シーン1 【大理不尽】 ( No.1 ) |
- 日時: 2014/12/17 01:26
- 名前: 半忍 サガ氏
- 私こと関輝石(セキ・キセキ)の日曜日は、大多数の日本人と同じく休日だ。
今日は良い日曜日だった。日曜日もが好きだが明日の月曜日も好きだ。週末を妻と過ごして、そして妻に送り出してもらう月曜の朝が気に入っている。 「鍵出すよ」 「いいさ、私のはすぐ出せるから」 空色の軽自動車から一週間分の食料を下ろして笑いあう。私と最愛の人は“理不尽”という言葉の意味を知らないまま大人になったのだと思う。
り‐ふじん【理不尽】. 名・形動]道理をつくさないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。「―な要求」「―な扱い」 [派生]りふじんさ[名] 大辞林より
何が起きるか分からないのが人生、人間は必ず死ぬものだと納得しているつもりだった。 猛練習をした高校野球は地方予選を突破できなかったが青春とはそういうものだし、大学試験日に風邪をひいて行けるだろうと言われてた本命大学に落ちたが、その学校でも必要な資格は一通り取れたし、私が就職をした二流企業でも食っていくには困らないし、理不尽ではない。 人生、楽しいことばっかりじゃないが、それがまた味だ。 「蒼子、私はなにをしてればいいかな」 「お風呂出してもらっていい、洗ってあるから…」 妻の蒼子が続けようとしたとき、チャイムが鳴った。来客の予定はないが、私は心当たりを思い出しながら一歩ずつ玄関へと向かう。 宅配便は頼んでいないし、仕事なら電話が先に来るだろう、不思議に思いながらもごく短い廊下の先、ドアを開けたとき。 「…アレ? 蒼子ー、誰も居ないぞー…?」 いきなり背中が火照り、振り返ると目が眩んだ。台所から火が床を舐めるように広がり、天井まで炎上している! 「火事っ、蒼子! どうしたっ?」 咄嗟にスリッパを脱ぎすてて台所へ戻る。床が燃えているんだからスリッパは脱がない方が良かったが頭が真っ白になっていた。蒼子は台所にいたはずだ。あそこからなら窓が近くにある。 ほんの数メートルだが、靴下越しにでも足は感覚がなくなる高熱の中、私は台所に帰って来たが、そこは既にCGのように現実感のないまでの炎に包まれていた。 だがしかし、それ以上に私に衝撃を与えたのは台所に戻ってからの光景だった。突然現れた“謎の男”のことだった。 謎の男と言うのは見知らぬ男であること以上に、その姿がそう認識させていた。炎の中でもススやホコリの全く付いていない真っ白のスーツ、一目で欧米人と分かる澄んだ肌と端正な顔立ち。そして炎の青さを持つ瞳は冷笑とも嘲笑とも見える揺らめきを湛えている。 その男が片手で軽々と妻を持ち上げている。非現実的な世界観でも夢ではないことは分かる。非現実的すぎるからだ。 「セキくん…逃げて…」 妻は私を“セキくん”と苗字で呼ぶ。私の名前がセキ・キセキと同じ音が重なることが理由だが、結婚して妻の苗字が関になってからはいつも直すように伝えている呼び方。 それでも、彼女に苗字を呼ばれる度に安らいでいることに気が付いた。熱気の中、首を支点に釣り上げられながらも私を案じる妻を見ながらも、その言葉によって僅かながら緊張が解れる実感と共に。 「お前…何をしているんだ!」 「やあ、お邪魔してますよ。でも、あなたは邪魔しないで下さいね。私のお楽しみ中だ」 妻の全てが私の細胞に勇気を与えてくれるのを実感する。手近にあった椅子を持ち上げる。 木でできている背もたれの部分は燃えだしているが、鉄が露出した足の部分は持つことが出来る。伝道熱で掌が解けるような痛みが有ったが、炎よりも熱い意志がある。彼女を助け出すという意思が私の中に輝いているのを感じる。 椅子を男に向けて振り下ろす。しかし椅子は届くことなく、私は両足に腹部に激痛を感じた。 「う、ああああっ!」 「邪魔をするなと言っているのに…」 いつの間にか、男の空いていたはずの手元には妻の身長と同じくらいの大ぶりな剣が出現している、そして私の両足は“消滅している”。傷口から血は出ない、焦げて炭化しているからか。だが痛みは出てくる。想像は絶するというほどではない、だからこそ辛い。気が狂いそうになる。 「せ、き、く…」 燃え盛る炎の中、彼女は細い首を絞めつけられながらも案じてくれる、悲壮な中でも私の体は動けなくなった。 これは理不尽だ。最愛の人がこんな目に有っても動けない、殺されそうになるのは理不尽だ。 「…関くん、ごめんね…」 「愛ですねぇ。こういう状況で。こういうことを言えるっていう」 何を謝っているんだ。いつも君が居た。野球で負けたときも学校に落ちたときも、「カッコよかったよ、関くん」 そう全ての挫折も失敗も受け入れられたのは君が言ってくれたからだ。 そんな感情を飲み込むように、“男”は笑い、何の前触れもなく、彼女の首を圧し折った。 「…まあ、えっと…申し訳ない、なにか気の利いたことを言う場面なのでしょうが…アドリブに弱いもので…」 彼女が死んだ。殺された。なんでなんで?なんでなんでなんんんでなんでだぁ。興奮し絶叫する私を、その男はひどく冷たい目で見降ろした。 「なぜ殺人が罪なのか、知っていますか? それはね…」 その耳打ちは、ゴウゴウと燃え盛る炎の中でも鋭利な氷柱のような脳裏に刻印として記された。 言い終わると、その男は彼女の体を投げ捨ててから悠々と玄関へと向かっていく。フロアマットは油を吸っているように炎上しているが、その男は何事もないように炎の中を歩いていく。 重い体を這いずって、投げ捨てられた彼女の元へと急ぐ。もう何も考えられない。自分がどうすべきなのか、どうなるのか。 「蒼子…ごめんな、ごめんな…」 彼女を抱きしめながら、私の意識が遠退いていく。理不尽だ。なんでこんなことになるんだ。何を呪えばいい、何を思えばいい。私はどうすればいい。 「このままじゃ、このままじゃ終わるのか、これ、なんなんだよ」 「教えてほしいのか?」 いつの間にか現れていた大男。年齢でいえば老人というべきだが、天井まで届きそうな身長、どこを比べても私の三倍の太さはある鍛え抜かれた体格。 炎に照らされたその顔には髭が蓄えられ、闇のように澄んだ笑みが染み込んでいる。 「誰だ、あんた…」 「ほお、儂の名を聞くか? 儂の名はラオコーン、ラオコーン・ギニヴガング。世界の初代征服者となる男じゃあ!」 意味はまったく分からないが、本気で言っているのは分かった…そこで私の意識は無くなった。
自分がなぜ生きているのかも理解できず、視界に入ってきたのはくすんだ白い部屋と日本人ではない少女。 ここが病院なのはなんとなくわかったが、どうして病院に居るのかが分からなかった。そして少女は人懐っこい笑顔を浮かべ、持っていた漫画本を置き、元気よく口を開いた。 「おはよう。関 輝石さん、だよね。どっか痛くない?」 「痛くは…ない」 「手当てをしたからね。私は傷を治せる魔法が使えるから。それを使ったんだよ」 喜ぶところなんだろうな。ただし今の私にとって足の有無なんて興味が無い。これからひとりで生きていき、ひとりで死んでいくという事実に比べれば。 あの男に襲われる前までは確かにあった希望も不安も、全て私の中には残っていない。どうだっていい。 「もうちょっと質問とか無いの? “魔法って何だい?”とかさ」 「…悪いんだけど、ごめん、何をしたら良いのか…何を思えばいいのか…分からないんだ」 「悩んだら世界征服に決まっている!」 ドアを蹴り破り、勢いよく入って来たのは先ほど炎の中に現れた大男だ。マントを翻し、両手には輝く指輪が綺羅星のごとく光る。高笑いを上げるその男は非現実的なまでの存在感を持っていたが、その手にはオレンジ、バナナ、ブドウ、メロンが乗っている。 受け取れと手でジェスチャーする大老人。少女はバナナを受け取った。仕方なく私はブドウを受け取る。 どうリアクションを取れば分からなかった。少女は“ラオコーン様、カッコいいです!”とニコニコしながらバナナを頬張り、当のラオコーンは私のリアクションを待ち、私が何もしないので気分も悪そうに床に座った。座高が高すぎるため、床に座ってもベッドに座っている私と目線が合っている。 「食べながら話していいか?」 ラオコーンは手慣れた様子でメロンに指を差し込み、ミカンやオレンジ類をそうするように皮を剥き、丸かじりにしていく。 「キサマの女を殺したのはイワン・ノヴァク。元々は世界征服の手駒だったが裏切った」 「そうですか」 「そうだ」 「…」 「…」 「…」 …。 ……。 ………。 …………。 ……………。 ………………。 ……………。 …………。 ………。 ……。 …。 沈黙に耐え切れず、少女が口を開いた。 「私の名前はアイリス・ド・ドリア! 日本の人は中尾隆聖のモノマネしながら“ドドリアさん!”て呼びたがるけど、なんとなくムカつくから呼ばないで! こっちはラオコーン・ギニヴガング様! ふたりともレネゲイドウイルスっていうウイルスに感染してるの! この病気になると魔法が使えるようになるわ、で、お兄さんの奥さんを殺したのもオーヴァード、その名はイワン・ノヴァク! お兄さんも、さっきの炎の中でオーヴァードとして覚醒しているはずよ!」 「そうですか」 「そうだ」 「…」 「…」 「…って、黙まんにゃぁァアア! 重いわさ! 空気が! 重いわさ!」 「ごめんね、お嬢ちゃん、私は…その、どうしていいか、わからないんだ」 「分からない?」 「超能力とか魔法とか…ゴメン、妻が死んだらこのあと、どこで誰が何をしても…多分、どうでもいいんだと思う」 少女、アイリスは口を紡いだ。困らせてしまったかな。だが今度は沈黙にはならない。ラオコーンが髭を揺らす番だ。 「ノヴァクがなぜキサマの妻を殺したか、分かるか?」 なぜ、妻は殺されたのか…? 考えても見なかった。考えようとするほど頭が動いていなかった。 「分かりません」 「趣味だ。休日にドライブをしたり、将棋仲間の家に遊びに行ったり、世界に四枚しかないカードの内三枚集めて残り一枚を破り捨てたりするのと同じに、な」 心の琴線に引っかかった。音がする。空っぽの私の中に響く。感情が戻って来たんじゃない、初めての感情だ。 