ハーレムフロントライン 第六章 均衡 U C |
- 日時: 2023/11/04 12:11
- 名前: 陣
- 「あの男が?」
クリアランスの代表会議の決定を経て、着々と準備の進む西国同盟軍の出陣準備。 調停と言っても双方から依頼された物ではない。あくまでこちらからの売り込み。よって現地で攻撃される可能性は十分にある。
双方の状況。特にドモスは、インフェルミナに残してきた別働軍がヴァスラ並びにラルフィント山麓朝からの援軍を得た現地の解放軍に敗れ、副将クブタイが戦死するという惨状。とても新たな戦争を開始する余裕は無いという判断による物だが、あくまで賭けには違いない。 事前の打診で、いざとなれば二重王国の陣に駆け込む事も決定した。その場合、ペルセポネの件をはじめ、二重王国に対し外交的に不利になるのは確実だが、背に腹は変えられない。それをドモスが望まないのにも賭けるしかない。
派遣の総兵力は一万。反ドモスの色を薄めるために、フィオリナをはじめとする旧メリシャント系の面子は残留。実質的な総指揮はクレオンレーゼ部隊の指揮官も兼ねるバラーシャが行い、実務担当としてアスレーも向かう。
会議の席上、誰も触れようとしなかったが、最大の懸念はドモスの陣中で未だに健在のヒルクルスの存在。 今回の火炎地獄な激戦の中でも見事生き延び、未だ実行者不明のオルシーニのレイモンを射殺したのも彼ではなかったかとも噂される程。 もしフィリックスが出向き、そこで何かあったらと思わぬ者はいない。
そんな矢先に飛び込んで来た一報。 なんとそのヒルクルスがドモスの本陣を離れ、遠く北のフレイア王国に攻め込んだというのだ。 そして東部の要衝であるサジタリウス城を電撃的に奪取。そこを拠点に積極的に周囲への攻撃を行なっているとも聞く。
「なんだってそんな場所に?」
今は小康状態にあるとはいえ、メリシャントの戦線は収まったわけではない。 インフェルミナからの撤退軍と合流したとはいえ、ヒルクルスに与えた千もの兵力は決して少ない物ではない。 こんな少しでも兵力を集中させたいはずの時にわざわざ分派を許す理由は何か。 まただからこそフレイアとしても意表を突かれたわけで、そうでなければ僅か千の兵で要衝を落とせる筈も無い。それこそこの前にフェンリッヒがやってのけたクィンクェ急襲みたいな物だ。
「フィリックス殿下と顔を合わせたくないんじゃないか」
世間知らずのイシュタールの連中から聞こえて来る戯言だが、そんなはずは無い。 あるいは逆にフィリックスが顔を出し易くする意図があるのか。そうなればドモスもまた調停を受け入れるサインと見えなくもない。 だが果たしてそれだけか。
(あるいは隣接するナウシアカ王国の離叛を懸念しての牽制か?)
それもあるかもしれない。だが果たしてそれだけか。 あるいは更に先を読んだ先行の一手か。ならばドモスにはまだまだそのような余裕があるのか。あるいはそう思わせるためのハッタリか。 いずれにせよ。それがあの男自身の発案であるにせよ、それをリンダやロレントが承認しなければ意味が無い。 やはりこれはドモス全体の意図と見るべきだろう。
とにかくもこれで調停に向けての環境は整った。
あるいは既にドモス内部で叛乱を開始している諸勢力にとって余計な真似になるかもしれない。後世から見て、あのラルフィント山麓朝のオルディーンやメロディアのような最大の愚行と罵られ嘲られるかもしれない。
しかしやむを得ない。今には今の事情という物がそれぞれにある。 そして今を凌げなければ、罵られる後世もまたありはしないのだ。
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