Re: 駒学園の追走St.3−1 ( No.1 )
日時: 2014/09/13 12:50
名前: さくら

序章

「・・・そうだったのですか、そんなことが。
リリカ義姉さんは相変わらずみたいですね。私が初めて彼女と
対峙した時も、行き成り斬りかかられましたし・・・」

 そういいながらため息をつく桜花。彼女の家に上がって客間に通された
可奈たちは、とりあえずここに来ることになった成り行きを
彼女に話していた。それを聞いた桜花の言葉がこれである。

「あのときは、ジンさんが「姉たちに紹介したい」・・・っていうから、
天界から降りたのにまさか行き成り「敵生体確認」の一言の後に、
斬りかかってくるとは・・・」

「・・・なんというか、災難だったな」

 それを聞いて何とも言えないようにそうつぶやいてから、
可奈はふと今の言葉を思い返した。

「・・・ちょっと待て、天界から降りた?あんた、魔人や悪魔の類じゃないのか?」

「はい、私は元は人間です。
戦国時代には、斬れぬモノなしと遠き者にも謳われるほどの
活躍をしたものです。それが、死後に神々に拾われて聖戦に参加、
残り少ない聖戦が終わり、武者修行の旅と称して戦場を
さまよっているとき、夫と出会い、幾度となく刃を交えて
鎬と命を削り続けるうちに、お互いにひかれて今に至る、
というかんじなんです」

「なにその戦国浪漫」

「いや、浪漫なんて甘ったるいもんじゃないと思うぞ」

 桜花の話を聞いた朝倉がそうつぶやく。それをきいて、可奈はあきれ半分に
朝倉に言った。とてもではないが、浪漫があるような話には聞こえない。雷華もサラサも
そう思ったからか、朝倉の言葉に苦笑いを浮かべていた。

「・・・私、何か変なこと言ったかしら」

「桜花さん、たまーにずれることがありますのますの。
でも、悪い方ではないので、安心してくださいなさいな?」

 そういいながら可奈をのぞき込む蓮華。

『・・・この子の言語中枢機能、ぶっ壊れてるんじゃないわよね?』

 蓮華の言い回しを聞いたカーミラがコリコリとほほをひっかきながら
ルルに問いかける。

「・・・昔は、普通に話していたのですが・・・。
まぁ、長い間メンテナンスもしていませんでしたし、帰ったら少し
調べてみますわ」

 ルルもそういって少しだけ考えるよ運が仕草をしてから、
それでは、と口を開いた。

「わたくしはこれで一度失礼いたしますわ。
何か必要なものがあったら、遠慮なくわたくしか、
桜花さんたちにおっしゃってください。たいていのものはすぐに
準備できると思いますわ。
では、デッキや体調の管理など、しっかりしておいてくださいね。ではこれで」

 ルルはそう言って会釈をすると、蓮華とともに闇の中に消えていった。
それを見送ってから、小さくため息をついた可奈。さて、とつぶやいてから
朝倉達を振り返って口を開いた。

「・・・デッキの調整はすんでるな?」

「当然」

 朝倉の言葉とともに全員がうなずく。それを聞いて可奈もうなずくと、
一息ついてから続けた。

「この世界は私たちの暮らす世界とは違う。妖魔はびこる魔界だ。
どの程度庇護されるかは知らないが、下手したら食い殺されると思って
行動した方がいいと思う。そこで、だ・・・大した効力はないかもしれないが、
外に出るときはこれを持ち歩いていてくれ」

 そういって可奈が持ち出したのは呪符だった。
何やらよくわからないが、念入りに書き込まれており、力のない
朝倉達やそれをのぞき込んだ桜花にもそれにかかった念が見えていた。

「・・・なぁにこれ?よくわかんないけど、随分念のいった代物ね?」

「魔除けの呪符だ。不要かもしれないが、
一応持っておくに越したことはないと思うしな。簡単だが、
魔封じの念も込めてあるから、ちょっとくらいの中級悪魔までなら、
それで抑えることはできるはずだ、相手に張り付ける必要はないから、
直接その札を対象に向けて縦に裂いてくれ。ただし、
スペアはないから、破るときは慎重に頼むな」

 可奈の言葉に、へえと言いながら札を顧みる朝倉と雷華。
一方でそれを見ながら腕を組んで嘆息するカーミラ。

『・・・まぁ、腐っても退魔師、と言ったところね。
それなり程度に強力な加護がついてるわ。・・・これは天使の気ね?』

「ああ、モンスの天使と呼ばれる小天使だ。
嘗ては1914年、8月26日〜27日にかけて、ベルギーのモンス
で起こった戦争でフランス、イギリス連合軍に加勢した天使の兵団だ。
・・・最も、その時のように数千数万の兵は呼べないが、まぁ、
1枚について1体くらいは何とかなるはずだ」