「そいつは…ノヴァクって男は…私たちの…俺と蒼子の幸せを壊しておいて…今も笑っているのか?」 私の口は考えるより先に動いていた。趣味ってどういう意味の言葉だっけ、理由ってなんだっけ? ラオコーンとアイリスは肯定の表情を浮かべている。アイリスは言葉を持っていないという様子だが、ラオコーンは迷わずに言葉を持っている。 「趣味だ。青眼の白龍を三枚集める力が有れば、他人のものを奪い取っても良い。それを世界は力と呼ぶ。力が有る奴が無い奴を虐げる。それを節理と世間では呼ぶ」 「理不尽じゃないか! そんなの! 弱くちゃ、弱くちゃ幸せになっちゃいけないのかよ! 俺たちが何をしたっていうんだよ!」 気付けば私はラオコーンの胸倉を掴みかかり、そして殴り飛ばされていた。ラオコーンに、ではない。アイリスちゃんに、だ。 「甘えないで、死にたいの!」 一瞬意味が分からなかったが理解した。ラオコーンの鍛え抜かれたパンチは簡単に私をなぐり殺せるだろう。そして私が殴り掛かれば手加減なんてせずに殴り返すだろう。 アイリスちゃんは私がラオコーンを殴る前に私を殴り飛ばしてくれたのか、と気づくが、私の中にあるこれはどうすればいい。名前もわからない黒い空間。暗黒劫洞、ブラックホールのような何かが俺を吸い込もうとしている。 「爆発する一瞬に向けて果てしなく膨張を続け、何もかも飲み込む。それの名前を教えてやろうか? 若造」 「…教えてください」 「憎悪だ。最も非生産的でありながら、最も世界を発展させた。石油・原子力に並ぶ人類のエネルギー源だ」 「ノヴァクを殺せるなら何も要らない、奴の居場所を教えてくれ」 「居場所だけじゃダメ! 絶対返り討ちよ! あなたはまず、自分のシンドロームを確認しなさい!」 症候群(シンドローム)? 意味は分からないが理解した。先ほどから憎悪のお蔭で頭が回るようになっている。 自分の中で新しい何かが生まれている。憎悪以外にあるエネルギー。直感的に理解できる。これが私の復讐のための最大の道具だ。 「見ていてください」 ぶるぶるとさっき渡されたブドウが震える。服を脱ぎ捨てるように、脱皮するように、ブドウの実から紫の皮が剥げ落ち、緑色の実が露出した。 それは全ての実で同時に起こり、一房のブドウがマスカットのように緑色になるのに、大した時間は要らなかった。 それを見たアイリスはただでさえ大きい目をさらに大きくし、ラオコーンはブドウを無言で奪い取り、口に入れ、房だけキレイに吐き出して見せる。 「すごい! 初めてでこんな細かい作業をするなんて! オルクス…でいいんですよね! これ!」 「オルクス?」 「念動力のシンドロームですよ! すごい、じゃあ、あのドアをくっつけてみてください!」 興奮気味なアイリスがラオコーンが蹴破ったドアを指さすが、何を言っているんだ? 「ゴメン、そういうのはできる気がしない」 「あ、そうですよね。初めてですもんね…じゃあ…何ならできそうですか?」 「スイカとか栗でも行けそうだ」 「なるほど! そこまで精密な操作ができるんですね! 他には?」 …ん? 「桃かサクランボでもなんとかなりそうだよ」 「…えっと?」 なんだか知らないが、アイリスが何かに気が付いたように凍り付いた。 何かが変だ。それはわかる。 「若造、キサマの能力を一言で説明してみろ」 「皮が向ける。野菜でも果物でも。触れて念じればなんでも剥ける」 「…コンクリートの壁を破壊したり、人間を弾き飛ばすことは出来ないんだな?」 「できそうにありませんね」 ここに来て初めてラオコーンの表情が変わった。ブドウが不味かったのか、不愉快そうな笑い…苦笑という。 「…アイリス、お前に預ける。適当にやってくれ」 「ちょ、え、ラオコーン様ぁ〜〜〜!?」 ラオコーンはそれ以上喋らず、さっきまで靡いていたマントを引きずりながら静かに出て行った。 「…もしかして、私の能力って…使えない?」 沈痛そうな面持ちでアイリスはうなずいた。理不尽という言葉をよく使う日だ。
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次回予告! 関輝石、その能力は“野菜の皮を剥く能力”! 主婦的には微妙に助かるぞ! でも他の能力の方が日常生活は助かりそうだ! バナナの皮なら相手の戦闘移動の範囲を狭められるぞ! キジ「っく、足元がバナナの皮で埋まっている! 動けないぞ!」 関「ふははははは! どうだ! 予想もしていなかっただろう!」 キジ「くう、今朝からバナナがどこの店でも買えなかったのか、このためか!」 関「その通り! 朝から買占め、台車で押してガラガラ運んでいたのはこのためだった! そして私は剥いたバナナを高速で食べることで体力回復!」 キジ「こちらの移動距離を削り、自らの体力を回復させるなんて…!」 関「正に」
最 強 の 能 力 !
※キジくんは本編に出ません。次回予告じゃないよなコレ。やり直し。
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次回予告!(二回目) 彼女の名前はアイリス・ド・ドリアちゃん、使えない部下をまたラオコーンオジサンに押し付けられた! 頑張れドドリアさん、明日はきっと来るぞ! 部下にベジータって名前が来たら気を付けろ! 確実に死亡フラグですよドドリアさん! あとラオコーンがいきなり『私の侵食率は53万です』とか言い出したら逃げるんだ! 多分、敵がブチ切れて金髪になって負けるから! ツンツン頭にしたらとか言い出したり、トンガリコーンを乗せようとする同僚に負けたらダメだぞドドリアちゃん! 頑張れドドリアさん! なぜかアイリスって可愛い名前じゃなくてドドリアさんと呼ばれちゃうけど、それは皆に愛されているからだぞドドリアさん! って、あああー! キジくーん! 逃げろー! 今の彼女は機嫌が悪いんだー! ってう、あ、こっちにくんなキジ! って、マジでちょっと、あ、ぎゃ(フェードアウト)
※キジくんは本編に出ません。次回予告じゃないよなコレ。やり直し。
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次回予告!(三回目) 彼の名前はラオコーン・ギニヴガング! 好きなフルーツはオレンジ、バナナ、メロン、ブドウ! そして手には指輪が光るぞ! …つまり! 「シャバドゥビダッチヘンシーン! シャバドゥビダッチヘンシーン!」 「ロックオン! セイヤァッ!」 ラオ「…言っておくが儂はドライブが趣味じゃないぞ。自分で走った方が早い」 キジ「…え!? じゃあ、世界征服をしたいという欲望で青春スイッチを入れたりしませんか?」 ラオ「…さあ、お前の元ネタを数えろ、大体は分かるだろう?」 キジ「キバって数えようかと思えますけど、俺、三乗の数とか分からないですよ。計算苦手なんで」 ラオ「儂も全てを司っているわけではないからな、シュっとは数えられんな」 キジ「え? 司ってないんですか? 嘘だそんなことー! これも全部ラオコーンさんの仕業だと思ってたのに!」 ラオ「司ってなくても生き残れるから安心しろ、目覚めろその頭。大丈夫だ」 オチません。
※キジくんは本編に出ません。次回予告じゃないよなコレ。やり直し。
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次回予告! 復讐を支えに、否、復讐だけで生きることを誓った関輝石。 彼の人生は、多くのオーヴァードたちの中では決して特別なものではなく、ごくありふれた悲劇だった。 奪われた日常を憂い、未来に光が見えなくとも、男は立ち上がる。 手札はブタ。復讐というゲームに降りるという選択肢は存在しない。 その果てに何が有ろうとも、相手のカードがファイブカードやストレートフラッシュだと分かっていても、それでも行け。 神に祈るな、奇跡は自ら作り出せ輝石! 手が無いなら作り出せ! 次回【絶大零度】、お楽しみに。
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【KOB】 :FHのセルの一つ。正式名称はキング・オブ・バーブレス。意味は蛮族の代表選手。 王ドロボウ…じゃなかった盗賊王? なんのことですか? FHのセルではあるが、“UGNを倒した後の世界”に目を向けている集団であり、筆頭のラオコーンは“世界征服”を標榜している。 UGN壊滅後の敵は他のFHと公言しているが、他の何を考えているか分からないFHセルに比べて、UGNのある間は味方であり続けるという透明性から逆に信頼性を底上げしている。 “これから征服して自分のものになる世界を破壊してどうする!”という主張から、大規模破壊や大規模殺人には消極的。 そのため、UGNからも優先順位の低いFHセルとして扱われており、表舞台には名が上がらない。 しかし、その戦闘動機からメンバーは全員が武闘派であり、ラオコーンを中心として高い結束を持つ。 また、なぜか構成員のシンドロームに偏りが強く、キュマイラは半数以上のメンバーが取得しているが、ノイマンは一割を遥かに下回る。 構成員は“ラオコーンを王にしよう!”とするラオコーン派、“途中でラオコーンを裏切って世界を横取り”の裏切り派に分かれる。 しかし、それもほとんどのメンバーが秘密にしておらず、『ノイマンなんてクズ能力じゃなくて男ならキュマイラでラオコーンをぶっ殺す!』というタイプが圧倒的に多い。 番長連合か何かである。青春し過ぎ。
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シーン2 【絶大零度】 ( No.2 ) |
- 日時: 2014/12/17 01:27
- 名前: 半忍 サガ氏
- あれからどれくらいの時が立ったのだろうか。一週間だろうか、一か月だろうか、一年だろうか。時間の感覚が無くなっている。
仕事に行かなくなり、二四時間サイクルでの生活を止め、陽が昇っても陽が落ちても訓練をしている。成人してから体重が五割増しになるとは思わなかった。 妻との思い出が染みついた衣服は火事で全て燃えてしまったから服はすべて他の“メンバー”の服を借りていおり、困りはしなかったが。
