか、わずかに毒を含んでいる。
とはいえ濃度は低く、土を食べたり、埋まったりしない限り影響は無いが、
萩は魔法で近くにある毒を全て、サーディの足元の地面に集めたのだ。
こうなれば、素肌で触れれば勿論アウト、上に立っているだけでも毒気を浴びる事になる。
萩自身には全く影響は無いが、普通の人間にとっては十分致命的である。

「くっ・・・いつの間に・・・」
「最初からだ。無策で懐に飛び込むとでも思ったか。」
この作戦の難点は、相手だけでなくある程度の範囲に毒の影響が及ぶ事だ。
萩にとって問題が無くても、リゼが耐えられるかどうかは分からない。
だからまずはリゼから離れる必要があった。
そこで、サーディの姿を確認した直後、気付かれないように魔法を詠唱し、
直ちに危険を冒して、彼女に向かって突っ込んだのだ。

「さて・・・言い残す事はあるか?」
萩が問いかけるが、サーディはうずくまったまま動かない。
「最早、口も聞けぬか。仕方あるまい。」
萩が、長剣をサーディの首に当てる。


”チダ・・・チノニオイダ・・・”
真っ赤な血を目にして、サーディの中で悪魔が蠢いた。
”ワレニ、チヲササゲヨ・・・モット、モットダ・・・”
しかしこの血は、彼女自身の血。そんなものには興味が無い。
目の前にいる女の血。無様に崩れ落ちる肉体から、美しく咲き誇り、儚く消える薔薇の花。
彼女も悪魔も、それを求めている。
だが、毒の影響でもはや動くことすらままならない。
”・・・ウソダ。”
悪魔は否定する。これだけ毒を浴びれば、普通の人間の身体は耐えられないのだが、
”オマエハ、モウ・・・”
悪魔は言う。彼女は最早、ただの人間という枠には収まらない。
(・・・そうね。)
人の心も身体も、既に邪神に捧げた。
(私は・・・悪魔だ!!!)


「アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
突然、サーディが狂ったような笑い声を挙げた。
流石の萩もこれには驚いたようで、一歩後ずさりする。
「ふふふ・・・よくも、ワタシをここまで苦しめたわね。」
悪魔のような、否、悪魔そのものとでも言うべき笑みを浮かべて、萩に詰め寄る。
「100倍にして返してあげる。苦しんで、苦しんで、苦しんで死になさい。アハハハハハハ・・・」

「ぐぅっ!」
先程までとは比べ物にならないほど重く、速い一撃が萩を襲う。
「アハハハ!!殺してアゲル。」
大振りながら尋常ではない速さの連撃。
萩は辛うじて受け止めるが、明らかに押されている。
「フフ・・・アナタ、もっと足元にも気をつけなさい。」
「な・・・うわっ!」
剣にばかり意識が向いていた萩に対して、サーディが足払いを繰り出す。
萩は転倒こそ逃れたが、バランスを崩してしまった。
そこにサーディの容赦ない攻撃が加わる。
「アハハハハハハハ!さぁ、血を・・・チヲ、ワタシニ!」
「ぐ・・・最早、これまで・・・」
萩は、覚悟を決めて目を閉じた。
[14]投稿者:「MARDER × MARDER」 その4 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/02/09(Mon) 01:07 No.178  
・・・おかしい。
あれから十分な時間が経ったはずだ。だが、予想していた衝撃は来ない。
あるいは、痛みを感じる間もなく、殺されてしまったのだろうか。

恐る恐る、目を開ける。
すると目の前には、桃色の髪の少女が、倒れていた。

「ぐ・・・くぁ・・・貴様!!!」
サーディが一点を睨みつける。しかしその視線の先にあるのは、萩ではない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
萩が後ろを振り向くと、先刻、自分が守ると誓った少女。
リゼが、荒い息をしながら立っていた。

「お姉ちゃん、ゴメン。力が・・・足りなかった。」
リゼの必殺技、カラミティ。
フルパワーで放てば大抵の相手は無事では済まないが、その威力は彼女の気力によって大きく変動する。
今は、最小限の威力で辛うじて放つことが出来たといったところだ。
本来ならこれぐらいの時間が経てば完全に回復するのだが、何故か力の溜まりが遅い。
しかし、この場合は、これで十分だった。

「リゼ、恩に着る。・・・後は、私の仕事だ。」
長剣を再び構え直して、倒れたサーディに、一歩一歩近付く。
「や・・・く、来るなぁっ!」
彼女の言葉に耳も傾けず、無言で萩が迫る。
「ひぃ・・・う・・・お、お願い、やめてええええぇぇぇっ!!」


バシャアッ
「うあっ、くっ」
突如、萩の顔面に赤いものがぶつかって破裂し、その内容物が萩の身体を赤く染めた。
「な・・・何だ、これは!?」

「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け・・・」
森の奥から声が聞こえる。
「・・・お主は!?」
「とうっ!」
その声の主は、萩とサーディの間に飛び込み、剣を構えた。
「私は・・・穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の超戦士・・・
 スーパートレジャーハンター、涼子さんだぁっ!!!」
「激しい怒り?・・・まさか、あの少女が死んで・・・」
「あの少女?・・・伊織のことかーーーっ!!!」

言っている意味はよく分からない。だが、一つだけ分かる事は、一転してピンチに陥っているという事だ。
先程は奇襲で何とか逃げ出すことが出来たが、今度はそう簡単にはいかないだろう。
(くっ・・・やるしかない!)
萩は、長剣を構え直す。しかし、
「遅い!」
「しまった!」
涼子の一撃で、萩の剣が吹き飛ばされた。

(ならば魔法で!)
萩は咄嗟に魔法を詠唱しようとする。
「甘ーい!」
「があああぁぁぁぁっっ!!」
だが間に合わず、腹を串刺しにされてしまった。
「ぐ・・・くぅ・・・リゼ・・・に、逃げろ・・・」
「他人の心配なんてしてる場合!?」
涼子が萩の腹に刺さった剣を引き抜く。
「ぐぅあああああぁあっぁぁ!」
萩の腹から血が噴水のように噴き出し、彼女はそのまま地面に倒れこんだ。

「かっ、は・・・ま、負けぬ・・・私は、魔王軍三将軍の、一人・・・」
萩が地面についた手に力を入れると、その場の土が固まり、みるみるうちに小刀の形となった。
それを握り締めて、最後の反撃に望みを繋ぐ。
が、時既に遅し。
「とどめっ!」
涼子の剣が、萩の心臓を貫いた。


その剣を引き抜いて、涼子が呟く。
「・・・一匹、逃がしちゃったか。」



その後涼子は、萩の死を念入りに確認した後、近くに生えていた草をサーディに食べさせた。
毒沼の側に生えているだけあって、毒に抗う成分が多く含まれているだろうという、
トレジャーハンターとしての勘に頼ったわけだが、どうやら上手くいったようだ。

「・・・涼子、一つお願いしてもいい?」
少し体力が回復したサーディが、涼子に話しかける。
「探し物は得意?」
「そりゃもう、涼子さんにかかれば、たとえ火の中水の中胃袋の中。」
「それじゃあ・・・」
サーディは、薄く笑みを浮かべて涼子に頼んだ。

「私の首飾り、一緒に探してくれる?」


”ナゼダ・・・ナゼ、コロサナイ・・・”
――そんな、助けてもらった恩があるじゃない。
”・・・ウソヲツクナ!”
――あら、お見通しってわけね。恩なんてもちろん冗談よ。
”ナラバ、コロセ・・・アイツヲ、コロセ・・・”
――フフ、それは無理。残念だけど今の私では、彼女に敵わないわ。
”・・・・・・”
――だから、運命の首飾りを取り戻すの。・・・それまで、待っててくれる?
”イイダロウ。タダシ・・・”
――分かってる。殺すのを止めたりはしないわ。だって、あれだけの力を持つ彼女ならば・・・

――きっと、私ノ渇キを癒シテクレル・・・



「はぁっ・・・はぁっ・・・」
リゼはあの場から逃げ、少し離れた森の中で休んでいた。
「お姉ちゃん・・・」
逃げながら振り返ると、萩の背中から心臓へと、剣が貫いているのが見えた。
「えぐっ・・・ぐすっ・・・」
不意に涙が溢れ出す。せっかく見つけたと思った居場所は、一瞬にして奪われた。
「うぇ・・・ひっく・・・死ねば・・・死ねば、いいのに・・・人間なんて、みんな・・・」

出来ることなら、すぐにでも敵を討ちたい。しかし・・・それは不可能だ。
今はただ、涙を流して耐える以外に、選択肢はない。
でもいつか・・・力が、戻ったら・・・
これまでは無かった心、”殺意”が、彼女の中に芽生えようとしていた。




【C-1:X3Y3/森/1日目:午前】

【リゼ@リョナラークエスト】
[状態]:体力消耗、気力(SP)消耗
[装備]:ボロボロに切り刻まれた服(犯人は涼子)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    メイド3点セット@○○少女
[基本]:生き残る。人間は殺せるなら殺す。
[思考・状況]
1.体力と気力を回復
2.余裕があれば着替える・・・か?
3.人間は死ねばいいのに、と思うが自分の安全が最優先
4.と思いきや、感情的になれば後先考えずにカラミティ

※リョナたろう、オーガ、モヒカンが参加していることに気づいていません。



【C-2:X1Y3/森/1日目:午前】

【天崎涼子@BlankBlood(仮)】
[状態]:健康
[装備]:アーシャの剣@SILENTDESIREシリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式(伊織、萩の分も)
    エリーシアの剣@SILENTDESIREシリーズ(リゼ→萩→涼子)
    防犯用カラーボール(赤)x1@現実世界(1個使用)
    ライトノベル@一日巫女
    怪しい本@怪盗少女
    カザネの髪留め@まじはーど
    銘酒「千夜一夜」@○○少女、
    眼力拡大目薬×3@リョナラークエスト
[基本]:一人で行動したい。我が身に降りかかる火の粉は払う。結構気まぐれ。
    でも目の前で人が死ぬと後味が悪いから守る。
[思考・状況]
1.サーディの首飾りを探す、ついでにお宝も探す
2.サーディはたぶん守る
3.とりあえず、奈々を探してみる

※魔法の存在をほぼ確信しました。
※伊織を殺された怒りで、戦闘力は50倍の800に・・・なってません。
※というかぶっちゃけ激しい怒りってのもノリで言ってみただけです。


【サーディ@アストラガロマンシー】
[状態]:体力消耗、毒(ほぼ回復)
[装備]:ルカの双刀@ボーパルラビット
    競技用ボウガン@現実世界(正式名:MC-1、矢2本、射程30m程度)
[道具]:デイパック、支給品一式(消耗品は略奪して多めに確保)
[基本]:嗜虐心を満たすために殺す(マーダー)
[思考・状況]
1.運命の首飾りを探す、持ち主を殺してでも奪い取る
2.入手後、涼子を殺す
3.その後は考えてない


【萩の狐@創作少女】
[状態]:死亡(涼子に心臓を貫かれて)

※所持品は全て涼子に回収されました。
※カラーボール+血で真っ赤になってます。



【C-2:X3Y3/森/1日目:午前】

【神代伊織@こどく】
[状態]:死亡(リゼのカラミティ一発)
[装備]:なぞちゃんのお面@アストラガロマンシー

※所持していた鉄の短剣は、使い物にならなくなって近くに放置されています。
※その他所持品は涼子がちゃっかり持っていきました。
[15]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/02/09(Mon) 01:17 No.179  
@あとがきとか

はい、すいません。遅くなりました。
というか涼子さんってこんな人だったかな・・・(汗)
[16]投稿者:旧778◆R2RkOHq. 投稿日:2009/02/15(Sun) 23:45 No.187  
< 死者の声 >

「伊予那は・・・いないみたいだね」

周囲を見渡し、誰に話しかけるでもなく独り言をこぼして彼女―
美空桜は平たい岩の椅子の上にどっしり腰掛けた。

「大丈夫かなーあの子、あんな光景見ちゃって・・・
 泣いてないといいんだけどなー」

ほんの数十分前、薄暗い一室で起きた惨劇
数秒前まで生きていた少女の顔面が炸裂し、飛散した光景
自分が好むホラー映画では見慣れたシーンではあった。
だが、それはあくまでも作り物であって、それもブラウン管の向こうの世界だ。
さっきのは本物の、それも目の前で人間が、グロテスクに死ぬ光景だった。衝撃のレベルが違う。
ホラー好きを称する自分でさえ、こみ上げてくるものがあったのだから・・・

「なんとか、伊予那と会って安心させてあげないと、それに―」

少女の首輪を爆破させたあの男、「リョーナ」というふざけた男が
もし伊予那を爆破させていたらと思うと、ただでさえ頭に血の上りやすい彼女の
血圧は一瞬にして跳ね上がってしまうだろう。
あの一室においては呆気にとられて行動を起こさなかったが
今になってやり場の無い憎しみに彼女は頭をカッカさせていた。
時折、手に持っている無骨なハンマーを振り回しては

「あの野郎おぉぉーっ!ぶっ○おおおぉぉぉす!」

と、ヘラヘラ笑う「キング・リョーナ」の顔が彼女の攻撃により、
苦悶に浮かぶ様を想像し、なんとか自我を保とうとしていたのだった。
あんな男の用意した武器を使うのは癪だったが、自分の用意した武器で
殺されるのもあんな外道にはお似合いだ、と彼女は少し微笑んだ。

「とにかく、伊予那を探さないと!」

・・・・・・・・・

「伊予那〜伊予那、伊予那、伊予那〜」

周囲から見れば楽しい雰囲気で鼻歌を歌っているようにも思えるかもしれない
しかし、彼女は必死であり、心配であった。
霊感こそあるが、臆病で弱気かつどんくさい友人がこんな<殺し合い>という
ゲームに参加して生き残れるはずが無いと直感的に感じていたからだ。
それと同時に、今でも、泣きながら、或いは泣きそうになりながら
自分を探しているに違いないとも感じていた。

その時であった。

突然の倦怠感、眩暈、嗚咽、震動、桜は一体何が起きたのか分からないままに
その場に突っ伏した。膝は痙攣し、嘔吐感が彼女を襲う。

目の前に何かの光景が広がってくる。少女が、一人、剣を巧みに操り
自分に襲い掛かってくる光景だ。咄嗟に回避しようと身体を動かそうとする。
が、身体は思うように動かず、そのまま少女の剣が自分を切り裂いた。
「あははハハハ!!!」
少女は倒れた自分の身体を無作法に扱い、井戸へと放り投げる
真っ暗な周囲、筒状の井戸から伸びる空の景色だけがぼんやりと目に映る

その光景が走馬灯の如く目前を通り過ぎると、桜の異常はすぐに治まった。
ふと、桜は立ち上がり、挙動不審なほどに周囲を見渡す。

「今のは何・・・?」

まるで数十分に渡り、アクションシーンと残虐な殺害の光景を見た気がした。
だが、腕にはめられた時計の短針は半周もしていなかった。

「夢・・・夢だったのかな、変なところに連れてこられて疲れてるから
 道端で寝ちゃったのよ!きっと!」

頭を二三度横に振るい、少し声量の大きい独り言で自分を律し、
桜は再び森を歩き出す。その丁度背後の生い茂った草むらの先に
古めかしい井戸があったことを彼女は知らない。


現在位置:C1 X4Y4
【美空桜@一日巫女】
[状態]:少し冷や汗
[装備]:モヒカンハンマー@リョナクエ
[道具]:支給品一式
首輪探知機@バトロワ(未使用)
[基本]:伊予那を探す・助ける・協力する(伊予那に害をなす奴を倒す)
[思考・状況]
1・心霊現象に遭遇
2・焦りつつも伊予那探索

※サーディの名前は知りませんが
 顔は脳裏に焼きつきました。出会えば「夢」の人物だと分かるでしょう
※伊予那がいるのを知っているのは最初に名簿を確認したから


[17]投稿者:「魔族の誇り、人間の誇り」その1 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/02/27(Fri) 17:56 No.191  
「はぁっ・・・はぁっ・・・くっ・・・。」

まるで何キロも走りこんできた後のように身体が熱くて重い。

(くっ!何か、おかしい・・。)

何度も大きくゆっくりと呼吸をしているが、まるで初めからこの程度の体力しか無かったかのように体力が戻らない。
今までも何度となく激しい運動をこなしてきたが、こんなことはただの一度だってなかった。

(やっぱ・・あの炎か・・?)

アイツの炎に焼かれた時、伝わってくる熱気こそ何も考える間も無く炭に変えられてもおかしくない物であったが、不思議と皮膚を焼かれている感じはしなかった。
どちらかと言えば身体の芯が焼かれている感覚の方が強く、同時に身体中から急速に生命力が奪われる感じがしていた。

「(シノブさん・・。)」

彼女がアタシの心に直接話しかけてくる。
姿があれば今にも泣きそうなぐらいに心配そうな顔をしていることだろう。

「(ダイジョブだって・・こんぐらい、気合と根性で・・・なんとかするさっ!)」
「(何とかすると言っても・・避けるので精一杯ではありませんか・・。)」
「(うっさいなぁ!・・そんぐらい、分かってるよ・・リト。)」

彼女の言う通り、今のアタシは攻撃を避けることに必死で中々反撃に踏み切れなかった。
先の炎でごっそり削り取られた体力の回復を待っていることもあるが、理由はそれだけではない。

「フゥハハハハー!どうした、シノブ?動きが鈍くなってきてるぞ?」
「はっ!・・そー思うなら一気に仕掛けてきたら・・どーだってんだ・・!」
「フンッ!その手には乗らないぞ!さぁ!お前の中に眠る”戦士”を解放してみせろ!シノブ!!」

アタシの格闘スタンスがカウンター重視であることも関わっている。
彼女のように用心深い相手には中々その効果を発揮できない。
これまでの体捌きから、彼女の格闘の腕はそれほどでもないことは分かった。
恐らくはあの魔法を使って遠距離から相手を攻撃するスタンスが、彼女の本来の戦闘スタンスなのだろう。
よって、彼女がアタシに合わせて格闘戦を挑んでくる今ならば此方から一気に仕掛けて倒すことも不可能ではない。
しかし、それをするには今のアタシではどう見積もっても体力不足だ。

「(しかし・・彼女の戦い方、やはり何処か違和感がありますね・・。)」
「(・・・だな。此方の出方を窺ってるにしては、慎重すぎるし・・それに・・。)」

アタシはちらりと後方を確認する。
リトのアシストもあって何とか衝突は間逃れているが、アタシの背中にはさっきからずっと赤い壁が聳えていた。
ボクシングで言えばコーナーポストに追い詰められたような状況だ。
しかし此処まで追い詰めておきながら、彼女は思い切った攻めに転じてくる気配を感じさせない。

(やっぱ・・・あんた・・・。)

今彼女が思い切った攻めを行えば、逃げ場のないアタシは受けに徹するしかない。
今の体力で彼女の全身全霊を賭けた乱撃を受け切れる自信は正直言ってない。確実に負けるだろう。
彼女ほどの戦士ならばそのことは既に見抜いているはずだ。
アタシを打ち滅ぼすには絶好の機会である、あれほどお膳立てしておいてこの機会を逃すはずがない。
それなのに攻めてこないのは、そうするだけの理由があるに違いない。

「(リト。アタシにはアイツを・・・)」
「(・・・分かってますよ。こういうことは貴女の方が明るいですし、シノブさんの感じた通りにしてください。)」
「(死ぬかも・・・知れないけど?)」
「(・・・あの時から深紅【わたし】は、貴女と供にあります。)」
「(へへっ・・・ありがとな・・。)」

勿論、彼女が攻めてこない理由として考えられる物は探せば幾らでもあるだろう。
その中でもアタシの考える理由は、正解から最も遠い理由かもしれない。
でも、それでもアタシは・・。

(あんたを・・・信じたい!)

――私は今、驚いていた。
川澄シノブと名乗った人間は、あれほどの手傷を負いながらも私の攻撃を避け続けている。
しかも彼女はまだその身に宿している”戦士”を解放していない。
確かに格闘戦においては彼女の方に一日の長があるようだ。
しかし、それを差し引いても彼女の身のこなしはとても手負いの人間のそれとは思えない。

(これでもし、”戦士”を解放させたらと思うと・・・)

彼女の強さは計り知れない物となる。
相対した時からその予感がしていたが、実際に戦ってみてそれがはっきりとした。

(逃げ場のない状況で、何時までその本性を隠しておくつもりだ・・。)

彼女の後ろには私の作った炎の壁が聳え立っている。
それにあの息の乱れから見ても彼女の体力は残り少ないと見て間違いない。
”悪”を倒すための拳だ何だ言っても所詮は人間だ。
ここまで追い詰められればそんな物は関係なくなるだろう。

(さぁ、お前のそのちっぽけな意地などかなぐり捨ててしまえ!他の人間もそうであったように!)

その時、彼女が意を決した顔をした。
それからすぐに彼女を取り巻く空気が変わる。

(ふっ・・ふふふっ・・・フゥハハハハー!!ついに来たか!待ちわびたぞ!!)

彼女は残る体力を賭けて一か八かの攻勢に出るつもりなのだろう。
生き残るために、彼女の中に眠っていた”戦士”がついに解放されたのだ。
どんなに意地を張っても所詮は人間、彼女も生存本能には勝てなかったということだ。
それはそれで、ほんの少しばかり残念でもあるがこの際それぐらいは目を瞑ろう。
恐らく今まで打ち滅ぼした人間の中では最も至高の糧になることになるのは間違いないのだ。

「もらったぞ!」

私は彼女が見せた隙に合わせ懐に飛び込みつつ勢いを付けて拳を突き出す。
しかし、これは態とである。彼女は自分と同じ相手の出方を見て戦うタイプの戦士だ。
そんな戦士が自ら隙を見せる時は、必ずと言っていいほど何か手痛い反撃を考えている時である。

(ふん、その手には乗らんぞ!逆に私の罠に飛び込ませてやる!)

だからこそ、あえて豪快に飛び込んでみせる。
勝利を確信しこのまま叩き伏せるつもりであるかのように不敵な笑みを浮かべてみせる。
普段の彼女ならば恐らく此処までしてみせても此方の作戦を見抜いたかもしれない。
しかし、今の彼女は命の危険が迫っている。到底、そんな精神的余裕などないだろう。
九分九厘、この拳をサイドステップか回りこみで避けるはずだ。
そして炎の壁から遠ざかりつつも私の横や後ろに回り込むだろう。
しかし、その時こそ彼女の最期だ。
自らの策通りに回り込めて油断している所に本命の連続攻撃を仕掛けてやるのだ。
いくら”戦士”を解放した彼女でも、あの体力では私の体力を全て賭ける連続攻撃は捌き切れまい。

(これで、私の勝利・・・なっ!?)

私の予想に反して、彼女は避ける素振りを見せない。
受け止めるつもりかとも思えたが、その構えすらしていない。

(何をしている!?何故何もしない!!)

彼女の目はまだ死んでいない。
つまり、もう避けたり受け止めたりする力すら残ってないというワケではない。
それなのにどちらもしないということは、此方の作戦を見抜き急遽何か別の策を講じようとでもいうのだろうか。

(無理だ!今更作戦の変更など、間に合うはずがない!!)

しかし、仮に此方の作戦に合わせた別の策が閃いたとしても、今からでは間に合うワケがない。
とりあえずこの一撃を避けるなり受け止めるなりしてからでなくては、その策を実行に移すことはできないはずだ。

(そのままでは、お前は・・お前は――!!)

避けることも受け止めることもしないのであれば、彼女は私の拳によって突き飛ばされ後ろに聳える壁に激突する。
魔法耐性のない彼女があの壁に触れたらほぼ確実に死ぬだろう。
しかしそれでは魔法を使って倒したも同じことだ。それでは私の糧にならない。此処までお膳立てした意味がない。
何より、私の魔族としての、魔王軍三将軍としての誇りが許さない。

(―――えっ?)

気がつけば私は突き出した拳で彼女の腕を掴みながら彼女の懐に入り込み、彼女を背負い投げていた。
私は自身の無意識の行動に驚き、彼女の身体が私の頭上を通り過ぎた所で腕を離してしまう。
彼女は器用に身を捩ると地面に着地し、そのまま膝を地に付けた。
そして私を睨みつけ叫ぶ。

「・・・何故、打たなかった!」
[18]投稿者:「魔族の誇り、人間の誇り」その2 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/02/27(Fri) 17:56 No.192  
―――。
途端に辺りが静まり返る。
二人を囲む炎の壁だけが、不規則に乾いた音を立てていた。
シノブは肩で大きく息をしゆっくりと立ち上がりながら再び叫ぶ。

「あんた、何故、打つのをやめた!」
「ふっ、ふん!始めから投げるつも・・」
「違う!投げるつもりにしては踏み込みが強引だったし、何より途中で腕を離している。あんた、始めは打つつもりだったんだ!」

ロシナンテはシノブに真相をずばり言い当てられ反射的にたじろいでしまった。
シノブは彼女のたじろぎに何かを確信したかのように言葉を続ける。

「あんたは何もしないアタシが突き飛ばされ、炎の壁に接触することを嫌ったんだ!」
「そ、そんなことなど!」
「あんたは言った、対等な立場で戦わなくては意味が無いと。でも、戦いにそんな拘りなんて・・邪魔なはずだ!」

シノブの吐き棄てるように言った邪魔という一言に、ロシナンテは激しい憤りを感じて反論する。

「邪魔な物か!私は誇り高き魔族の、魔王軍三将軍が一人『炎のロシナンテ』だぞ!一度誓ったことは絶対に守る!」
「・・・やっぱり、な。あんた、”悪”とは思えない。」

突然構えを解くシノブにロシナンテは目を丸くしながら問いかけた。

「何を言っている?さぁ構えろ!私はお前の言う・・」
「違う!あんたみたいに真っ直ぐなヤツが本当に”悪”なワケない!あんたはただ、戦うこと以外を知らなすぎるだけだ!」
「この・・・知った風な口を利くな!兎に角・・」
「イヤだ!アタシは戦わない!アタシの拳は”悪”を倒し人を生かす拳だ!これだけは譲れない!これはアタシの、誇りだ!」
「なん・・だと・・・」
「アタシを打ち滅ぼしたいのならそうすればいい。あんたみたいに真っ直ぐなヤツの糧になるのならそれもいいさ。」

ロシナンテの身体が戦慄き、凄まじい殺気が噴出し始めた。
シノブはそれに臆することもなく彼女と対峙する。

「そうか!ならば、望み通りにしてやろう!!私の糧となれ!川澄シノブ!!」
「がっ!?」

ロシナンテが一気に距離を詰め、シノブの顔面に拳を叩き込む。
シノブはその衝撃に苦痛に顔を歪める。
ロシナンテはそのままシノブの顔面を押して地面へと叩き付ける。
倒れたシノブの上に跨り、拳の雨を降らせる。

「ぐぁっ!ぎっ!うぁっ!つっ!げぇっ!」
「さぁ!どうした!死にたくないだろ!反撃してこい!」

人間など所詮口先だけの生き物で、追い詰められれば誰もが形振り構わなくなる。
ロシナンテには人間とはそんな物だという前提があった。
その前提を打ち壊そうとしているシノブの存在が何故かとても腹立たしかった。

(私が恐れている?そんなバカな!そんなはずはない!人間などに!この私が、恐れるなど!!)

