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ハーレムフロントライン 第六章 均衡 G
日時: 2023/10/16 07:24
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(まあ。それだけでもないんだがな)

シェルファニールの内情を複雑にしているもう一つの要因。それはこの国の地政学的位置にもある。

イシュタールを中心とする大陸西方の内陸部において、シェルファニールは西端部に位置する。しかし大陸の中央を横貫する大河リュミネーの河口に位置し、大陸西岸部を走る航海路の中間中継点。更に対岸の西方半島も加えた大西部としての観点からすれば、シェルファニールこそが、内陸部のみのイシュタールなど比べ物にならぬ、西方の中心としての立地条件を備えている事は一目瞭然だろう。

もちろんその立地性に着目して、この地域に食指を伸ばそうとした例は数多い。その最たる存在こそが当然に、海を持たず河口部を押さえされているイシュタールであったのは言うまでもない。
但し両国の間には険阻な山脈が存在し、地上での直接的な侵攻は困難を極めた。また海岸線の交易で十分な利益を挙げているシェルファニールから内陸部に敢えて侵攻する必要もない。よって両国の関係はイシュタールの河川貿易にシェルファニールが便宜を図り、また王室同士が姻戚関係を結ぶという事で安定と友好を保って来た。
そう。今までは。

だがドモスのクラナリア併合に始まる大陸再編の開始の中、西方諸国が団結が迫られる趨勢において、この両国の関係が改めて問われる形勢になって来たのだ。
要するに内陸中央部に限定した小西部か、それとも半島や西北部まで含めた大西部かという観点である。前者ならばイシュタール、後者ならシェルファニールが地政学的な中心となるのは言うまでもない。
しかし半島もまた近年では、中央部のセルベリアを中心に独自の統一運動を開始しており、数年前には一応の統一を達成。海を隔てているとはいえ、シェルファニールにとっての一大脅威に浮上。それに対抗するためには後背のイシュタールとの関係強化が優先となり、小西部論が優勢となる。

そしてその小西部論者のシェルファニールにおける代表者と目されるのが、宰相のパウロ。実娘のエロイーズをイシュタールに送るなど、様々な便宜をイシュタールに対して図っている。
但し分からないのが肝心の国王であるマティアスのスタンス。果たして彼の意中が何処にあるのかはまだ見えない。エロイーズを送り出した時点ではまだ幼かった、彼自身の王女たちもまもなく適齢期に入る。それだけにそのカードをいつどう切るかの関心もまた尽きない。
孫たちの婚姻に発言権を持つ、王家家長のマリアルイズもまたその点については沈黙を守っており、それもまた無言の重圧を内外に投げ掛けている。

また半島も、小覇王ゼークトの死後は、隣接のフレイア王国やバロムリスト王国との西北同盟を締結。新国王ジューザスの義父でもある、バロムリスト国王ドレークハイト主導の下、取り敢えずは別方向を向いており、当面は小西部論が優勢だろう。

(ま。こっちからすれば贅沢な悩みだ)

それと比べれば、このクレオンレーゼに選択の余地など全く無い。

ドモスと二重王国の二大勢力を前面に迎えた、西国の最前線としての宿命あるのみである。
メンテ

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