アイリスが最初に教えてくれたのは、この世界の構造についてだった。 今現在、報道こそされないがレネゲイドというウイルスの世界的な流行が続いている。このウイルスに発症した人間は、電撃を操る、超人的頭脳を持つ、高速で移動できる、重力を操るなどのエフェクトを操れるようになる。 これらのシンドローム(症候群)を操ることが出来る人間がオーヴァードであり、妻を殺したイワン・ノヴァクと言う男や、ラオコーン、アイリス、そして私もそうだという。
今現在、ふたつの大きな勢力に所属するオーヴァードたちが戦いを繰り広げている。 ひとつは、ウイルスの存在を隠蔽して世界の秩序を保とうとするユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク、通称UGN。 もうひとつ、ウイルスの存在を公表して世界を刷新しようとするラオコーンやアイリスも所属し、私も所属することとなったファルスハーツ、通称FHだ。他にもいくつか有るらしいが“まずは鍛えなさい”というのがアイリスの言。 今はちょうど時代の変わり目に居るのだと思う。UGNかFHか、どちらが正しいのか? どちらが勝つのか? そんなことは分からないが、私は私のすべきことをするだけだ。 「――こっちに来ました。UGNエージェントです」 訓練の一環として参加している実戦。高層ビルの屋上から双眼鏡を覗き込めばアスファルトを走る人影がいくつか見える。 真昼のスクランブル交差点、普段の喧騒がウソのような静けさ。信号機が変わっても、人も車も赤を見せられ続けているようにその場に留まっている。 これがオーヴァード共通の超能力である“ワーディング”であり、レネゲイドウイルスに発症していない人間は全て行動不能に陥る。私自身のシンドロームは戦闘向きではないが、ワーディング下でも行動不能にはならないため、監視員の代わりにはなる。 私の連絡を受けて町中に散らばっていたFHメンバーが集まってくる。ライオンやコウモリ、パンダにヤモリ、全員が二足歩行に人間サイズの怪人軍団。 FHの中でも、ラオコーンの持っている部隊・KOBにはキュマイラと呼ばれる獣人化能力者が多く偏っており、追い詰められているUGNメンバーたちが可哀想な絵面になっている。 「お前ら…真昼間にこんな所でワーディング…正気かっ!」 「正気だよ、隠蔽は全部UGNでやってくれるんだろ。楽させてもらうぜ」 「FHはいつもそうだ。お前たちにこの世界を渡すわけにはいかない!」 「今日はあんたたちが売った喧嘩でしょ。売った後にゴチャゴチャ…言わないでほしいわね!」 集団戦闘が始まった。ここからは監視の仕事は終わりだ。ビルの壁面を伝うように窓の縁を足場にして落ちるように駆け下りる。 訓練を始めてら最初に覚えたのがこのパルクールと言うスポーツの技術を応用する移動方法だった。ノヴァクに遭遇したとき、絶対に逃がさず、追い詰めるための技術として。 着地すると同時にUGNメンバーの背後から後頭部に左肘を捩じ込み、昏倒させる。警戒させずに筋肉と骨の薄い脳幹に強い衝撃を与えると高い確率で人間の意識を飛ばせる。致死率や障害が残る可能性が高いので、オーヴァード以外には決してやってはいけない。 私はビルを駆け下りて乱れつつある呼吸を整えるために大きく息を吸う。その間に周囲を見渡し、FHと戦いからUGNのシンドロームを確認する。 「(女のソラリスとバロールのクロス、子供のエグザイルピュア、あの男は――)」 叩くべき対象を見つけ、私は大きく息を吐き出す。作戦と覚悟が決まった。走り出す。すぐに標的の男と目が合う。男は拳を突き出す。電撃か炎か重力球か、見た限りトライブリードの男の必殺技だろうが発動には逡巡する。ワーディングによって身動きできない一般人を巻き込むということに気がついて。 「お前たち、KOBはいつもっ…!」 FHの中でも、ラオコーンのKOBは特異な部隊だった。獣人化など接近戦に特化したオーヴァードが極めて多いのだ。 人類を護るという大義を持っているUGNは、ワーディングで動けない人混みの中では遠距離攻撃を使うのにワンテンポのズレが生じる。私は理解した上で恐怖を捨て、覚悟を決めて前に出る。 手の届く距離まで近づいたところで、私は相手の襟を掴みかかるが、トライブリードの男は私の両手を掴むことで防ぐ。予定通りだ。私は袖の中にある野菜に向けてエフェクトを起動する。高速で皮を剥ぎ取る私にできるたったひとつの超能力。タネは袖の中のトウガラシ。催涙スプレーは大概が主原料として唐辛子を使用しており、もちろん、元のままでも強い目潰しとして使える。こう使えば指を一切使わずに奇襲として目潰しができる。 むせ返るUGNをそれ以上相手にせず離れる。私の仕事は倒すことではなく、戦闘不能の人間を増やすこと。無差別に電撃や重力、炎は使えない。ワーディングで動けない無関係な一般人だけでなく仲間を巻き込む可能性も有る。 結局のところ、肉体を鍛え、恐怖を克服する訓練をしたとしても、捨て身で接近し目潰しをするのが私のオーヴァードとしての限界なのだ。 他のFHメンバーの邪魔にならないように下がり、牽制と警戒に徹する。奇襲と目潰しでふたりを行動不能にしているので戦力にはなっているが、いつか来るであろうノヴァクとの戦闘時、これで事足りるのか?焦燥感が募る中、私の携帯電話が鳴った。 「お疲れ様です。関です」 電話の相手は隣町で戦闘している別働隊だった。そちらではジャームと呼ばれるUGNとは別種の敵と戦っていたはずだが、そこでのイレギュラーな事態が発生したという連絡だった。 私は内容を確認すると、ワーディングで動けなくなった一般人からキーを奪い取り、バイクにイグニッションを掛ける。 とにかく直線距離を行く。行き止まりが有ればバイクを乗り捨ててよじ登って建物を越え、ワーディングで新しくバイクを調達する。それを何度か繰り返すことで目的地のビル街へと到達していた。 そこでは、既にジャームは殲滅され戦闘は終わっていた。 ビルとビルの間、狭い路地裏で燃え尽きる一体のジャームと、その隣には白いスーツの殺人鬼…イワン・ノヴァク。 「今日はジャームでガマンしようと思っていたんですが…殺されに来てくれたんですか」 待ち望んでいた。どんな事情で、どんな理由でここに居るのかは分からないが、私は復讐するだけだ。 「どうも。お久しぶりです。KOBに入ったんですね、関さん」 「…私を覚えているのか」 「それはもちろん。殺そうとした人のことは忘れませんよ」 言葉の意味を聞き返すことはしない。この男の“ルール”はアイリスから聞いて居る。 イカれた殺人鬼ならば、必ず何かのルールを持ち合わせている。例えば女性しか殺さない、白人しか殺さない、月曜日にしか殺さないなどがある。この男のルールは“一回につき一人しか殺さない”ことだった。訊いた瞬間、私はまた憎悪の感情を募らせた。 あの日、殺すのは妻ではなく“私でも良かった”はずなのだ。 「どうして、一度に一人しか殺さない?」 「以前、天ぷらそばかチキン南蛮か、選びかねている人を見たことが有ります。あなたならどうします?」 「…黙って喋れ」 「最も愚かな選択肢は、両方注文して半分ずつ食べて、両方を食べ残すということです。それは両方に失礼だ。日本のモッタイナイという概念からしてもね。私も一人を殺せば満足できるならばふたりを殺すのは“モッタイナイ”と考えるだけですよ。生かしておけば、こうして殺されるために現れてくれているわけですしね」 芯から熱くなっていると感じる。遠回しな物言いを頭が理解することを拒む。意味のないことだ。こいつの言葉はもう理解しない。殺す。 袖の中に唐辛子は目潰しを三回は出来る量が有る。炎のエフェクトで防ぐことは難しくないだろうし、接近しなければ使えないが、接近する手段はいくつか考えている。 だが、私の足は動かなかった。恐怖からじゃない。決して違う。ノヴァクの視線が私の背後の空間に向けられていることに気がついた。 「つくづく縁がありませんね、関さん。あなたはまた今度ということで」 「悪いね、お兄さん。僕が先約だ」 背後から掛かる聞き覚えのない声に、私は後ろを振り返ろうとするが、足が後ろにも動かない。足が文字通り凍り付いている。氷で固められている。 私を追い抜くように前に出ていくひとつの背中。法衣に編み笠、首から大玉の数珠を下げた虚無僧。 表情は分からないが、中身は若い男であることが声からわかり、そしてイワン・ノヴァクへの深い憎悪が全身から伝わってくる。 「ミサキさんのお兄さんですよね。今日は懐かしい人に会う日だ」 「僕は岬春人。弟の…源次郎の仇討ちに来た」 既に戦闘は始まっていた。岬春人を名乗った虚無僧の足元から波紋のように冷気が広がる。十二のシンドロームの一つ、サラマンダーによって霜柱が地面に突き立っていく。 相対するイワン・ノヴァクの剣が炎を纏う。炎もサラマンダーのシンドロームのエフェクト。冷気と熱、相反するふたつの現象を熱という観点から極大的に司る攻撃色の強いシンドローム、それがサラマンダーだ。 「これだけ、ですか?」 「まさか、でしょ」 岬春人が編み笠を脱いで力を込める。すると一瞬のうちに編み笠は解けて反った棒のような形に変形した。笠を脱いで現れた端正な表情がニヤリと笑う。 「氷晶弩弓群(クリスタル・ボウズ)ッ!」 現れた棒の中央を握り、弓矢を番えるように…いや、それは弓矢だった。笠が変じた弓に氷の矢を構えて解き放つ。 ノヴァクは舌打ちし、刀を踏み台にして上へと飛び上がって避けた――上手い。ここのような狭い路地裏ならば左右に避けることができず、弓矢の利点を最大に生かせる。 外れた弓矢は地面に叩きつけられると同時に冷気をまき散らし、瞬時に道を塞いでいく。 「そのまま上へ、上へと逃げ続けてみなさい。天国までノンストップですからね」 話している間も精密機械のように虚無僧青年は弓矢をワンモーションで連射する。ノヴァクは炎で壁に小さな窪みを開けて、足場代わりに上へ上へと避けるが、徐々にノヴァクの表情と周囲の空間が暗くなっていた。外れた氷の矢が空中で氷の塊に変形し、路地の上に天井のように降り積もっていく。 氷の塊がお互いに重なり合い、光を、そしてノヴァクの行く手を遮っているのだ。全て計算した上でここで戦いを挑んだのか。 