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ハーレムフロントライン 第四章 外交 A
日時: 2023/10/03 06:34
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「退屈だな」

首を思い切り振るバラーシャ。

ヒルクルスの最後の障壁を突破し、クレオンレーゼに戻ってもう一月。
いわゆる援軍のトップであったアスレーたち二人。彼らは今、王宮の一角に謹慎という名の監禁状態に置かれている。
帰り着いて以来、屋敷に戻るのもならず。マルビータが面会に来ているらしいが、会う事も出来ない。

理由は歴然の明快。要するに今回の派兵の結果をどう評価するかで、王国の上が揉めているのだ。
単純な事実からすれば完全な失敗。支援対象のはずのメリシャント軍を置き捨て。派遣兵力の半数近くを喪失。これだけやらかせば遺族に引き渡されてのリンチ死刑に掛けられても文句は言えない。
実際それを望む声は大きく、実家を見捨てにされたシルヴィス王妃などは、自分で八つ裂きにしてやると、夫であるジェラルディン王の首根っこを掴んで思い切り振り回しているらしい。

(ま。俺があっちでも絶対そうするだろうな)

もし事態がこのままで済むならそれもありだろう。だが問題なのは、これからどうするかという点。

いまやドモスの尖兵となっているヒルクルスは、国境間近のメリシャントのゲーブル城に陣を構え、こちらのバジルール砦を伺っているらしい。
奴が遂にクレオンレーゼ国境まで迫って来た事で、イシュタール国内のパニック状態はますます深刻化しているらしい。中には内通を公言している奴もいるそうだ。

それを受けてか、イシュタールから援軍派遣の申し出があったらしい。
派遣の大将は、バラーシャの旧知である例のクリスティン。多分に御飾りな父の後を受けて、未来の大将軍との声も高いらしい。
その部隊はクリームヒルト一族の最精鋭。本来なら最後まで手元に置きたい所だろう。しかし下手な連中を送れば、そのままヒルクルスに走りかねない現状からすれば、それを防ぐ監視役の意味を兼ねているのも間違いない。

「ここで俺たちを始末するのは、かえって国の損失だと思って欲しいが」

思わず零れるアスレーの一言。それを聞いて大笑いするバラーシャ。

「なにがおかしい」

「賢しら気にしていて。全然分かってないみたいだな」

「どういう事だ」

「私はともかく。上の連中がお前に一番期待してるのは。お前の才能なんかじゃ無い」

「じゃあなんだよ」

「決まってるじゃないか。顔だよ顔。そう。あの男に対する顔さ」

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