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ハーレムトライアングル  第二章 門外不出の王 A
日時: 2022/06/27 12:40
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「やあ。久しぶりだったね。カルデナス」

公式謁見の後。非公式懇談の場所。流石に公式では厳しい表情だったギャナック王だが、ここでは完全に相好を崩してリラックスしている。

当然、今回の山麓朝との縁談についての糾弾を覚悟していたが、謁見の場で出たのは、あくまで近年における疎遠ぶりへの叱責のみ。
語調はなかなかに厳しく激しかったが、一番肝心な点には絶対触れないという点で、これがあくまで雲山朝全体の連中に向けての政治セレモニーだというのは理解出来た。
もちろんそれに不満な連中も多く伺えたが、とにかく親父似の俺がひたすら平伏して御詫と謝罪の一辺倒に徹した事で、取り敢えずの溜飲を下げる事は出来たらしい。
別にそこまで考えたわけではなかったが、やはり俺が来たのは正解だった。

そして謁見の後の懇談。カルディに説教されるまでもなく、外交というのはむしろこういう舞台こそが本番なのは分かってる。
真向いの席に向き合うのは、俺とギャナック王。少し離れて互いに向き合う護衛兼立会はそれぞれに二人。
こちらの側は軍服のロザンナとマントのエミヤ。そして王の側に立つのはそれぞれ騎士服とメイド姿の二人。いずれも伝説の女性。モーレ一族直系の寵姫リオレイアとヤザ出身の手練エリザベスだ。
初対面以来、常にこの手の会合に立ち会ってる二人だけに、この二人が依然として健在なのは実に懐かしくも感慨深い。
もっともあちらにすれば俺などは憎い男似の忌々しい息子でしかないだろうが。それこそ首を斬って送り付けてやりたいくらいの。

「で。お元気かな。カルシファー殿は?」

確か前回でもこんな話から始まった気もするが、改めて相手を正面から見詰める。
二十過ぎの息子がいる身でありながら、作ったのは十代の半ば。だからまだ四十前で、息子とはまるで年の離れた兄弟みたいに若々しい。

(いかにも弟タイプって感じなんだよなあ)

そういう意味では、五人兄弟の末であるはずの、父も同じはずだが、むしろそれを払拭しようとして、必死に片意地張ってきたあちらと違い、こちらはあくまで自然体といった感じ。

(むしろ弟になりたがってるってタイプかな)

一見して好人物というのは確かだが、その前歴はこちらの親父にも劣らず、相当に苛酷。父のチムール王の年老いてからの息子として生まれてしまったが故に、自身の意思に関係なく権力闘争に巻き込まれ、一時は叛乱を起こした叔父に母と共に幽閉。数年後、その母の一撃による混乱で脱出するまで、その慰み者にまでされていたとも噂される。
もちろん山麓朝として、そんな噂は全否定。命を助けてやったはずの母子の「恩知らず」をひたすら強調するばかりの、この二十年以上だったが。

(フン。一体どんな状況なら、女が細腕で勇者なはずの男を刺せるんだよ。もしそうでないなら、尚更にハリボテな見掛け倒しじゃねえか)

それっきり二度と以前の水準に戻れず、つい先日に引退した「愚行の男」を総括しつつ、目の前の相手に向き直る。

「それにしても。随分と似てきたねえ。君の父上と。そう。君の父上と初めて会って話をしたのも、この場所だった」

なんか前回も同じような事を聞いた気がするが。とにかくこの王と話をしてると、最後は必ず親父の話になる。
友好を装って探りを入れるというのは良くある話だが、どうしてもこの王の場合、そうは見えない。むしろそれを口実に、親父の話を思いっ切りやりたがってるようにしか見えない。

「で。その時。ここで従兄さんがねえ…」

そら来た。「従兄」という言葉が出てくると、まさに危険信号だ。例の二人の護衛も、一気に身構え出す。
これを放っておくと、このまま「従兄さま」から「従兄ちゃん」まで一気に行きかねない。いかに非公式といえども、国王の権威など吹っ飛んでしまう。四十も間近になって、いくら何でもと思っていたが、どうやら死ぬまで治りそうにない。
「門外不出の孺子」とは、鉄壁のバーミアから引っ張り出せない、山麓朝の連中の悔し紛れの悪口であるが、確かにこれでは外に出せそうにない。
それを察したか。例の超有能メイドが大きく咳払い。

「申し訳ございませんが。陛下。そろそろ晩餐会の時間で御座います」

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Re: ハーレムトライアングル  第二章 門外不出の王 A ( No.1 )
日時: 2022/06/26 23:19
名前: ハーレムシリーズ好き
参照: http://blog.livedoor.jp/harem_series_suki/

>これを放っておくと、このまま「従兄さま」から「従兄ちゃん」まで一気に行きかねない。

 微笑ましい(笑)。
Re: ハーレムトライアングル  第二章 門外不出の王 A ( No.2 )
日時: 2022/06/27 00:00
名前:

「永遠の十二歳」ですから。


タイトルの由来は「不世出の王」からです。

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