「絶対零度近くまで下がっている氷を…これほど早く、大量に操作するとは…!」 「逃げ場、あげませんから」 「ええ、逃げませんから」 闇に染まりつつあった路地裏が一気に明るくなった。炎によって太陽のような光を放つノヴァクの姿に、一瞬前までそこにあったはずの氷の天井がすべて溶解した。春人の表情に明確な絶望が浮かんでいた。 「知っていますか? 宇宙の中心まで行っても冷たさはマイナス二七三度に過ぎませんが、宇宙の片隅にある地球の最も熱いマグマの温度は六千度を超えます」 ノヴァクが炎を背負い、上空から圧し掛かるように岬春人へと襲い掛かる。あまりの熱量に建物自体が消しゴムを掛けられたように消失…いや、焼失していく。私を縛り付けていた氷ももろくなり、辛うじて後ろに跳んで避けた。 結果、一階部分が大きくえぐれてビル二本が音を立てて傾き、崩落は時間の問題だった。ノヴァクの姿を探すが、ワーディングにより動けないふたりのOLが目に入った。頭上では窓がひび割れ、破片が今にも…崩れ落ちた! 「なんで、っだああああ!」 無意識に体が動いていた。体当たりのように両手で浚って飛び退き、頭上の危険のない位置に寝かせ、ノヴァクたちの気配はすぐに見つかった。炎の中から飛び出してくるふたつの人影。 ひとつは大刀片手に白いスーツの男・イワン・ノヴァク。もうひとりは火達磨になって飛び出してきた物体、恐らく岬春人。脂が燃えている匂いがする。しかしオーヴァードはこの程度では死なない、死ねない。 「リザレクトォっ!」 宣言と同時に火がふり払われ、炎の中から全裸の岬春人が現れた。ワーディングに並ぶオーヴァードの基本行動、死にさえしなければ復活することができる。代償は支払う必要があるが。 その代償を知っているノヴァクは冷徹に炎を発生させる。岬春人も瞬時に氷の壁を発生させるが、物の数でもないとばかりに消滅し、再び炎に包まれる。そこからはリプレイ動画のようだった。何度も全身を焼かれながらもその痛みに耐えて復活する春人、笑いながら何度も同じ攻撃を繰り返すノヴァク。 「源次郎ォオオ! 兄ちゃんは、兄ちゃんは、負けねぇええ、負けないからなぁあああああ!」 何度目かの復活の後、春人は――恐らくノヴァクに殺された弟さんの名前を叫び――終わった。人間として。オーヴァードは復活のたびにレネゲイドウイルスに侵食される運命にある。 その侵食が一定を超えたとき、オーヴァードはオーヴァードではなくなる。春人の全身が水晶のように高質化し、風船が膨らむように肉体全体が大きくなっていく。その姿は氷で出来た怪獣そのもの。オーヴァードが自我を失った姿、ジャームだ。 春人だったジャームが吼える。その一声に彼の眼前に氷の塊が無数に出現、ノヴァクに襲い掛かるが、炎の壁に遮られて届くことはない。 「お疲れ様でした」 感情の抑揚も見せずにノヴァクは炎の剣を振るってジャームの体を左右に両断し、あっさりと戦いが終わった。 ジャーム化を待たずとも焼き殺すことができたはずだが、ジャーム化するまで侵食率を上げさせてから殺したのだ。それがノヴァクという殺人鬼のルールだとでもいうように。 どう攻めてもノヴァクを倒すルートが見えない。 殺す方法の分からない私と殺す気のないノヴァクの間へ、倒壊しそうなビルをすり抜けて遮ったひとつの影、アイリスだ。 「…あなたですか。レネゲイドビーイングは相手にしない主義なんですよ、アイリスさん」 「この人は殺させないわ」 「殺す気はありませんよ。今日はこの…えー…名前、なんでしたっけ? 今の人」 「岬春人だろ」 「そんな名前でしたか。今日は彼が私の相手をしてくれた。チキン南蛮を食べたら天ぷらそばは要りません。帰っていいですよ」 ふざけるな、そう叫びたかったが体が動かなかった。妙にツヤツヤと満たされた表情でノヴァクは跳んだ。残されたのは崩落しそうなビルがふたつと、そして絶望だけだった。 「心配したよ、いきなりひとりで先行したって聞いたから、急いで来たんだけど…どうしたの?」 眼球が熱い。涙が止まらなかった。何の涙かすらわからないが、止まらない。 「ちょっと関さん? 大丈夫? もう大丈夫だよ、大丈夫なんだよ?」 「違う、違うんだ。大丈夫じゃないんだ…私はヤツを…なんで、チクショオ…もっと強いシンドロームじゃ…」 「あなたは悪くないの」 アイリスは立ち上がれない私の頭をぎゅっと抱きよせた。何度かアイリスは私の訓練全てに付き合ってくれていた。私の衣服のサイズが変わり続ける中、彼女の姿は一切変化せず、初めてFHの病院で出会った時のまま、少女の姿で。 その訓練中、肉体を極限まで鍛え続けた暗殺技術を磨き続けてきたが、それでもノヴァクには触れることは出来ないし、武器の類ではリザレクションを一度使わせられるかどうかも怪しい。詰んだ。 「知ってる? 蒼子さんが殺されてから…もう三年になるんだよ。頑張ったよ、関さんは…もう、休んでも良いんだよ」 「…やす…む?」 「記憶を操作できるシンドロームが有るって教えたよね? もう良いんだよ、関さんは…全部忘れて、普通に戻って生活していいよ。なんだったら…UGNの人たちに紹介したって良い。帰れるんだよ、普通に」 何度も再生を繰り返してきた記憶が脳裏に高速で駆け抜ける。妻との出会い、妻との思い出、妻の死、妻の…。そして次に思うのは、妻の居ない思い出を確かめる。 「蒼子のことを忘れたら、私には何が残るんだ…?」 「私じゃ…ダメ…なんだよね」 アイリスが何を云ったのか、よく聞き取れなかった。倒壊するビルの壁を突き破ってひとりの男が飛び出してきた。ラオコーン、両手には何人もの人間を担いでいる。 「アイリス、UGNがそろそろ到着する時間だ。退却だ」 「でも、関さんが…」 「若造、野望と夢の違いを知っているか?」 両手に抱えた人々を投げ捨てながらの唐突な質問だったが、私の涙は不思議と納まり、言葉を探していた。 「…わかりません」 「夢とは叶えばいいというボンクラどもの妄想、野望とは必ず達成するという信念のことだ。儂は儂の世界征服と言う野望のために必要なものは全て奪い取る。 そのためには駒が一枚でも多く必要だ。キサマもその駒のひとつ、こんな所で苦戦するなんぞ、キサマは儂の野望の障害となるつもりか?」 「…蒼子のことを忘れて、あなたの野望の駒になれ、と?」 「違う! 仇を討とうという信念も捨てた駒なんぞ要らん! その誓いが夢ではなく、信念ならば必ず達成しろと言っている!」 ビルが音を立てて傾き、濛々とした粉じんの中、ラオコーンの両手の指輪が光った。 「儂は全てを手に入れるという信念を持っている故に何一つ捨てることも許されん。だが貴様の信念ならば他の全てを捨てて見せろ」 「ジャーム化ですか?」 「貴様の頭には何が詰まっている!? ジャーム化なんぞせいぜい自我を捨てる程度のことだろうが! それ以上にもっと捨てられるものがあろう!」 ジャーム化以上に自分自身を捨てる? ラオコーンは更に言葉を続けた。私とアイリスはその言葉に驚きながらも、反面、気が付きつつあった。その可能性に。 だが、見ようとしなかった。それは不可能だと思おうとしていた。アイリスが抗議の視線を向けるが、ラオコーンは満面の笑みを湛えていた。 「我が“野望”のため、貴様の復讐に手を貸してやろう」
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次回予告! 三年間の訓練をしても炎を突き抜けられなかった輝石。 どうですか、解説のクロックさん。 クロ「あぁー…しょうがないんじゃないか? しょせん皮むき能力だし」 キジ「もう素手で戦ってたからなー…。パルクールって凄いからな」 クロ「あぁー、三年間…よく頑張ってたからなー…屋根の上を走るわ、柱で懸垂するわ、人の瓦を素手で割るわ…」 キジ「? よく知ってんな? クロックさん?」 クロ「あぁー…俺の家の構造が都合がいいっつってな。俺が寝てても何をしてても訓練に使われたわ」 キジ「…屋根の上を走る…柱で懸垂…瓦割り…」 クロ「最近、雨漏り止まんねえ」
※キジくんもクロックさんも本編に出ません。次回予告じゃないよなコレ。やり直し。
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次回予告! 春人「源次郎!」 源次「兄さん!」 春人「源次郎ぉぉ!!」 源次「兄ィィさぁあん!」 春人「源ぇええンン次郎ォオオオオッ!」 源次「兄ィイイイイイさァアアアアアアアぁああああッッ!」 キジ「…ビックリするくらい、元ネタの原型留めてないな、コイツら」 クロ「あぁー…本人たちが幸せならいいんじゃないか?」
※キジくんもクロックさんも本編に出ません。次回予告じゃないよなコレ。やり直し。
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次回予告! 殺人鬼、イワン・ノヴァク。 なぜ殺すのか? なぜ狂うのか? そう尋ねる時、ノヴァクは聞き返すことだろう。 怪人誕生の背景、モンスター、イワン・ノヴァクとはいったい何者なのか。 次回、【食欲大盛】
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【岬春人(みさきはると)】 ●ブリード:クロスブリード(サラマンダー/モルフェウス) ●ワークス/カヴァー FH構成員/住職 ●侵食率82% ●男性 ●17歳 :イワンに義理の弟であった源次郎を殺されたことから復讐鬼となった男。 リザレクションを繰り返し、ジャーム化してまでイワンへと食い下がるが、惨敗。 能力はイワンと同じであるが、炎は吸収されてしまうため、冷気へとシフト、修行した。 能力名は氷晶弩弓隊(クリスタル・ボウズ)。
名前の原点はとある小説のとあるキャラクターです。ボーウズラ…ボーイズラブの方向に走っているのはその影響か。 能力は特にアイデアなし。炎の大剣の敵だから氷の弓矢でいいだろう、的な。 イメージソースは特になし。
