Re: 駒学園の追走St.3−1 ( No.4 )
日時: 2015/02/23 15:10
名前: さくら

3章

 可奈が目を覚ますと、部屋の空気が冷え切っていた。
何かと思うと、朝倉とサラサがそっぽを向きあっていた。

「・・・何があったんだ、お前等」

「サラサが悪い」

「朝倉さんが悪い」

「・・・正直、あーちゃんが悪い」

 朝倉、雷華、サラサの言葉を聞いて可奈はうんうん、とうなずいた後に
朝倉の肩をポン、とたたいた。

「あやまれ」

「あんなカードデッキに突っ込んで勝てると思ってるサラサが悪いわ。
大体、出せもしない金鼠に重いだけのレベル8素材3体エクシーズ4枚も
ぶち込んでるエクストラデッキなんて、普通組まないわよ」

 しかも、と朝倉は区切ってから続けた。

「融合まで入ってるのよ、あのデッキ。
まぁ、幸いに入ってた融合モンスターはドラゴネクロだったけどね」

 そういってため息交じりに首を左右に振る朝倉。
ああ、そのカードな、と可奈は口を開いた。

「それな、最初は別の融合モンスターが入ってたんだ。ナイトメアを狩る死霊がな」

「・・・なん・・・ですって・・・!?」

「だから私が入れ替えさせた。それに、あのデッキは構築段階で、
レベル8のモンスターをある程度大量展開できるように作ってある。
お前も見てただろ、あいつは1ターンの間に、平均してレベル8のモンスターを
2体は召喚しているはずだ」

 確かにと、朝倉も思う。下級のゾンビ・マスターの展開から、
次のターンには3体のレベル8モンスターを瞬く間に並べていた。
デッキはほとんどそれ用に特化しているということだろう。

「レベル8三体並べた後、むやみに超銀河眼に繋がなければ
絶対に今以上に戦えると思うんだがな」

「だってあの状況じゃ、そうしなきゃ城の効果で攻撃力下がっちゃうんだもん」

 そう口を挟んできたのはサラサ。確かにそうかもしれないがな、と可奈は言った。

「その状況ならさっき聞いたぞ、むしろ私なら銀河眼の光子竜皇から
FAに繋いで城を破壊したな。そのあと、ハーミルで紫炎を攻撃して
更にFAで攻撃力の上がったであろうカゲキを破壊する・・・これでも
いいはずだ」

「むー・・・そうだけどさぁ」

 サラサがそういって口を開いたのと同時に、すっ・・・とふすまが開いて
奥からジンが顔をのぞかせた。

「お前ら、晩飯で来たぞ。早く来いよ、うちは大飯ぐらいが多いからな」

 そうとだけ言って彼はその場から文字通り消えた。それを見た可奈が目を見開く。

「・・・妖怪?いや、いるよな。あのルルやリリカの弟の家だとか
言ってたもんな、あれがそうか」

 そういって、静かに立ち上がると朝倉やサラサたちを連れて
部屋を出る。薄暗い廊下を歩き、燈の漏れている部屋に入ると、中にいた
子供4人と目が合った。

「・・・!」

 扉を開いて立ち止まる可奈。それに続いていた3人が部屋の中をのぞき込む。
それぞれが、中にいる子供と目が合いその場に立ち止る。
 何とも居心地の悪い沈黙が空カンを支配していた中、その中の一人が口を開いた。

「誰?」

 そうしていると、それに続くようにしてほかの子供が次々に口を開く。

「誰だろう?」

「母さんが言ってたお客さんじゃない?」

「あ、そういえば今日からしばらく泊まるとか言ってたっけ?」

「そういやそんなこと言ってたな。あんたら、晩飯に呼ばれたのか?
だったらここじゃないぞ、二つ奥の角を右に曲がったとこに、台所があるから、
そこ行ってみな?」

 その中にいた一人、吊り目の子がぶっきらぼうにそういった。

「あ、ああ・・・そうか。ありがとう」

「気にスンナ。ったく、母さんも詰めが甘いな。食堂くらい教えとけよ」

 そういいながら、ぴしゃりとふすまを閉める。呆然としていた可奈たちだったが、
やがてと誰からともなく、彼女の言っていた台所の方へと歩みを進めていった。

「え、娘たちにあったんですか!?」

 台所まで行って、料理を運ぶ桜花を手伝いながら先ほどのことを
話すと桜花はぎょっと目を見開いた。

「そ、それで・・・あの子たち、何か失礼なことを」

「いや、ここまでの道を教えてくれた。
勝手に部屋の扉を開けてしまったのに、逆に親切にしてくれたよ」

 可奈の言葉を聞いてほっと胸をなでおろす桜花。そのあとの夕食で、
改めて紹介されたところによると、彼女たちは娘、というと少々語弊のある
存在で、実際には二人の魔力と神力を糧にして生まれた精霊なのだという。

「一番手前にいる眼つきのちょっときついのが緋仔(ひこ)。その隣が水仔(みこ)、
地子(ちこ)、風子(ふうこ)。名前で察しはつくと思うが、それぞれ4元素の精霊で、
本来の姿はそれぞれ狐、海象、蛇、鶯だ」

 そういわれて、それぞれが軽く会釈をする。それに会釈を返して食事を
進めていると、その中の一人がおずおずと口を開いた。

「あ・・・あの、さっき風から聞いたんだけど・・・
お母さんとデュエルしてたって、本当?」

「あ。うん。それ私・・・だけど、風から聞くって、どういうこと?」

「えっと・・・私は風から生まれた精霊、だから・・・
風の声を聴けるの。・・・お母さん、強かった?」

「うん、強かった」

「そっかぁ」

 そういって、うれしそうにほほ笑む彼女を見て、サラサ以外は顔を見合わせ苦笑した。
 その後、しばらく彼女たちと雑談をしてから部屋に戻ると、いつの間にやら
布団が4組敷かれており、閨の準備が整っていた。