この腹立たしさがそんな彼女に対する畏怖から来る物であることははっきりと分かる。
ロシナンテは兎に角彼女に反撃をさせようと必死になった。

「何が『アタシの誇り』だ!人間風情が軽々しく口にして良い物ではない!恥を知れ!」
「げふっ!はんげき・・ぃぎっ!なんて・・ぐぇっ!するもんか・・あぐっ!」
「何故だ!死ぬぞ!死ぬのが怖くないのか!」
「怖く・・うぐっ!ない・・がっ!アタシは・・うげっ!・・・アタシを曲げて生きる方が怖い!」

シノブの決意に満ちた瞳に打ち抜かれ、ロシナンテの中で何かが音を立てて崩れる。
直後、ロシナンテは内側から激しく噴出した感情に完全に飲まれてしまった。

「ならばそのちっぽけな意地を張ったまま死ねぇぇぇぇ!!」
「うっがぁあああああぁぁあぁああああぁあああぁああ!!」

シノブの身体が炎に包まれる。
身体の芯を焼かれ、残る生命力を蒸発させられて絶叫する。

「うあぁあぁぁぁぁああああ!あうぅぅあぁがぁぅうぁぁーっ!」
「―――なっ!?何をやっているんだ私は?!退け!退けぇ!!」
「あぁっ・・・ぅっ・・・く・・・はっ・・・・。」

シノブの絶叫でロシナンテは我に返った。
ロシナンテは慌ててシノブを包む炎を消して、彼女の上から退く。
シノブは消え入りそうなぐらいに弱々しい呼吸で、辛うじて生きていることを周囲に伝えていた。

(何ということだ・・・この私が・・・魔法を使ってしまった・・・。)

確かに戦うことを放棄した今の彼女に対等に戦ってやるほどの価値はない。
しかし、私は既に私自身の誇りに、彼女を正々堂々と打ち滅ぼすことを誓っていた。
その誓いを自ら破ってしまったとは誇りを棄てたも同じこと。
私にとって誇りを棄てることは、命を棄てるよりも重い。

(しかもこの人間は・・・あの状況でも私に手を出さなかった・・・。)

私があと少しだけ炎を退くのが遅ければ彼女は確実に死んでいた。
そんな、文字通り死と隣り合わせの状況にあっても彼女は自分の誇りを貫いたのだ。

「私の・・・負けだ・・・。」

ロシナンテはがくりと膝を折り曲げ座り込む。
その頬には悔しさが沢山含まれた涙が流れていた。

「おい、聞こえているか?・・・この『炎のロシナンテ』の命、お前の好きにしろ。」
「はぁっ・・・はぁっ・・・な・・・なん・・で?・・・。」
「お前は、私に、私の”誇り”に勝ったのだ・・。勝者は、敗者を捌き糧とする義務がある・・。」
「そ・・そう・・・か・・・くっ・・・じゃ・・・とりあえず・・・・水を・・・くれ・・・ないか?」

ロシナンテは戦場の片隅に放り投げておいた自らのデイパックを拾い水を取り出す。
そして、シノブを優しく抱き起こすと少しずつ水を飲ませた。
消耗しきった身体に深く染み渡る水の感覚がシノブの気力を回復させた。

「ありがとな・・。じゃあ・・・遠慮なく・・・。」

ロシナンテは神妙な面持ちでシノブの次の言葉を待つ。
現状から見て彼女自身が手を下せるとは思えない。よって、ほぼ確実に自害を強要されるだろう。

(・・それが例えどんな惨めな自害方法だったとしても、私は・・・従おう。)

シノブが一度大きく呼吸をするのを合図にロシナンテはきつく目を閉じた。

「アタシと・・・一緒にキングと・・・戦ってくれ・・・。」
「・・・・・はぁっ!?」

あまりに予想外なシノブの台詞に、ロシナンテは素っ頓狂な声を上げてしまった。

「お前!私の話を聞いてなかったのか?」
「聞いていたさ・・あんたの命、アタシの好きにしていいんだろ・・?」
「そうだ。さぁ、どんな死に様が・・」
「だから、アタシと一緒に戦ってくれと言ってるじゃんか!・・・どーして死にたがるんだよ!」
「・・・お前こそ、どうして私の命を糧としない!私にはそんな価値すらないと言うのか!!」

ロシナンテをの包む悔しさは、敗北を喫した悔しさよりも糧とされない悔しさの方が強かった。
勝者に糧とされないことは、その者にとってそれだけの価値が無かったということだと思っているからだ。
自身の無価値を宣言されたに等しいと思ったロシナンテは、泣きながら激しく噛み付いた。

「違う!・・・あんたは、こんな所で死んでいいとは思えないだけだ!」
「なん・・だと・・!?」
「あんたの命、アタシに預けろ!あんたに相応しい死に場所は後でアタシが選んでやる!だから今は・・・生きてくれ。」

シノブの強く訴えかける瞳に、ロシナンテは思わず言葉を詰まらせる。
二人の荒い呼吸だけが辺りに響く。
しばしの静寂を打ち破ってロシナンテが口を開いた。

「・・・フゥハハハハハー!『相応しい死に場所は後で選んでやるから生きろ』か・・シノブ、お前は本当に面白い人間だな!」
「ロシナンテ・・・。」
「いいだろう!お前が私に相応しい死に場所を選んでくれるその時まで、私は生きてやろう!」
「そっか・・じゃあ、一緒に戦ってくれるのか・・。」
「そうだな、私の死に場所を決める前に死なれては困る。」
「・・・ありがとな。」

シノブの真っ直ぐな笑顔に、ロシナンテは思わず顔を赤らめてそっぽを向く。

「バ、バカ!私よりも先に死なれては困るだけだ!」
「まっ、それでもいいさ♪よろしくなっ!」

それから二人は少しだけ休息を取ってから行動を開始した。

「・・・で、何処へ向かうというのだ?」
「ん・・。えっと、地図・・・。」

シノブは自分のデイパックから地図を取り出し地面に広げる。
ロシナンテも一緒になってその地図を覗き込む。

「(・・あれ?何処行くんだっけ?リト。)」
「(地図の中央から一番近い施設ですよ。この場合ですと・・昏い街かアクアリウムですね。)」
「(・・・決めた!アクアリウム!)」

シノブがあまりにあっさりと決めたため、リトは大きく溜め息をついてから意見を言い始める。

「(決めたって・・そんな簡単に決めては危険ですよ。私達が居る場所からならば、昏い街経由でも・・。)」
「(大丈夫だって!アタシの勘を信じろって!)」
「(そうも行きませんよ!状況が状況ですし、もっと慎重に・・)」
「だー!もう、大丈夫だって!アクアリウムに行くぞ!」
「――うわっ!?な、何だ突然!?」

リトとシノブの関係を知らないロシナンテは、隣でシノブが突然叫び始めたように感じ驚いてしまった。
シノブは慌てて笑顔を作って弁明をする。

「あっ!?えっと、気にするな!と、兎に角アクアリウムに行こう。」
「・・・そうか。アクアリウムだな。」
「ああ、そこでアタシの姉貴分と先輩と落ち合う予定なんだ。」
「ほぉ・・お前の知り合いか。ということはさぞ面白い人間なのだろうな!いいだろう!今すぐ向かおうぞ!」

シノブはロシナンテの肩を借りてフラフラと立ち上がり、アクアリウムを目指して移動を開始した。
――今此処に、己が誇りに命を賭ける者同士の種族を超えた友情が芽生えつつあった。

【E−2:X1Y1/リザードマンの村敷地内/1日目:朝(午前に近い時間帯)】

【ロシナンテ@幻想少女】
[状態]:肉体疲労、残魔力半分
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(水を0.25L程度消費)
※他の支給品についてはまだ不明です。
[基本]:強者と戦い打ち滅ぼす
[思考・状況]
1.川澄シノブと行動を供にする
2.自分の死に場所を言ってくれるまで何があっても川澄シノブを死なせない

【川澄シノブ{かわすみ しのぶ}&スピリット=カーマイン@まじはーど】
[状態]:火傷、満身創痍、持ち前の根性と気合で動いている、魔力十分
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
※他の支給品についてはまだ不明です。
[基本]:対主催、”悪”は許さない、『罪を憎んで人を憎まず』精神全開中
[思考・状況]
1.ロシナンテとアクアリウムに向かう
2.バトルロワイヤルを止めさせる方法を探す
3.なるべく大勢と脱出する
4.つい死に場所を決めてやるなんて言ってしまったがそんな気はない

@後書き
ロシナンテさんの性格に自信ないです。(´・ω・`;)
結局大団円にしてしまってすみませんです。
求)センス 14スレ目の74でした。
[19]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/05(Thu) 22:25 No.196  
≪人の良心信じる無かれ≫


明空は商店街を歩き回っていた。
冥夜に言われたことは覚えていたが、せっかく近くに商店街があるのだから
何か役立つものでも探してから行こうと考えたのだ。

(これって、つまりはサバイバルだろ?なら俺でも必要なものくらい分かるさ。)

あまり頭のよろしくない明空でも、簡単なサバイバル知識くらいはある。
以前、冥夜に教えられたことがあったからだ。
…もっとも、半分も覚えてはいなかったが。

「えーと、たしか水と食料が一番必要って話だったな。
デイパックにも入ってるけど、念のためにもうちょっと入れておくか。
あと、ナイフとかの刃物が必要とか言ってたような…。
火をつけるものとかもあったほうがいいんだっけ?」

明空は普段あまり使わない頭を懸命に働かせて、今必要なものを考えた。
そして明空はコンビニで適当な食料とジュースを、ホームセンターで包丁、ライターを、
薬局で傷薬と包帯をデイパックに押し込んでいった。

「ま、こんなとこだろ。しかし、財布が取られてなかったのはラッキーだったなぁ。」

明空はそれぞれの店でちゃんと金を払っていた。
こんな非常時でも金をちゃんと払えるのはご両親の教育の賜物であろう。
もっとも、あまり…というか全く意味のない行為ではあったが。

(しっかし、商品とか全然置かれてねーなぁ。店の人、商売する気あるのか?)

明空の言うとおり、今までに回った店にはほとんど商品が置かれていなかった。
特に刃物の類はほとんど見つからず、包丁一本探すのにもかなり苦労したのだ。

「まあいいや。それよりけっこう時間かかったし、早く行かないとな。」

そして、明空は改めて古い木造校舎に向けて歩を進め始めた。

(冥夜のやつ、大丈夫かなぁ。まあ、アイツが危なくなるとこなんて想像できないけど。
 …ていうか、よく考えてみたらあんなヤツの言った通りに殺しあう人なんて本当にいるのか?)

キング・リョーナという男が言った殺し合いをしろという言葉が冗談であるとは思っていない。
実際に、あの男は少女を一人殺したのだ。
あそこまでしておいて、実は冗談でした、なんてほざいた日には死ぬまで殴り続けてやるところだ。

だが、あの男がたとえ本気だとしても参加者たちがそれに従うだろうか?
いくら首輪を付けられて脅されたとしても、人が簡単に人を殺したりするだろうか?

明空にはそんなことは信じられなかった。
むしろ、自分たちをこんな殺し合いに放り込んだキングに反抗し、殺し合いを破綻させるために
一致団結することが普通ではないかと考えていた。

「…うん、そうだ!やっぱり殺し合いなんて起きるわけねーよ!
あんなやつの言うとおりにする人なんているわけないって!」

明空は自分の考えに何度もうんうんと頷いた。
普通の人なら、このような異常な状況の中で明空のように楽観的に考えることはできなかった
かもしれないが、明空ならではのお気楽&足りない頭による思考の結果、こんな殺し合いに
乗る人物は存在しないという結論に達してしまった。

「よし!だったら、後はあのキングとかいう馬鹿をぶっ飛ばすだけだな!
さっさと冥夜と合流して、仲間を集めて、キングを倒す!それで、皆でここから脱出だ!」

明空はそう言って、森へ向かって走り出す。
その顔には笑顔が浮かんでいる。
すでに明空の中では、この状況は絶望的な脅威というほどのものでは無くなっていた。
冥夜やここにいる参加者の人たちと力を合わせれば、かならずここから脱出できると
信じきっていたからだ。

だが、明空は知らない。
この島で殺し合いに乗っているものが少なくないことに。
そして、すでに殺し合いが起こっていることに。

その顔から笑顔が消えるときはそれほど遠くないかもしれない。




【B-2:X2Y2/森/1日目:午前】
【明空@La fine di abisso】
[状態]:正常
[装備]:ツルハシ@○○少女
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6/6・水6/6)
おにぎり×4、ランチパック×4、弁当×2、ジュース×3
包丁、ライター、傷薬、包帯
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.古い木造校舎へ向かう。
2.冥夜を捜す。
3.殺し合いに乗る人なんているわけがない。

※殺し合いに乗る参加者はいないと思っています。
 殺し合いの現場か死体を目撃するか、もしくは
 それを他の参加者から聞けば考え直すと思われます。



[20]投稿者:289◇J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/05(Thu) 22:28 No.197  
どうも、久しぶりに書かせていただきました。
タイトルがいまいち良いのが思いつきませんでした。(´・ω・`)
これからは今回のように短い話を書いていこうかと思います。

しかし、いくらなんでも明空の考え方がちょっと強引だったかもしれん…。
[21]投稿者:289◇J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/07(Sat) 16:33 No.200  
≪何やってんの、お前ら≫


リョナたろうは目の前の直立二足歩行のトカゲにデイパックを渡してもらった後、
真っ先に支給品の確認を行った。

「食料、水、地図、筆記道具…はこれか?
紙は…ずいぶん良い紙使ってるな。これは方位磁石だな。
照明道具は…どれだよ?これか?」

懐中電灯を手に持って調べつつ、10分ほどでリョナたろうは何とか使い方を覚えた。
その間、隣のトカゲは近くを飛んでいたチョウチョに舌を伸ばして捕まえたりしていた。
何となくそのトカゲの顔に懐中電灯の光を向けると、トカゲはびっくりして顔を庇いつつ、

「憤慨激怒!(何すんねんコラ!)」

と、いかにも怒っている様子でギャーギャーと喚いてきた。

「悪い悪い。」

トカゲに謝りつつも、リョナたろうは手に持つ懐中電灯に改めて目を向ける。

「それにしても便利な道具だな…どんな魔法使ってるんだよ?」

懐中電灯の便利さに舌を巻くリョナたろう。
そして、次に名簿を確認してみる。

「オーガ、モヒカン、リゼ…。知り合いは三人か。」

オーガは自分のように仲間集め、モヒカンは本能の赴くまま行動、
リゼは怯えて隠れ続ける。
仲間たちの行動はこんな感じだろうと予想する。

「まあ、まずはリゼを探してやるか。あいつ字が読めないし、
俺たちがここに呼ばれていることも分からないだろうからな。」

そう呟き、もしリゼを見つけたら後ろから脅かしてやろうかと思うリョナたろう。
そのときのリゼの顔を想像し口元をにやつかせ、ふと思考が逸れていることに気づく。

(あいつのことは再会してから考えるとするか。)

そう思い、リゼのことは頭から追い出した。
ついでに追い出した後、床に叩きつけてグリグリと踏みにじって靴を舐めさせ、
それからようやく思考を元に戻す。

自分に配られたランダム支給品とやらを確認すると、出てきたのは弓と20本の矢、
そして赤い色の札が10枚だった。

「弓矢か…不意打ちには使いやすいが、接近されると面倒だな…。」

まあ、武器が出てきただけ良しとしよう。
リョナたろうはそう考え、今度は赤い札のほうに興味を移した。

わざわざ支給されたものなのだから、何か特別な力くらいあるはずだ。
リョナたろうはそう考え、とりあえず目の前のトカゲの額にビタリと札を貼り付けてみた。

「………。」

何も起こらない。
微妙な沈黙が辺りを支配したが、リョナたろうは特に気にせずに、

「んじゃ、そっちの支給品も見せてくれたまえよ、トカゲ君。」

トカゲ君は素直にデイパックをリョナたろうに渡してくれた。

「どれどれ…おお、ファイト一発!
これがあるなら少しは疲れを気にせず動けるな。後は…何だこりゃ?」

拡声器と手榴弾を見て、首を傾げるリョナたろう。
しかし、リョナたろうは先ほどの懐中電灯のことを考えるとこれらの道具も
きっと何か凄いものなのではないかと推測する。

「よし、この二つもどうやって使うのか調べてみるか。トカゲ、お前はこっちを頼む。」

そう言って、手榴弾を渡すリョナたろう。
トカゲは了解したという顔で手榴弾を受け取り、不器用な手つきで弄り始めた。

それを確認したリョナたろうは近くの切り株に腰を落として、拡声器を調べ始める。
すると、すぐに懐中電灯のときと同じようなスイッチを見つけることができたので
さっそく押してみることにした。

しかし、何も起こらない。

リョナたろうはどこかスイッチを入れる前と変わったところはないか探してみたが、
特に何も変わったところはない。
他に同じようなスイッチやおかしなところはないかも探してみたが、そんなものは
見当たらなかった。

さて、ではどうすればいいのかと考えていたリョナたろうの耳を突如、


ドゴオオオォォォン!!


盛大な爆音が襲った。

驚いて振り向くと、そこには目を回してノビているトカゲ。
よく見ると、鱗が少し焦げているのが分かる。

(敵か!?)

そう思い、警戒しながら気絶したトカゲに走りよって声をかける。

「『おい、大丈夫か!?』って、うぉわっ!?」

自分の声が予想外に大きく響き渡り、リョナたろうは驚いて拡声器を落としてしまう。
その拡声器が落ちた音も辺りに大きく響き渡ったことから、リョナたろうはこの道具が
音を大きくするものだということをやっと理解できた。

しかし、今はそんなことはどうでもいい。
というより、気にしていられる状況ではない。

(一応の)仲間は相手の攻撃により意識不明。
こちらの位置は相手に把握されているが、こちらは相手がいる方角すら分からない。
そして、相手は爆破の能力もしくは道具を持っていて、殺傷力はかなり高いと推測される。
おまけにさっきの爆発と響いた声のせいで、周りに参加者がいた場合はそいつらにも
自分たちの存在を認識させてしまったことになる。

(最悪じゃねーか…!)

リョナたろうは苦虫を噛み潰したような表情でギリリと歯を鳴らした。
すぐにここから離れたいが、トカゲを気絶させた敵がそれを許してくれるとは思えない。

リョナたろうは全身を緊張させ、気を張り詰めて相手の出方を伺う。



いもしない相手の出方を。



もちろん、この騒動の原因はリザードマンが渡された手榴弾である。
リザードマンは手榴弾を弄り回していて、その過程でピンを外してしまったのだ。
その結果として当然のごとく手榴弾が爆発したという、ただそれだけの話である。

普通なら至近距離で手榴弾が爆発したら、人間なら死ぬか大怪我だろう。
しかし、彼は人間ではなく硬い鱗を持つリザードマンであり、さらに丈夫な鎧も着込んでいた。
そして、彼の鱗と鎧はしっかりと彼を爆風と破片から守ってくれた。
そのおかげで彼は死を免れ、大した怪我もなく意識を失うだけで済んだのだ。


リョナたろうはそんなことなど知らずに、間抜けにも一人で警戒を続けている。
そして、彼の傍らには間抜けの片割れ、ひっくり返って気絶しているトカゲの姿。



そんな彼らに一言だけ言わせてもらいたい。



何やってんの、お前ら。(´・ω・`)






【C-3:X1Y4/森/1日目:朝】

【リザードマン@ボーパルラビット】
[状態]:気絶、小ダメージ、鱗が少し焦げている
[装備]:リザードマンの鎧@ボーパルラビット
赤い札(額に貼り付いている)@一日巫女
[道具]:デイパック、支給品一式(食料無し)
ファイト一発*2@リョナラークエスト
[基本]:本能のままに
[思考・状況]
1.リョナたろうと共に行動
2. 生存本能によって賢さブースト中
3. 愛嬌を振りまいて仲間を作る
4. でも女の子を襲うつもり


【リョナたろう@リョナラークエスト】
[状態]:健康
[装備]:拡声器@バトロワ
リョナたろうの鎖帷子@リョナラークエスト
[道具]:デイパック、支給品一式
弓@ボーパルラビット、聖天の矢×20@○○少女
赤い札×9@一日巫女
[基本]:主催者を倒す+女の子を襲う
[思考・状況]
1.襲撃者を警戒
2.リザードマンと共に行動
3.オーガ、モヒカン、リゼを探す
4. 主催者を倒すための仲間集めを考える
5. でも女の子を(ry

※リョナたろうの使える魔法は「サーチ」です。
※必殺はまだ未定です。


※爆音と拡声器の声は最低でも周り1マスには届きました。
(近くにいたリゼや萩には音が木々に遮られたために聞こえなかったと
 いうことにしておいてください。)



[22]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/11(Wed) 14:29 No.203  
≪相棒としての誇り 前編≫

持ち前の勘に従って西へと向かって走り続ける奈々。

その結果、りよなの妹であるなよりからは遠ざかってしまったが、
彼女の姉には近づいていた。
しかし、もちろん奈々にはそんなことなど分からない。

彼女に分かるのは、前方に二人の人影があるという事実だけ。

一人は神官服を着た自分と同じ歳くらいの少女。
その立ち居振る舞いから、奈々は少女がかなりの実力の持ち主だと見抜いた。
だが、そんなことより奈々にはもっと気になるところがあった。

(あの帽子、何…?目玉と羽付きとか…邪教…?)
奈々は本人が聞いたら激怒しそうな感想を抱きつつ、もう一人に視線を向ける。

もう一人は自分よりいくつか年下と思われる、学生服にヘアピンをした気弱そうな少女。
りよなもそうだったが、どう見てもこんな殺し合いの場にいるのは場違いであり、
放っておいたらすぐに殺されてしまうことは間違いないだろう。
というか、今にもなんか理不尽なことが起きてあっさり死にそうな気がする。
ただの勘だが、ものすごくそんな気がする。

二人を観察し終えた奈々は思う。

(探してる二人じゃないし…人と話すのメンドイ…無視しよ…。)

そう考えた奈々は二人に見つからないように横をすり抜けようとした。

「あっ!ちょっとそこのアナタ!」

が、どうやら見つかったようで神官服の少女に呼び止められてしまった。
うんざりした気分になるが、ここで逃げるのもどうかと考え、立ち止まって振り向く。

「…何?」

感情を交えない声で聞き返す。

「何?じゃないでしょ。こんな状況だから警戒するのも分かるけど、
 だからって逃げ回っててもどうしようもないわよ?」

どうやらこの少女は、奈々が二人を警戒したためにそのまま通り過ぎようとしたと
思ったらしい。
別に訂正する必要もないので、それについては何も言わない。
奈々はそれよりも聞くべきことを聞くことにした。

「…一応聞いておくけど…乗ってる?」

おそらく殺し合いには乗ってないだろうとは思うが、それでも奈々は少女に確認する。

「こんな悪趣味な催しなんて乗るわけないじゃない!
 まったく、あのへらへら男…目の前にいたら首を斬り飛ばしてやるところだわ!」

憤慨した面持ちで自分の考えと同じようなことを息巻く少女を見て、奈々は少し親近感を抱く。

「あっ、自己紹介がまだだったわね。
 私はロカ・ルカ。見習い神官をやってるわ。」
「えっと…私は学生で…名前は那廻早栗です…。」

名前を名乗る二人に対して、奈々も自己紹介をする。

「私は奈々。職業は…学生でいいや。」
「…いいやって何よ?」
「何でもない。」
「…まあ、いいけど。」

一瞬トレジャーハンターとでも名乗ろうかと思ったが、説明が面倒くさいし、
そもそも姉に付き合っているだけのものなので、奈々は止めておくことにした。

(…そうだ、ついでにアイツと篭野なよりのことも聞いてみよう。)

「…天崎涼子と篭野なよりって人、知らない?」
「アマサキリョウコにカゴノナヨリ?
 …それって、黄土色の皮を被った巨人だったりする?」
「…お前は何を言ってるんだ。」

意味不明なことをほざくルカに思わず突っ込みを入れてしまう奈々。

「一応、確認しただけよ。
 私たちが会ったのは、お互い以外にはそいつだけだから。」

そう言って肩をすくめるルカに、奈々は一応は納得する。

「そうだ、そいつには気をつけなさいよ。
 そいつ、サクリにいきなり襲い掛かってきたんだから。」

ルカは真剣な表情で奈々に忠告する。
その隣ではそのときのことを思い出したのか、早栗が怯えた表情を見せている。

その後、その黄土色の巨人の話を二人から聞いて、奈々はその巨人を要注意人物として
警戒することにした。
そして、次に奈々が篭野りよなと会ったことを話したが、それを聞いてルカが怒り出した。

「あんた、目の見えない人を放ってきたって言うの!?」

盲目であるりよなと出会っておきながら、それを保護しないなど、見習いとはいえ
人のために尽くすことを仕事とする神官であるルカには信じられなかった。

こんな殺し合いの場で目の見えない少女がうろついていて、もし危険な人物に
出会ってしまったらどうなるか。
そんなことは考えなくても分かるだろうに、なぜ一緒に付いていってやらなかったのか。

ルカは奈々の取った行動に怒りを感じていた。

「…別に助けてって頼まれなかったし…。」

一方の奈々にもなぜルカがそこまで怒るのか理解できなかった。

相手は自分の助けを求めているようには見えなかったし、こんな殺し合いの場で
目の見えない少女を保護するほどの余裕は自分にはない。
面倒だということもあるが、何よりもそんな身の丈に合わないことをして、自分まで
死んでしまっては笑えないではないか。
どれだけお人よしな人間でもそんなことは分かるだろうし、それで責められるような
いわれはないはずだ。

奈々はルカの理不尽な物言いに不満を感じていた。



二人の間に険悪な空気が流れる中で、早栗はあわあわとうろたえていた。

仲裁をしようかとも思うが、自分が仲裁したところで果たして効果があるだろうか?
というか、それ以前に自分とほとんど年が変わらない少女であるにもかかわらず、
やたらと迫力のあるこの二人の喧嘩に、自分は口を挟むような度胸があるのか?

