ハーレムトライアングル 第二章 門外不出の王 B |
- 日時: 2022/06/28 21:11
- 名前: 陣
- 「お久しぶりですわ。カルデナス様」
バーミア王宮での晩餐会。 庶流とはいえ、一応カルデナスも王族に連なる一員であるだけに、その会は王族の格式をもって行われる。 正面に位置する席は三つ。中央には当然にギャナック王。その左右の席にはそれぞれ正妃フォルスターと第一寵姫リオレイアが座る。 リオレイアはバーミアの真の主であるモーレ一族の出身であるが、あるいはそれ故に正妃の座を他に譲っている。年が十以上も上だというのもあるだろうが、子供もいない。その代わり、先に母を失った子たちの母代わりをしているらしいが。 目の前にズラリと置かれる、様々な山海の珍味。これも単なる御馳走ではない。そこに何がどのように並べられるかによって、その主の対外交力や文化レベルが示される。特に鉄壁であるが、それ故に封鎖されやすい地形と環境でもあるバーミアにおいて、その物資調達ぶりは重要な実力の指標であり、外交的なデモンストレーションとも成り得るのだ。 向かい合わせとなるカルデナスの席もまた三つ。右の席には随員資格でドレスアップのロザンナが座り、左にはエスコートの接待役が座る。この場合は当然にギャナック王の数多い王女たちの一人が務める事になるのが通例。 やがて周囲のどよめきと共に、豪奢なドレスアップを施された藍色の髪の少女が入ってくる。王女の一人らしいが、以前に来たのは数年前だし、王女たちの全てを知ってるわけでも無い。 だから最初の挨拶にもなかなか答えられずにいると。
「お忘れですか。ラージングラードのルクレーが娘。アデライトですわ」
アデライト!! あの「ラージングラードのアデル」だと!? 激しく驚愕し混乱するカルデナス。 その頭に強烈に蘇るトラウマ。かつて初めてバーミアに来た時、いきなり挨拶代わりに木刀で殴られた頭に痛みが蘇る。 馬鹿な! あいつは一年前の責任のために、謹慎中じゃなかったのか!? 慌てて反対側に向き直るカルデナス。それに対して無言で首を横に振る幕僚。本当に知らなかったらしい。 それにしても。政治的にも重要なはずの晩餐会のエスコート役に、よりによって「あの」アデルとは。 改めて正面に向き直り、王の表情を伺うカルデナス。 その顔はどことなく悪戯っぽく見えた。
「ラージングラードのアデル」。それは雲山朝における異端児の代名詞。 王太子のギャルソンに代表されるように、その母に関係なく、父王に似た子供がほとんどのバーミア王家。その中でむしろ女騎士の母の血をより強く引いたと思われているのが、このアデライト。 戦略的に要地に位置するため、母の出身のラージングラード家が向背常ならないため、王宮の中でも肩身が狭い思い立場にあるのも、その性格をいささかキツイ物としている。 また十一年前のゴットリープからの撤退戦で母を失った時は、その原因がカルシファー軍の無断離脱による物だったと断定。その後、名代で王宮に挨拶に来た俺に斬り掛かろうと目論見、事前に監禁されていたとも聞く。 その後も腕と気性をますます上げ、この度、山麓朝の新女王となったメロディアと、格好の同年のライバルとも目されていた。 それら全ての気負いも手伝ってか、前年のラージングラードの戦では、敵先鋒のペルセウスを打ち破るも、深追いをし過ぎ。その後に参戦のメロディアに逆撃を食らい、完膚なきまでの敗戦。 その時の猪突の責任を取らされ、それ以来の謹慎処分を受けていたとは聞いていたが。
いささか気まずい雰囲気の中で、ようやくの一言。
「随分とお久しぶりですね」
「いえいえ。そちらさえよろしければ。一年前にもお会い出来ましたわ」
言葉使いは丁寧だが、今にも火でも掛けて来そうな強烈な一瞥。 なるほど。要するにカルシファー軍が一年前の戦に参戦しなかったのを責めてるってわけか。 あの時点で。既に山麓朝の連中と親父の間に何らかの密約があったか、俺は知らない。 ただしまあ。十分にあり得そうな親父だとは思っている。
(で。親父が親父だってんなら…)
改めて正面の相手に向き直る。
(こっちもこっちだぜ)
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