「・・・さっきまで、全員あそこでご飯食べてたわよね」

「ま、まぁ・・・妖怪に神様だし、子供精霊だったし。
これくらいは普通なの・・・かも」

 朝倉の言葉に雷華がそうつぶやいた。
可奈とサラサはと言えば、何を気にすることがあるといわんばかりに
布団の中をごそごそしている。

「お、これ羽毛だぞ?・・・ありがたいな、私の部屋には
布団が全くないからな」

「というか、タオルケットしかないもんね、可奈の部屋」

『よくそんなもんで寝れるわね、あんたそのうちにうちの屋敷に来なさい。
いいものくれてやるから』

 そんなことを言い合っている3人をしり目に、朝倉は重そうに頭を押さえた。
 翌朝・・・起床した4人を迎えに来たルルに連れられて、
会場になるという場所へとやってきた可奈たち。その場についた可奈は静かに
息をのんだ。
 あたりを見渡せば、そこかしこに上位の悪魔や魔人の類がゴロゴロしているのだ。
モンスの天使くらいで太刀打ちできるのか、いささか不安である。

「―――あーあーあー、マイクテストマイクテスト。
お前ら集まってるな?受け付けは開始直前まで大丈夫だから、
焦んなよ?とりあえず、ルールだけ説明するからあとは
勝手にやってくれ」

 不意に、近くにあったスピーカーのようなものから聞こえてきたしのぶの声。
どうやらどこからか、放送を行っているらしいのだが、その姿が
どこにも見えない。彼女の言葉に従って集まる有象無象。
その中に混じっている可奈たちは、必然的に魔物たちに囲まれる形になった。

「ちょっと雛沢さん、どうするのよこれ?」

「刺激するな、いいな。絶対だぞ」

 悪態をつく朝倉にそう言ってから、放送内容に静かに耳を傾ける。
内容は、桜花やルルから事前に聞いたものの繰り返しのようなもので、
本人も読むのが気怠いのか、ある程度まで呼んだあとは
解らなくなったら招待状を読み返せ、とバッサリ投げ捨てた。
 そして・・・。

「あー、そうそう、それからこの中に・・・まぁ、気づいてると思うが、
人間の世界からも何組か招待してる。この大会の間に、人間との間に起こった
いざこざの解決手段は通常のデュエル、もしくは契約をたがえたデュエルを
行うことによって解決してくれ。後、主催者としてお前らに警告しておく。
仮に、招待した人間がけが、失踪、死亡などの損失、損壊を負った場合、
それに関与したと考えられる魔人、悪魔の一族とその周辺にいる輩は
全て滅ぼす。闇亡界に来た以上、お前たちの射る魔界のルールは通じないものと思え。
以上、説明終了。各参加者はチームごとに受付を済ませて、そこで
籤を引いてくれ。そこに対潜の組み合わせが書いてあるからな。
じゃ、健闘を祈る」

 しのぶの声が途切れるとともに、周囲からはため息が漏れていた。
喝采はない。

「マジかぁ・・・人間襲ったらおれたちまとめて処刑されんのかぁ」

「まぁつってもしのぶさまだからなぁ、多分冗談抜きに
ぬっころしにかかってくるぞ?しかも満面の笑みで超嬉しそうに」

「勘弁してくれよぉ、俺この間人間どもから契約で獲った魂の数が
エーゲ地方で一番になったんだぜぇ?家内にも魔王様もそれがあったから、
この大会に出させてもらえてるってのによぉ」

 なんて声が聞こえてくるものだから、朝倉達は顔が蒼かった。
勿論可奈もである、勝てるわけがない連中から下手したら殺されていた
かも知れないと思うとぞっとしないわけがない。と、いうか・・・。

「・・・社畜って、どこの世界にもいるものなのね」

「ああ、悪魔たちは意外と契約とかそういうのに律儀なのは
そういうルートを踏まないと魔王から罰せられるというのも一つあるからな」

 朝倉の言葉に可奈はそう答えてほほを引っ掻く。その後、やってきたルルと
合流して、先ほどの中にあった受付に向かってそこで対戦ブロックを
照会してもらった。

「・・・2ブロックなのか、もっといるのかと思ったが」

「一週間日程ですからね、一日一回〜2回戦くらいまでが目安に
行われます。なので、2ブロックで丁度いいんですわ」

 まぁ、あなた方の世界のこーしえんとやらのような
感じですわ。あれより、規模は小さいですが。そういっているルルに
連れられてやってきた先では、すでに対戦相手が待っていたのだが。

「おや、まさかここでいきなりはちあうとはのう?」

「・・・ははっ、まぁいずれ当たるとは思ってましたから。
今更ですよ、ねぇ。ゼルタリアさん」

 対戦相手、可奈の同僚の浪漫堂のメンバーを顧みて
可奈は乾いた笑いを浮かべていた。よもやこの場においていきなり
彼女たちと当るとは思っていなかったのである。

「おやおや可奈殿、まさか敵対するべき相手に手を貸すとは。
退魔師としてあるまじきでありますな。・・・まぁ、契約をたがえた
デュエルの結果でありましょうから、それについては言及する
つもりは毛頭ないでありますが」

 そういいながらゼルタリアの後ろにいる、黒い髪、黒いローブ、
黒いズボンの黒づくめの少女が顔を上げる。陶磁器のような白い肌に、
爛々と真っ赤な血の色をした目が光っていた。

「それなりに楽しませてもらうでありますよ?」

 そういって浪漫堂現店長、セリス・アレイに名は低く籠った声で笑っていた。