(む…無理だよぉ…!)

早栗は泣きそうな面持ちで、ただこの重い空気に耐えるしかなかった。



そして幾ばくかの時間が流れた後、先に折れたのはルカだった。
大きく溜息を吐くと、

「…まあ、たしかに…よく考えてみればアンタの言うことも分かるわ。
 こんな状況で他人の面倒まで見ろ、なんて私に強制できるわけないし、
 それでアンタが危ない目に遭うかもって考えるとなおさらだわ。」

冷静になってみれば、ルカにも奈々の言い分は分かる。
自分の生存を優先したい、という考えは至極まっとうなものだし、
生き残りたくて殺し合いに乗る者に比べれば100倍マシである。

「…少し言いすぎたわ。悪かったわね、ナナ。」
「…別に、いい…。」

そっぽを向きながら答えた奈々がおかしくて、ルカはぷっと吹き出す。
それを見て憮然とする奈々、早栗は空気が軽くなったのを感じ取って安堵の息を漏らし、
そんな早栗を見て、ルカは少しバツが悪そうな顔をする。

(…サクリにも心配かけちゃったわね。)

そう思い、ルカは気を取り直して奈々に言葉を向ける。

「…とにかくそのリヨナって子のいた場所を教えてくれない?
 放っておくわけにもいかないから、私はそっちへ向かってみることにするわ。」
「ん、分かった。」

その後、りよなの場所も含め、お互いの情報を交換して彼女たちは別れた。



ルカと早栗は奈々が東の森でりよなを見たという言葉に従って、東へ向かっていた。
元々はルシフェルから遠ざかるために北を目指すつもりだったが、盲目であるりよなの話を
聞いてしまってはそうもいかない。
守るべき弱者の身を案じて、ルカは足を速めていた。
早栗はそんなルカを見ながら、考えていた。

(目の見えない人まで連れていくなんて…危ない人に襲われたとき、大丈夫なのかな…。)

いくらルカが強いとはいえ、今は武器の一つも持っていないのだ。
不安を抱えつつも、ルカと離れるわけにはいかない早栗はルカの歩みに小走りでついていく
しかなかった。




【E−3:X3Y2/森/1日目:午前】

【ロカ・ルカ@ボーパルラビット】
[状態]:疲労小
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
(食料4/6、水3/6、地図無し、時計無し、コンパス無し)
[基本]:生存者の救出、保護、最小限の犠牲で脱出
[思考・状況]
1.篭野りよなを探して保護する
2.他の戦闘能力の無さそうな生存者を捜す
3.ルシフェルを警戒
4.天崎涼子、篭野なよりを探す


【邦廻早栗@デモノフォビア】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:無し
[基本]:自分の生存を最優先
[思考・状況]
1.とりあえずはルカに付いていく
2.ルカが自分を守りきれるのか少し不安

※奈々に地図と時計を見せてもらったことで現在地と時間を知りました。




[23]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/11(Wed) 14:31 No.204  
≪相棒としての誇り 中編≫

一方、早栗とルカの二人と別れた奈々はまだ森をうろついていた。

黄土色の巨人という警戒すべき存在がいる森の中でいったい何をしているのか?

その答えは、早栗のデイパックである。
奈々は二人が黄土色の巨人から逃げる際に置いて来てしまったという早栗のデイパックを
探していたのだ。

黄土色の巨人に対して警戒はしていたが、それと同時にそんな危険人物がいる中で
武器も持たずにいることに奈々は不安を感じていた。
そのため、奈々は早栗のランダム支給品に武器の類が入っていればと期待をしていたのだ。

(もしその巨人に出会っても、逃げるくらいはできるはず…。)

話によると、ルカは早栗を背負ったまま走っていたにも関わらずその巨人を振り切ることが
できたらしい。
その事実から考えると、その巨人は足はそれほど速くはないのだろう。
なら、問題はないはずだ。

そう考え、奈々はそれほど危機感を持たずに気楽にデイパックを探していた。


今思うとそれがいけなかったのだろう。


奈々はこの16年の人生の中でその多くを自身の予知能力めいた勘に頼って生きてきた。
しかし、ここでは殺し合いにおける参加者同士の実力差を埋めるためにキング・リョーナに
着けられた首輪によって、参加者の能力は制限されているのだ。

奈々の優れた危機察知能力は首輪のせいでその冴えを翳らせていた。
もちろん奈々はそんなことは知らず、いつも通りに自分の勘に従って行動していた。

(別に嫌な予感はしないし、たぶん大丈夫…。)

そうして油断した結果、気づくのが遅れてしまった。

背後に膨れ上がる殺意。

「!?」

奈々は咄嗟に前方に身を投げ出していた。

ドゴオォォォン!!

それと同時に、爆発したかのような轟音が響く。
いや、実際に地面が爆発していた。
叩きつけられた鉄塊のあまりの威力にか、周囲一帯の土が爆散したのだ。

奈々は膝を突いたまま後ろを振り返り、それを目の当たりにして息を呑む。
戦慄する奈々を前に、襲撃者は地面に叩き付けた斧を引き抜いて担ぎなおす。

奈々の前に佇むのは、話に聞いていた黄土色の皮を被った巨人。
そして、その肩に提げられているのは二つのデイパック。

それを見た奈々は内心で舌打ちをする。

早栗やルカの話から、奈々はこの巨人が知性の欠片も無い化け物であるという
認識を抱いていた。
そして、それなら早栗のデイパックも回収されずに放ってあるのではないかと
考えたのだが、そもそも話に出てきた巨人は武器を使っていたのだ。
つまり、少なくとも道具を使うくらいの知性は持っているわけで、それを考えると
デイパックを回収していてもおかしくはない。

(…むぅ…失敗したかも…。)

ともあれ、この巨人に早栗のデイパックを回収された以上はもはやここに留まる理由は無い。
奈々はこの巨人から逃げるために踵を返す。

がしっ。

「…は…?」

疑問の声を上げ、後ろを向く奈々。
そこにはいつの間に距離を詰めたのか、自分の襟首を掴み上げる怪物の姿。

ちょっと待て、話が違う。
こいつは足が遅いんじゃなかったのか?

予想外の事態に混乱する奈々。

ちなみに、早栗やルカはこの巨人の足が遅いとは一言も言っていない。
ただ、ルカが早栗を担いで巨人から逃げてきたと言っただけだ。

だが、ここで二人と奈々の間に認識の齟齬が生じた。

ルカが早栗を担いでいたにも関わらず巨人から逃げ切れたのは、事前に巨人の足を刀で
貫いて地面に縫いとめておいたことと、さらにルカという少女が人並み外れた体力と
足の速さを持っていたことが大きな要因となっていた。

奈々は刀のことなど知らず、さらにルカの身体能力についても考慮に入れていなかった。
単純に、自分と同じくらいの歳の少女が人を担いだ状態でその巨人から逃げ切れたという
事実をそのまま受け取ってしまったのだ。

早栗を担いでいないとはいえ、ルカほどの足の速さを持たず、黄土色の巨人に対して
誤った認識を抱いていた奈々。
そして、今回は足を刀で地面に縫いとめられることもなく、さらに時間が経ったことで
足の傷も再生していた黄土色の巨人。

奈々が捕まってしまったのは必然であったのだろう。

「んっ…!放せっ…!」

奈々は何とか巨人から逃れようともがくが、巨人の丸太のような腕はびくともしない。
巨人は奈々の襟首を左腕で掴み上げたまま、右手で近くの木に巻きついていた植物の蔓を
引きちぎって、手繰り寄せた。

巨人はその蔓を奈々の首にグルグルと巻きつける。

「あっ…ぐっ…!?」

首をきつく締め上げられ、奈々は苦しげに呻く。
そんな奈々を無視して、巨人は蔓を高く投げ上げて木の枝に引っ掛ける。

「…これって、まさか…。」

高めの木の枝に引っ掛けられた蔓の片方は自分の首に巻きつけられ、もう片方は巨人の手。
巨人の意図を察した奈々は焦る。

「っ!放せっ…!放せぇっ!」

奈々は巨人の企みを阻止しようと必死で暴れるが、巨人は全く意に介さない。
そして、巨人は奈々の首に巻きつけたほうとは逆の側の蔓を容赦なく思い切り下に引っ張った。

途端、奈々の小柄な身体が勢い良く引っ張り上げられ、奈々の細い首を引きちぎろうとするかの
ごとく、蔓が締め上げてくる。

「ぃぐっ…!?あ…がっ…!がぁっ…うぅ…!」

首が脱臼しそうな勢いで気道を圧迫され、あまりの激痛と苦しさに奈々の目に涙が滲む。
首吊り状態となった奈々は、首の蔓を外そうと顔を真っ赤にさせて両手で掻き毟るが、
蔓はほどける様子を見せない。

がむしゃらにばたつかせる足が何度も巨人を叩くが、巨人は微動だにすらしない。
そんな巨人は苦しむ奈々にさらに過酷な責めを与えるために、蔓を上下にゆすり始めた。

「がっ!?あっ…ぁぐっ!がっ!ぐっ…あがぅっ…!」

下に下ろされる一瞬の浮遊感から、上に引っ張られるときの重力による加重。
常に一定の負担を与えられるよりも、この責めはより相手に苦しみを与える。

奈々は今このとき、地獄の責め苦を味わっていた。

(苦しいっ…!痛い…痛いっ!死ぬっ…!やだっ…嫌だ…!)

もがく。暴れる。蹴り付ける。
しかし、巨人は微塵も揺るがない。

やがて、奈々の意識は闇の中に落ちていった。



奈々への拷問を数分ほど続けた後、巨人は手を緩めて奈々を地面に降ろした。
度重なる首への責めで、奈々が失神していることに気づいたのだ。

相手が失神していてはつまらない。
そう考えた巨人は奈々の意識を覚醒させるために刀を振り上げ、


ズバンッ!


「あっ…?」

自身の身体に与えられた衝撃で奈々は目を覚ました。

なぜ、自分は意識を失っていた?
今、自分はどんな状況に置かれている?

失神する前の状況を思い出そうとする奈々の耳にどさっと何かが落ちる音が聞こえる。
そちらに目をやると見覚えのあるものが写る。


切り落とされた、自分の右腕。

それを認識した直後、

「いぎっ…!?がっ…あ…がぁぁぁぁぁっ!!?」

激痛が遅れてやってきた。
今まで味わったことのないほどの凄まじい激痛に奈々は絶叫し、のた打ち回った。

「ひっ…!うっ…ひぅぐっ…!あっ…あああぁぁぁっ…!」

脳内は痛みに埋め尽くされ、奈々は涙を流して泣き叫ぶ。
到底耐えることのできない痛み。

それでも痛みを強引に意志の力でねじ伏せ、奈々は巨人から逃げようとする。

だが、奈々は先ほど首を絞められたせいで呼吸をするたびに喉に激痛が走り、右腕を
切り落とされたことによって血も大量に失っている。

喉と右腕の付け根から激痛、酸素と血液が足りずに意識も朦朧とした状態ではまともに
走ることすらできない。
それでも、奈々は逃げようとフラフラとしながら足を動かす。

だが、巨人は奈々を逃がさない。

巨人は逃げようとする奈々を掴み上げ、自分の側に引っ張って、引きずり戻す。

「!…嫌だ…!放せっ…!放してっ…!」

奈々は泣きながらイヤイヤと頭を振るう。

「嫌だ…!もう…もう痛いの、やだぁっ…!」

奈々は再び巨人に与えられるであろう新たな激痛を想像し、恐怖に狂いそうになる。
半狂乱になって手足をばたつかせ、巨人から逃れようとするが、巨人は奈々を放さない。

「あぁ…うあぁぁぁ…!」

すでに幾度目かになるやり取り。
奈々が抵抗し、それをものともしない巨人。


自分の抵抗が意味を成さず、巨人に良い様に嬲られ続けている現状に奈々は絶望する。

「…嫌だ…助けて…!お姉ちゃん、助けて…!」

そして、追い詰められた奈々はここにはいない姉へと助けを求めていた。

そんな自分を心のどこかで冷静に見つめている奈々がいた。

(…あいつが助けに来るわけない…あいつは私の心配なんか…。)

あの姉が自分の心配をするはずがない。
あんな、おちゃらけたチャランポランな馬鹿姉。

りよなみたいな、妹をちゃんと心配してくれるような優しい姉ではないのだ。

(この前の遺跡探索のときだって…。)

遺跡の罠にかかって、離れ離れになった後に合流したとき。
そのときも、あの姉は全く心配なんてしてなかった。

ただ一言、笑いながらこう言っただけだった。

『おおー、奈々!この恐ろしい遺跡の中でたった一人でも無傷とは、さすがは私の妹!
 さすがは我が相棒!』

(………。)

その言葉を思い出して、奈々は考える。

ちょっと待て。
確かにあいつは、私のことを心配はしていないだろう。

だが、しかし…。

(私のこと…相棒って…。)

大切には、思ってくれているのでは?
自分のことを心配しないのは、自分のことを信頼してくれているからでは?

…頼りにしてくれているからではないのか?


あの天崎涼子が自分を…妹としてではなく、天崎奈々として頼りに
してくれているからではないのか?


そう考えた後、再び今の自分に目を向ける。
巨人に良い様に嬲られ、泣きながら姉に助けを求める自分を。


これが、あの天崎涼子の相棒?こんな体たらくが?



 … ふ ざ け る な ! !


その瞬間、奈々の中で天崎涼子の相棒としての誇りが爆発した。



[24]投稿者:289◇J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/11(Wed) 14:33 No.205  
≪相棒としての誇り 後編≫

黄土色の巨人…ルシフェルは、すでに抗う気力を無くして泣き喚いていた少女が
身を翻して自分に向かってきたのを見て、驚いていた。

その目に宿るのは、強靭な意志と戦意。

あまりの変わりように、少女に対してのルシフェルの対応が遅れた。
ルシフェルに捕まれていたセーラー服を脱ぎ捨てる形で拘束から逃れた少女は
ルシフェルの持っていたデイパックのうちの一つに飛びつき、その中に手を伸ばす。

それを振りほどくために、ルシフェルは少女を思い切り殴り付けた。
少女はあっさりと吹っ飛んでいったが、すぐに身を起こしてルシフェルを睨み付けてくる。

その手には、ルシフェルのデイパックから取り出したのであろう、一つのランプが収まっていた。




逃げるのではなく、戦うことを選んだ奈々は真っ先に巨人のデイパックを狙った。

(素手じゃ、コイツには勝てない…!なら、武器を奪うまで…!)

そして、奈々はわき腹を殴られて吹っ飛ばされつつも、巨人のデイパックから見事に
支給品を奪うことに成功していた。

しかし、奪えたのは武器ではないランプだ。
そんなもので、どうやってこの恐るべき巨人に勝つつもりなのか?

だが、奈々は不敵な笑みを浮かべ、ランプの蓋を口で咥えて外す。
そして、蓋を外したランプをそのまま巨人に投げつけた。

ランプは巨人にぶつけられ、盛大に中の油をぶちまける。

巨人は油塗れとなったが、そんなことでは怯まない。
奈々にさらなる痛みと苦しみを与えるべく、突進してくる。

だが、奈々は冷静にスカートのポケットに入れておいたライターを取り出し、
点火して巨人に投げつけた。


ライターが巨人へとぶつかった瞬間、


ライターの火が油に燃え移り、巨人を火達磨になった。

身悶えつつも、奈々へと歩み寄ってくる巨人を見据えながら、奈々は言った。

「私の勝ちだ…化け物…。」

奈々の言葉と同時に、黄土色の巨人の巨体が倒れる。
奈々の誇りをかけた死闘は、奈々の勝利で終わったのだ。




数十分後、黄土色の巨人に勝利した奈々は北にあるはずの街へと向かっていた。
その目的は、巨人に痛めつけられた身体の治療である。
何とか巨人に勝利したとはいえ、奈々はぼろぼろだった。

巨人の首吊り拷問のせいで、息をするたびに喉に激痛が走り、ただでさえ消耗している
体力がさらに奪われていく。

切り落とされた右腕の付け根はスカートのポケットに入っていたハンカチを巻きつけて
一応の応急処置はしてあるが、早くまともな治療をしないとかなり危険だ。

さらに、ランプを奪おうとして殴り飛ばされたときにアバラを何本か骨折してしまって
わき腹にも耐え難い激痛が走っている。

おまけに、巨人が火達磨になったときにセーラー服も一緒に燃えてしまったせいで、
今の奈々は上半身は下着しかつけていない。
傷ついた身体に風が冷たく染み渡り、それが辛くて仕方が無い。

だが、それでも奈々の顔には笑みが浮かんでいた。

「…お姉ちゃん…私、頑張ったよ…。
 お姉ちゃんの…天崎涼子の相棒として、立派に戦えたよね…?」

もし姉に出会えたときは、姉の相棒として胸を張って会えるはずだ。
そして、同時に奈々は思う。

「…私、頑張ったよね…?立派だったよね…?だから、もしお姉ちゃんに会えたら…。」

そのときは。
そのときだけは、ほんの少しでいいから妹として姉に甘えさせてほしいと思う。


そんな妹としてのささやかな願いを胸に抱きながら、


限界を迎えたのか、奈々は倒れて意識を失った。




ルシフェルは炎に包まれた後、そのまま力を失って、その巨体を沈ませた。
それを見て、奈々はルシフェルが死んだと思っていた。

だが、しかしルシフェルは死んでなどいなかった。
というより、ほとんどまともにダメージを受けていなかったのだ。

人体が一瞬でスミと化すほどの火柱を受けても一度なら耐え抜くほどの強靭な身体を
持つルシフェルがあの程度の炎で死ぬなどありえなかった。

ならば、なぜルシフェルは意識を失ったのか?

それは、奈々の投げつけたランプが原因だった。

眠り香のランプ。
火を灯すと、眠りを誘う香りを発するという特殊なランプである。
その効果は強力で、室内で使った場合はその部屋にいる人間を一瞬で眠らせてしまうほどだ。

ルシフェルはその眠り香のランプの油をまともに被り、そのまま火を着けられたのだ。
当然、油を燃やした香りはルシフェルの嗅覚をもろに刺激することとなり、その結果として
ルシフェルは深い眠りへと誘われたのだ。


奈々は自分の勝利が偶然によってもたらされたとは知らない。
そして、奈々が味わった恐怖はルシフェルの底の知れない狂気のほんの一部でしかないのだ。

この恐るべき悪魔を倒し得る人物がこの殺し合いの場に存在するのか?
それは誰にも分からない。




【D−3:X1Y4/森/1日目:午前】

【天崎奈々{あまさき なな}@BlankBlood】
[状態]:気絶、ダメージ大、出血多量による貧血、呼吸をするたびに喉に激痛、
アバラ三本骨折、右腕損失(二の腕の半ばからばっさり、ハンカチで応急処置)
上半身は下着のみ
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
バッハの肖像画@La fine di abisso(音楽室に飾ってありそうなヤツ)
弾丸x10@現実世界(拳銃系アイテムに装填可能、内1発は不発弾、但し撃ってみるまで分からない)
[基本]:一人でいたい、我が身に降りかかる火の粉は払う、面倒くさがり、でも意外と気まぐれ
[思考・状況]
1.涼子に会いたい
2.武器を探す
3.キング・リョーナに一発蹴りを入れる方法を考える
4.何となく籠野なよりを探してみる

※籠野なよりにあったら姉が心配していたと伝えるつもりでいます。
※ルシフェルが死んだと思っています。


【E−3:X1Y2/森/1日目:午前】

【ルシフェル@デモノフォビア】
[状態]:軽い火傷、眠り
[装備]:ルシフェルの斧@デモノフォビア
ルシフェルの刀@デモノフォビア
[道具]:無し
[基本]:とりあえずめについたらころす
[思考・状況]
1. ころす
2.ころす
3.ころす

※ルシフェルがいつ目覚めるかは不明です。
※デイパックと中身の支給品は全て燃え尽きました。



[25]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/11(Wed) 14:37 No.206  
短いものを書くと言ったのは、どの口だったか…。(´・ω・`)

書いてるうちに、奈々が可愛くて仕方が無くなってきて
テンション上がってしまった結果がこれだよ!(`・ω・´)
[26]投稿者:「→驚く女る見夢←」その1 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/03/12(Thu) 00:14 No.209  
鬱蒼とした森の中、明るく元気な声が高らかに響く。

「イ〜ザす〜す〜め〜や〜・・何だっけ?・・・まっいっか♪」

彼は手に持ったツルハシを指揮棒のようにブンブン振り回しながら陽気に歌を歌う。

「あした〜を〜かたれ〜ず〜・・・んー♪今日はすこぶる喉の調子が良いぜっ!」

彼は歌い続ける。
キーが外れてようが、古い曲だろうが、アニメソングだろうが、うろ覚えだろうが、知っている曲を片っ端から歌う。
彼の歌声は暗く薄気味悪い森の中を、明るく暖かい色に染めていった。

「ほ〜し〜ぞら〜の〜し〜た〜の〜ディー・・・あっ!!」

突然、彼の歌声が止まる。
今まで以上に勢いよく振り回したツルハシが手元を離れ、宙に舞ったからだった。
ツルハシは彼自身でも想像していなかったぐらいの速度で森の奥深くへと飛んでいく。

「うわっ!やっべぇー!!待ってくれぇー!ツルハシやーい!」

オンボロとは言えあのツルハシは立派な凶器である。
鉄製の尖っている部分がもし誰かに当たったら、きっと大怪我をしてしまうだろう。

(もし誰かに当たっちまったら・・・土下座じゃすまねぇ〜よぉ〜・・・!!)

彼は少し涙目になりながら必死に追いかける。
全力で走っているのにも関わらず、足場が悪いせいかツルハシとの距離はどんどん離れ遂には見失ってしまった。

(うわぁ〜ん・・・何とかしてくれぇ〜・・・冥夜ぁ〜!)
[27]投稿者:「→驚く女る見夢←」その2 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/03/12(Thu) 00:16 No.210  
・・・どれぐらいこうしているだろうか?
一時間のようにも、一分のようにも思える。

(くっ・・迂闊に動くワケには行かないけど・・このままじゃジリ貧だわ・・!!)

何せ、今私が対峙している相手は今までに見たことがない魔物だ。
この後どんな攻撃を仕掛けてくるか考えるとキリがないが、かと言って我武者羅に突っ込むのは流石に無謀過ぎる。

(洞窟じゃなかったら、一気に吹き飛ばしてしまうのも手なんだけど・・・。)

高威力魔法を使って相手を倒せたとしても、その衝撃で出口が塞がり生き埋め状態になってしまったら元も子もない。

(と言っても、相手の種族すら特定できないんじゃ弱点も推測できないし・・・。)

中程度の威力の魔法ならば倒壊の危険は薄いが、もしそれで相手に致命傷を与えられなかったら再詠唱中の隙を突かれるのが目に見えている。

(・・・うぅん、弱気になっちゃダメ!必ず何か突破口があるはずよ!しっかりしなさい、私!)

私は自身に喝を入れて不気味なぐらいに身じろぎ一つしない未知の魔物を睨みつける。
魔物はそんな私を嘲るかのように小さく低い呻き声を上げ、そして――。

「きゃあっ!?」

突然、魔物が凄い速度で突進を敢行してきた。
私は横へ飛び込んで間一髪の所で突進を回避し、素早く向き直る。

(くっ!こうなったら、とりあえず一旦牽制して距離を・・・)
「・・・へっ?」

私は目の前の光景が信じられず、その場で呆然と立ち尽くしてしまった。
突進を敢行してきた魔物は転進するどころか、更にその速度を増して洞窟の奥深くへと滑るように消えて行ってしまったからだった。
そしてしばらくして、壁に何か硬い物が激突したような音が響いてくる。
私はその音で我に返り、無様に口を開けっ放しにしていることに気付き慌てて口を閉じる。
そしてあるはずのない視線を気にして周りを見回してしまった。

(いったい何だったの?・・・兎に角、今の内に出口に向かおう・・・。)

私は服に付いた汚れを払い落とし、足早に出口へと向かった。

(・・・さてと。ルーファス君ならどう動くかな。)

私は洞窟を出た所で地図を広げ、彼がどう動くかを考えてみることにした。
彼の身に何も無ければ、今頃は私やあの二人の存在を知って行動を合流を考えているだろう。
どの辺りに転送されたのかは分からないが、恐らくは北に向かっているはずである。
地図を見る限りでは、合流の目印になりそうな施設や建物は北側に比較的多く存在しているからだ。
それに、建物が多いと言うことは中にそれだけ役に立ちそうな道具が落ちている可能性も高いと言うことだ。
彼は賢い子だから、建物を散策して役に立ちそうな道具を集めようと考えてもおかしくはない。

(それに、国立魔法研究所って名前の施設もあるしね・・。)

勿論、コレが私の知っている国立魔法研究所であるかどうかは実際に行ってみないと分からない。
もし私が知っている施設であれば、彼にとってもかなり有益な道具が拾えるだろうし、何より見知った場所であるという安心感がある。
素直な彼のことだから案外、直接この施設を目指している可能性もある。

(・・・よし、商店街経由で国立魔法研究所に行ってみよう。)

現在位置から見ると国立魔法研究所は最も建物の数が多いと予想される商店街を通過できるような場所に位置している。
よって此処から北東へ森を抜ければ、道中の建物をなるべく多く調べつつ向かうことができる。
それに国立魔法図書館は北側にある施設の中心部に位置している。
此処を拠点にして北側施設を一通り巡回すれば、彼と必ずや合流できるだろう。
私は早速行動を開始した。

(・・・にしても、さっきの魔物。本当になんだったのかしら?)

道中、私はあの魔物について考えていた。
何とかあの場は切り抜けられたとは言え、いずれまた遭う可能性がある。
あの男がこのふざけた”ゲーム”のために用意した魔物であるのならば尚更だ。
今の内に何かしらの対策を考えて置かなくては、次も運良く切り抜けられるとは限らない。

(そう言えば、名簿に幾つか人の名前とは思えない名前があったような・・・。)

私は記憶の糸を手繰り寄せあの二人や彼の名前を名簿で調べた時のことを思い出す。
あの時、私は何かの参考になるかもしれないと一通り目を通した。
そして、幾つか人の名前とは思えないような名前を発見していた。

(・・・スライム、ルシフェル、オーガ、リザードマン、萩の狐、八蜘蛛、それにモヒカンね。)

これらが全てあの男が用意した魔物の名前だとした場合、名前から推測して、オーガ、リザードマン、萩の狐は亜人間系の魔物だろう。
八蜘蛛は昆虫系で、ルシフェルは不死系か悪魔系、スライムはあのスライム以外に考えられない。

(・・・となると、アレはモヒカン?)

