トップページ > 過去ログ > 記事閲覧
ハーレムフロントライン 第二章 王宮 D
日時: 2023/02/25 10:54
名前:

「アスレーさまあああああ!」

けたたましい叫びと共に、屋敷の中から飛び出してくる一陣のつむじ風。
アスレーがゲッとなる前に、全身全霊とばかりに思い切りの体当たり。
カエソニアが慌てて背中を支えなかったら、もろに後ろにひっくり返って地面に後頭部を打ち付けたかもしれない。
それであっても勢いは強烈で、結局は三人纏めて地面に縺れ倒れる。

「アスレーさま! アスレーさま!! アスレーさまああああ!!!」

何だ何だとばかりに集まってくる、周囲の人間たち。
そしてそんな事全くお構いなしに大声を張り上げ、アスレーの胸に思い切り顔を押し付けてくる、小柄の少女。

クレオンレーゼの法服貴族マルローゼの末娘マルビータ。
謹厳実直を絵に描いたような父や兄姉たちと全くの対極な、クリアランス一の名物爆弾娘。そしてアスレーの年下の婚約者。
兄のスマイラスが王女のジェイングレイと婚約した事に伴う、バランス的な縁組であるが、それ自体は別に不満は無い。

あるとすれば。それは。

「あーん! アスレーさまあ! やっとお帰りくださって嬉しいー!!」

とにかく喜怒哀楽がはっきりとしており、それらの見本にもそのまま使えそうなくらい。しかも嫌味の無い愛嬌が満点で、傍で見ているだけならこれほど愛くるしく可愛らしい存在も無いだろう。

そう。あくまで傍から見てれば。

「やっとって。別に一月も留守にしてたわけじゃないぞ」

これこそやっととばかりに搾り出す一言。

「あーん。あたくしにとって一日、いえ一時でもアスレー様と離れてるのはガマンできませんわー!」

改めてグイグイと顔を胸に押し付けてくる。周りで見ている連中は面白がってるが、代わりになってみろと言いたくなる。

「あ、アスレー様…」

背中の声に気付く。二人分の体重にのし掛かられているカエソニアの存在にも。

Page: 1 |