感想用スレその4

[289] 投稿者:「守るべきもの」その3 麺◆dLYA3EmE 投稿日:2010/02/16(Tue) 11:22
「ぐ・・・か、はっ・・・」

ルカが脇腹を押さえてうずくまる。
その視線の先には、こちらに銃口を向ける、青髪の少女の姿があった。

「あんたは・・・”悪”だ。」

杖を持った女と、倒れている人間が二人。
普段のシノブであれば、もっと冷静な判断が出来たかもしれない。
しかし今の彼女には、その女が他の二人を襲ったとしか、考えられなかった。

「くっ・・・」

ルカはひとまず、相手を刺激しないように、杖を地面に追いて両手を挙げた。
相手の武器の正体は分からないが、少なくとも遠距離から攻撃できることは確か。
自分は負傷している上、武器は杖一本。この状態で抵抗するのはあまりにも無謀だ。
いや、仮に自分が万全の状態であったとしても、勝てる見込みは薄い。
目の前の少女の発する威圧感は、巨大なモンスターをも遥かに上回る。

(でも、これで納得してくれる相手じゃなさそうね。)

ルカの予想通り、シノブは銃口を下げようとはしない。

「”悪”は・・・殺す!」

シノブが引き金に力を込める。

だがその時、背後から声が聞こえた。



「ルカ、さん・・・どこ・・・?」
「誰だっ!!」

シノブが振り返ると、一人の少女が覚束ない足取りで、こちらに向かって歩いてくる。

「リヨナ!」

ルカが思わず叫んだ。
この一声が、シノブに二人の関係を気付かせる事になる。

「・・・お前の、仲間か。」
「なっ・・・!」

自分の迂闊な行動を悔いたが、もう遅い。
シノブは、ルカに銃口を向けたまま、もう片方の手に短刀を握り、りよなに鋭い視線を向けている。

「リヨナ、逃げて!!」
「え・・・どうしたんですか急に?」

必死に訴えるが、りよなは足を止めようとしない。
目が見えず、状況が分からない以上、仕方のない事だろう。
今、ルカに出来ることは一つしかなかった。

「ちょっとあんた、目の見えない子を殺すつもり!?」

目の前の少女に訴える。
彼女に少しでも良心があれば、りよなだけでも助けられるだろう。

「目が、見えないのか?」
「そうよ、生まれつき、ね。・・・だから彼女はあんたの言う”悪”じゃない。」
「そうか・・・」

シノブが短刀をホルスターに戻す。
どうやら、説得は成功したようだ。



「あ、あの・・・」

りよなが、シノブのすぐ後ろで立ち止まった。
さすがにここまで近付けば、人がいる事は気配で気付くのだろう。
そしてその人が、ルカではない誰かである事も。

「失せろ。あんたに用は無い。」

シノブが冷たく言い放つ。

しかし、りよなの返答は、彼女の予想とは異なるものだった。

「あなたには無くても、私にはあるんです。」
「!!!」

ごおおおっ

りよなが素早くデイパックから取り出したサラマンダーが火を噴き、シノブの背中を焦がす。

「ルカさんが言った事、訂正します。」

ごおおおっ ごおおおっ

炎を放ちながら、りよなが語りかける。

「私・・・本当は見えるんですよ。・・・強い光なら。
 そう、例えば・・・あなたが撃ってルカさんを貫いた、光の玉とか。」

ごおおおっ ごおおおっ

「それに、たとえ見えなくても・・・音や匂いで、人の位置は分かります。」



「リヨナ・・・」

ルカは唖然としていた。

もし彼女のいう事が本当ならば、彼女は、ルカが負傷したのを知った上で、
あえてその相手に近付いていった事になる。
出会った頃の彼女からは考えられない行動だ。

しかしそれ以上に気になるのは、彼女の使っている、炎を放つ武器。
焼死体となった女性の姿が、ルカの脳裏に浮かぶ。

「リヨナ、まさか、あなた・・・」
「ああルカさん、無視してしまってごめんなさい。
 でもその身体だともう戦うのは無理ですよね。後でちゃんと殺してあげますから。」

「エリーシアさんと、同じように。」
「なっ!!・・・そん、な・・・」

りよなの言葉に対して、ルカは何も言うことが出来なかった。



「そう、か・・・あんたは、仲間を・・・」

不意に、ただ炎を浴びていたシノブが口を開いた。

「”悪”だ・・・」
「悪?私がですか?」

その一言を聞いたりよなが反論する。

「私が悪なわけないじゃないですか?なよりを助けるために頑張ってるのに。
 なよりが死ぬなんてありえないんです。生き返って当たり前なんです。
 だから私が正しいんですよ。悪はあなた達です。」
「・・・・・・」

りよながさらに続ける。

「私一人生き残って、願いを叶えてもらう。
 なよりを生き返らせてもらう。それが一番じゃないですか。
 だから、だから、なよりの為に、みんな死んで!!」

すでに、正気ではない。
彼女の事を全く知らないシノブにも、はっきり分かった。
たが正気でない事は、この場において免罪符になりはしない。

ドンッ!

シノブが片手で、りよなを突き飛ばした。
不意の反撃を受けたりよなは、数メートル吹き飛んで尻餅をついてしまった。

「そん、な・・・どうして・・・あんなに、焼いたのに・・・」

りよなが放った炎は、人間一人焼き払うには、十分すぎる量だった。
それでもシノブが倒れなかった第一の理由は、雨という天候により、大幅に低下した火力。
しかしこれはりよなにも分かっていた事だ。だから出来るだけ身体に密着させて火を放った。
だがもう一つ、りよなが想定できなかった理由がある。

「・・・アタシは、もっと強い炎使いを知ってる。
 アイツの炎に比べたら、熱くもなんともねえっ!」

今は亡き、シノブの親友。
彼女のためにも、シノブは倒れるわけにはいかなかった。

「どうして・・・どうして邪魔するんですか!?
 なよりが泣いてるのに!!なよりが怖がってるのに!!
 あなた達を殺してなよりを生き返らせてあげないといけないのに!!!」

もはや意味を成さない叫びを聞き流しながら、シノブは短刀を手に、一歩一歩、りよなに近付く。

「なより・・・待っててね。お姉ちゃんが助けてあげるから。」

完全に錯乱しているりよなに対して、シノブが短刀を突き出す。

ザクッ