そもそも、モヒカンと言えば鶏冠のような髪型を指す単語であって決して名前ではない。
怪鳥の類ならばそう言う名前の魔物も居るかもしれないが、他にも鶏冠のような物がある怪鳥は探せば沢山居るだろう。
モヒカンだけでその個を特定するには説得力に欠けていると言わざるを得ない。
それでも参加者名簿に載っているのだから、一応は名前なのだろう。
もしかしたら、私が知っている意味とは違う意味の単語として宛がわれているのかもしれない。
種族も行動パターンもよく分からないあの魔物にはお似合いの名前だ。

(って、これじゃあ全然ヒントにならないじゃない・・・。)

縦しんばあの魔物の名前がモヒカンだったとしても、私の知らない意味の単語として宛がわれているのならば何のヒントにもならない。
私が心の中で悪態をつきつつ大きな溜め息をついた時であった。

「―――っ!!」

突然、何か大きくて黒い物体が凄い速度で私の顔を掠めた。
それからすぐ後ろの木に何かが突き刺さったような音がする。
私は後ろを振り返って正体を探る。

(・・なっ!?ツルハシ!?)

ボロボロであったがそれは確かにツルハシだった。
ツルハシは鉄製の掘削部を木の幹に半分ほど減り込ませて宙に浮いている。
偶然外れたから良かった物の、もし当たっていたら致命傷だったに違いない。
私は背筋が凍り付くような感覚を覚えた。

「・・・おーい!何処まで行ったんだよぉ〜!ツルハシや〜い!!」
「!?」

恐らくはこのツルハシを投げた人物の声だろう。
声質や気配から若い男性であることは分かった。だが、どうして彼が私に向かってツルハシを投げてきたのかは想像できなかった。
私は若い男性からツルハシを投げられるような心当たりは無いし、あの様子では彼が”ゲーム”に乗った人間だとは思えないからだ。

(でも、こんな状況で人にツルハシを投げといて、あの警戒心の欠片も無い態度は怪しいわね・・。)

もしかしたら、彼は”ゲーム”に乗ってないフリをしているだけかもしれない。
本当はあのツルハシで仕留めるつもりだったが、外してしまったので急遽手を変えたとも考えられる。

(堂々と近づいてくるなんて益々怪しい・・・。)

私にツルハシを投げてきた彼のことだから、私が警戒していることにはとうに気付いているはずだ。
それでも彼に動きが無いということは、彼に飛び道具が無いか、確実に当てられる距離まで接近するつもりかのどちらかだろう。
私は彼が再び飛び道具を使ってきても対応できるよう詠唱準備をして彼の反応を待つ。しかし、彼は依然として無警戒に接近してきた。

(・・どうやら、飛び道具は持って無いみたいね。それなら。)

私は茂みの影から彼が登場するまで待つことにした。
彼が私の姿を発見した所で此方から声を掛けて立ち止まらせ、有無を言わさず接近戦に持ち込まれないようにするためである。
それに、相手の姿が見えていた方が力加減がしやすい。
いくら殺し合いに乗った非情な人間とは言え、死んでしまったら必ず誰かが悲しむだろう。
できることなら無力化させるだけに留めたい。
ついでに白状するならば、ツルハシなんかで私を殺そうとした人間の顔を一度見てみたいという魂胆もあった。

(さて、そろそろね。いったい、どんな凶悪な面構えをしてるのかしらねっ!?)

「ちくしょー!返事ぐらいしろよぉ〜・・・あっ。」
「・・・えっ。」

茂みの影から現れたのは、私より少し若いぐらいの青年だった。
淡い赤色に染まった頬に、少し潤んでいる赤い目、少しボサボサの黒い髪の彼は私の想像していた犯人のイメージとは大きくかけ離れていた。

(と言うか・・・寧ろちょっと・・・可愛いかも?)
「・・・あ、あのさ。」
「・・・ダメ!ダメよクリス!惑わされちゃダメ!!」
「へっ?」
「・・あっ。」

私は思わず顔を赤らめて彼から目を逸らしてしまう。
そして、一度大きく深呼吸をしてから仁王立ちで彼を見据えた。

「あ、貴方ね!危ないじゃないの!もしあた・・」
「すまん!このとーりだ!態とじゃねーんだ!ほんっっっっとすまん!!」

私が全てを言い切るよりも先に、彼は物凄い速度で地に伏せ土下座を繰り返した。
その顔は後もう一言キツい言葉を投げかけたら、涙と鼻水でグチャグチャになりそうな感じだった。

(うっ、こ、これじゃあ私の方が悪者っぽいじゃないの・・・もぉ・・・。)

私は態と彼にも聞こえるぐらいに大げさに溜め息を一つつき、それから・・・。
[28]投稿者:「→驚く女る見夢←」その3 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/03/12(Thu) 00:16 No.211  
「う〜ん・・・もう、おなかいっぱいだよぉ〜・・・。」

私は今、大好物を鱈腹平らげ幸せの絶頂に居た。
少し食べ過ぎたせいかお腹が苦しい。お腹を軽く摩っていると今度は目の前に飲み物が出てきた。

「おお〜・・・気が利くねぇ〜・・・おいひっ♪」

私は一気に飲み干して、四肢を思い切り床へと投げ出す。

「うん・・?」

私は足に何か硬い物に当たった気がしたので、上半身を少し起こして確認してみる。
しかし、何も当たってるような様子は無かった。

「ふぁぁ〜・・・ん?・・・なんか、涼しぃ〜・・・♪」

すると、少し暑かった空間が突然快適な温度に変わった。
私は何故変わったのか疑問に思ったが、眠いので後で考えることにした。
私はもう一回大きく伸びをしてからゴロりと身体を横向きにする。

「Zzz・・・何か、ちょっとうるさいけど・・・いいや、おやすみぃ〜・・・・zzZ」

眠りに堕ちる間際、遠くの方で何かが高速で回転する音と耳元で砂利が巻き上がる音が聞こえた気がした。

「Zzz・・・痛っ。」

私が気持ちよく寝ていた時である。
突然おでこがズキズキと痛み出し、同時に何か凄い大きな音がした。

「ふぇ〜・・・イタぁ〜い・・・それに・・・うるさぁ〜い・・・」

しかし、うるさかったのは最初の数秒程度で、その後は寝る前のあの静かな空間に戻っていた。
私は原因を探って排除しようかとも思ったが、おでこの痛みも引いてきているし何だか面倒なので水に流すことにした。

「・・・床・・・ちょっと硬い・・・ふわぁ〜・・」

此処はとても居心地の良い空間なのだが、床がちょっと硬い。
私はもう少し寝やすい場所を探すことにした。

「でも・・あと・・・4分だけ・・・zzZ」

私はもう一回寝返りを打って仰向けになると、夢の中の桃源郷へと旅立っていった・・・。

【B−2:X2Y2/森/1日目:午前】

【クリステル・ジーメンス@SILENT DESIRE】
[状態]:健康、魔力残量十分
[装備]:無し(懐中電灯はデイパックに仕舞った)
[道具]:デイパック、支給品一式
モップ@La fine di abisso
白い三角巾@現実世界
雑巾@La fine di abisso
[基本]:対主催
[思考・状況]
1.ツルハシを投げてきた人物をどうするか考える
2.ルーファス・モントールを探すため商店街経由で国立魔法研究所へと向かう
3.その道中でアーシャ・リュコリスかエリーシア・モントールと会えたら合流する
4.首輪を外す方法を考える

【御朱 明空(みあか あそら)@La fine di abisso】
[状態]:正常
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6/6・水6/6)
おにぎり×4、ランチパック×4、弁当×2、ジュース×3
包丁、ライター、傷薬、包帯
[基本]:主催者の打倒
[思考・状況]
1.兎に角土下座して謝ってみる
2.古い木造校舎へ向かう
3.冥夜を捜す
4.殺し合いに乗る人なんているわけがない

【B−1:X4Y3/洞窟内部/1日目:午前】

【門番{かどの つがい}@創作少女】
[状態]:健康(おでこにたんこぶが1つできました)、熟睡中(食後の睡眠中)
[装備]:レボワーカー@まじはーど
(損傷度0%、主電源入、外部スピーカー入、壁に正面衝突してそのまま待機中)
[道具]:無し
[基本]:寝る!邪魔されたり襲われたら戦う、場合によっては殺す
[思考・状況]
1.夢の中で床がちょっと硬いからもう少し寝たら別の寝場所を探す
2.おでこ、少しだけ痛いなぁ・・・

※門番は自分が今何処にいるのか知りません
※そればかりか、このゲームに巻き込まれていることにすら気付いていません
※門番のデイパックはレボワーカーが鎮座していた後ろに置いてあるままです

@後書き
クリスさんが可愛くて少しやりすぎた感も否めませんが、こんなクリスさんもアリかなぁとか思ってみたり・・。(^^;
企画が盛り上がること願ってますよー!
[29]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/03/16(Mon) 23:29 No.223  
《破壊するもの》その1


「逃げろ・・・私はまだ、死ぬわけにはいかない・・・」

リースは逃げた。その悪魔から。

「生き残り、そして・・・」

しかし、彼の願いが叶えられる事は無い。

「う・・・や、やめ・・・」

最期に彼の目に映ったのは、冷酷な笑みを浮かべた少女の姿だった。



その少し前の事、リースは一人の青年と出会った。
最初はリースの姿を見て警戒していた彼だったが、
同行していた少女、なよりの説得により、しばらく行動を共にする事になった。
冥夜と名乗ったその青年は双子の兄を探しているらしく、
同じく双子の姉を探すなよりと気が合ったようだ。
三人は冥夜の提案で、西の方に位置する古い木造校舎に向かった。

だがその直後、彼らに悲劇が襲い掛かる。



「ぅおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーー!!!」

そんな雄叫びを上げながら突っ込んでくる、モヒカン頭の馬鹿がいた。
リョナだの亀甲縛りだの三画木馬だの、意味の分からない単語を連発し、彼らを困惑させた。

が、そんな事は最早記憶の彼方に忘れ去られている。
彼らはその時、本物の恐怖の目撃者となったのだ。



「あぐぅ・・・」

冥夜の突然の奇声にリース達が振り返ると、彼の身体が背後から何者かに刺し貫かれていた。
青白い冷気を纏った刃。それは彼の心臓を正確に捉えていた。
力を失った腕が、だらしなく垂れ下がる。
直後、刃が引き抜かれる。吹き上がる大量の血。崩れ落ちる冥夜の身体。
その背後に立っていたものは・・・返り血を浴びながら不気味な笑みを浮かべる女だった。

彼らの脳裏に、数時間前の出来事が蘇る。
薄暗い部屋に集められた何十人もの人間、その目の前で首を吹き飛ばされた少女、
そして、血飛沫を浴びてゲラゲラ笑っていた男。
その女の目は、彼と同じだった。


「な・・・なに・・・が・・・」
全く動くことが出来ずに、ただ震えているなより。
銃声を聞いて、このゲームに乗った者がいる事は分かっていた。
いざとなったらリースから受け取った銃を使うと、覚悟も決めていた。
しかし、それはあくまで想像。例えるならば、動物園の虎と密林の虎。
実際に出会った”それ”は、空想とは天地の差があった。
目の前で起きた冥夜の死。そして容易に予測できる自分の死。
この恐怖を前にしては、知識も理解も役に立たない。


一方、リースの判断は速かった。
目の前の殺人者、なよりの状態、手元にある武器・・・
それらの状況を踏まえると、結論は一つしかない。

『逃げろ』

彼の目的は、最期まで生き残ること。そして願いを叶えること。
彼にとってはなよりも、その目的を果たすためだけに存在する。
使う価値の無くなった道具には、何の未練も無い。だから捨てる。
願わくは最後に、少しでも時間を稼いでもらいたい。
否寧ろ、彼女が時間を稼いでいる間に、廃墟まで逃げて隠れる。
それ以外に、彼の生き延びる術は存在しない。


そして最後に唯一人、最も勇敢な選択肢を選んだ者がいた。
「さっきはよくもやりやがったなあっ!!リョナらせろおおおぉぉっっ!!!」
彼とて、恐怖を感じないわけではない。しかし彼には守るべきものがある。
リョナラーとしての誇り。それは彼が彼たる由縁であり、それを捨てればただの馬鹿でしかない。
彼は立ち向かった。己の全てをかけて、目の前の女をリョナるために。

サクッ

一刀両断。残念ながらあまりにも実力が違いすぎた。


しかし、彼の行動は決して無駄ではなかった。
一人の少女に、勇気を与えたのだ。

なよりが震える手でハンドガンを持ち上げ、構えた。
片目を閉じて、女の頭に狙いを定めた。
そして、引き金を引いた。

ダンッ!



なよりの目の前に、冷気を纏った剣が落ちている。
そしてその向こうには、仰向けに倒れた殺人鬼。

手の震えによって狙いが外れたものの、銃弾は彼女の右肩を貫いた。
どんな実力者であっても、この状態で右手に力を入れるのは不可能である。

「はぁっ・・・はぁっ・・・や、やった・・・」

なよりの顔に安堵の表情が浮かぶ。
しかし、喜んだのは束の間だった。その女が右肩を押さえて立ち上がる。
その目に宿っていたのは、憎悪。

「ひっ・・・」

次の瞬間、なよりの肩の銃弾と同じ箇所から、血が吹き上がる。

「い・・・ぅあああぁぁぁぁぁっっっ!!!」

崩れ落ちるなよりの手からハンドガンを奪い取り、殺人鬼はリースを追っていった。
彼女の左手には、未だ輝きを失わない氷の魔剣が握られていた。
[30]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/03/16(Mon) 23:29 No.224  
《破壊するもの》その2


「う・・・あぁ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

かすかな息遣いが聞こえる。
それは、右肩に刀傷を追った少女から発せられていた。

なよりはまだ生きていた。
殺人鬼の攻撃は、利き腕でない手を用いたためか、急所を外れたらしい。
しかし出血は極めて多く、今すぐにでも処置をしないと手遅れだ。

彼女は何か使えるものを探そうと、近くに落ちているデイパックに手を伸ばす。
だが後わずかの所で届かない。かといって、そこまで移動する体力も無い。
そんな彼女の前に、一人の男が現れた。


「ん?・・・生きてんのか!?」
その男の顔が、みるみると醜い笑顔に変わっていく。
「おっしゃあああああっっっ!!!!リョナってやるぜぇっ!」
そこにいたのは、モヒカン頭の馬鹿だった。

「な・・・なんで!?」
彼は先程、間違いなくなよりの目の前で一刀両断された。
だが、なよりの目の前に立っている彼は、両断どころか傷一つ無い。
「俺のリョナ魂は、あの程度じゃ断ち切れねえっ!!」
またもや意味不明な言葉に、絶句するなより。

念のため言っておくと、いくらモヒカンでも一刀両断されれば死ぬだろう。
しかし先程斬られたのは彼自身ではなく、彼の幻影。
彼の魔法、「イリュージョン」で現れた分身その1だった。

だがそんな事は彼にとってどうでも良い。
重要なのは、目の前に年頃の女がいるという事実のみ。
女 → リョナる。彼の思考は単純だ。


「うへへ・・・まずは脱がすぜ!」
「え・・きゃあああああぁぁぁぁ!!!」
モヒカンはピンクのワンピースを力任せに引き裂いた。
柔らかそうな肌と、健康的な白の下着があらわになる。
「へぇ、結構良い身体してんなぁ。」
「い・・・いや、見ないでぇ」
「嫌がるところがまたそそるじゃねえか。うらぁっ!」
「ぐげえええぇぇっ」
彼女の腹にモヒカンの拳が突き刺さった。
今まで体験したことの無い衝撃に、彼女の顔が歪む。
「まだ始まったばかりだぜぇっ!」
モヒカンが彼女の体中に連打を浴びせる。
「あぐっ、ぐぅっ、がぁっ、ぎぁっ、うがぁっ!」
「おおぅ、良い声で鳴くよなぁっ!」
一つ一つの悲鳴が、ますます彼をヒートアップさせていく。

「ひひひ・・・じゃあこうしたら、どんな悲鳴をあげてくれんのかなぁ?」
モヒカンはなよりの左手を掴んで持ち上げた。
「お、ちょうど良い物があるじゃねえか。」
モヒカンは側に落ちていたデイパックの中から、一本の望遠鏡を取り出し、彼女の腕の下に置いた。
「え・・・や、やめて・・・」
何をされるのか直感的に理解した彼女が懇願する。
しかしそれも彼にとっては興奮する要素でしかない。
「おりゃぁっ!」
彼女の肘を望遠鏡のに乗せて、その左右に全体重をかけた。
「あああああああああああぁぁぁぁああああああっっっ!!!」
彼女がひときわ大きな悲鳴を上げる。
「へへ、もうちょっとだぁ!」

ボキッ

鈍い音が響いた。
「が・・・ぐ・・・あ・・・あぁ・・・うぐ・・・」
あまりの痛みのために声を出すことも出来ずに、なよりはただ苦しみにあえいでいる。
「ひゃーっはっはっはぁー!!いいぜ、その表情!」
彼はさらに気持ち悪い笑みを浮かべていた。

「にしても・・・コレ、邪魔だよなあ。」
そう言って彼は、なよりの白い下着に目をやる。
「ひ・・・あ・・・え・・・?」
「だあっ!」
彼女のブラを鷲掴みにすると、そのまま引きちぎって放り投げた。
未だ発達途中の小さな胸が、モヒカンの目に晒される。
「ちっ、こんな小さいんじゃ揉み甲斐がねえじゃねえか。」
「はぁっ、はぁっ、・・・も、もう、嫌・・・」
「んじゃあ、こうするか。」
するとモヒカンは、なよりに馬乗りになって、右の胸に吸い付いた。
そして舌先で乳首を執拗に嘗め回す。
「ひゃ・・・気持ち悪い・・・・気持ち悪い気持ち悪い・・・」
「んだとコラァ!」
怒ったモヒカンはなよりの乳首に噛み付いた。
「ぎあああっいいいぃぃぃっっ!!!」
「ほほふぁははひひふぇはへ〜」(訳:このまま噛み千切ってやるぜぇ〜)
モヒカンが奥歯に力を込める。人間の噛む力はだいたいその人の体重程度だと言われるが、
そうするとモヒカンの全体重で、なよりの乳首が押しつぶされている事になる。
「があああああっっ!!!」
モヒカンがそのまま体を起こすと、なよりの身体が乳首一つを支えとして浮き上がる。
そして・・・

ブチッ

「ああああアアアアああああああぁぁァァアああっっッ!!」
彼女の身体が地面に落ち、胸から大量の血が噴き出した。

肩と胸から血を流し、既になよりの意識は薄れかかっていた。
しかしモヒカンはまだ元気が有り余っている。
「さてお次は・・・こっちだよなぁ。」
そう言って彼は、なよりのパンツに手をかけ、それを一気に取り去った。
「・・・・・・」
しかし彼女は反応を示さない。既に反応できる状態ではないのだ。
だが、次のモヒカンの行動によって、彼女は再び現実に引き戻される。

「うぐあああぁぁぁっっっ!!!」
モヒカンは自分の太い指を、何の躊躇も無く彼女の秘部に差し込んだ。
するとそこから、一筋の血が流れ出る。
「ほおぅ、処女だったか・・・げへへへへへへ」
「がっ、あっ、ああぅっ」
初めて感じる痛みと異物感、そしてモヒカンに対する嫌悪感で苦しむなより。
そんな反応を楽しみながら、モヒカンは次の一手を繰り出した。

「がぎいイィぃっ、がはああぁァっ、ひぐああぁぁァああアあッッっ!!!」
モヒカンは爪を立ててなよりの体内を壊し始めた。
さっきとは比べものにならない量の血が、彼女のそこから溢れ出る。
ようやく彼が指を引き抜いた時には、地面が赤く染まっていた。

右肩の傷に加えて、胸、左腕、そして股間・・・
あらゆる箇所を壊されたなよりは、もはや考える事さえ忘れ、ただ刻々と迫る死を待っている。
そんな彼女を見てモヒカンは、最後の楽しみを実行に移した。
「うぐっ・・・もう我慢できねえ。入れてやるぜ!」
彼が穿いていたパンツを脱ぎ捨ると、はち切れんばかりの巨大な肉棒が姿を見せる。
彼はそれを、彼女の穴にあてがった。
「ひひ・・・一度ヤッてみたかったんだよなぁっ|」
下の穴ではない、剣によって空けられた右肩の穴に・・・

「ぎゃああアアアアああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
ひときわ大きな悲鳴を上げて、なよりは意識を失った。
モヒカンが彼女の中に欲望をぶちまけたのは、それと全く同時だった。






【B-5:X1Y3/平地/1日目:午前】

【モヒカン@リョナラークエスト】
[状態]:健康、顔に落書き、手とか股間とかになよりの血液付着
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
    ※馬鹿なのでランダム支給品は現時点で未確認です。
[基本]:女見つけて痛めつけて犯る
[思考・状況]
1.女 → リョナる


【御朱 冥夜@La fine di abisso】
[状態]:死亡(背後から心臓を一突き)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6/6・水6/6)
    奈々の拳銃@BlankBlood(仮)(弾数不明)
    エリクシル@SILENT DESIREシリーズ

※デイパックと支給品は死体の近くに落ちています。


【籠野 なより@なよりよ】
[状態]:死亡(右肩斬られた後いろいろ)
[道具]:デイパック、支給品一式 
    リョナレスの望遠鏡@怪盗少女

※装備していたハンドガンはなぞちゃんに奪われました。
※その他の支給品は死体の近くに落ちています。



【B-4:X3Y3/道/1日目:午前】

【なぞちゃん@アストラガロマンシー】
[状態]:右肩に銃弾(右手使用不可)、記憶が回復
[装備]:アイスソード@創作少女
    ハンドガン@なよりよ(残弾6)
    四葉のクローバー@現実世界(頭に装備)
[道具]:デイパック、支給品一式(食料6食分)
    油性マジック『ドルバッキー(黒)』@現実世界←元ネタは油性マジックのマッキー(黒)、新品でペン先は太い
    たこ焼きx2@まじはーど(とても食欲をそそる香ばしい香りのする1ケースに8個入りの食べ物)
    クマさんクッキーx4@リョナラークエスト(可愛くて美味しそうな袋詰めクッキー)
[基本]:記憶回復によりマーダーに変化
    (記憶喪失時は対主催、皆で仲良く脱出)
[思考・状況]
1.ゲームに参加
2.ミアとの遭遇は避けたい

※記憶の回復により、戦闘力が大幅に上がっています。
※しかし負傷によりある程度下がってます。(結局12〜13ぐらい?)
※使い方が分かる現実世界の物は多いようです。


【リース@DEMONOPHOBIA】
[状態]:死亡(一人だけ逃げようとして惨殺)
[道具]:デイパック、支給品一式
    果物ナイフ@こどく
    札@一日巫女

※デイパックと支給品は死体の近くに落ちています。
[31]投稿者:麺◆dLYA3EmE 投稿日:2009/03/16(Mon) 23:34 No.225  
【あとがきとか】

14歳ですが性行為には及んでいないのでセーフですよね。

とりあえず、書きたいところだけ書くという作戦を実行してみました。
てかモヒカンが馬鹿すぎましたか?
[32]投稿者:289◇J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/20(Fri) 23:58 No.229  
≪桜 奮闘記 その1≫

桜は相変わらず伊予那を探して、ハンマー片手に森の中を歩いていた。

そして、東へと歩みを進めている途中で木造の校舎を発見した。

桜は一瞬だけ、その校舎に伊予那がいるのでは、と期待したが、
こんないかにも幽霊が出そうな古びた校舎に、あの怖がりな伊予那がいるわけがないと思い直す。

(時間が惜しいし、ここは無視して次に行くか。)

校舎の探索は時間の無駄と判断し、桜は先を急ぐことにした。

ちなみに、このとき校舎の中には涼子と伊織の二人がいたので、桜が校舎の中に呼びかけていれば、
二人は桜の存在に気が付いたはずだ。
もし桜がいたことに涼子が気づいていたなら、彼女は伊織を桜に押し付けただろう。
そして、その場合は伊織は死なずに済んだのかもしれなかった。

だが、もちろん桜にはそんなことは分からない。

桜が考えるのは、伊予那のことのみ。

早く伊予那を探し出してやるために、桜は校舎を後にしてさらに森を西へと進み続ける。




数十分ほど東へと森を歩き続けた桜は、近くでかすかに人の声が聞こえたような気がした。

(もしかして、伊予那…!?)

急いで声の聞こえたほうへと向かう桜。
そして、数分ほど走り続けた桜はようやく木々の向こうに人影を見つけた。

(伊予那…!)

期待が膨らみ、人影の姿を確認しようと近づく。

だが期待は裏切られ、そこにいたのはグレーの服を着た少年と鎧を着たでかいトカゲだった。
少年は辺りを見回していて、トカゲはのん気にも寝ているようだ。
伊予那では無い事に桜はがっかりする。

(…いや、でもこいつらが伊予那の居場所を知っているかも…。)

そう思いつつも、その望みは薄いだろうと桜は考える。
それに少年のほうはともかく、トカゲのほうはどう見ても化け物だ。

桜も廃病院の事件でスライムやら自分に憑依してきた幽霊やらを知っているため、
トカゲの姿に驚きはするが、人外の存在自体は受け入れることができる。

だが、だからこそ彼らが友好的な態度で接してくるとは限らないことを知っている。
むしろ、害意を持ってこちらに襲い掛かってくる可能性のほうが高いだろうと桜は考えていた。

(…でも、こいつらコンビ組んでるみたいだし…いきなり襲ってきたりはしないかな?)

桜は少年がトカゲと一緒にいることから、このトカゲは少なくともいきなり襲い掛かって
くるような存在ではないのだろうと推測する。

何より、やっと自分以外の参加者に出会うことができたのだ。
伊予那の居場所でなくても、何か伊予那を探す上で役に立つものをこの二人がもたらしてくれる
かもしれない。

そう考え、桜はこの二人に話しかけることにした。


しかし、ここで二人の様子がおかしいことに桜は気がついた。


辺りを見回している少年は何かを警戒しているようで、その視線は鋭かった。
その頬には冷や汗が流れており、彼が緊張しているのがここからでもよく分かった。
トカゲのほうはよく見るとウロコが焼け焦げていて、どうやら寝ていたのではなく
怪我をして気絶していたらしいことが見て取れた。

(そうか…こいつら、誰かに襲われたんだ…。)

桜はそう思い、しかしすぐに疑問を抱く。
襲われた後というなら、少年が怪我をしたトカゲを治療もせずに辺りを警戒している理由が
分からない。

だが、その疑問はすぐに頭の隅に追いやられた。
なぜなら、トカゲの額に見覚えのある札が貼り付いているのを見つけたからだ。

「…伊予那のお札?」

思わず声に出してしまった桜。

「そこかっ!」

ドゴオォォン!

