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ハーレムエンカウンター 第一章 血塗れの聖地 B
日時: 2023/11/25 16:58
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(セシル様…)

まだ十代の筈なのに、不自然なまでに大人びた笑顔の主人。それを見る度、頼もしさより痛ましさを感じずにいられないキルヒエリッヒ。

(ああ。この方も本当なら、まだまだエリンと同じくらいの筈だったのに…)


数年前。このマリオベール家で御家騒動が起きた。
御家騒動自体は珍しくもない。特にこのラルフィント王国のような土地においては日常茶飯事と言っても良い。
但しその中でもこのマリオベール家でのそれが代表格や代名詞のように語られるのは、とにかくそれが極めて悲惨で劇的な要素に満ち満ちているからに他ならない。
元々マリオベール家は統一時代よりラルフィント北東部において有力だった一族。しかし一世紀半以上前の両朝分立において、バーミアに逃れた雲山朝初代国王ギャナックを一族挙げて支持。その正妃に当時の当主の娘フォルスターを送り出した事で、雲山朝から「格別の家」という処遇を受け続けてきた。
もちろんその一世紀半の間において、あれこれの諸事情も絡んで何度かゴットリープに本拠を置く山麓朝側に転じた事もある。但しその位置がバーミアにより近い事もあってか、基本的には雲山朝側というのがその歴史。その御家騒動の最初の生贄になった、セシルの父であるセリアンも隣接するラージングラードの向背も絡んで一時的に山麓朝に転じた事があったが、結局は色々と収まりが悪く、妹のラプンツェルを現在の雲山朝三代目国王ギャンブレーに差し出す事で何とか帰参を許されている。
そしてギャンブレーもまたさる者。ちょうど空位であった王妃の座に彼女を据える事で、「格別の家」であるマリオベール家を変わらずに尊重する姿勢を示す。

雲山朝と山麓朝の違いは様々だが、大体において雲山朝は山麓朝に比べて向背常ならぬ地方豪族に対して姿勢が強い。これは王子派として血統的な正統性の優位を認められているのもあるが、やはり決め手は首都の強度が比較にならない事が大きい。
「バーミアには針一本通せない」。いわゆる王弟派である山麓朝初代のオルディーンがそう嘆いたという逸話もあるくらい、バーミアはラルフィントはおろか大陸最強の地盤という評価が高い。
最初にギャナックが逃げ込んだ時、オルディーン派の攻撃を門前町の時点で跳ね返してしまったのが皮切り。そして現在のギャンブレーが即位した時。マリオベールまで含んだラルフィント全体が襲い掛かるような最大危機においても、それを全面で受け止め持ち堪えた上で、遂には相手を逆に内部解体させてしまうという、驚異的なまでの底力を見せる。
だが翻って見れば、それはラルフィントが再統一の最大機会を逃した事でもある。その立場から「分裂の最大元凶はバーミア」「バーミアにはバーミアの利害があるだけ。ラルフィントも大陸も眼中に無い」とまで罵られる事ともなる。
もちろん何を言われようが堪えるような魔都バーミアではない。
メンテ

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