ハーレムトライアングル 第二章 門外不出の王 C |
- 日時: 2022/06/29 18:12
- 名前: 陣
- 「どうした。アデル?」
進行と共に、次第にリラックスした雰囲気になってくる晩餐会。 既に席の移動も始まっており、主賓席のカルデナスの側には王太子のギャルソンも近付き、歓談の花を大いに咲かせ続けている。 チラリと見る正面には、こちらの様子を見ていかにも上機嫌なギャナック王とゲンナリ気味の二人の妃の姿が映る。どうせきっと「あの頃には従兄さんの方が六つも上だった」とかやってるに違いない。 実に友好的な異母兄に対し、あくまで硬い表情で賓客を無視し続けるアデライト。 当初はさりげなく思わせぶりな催促をしていたが、遂にたまりかねて声に出してしまう。 流石に王太子でもある嫡兄の明言には逆らえないか、いかにも嫌々そうに、招かざる客の盃に向かって乱暴に酒を注ぐ。 それに対しいかにも済まなげな表情を浮かべるギャルソンに、気にするなとばかりに微笑を返すカルデナス。
更に続く宴。 しかし厄介なホステス役を敢えて無視した会話がいかにも心地良かったためか、一つのミスをやってしまう。 ついつい気安い酒場の時の気分になって、干した盃の代わりの催促を隣の相手にそちらの方も見ずにやってしまったのだ。
「無礼者!!」
戦場も疾駆する、鋭い声が場内に響くと共に、傍らの酒器から思い切り汲んだ中身を思い切り催促相手にぶちまける。
「アデル!」
慌てて立ち上がる王太子に対し、どうという事は無いとあくまで冷静というか不敵に手を振るカルデナス。 その動作に更にムカついたのか、思い切り腕を大きく振っての、平手打ちを放とうとするアデライト。
「この!」
それを相手の手首を掴んで、軽く受け止めてのけるカルデナス。
「…これはこれは。どうも御親切に」
そのまま血管を掴んで開かせた相手の掌で、顔に付いた酒を拭う。
「おのれー!!」
離された手首を抑えながら手近のナイフを掴み、思い切り突き刺そうとするが、それもまた正面から受け止められ、余裕の視線で見下ろされる。
「おやおや。偉大なる御祖母様の偉業にちなまれた御余興ですか。それならもう少し見栄え出来そうな舞台でですな…」
「ふざけるなー!!」
「ふざけてるのは…お前だ!!」
突如響く三つ目の声。それと共に振り下ろされる一撃。
「ううっ」
床に転がるナイフ。手を抑えながら目の前の相手を見上げるアデライト。
「リオ御義母様…」
いつしか彼女の義母でもある、王の第一寵姫が二人の間に立つ。
「分かってるな! アデライト! もしもルクレーだったなら、この程度では済まんぞ!」
むしろその名に触発されたかのように、激しく気色ばむ王女。
「何故です!? なぜこのような男を庇われ立てられる!? この男の! この男の一族にあれだけ散々振り回され続けて! 私の母も! この男の一族の勝手のおかげで! 御父様も! 御義母様も! お悔しくないのですかー!?」
「止めよ! アデライト!」
抑え込もうとする義母の手を跳ね除け、あくまで罵倒を止めない。
「それともやはり! あの穢らわしい御噂は本当なのですか!? 御父様が本当に心から愛し、愛されたがっているというのは、私たちでなく、この男の忌まわしい…」
その時に響く、鈍い音と、重い音。 ただの一撃ではない。平手でなく重い裏拳だ。それが顔面を捉え、その対象を派手にブッ飛ばしたのだ。 それだけに殴った方の拳も相当に痛い。それを抑えながら。
(…俺は今、なんでここまでやった? 王のためか。親父のためか。こいつのためか。それとも単に昔の一撃のお返しをやりたかっただけか…?)
腫れ上がった顔を抑えながら、憤怒と憎悪の籠った目と振り乱した髪で、起きようとする美貌の王女。
「…殺してやる殺してやる殺してやる…今日こそ絶対ここで殺してやる…」
まさに悪鬼。その異様さに完全に息を呑む一同。
「…貴様の首を送り付けて…一族全部…皆殺しにしてくれる…」
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