それを後悔するヒマさえ与えられず、桜は自分に向かって放たれた光弾に吹っ飛ばされた。




リョナたろうは硬直した状況に苛立っていた。

さっさと襲撃者を倒してここから離れなければ、先ほどの爆発と自分の声を
聞いた参加者がここへ集まってくるかもしれないというのに、襲撃者はトカゲに
攻撃を加えた後は沈黙を保っている。

(来るなら早く来い…!そっちだって、人が集まってきたら面白くないはずだろうが…!)

襲撃者の不気味な沈黙。
その意図が理解できず、リョナたろうの神経をさらにすり減らす。

(くそっ…もう、かなり時間が…!)

このままでは、騒動を聞きつけた参加者が駆けつけてしまう。
集まってきた参加者が友好的なら問題はない。
だが、もしそいつが殺し合いに乗っており、自分に襲い掛かってきた場合。

そんな状況になったら、かなりヤバイ。

そいつに対処しようとするスキを突かれて、
トカゲを攻撃した襲撃者に先ほどの爆破の力を使われてしまったら…。

(怪我じゃすまねーかもな…。)

相手の爆破の力を受けたトカゲは一発で戦闘不能になってしまった。
ただの人間である自分がそれを喰らったなら、下手をすれば死ぬかもしれない。

(…ちっ…開始早々、面倒なことに…!
 …それにしても、いい加減に姿を見せやがれ…!)

そのとき、リョナたろうの耳がかすかな声を捉える。

「そこかっ!」

リョナたろうは声の聞こえた方向に向かって、魔弾を放った。

ドゴオォォン!

どうやら魔弾は相手に命中したらしく、身体を宙に浮かせて吹っ飛ぶ少女の姿が確認できた。

だが、少女が地面にぶつかる直前に受身を取ったのを見て、リョナたろうは舌打ちをする。

(浅い…!)

おそらく、少女は魔弾が直撃する寸前に持っている武器を盾にしてダメージを抑えたのだろう。
体勢を立て直した少女の目は怒りに満ちていた。




吹っ飛ばされた桜は身を捻って受身を取り、地面に叩きつけられる際の衝撃を最小限に抑えていた。
そして、そのまま吹っ飛ばされた勢いを利用して身体を転がしながら体勢を整える。

(あの野郎、いきなり攻撃してきやがって…!
 …っていうか何だよ、さっきのドラゴン○−ルみたいな技は!?)

桜は少年の放った光弾に度肝を抜かれていた。

(…そういえば、あの男も変な力を使ってたっけ。)

ふと、キング・リョーナも何らかの力で向かってきた参加者たちを床に叩きつけていたことを思い出す。

(伊予那も霊感とか持ってるし、こんな力を使うやつがここにはたくさんいるのかも…。)

ともあれ、考えるのは後回しだ。
今はいきなり攻撃してきたこの少年を倒さなければいけない。

こいつは殺し合いに乗っている。
そんな輩を放っておくわけにはいかない。

桜の中では、すでにこの少年が先ほど辺りを警戒していたことについての疑問は
きれいさっぱり吹き飛んでいた。

(コイツは危険だ。伊予那のためにも、ここで倒さないと!)

桜は伊予那を守るという使命感を身体全体に漲らせて、ハンマーを手に少年へと向かっていった。




(…よく見るとこいつのハンマー、モヒカンのじゃねーか。)

リョナたろうは少女の持っている武器が、自分の仲間であるモヒカンのものだとようやく気づく。

あのハンマーはモヒカンに合わせてあるので、かなりの重量である。
腕力には自身のあるリョナたろうでも、まともに扱えないくらいなのだから相当なもののはずだ。

だが、少女はそのハンマーを危なげなく構えている。

「………。」

何となく男としてのプライドを傷つけられたような気がして、リョナたろうは少し悲しくなる。

(…いや、今はそんなことはどうでもいい。)

目の前のこの少女は爆破の力を使って、自分たちをいきなり攻撃してきた。
つまり、この少女は殺し合いに乗っているのだ。

ならば、殺さねばならない。
殺し合いに乗っている輩など主催者打倒には邪魔なだけだし、自分が痛めつけるべき女も
この少女が殺してしまうかもしれないのだから。

そこまで考えて、リョナたろうは少女を一瞥してニヤリと笑う。

(それに、こいつもなかなかの上玉だしな。)

リョナたろうは襲撃者が予想外の美少女であることに喜んでいた。

自分が勝てばこの少女を思うがままに嬲れるのだ。
殺し合いに乗った者なのだから、大義名分も立つ。

もちろん油断はできないが、勝った後のことを考えると心が躍るのは抑えられない。

(おk、俄然やる気が出てきたぜ!)

リョナたろうは歪んだ欲望を身体全体に漲らせて、少女に向かっていった。



[33]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/21(Sat) 00:00 No.230  
≪桜 奮闘記 その2≫

桜とリョナたろうは、ほぼ同時に相手に対して向かっていく。

その速度はほぼ互角。
超重量のハンマーを持っているにもかかわらず、自分とほとんど同じ速度で
向かってくる桜に目を剥くリョナたろう。

(身体能力はこのガキのほうが上か…!)

だが、だからといって負けるつもりはない。
リョナたろうとて、いくつもの死闘を潜り抜けてきた猛者である。
こんな自分より年下であろう少女に負けるなど、プライドが許さない。

リョナたろうは魔弾を放ち、桜にけん制をかけるが、
桜は魔弾をハンマーでリョナたろうに打ち返した。

慌てて、身を低くして返された魔弾を避けるリョナたろう。

そのスキを突いて、桜がハンマーを振りかぶってくる。

リョナたろうはそれを避けるのは無理と判断、咄嗟に身を捻って
背中のデイパックを盾にし、衝撃を緩和。

しかし、それでも鈍い痛みに呻き声が漏れる。
さらに背中で受けたために体勢が崩れ上体が傾くが、
リョナたろうは殴られた勢いを利用してそのまま前転、追撃を避ける。

すぐに振り向くが、目の前には迫る桜。
リョナたろうに向かって振りかぶられたハンマー。

だが、リョナたろうはハンマーに魔弾をぶち当てて桜の攻撃のタイミングを狂わせた。
魔弾がハンマーに叩きつけられた衝撃で、桜は身体を仰け反らせてしまう。

ドゴォッ!

そのがら空きになった腹にリョナたろうは容赦無しに
ボディブローを叩き込んだ。

「がぁっ…!」

桜の呻き。
みぞおちを強打され、呼吸困難に陥る桜。

「オォォォラァァッ!!」

そんな桜に襲い掛かる、リョナたろうの拳による連打。
桜の顔、胸、腹、どこであろうと容赦無く拳を叩き込んでいく。

「ぐっ!?がっ…ぐふぉっ!?があぁぁぅぅっ…!」

桜は殴られるたびに苦鳴を漏らす。
自身の身体に拳が埋まるたびに痛みと骨の軋む音が響き、衝撃で意識が飛びそうになる。

「ぐっ…!うぁっ!がふっ…あぐぅっ!」

なす術もなくボコられる桜。

リョナたろうの顔に笑みが浮かぶ。
それは少女の身体に拳を叩き込む快感から自然と浮かんだものだった。

しかし桜はその笑みを嘲笑と見て、殴られながらも瞳に怒りを宿して
リョナたろうを睨み付ける。

(…調子に乗るな、この野郎!)

桜はリョナたろうが油断して攻撃を緩めたスキにハンマーを手放して、
リョナたろうの腕を捕まえる。

桜の突然の反撃に、リョナたろうは驚愕する。

(このガキ、あれだけ殴られて…!?)

桜のタフさに驚くリョナたろう、そんな彼を桜は気合を込めて、

「ウオオォォリャアァァァーーーーッ!!」

近くの木に向かって、思い切り投げ飛ばした。

鈍い音を立てて、木に激突するリョナたろう。

「ガハッ…!」

背中から木に叩きつけられた衝撃に息が詰まる。
だが、痛みに呻いているヒマはない。
顔を上げたリョナたろうの目には、再びハンマーを手にして迫る桜の姿。

「トドメだぁぁぁーーーーっ!!」
「くっ!?」

リョナたろうは何とか攻撃を避けようと上体を逸らして身をかわす。
それが功をなしたか、桜が振り下ろしたハンマーはリョナたろうを外れて、
リョナたろうの背後の木に激突した。

舌打ちをする桜。
リョナたろうは急いで桜から距離を取って離れる。
桜も間合いを開けて、体勢を整える。

両者が再び構えて、仕切りなおしとなったところで…。

ドシィィィィーーーーーーン!!

何かが倒れたような大きな音が辺りに響き渡った。
リョナたろうと桜は何が起こったのかと、音がした方向を向く。

「は……?」

リョナたろうはその光景に思わず呆けた声を上げてしまった。
なんと、先ほどハンマーが激突した木が真っ二つに折れて倒れていたのだ。

リョナたろうはそれが示す意味を理解すると同時に、驚愕の表情で桜のほうを向く。

本人も驚いているのか、口をアングリと開けて倒れた木のほうを見ている。
桜はリョナたろうの視線に気づくと少し慌てて、

「い…いや、これは私がそこまで馬鹿力ってわけじゃなくて!
 ほら、このハンマーだってかなり重いしさ!この木も中がスカスカだったり、
 腐ってたりしたんだよ、きっと!」

言い訳のようにまくし立てる。

「…いや、なんも聞いてねーけど…。」

半眼で答えるリョナたろう。
だが、すぐに表情を引き締める。

爆破の能力を持ち、武器のハンデはあれど自分と互角に渡り合う力を持つ少女。
だが、ここまでの闘いでリョナたろうは桜を殺さないように戦っていた。

もちろんそれは良心でも何でもなく、後でじっくりと桜を痛めつけて楽しむためだ。
どこかヌルイ雰囲気を漂わせ、明らかに命のやり取りに慣れていない少女を
リョナたろうは侮っていたのだ。

だが、今の光景を見て、認識を改めた。

確かにこの少女はヌルイ。
はっきり言って、戦闘能力が高いだけの素人だ。
闘いに対する覚悟や経験では、リゼにすら遠く及ばないだろう。

だが、しかし。

この少女を見くびると、思いも寄らない痛い目に合わされるかもしれない。
この少女の相手をするには、半端な態度では危険だとリョナたろうは考え直した。

(…殺す。)

お楽しみは次の相手までお預けだ。
手加減無しに、本気で相手の息の根を止めにいく。

目の前の相手を獲物としてではなく、敵として。
倒すべき相手として、見据える。

そうして、リョナたろうは桜へ向かって一歩踏み出し、


突然、横から加えられた衝撃に吹っ飛ばされた。



[34]投稿者:289◇J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/21(Sat) 00:01 No.231  
≪桜 奮闘記 その3≫

自分と対峙していた少年が、いきなり現れた半透明の鞭のようなものに殴られて吹っ飛ばされる。
少年は勢いよく吹っ飛んでいき、近くに埋まっていた岩に頭を打ち付け、そのまま気を失った。

「なっ…!?」

いったい何が起こったのか?

桜は、半透明の触手がどこから伸びてきたのかを確かめる。

「!…あれは…!?」

自分から10メートルほど離れた木の枝。

その上にいたのは、見覚えのあるゲル状の生き物。
いつかの廃病院で自分と伊予那を襲ってきたスライム。

(でも、弘治さんは成仏したはずじゃ…。)

あの廃病院で出会った弘治という名のスライムの形を取った幽霊。
彼はあのとき、確かに成仏したはずだった。

桜は疑問に思うが、すぐにあることに思い当たる。

(そうか…!こいつも弘治さんと同じで、誰かの怨みが形になったものなんだ…!)

姿が同じなのは、たまたま怨みの質が弘治と同じようなものだったのだろうと桜は推測する。

満月の夜でもないのに実体化しているのは疑問が残るが、あのキング・リョーナとかいう男の
仕業だろうと桜は単純に考え、今は目の前のスライムの対処に集中することにする。

(どうする…?こいつ相手には普通の攻撃は……あっ!)

ここで、桜は思い出す。
あのトカゲの額に貼り付けられていた伊予那の札を。

(あのお札があれば…!)

トカゲのほうを見ると、まだ気絶している。
その額には、伊予那の持っていた赤い札。

その札を手に入れるために、トカゲに向かって走る桜。

だが、スライムはそんな桜の行動を許さない。

「うっ…!?」

スライムの伸ばしてきた四本の触手が桜に襲いかかる。

桜は向かってくる触手のうち、二本を避け、一本をハンマーでなぎ払ったが、
最後の一本に足を絡め取られ、転倒してしまった。

そして、転倒した桜に先ほどあしらった三本の触手が襲い掛かる。

一本目は桜の首を締め上げ、二本目はハンマーを持つ右腕をねじり上げる。
残る三本目は、桜の口に強引にねじ込まれた。

「んんぅぅっ…!ぐぅぅっ…んぐぅっ…!」

ズッ…!ズブッ…グジュッ…!ズッ…ジュブ…!

口の中を喉の奥まで蹂躙するスライムの触手。
首を絞められながら口を触手に犯され、桜は呼吸ができない苦しさに暴れる。
そして、唐突に桜の口の中の触手が先端からドロドロしたものを桜の口内に注ぎ込んだ。

「んぐぅっ!?」

桜はいきなり口内に注ぎ込まれたそれを飲み込んでしまう。
飲んでしまった後、その味のあまりの酷さに吐き気を催した。
吐き出そうとしたが、触手に口内を陵辱されている状態ではそれは叶わない。

そんな桜にスライムはさらに二本の触手を伸ばし、一本は桜のノースリーブの中に、
もう一本は桜のハーフパンツの中に入り込み、桜の柔肌をこねくり回す。

「んんぅぅーーーっ!んんーーーっ!!」

桜はその感触に顔を顰め、触手を振りほどこうと必死に暴れる。
だが、触手はがっちりと桜の身体を拘束しており、桜はなす術もなく
触手に身体を弄ばれるしかなかった。

(ちくしょぉ…!こんな化け物に…!)

桜は悔しさに身体を震わせるが、どれだけ暴れても拘束は解けない。

何とか脱出の術を考えようとする桜に対して、触手は桜の胸を触手で包んで
強く吸い上げる。

「んんぅぅんっ!?」

与えられた刺激に身体をビクンと震わせる桜。

その反応に気を良くしたのか、今度はハーフパンツの中に進入していたもう一本の触手が
ショーツの中にまで潜り込み、桜の秘所と肛門を包み込み、グニュグニュと揉み上げる。

「んぐぅぅっ…!?んぐっ…ふぅぅっ!」

スライムの冷たい触手に大事なところを責められ、桜は強い嫌悪を抱くと同時に、
なぜかその責めに強い快感を感じてしまい、身を仰け反らせる。

(な…何だよ、これ…!?)

自分の身体の変化に戸惑いを覚える桜だったが、先ほど飲まされたドロドロの液体を思い出し、
あれのせいだと直感で理解する。

だが、分かったところでどうにもならない。

触手の責めは激しくなり、桜の口内の触手はさらに喉の奥まで進入してくる。
胸に吸い付いている触手もその吸付きを痛いほどに強めてきて、股間の触手も動きが激しくなっている。

そして、その責めは先ほどとは比べ物にならない快感を桜の身体に与えてくる。

「んっぐぅぅっ!?ふぅぅんんっ…!んうぅぅぅっ…!んんんぅぅーーーーっ!!」

桜の口から甘い声が漏れ、桜の意思とは裏腹に身体をくねらせてしまう。
それを何とか阻止しようとするが、まるで他人の身体であるかのように
自分の身体は言うことを聞いてくれない。

(くそっ…!放せ…このっ…このぉっ…!)

「んっ…んんっ!んんぅぅっ…!」

顔を真っ赤にして目に涙を浮かべながら、声にならない声をあげる。
与えられる快感があまりに強すぎて、すでに桜はまともに頭が働かなくなっていた。
これでは、この状況から脱出するための策を考え付くことなど不可能である。

もはや、このままスライムの慰み者になるしか桜に道は残されていないかに思われた。


だが、ここで桜にとって救世主が現れた。


「熱烈歓迎!(いただきマンモスー!)」


そう、気絶していたトカゲである。
彼はつい先ほど意識を取り戻したのだ。

目を覚ました彼の目に映るのは、スライムに責められて身を捩じらせ悶える少女の姿。

彼の性欲は一瞬でヒートアップ、アクセル全開で桜へと突っ込んでいった。

だが、スライムにとっては自分の楽しみを邪魔する者が現れた形になり、面白いわけが無い。
スライムは邪魔者を排除するべく、触手を鞭のようにしならせて向かってくるトカゲを攻撃した。

だが、トカゲは俊敏な動きでそれらを避け、背後から迫る触手も尻尾で叩き落して突き進む。

スライムの動きに初めて焦りが見えた。
このままでは、せっかくの獲物を奪い取られてしまう。

そして、そのスライムの焦りに付け込んだ者がいた。

もちろん、拘束されている桜である。
彼女は自分への責めが弱まったのを見て取ると、あの責めの中に置いても手放さなかったハンマーを
思い切りスライムに叩き付けた。

その衝撃に、さすがに怯むスライム。

そのスキに桜は触手を振り払って何とか拘束から逃れるが、地に足を付けた途端、先ほどの責めの余韻が
快感として全身を駆け抜ける。
それに耐え切れず、桜は呻いて膝を突く。

そんな桜に再び迫る触手。

だが、桜に迫るのは触手だけではない。

ご存知、我らがトカゲ君である。
彼は目をハートにして、桜に思い切り飛びついたのだ。

それは偶然にも迫る触手から桜を守る形となり、桜を捕らえるはずだった触手は
トカゲをぐるぐる巻きにして彼を拘束する。

突然の事態にギャーギャーと喚いて暴れるトカゲ。
スライムは予想外の事態に苛立った様子を見せつつ、トカゲをポーンとはるか遠くへ投げ捨てた。
悲鳴を上げながらトカゲは飛んでいき、これまた偶然にも先ほどのリョナたろうと同じように
たまたま落下地点に埋まっていた岩に頭から落ちて、脳震盪で気絶した。

スライムはようやく邪魔者が消えたとばかりに、桜に意識を向ける。

だが、スライムが見たのはハンマーを自分に振り下ろす桜の姿。
そのハンマーには、トカゲの額から剥がれたお札が貼り付けられていた。

「必殺・オフダーハンマァァァーーーー!!」

桜の一撃は見事にスライムに命中し、スライムの身体を盛大に凹ませた。

だが、桜の予想とは裏腹にお札は効果を発揮されない。
その事実に、桜は焦る。

スライムは桜の動揺を見て取って、そのスキに桜に触手を伸ばそうとして…


次の瞬間、スライムは炎に包まれた。


炎に包まれたスライムは慌てて、その場から逃げ出していった。



[35]投稿者:289◇J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/21(Sat) 00:02 No.232  
≪桜 奮闘記 その4≫

スライムが逃げ去った後、この場で立っているのは桜だけとなった。

「そっか…霊体に効果があるのは青い札だったっけ…。」

青い札は霊体を蒸発させる力を持ち、赤い札は対象を燃え上がらせる力を持つ。
燃え上がったスライムを見たことで、桜はようやくその事実を思い出していた。

「まっ、追い払うことには成功したんだし、結果オーライってやつだよね。」

桜はそう言って、ニッと笑う。
次いで、気絶している二人に目を向ける。

グレーの服の少年と鎧を着たトカゲ。

少年のほうは自分に襲い掛かった危険人物だ。
妙な力も使うし、殺し合いにも乗っているようなので
ここで殺しておいたほうが無難だろう。

だが、それに桜は抵抗を覚える。

(戦っている最中ならともかく…気絶しているところを、ていうのもなんかなー。)

そもそも、桜はケンカが強くて運動神経が異常に良いだけの14歳の少女なのだ。
当然、人を殺した経験などないし、できる限りそんなことはしたくない。

(…それにトカゲのほうは私を助けてくれたんだよなー。)

そう思い、トカゲに目を向ける桜。

桜はこのトカゲがスライムの攻撃から自分を守ってくれた(桜からはそう見えた)ことから、
このトカゲは殺し合いに乗っておらず、さらに自らを犠牲にしてでも人を助けるような
優しい心を持っていると認識していた。

だからこそ、桜は疑問を抱く。

なぜ、このトカゲは殺し合いに乗った少年と一緒にいたのか?
少年は怪我をして気絶したトカゲを庇うように傍で見張りをしていた。
ならば、仲間であろうことは疑うべくもない。

少年がトカゲを騙していた?
なるほど、一番納得のいく答えだ。

だが、この優しいトカゲが殺し合いのパートナーとして役に立つだろうか?
むしろ、このトカゲは殺し合いに乗った少年にとっては一緒に行動する上で
邪魔にしかならない気がするのだが…。

「…あーもー!分っかんねー!どういう関係なんだよ、こいつら!?」

桜は苛立たしげに頭を掻き毟る。

「もういいや、こいつらのことは。とりあえずトカゲだけ起こしてやって、
 その後すぐに伊予那を探しに行こう。」

桜はそう結論付けて、気絶したトカゲに歩み寄って、トカゲの肩を揺する。
トカゲはすぐに目を覚まし、寝ぼけた顔で桜のほうを見る。

「よう、トカゲ。さっきはありがとな。
 んで、助けてもらっといて悪いけど、私は急いでるんで先に行くよ。
 あんたも危ないヤツには気をつけなよ。」

桜はトカゲにそう告げた後、デイパックを拾ってスタコラサッサと去っていった。

トカゲはそんな桜を見送った後、再び寝転がってグースカとイビキを立てて寝始めたのだった。

どうやら今の彼は性欲より睡眠欲らしい。
傷ついた身体を癒すために、しばらく眠り続けるのだろう。


一方、トカゲにお礼を言ってその場を後にした桜。
彼女は一つミスを犯していた。

彼女の持っていったデイパック。
それは彼女のものではなく、今現在グースカ寝ているトカゲのものだった。
つまり、持っていくデイパックを間違えたのだ。

これが後にどういった結果をもたらすのかは分からない。

…だが、少なくとも桜がひもじい思いをする確率が大幅に上がったのは確かであろう。






【C-3:X2Y4/森/1日目:午前】

【美空桜@一日巫女】
[状態]:ダメージ中、疲労中、媚薬の効果が若干残っている
[装備]:モヒカンハンマー@リョナラークエスト
[道具]:デイパック、支給品一式(食料無し)
ファイト一発*2@リョナラークエスト
[基本]:伊予那を探す・助ける・協力する(伊予那に害をなす奴を倒す)
[思考・状況]
1.伊予那を探す

※サーディの顔は脳裏に焼きつきました。出会えば「夢」の人物だと分かるでしょう。
※リョナたろうをマーダーと認識しました。
※リザードマンを殺し合いに乗っていない優しいトカゲと認識しました。
※特殊な能力を持つ参加者の存在を知りました。



【C-3:X1Y4/森/1日目:午前】

【リザードマン@ボーパルラビット】
[状態]:睡眠、ダメージ中、頭にたんこぶ、鱗が少し焦げている
[装備]:リザードマンの鎧@ボーパルラビット
[道具]:デイパック、支給品一式
首輪探知機@バトロワ(未使用)
[基本]:本能のままに
[思考・状況]
1.リョナたろうと共に行動
2. 生存本能によって賢さブースト中
3. 愛嬌を振りまいて仲間を作る
4. 女の子を襲う


【リョナたろう@リョナラークエスト】
[状態]:気絶、ダメージ小、頭にたんこぶ
[装備]:拡声器@バトロワ
リョナたろうの鎖帷子@リョナラークエスト
[道具]:デイパック、支給品一式
弓@ボーパルラビット、聖天の矢×20@○○少女
赤い札×9@一日巫女
[基本]:主催者を倒す+女の子を襲う
[思考・状況]
1.襲撃者を警戒
2.リザードマンと共に行動
3.オーガ、モヒカン、リゼを探す
4. 主催者を倒すための仲間集めを考える
5. 女の子を襲う

※リョナたろうの使える魔法は「サーチ」です。
※必殺は「魔弾の力」です。
※桜を爆破の能力、もしくは道具を持つマーダーと認識しました。



【C-3:X1Y3/湖/1日目:午前】

【スライム@一日巫女】
[状態]:ダメージ中、中度の火傷(再生中)
[装備]:なし(出来ない)
[道具]:なし(持てない)
[基本]:目の前の敵に襲い掛かる
[思考・状況]
1.敵を見つけ次第攻撃

※基本的に木の枝をつたって攻撃するようです。
※自己再生能力を持っていますがコアをやられると
 おしまいというステレオタイプなスライムです。
※火は湖の水で消火しました。



[36]投稿者:289◇J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/21(Sat) 00:10 No.233  
この話を書いていて疑問に思ったことですが、
お札って、ひょっとして誰でも使えるんだろか?

もしそうなら、リョナたろうがリザードマンにお札を
貼り付けたときにリザードマンが燃え上がってないと
おかしいことになってしまいますのう…。(´・ω・`)

まあ、その場合はリョナたろうに特別才能が無かったとか
異世界の人間には扱えないとか、そんな感じでお願いしますw
[37]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/25(Wed) 13:47 No.239  
≪求めるものは互いの手に  その1≫

暗い。

暗くて寒い。

どうしてこんなことになっているのかは分かっているつもりだ。

…むしろ、こうなることをずっと望んでいた。

『真相』を暴く為にはどうしても必要なことだった。

わざわざ彼らの為のチャンスを作った。
人気の少ない通りでさぞかし仕事がし易かっただろう。

全て『ボク』の望んでいた通りに事は運んだはずだった。

…だけど、何かがおかしい。

直感が告げている。
何かが…狂っている。

だとしたら、いつまでもここでこうして寝転がっているわけにはいかない。

幸いにも手足は戒められていない。
今すぐにでも行動を起こさなくては…。

…それにしても寒い。

それもそのはずだ。
どういうわけか服を着ていないのだから。
まずはそれを何とかしないと…。




そして、彼女 ―― 登和多 初香が行動を起こそうとしたところ、彼女はこの薄暗い場所に
自分以外の気配が存在していることに気づく。

それも、かなりの人数だ。
彼らは状況を理解できていないようで戸惑った様子でざわついている。

(ボク以外にもさらわれてきた人が…?)