“ライト・エレメンタル”【アイリス・ド・ドリア】 ●ブリード:トライブリード(ブラム=ストーカー/キュマイラ/ハヌマーン) ●ワークス/カヴァー レネゲイドビーイング/童女 ●侵食率67% ●男性 ●??歳 :“何か”のレネゲイド・ビーイング。 自分が何から生まれたかを知らず、どこから来たかを知りたがっていたが、手掛かりはなく絶望しかけていた。 そんな中、ラオコーンという観察対象を見つける。自分の正体とかどうでもよくなるレベルの存在感に、ラオコーンと出会い、本気で笑うことを知る。 世界征服には大した興味はないが、KOBという居場所を守るために戦う。
名前の原典は某小説。ダウトーーーー!…え? いや、嘘なんかついてないですよ。ただ叫びたくなっただけです。 能力は外見に似合わず白兵戦タイプ。ハナカマキリの怪人へと変身、カマキリの静のハンティングスタイルで待ち伏せが基本戦術だが、ハヌマーンと併用することで静と動を使いこなすことが出来る。 ただし、もうひとつのブラム=ストーカーの能力は、カマキリに血液が無いため、怪人体では一切使用できず、併用できない。主に他者の回復用である。
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シーン3 【食欲大盛】 ( No.3 ) |
- 日時: 2014/12/17 01:25
- 名前: 半忍 サガ氏
- 私ことイワン・ノヴァクが最初に殺人を犯したのは幼稚園でのことだ。
チープなオモチャが好きだった。振ったり回したりすると形が変わる日本製のオモチャ。 私はそれを幼稚園の片隅、他の園児たちが走り回るのを眺めながら黙々と遊んでいた。“よお、イワン”そう言ってオモチャをいじめっ子が横からとってしまった。
――今考えれば、この彼はオモチャが欲しかったのではなく、私に遊んでほしかったのだろう――
私はオモチャが取られるのが嫌だった。返してと叫んでも彼は笑うだけ。私は足元に落ちていたワインの空きビンを拾った。 緑色に光るこれと交換してくれ、と言おうと思っていた。だが彼は怯えていた。そうか、これで殴ると思っているようだ。その発想は無かったが、彼は私にオモチャを返した。
――なぜビンなんて落ちていたんだろう? 飲んだ大人が捨てて行ったから。シンプルな回答だ。私に使って欲しくて捨てていたんだろう――
オモチャを受け取り、ビンまで私が持っていては悪いので、このキレイなビンをいじめっ子の彼に渡そうと思った。 「叩くなよ、叩かないでよ!」 ああ、そんなに遠慮して。気にしないでいいんだよ。これは君の分だから。今、君と遊んであげるよ。 私はワインのビンで彼の側頭部を捉えた。メジャーリーガーのスイングを真似てみたら、ビンは割れずに彼の頭から血が噴き出た。彼が泣きだして叫ぼうとしたのでその口にワインのビンを押し込んだ。
――子供の泣き声はこの時から嫌いだった。両親が私にそうしたように泣き叫ぶ子供の口はこうやって閉じるものだ――
口をふさがれ、彼は半ズボンのポケットから飴を取り出し、私に投げつけた。 どっちの意味だろう。飴をやるからもっと遊んでくれという意味かな? 怖いから側にいてくれという意味だろうか? どちらにしても、彼に付き合ってやろうと思った。私は今度はセリエAの選手の真似をして、倒れた彼の後頭部を蹴り飛ばした。 彼の顔面は幼稚園の壁に叩きつけられ、その衝撃でワインのビンが割れ、真っ赤になって彼は動かなくなった。
――ここで快楽殺人鬼なら出しているところだろうが私は当時五歳。できるわけがない。人生初の立ち上がりにどうしていいのかわからなかった――
「ごめんね、もっと遊んで欲しかったよね…」 そのあとのことは覚えていないが、推測するに事故ということで落ち着いた。 大人たちが気付かなかったのか、気付かなかったふりをしたのかはわからないが、とにかく事故で終わった。それで終了。 それからは一〇年くらい殺人をする機会がなかった。高校生になってから家出をしたガールフレンドが一日の宿を求めてきた。 当時、親元から離れ一人暮らしをしていた私に彼女が服を脱ぎながら言った。“初めてなんだ”と赤面しながら。私は我慢できなくなった。 経験人数のことだとわかった。私は素直に“幼稚園の頃にひとり”と答え、裸になってくれた彼女を一晩可愛がってあげた。
――今になって思うが殺されるのが初めて、というのは至極全うだと思う。女の話というのはわからないものだ――
死体の片付けに困った。死んでしまった彼女には興味が無い。邪魔だ。これから腐るだろうし。 そんな中、下から悲鳴が上がった。私は悲鳴の方へと向かった。そこには無数のモンスター、そしてその中に樹齢千年の大木のように悠然と立つ怪物を超えた怪物がいた。 私はそんな怪物を見て、昨日、彼女にあれだけ相手をしてもらったというのに、一〇年ぶりに満足をした直後だったというのに全身に衝撃が走った。さっき殺してあげた彼女のことはすでに頭になかった。
――ラオコーンとのと出会いだった。殺して欲しい、この人と殺し合いたい。髭の先から爪の垢まで味わい尽くして、そして私のことを骨の髄まですり潰してほしい――
「ラオさんよ! この数はちょっと想定外じゃねーか!? 四十匹くらいいねーか!」 「四捨五入すればゼロじゃろ。気にするな」 「十の位で四捨五入しないでください! ひとりノルマ五匹以上ですよ」 「儂がひとりで四捨五入してやる…そう言ってるんだ」 ラオコーンは手下と思われるモンスター二体に指示を下し、圧倒的な戦闘力を発揮していた。 昨夜に満足したはずの私の体はこの老人を求め、高まる射出欲求。出したい、出したい、出したい、出したい、昨日出し尽くしたと思っていた衝動が下半身から脳天まで突き抜けた。 そのとき、一体のモンスター(ジャーム)が私に向かってきた。 “逃げろ!死ぬぞガキ!” ラオコーンの部下の一人が叫ぶが私には届かない。こいつでいい、こいつに出してやる、私の熱いのを、頭からたっぷりと浴びせてやる。 確信的に私の手の中に現れていた一本の大刀、そしてその刀が生み出す炎は、モンスターを優しく包み込み、叩きつけるような熱量を叩きつけた。 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。不衛生な死体も消し炭すら残さない、ただ絶叫と絶望だけが残る。最高の形の愛し方が、発現していた。 “あいつ、オーヴァード…だったのかッ!?”“拾ってみるか、一匹”
それから数年、人生で最も充実した時間がそこに有ったように思う。私の能力、ゾンネギフト(太陽の贈り物)も大きく成長した。 ジャームやUGNのエージェントと戦い、後片付けも考えずに殺していく。相手を選ばなければいくらでも殺していい。 だが、違う。本当に殺したいのはこんな不細工どもじゃない。私が求めているのはラオコーンだ。 “いつでも殺しに来い。儂を殺した奴が世界を征服すればいい。白いカラスを探すのは自由だ” ラオコーンは私の挑戦を受け、そして私は惨敗した。 普段、他の部下との命懸けのやりとりに笑顔で応じていたが、私との戦闘中に限り、ひどく不愉快そうだった。私の炎を義務的に防御し、私への攻撃も汚いものにするように足技だけ。ハイキック一発で沈めてきた。 “出て行け。儂の手駒にお前のような奴は要らん” “何が気に食わなかったんですか?” “儂を倒したあとのことを考えていない奴と戦ってもつまらん。儂と心中するような戦い方をする奴は特に、な”
――ヘタクソ。そういわれた気がした。私のテクニックでは彼は満足しない。私を殺せるというのに、彼は何も感じていない――
私はKOBを脱退して腕を磨いた。UGN、FH、ゼノス、無所属の強者…色々な組織のオーヴァード、ジャーム、レネゲイトビーイング…無数に戦い、焼き尽くしてきた。 もっとだ、もっと経験を積まないと。あの老人を足腰が立たなくなるまでにするにはまだ足りない。ラオコーンを思うといつも衝動が襲う。我慢できなくなって一般人を襲うことも増えていた。 「鍵出すよ」 「いいさ、私のはすぐ出せるから」 表札を見ると関さんというらしい。若々しい幸せそうな夫婦。私は深く考えずに家の裏手に回って家の中を覗き見た。 つぼみをつけた花木が植えられた庭からも幸せが伝わってくる。殺しやすそうだ。楽しみだな。 「蒼子、私はなにをしてればいいかな」 「お風呂出してもらっていい、洗ってあるから…」 炎を遠隔操作してチャイムを押す。ドアに向かったのは旦那の方。じゃあ殺すのは奥さんの方にするか。一度に二人を殺すのは相手に失礼だ。三Pで興奮するのはあくまでも私だけ、相手は一人ずつ。それがマナーというものだろう。 窓を炎で溶かし、瞬時に家を炎に包む。旦那の方はこれで外に出るだろう。ゾンネ・ギフトを一閃して窓を破り、一瞬迷ったが靴のままではいる。日本のマナーでは靴を脱ぐんだったか? 恐怖と混乱が奥様の表情に浮かぶが、私もサディストではないし泣き叫ばれるのは鬱陶しい。私は静かに奥さんの喉元に手を添えた。 首を折ろうという所で旦那さんが戻って来た。炎の中をご苦労なことだ。そんなに私に殺してほしいのか? 「お前…何をしているんだ!」 「やあ、お邪魔してますよ。でも、あなたは邪魔しないで下さいね。私のお楽しみ中だ」 そこから椅子を持って殴り掛かってきた彼の瞳はひどく不愉快だった。一番嫌いな色。何かを守ろうとするときに見せる色。 私が思うに、殺人とは最高の文化活動のひとつだ。 殺人を娯楽とする生き物は人類以外ではイルカや猿、カラスなど極めて知能の高い動物に限られる。 食料や生殖活動のために殺しあう畜生たちとは違う。人間の文明と知性の発露、それが殺人。 しかし、この男の目の輝きは酷く苛立つ。動物や昆虫も行う行動。腹立たしい。 「…関くん、ごめんね…」 「何を言っているんだ、何をぉお!」 この旦那さん、本当に馬鹿だ。奥さんの言葉の意味を全く理解していない。彼女が何を言おうとしているのか。 強い女性だ。旦那さんではなく、こちらの奥さんを選んでよかった。手にジワリと力を込め、私は首をねじ切った。最高の感触の余韻に浸る。 最高に気分が良い。私は快楽の中、旦那さんの耳元に唇を添える。 「なぜ殺人が罪なのか、知っていますか? それはね…」 炎の音にかき消されたかもしれないが、まあいいだろう。 「蒼子…ごめんな、ごめんな…」 私が投げ捨てた死体にむせび泣く旦那。男がする行動か、それが…。