「それに、ここは虚空界からは7階層以上下の界になりますから、
おおよそ、加護こそあれど長時間呼び出すことはできないでしょうしね」

 そういいながら、朝倉の手から拾った札をもてあそぶ桜花。
流石現地住人だ、そういう情報はありがたいと可奈は思うが同時に驚く。

「・・・7階層以上だって!?虚空界、天上界、天界、地上、六道界、冥界、
魔界・・・そのさらに下の世界があったのか・・・」

「まぁ、人間たちの記述からは随分と昔にすたれてしまっていますから、
ご存じないのも無理はないと思います。ここ闇亡界は天上界からすら
見放された、いわば悪鬼羅刹の無法地帯でしたからね。
しのぶ義姉さんたちが来て、随分ましになったんですよ」

 そういいながら、かつては本当に・・・と言いたげな顔をする桜花。
その全身から漂う哀愁に、相当な苦労を感じずにはいられなかった。

「まぁ、とにかく。私たちも精一杯のサポートはしますから、
あまり難しいことは考えないで大丈夫ですよ。ルル義姉さんからも
そういわれていますし」

 彼女の言葉に顔を見合わせる一方で、妖怪の類ではなく女神であるという
桜花を少しは信じてみようか、という気になっていた。

「・・・ねぇ、そういえばなんだけどさ。
大会って、どういう風に進行するのかな?私達、チーム形式
ってこと以外は何も知らない気がするんだけど・・・」

 雷華の言葉に全員が顔を見合わせた。そういえば、誰も聞いてなかったな。
そう思って桜花を顧みると、彼女はえーっとですね、と紙束のような
モノをめくりながら答える。

「・・・大会はとおなめんと方式をとり、ちいむは5人、二人まで補欠有。
といった感じのようですね」

「・・・トーナメント方式、か。
ルールは私たちのやっている通常のデュエルと同じで、
実態へのダメージはない、ということだが」

 可奈の言葉に、それがですね・・・と、桜花が口を開いた。

「噂話なのですが、参加者の中にはそういった決闘を求めて、
予め、申請をしている者もいるそうなんです。そして、その相手に
対してのみ、こちらも同じ規則で戦いを挑むことができる、と」

「・・・なるほど、ただのデュエルオンリーでどうやって
魔人側の参加者を募る気なのかと思ったら、あらかじめそんなことをして
いたのか・・・これは通常のデュエルというのもわからんな」

 可奈がそういって顔をしかめる。しかし、それに対して桜花は
多少苦笑いをしながら答えた。

「もっとも、申請を出した選手以外は通常の規則を守らなければ
なりませんし、これ、ちいむの中で一人しかだせないんです。
それに、その人物の情報は申請アリと公開されるので、
その相手だけ、ルル義姉さんや、ほかの誰かに任せれば大丈夫でしょう」

 見てみれば、実態こそ持っていないようですが吸血鬼もいるようですし。
彼女はそう言いながらカーミラを顧みる。物腰の柔らかい視線だが、
貫くように鋭く、透き通った黒色の瞳に、彼女は柄も知れぬものを感じていた。

『とはいっても、私は実体がないから、結局サラサの体を
借りることになるから、必然的にそういうのに馴れてる可奈か・・・
あのルルって人に任せることになるんだろうけどね』

 カーミラはそう言って億劫そうにため息をついた。
それを顧みてとりあえず、と可奈は口を開いて朝倉達に言った。

「私は寝るぞ。明日まで起こさないでくれよ。・・・いいな」

 そういうが早いかごろりと体を横たえて、腕を枕にした可奈は静かに
寝息を立て始めた。その間、わずか3秒ほどである。

「・・・なにコイツ寝るの早い」

「ま、まぁ・・・昨日徹夜だったらしいから・・・サラサちゃんは、大丈夫?」

 すでに起きる気配のまるでない可奈を顧みて、あきれ半分に朝倉が呟くと、
それを聞いた雷華がそう答え、そのあとで同じく徹夜していたサラサに
きいた。

「・・・まぁ、平気かな。なんだかんだいって人外だし。
体力には自信あるよ?」

 何なら一戦交えてみる?
サラサはそう言ってガッツポーズ。朝倉はそれを見て頭を押さえる。

「ばっかじゃないの。やってられないわ」

「まぁ・・・気持ちはわかるけど・・・今は、ね」

 雷華もそういって苦笑いを浮かべている。確かにこちらに来たばかりで、
勝手もよくわからないうえに、割と疲労もしているのだろう。

「・・・それでしたら、差し支えなければ私が御相手いたしましょうか?
ルル義姉さんが認めるほどの実力者、というのも個人的に気になる
ところですし・・・」

 桜花がそういってサラサに向き直る。
サラサはそれを聞いて心底嬉しそうにうなずいた。

「・・・昨日徹夜で雛沢さんとひたすらデュエルしてたのに、
元気なことね」

「ま、まぁ・・・雛沢さんのデッキだけじゃ、わからないところも
あるかもだし、いいんじゃないかな?」

 雷華がそういって苦笑を漏らす。朝倉はそれにすらも
なんかもう、と言いたげに口を開かず、庭に出て言った二人を畳にうつぶせに
寝転がりながら顧みた。

「ま、いいか。あの子のデッキのめっちゃくちゃさを考えたら、
ここで私たちがデッキ内容を把握しておく必要は、少なからずあるわけだし」

 彼女がそんなことをつぶやくと同時に、桜花とサラサのデュエルが始まった。