初香はそんな疑問を抱き、他の人物を観察してみる。
とはいっても、この薄暗い中で大したことは分からないのだが、それでも他の人物が自分とは
違って、服を着ていることくらいは分かる。

そして、それを確認した次の瞬間、初香の近くで光が挿した。

初香がそちらに視線を向けると、やたらと派手な格好をした男が立っていて、

「やあ、皆さん初めまして!僕はキング・リョーナ!君たちをここに招待した者だ!」

そんなことを言ってきた。


そして、その後の殺し合い云々や一人の少女を爆死させたことなどに初香が状況を理解できずに
混乱しているうちに、

「説明は以上!それじゃ、殺し合いのゲームを開始するよ!
 皆をフィールドにワープさせてあげるね!」

男が言いたいことを言い終わったようで、初香はその場から不可思議な力で強制的に退場させられた。




そして、次の瞬間には初香は建物の中の一室にいた。

近くの机には試験管やフラスコ、さらに研究の結果について書かれたレポートが
並べられていることから、初香はこの建物が何らかの研究を行っている研究所だと分かった。

いきなりの出来事に混乱していた初香は、しかし数分ですぐに冷静さを取り戻した。

もともと10歳という幼さに似合わず、初香は不足の事態に対処する能力が高い。
落ち着くための時間がわずかにでもあれば、混乱した状態から立ち直るのは容易なのだ。

クールダウンした頭で、初香は自分の身に起こったことについて考えた。
そして導き出した結論は、彼らとは別口の組織に拉致されたのだというものだった。

その結論に至った理由は至極単純。
もし彼らが犯人なら、わざわざ自分を拉致した後にこんな殺し合いに参加させる意味など無いからだ。

(せっかくボクがチャンスを作ってやったのに、分けの分からないヤツに先を越されるなんて…。)

なんて不甲斐無い。

意図したものとは全く異なる状況に放り込まれてしまった少女は苦々しい表情を浮かべて
心中で毒づいた。

(…まあ、こうなった以上は仕方ないや。気を取り直して今することを考えないと…。)

過ぎたことに拘泥しているヒマはない。
今考えるべきことは、この状況から脱出するためにどう動くかについてだ。


必要なのは仲間と情報、そして武器。


まず、仲間について。

自分は頭はいい。
子供にしては、なんてものではなく、それこそ天才的にだ。
医師免許他12の国家資格を取得しているし、はっきりいって自分より頭の良いものなど
いないと思っている。

だが、肉体的には自分は10歳の子供でしかない。
そんな自分にできることは限られているし、この状況から脱出するにはどうしても大人…少なくとも、
自分より成熟した人間の手を借りる必要があるだろう。

(運良く殺し合いに乗ってない人に出会えればいいんだけど…。)

ともあれ、これから出会う者の人間性について考えていても仕方が無い。
考えたところで善良な人間に出会えるわけでもないし、時間の無駄である。


次に、情報について。

自分…いや、自分たちを拉致した男、そしてその後ろに存在するであろう組織の情報が必要だ。
これだけの人数を拉致できたことから、犯人があの男一人ということはありえない。
あの男の後ろにかなりの規模の組織が存在することは間違いないだろう。

それだけでも厄介なのに、さらに初香にも全く理解できない不確定要素がある。

あの男に向かっていった参加者たちが一瞬のうちに床に叩きつけられた現象。
そして、初香を一瞬で先ほどの場所からここまで転移させた現象。

あんなことを可能にする技術など初香は知らない。
だが、実際に初香はそれらを目の当たりにし、後者に至ってはこの身で体験すらしたのだ。
そういった技術が存在することを認めないわけにはいかない。

敵は未知の技術を扱う強大な組織。

そんな者たちに対抗できるのか?
そして、そんな技術を持つ彼らが作った首輪…これを外すか無効化しなければ
最後の一人になる以外に初香が生き残る術はないのだ。

初香は不安に思うが、だからといって生き残ることを諦めるわけにはいかない。

(そうだ、ボクはまだ…。)

まだ、何も分かっていないのだ。

敬愛していた父の死…その真相を探し続けて5年、やっと手がかりを掴んだと思った。
なのに、何を間違ったのかこんなところに連れてこられて殺し合いをさせられている。

(こんなところで死んでたまるか…!)

初香は何があっても生き残ることを強く決意する。
そのためにも、ヤツらの持つ技術、そして首輪についての情報を集める必要がある。
ひょっとしたら、他の参加者の中にヤツらの持つ技術や正体について知っている人間がいるかもしれない。
確率は低いが、それを確かめるためにも仲間を得る必要があるだろう。


最後に、武器について。

この殺し合いの場において、肉体的にはただの子供である自分が生き残れる確率は低い。
そんな自分の生存率を上げるためには、強力な武器が必要だ。

初香は自分の傍に転がっているデイパックに視線を向ける。

このデイパックに、自分でも扱えるような殺傷力の高い武器…たとえば銃のような武器が
入っていなかった場合。

その場合、自分の生存率は激減する。

それを意識して、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
軽く深呼吸をして、初香はそれを落ち着けた。

(大丈夫…もし武器が入っていなかったとしても、ボクなら大抵のことは切り抜けられる。)

周りに人の気配が無いことを確かめた初香は、意を決してデイパックの中身を確認することにした。



[38]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/25(Wed) 13:48 No.240  
≪求めるものは互いの手に  その2≫

初香が転移させられた建物 ―― 国立魔法研究所のすぐそばの森には一人の女性が佇んでいた。

長いストレートの黒髪に灰色のメイド服、白いティアラにエプロンと殺し合いの場にはそぐわない
華やかな格好をしているその女性の名前…もとい、コードネームはEviGen。
近未来に存在する組織、地球連合政府United Earth Space Council(略称UESC)に所属する二等兵である。

そんな彼女がメイド服を着ていることに疑問を持つ人もいるかもしれないが、
これは上官である火星の衛星AIダニモスの趣味であり、別に深い意味はない。たぶん。

彼女はついさっきまで、そのダニモスから「でっかい肉塊スライムを倒してこい」と言われて、
現場へと向かっていた。

だが、気が付くといつの間にか殺し合いに参加させられているという異常事態に陥っており、
携帯していた武器も全て奪われていたのだ。

「ダニモスさ〜ん、応答願いま〜す。」

EviGen(以降はえびげんと表記)が着ているのは未来の技術による様々な装置、プログラムが
搭載されている高性能メイド服である。
そのメイド服に内蔵されている無線で上官に呼びかけるが、無線からは雑音しか聞こえず、
えびげんは渋い顔をする。

「面倒なことに巻き込まれちゃったなぁ…。」

無線が通じないということは、この殺し合いの会場一帯にはジャミングが施されていることになる。
もっとも、外部に連絡されて助けを呼ばれては殺し合いを破綻させてしまうし、殺し合いを主催した
あの男の身も危険になるので、これは殺し合いという催しを行う上では当たり前の措置である。
これについては推測済みで、念のために試してみただけなのでそれほど落胆はしていない。

次に、えびげんはメイド服の自己診断プログラムを起動させて、内蔵されている装置やプログラムが
使用可能かどうかを確認してみた。
その結果、全ての機能が正常であり、問題なく使用可能だという結果が返ってきた。

(…武器を奪っておいて、メイド服の機能は制限しなかったの?
 あの男の考えていることがよく分からないわね。)

顎に手を当てて首を傾げるえびげん。

ちなみにえびげんのメイド服に何の処置もされなかったのは、単純にキングがメイド服の機能に
気づかなかっただけである。
まさかメイド服にそんな機能が搭載されているとは、さすがのキングにも分からなかったのだ。

そして、キングがメイド服の機能に気づいたとしても、そのまま送り出してしまった以上は
殺し合いに対しての介入を嫌う彼がそのメイド服を取り上げようとすることはあり得ない。
結果として、えびげんの未来の技術満載のメイド服が取り上げられることはなくなり、
それはメイド服を指定の服装としていたダニモスの手柄といえなくもないかもしれない。

まあ、それを知ったところでえびげんがダニモスに感謝することはないだろうが…。

ともあれメイド服の機能が制限されていないとはいえ、このメイド服自体には武装といえるものは
搭載されていないのだ。
えびげんは傍に落ちていたデイパックを開けて、自分に支給された武器を確認することにした。

(何が出てくるのかな〜?マシンガンかな〜、レーザーガンかな〜?
 グレネードとかロケットランチャーだったら嬉しいな〜♪)

えびげんはワクワクしながらデイパックの中身を確かめる。

ここが殺し合いの場であることや、もしそのような強力な武器が出てきたとしても
それを向けるのはいつも彼女が相手にしているえびるのような化け物ではないことなども、
このメイド服の女性の頭からは抜け落ちているようである。

上官であるダニモスが今のえびげんを見たら、何と言うであろうか。

…別に何も言わないかもしれない。彼は人工知能のくせに適当でいい加減なのだ。


さて、えびげんに支給された武器とは何だったのであろうか?

彼女の目の前にあるのは、髪飾りにバームクーヘンのような形のお菓子が3つ、
そして五芒星が描かれた黒い護符であった。

えびげんは自分に支給された、どう見ても役に立ちそうに無いそれらの道具を見て、
ふっと何かを悟ったような寂しげな笑みを浮かべた。

「ダニモスさん…今、初めて貴方のありがたみが分かった気がします…。」

服装の趣味に難はあったが、いつも自分に大量の武器をくれてサポートしてくれた上官を思い出す。

思えば、自分が強力な武器を湯水のごとく使いまくって、えびると戦えたのも彼のおかげだった。
大好きな武器を遠慮仮借なくぶっ放すのはとても気持ちが良かったし、充実していた。

だが、それも…。

「…って、いやいや、まだ諦めるのは早いわよ。」

えびげんはセルフ突っ込みをしつつ、再び現状を考える。
残念ながら…本当に残念ながら、自分に支給された武器は完全なハズレだった。

ならば、どうする?

軍人のくせに格闘能力がゼロである自分は、武器が無ければお話にならない。
武器の無い今の状態では、下手をしたらちょっと体格の良い男性にもあっさり負けてしまうかもしれない。

(…そうだ、私以外にも仲間が連れてこられてるかも!)

もし仲間がいるなら、武器を分けてもらえるかもしれない。
そう思って、名簿の確認をすることにした。


いなかった。



(ぐぅっ…!…そ、そうだ、地図!ガンショップとかがあれば、武器の調達も可能なはず…!)

そう思って、えびげんは藁にもすがる思いで地図の確認をしてみた。


なかった。


あんまりだ。
そう思って、ちょっと泣きそうになるえびげん。
というか、実際に涙目になっていたりする。

「あのハデ夫…私にここで死ねと…?」

そんな思いを抱きながら、軽く絶望しつつ地図を眺めるえびげん。
しかし、ふとあることに思い当たる。

「…ひょっとしたら、この商店街とか昏い街とかにガンショップがあるかも…。
 それに建物の中を探せば、銃器の一つや二つくらい…。」

僅かな希望を見出そうとするように、暗い顔でそう呟く。

正直なところ、えびげんはそんなことはあり得ないと思っている。
この殺し合いの場で武器の調達が可能ならば、ルール説明のときにそのことも説明するだろうし、
その場合は支給する武器に当たり外れをつける必要もないはずだ。

だが、それでも可能性が無いわけではないし、結局のところハズレを引いてしまったえびげんには
その僅かな可能性にすがるしか道は無いのだ。

「…とりあえず、あの建物の中を探そうかしら…。」

えびげんはそう呟いて、傍に見える国立魔法研究所に向かってトボトボと歩き始めた。



[39]投稿者:289◇J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/25(Wed) 13:49 No.241  
≪求めるものは互いの手に  その3≫

一方、国立魔法研究所にて支給品の確認を行った初香。
彼女の支給品はどのようなものだったのだろうか?

結論から言って、初香の支給品は大当たりだった。

3発の弾丸を装填可能&装填済みのショットガンとその弾丸が15発。
高温度の炎を吐き出すことが可能な火炎放射器。
刀身を射出することで離れた敵にも攻撃可能、近接時の奇襲にも使えるスペツナズ・ナイフが10本。

あまりにも充実した内容に、初香は喜びを通り越して逆に勘繰ってしまった。

(ひょっとして、参加者全員にこのレベルの武器が配られてるとか…?
 それとも、ボクみたいな子供が必死で人を殺すところが見たい変態だったり…?)

そんなことを思う初香。
自分が服を奪われて裸にされている現状を考えると、可能性が高いのは後者だろうかと
半ば本気で考えてしまう。

ともあれ、これなら武器については全くといって良いほど問題は無い。
難点をいうなら、子供の自分にはショットガンも火炎放射器も重くて扱い辛いということだが、
スペツナズ・ナイフもあることだし、そこまで望むのは贅沢というものだろう。

さて、では次に必要なものといえば…。

「服…だよね、やっぱり…。」

そう呟いたと同時に、肌寒さを感じてクシャミをする。

このままでは風邪を引いてしまうし、何より服を着ていない状態で人には会いたくない。
そもそも転移先が建物の中だったからまだマシだったが、もし転移先が外の見晴らしの良い場所で
近くに男の人でもいたら…。

初香は顔を赤くして俯く。
いくら羞恥心の薄い彼女といえど、女の子である。
そんな展開はご遠慮願いたい。

「…どこかに服無いかなぁ。この際、シーツやカーテンでも構わないけど。」

ショットガンを手に取り、他の武器は全てデイパックに仕舞い込む。
スペツナズ・ナイフの一本くらいは懐に仕込んでおきたいところだが、服が無いのでそれは叶わない。
だからといってスペツナズ・ナイフを一本持っていたとしても、傍目には子供がナイフを構えているように
しか見えないだろう。
それでは威圧感が乏しく、危険人物に対しての抑止力にならない。

そこまで考えたところで、初香は自嘲する。

危険な相手なら、ナイフの刀身を射出して心臓でも貫いてやればいいのだ。
だが、自分はそれを躊躇している。
出来る限り、脅しだけで済ませたいと思っている。

やはり、こんな状況でも自分は人を殺すのが怖いらしい。

(こんなんじゃ駄目だ…。)

こんな心構えでは生き残ることはできない。
いざというときは殺すつもりでいなければ、自分が殺されてしまう。


そのように初香が思い悩んでいると、いきなり部屋の入り口のドアが開いた。


「!?」

反射的にそちらへとショットガンの銃口を向ける。

「えっ…!?いや、ちょっと待って!?」

部屋へと入ってきた人物は、銃口を向けられて慌てた声を上げる。

「動かないで!」

初香はその人物 ―― メイド服を着た女性に対して、そう言い放つ。

「…えーっと、お嬢ちゃん?別に私は殺し合いなんてするつもりはないから、
 その銃を降ろしてくれないかな?暴発とかしたら危ないから…ね?
 …ていうか、何で裸?」

冷や汗を流しながらも、その女性 ―― えびげんは初香が状況に混乱して怯えている子供だと
思ったらしく、できる限りの優しい笑顔を作って諭すように言う。
もちろん、気になるところもしっかりと突っ込んでおく。

だが、初香は冷たくえびげんに告げる。

「殺し合いに乗ってるかどうかはボクが判断するよ。
 それに銃器の類は一通り扱えるから、ご心配なく。
 …あと何で裸なのかは、ボクじゃなくてあのハデ夫に聞いて。」

その言葉にえびげんの顔が引きつる。
主に最後の一文に対して。

「あのハデ夫、子供に全裸で殺し合えってどんだけ…!
 …って、まあそれはともかく、それショットガンでしょ?
 その銃って反動が凄いからお嬢ちゃんみたいな小さい子が撃つと
 下手したら肩が外れたりすることも…。」

ハデ夫の変態趣味はとりあえず置いておくことにして、えびげんはショットガンの危険性を初香に告げる。

だが、よく見ると初香は机にショットガンの柄を置き、さらにデイパックを胸に抱え込んだ状態で
机の向かい側のえびげんに銃口を向けていた。
この状態ならデイパックがクッションとなるので反動を抑えることができるし、長時間の硬直状態に陥っても
銃の重さで腕が痺れることもない。
さらに机を挟んでいることから、もし相手が襲ってきても机が邪魔で初香に近づくのが難しくなる。

(ぐぅっ…この子、頭良い…!全裸だけど…!)

はっきりいって、えびげんは焦っていた。

自分に銃口を向けているのは多少頭が回るとはいえ、所詮は子供、しかも全裸だ。
何かのはずみでショットガンが火を噴いてしまえば、自分は死ぬ。

…いや、あらゆる衝撃を吸収する合成繊維が編み込まれたこのメイド服なら即死は免れるかもしれない。
だが、この至近距離でショットガンなんか喰らったらさすがに大怪我をするだろうし、頭部に当たれば
メイド服とか関係無くあっさり死ぬだろう。

(何とかこの子を説得して銃を降ろしてもらわないと…!あとショットガンも譲ってほしい…!)

えびげんがそう考えていると、初香がえびげんに言葉を向ける。

「とりあえず、床に伏せて両手を頭の上に組んでくれる?
 心配しなくても、おかしな動きをしなきゃ撃ったりしないよ。」

そう告げる初香にえびげんは何か言おうとして…結局、何も言わずに溜息を吐く。

「…分かったわよ。
 言うとおりにするから、撃たないでよ?」

今までの態度を見る限り、この少女は殺し合いには乗ってないようだし、思ったよりもずっと冷静だ。
下手に説得しようとしたら逆に刺激してしまうかもしれないし、ここは少女の言うとおりにしたほうが
無難だとえびげんは判断して、少女の言葉に従うことにした。


天才少女と未来の軍人。
出会いこそ殺伐としたものとなってしまったが、この出会いはお互いにとってこの場で考えられる限りの
最高の出会いであると言えるだろう。

えびげんは初香の求める情報…未来の技術についての知識、そしてその結晶であるメイド服を持ち、
さらにダニモスのテレポータ試験に付き合っていたことで、転移技術についてもある程度の知識を持っていた。

初香はえびげんの求める武器…ショットガンに火炎放射器、スペツナズ・ナイフといった強力な武器を
支給されており、それらの武器はえびげんが喉から手が出るほどに求めていたものだった。


この殺し合いの場において、この出会いはまさに僥倖といえるほどの強運に恵まれたものだったに違いない。


…ちなみに本筋とはほとんど関係の無いことだが、初香の服が奪われたのはこの殺し合いの場に
拉致される前のことなので、キングは関係無かったりする。
もっとも、この二人はそんなことには最後まで気づきはしないだろうが…。






【A-4:X2Y3 / 国立魔法研究所 / 1日目:朝】

【登和多 初香@XENOPHOBIA】
[状態]:健康、全裸
[装備]:ショットガン(3/3)@なよりよ
[道具]:デイパック、支給品一式
ショットガンの弾×15@なよりよ、火炎放射器(100%)@えびげん
スペツナズ・ナイフ×10@現実
[基本]:殺し合いからの脱出
[思考・状況]
1.えびげんに対処、殺し合いに乗ってないと判断したら仲間にする。
2.仲間と情報を集める。
3.服が欲しい。

※ずっと裸でいると風邪を引くかもしれません。


【えびげん@えびげん】
[状態]:健康
[装備]:メイド服@えびげん
[道具]:デイパック、支給品一式
髪飾り@DEMONOPHOBIA
エルデクーヘン×3@創作少女
魔封じの呪印@リョナラークエスト
[基本]:武器が欲しい
[思考・状況]
1.とりあえず初香の言うとおりにして初香の警戒を解く。
2.初香にショットガンを譲って欲しい。
3.キングは救いようの無い変態。





[40]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/03/25(Wed) 14:07 No.242  
二人の性格がこれで良かったのかはちょっと自信がないけど
大きな間違いは無いはず…。

初香の支給品が強力すぎたり、えびげんさんのメイド服を
制限しなかったのはすみませんです。(´・ω・`)

だが、初香を全裸にしたことについては謝らない。(`・ω・´)
[41]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/04/19(Sun) 22:05 No.248  
≪美奈、ヘタレる≫

美奈は廃墟へ向かうために、橋を渡ることにした。

理由は簡単、橋なら海沿いに歩いて廃墟を目指すよりも
警戒する範囲が狭くて済むからである。

そして、時計が午前8時をいくらか過ぎた頃にようやく美奈は
橋を渡り終え、橋の反対側へと辿り着いた。

しかし、一息ついたのもつかの間、ここからなら廃墟が見えるのではないかと
目線を上げた美奈は、遠方にいくつかの人影を捉えた。

落ち着いた印象の青年にツインテールの少女、それとなんか浮いた布切れ。

それを確認した次の瞬間、怒号が聞こえた。

そちらに目を向けると、赤パン一丁のモヒカンの変態が雄叫びを上げて青年たちに襲い掛かる光景。
慌てて、こちらに矛先が向かわないように近くの岩の影に隠れてから様子を伺う美奈。

再び美奈が彼らに目を向けたとき、青年がいつの間にか倒れていた。
その近くには血まみれの剣を手にした和装の少女。
(ちなみにこのとき、布切れが風に飛ばされていったようだが、これはどうでもいいことだと美奈は判断した。)

そこからは一瞬の出来事だった。

和装の少女が信じられないほどの速度で動き、青年とモヒカンの男を殺害した。
その和装の少女に銃撃で応戦したツインテールの少女も、肩を深々と切りつけられて倒れた。

あの傷ではツインテールの少女はすぐに手当てをしなければ死ぬだろうし、手当てをしたとしても
最後まで生き残るのは難しい。
つまり、事実上リタイアと見ても間違いは無いだろう。

(一瞬で三人も…。)

ふと自分の手が震えているのに気づく。

(私はあんなに簡単には死なない…!)

そう思いながらも、目の前で人があっさり殺されるところを見せられて、美奈は衝撃を受けていた。
深呼吸をして、乱れた気持ちを落ち着ける。

大丈夫だ。自分は生き残れる。自分ならやれる。

そう言い聞かせて目線を上げると、奇妙な光景が目に映る。

「…?」

モヒカンの男が無傷で立っていたのだ。

なぜ彼が生きているのか?確かに和服の少女に殺されたはずでは?

美奈が混乱しているうちにモヒカンの男はツインテールの少女へと近づいていき、


ツインテールの少女を殴りつけた。

それだけに留まらず、モヒカン男は笑いながら少女の腕を折り、服を引き裂き、少女を陵辱しようとする。

それを見た美奈は悲鳴を上げそうになり、慌てて口を押さえる。

下品に笑いながら、心底楽しそうに少女を嬲る男の姿。
それを見た美奈の脳裏にある光景がフラッシュバックする。

引きちぎられる制服、嫌らしく笑う男たちの顔。
その顔が無理やり唇を奪おうと近づいてきて…。

「…っ!!」

目を見開いて涙を浮かべながら必死で悲鳴を噛み殺す。

(駄目…!今、悲鳴を上げたらアイツに気づかれる…!)

もし気づかれたら、あのツインテールの少女と同じ目に会わされるかもしれない。

イヤだ!!それだけは絶対にイヤだ!!