廃ビルの屋上、私の意識は回復した。 時間にして、というほどでもないほど短い時間の意識の暗転。走馬灯のように駆け抜けた過去。 私は謎の衝撃をモルフェウスで作り出した刀、ゾンネ・ギフトで受け止めたがショックで吹き飛ばされて頭を打ちて脳挫傷を起こし、リザレクトを必要とした。 その間に致命的な隙ができたが、視線の先、ヘルメットの割れた防火スーツに身を包んだ男が倒れていたことで状況を察した。 リザレクトといえど万能ではない。完全に殺害されれば復活は不可能となる。 本来ならば、脳挫傷を起こした段階でトドメを打たれていたらそこで終わっていた。 だが、攻撃を受けたとき、反射的に刀を振るったことで相手にもリザレクトが必要なダメージを与えたため、トドメを受けずにすんだ、ということか。 「やはり簡単には殺せないな、ノヴァク」 ヘルメットが割れ、顔面には縦一文字の傷があるが、リザレクトの効果で見る間に塞がっていく。問題はそこではない。 顔は間違いなく先ほど見た夢の中で旦那、関さんだ。 以前一度、氷のオーヴァードとの殺し合いのときに邪魔しに来た男と同じ顔に見える。だが別人だ。顔も体型も気配もすべて同じ別人だ。 「誰ですか、あなたは? 関では…ありえない。誰だ、あなたは誰ですか?」 取り壊し寸前の廃ビルに風が吹き、目の前の男は笑う。その目に文化的なまでの強烈な殺人の色を浮かべながら。 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼ ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
クレ「ふはははは! クレリンペさん、復活じゃぁああああ!」 クロ「あぁー…お久しぶりです」 クレ「ジュフ先生も久しいのぉ! 次回予告といえば花形! 当然、可愛い女子生徒が…」 キジ「…えっと…誰さん?」 クレ「この冴えないガキは誰じゃァアア!? ふざけてるンかぁあああ!?」 キジ「毎回、ひとりずつ新キャラを追加しながらやってる次回予告だからなぁ…そりゃ、三人しかいないよ」 クレ「ってことは、次回はカワイイ女子じゃな!? セクハラできるんじゃなン!?」 クロ「あぁー…次回最終回だから、次回予告は今回がラストですよ?」 クレリンペ、泣き崩れる。 キジ「…色々な人が居たんだなぁ…あそこは…」
※キジくんもクロックさんもクレリンペさんも本編に出ません。次回予告じゃないよなコレ。やり直し。
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次回予告! 姿形は完全に関輝石そのものである男を別人であると断言したイワン・ノヴァク。 その理由とは一体何か? そして“彼”は一体何者なのか? 全てが明らかとなる。 次回、【一世一大】
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“炎の狂戦士”【イワン・ノヴァク】 ●ブリード:クロスブリード(サラマンダー/モルフェウス) ●ワークス/カヴァー 元FH構成員/無職のヒモ ●侵食率108% ●男性 ●31歳 :殺人衝動を持つ殺人鬼。一般人を無差別に“殺したくなったから”という理由から殺傷する危険な男。 以前はKOBに所属していたが、脱退。 クロスブリードでありながら能力が極めて狭く、作り出すことが出来るのは大柄の剣一本、冷気はほとんど扱えず、室内調整すら満足にできずに壁紙を焦がすだろう。 しかし、その炎は電撃や光を光熱で曲げ、重力すら跳ね除ける熱量を湛え、同類たるサラマンダーの炎を飲み込み、氷を大気へと還元する。 炎という一点においては全オーヴァード中でも十指に数えられるパワーを持つ。 この炎を止めることが出来るのは、ゾンネ・ギフトと名付けられた彼の大剣、そしてイワンの捻じれた心だけだ。 また、ゾンネ・ギフトは太陽の贈り物とイワン自身は呼んでいるが、実際の意味は太陽毒。 ちなみに童貞。
名前の原典は有名古典の“イワンのバカ”から。太陽? なんのことですか? 能力的には知人と『主人公の能力が糸とか爪発射ってどうなんだろうね』という話から膨らんで『逆に主人公とかラスボスが持ってるっぽい能力の最有力って何よ』となり、発生した能力。 1990年代アニメのイメージなんでしょうね。ファイ〇ードとかグラ〇ゾードとかレ〇アースとか。 イメージソースは、ギュスターヴ・モローの『オイディプスとスフィンクス』。 これから殺し合いをしようとしているふたりの視線の空気感が無言の殺意っていうか、スフィンクスからすごい快楽殺人の匂いがする。 だけどまあ、イワンのイメージはオイディプスなんだけど。スフィンクスは自殺するけどね。
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シーン4 【一世一大】 ( No.4 ) |
- 日時: 2014/12/17 20:49
- 名前: 半忍 サガ氏
- 「ほう、良い動きじゃな」
「そのようですね、お互いに」 私――アイリス・ド・ドリア――とラオコーン様が追いついた頃には、すでに戦いは始まっていた。 ノヴァクのビルをも溶かすほどの炎、FH開発の防火アーマーと言っても受ければタダでは済まない。だが“彼”は避けきっていた。 跳ね、飛び、伏せ、退がり、進む、逃げ場のないビルの上、手品のような回避のトリックは努力。 「よく避ける! 躱す! 見事です、逃げ回る相手を無理強いというのもそそられますねッ!」 炎を打ち続けるノヴァクだが、観戦する私には焦りはない。これがサラマンダーメインの限界。ノイマンやエンジェル・ハイロゥのように死角を補うコンビネーションが無い! 攻撃と攻撃の隙間、威力の高い攻撃から自分を巻き込まない様にノヴァクの技に偏りが生まれていた。“彼”はその間隙を見逃さずに飛び掛かる。 すれ違いざまにノヴァクの首に腕を引っ掛け、勢いで首の骨をねじ切る。プロレスでいうとランニング・ネック・ブリーカーやスリング・ブレイドの形。手加減なしで殺人技だ。 …しかし! 「…安い罠じゃなぁ」 「えッ?」 ラオコーン様の呟きに、私もハッとした。 首が骨折した瞬間、ノヴァクの胴体が刀を振るう。瞬間、“彼”の左腕が切断されてくるりと宙を待った。しまった、騙された! ダメージをリザレクトで修復したノヴァクが得意げに首をゴキゴキと鳴らす。 「お気づきでしょうが、さっきの隙はワザとですよ。」 「…なるほど」 「一撃必殺で“戦闘不能”になった私の首骨はリザレクトで回復できますが、腕一本ならあなたの体力なら戦闘不能ではない。ゲーム風に言うなら…あなたのHPはまだ残っていますからね」 リザレクトはワーディングと並ぶオーヴァード共通の超能力だが、万能の回復能力ではない。 生命への執着が生む奇跡だからなのか、明確な回答は無いが、瀕死の戦闘不能状態でなければ発動できず、それ以下のダメージであるならば、十二のシンドロームから習得できる別種の能力が必要となるが…。 普通できることなのか? ひとつ間違えば即死する攻撃を受け、その上で反撃するなんてことが人間に可能なのか!? これが戦闘のスペシャリストたるオーヴァードの戦い方なのか。 その罠のせいで、片や回復することができない白兵戦のスペシャリスト、片やリザレクトによってノーダメージであるトップレベルのサラマンダー。 この状況からのノヴァクの推測は現実と明確に合致する。すなわち、“決着が付いた”と。 「…で、あなたの能力はなんだったんですか? 一度も使いませんでしたが?」 「私は、オルクスをベースとし、バロールとブラックドッグを併せ持つトライブリードだ」 「…? 意外ですね」 回答に訝しげな表情を浮かべるノヴァク。どれも遠距離戦闘で高い能力を発揮するシンドロームであり、白兵戦を行わなくとも戦い方がある。 続きを促すように、ノヴァクは切断された“彼”の腕を炎の能力で蒸発させる。これで腕を繋げるタイプの回復方法は無効となり、回復するには腕を生やすしかない。到底不可能だ。 「私のエフェクトは三つを合成することでのみ発動できる。オルクスの空間内に残り二つを組み合わせた分子間力を発生させ、野菜の皮を剥くことができる」 分子間力という仰々しい言葉には目を見張ったノヴァクだが、次の野菜の皮を剥くという言葉には違う方向に目を見張っただろう。 今まで“彼”の能力説明を聞いたものと同様に、ノヴァクも四コマ漫画のキャラクターのようにコミカルに聞き返す。そんな能力あるわけ無いだろう、と。 「私も最初は意味が分からなかった。お前に妻を殺されて、その上で目覚めた能力がこんなもの、しかもトライブリードだから更に能力を習得することはできない。 習得してからは色々な可能性を試したよ。トウモロコシ、茹で玉子、カニシャブ、タマネギはどこまでが皮か分かってちょっと関心したけどな」 そこまで言ったとき、ノヴァクが腹を抱えてうずくまった。ヒクヒクと肩が震えている。 「失礼…笑いが…もしかして私を笑い殺そうという策戦ですかぁ?」 「何でも剥いたが、その中で…この能力で、カニや茹で玉子の薄皮が剥けることの意味があった。だが、私は気付かなかった、いや、気付こうとしなかった」 ノヴァクの痙攣と引きつったような息が強くなる。私は見ていられなかった。
「あの日…お前が岬春人というオーヴァードを返り討ちにしたときに悟った。 まともなシンドロームではお前は倒せない。だから私は無意識に自分の中にある可能性からこのシンドロームを選んでいた。 私の能力の対象は“野菜の皮を剥く”という認識だったが、違う。私の能力は“私自身が食べ物と認識した物体の皮を剥ぎ取る能力”だったッ!」
絶叫と同時にうずくまっていたノヴァクが体を裏返す。全身には赤い筋が亀裂として走り、全身から音も無く表皮が剥がれ落ちていく。 指には爪だけが残り、白いスーツは見る見る赤く染まっていく。皮膚は一枚ごとに磁石に引き寄せられているように空中へと投げ出され、全身から血液が噴水のように発散される。 当然、瞬間的にリザレクトが発動し、ノヴァクの皮膚が元通りになるが、次の瞬間から再び皮膚の剥離が再開していく。
