ハーレムフロントライン 第六章 均衡 L |
- 日時: 2023/10/21 03:15
- 名前: 陣
- 「だから。一緒に居てやる。姉上が出てこられるまでな」
驚くジェラード。改めて叔母の顔を覗き込む。
「え。また居なくなってしまうの?」
「ああ。お前の母上に思い切り嫌われてるからな。私は」
「やだ!」
「なに?」
「やだやだやだやだ! 絶対にやだ! 叔母上がいなくなるくらいなら! 母上なんかどうなってもいい!」
「なんだと!?」
「だってだって! 母上ったらひどいんだ! いつもいつも叔母上の悪口ばっかり! お祖父様も叔父上たちも殺したにちがいないなんて言ってたんだ!」
愕然とするフィオリナ。
「姉上が。そこまて…」
「だからだから! あんな母上なんか! いっそ死んじゃえば良かったんだー!」
「バカ!」
思い切り横顔を張るフィオリナ。痛みより驚きでその顔を見返すジェラード。
「知ったような口を聞くな。お前の母上は。シルヴィス姉上は。気の毒な方なんだ」
「え?」
「お前が生まれる前。この国に嫁がされるのは私の筈だった。だが当時の私はまだ幼く、母の身分も低かった。だから姉上に役が回った。最初の婚約者だったニーデンベルグの王太子が急死してしまった事もあってな。だから姉上が私を役立たず呼びするのも当然なのだ」
「そんなの!」
「姉上を批難出来るのは、姉上と同じ立場になった者だけだ。そして私にはその自信が無い。まあそういう事だ」
いつしか啜り泣きすら始まっている周囲。異腹の妹がそこまで姉を想っていたのを初めて理解したらしい。 それを見回しながら、言葉を投げ掛けるフィオリナ。
「まあそういうわけだ。姉上が出られるまでジェラードの後見は私が行う。クィンクェの件で縁者や知人を失った者もおろう。私を疑ったり憎んだりするのも当然だ。姉上の代わりにとドランが自決したのも聞いている。もし私に従うのを好まぬ者がいれば、姉上の御世話に回るのも、国に帰るのも自由だ。どうだ。アスレー」
こちらとしても異存は無い。むしろ大いに望む所だ。だから首も大きく縦に振る。
「すまん。これでいいな?」
「やだ!」
「なに?」
「母上が戻って来ても、いなくなっちゃやだ! 必ず僕が仲良くさせて見せる! だから! だからずっと! いつまでも側にいて!」
クシャクシャの涙顔で、改めて叔母に懇願するジェラード。それに対し、取り出したハンカチで顔を吹いてやるフィオリナ。
「分かった分かった。だからもう泣くな。そしてしっかり今の務めを果たせ」
「うん。だから叔母上も一緒に出てくれるんでしょ。あのカッコイイ御姿で」
初めて困った顔に変わる叔母。
「すまん。今はああいう物の持ち合わせが無い。お前がどちらかの王になるまでは用意しておくから。今回はこれで許してくれ」
「やだやだー! イシュタールのフィリックス王子だって一緒じゃないかー!」
「あれは肉親ではない!!」
やれやれ。式の開始にはもう少し掛かりそうだな。
|
|