美奈は凄惨な光景から目を背け、岩陰に隠れて耳を塞ぐ。
それでも聞こえてくる少女の絶叫にただ震えていることしかできなかった。


しばらく時間が経ち、気が付くと少女の悲痛な声は聞こえなくなっていた。

恐る恐る岩陰からそちらに目を向けると、すでにモヒカン男はいなくなっていた。

「…もう、大丈夫よね…?」

何度も周りを見回して確認して、ようやく安全だと判断した美奈は青年と少女の死体に近づく。

青年の死体はまだ綺麗なものだったが、少女のほうはひどいものだった。
殴打の痕に、折られた腕、服が引き裂かれ、秘所は血だらけ、肩の傷は抉られて白濁がこびり付いている。

目を背けて口元を押さえる美奈。

(…やだ…もう……ここにいたくない…。)

そう思った美奈は手早く二人の荷物を改める。
青年のデイパックに入っていた拳銃と何らかの薬品だけ自分のデイパックに入替え、残りは岩陰に隠しておく。
あまり荷物が重くなるのも問題だし、必要になったら後で取りに来ればいいと考えた故の行動である。

(…これから、どうしよう…。)

廃墟に行くという選択肢は、もはや美奈の中に存在していなかった。

あの和服の少女は廃墟のほうに向かっていったのだ。
あんな危険人物が近くにいるのに、のんびりと隠れていられるほど美奈の神経は太くない。

美奈は先ほどまでは、自分は大丈夫だと、半ば自分に言い聞かせる形で繰り返してここまで歩いてきた。
だが、トラウマを思い出させられた今の美奈は、大丈夫などど欠片も思えないほどに精神的に弱ってしまった。

「…休みたい…。」

弱々しくポツリと呟く美奈。
二時間くらい歩き続けた後に、先ほどの出来事である。
美奈は肉体的にも精神的にも疲れていた。

「…ちょっとくらいなら、ここにいても大丈夫よね…?」

この岩陰に隠れていれば、北から西までは姿を隠してくれるし、東はフィールドの端、南は先ほど渡ってきた橋だ。
危険は少ないと見て問題無いだろう。

そう考えた美奈は、ふうと息を吐いて腰を落ち着ける。
抱えた膝に顔を埋めながら、美奈は呟く。

「…パパ……お願い…私を守って…。」

いつも自分に優しくしてくれた父を思い出しながら、すっかり弱気になってしまった美奈は
しばらく震え続けていた。




【B−5:X2Y4/岩陰/1日目:午前】
【加賀 美奈{かが みな}@こどく】
[状態]:疲労小、精神疲労中
[装備]:安全ヘルメット@現実世界
先の尖ってる石@バトロワ(ポケットの中にしまっている。)
[道具]:デイパック、支給品一式
木彫りのクマ@現実世界(一般的なサイズの物)
AM500@怪盗少女(残弾1発、安全装置未解除)
※美奈は残弾数について確認していません。
奈々の拳銃(?/8)@BlankBlood
エリクシル@SilentDesire
[基本]:絶対死にたくない、元の世界へ帰る
[思考・状況]
1.生き残る方法を考える
2.他の参加者に会わないよう警戒する

※なぞちゃん、モヒカンを危険人物と認識しました。
※岩陰に冥夜となよりのデイパック(二つとも中身は基本支給品のみ)を隠しました。
※リョナレスの望遠鏡@怪盗少女はそのままです。
※モヒカンは北か西の方面に向かいました。




[42]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/04/19(Sun) 22:14 No.249  
時間不足で内容を吟味して投稿していないので
美奈の性格とか少し変かもしれないけど、勘弁して
くださると嬉しいです。(´・ω・`)

時間って貴重なんだと最近しみじみ思いますね…。

ともあれ、皆さん!
クオリティなんて気にせず、じゃんじゃん投稿してくれぃ!(`・ω・´)
一番大事なのは完結させることですぜ!
[43]投稿者:「二人の戦士、蒼い拳士x紅蓮の将軍に出会うこと」その1 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/04/25(Sat) 01:26 No.253   HomePage
(まったく、何処でボサッと突っ立ってるのやら・・・。)

森へと向かう道中、エルフィーネは思案に暮れていた。
自分と同様、この事態に巻き込まれた知り合い、鬼龍院美咲の行方についてだ。
通常、こういった場合、普段の行動から’アタリ’をつけていく物だろう。
しかし、こと彼女に限っては、それは不可能である。
何故ならば彼女の普段の行動が、’テキトーな所でずっと腕を組んで突っ立っている’だからだ。
この、実に単純明快すぎる行動ゆえに、こういった状況では’アタリ’が付けにくい。

(ホント、世話の焼けるコね・・・。)

エルフィーネは小さく溜め息をつく。
地図はあの蔓どもに襲われる前に、簡単に確認していた。
詳細は不明であるが、どうやら此処は結構な広さがあるようだ。
そんな広い場所で、能動的に行動しようとしない人物を捜す。
その、床に落としたコンタクトレンズを探しているような感覚に、エルフィーネは愕然とする。

「・・・エル? 聞いてる?」
「・・・・・・えっ?」

エルフィーネは見上げるように首を横へ向ける。
そこには赤い髪の女性、アーシャの姿があった。
エルフィーネの反応に、アーシャは彼女が何も聞いていなかったのを悟った。
少しの間をおいて、再びアーシャが口を開く。

「もうじき、私が目覚めた辺りだけど・・・、エルはこれからどうするの?」
「んっとぉ、エルは、えぇっとねぇ・・・。」

美咲を捜しだす。
エルフィーネの心中は、既にそう決まっていた。
非常に面倒で困難な道であるが、エルフィーネにとって彼女はかけがえのない姉貴分であり、妹分である。
しかし、エルフィーネは口にするのを躊躇った。
運良くロザリオが手に入ったとはいえ、連続して戦える時間は限られている。
安定した防衛力として、エルフィーネは彼女に是非とも同道を願いたい。
彼女の今までの言動からして、頼めば確実に受け入れてくれるだろう。

(でも、彼女にも大切な人の一人や二人、居るはずだもの・・・。)

彼女は他ならぬ、命の恩人である。
そして当然、彼女も彼女にとってかけがえのない人物が巻き込まれている可能性がある。
もしそうだったのならば、彼女に同道を願うワケにはいかない。
自分がそうであるように、彼女もその人物を捜したいはずだからだ。
勿論、彼女の捜したい人物を探す道中に美咲と出会える可能性はある。
しかし戦闘力の安定しない自分は、戦闘力の安定している彼女にとっては負担でしかない。
この状況では、自己の負担になるような物は極力排除するのが定石のはずだ。

(恩を仇で返すような真似はしない。それが、私なんかを傍に置いてくれる、五代目に対しての私なりの感謝の表し方・・・。)

エルフィーネは退魔師である。
退魔師はその特異性から、人々から疎まれていた。
エルフィーネもその例に漏れず、ずっと独りぼっちだった。
だからこそ、エルフィーネにとって初めてできた仲間である美咲の存在は大きい。
エルフィーネは、どんな手段を用いてでも彼女を探し出したかった。
しかし美咲は、恩義を重んじる人物だ。
彼女にとって、命の恩人に迷惑をかけることは禁忌と言っても過言ではない。
美咲が是としないことは、できればしたくない。
エルフィーネは彼女と出会ってからいつしか、そう思うようになっていた。
[44]投稿者:「二人の戦士、蒼い拳士x紅蓮の将軍に出会うこと」その2 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/04/25(Sat) 01:27 No.254   HomePage
「・・・アーシャお姉ちゃんは、どうするの?」

エルフィーネは質問に質問で返してしまった。
恩義と欲望の狭間で揺れ動いた結果である。
質問を質問で返されることは、気分がいいとはいえない。
彼女もきっと気を悪くしただろう。
そう思ったエルフィーネは、柄にもなくアーシャの顔を見るのが怖くなって俯いてしまった。

「えーっと、・・・実はまだ決めてないんだ。」
「・・・えっ?」

アーシャの回答に、エルフィーネは再び顔を上げて彼女を見る。
彼女はばつの悪そうな笑顔を浮かべて、言葉を続ける。

「荷物の確認も殆どしてないんだよね・・・。だから、エルがこれからどうするか決まってたら、悪いかなって思って・・・」
「じゃっ! じゃあ、今すぐ荷物確認しちゃおうよっ!」
「えっ? でも、エルは・・・」
「あっ! あたしも実はまだ確認してないんだっ! ほらっ! あたしは目覚めてすぐにあの蔓に襲われてたから・・・。兎に角しよっ!」

エルフィーネは嘘をついた。
本当は蔓に襲われるまでに、既に荷物の確認を終えていた。
そして、これからの行動計画を練ろうとした矢先に蔓に襲われたのだ。
しかし、此処は嘘をつき、アーシャに荷物確認を促す。
そうすれば、彼女に同道を願い出ても問題がないかどうかが分かるからだ。
エルフィーネは半ば強引にアーシャの手を引くと、手近な切り株に隣り合わせに座らせる。
そして、態と豪快にデイパックの中身を広げはしゃいで見せた。
アーシャはエルフィーネの行動に呆気に取られていたが、やがて彼女に合わせてデイパックの中身を1つずつ取り出す。

「・・・デッキブラシに、ヨーグルトみたいな匂いのする物の入ったビンが3つかぁ。」
「エルのは、さっきお姉ちゃんにあげた小太刀と、趣味の悪いパンツが2枚だけみたい・・・。」

二人は同時に溜め息をついた。
確かに武器となる物はお互いに1つずつ入っていた。
しかし、それ以外の道具はあまり使い道のなさそうな物ばかりだった。
現実はそう甘くはないとはいえ、この状況に二人はやるせなさを感じずには居られなかった。
二人は気を取り直して、知り合いが居ないか参加者名簿を確認することにした。

「・・・そんなっ! エリーにクリス、ルー君まで!?」
「・・・っ!!」

アーシャの驚愕の声に、エルフィーネは小さく身体を撥ねさせる。
エルフィーネにとって、嬉しくない状況になったことは彼女の反応から明らかだ。

(・・・仕方ないわね。私一人で、探そう。)

こうなってしまった以上、恩人に迷惑をかけるワケにはいかない。
エルフィーネはアーシャと別れる決心をした。

「・・・・・・別れましょうか。」
「えっ!? どうして!?」
「大切な人が、巻き込まれていたのでしょう?」
「えっ、ええ、まぁ・・・。」
「・・・私も、大切な人が巻き込まれているの。」
「それなら、一緒に捜しましょうよ。何も別れなくてもいいじゃないですか。」
「よくないわ。私は貴女と違って戦闘力にムラがあるもの。貴女にとっては、枷にしかならないわ・・・。」
「枷だなんて・・・そんなこと私は気にしてなんか・・・・・・」
「・・・彼女は、命の恩人に迷惑をかけるような人を歓迎しないのよ・・・。」

それっきり、二人は押し黙ってしまった。
二人の間をゆっくりと時が流れる。
少しばかりの時が流れた頃、エルフィーネは大きく深呼吸をする。
そして、切り株から勢いよく立ち上がり、少しだけ前に進み立ち止まった。

「じゃあ、アーシャ。生きていたら何処かで・・・」
「・・・待ってください。エルフィーネさん。」

アーシャは立ち上がり、エルフィーネを呼び止める。
エルフィーネはその場で立ち止まる。

「ついて行きます。」
「・・・何を言ってるの。貴女は、貴女の大切な・・・」
「約束、しましたよね。『貴女を守る』って。」
「えっ?」

エルフィーネはアーシャの言葉に振り返る。
確かにあの時、アーシャに自分を守って欲しいと頼んだ。
しかし、それが今この場に何の関係があるというのだろうか。
エルフィーネにはすぐには理解することができなかった。

「確かに、巻き込まれた私の知り合いは皆、大切な人達です。」
「それなら・・・」
「・・・私の知り合いは、約束を反故にするような人を歓迎しませんよ。」

アーシャはそう言って笑顔を見せた。
その屈託のない笑顔に、エルフィーネは自分の仕出かしたことを悟り思わず背を向ける。

「・・・・・・本当にいいの? 一緒に、来てくれるの?」
「はい、一緒に捜しましょう。エルフィーネさん。」

アーシャはこうして強引に別れようとすれば必ずついてくる。
エルフィーネはそう確信していた。
だからこそ、彼女に迷惑をかけないよう、何とか話し合いで別れようと考えていた。
しかし、気付けば強引に別れようとして、彼女に同道を強いてしまっていた。
エルフィーネは無意識の内に彼女を利用する方法を考え、実行してしまったのである。
このようなことは、美咲と出会うまでは当たり前のように行っていた。
それ故に、エルフィーネの身体には相手を利用する癖が深々と刻まれてしまっている。

「・・・ごめんね。」
(ごめん、五代目。この癖、中々抜けてくれないわ・・・。)
「謝らないでもいいですよ。私が決めたことですし。」

徐に、エルフィーネはアーシャに駆け寄り、そのまま飛びついた。
突然の出来事にアーシャは体勢を崩しそうになるが、踏み止まり彼女を受け止めた。

「わぁ〜い! お姉ちゃん、だ〜いすきっ♪」
「ちょっ、ちょっと、エル。急にどうしたの?」

エルフィーネは彼女の胸元に、顔を埋めるように押し付ける。
アーシャは少しだけ戸惑ったが、すぐに優しく彼女を抱きしめた。

「・・・・・・ありがとう。ホントに、嬉しいわ。」
「・・・エル。」

顔を埋めたまま、エルフィーネは呟くように感謝の言葉を述べた。
そして、アーシャに頼み地に下ろしてもらうと、早速その場に座り込んで地図を広げ始めた。
アーシャはエルフィーネの傍らに座ると地図を覗き込む。

「・・・とりあえず、手近な施設から順番にあたってみたいのだけど、他に何か案ある?」

流石の美咲でも、明らかに危険な場所で突っ立ってはいまい。
とりあえずは、手近な施設なり落ち着けそうな場所なりを探して移動するだろう。
そう考えたエルフィーネは、まずは地図に記載されている施設を片っ端からあたることにした。

「そうですね。・・・特にないですよ。」

アーシャは目に飛び込んできた『国立魔法研究所』という文字に気を取られた。
恐らく知り合いは皆、この施設を目指すに違いない。
そう考えた途端、アーシャは急行したい衝動に駆られた。
慌ててアーシャは、つい先ほど自分で言った言葉を思い出す。
アーシャは、降って沸いた衝動を押さえ込むことに成功した。
一方のエルフィーネは彼女の回答までの間から、その一部始終を僅かであるが感じ取っていた。
心の中でアーシャに謝罪の言葉を一言述べ、エルフィーネは続きを話す。

「・・・そう。じゃあ、まずはこの『リザードマンの村』から立ち寄ってみましょうか。」
「リザードマンって多分、あのトカゲみたいな魔物のことですよね。」
「多分、そうね。あの蔓の件もあるし、近くまで行った所で一度、危険がないか確かめる必要がありそうね。」
「そうですね。・・・じゃあ、早速向かいましょうか。」

アーシャが立ち上がるよりも早く、エルフィーネは立ち上がる。
そして、未だ中腰状態の彼女の手を引いて走り出した。

「ぅわっと?!」
「ささっ、早く行こっ! アーシャお姉ちゃん♪」
「・・・分かった、分かったから。急に引っ張ったりしないで、エル。」
「ふぁ〜い・・・。じゃっ! 早くいこっ♪」
「・・・たはは・・・。」
(本当に、変わり身の早い女性{ひと}だなぁ・・・。)

エルフィーネに手を引かれながら、アーシャは唖然としていた。
今まで、彼女ほど変わり身の早い人物に会ったことはない。
どう接すればよいのか分からず、アーシャはただ苦笑するしかなかった。

〜〜〜〜
[45]投稿者:「二人の戦士、蒼い拳士x紅蓮の将軍に出会うこと」その3 14スレ目の74◆DGrecv3w 投稿日:2009/04/25(Sat) 01:28 No.255   HomePage
あれから、少しばかりの時が過ぎた。
エルフィーネが一歩前を歩く形で、二人はリザードマンの村を目指していた。
二人はあの蔓が襲ってきた場所を、周辺の光景や地名から『悪夢の草むら』と仮定していた。
それ故に、今は森の中をコンパスを頼りに南西へと進んでいた。

「・・・ねぇ、お姉ちゃん。」
「・・・やっぱり、気のせいじゃないんだね?」
「うん・・・。なんか、さっきからずっと凄くヘンな視線を感じる。」

エルフィーネは立ち止まり、上を見る。
アーシャもそれに倣って上を見た。
二人の視界に、緑色の葉を纏った枝が複雑に絡み合い、空を覆い隠している光景が映った。
見上げながら、アーシャはエルフィーネの傍に歩み寄る。
そして、少しだけ腰を落として小太刀の柄に手をかけた。
エルフィーネも首に提げたロザリオを右手に軽く握る。

「・・・・・・伏せて!」

アーシャの叫び声でエルフィーネはその場に伏せる。
アーシャはそれに覆い被さる様に伏せた。
その直後、二人の頭上を黒い影が1つ、掠めていった。
アーシャは素早く立ち上がる。
そして抜刀体勢をとりつつ、振り返って影の正体を確かめた。

「・・・はぁっ?」

影の正体、それは愛らしい栗色の小動物、モモンガだった。
アーシャはその意外過ぎる正体に、手に持っていた小太刀を落としそうになる。
そして、必要以上に気を張り過ぎていたと苦笑する。
モモンガはその小さく丸い目でアーシャをじっと見つめていた。

「もぉ〜、脅かさないでよぉ・・・。」

アーシャは小太刀を左手に持ち、ゆっくりとモモンガへ近づく。
モモンガは身体を小さく撥ねさせ、身を固めながらアーシャを見つめた。
アーシャはその様子に苦笑する。

「何も、そんなに怖がらなくても・・・。ほらっ、全然、怖くないよっ?」

アーシャは笑顔でゆっくりと、無防備にモモンガへ近づく。
エルフィーネはその光景に何故か不吉な予感を感じていた。
先のヘンな視線は、間違いなくあのモモンガの物だろう。
しかしモモンガといえば、主に木の実を食べる雑食性の小動物である。
あの視線は、どちらかと言えば獲物を狙う肉食性の動物の物に近かった。

(あの視線の主は、ホントにアレだったのかしら・・・?)

もし、本当だとすれば、アレは自分や彼女の知るモモンガとは似て非なる動物ということになる。
そんな正体不明の動物に対して、今の彼女はあまりにも無防備に距離を詰めている。
エルフィーネは妙な胸騒ぎを感じていた。
その理由は、すぐに分かった。
アーシャが手を伸ばせば届くくらいまで近づいた瞬間、件の動物の目の色が変わったのだ。
それは間違いなく、獲物を狙う肉食獣の目であった。
エルフィーネは全身に悪寒が走るのを感じ、走り寄りながら叫んだ。

「離れなさいっ!! アーシャ!!」
「・・・えっ? ――わっぷっ!?」

エルフィーネが叫ぶのと、モモンガが飛び掛るのはほぼ同時だった。
モモンガはアーシャの顔面に覆い被さるようにしがみつく。
アーシャは予想外の衝撃に尻餅をつく。
アーシャは非力な小動物だと思って、顔面にしがみついたモモンガを軽く引き剥がそうとする。

「んぶっ!? んんーっ!!」
(えっ!? うそっ!! どうしてっ!?)

しかし、予想以上にモモンガの力は強く、中々剥がれなかった。
アーシャは段々と息苦しくなっていくのを感じていた。
そして、気が付けば彼女は持てる限りの力で、モモンガを引き剥がそうとしていた。

「んふっ・・・んふーっ!」
(ま、まずい! このままじゃ・・・息が、できない・・・!!)

身体の細胞が新鮮な空気を求めて、暴れ出すのを感じる。
このままでは窒息してしまうだろう。

(くっ! ・・・仕方ない。ごめんね、モモンガさんっ!!)

アーシャは威力を最小限まで絞ったファイアボールをモモンガに掠める。
毛先が焦げる感覚に度肝を抜かれたのか、モモンガはアーシャの顔面から飛び退く。
そして、そのまま近場の枝に張り付いた。
アーシャは肩で大きく息をしながら、モモンガを視界に捉える。
エルフィーネはそのアーシャの前に割って入り、ロザリオを強く握りしめた。

「・・・待って!」
「・・・甘いわよ。」

アーシャの制止の声に、エルフィーネは振り返らず応える。
アーシャはエルフィーネの後ろから肩に手を置いた。

「アレは本気で私達を狙っているわ。このままじゃ、殺されるわよ。」
「分かってます! でも、あの男に操られているだけという可能性だって・・・」
「・・・好きにしなさい。」

エルフィーネは態と大きな溜め息をして、ロザリオから手を離した。
アーシャはその様子に苦笑して、それからすぐに真剣な表情でモモンガを見据える。
モモンガは隙あらば飛び掛るつもりなのか、じっと此方を見つめていた。
アーシャはエルフィーネに下がるよう手で促す。
エルフィーネはすぐさま、アーシャの後ろに回りこんだ。
アーシャは一度深呼吸してから徐に右の掌を翳す。

「・・・フレイムバースト!!」

翳された掌の前に炎の球体が形成され、渦を巻きながら大きくなっていく。
程よい大きさになった所でアーシャは掌を眼下の地面に向け、意識を解放した。
炎の球体は掌の向いた先へ真っ直ぐ飛び、程なくして着弾する。
凄まじい爆音と供に地面を抉った。
巻き上げられた大量の土が煙となり、強風に乗ってモモンガに牙を剥く。
視界を遮られたモモンガは、その場から動くことができなくなった。

「逃げるよ! エル!」
「分かったわ! って、ちょっと何!? わっ!!」

アーシャは振り返りながら、エルフィーネに小太刀を投げ渡す。
エルフィーネは小太刀を慌てて受け取る。
アーシャはエルフィーネを素早く抱き抱えて走り出した。

〜〜〜〜
[46]投稿者:「二人の戦士、蒼い拳士x紅蓮の将軍に出会うこと」その4 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/04/25(Sat) 01:30 No.256   HomePage
「・・・おい。本当に、大丈夫か?」

ロシナンテは立ち止まり、振り向く。
その視線の先には、今にも倒れそうな足取りの人間、川澄シノブの姿があった。
シノブはあの後、半ば強引にロシナンテの手を払いのけ、自らの足で歩んでいた。
シノブはロシナンテの視線に気付くと、笑顔を見せて応える。

「ダイジョブ・・・だって。・・・これぐらい、気合と・・・根性で・・・なんとか・・・わっ!?」

足元にあった小さな窪みにつまづき、シノブは体勢を崩す。
ロシナンテは慌てて駆け寄ると、シノブを支えた。

「ちっとも大丈夫じゃないだろう! シノブ、無理をするな!」
「へへっ・・・心配してくれるのか、ありがとな。」
「バッ、バカを言うな! お前に私の死に場所を決めてもらう前に死なれては困るだけだ!」

ロシナンテは再び歩き出そうとしたシノブを強引に座らせる。
そして、ロシナンテはその傍らに座ってデイパックに手を突っ込んだ。

「とりあえず、コレでも飲んでおけ。水を取り出した時に見つけたヤツだ。多分、毒ではないだろう。」

そう言ってロシナンテはデイパックから瓶を1つ取り出し、シノブに手渡した。
シノブは渡された瓶のラベルを確認する。
所々掠れて印刷が薄くなっているラベルには『滋養強壮に、SMドリンク』と書いてあった。
勿論、この状況下に限っては、その謳い文句通りの中身である保障はない。
しかし、ここはロシナンテの直感を信じることにした。
シノブは早速瓶の蓋を開け、半分ほど中身を口の中へ流し込んだ。

「・・・・・・コ、コレはっ!?」
「どっ!? どうした!! シノブ!! まさかっ・・・!!」
「うっ・・・うめぇーーっ!!」

シノブにとって、この手のドリンク剤はあまり美味しくない物だという前提があった。
しかし、このドリンク剤はそんな前提をあっさりと覆してしまった。
シノブはこの感動をロシナンテに伝えるべく、彼女に一口飲んでみるよう勧める。
ロシナンテは渋々、一口飲んでみることにした。

「・・・うげぇ!! シ、シノブ!? ホントにお前、コレを・・・!!?!」

ロシナンテは言葉を失った。
今まで口にしたことがないような不味い飲み物を、彼女は本当に美味しそうに飲んでいたからだ。
その様子に暫く唖然としていたロシナンテは、大きく溜め息をついて我に返る。

「・・・・・・まったく、お前は本当に面白い人間だな。」
「んっ?なんか言った?」
「・・・いや。それより、どうだ?」
「おうよっ♪ なんか、心なしか身体が軽くなった気がするよ♪ ありがとな、ロシナンテ♪」
「・・・・・・それは、なによりだ。」

シノブは飲み干した空き瓶の蓋を閉めて、デイパックへと放り込む。
それから勢いをつけて立ち上がると、笑顔で拳や蹴りを空に放ってみせた。
ロシナンテは再び溜め息をつくと、ゆっくり立ち上がる。

「っ!?」
「(っ!?)」

その矢先、遠くの方で爆発音が1つ鳴る。
二人はその方角に顔を向けた。

「(リト!! 何か分からないかっ!?)」
「(僅かですが、爆発音のした方角に人の気配が2つ感じられます。詳細は、もう少し近づかないと分かりません。)」
「・・・ロシナンテ!」
「・・・行ってみるのだな! いいだろう! 危険分子かどうか見極める必要もあるしな!」

二人は同時に頷くと、デイパックを背負い音のした方角へ走り出した。

〜〜〜〜
[47]投稿者:「二人の戦士、蒼い拳士x紅蓮の将軍に出会うこと」その5 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/04/25(Sat) 01:31 No.257   HomePage
「・・・!!」

アーシャはその場で突然立ち止まる。
そして、真剣な眼差しで前方を見つめた。
胸元に抱きかかえられていたエルフィーネも、その方角をじっと見つめていた。

「・・・さっきのアレで、引き寄せてしまったみたいね。」
「そうですね・・・。」

アーシャはその場にエルフィーネを下ろすと、渡していた小太刀を受け取る。
そして、エルフィーネの一歩前に出て、柄の握り具合を確認する。
障害物が多く、まだ距離もあるせいか詳しくは分からないが、二人は前方に人の気配を感じていた。
その気配は少しずつ存在感を増してきている。
つまり、此方へと近づいてきているのだ。

「・・・どうします?」
「そうね・・・。隠れても九分九厘無駄だろうし、此処は、相手の出方を見ましょう。」

真っ直ぐ近づいてきている所から見て、相手は此方の存在に気付いているに違いない。
アーシャは小さく頷くと、抜刀体勢を整えながら前方に意識を集中させた。

「・・・待って、アーシャ。」
「・・・えっ?」

エルフィーネは突然、アーシャの前に出て制止を促す。
そして、耳を澄ませて前方の音を拾い集めた。
風に揺られ擦れ合う葉の音に混ざり、微かだが気配の主の物と思われる息遣いがする。
残念ながら、その声質は捜している人物の物ではない。
しかし、過去に一度何処かで聞いたことのある物だった。
エルフィーネは記憶の海に潜り、何処で聞いたのかを調べる。

(・・・・・・思い出したわ! 美咲の部屋を漁った時に観た、記録ディスクに映ってた人の物だわ!)

エルフィーネは一枚の記録ディスクの存在を思い出す。
何時だったかは忘れたが、美咲弄りネタを確保するため、美咲が留守の隙に忍び込んだ時に見つけた物だった。
エルフィーネは年頃の娘が内緒で観たくなるような、恥ずかしい映像が記録されている物だと思って再生した。
しかし、そこには期待していた映像は映っておらず、美咲と親しそうに話す蒼い髪の少女の姿が映ってるだけだった。
背景が如何にも彼女の組織が好みそうな、宴の最中のであったことから、彼女と同じ境遇の少女なのだろう。
二人は撮られていることに気付くと、所謂カメラ目線で仲良くVサインをして、そこで映像は途切れていた。

(確か美咲は『遠くの町に住んでる親友だ。』って、言ってたわね。名前はえっと・・・川澄、シノブだったかしら。)

もう一つ、別の全く知らない息遣いも感じられたが、少なくとも彼女は信用できる人物である。
その彼女と行動を供にしているのだ、問答無用で襲い掛かってくることはないだろう。

「・・・私の、知り合いかもしれないわ。」
「えっ、それじゃあ・・・」
「残念だけど、捜している人じゃないわ。・・・正確に言えば、私の大切な人の親友よ。」
「そう、ですか・・・。」

それから、エルフィーネは大きく息を吸う。

「美咲っちぃぃーーっっ!! 何処に居るのぉぉーーっ!!」
「エッ、エルフィーネさん!?」
「いいから、任せて。・・・美咲っちってばぁーーっ!!」

突然大声で人の名前を叫び始めたエルフィーネに、アーシャはただ困惑するしかなかった。

〜〜〜〜

「(――シノブさん。)」
「(・・・今、『ミサっち』って声がしたな。ミサっちって・・・あの、ミサっちのことかな?)」

シノブは立ち止まり、久しく会っていない親友の姿を思い描く。
勿論、彼女のことではないかもしれない。
寧ろ、その可能性の方が圧倒的に高いはずである。
それでもシノブは、彼女のことだと思った。
シノブにとって、『ミサっち』と言えば彼女しか居なかったからだった。

「(・・・此方を警戒していますが、殺意や悪意は感じられません。少なくとも罠ではないでしょう。)」
「(・・・そうか。)」
「・・・おい、どうしたシノブ? 急に立ち止まって・・・。やはり、無理をしてるんじゃ・・・。」

ロシナンテは、シノブが立ち止まったことを不審に思い駆け寄った。
シノブは彼女の問いに笑顔で応えると、再び走り出した。
ロシナンテは、彼女の行動に困惑しながらも後を追った。

〜〜〜〜
[48]投稿者:「二人の戦士、蒼い拳士x紅蓮の将軍に出会うこと」その6 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/04/25(Sat) 01:32 No.258   HomePage
「・・・居たっ!」

それから程なくしてロシナンテは、前方に二人の人間の姿を見つけた。
金髪の少女は、声を大にして誰かの名を叫んでいて、赤い髪の女性はじっと此方を見たまま動こうとしない。
彼女の行動を止めようとしない所から察して、これはあの二人の作戦なのだろう。
ロシナンテはそう確信した。

「どんな策があるのかは知らんが、やられる前に・・・」
「待ってくれ! ロシナンテ! アタシは、あの二人と話し合ってみたい!」
「お前っ! 何を言って! ・・・相変わらず、甘いヤツだな。」

シノブの有無を言わせない力強い視線に、ロシナンテは態とらしい溜め息をつく。
そして、速度を落とし彼女の一歩後ろへついた。

「いいだろう! 但し、少しでも危うくなったらその時は・・・」
「分かってるよ。・・・すまないな。」

シノブは一度大きく息を吸うと、前方の二人に対して声を掛けた。

「おーい! あんた達ぃー!」

金髪の少女、エルフィーネはシノブの呼びかけに気付くと、叫ぶのを止める。

「・・・行くわよ。」
「・・・了解です。少なくとも、敵意はなさそうですし。」

アーシャはエルフィーネの言葉に従い小さく頷く。
エルフィーネは再び大きく息を吸うと、蒼い髪の少女、シノブの呼びかけに答えた。

「なぁーにぃー! お姉ちゃぁーん!!」

シノブはエルフィーネの回答に話し合いに応じる気配を感じ、笑顔で手を振る。
4人の距離が詰まり、お互いに全身が確認できるぐらいになった頃、ロシナンテの戦士としての勘が戦慄いた。
前方に居る赤い髪の女性、アーシャに自分と同じ炎使いの臭いを感じたからだった。

(ア、アイツ・・・かなり強そうだ! 打ち滅ぼせばさぞ、甘美なる糧になるだろうな・・・!!)