「この能力は相手の一部にでも触れば発動できる。さっき首を圧し折ったときに発動し、効果が消えても再びお前の剥がれた皮膚に触れることで再発動できる。 人間の皮とは表皮だけじゃない。目には見えないが、体内の血管や臓器内にも有る。剥がれ落ちた皮膚は血管を塞き止め、体内で老廃物と混ざり合って臓器の機能を麻痺させる。 歯車のように精密な呼吸器系も邪魔物の進入から連鎖的に機能循環を止め、酸素の供給を中止する。だが皮膚の無い脳髄だけは最後までその機能を止めることは無い!」
もはや声を発することさえもできなくなったノヴァクだがリザレクトだけは繰り返す。ノヴァクの声無き絶叫が苦悶の表情から伝わってくる。 以前、氷の岬春人を何度もノヴァクが焼き尽くされるのを見たが、あのイメージが重なった。
「リザレクトが治せるのは酸欠や皮膚剥離によるダメージ、血管の膨張による圧迫から来る機能不全だけだ。 体内に溜まったお前の皮膚を取り除けるわけじゃあない。なぜならそれはお前の一部で“異物ですらない”んだからな。 もしもリザレクトが全自動で異物以外も取り除ける能力ならば、人間は日々修復を繰り返す体中に発生している無数のカサブタが剥がれて、リザレクトの度に即死だ」
ノヴァクの全身から赤が噴出する。血ではない。炎だ。サラマンダーによって生み出される太陽のような紅炎だ。 「無駄だ。既にお前の体内に蓄積した皮膚は人間が代謝で取り除ける量じゃない。致死量なんだよ」 喀血と同時に雑巾のような皮膚を吐き出し、筋繊維むき出しの人体模型のような顔でノヴァクが笑ったような気がした。 「ダ…ッバら、ッサいごの殺人…楽しまゼ…ッバァアアア!」 炎が“彼”へと殺到する。道連れにするつもりだろうが行動が遅かった。すでにラオコーン様がマントを翻している。 ラオコーン様のマントはモルフェウス・ハヌマーンの合成エフェクトによって実体化している“天鷹(シエロ・アルコン)”。瞬時に亜音速まで到達する移動能力であり、それを用いてノヴァクと“彼”の間に立ちはだかった。 「キサマらは、本当に儂の野望を邪魔するのが好きじゃなあ」 やれやれ、といった表情でラオコーン様が手をかざすと、炎が裂け、闇夜に拡散していく。 バロールとブラム=ストーカーの合成エフェクト、“禁断ノ刻印(ネコのメ)”である。その防御力は私が知る限り、最強の盾のエフェクトだ。 「ら、おごぉん…あなたはぁああ…」 「ラオコーンさん、何時から…」 「文句を言うならひとりで敵を殲滅して見せろ。今儂が防がなければキサマも燃え尽きて引き分け終了じゃろうが、輝石よ」 「それは…っぐぁっ?」 “彼”――関輝石さんをラオコーン様は苛立ったように目にも止まらぬ裏拳で弾き飛ばした。 「儂がいつ、キサマに意見を求めた? 黙ってリザレクトでもしておれ」 関さんは屋上から落下しそうになりながらもかろうじて踏みとどまり、その疲れから戦闘不能状態となり、リザレクトを開始した。 これだ。これがラオコーン様のいつもの態度だ。唐突に割って入り、自分の目的を通そうとし、空気を読もうともしない。スーパーウルトラ・アスペルガー症候群。 ラオコーン様は懐からひとつの指輪を取り出した。自分の付けている指輪と全く同じデザインのものだ。 そのまま息も絶え絶えなノヴァクの親指に指輪を根元まで差し込み、今度は自分の人差し指の指輪を取り外し、代わりとばかりに嵌めてみせる。 「ギリギリじゃが、まあ…発動条件は満たしたな」 言いながらラオコーン様は無造作にエフェクトを起動させ、手元に一本の刀を出現させる。それは間違いなくゾンネ・ギフト、今、瀕死のノヴァクのエフェクトであるはずの武器だ。 「ふむ、腕にしっくり来る。やはりこのエフェクトは儂に似合うな」 「…どういう、ごどぁ…?」 「キサマに質問を許した覚えはないが…ん? おい、ノヴァク…死んだのか?」 状況が分からないまま、ノヴァクはあっけなく息絶えた。ジャーム化する時間もなく、多臓器不全による酸欠によって。 体液らしい体液はすべて流れ出し、全身が赤黒い塊となり、彼が誇った最強の炎の剣すらも奪い取られ、己の生涯についてなにひとつ顧みることなく、死んだ。 これが、関輝石とイワン・ノヴァクというふたりの物語の顛末だった。
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“絶望色の翼神”【ラオコーン・ギニヴガング】 ●ブリード:クロスブリード(オルクス/モルフェウス) ●ワークス/カヴァー KOB首領/超人 ●侵食率1% ●男性 ●65歳 :両手に指輪を4個ずつ付けている。身長二四〇センチ、髭がトレードマークの老巨人。 並のキュマイラとなら能力なしで拮抗できるだけのパワーとタフネスを持ち、正に超人的身体能力を有する。 世界制服を策謀するKOB首領。20年前にレネゲイドウイルスが発症しているが、なぜか侵食率が極めて低い状態をキープしている。 しかし、研究についてはラオコーンがモルモットとなることを拒み、かつ多くの研究者が直感的に“理由が分かっても他人に絶対に応用できない”と理解しているため、研究は進んでいない。 戦績は“四桁になってから数えていない”が、敗北は一回のみという。 その敗北も、愛娘の彼氏から“娘と結婚させろジジイ!”という挑戦に、“儂より弱い男にやれるか青二才!”と返したのが敗因。 ちなみに、愛娘とその彼氏は既に故人。孫(兄妹)はふたりともUGNとして活動中である。 マスターというコードネームを名乗る権利を持っているが、“弱そう”という理由から拒否。
エフェクトは特殊な物で、モルフェウスで物質化した十の指輪の能力。 自分の装着している指輪と同じサイズの指輪を作り出し、その指輪を他のレネゲイド・ホルダーに装着することで適応。 レネゲイド・ホルダーのウイルスが指輪にセーブされ、同じ指輪を嵌めているラオコーンに“指”の神経にウイルスが定着、そのレネゲイト・ホルダーのシンドロームを使うことができる。 複数のシンドロームを併用したエフェクトもコピー可能であり、それによってオルクス・モルフェウス以外の能力を使用することが出来る。
ただし、欠点がいくつか存在する。 1:エフェクトは8つまでしか覚えられない。 本来は親指にも指輪が有るが、ラオコーン本人が大きすぎてサイズのある他人が存在しない。 (他の指の場合は、他人の親指に装着して覚える。) そのため、ラオコーンの小指よりも親指が細い人物(女子供など)の能力は絶対に覚えられない。 2:あくまでもコピーできるのはその時点での能力であり、その後オリジナルの能力が進化してもラオコーンの能力は変わらない。 その場合は再び指輪を装着させ、上書きしなければならない。(上書きはサイズが変わるなどしない限り何度でもできる) ただし、仮にその後、オリジナルのオーヴァードが死亡したとしても、エフェクトは消失しない。 3:指の本数が変わる能力は使用できない。 例えば、キュマイラでティラノサウルスに変身する場合、指の本数・サイズが変わり、ラオコーン自身がエフェクトの発動条件を満たせない可能性が発生する。 そうなった場合、どうなるのか? ティラノサウルスから人間の姿に戻ればエフェクトも元に戻るのか? それとも解除自体できないのか? 発動自体が無効化? 正解は“実験することが出来ない”である。やってみなければ分からないが、失敗した場合のリスクがあまりに大きく、かつ実験するメリットも薄いのだ。 そのため、身体変化系であるキュマイラ・エグザイルのエフェクトはコピーしたがらず、肉弾戦はもっぱら素である。 4:上書きは何度でもできるが、上書きをされたエフェクトに戻すことは出来ない。 パソコンのクリップボードのようなもので、ラオコーンは8つまで書き込むことが出来るが、それ以上を書き込むには以前のクリップボードを消さなければならない。
名前の原典は石造で有名なラーオコーン。ゴキブリ? 何の話ですか? 能力の出元はクリップボード、指輪という媒体はラオコーンにこの能力を持たせると決まったときに作ったアイデア。 最強すぎるけど、ラオコーンは使いこなせない方が良いな、ということで巨人という設定から指輪に決定。 十個覚えられるはずだけど体格から八個しか覚えられないという弱点の設定は我ながらお気に入り。 イメージソースは声優の秋元羊介。ただのファンです。ラオコーンのセリフは秋元さんの声で脳内再生して合わせています。
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バックトラック、そしてエンディングフェイズ ( No.5 ) |
- 日時: 2014/12/17 20:56
- 名前: 半忍 サガ氏
- 【NPC:ラオコーン・ギニヴガング】
関が意識を失った屋上にて“以前から欲しかった”ゾンネ・ギフトを手に入れ、ラオコーンは満足げだが、アイリスは怒りをむき出しにしている。 モルフェウス・ハヌマーンから作り出される高速移動マントの“天鷹(シエロ・アルコン)” バロール・ブラム=ストーカーによって編出された最強のバリア、“禁断ノ刻印(ネコのメ)” そして、今回のモルフェウス・サラマンダーの大刀、“太陽の毒(ゾンネ・ギフト)”…そう、ラオコーンは四つ以上のエフェクトを同時に習得している。 「もしかして…全ては、このためだったんですかっ!?」 「全て、とは?」 「あなたはオーヴァードのエフェクトをコピーするオーヴァード! ノヴァクに最大のダメージを与え、侵食率を上げてからゾンネ・ギフトをコピーすることにした!」 「…で?」 キョトン、とするラオコーン。それが何か? そう言わんばかりだ。落ち着き払った態度にアイリスの感情の振り幅は最大だ。 「疑問に思っていました! ノヴァクが関さんたちを襲った時、なぜ奥さんは助けられず、関さんだけ助けることが出来たのか。岬さんがノヴァクに返り討ちに遭ったときも都合よく現れて…全部、あなたは見ていた! あなたは見殺しにしていたんでしょう!? 奥さんも岬さんも! もっと多くの人を助けられたのに、全て…そんな刀一本のためにッ!」 人間には、得手・不得手というものが必ず有る。ラオコーンの場合は敵を殲滅することにかけては得意だが、殺さないギリギリの所で相手の侵食率を上げるという芸当はできない。 そして、同じくらい苦手なのが相手の、特に女子供の感情を理解しようとすることができない。 「合っているが、何が言いたい? アイリス?」 「あなたは…!」 「何がしたい、と言い換えよう。儂を征服したければ喋る前に攻撃すればいい。儂を説得したいなら…そこまでバカではないはずだな?」 そこまで来てアイリスは気が付いた。自分の口撃は何の意味もない。ただ自分の感情を爆発させるだけで、なんの建設性もないことを。 聡明だからこそ、自分の愚かさに気が付くことがある。エネルギーの矛先を向けるべき対象はどこにもないどころか、むしろ怒りを露わにするアイリスに、ラオコーンは嬉しそうですらある。 部下の反発は、すなわち自由意志と多様化。その上でもラオコーンと中心として決して崩れず、戦い続ける。 ラオコーンは次なる能力を探すべく炎の刀を担いで歩き出す。全ては世界征服の野望のために。
