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ハーレムフロントライン 第一章 凶報 D
日時: 2023/02/23 10:32
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「クィンクェが動きました。やはり本格的なジャンダークトの奪還軍を起こす模様です」

更に数日後。カエソニアからの新たな報告を受けるアスレー。

「だろうな」

当然だろう。いまや領土の一角に打ち込まれたドモスの橋頭堡と化したジャンダークト。それを放置しておいては更に内部に浸透される。

いや。それは既に始まっている。
ジャンダークトに腰を据えたばかりと思いきや、城代の座を味わうまでもなくすぐさま次の行動に移っているらしいヒルクルス。
近隣のあちこちに出没を繰り返し、周辺地域への恫喝や懐柔といった調略に余念が無いらしい。

(やるな)

悪友の動向を聞きつつ、舌を巻かざるを得ないアスレー。
確かに王族の当時から身軽な男だったが、その頃にはまだ何某かの誇りというかプライドみたいな物があった。それが今や女や宗教、更には脅迫や恫喝まで臆面無く使う男になっている。

(もし今のような物がイシュタールに居た時にもあったら…)

あるいは例のクリームヒルトの末娘を迎え、事を穏便に進める事も出来たのではなかったか。

(いや無理だな。所詮あの男とあの国ではギャップが激し過ぎる。いつかは何らかの衝突が起きたはずだ)

どのみち覆水は盆に返らない。改めてカエソニアからの報告を分析する。

メリシャントとてそのままにしているわけではない。
ジャンダークトを奪還するための試みを既に何度も行っている。先日などは、近隣の諸城から集めた軍をもっての奪還戦すら敢行。
リンダから付けられた分を合わせても、ヒルクルスの手勢は少ない。内部からの呼応もあれば奪還は容易と思われていた。
しかし結果は全滅に近い大敗。表面的には後一歩とまで見えたが、そこに向かって場外に伏せていた騎馬隊が電撃的な奇襲。それを踏まえての城側からの効果的な呼応もあって、あたかもハンマーと金床の間のような惨状を呈したらしい。
特にその騎馬隊を指揮したフェンリッヒとかいう少年の猛威は凄かったらしく、生存者の多くが「あの叫び声が忘れられない」と怖気を振るったという。

(さすがはドモス。だからといってこのままには出来まい)

当然にメリシャントの中央として、この状態を放置しておくわけにはいかない。
実際その戦果を材料にすぐさまヒルクルスは次の調略に乗り出している。現在は様子見だが、このままでは周辺まで切り崩される。

「一大決戦だな。これは」

思わず口に出すアスレー。

「は」

「戻るぞ。クリアランスに」

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