ロシナンテは今すぐにでも、彼女に戦いを挑みたくて仕方なかった。
しかし、シノブとの約束がある手前、先に手を出すワケにもいかない。
ロシナンテは戦いたくて疼く身体を、何とか抑え込みシノブの後ろに控える。
シノブはエルフィーネとアーシャの前で立ち止まると、膝に手を突いて荒々しく呼吸を整える。

「なっ、なぁ・・・あんた。『ミサっち』って・・・えっと・・・」
「(・・・鬼龍院美咲ですよ。親友なのですから、フルネームぐらい覚えていましょうよ・・・。)」
「(う、うっさいなぁ!ちょっと、思い出すのに手間取っただけだって!)」
「・・・美咲。鬼龍院、美咲のこと?」
「・・・えっ!? どっ、どうして、知ってるの!? お姉ちゃん!!」
(って、質問が直球すぎね・・・。流石、美咲の親友だわ・・・。)

エルフィーネはシノブの直接的質問に唖然としていた。
普通こういう場合、まずは自分の知り合いのことを指しているのかどうか確かめるだろう。
ごく一部の身内しか知らないような呼び名ならまだしも、『みさっち』なんて呼び名は世の中に溢れている。
それなのに彼女は初めから鬼龍院美咲のことだと決めて掛かっていた。
もし違っていた場合のことを考えない姿勢は、流石は美咲の親友といった所である。
エルフィーネは一人納得しながら、シノブの言葉を待った。

「そっか! ・・・安心してくれ! アタシ、川澄シノブ! 鬼龍院美咲の親友さっ♪」
「えっ!? そ、そうなの! ・・・それなら、安心ねっ♪ あたし、エル! 鬼龍院エル!」
(って、普通は安心できないわよ。・・・まぁ、いいけどね。)
「えっ、鬼龍院・・・。ってことはミサっちの、いも・・・」
「美咲はあたしのママだよっ!」
「へぇ〜・・・そうなのか。ミサっちの子供・・・・・・・・・なにぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいぃぃいぃぃぃっっ!!」
「ええぇぇーーっ!?」

シノブは驚愕の叫び声をあげた。
同時に、アーシャも驚愕の声をあげた。
アーシャはエルフィーネを後ろから小突いて小声で問いかける。

「エ、エル! 貴女の大切な人って母親な・・・」
「冗談よ♪ 私の正体は貴女も知っての通り。」
「じょ、冗談って・・・」
「それとも貴女は、年端もいかないような少女を親友に持つ、私を産めるような年齢の女性{ひと}がいると思うの?」
「そ、それは・・・そうですけど・・・」
「それに、この姿の時は、そういうことにしておいた方が色々と都合がいいのよ。」
「・・・そうなん、ですか。」
(・・・って、いったいどう、都合がいいんだろう?)

アーシャは何処か腑に落ちない物を感じながらも、彼女の言い分を受け入れることにした。
一方、衝撃が大きすぎたシノブは、あんぐりと口を開けたまま立ち尽くしていた。
エルフィーネは大きく溜め息をついて、呆然としているシノブに声をかける。

「ねぇねぇ、シノブお姉ちゃん。」
「・・・・・・えっ? な、なに?」
「お姉ちゃんの後ろで、さっきからなんかこわぁ〜い目をしてる人だぁれ?」
「んっ? あ、ああ。えっと・・・ロシナンテ。アタシの仲間・・・だ・・・!?」

シノブはロシナンテの方を振り返り驚愕する。
彼女の目が自分と初めて出会った時の目と同じ物だったからだ。
シノブは慌ててロシナンテの視線を追う。
その視線の先に居たのは、赤い髪の女性であった。

(ヤ、ヤバイ。確かに強そうだ。アイツが目を付けるだけのことはある・・・。)

シノブは簡素な鎧に身を包み、小太刀を携えた彼女を見る。
彼女は表情こそ穏やかなれど隙がなく、ロシナンテが好みそうな毛色の気配を僅かに発していた。
このままでは、ロシナンテが問答無用で戦いを仕掛けるのも時間の問題だ。
何とか丸く収めなくては。
シノブがそう思った刹那、ロシナンテが叫ぶ。

「お、お前っ!」
「へっ!? わ、私っ!?」

ロシナンテはアーシャを指差す。
アーシャは突然の指名に困惑しながらも、彼女を真っ直ぐ見据えた。

「そうだ! お前だっ! ・・・お前、約束しろっ!!」
「・・・えぇっ!?」
「この騒動が終わったら、私と正々堂々戦え! いいなっ!」
「そ、そんなこと、いきなり・・・」
「シノブ!!」

ロシナンテはアーシャの回答を待たず、シノブを呼ぶ。
この事態の収拾をつける方法を考えることに夢中だったシノブは、突然呼ばれ身体を小さく撥ねさせた。

「お前との約束は、魔族の誇りに賭け必ず守る! ・・・だが、その前に! アイツと戦わせてくれっ! 頼む!」
「・・・分かったよ。好きにしてくれ。」
「・・・感謝するぞ。シノブ。」

ロシナンテは深く頭を下げた。
一方的に挑戦状を突きつけられたアーシャは、凄く厄介なことに巻き込まれてしまったと苦笑いをするしかなかった。

〜〜〜〜

それから4人は改めて自己紹介をして、情報交換をすることにした。

「そうか・・・。ミサっちや、アーシャさんの知り合いも巻き込まれてるのか・・・。」
「うん。それで、あたし達は美咲ママや、アーシャお姉ちゃんの知り合いを探して近い順に施設を巡ろうとしてたの。」
「アタシ達はリザードマンの村とかいう場所で出会ったけど、あの場に居たのはアタシらだけだったよな。」
「うむ。もう一人居た人間は、あの後何処かへ逃げ去ったしな。村を出た時にも、周囲に人間の気配はなかったぞ。」
「そうなんだ・・・。私達はこれからその村に向かおうと思ってたんだけど、それなら後回しでもいいかもね。」

アーシャの言葉にエルフィーネは頷く。
勿論、二人が村を出てくる時に入れ違っている可能性は否定できない。
しかし、此処は二人の顔を立てることにした。

「それで、シノブとロシナンテは、これから何処へ行こうとしているの?」
「アクアリウムに向かおうって思ってるんだ。そこで、アタシの先輩と姉貴分と落ち合うんだよ。」
「へぇ〜・・・。そうだ! アーシャお姉ちゃん! 折角だし、あたし達も一緒にアクアリウムに行こうよ!」
「ん、そうだね。大勢で行動した方が安心だしね。二人さえよければ、一緒に行こうか。」

エルフィーネの提案に、アーシャは賛成する。
そして、アーシャはシノブとロシナンテに目配せをした。
二人は一度顔を見合わせてから、大きく頷く。

「よぉ〜し! じゃあ、早速行こっ!」

エルフィーネの掛け声に、シノブは大きく手を突き上げて応える。
そして、走り出したエルフィーネの後について走り出した。
その後ろをロシナンテが慌てて追いかける。

(気が付いてみれば、一気に賑やかになったなぁ・・・。)

アーシャは個性の強い3人の後ろ姿に、頬を軽く掻いて苦笑した。
それからアーシャは、3人の後を追いかける。
――此処に今、個性豊かな戦士達が集った。
[49]投稿者:「二人の戦士、蒼い拳士x紅蓮の将軍に出会うこと」その7 14スレ目の74◇DGrecv3w 投稿日:2009/04/25(Sat) 01:33 No.259   HomePage
【D−2:X2Y4/森/1日目:午前】

【アーシャ・リュコリス@SILENT DESIRE】
[状態]:所々に軽い擦り傷の痕、健康、残魔力十分
[装備]:なぞちゃんの小太刀@アストラガロマンシー
[道具]:デイパック、支給品一式
デッキブラシ@La fine di abisso
ヨーグルトx3@生贄の腕輪
[基本]:対主催、できれば穏便に済ませたい
[思考・状況]
1.ロシナンテ、エルフィーネ、川澄シノブとアクアリウムに向かう
2.ルーファス・モントール、エリーシア・モントール、クリステル・ジーメンスを探す
3.首輪を外す方法を探す
4.ロシナンテに対決を申し込まれたが受けるつもりはない

※彼女が案じていた女性の正体はミアですが、顔も名前も知りません
 但し、出会えれば気付ける可能性はあります
※銃=威力の高い大きな音のする弓矢のような物という認識をしました
※エルフィーネの要望に応え、彼女の変身については誰にも言わないことにしました

【エルフィーネ@まじはーど】
[状態]:所々に軽い擦り傷の痕、健康
[装備]:ロザリオ@まじはーど(残魔力半分程度)
[道具]:デイパック、支給品一式
モヒカンの替えパンツx2@リョナラークエスト(豹柄とクマのアップリケ付きの柄)
[基本]:対主催、鬼龍院美咲{きりゅういん みさ}を探す
[思考・状況]
1.ロシナンテ、川澄シノブ、アーシャ・リュコリスとアクアリウムに向かう
2.鬼龍院美咲を探す
3.首輪を外す方法を探す

※とりあえず初めて出会う相手にはエルと名乗ることにしています

【ロシナンテ@幻想少女】
[状態]:健康、残魔力十分
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(水を0.25L程度消費)
SMドリンクx9@怪盗少女
防犯ブザー@一日巫女(本人は未確認)
ガトリング(弾無し、安全装置未解除)@えびげん(本人は未確認)
[基本]:強者と戦い打ち滅ぼす
[思考・状況]
1.川澄シノブと行動を供にする
2.自分の死に場所を言ってくれるまで何があっても川澄シノブを死なせない
3.川澄シノブとの約束を果たす前に、アーシャ・リュコリスと戦う

※エルフィーネを鬼龍院美咲の娘だと勘違いしています

【川澄シノブ{かわすみ しのぶ}&スピリット=カーマイン@まじはーど】
[状態]:火傷の痕、肉体疲労、気力充実、魔力十分
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
SMドリンクの空き瓶@怪盗少女
あたりめ100gパックx4@現実世界(本人は未確認)
財布(中身は日本円で3万7564円)@BlankBlood(本人は未確認)
ソリッドシューター(残弾数1)@まじはーど(本人は未確認)
[基本]:対主催、”悪”は許さない、『罪を憎んで人を憎まず』精神全開中
[思考・状況]
1.ロシナンテ、エルフィーネ、アーシャ・リュコリスとアクアリウムに向かう
2.バトルロワイヤルを止めさせる方法を探す
3.なるべく大勢と脱出する
4.ロシナンテについ死に場所を決めてやるなんて言ってしまったがそんな気はない

※エルフィーネを鬼龍院美咲の娘だと勘違いしています

@後書き
エルフィーネの性格が変わってしまった気がしてなりません。(^^;
彼女が見た映像ディスクは、裂羅誠道会とオニガワ組の親睦会で数年ぶりの再会を果たした時の映像ということにしときます。
時系列的には1年前ぐらいの話ということにしときます。
ちなみに、その後勝手に部屋を漁ったことがバレたエルフィーネは、美咲にたっぷり折檻されました。(´ω`)
[50]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/05/02(Sat) 15:32 No.261  
≪誤解二連鎖  前編≫

鈴音から逃げてきたエリーシアの目に映ったのは巨大な塔だった。
悠々とそびえ立つその塔の雄大さにエリーシアは感心していたが、わき腹に鋭い痛みが走って顔を歪める。

銃で撃たれたわき腹からはいまだに血があふれ出していた。
今のところはそれほど行動に支障があるわけではないが、すぐに治療しないと出血のせいで体力が奪われてしまうだろう。

エリーシアは周りに他の参加者の気配が無いことを確認すると、治癒魔法でわき腹の傷を癒し始める。
しかし、すぐに違和感に気づく。

(傷の治りが遅い…?)

エリーシアは治癒魔法がそれほど得意なわけでは無いが、それにしても遅すぎる。
加えて、魔力の消耗が激しいことにもエリーシアは気が付く。

(あの男に何かされたようね…。魔法か呪い…それとも何らかの道具か…。)

そこで、エリーシアはハッと思い当たる。

「まさか、首輪…!?」

可能性としては充分に考えられるはずだ。
この首輪には爆破の力だけではなく、首輪を付けた者の魔法を弱める力も込められているのかもしれない。

「だとすれば、ますます厄介な代物ね…。」

首輪を指で撫でながら、エリーシアは考える。
どうすればこの首輪を外せるのかを。

だが、エリーシアは元々こういったことに対しての知識は乏しいのだ。
案の定、大した考えは出てこなかった。

「…首輪についてはクリスに任せるしかないわね。」

結局、人任せな結論しか得られなかったエリーシアは溜息を吐く。


それからしばらくの時が経ち、治癒魔法を長時間かけ続けたおかげで出血は一応止まった。
まだ痛みはあるが、この程度のことで泣き言を言っていられる状況でもない。
エリーシアは早く弟のルーファスを見つけ出さなければいけないのだ。
こんなところでいつまでも休んでいるわけにはいかない。

歩きだそうとしたエリーシアだが、ふと前方の森に人影があるのに気が付く。
暗がりでよくは見えないが、少なくともルーファスでも仲間の二人でもない。
シルエットからして、おそらく少女だろうということが分かる程度だ。

人影がこちらに向かって歩いてくるのを見て取ると、エリーシアは立ち上がり、日本刀を鞘から抜いて警戒態勢を取る。
こちらから仕掛けるつもりはないが、相手が危険人物でないとは限らない。
このくらいの警戒なら状況が状況なので、相手も理解してくれるであろう。

今度こそ実りのある出会いであってほしいと願いながら、エリーシアは相手を出迎えることにした。




奈々との出会いの後、りよなは手に持った木の枝に身を預けながら森の中を歩いていた。
その足取りはお世辞にも速いとは言えないものだった。

元々の運動能力が低い上に盲目の彼女は、この殺し合いの場では圧倒的に不利な立場である。

それはもちろんりよな自身も自覚している。
しかし、りよなは最愛の妹であるなよりを探すために、盲目でありながらも足場の悪い森をよろよろと進む。

すでにこの殺し合いが始まってから数時間が経過している。


なよりは無事だろうか。
怖い目にあっていないだろうか。
怪我などしていないだろうか。

それとも、まさか…すでに殺されていたりしないだろうか?


時が経つにつれてりよなの不安が増していく。

遅々として進まない自分の足に苛立ちが募り、歩みが雑になる。
それが余計に体力を消耗させ、りよなをさらに苛立たせるという悪循環に陥っていた。

(なより…なより、どこ…!?)

もしかしたら、近くで妹の声が聞こえるかもしれない。
どんな微かな音も聞き逃さないように耳に意識を集中させながら、りよなは歩みを進める。

りよなは気がつかなかった。
自分のすぐそばにエリーシアが立っていることに。

りよなは視覚が失われている分、他の五感は普通の人間よりもむしろ優れており、隠れている人間がいても
気配で分かることもあるのだ。

だが、それもあくまで常人に対してのものである。
エリーシアのような達人に対しては、その程度の察知能力は全く役に立たないのだ。

ここでりよなにとって幸運だったのは、エリーシアが殺し合いに乗っていない人物だったことだろう。
もし相手が殺人鬼だったのなら、目の見えない少女など簡単に殺されていたはずであり、その点については
間違いなくりよなは運が良かったのだ。


さてしかし、幸運があるのなら同時にこの場でのりよなにとっての不運とは何であろうか?


「待ちなさい、アンタ!!その子に何するつもり!!?」


答えは『コレ』である。



[51]投稿者:289◆J9f1Lk6o 投稿日:2009/05/02(Sat) 15:33 No.262  
≪誤解二連鎖  後編≫

エリーシアは、自分に近づいてくるその少女の目が見えないことにすぐに気がついた。
杖を突きながら歩き、視線が一点に留まったまま動かないのだ。
それを見れば、エリーシアほどの達人なら相手が盲目であることなど容易に理解できる。

(目の見えない人間に殺し合いをさせるなんて何を考えているのかしらね…。)

自分たちをここに連れてきて殺し合いを強要した男に対して怒りを募らせつつ、さてどうしようかとエリーシアは考える。

ルーファスを探したいエリーシアとしては、目の見えない少女の面倒など見ている余裕はない。
他人の世話を焼いているせいで自分の弟が殺されてしまったとしたら、悔やんでも悔やみきれない。

しかし、見捨てるのも寝覚めが悪い。
エリーシアとて、あのお人好しのアーシャと親友なのだ。
アーシャと同じで彼女も基本的には人が良いし、この少女をこのまま置いていくのは躊躇われる。

だが、天秤にかけられているのは自分の弟の命である。

(もう…何だって、私のところに来るのよ…。)

どうせなら、この少女も自分ではなくアーシャのような人間に見つけてもらえば良かったのだ。
そうすれば自分も安心して弟を探せるというのに…。

半ば…いや、完全に八つ当たりですでに目の前まで近づいているりよなを睨むエリーシア。


「待ちなさい、アンタ!!その子に何するつもり!!?」


そして、いきなり聞こえてきた声にエリーシアとりよなは慌てて声の方向に目を向ける。
そこには神官服に羽根の付いた帽子を被った小柄な少女がいて、怒りの形相でこちらを見ている。

身に覚えの無い怒りを受けて、エリーシアは困惑する。

なぜ、あんな顔で自分を見ているのか?
自分はあの神官服の少女に何もしてないはずなのに…。
いや、待て。この少女はたしか「その子に何をするつもり」だと言って…。

そこで、エリーシアは自分が刀を持ってりよなの前に立っていることに気が付く。

そういえば、さっきまでこの盲目の少女を八つ当たりで睨んでたような気もする。
刀を持って子供を睨んでたら、たしかに誤解もされるかもしれない。
というか、刀の血は拭ったが、服と鎧にはまだあの魔物(八蜘蛛)の返り血が…。

(…私のバカ…私のマヌケ…。)

ついさっきも誤解をされたばかりだというのに、なぜ同じ事を繰り返しているのか。

(…いえ、まだ弁解はできるはずよ。)

そう、まだ誤解は解けるはずだ。
さっきとは状況が違うし、あの神官の少女もあの様子なら殺し合いに乗ってはいないのだろう。

誠意を持って話せば、この目の前の神官の少女も分かってくれるはず…目の前?

そこでエリーシアは気づき、慌てて身体を反らす。
間一髪、神官服の少女の放った飛び蹴りはエリーシアのデイパックを掠めただけに留まった。
しかし、そのせいで肩掛けが裂けてしまい、デイパックが地面に落ちて支給品が散乱してしまった。

舌打ちをして、エリーシアに向き直る神官服の少女。
その目には、後悔の念など微塵も無い。
それどころか、今にも第二段の蹴りを放ってきそうなほどにその目は怒りの炎を宿している。

あまりと言えばあまりの所業に、さすがにエリーシアも怒りの声を上げる。

「ちょ…ちょっと!話くらい聞きなさいよ、貴女!?」

当然のエリーシアの反応にも、フンと少女は鼻で笑う。

「うるさいわよ!あんな目の見えない女の子を殺そうとしておいて、今さら言い訳が通ると思ってるの!?」

そう言って、ビシッとりよなのほうを指で指す少女。
ちなみにりよなは何が起こったのか分からない顔で(実際何も分かっていないのだが)呆然とこちらを見ている。

「だからっ!それは誤解なのっ!それについて弁解させてって言ってるんじゃないのよ!?」

エリーシアは額に青筋を立てて、人の話を聞かない生意気なチビ神官を怒鳴りつける。

「あ…あの…ルカさん…?話くらい聞いてあげてもいいんじゃ…。」

その声に振り向くと、チビ神官…ルカが飛び蹴りを放つ前に立っていた付近にもう一人の少女がいることにエリーシアはようやく気が付いた。

「甘いわよ、サクリ。実際にこの女がこの子を殺そうとしているのを見た以上…は…。」

そこでルカの言葉は止まり、目を見開いてエリーシアを…正確には地面に落ちたエリーシアのデイパックを見ている。

「ひぃっ…!?」

次いで、情けない声が聞こえた。
その方向に視線を向けると、サクリと呼ばれた少女が顔面を蒼白にして腰を抜かしている。
怪訝に思い、エリーシアは彼女たちの視線を追い…。


そして、自分のデイパックから転がり落ちた血まみれの少女の生首を見つけた。


「…え?」

エリーシアは間の抜けた声を上げる。

なぜ?
なぜ、自分のデイパックから生首が出てくるのだ?
自分は誰も殺してはいない。
いや、魔物を一匹殺しはしたが、それにしたってその生首を持ち歩くような趣味は無い。
断じて無い。

目にした光景が理解できず、エリーシアは混乱して思考が停止する。
いきなり自分のデイパックの中から生首が出てきたのだから無理も無いだろう。

「…どうやら、アンタには一欠片の情けもかけてやる必要は無いようね…!」

その言葉にエリーシアはハッと我に返る。
見ると、ルカは先ほどよりもさらに鋭い視線でエリーシアを睨みつけていた。
その瞳には生首の少女の死とそれを為した殺人者…つまりはエリーシアに対しての赫怒が満ちていた。

「分かったでしょ、サクリ。こんな殺人鬼の言うことなんて聞いたって無駄よ。」

その言葉にエリーシアは慌てる。

「ちょ…ちょっと待って!私はこんな生首なんて知らないわ!これは何かの間違いよ!」

必死で弁明するが、ルカはそれに冷たい目を向けている。
ルカを止めようとしたサクリも今では怯えた目でエリーシアを見るばかりだし、
りよなも自分が殺人鬼に襲われそうだったということは理解したのか、不安そうな面持ちを見せている。

この場にエリーシアの味方は一人もいなかった。
もっとも、彼女のデイパックから人間の生首が出てきたのだから当たり前と言えば当たり前だが…。

(さ…最悪だわ…!)

あまりにも理不尽な状況にエリーシアは頭を抱えたくなる。

なぜ、自分のデイパックから生首なんか出てくるのか?
そこからして、まるで理解できない。
もしかして、気づかないうちに誰かに罠に掛けられたのだろうか?

混乱した頭で考えるエリーシア。

彼女は気がつかなかった。
いや、彼女だけでなく早栗やルカも気づかなかった。
よくよく見れば、その生首の顔に見覚えがあるということに。

生首の正体…それは最初の部屋で見せしめとして殺された少女、鈴木さんの生首だった。

キング・リョーナは鈴木さんを殺した後、その生首を支給品の一つとして加えておいたのだ。
理由は単純である。
支給品を確認しようとして生首が出てきたら、女の子が驚いて怯えるだろうと思ったからだ。

だが、エリーシアは支給品を確認しようとデイパックを漁っていたときに、最初に日本刀、
次いで名簿を取り出していた。
そして、何気なくざっと眺めた名簿にルーファスの名前を見つけたことで、他の支給品を確認せずに
行動を開始してしまったのだ。
その結果として、今のような状況を引き起こしてしまったというわけである。

もちろん、そんなことはエリーシアにも早栗たちにも分からない。

誰一人として真相を知らぬまま、彼女たちの間には一触即発の緊迫した空気に満たされていた。






【D−4:X3Y4/螺旋の塔付近/1日目:午前】

【エリーシア@SILENTDESIREシリーズ】
[状態]:疲労中、わき腹に銃傷(処置済み)
[装備]:日本刀@BlankBlood
エリーシアの鎧(自前装備)@SILENTDESIREシリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式
鈴木さんの生首@左クリック押すな!!
不明支給品0〜1種
[基本]:ルーファスを探す。
[思考・状況]
1.危険そうな参加者は殺す
2.早栗、りよな、ルカの誤解を解きたい
3.できれば鈴音の誤解も解きたい

※八蜘蛛は死亡したと思っています。
※首輪には着けた者の魔法の力を弱める効果があると思っています。

※エリーシアのデイパック(右肩掛け損傷)と鈴木さんの生首はエリーシアの足元に転がっています。


【篭野りよな{かごの りよな}@なよりよ】
[状態]:健康
[装備]:木の枝@バトロワ(杖代わりにしている)
[道具]:デイパック、支給品一式
リザードマンの剣@ボーパルラビット
[基本]:対主催、なよりだけでも脱出させる
[思考・状況]
1.状況の把握
2.籠野なよりを探す
3.脱出方法を考える

※籠野なよりが巻き込まれていることは確認していませんが、巻き込まれていると直感しています。
※落ち着いて考えられそうな場所を探しています。


【ロカ・ルカ@ボーパルラビット】
[状態]:健康、激怒
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式
(食料4/6、水3/6、地図無し、時計無し、コンパス無し)
[基本]:生存者の救出、保護、最小限の犠牲で脱出
[思考・状況]
1.エリーシアを倒す
2.戦闘能力の無さそうな生存者を捜す
3.ルシフェルを警戒
4.天崎涼子、篭野なよりを探す

※エリーシアを危険人物と認識しました。


【邦廻早栗@デモノフォビア】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:無し
[道具]:無し
[基本]:自分の生存を最優先
[思考・状況]
1.とりあえずはルカに付いていく
2.ルカが自分を守りきれるのか少し不安

※エリーシアを危険人物と認識しました。



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