【NPC:関輝石】 戦いが終わって数日後、関の居る病院をアイリスは訪ねていた。 腕一本を完全に再生するのはオーヴァードといえど簡単ではなく休養を必要とするのだ。 「元気ですか?」 「ええ、まあ…腕も生えましたし、元気ですよ」 関の爽快な笑顔に、アイリスはそんな表情を初めて見たことに気が付き、そして直感的にそれが本来の関の表情であることも察した。 復讐とはいえ殺人を達成して笑う関に対してもそうだが、それ以上にその笑顔に心安らいでいる自分自身にアイリスは驚いていた。 そのことに気が付いたらしく、関は済まなそうに言葉を選ぶ。 「君のせいじゃないよ、私が壊れたのは自分の意志だから。ノヴァクを殺すだけなら、君やラオコーンに頼んだり、交渉して倒してもらう方法も有った」 「でも、それも全部…、その」 「…ラオコーンが妻を見殺しにしたことかな? 大丈夫だよ、気付いてる。それでも私はこの道を選んだ。自らの能力でノヴァクを倒すために…“人間を食料として見れるようになった”」 「関さんっ…!」 アイリスの小さな体が関を押し倒し、頭を抱きしめるようにして言葉を遮る。その大きな瞳には大粒の涙が次々と浮かんでいる。 「なんで、なんで笑えるのッ! ラオコーン様や…私のせいで…もう人が食べものに見えるようになったのに…!」 関の能力は、実際は“食料と認識した物の皮を剥ぐ能力”だった。 ラオコーンから指摘を受け、最初は鶏肉や豚肉の皮を取れることを実験し、徐々に段階を進めていった。 切り分けていない鶏肉、血抜きをしていない鶏肉、死んで間もない鶏肉、そして“生きている鶏肉”、これらに順番に能力が利くようにしていき、今度は哺乳類へと向かっていった。 その過程で殺人こそしなかったが、“ノヴァクと同じ種族の生物”の肉も口にした。吐き戻しそうになりながら、食料としての認識を作り出すために。 関は泣き続けるアイリスを猫のように引きはがし、ベッドの上にちょこんと座らせた。 「良いんだって。今となっては…これで良い。蒼子を失ってさ、実はノヴァクを殺したら自殺するつもりだったんだ」 「…え?」 「でもさ、今は…蒼子を失って全部無くなったと思ったけど…生きる理由が見付かったんだ」 見詰め合う関とアイリス。 人間ではないアイリスは実年齢では関より年上だが、恋愛経験に関しては外見相応にすぎなかった。目を逸らせなくなっていた。 「大丈夫。レネゲイドビーイングのキミは対象外だから」 「え、だ、ええ?」 「もっとね、食べたいんだ。自分で獲ったのをさ。ノヴァクの体を食べ損ねて気が付いたんだ。私は…食べたいんだ。 そうだ! 私は蒼子を失った時…蒼子の遺体が焼ける匂いを覚えている! あのとき、私は蒼子の体を夕食にしたかったんだ!」 涙ながらにアイリスの拳が関の顔面を打ち抜いた。最初に出会ったとき、ラオコーンから庇うために殴り飛ばしたときとは違う。関そのものに対する激情から、それ以上言葉を聞きたくなくて殴った。 言葉を失った関の顔は紅潮し、目は充血し、殴られたときに唇を浅く切っていた。 「この色なんだよ…あの日、ノヴァクが私の家を燃やしたときの炎も、蒼子の中の色も…この色なんだよ…」 ラオコーンが言っていたジャーム化するよりも捨てるべき物とはこのことだった。関は全てを捨て去った。 多くの過去は炎の中に置いてきた。人間としての矜持は血で洗い流した。蒼子への愛は―――食欲に替えてしまった。 引き換えに得た物は、生への執着と殺人鬼としての自分、触れた者を一撃で殺傷するエフェクト。 「…恨んでますか、私やラオコーン様を」 「アイリスには感謝しかないよ。だが…どうだろうな」 復讐できたのは間違いなくラオコーンの気付きのためであり、感謝すべきなのかもしれない。 ノヴァクを放置し、自分自身を殺人鬼として覚醒させたのもラオコーンであり、憎悪すべきなのかもしれない。 「…今はまだラオコーンが人間には見えなくて能力の対象にできない。もしこのまま強くなって…ラオコーンに食欲が湧いたら考えるよ」
【NPC:アイリス・ド・ドリア】 ヒトではない物として生まれ、同じようなラオコーンに付き従い、生きる目的を見出そうとした。 その中で、ひとりのヒトに出会った。彼は愛と復讐のために特訓し、復讐を果たした頃にはヒトではなくなっていた。 レネゲイド・ビーイングが人間になることはできるかもしれない。だが、快楽殺人鬼となった彼はヒトに戻ることはできるんだろうか? できるとしたら、それはどういった病状(シンドローム)を必要とするのだろう? アイリスには分からなかった。
【NPC:関蒼子】
不思議と諦めがついていた。 私を殺そうとしている男が誰で炎がどうやって起きているかもわからないけど、どうしようもないんだということは分かる。 関くんと一緒にしたいこともたくさん有ったし、首を絞められて死ぬなんて思わなかった。 燃え盛る彼とのマイホーム、夕ご飯も引っくり返っちゃった。お腹すいてるよね…。 「…関くん、ごめんね…」 「何を言っているんだ、何をぉお!」 分かってないね。御飯…一緒に食べたかったなぁ…。 こいつから逃げ切ってね。私が居ないとすぐ食生活偏るから心配だよぉ、もう…。 美味しい物だけじゃなく栄養考えてね。それで…ちゃんと幸せになってね…。
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“カーニバル・ソロ”【関輝石(せききせき)】 ●ブリード:トライブリード(バロール/ブラックドッグ/オルクス) ●ワークス/カヴァー KOB日本支部長/一般会社人 ●侵食率27% ●男性 ●26歳 :恋人をイワンに殺された憎悪からオーヴァードとなる。 復讐のために戦いを開始するが、食品以外に効果が発揮しない能力の特性から困難であることを知る。 侵食率を上げてもトライブリードである以上、新たな能力の覚醒は困難であり、能力以外の変化として“自分自身”を捨てることを決意。 人間を食料として認識することで、“最弱の能力”から“一撃必殺の能力”へと昇華させた。 欠点は動物型以外のジャームやレネゲイドビーイングに対しては完全に無力なこと。 そして、ジャーム化していないにも関わらず、人間たる自我と尊厳を代償としている。 能力はオルクスの空間指定、ブラックドックの電磁力とバロールの重力操作の併用で、分子間力を疑似的に遮断し、皮を剥くことが出来る。
名前の原典は“とある小説”の登場人物であり、その“とある小説”の三次創作のひとりタッグマッチデュエリスト。 能力的なスタートは『もし超能力に目覚めて一番要らない能力ってどんなの?』という話を知人としている時に出てきたアイデア。 イメージソースは忍者戦士飛影OP、LOVEサバイバー。 歌詞もそうだけど、リズムから一人称が“俺”から“私”の方向になったりした。
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あとがき
EP1> 全てのフラグと情報はここで全部出している、みたいなイメージで書いてます。 地味に夕食の支度をしているというのが一番大きな伏線。 伏線とは見えないから伏線というらしいと最近知りました。見えているのは布石。 あと、地味にアイリス登場です。セキ、ラオコーン、蒼子の元ネタはよく使っていたのですが、アイリスはKOBが有る当時から使わずだったので。 好きな小説だったので、もう一回読みたい&続きが読みたい一本ということで登場。 アイリスは狂言回しのつもりで設定していたのですが、2話目辺りからとても動いてくれました。
EP2> 起・承・転・結の承。一番盛り上がるつもりですが、無くても成立してしまうエピソード。 炎VS氷、類似能力同士でノヴァクの戦闘力をアピールしたかったんですが、どうでしょう? 快楽殺人キャラは、バトルマニアキャラと違って弱い相手を殺す系統になりやすく、戦闘力のアピールが苦手です。
EP3> ぶっ飛んだ殺人鬼のバックボーン。 こういうエピソードを日本人キャラでは描きにくい気がする。日本版テッド・バンディが居ないのは、やっぱり治安が良いからだと思うし。 というか、読み返して思うのはノヴァクがただの殺人鬼じゃなく、モンスター的なまでのオーヴァードになっているのはラオコーンのせい。 頭の悪いパワー系ボスっていうイメージでラオコーンを作っていますが、無意識に陰謀を企てている感じになってていい具合に感じてます。
EP4> ザッツ後片付け。あっさりとノヴァクに退場して頂きました。ドジャーン。 それにしても今回、TRPGとしては絶対に使いたくない類の能力のオンパレード。能力コピーとか一撃必殺カワハギとか。 ゲームで面白いのは鍔迫り合いだけど、小説で書きやすいのはインパクトのある一撃必殺だっていう矛盾点。まあ別に良いんだけど。
エンディング> 経験点の配布とかそういうイメージ。NPC扱いなので関係ありませんが。 生き残ったメンバーで使いやすそうなのはアイリスだけという。能力的にも動き的にも。 アイリスの場合、二律背反的な行動目的がすごく使いやすい気がする。 ラオコーンを恨んでいるが部下でもある。逆らっても従ってもどっちでもシーンになって、関に対しても信愛関係だけど人殺しはして欲しくないと感じてるわけで連携も邪魔も有り得る。 あまりこういう揺れ動くキャラを作ったことが無かったので、個人的には収穫でした。
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