ハーレムフロントライン 第六章 均衡 E |
- 日時: 2023/10/14 19:05
- 名前: 陣
- (マティアス陛下か)
今回最上位の賓客となる隣国の国王を見つめながら、いささかの感慨に耽るアスレー。
確か即位は二十と数年前。今のジェラード殿下と同じ位の頃か。 その時も父君である前国王マクシミリアンの急死による物で、一時は暗殺の疑惑もあったと聞く。
しかしあちらの場合は、そのままに王太子であるマティアスが即位。 それはあちらの母君であるマリアルイズ太后こそがシェルファニール王家の家付娘な家長であったに他ならない。 つまり前王の代からマリアルイズこそか実質的な最高実力者だったわけであり、その意味で実態に変化は無い。
だからこそ国王である息子自身が、国外の式典に出向く事も出来るわけだが。
それであっても彼女が女王になるのでなく、入婿であるマクシミリアンが即位したのは、その実家であるイシュタールへの政治的配慮であるのは明白。それは同時に当時のイシュタールの勢威ぶりも伺わせる。 但しその変則的な立場は彼に多大な負担を与え、それがかえって生命を縮めたとも噂される。
シェルファニールの現体制は、マティアスの即位以来、表面的な儀礼面は国王であるマティアスが行いつつ、実務は宰相であるパウロが行っていると聞く。パウロはマティアスの同母姉エステリーゼの婿。そして現在イシュタールの王太子フィリックスの妃の一人、エロイーズの実父。公式では叔父でもあるマティアスの養女としての資格であるが。
何処の国と同様、シェルファニールの国王と宰相の関係も単純ではない。 一番の問題は、パウロの任命がマティアスによる物でなく摂政としてのマリアルイズによる物だという物。もちろんマティアスが成人に達した時点で摂政は解除され、改めてマティアスによる再任は行われている。但しそれが形式的に過ぎないのは言うまでもない。 要するにパウロの後ろ盾はあくまでもマリアルイズ。彼女の死、あるいは完全引退後の地位の保障は確実ではない。実は彼女の愛人でもあるとなれば尚更。余程の聖人でもない限り、マティアスがパウロの存在を不快がっているのは間違いない。
取り敢えずの現状において二人の関係はあくまで平静。マティアスとしては何を聞かれても「パウロに聞け」「宰相に聞け」で、危険な兆候は全く無い。但しそれが余りにも完璧に過ぎるだけに、かえって不気味と考える向きも多い。
それこそある日突然「パウロを斬れ」になりかねないとも。
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