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ハーレムフロントライン 第一章 凶報 B
日時: 2023/11/11 09:00
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「クリームヒルト一族か」

考えてみれば奇妙な連中である。

元は建国間もない時点で王族から分かれた分流らしく、長きに渡ってイシュタールの王家と婚姻を繰り返して来たそうだが、その立場はあくまで臣下であり、王族その物ではない。
それがいつのまにか国家のあらゆる面にまで勢力を伸ばし、国家中枢の多くを支配。先年のクーデターを機に、遂には政務と軍務の二大機構まで掌握する形となった。
気が付けば本来の王族の嫡流は壊滅状態。前王の三兄弟妹の内、前王は死に、弟は謀叛人のレッテルを張られて誅殺。唯一生き残った妹は南のダリシン王国に追いやられており、これはもはや簒奪状態と呼んでも過言ではない。
それを象徴するように現在の女王グロリアーナはクリームヒルト一族の出身であり、現公爵の娘でもある。
だがその資格はあくまで繋ぎ。前王ローゲンハイドの庶子であり、一度は自分たち自らが排除した王太子フィリックスが成長するまでの代行に過ぎない。現公爵の思惑としては、彼の末娘を改めて王妃に据え、その間の王子を改めて本格的な王に推し立てるつもりだろう。
要するにクリームヒルト一族として、王家王族としての最終責任まで取るつもりは無いのだ。

権力は欲しい。しかし責任は取りたくない。
何とも勝手な理屈だが、これもまた人間の本音という物だろう。

またそのような図々しい勝手が罷り通るというのも、イシュタールという国が置かれた特殊な環境にある。
西方諸国、特に半島を除く大陸本体の西南部のほぼ中心部に位置するイシュタール。周りを他国に取り囲まれている内陸国とはいえ、周辺の国々それぞれはイシュタールより規模も小さく、また別方面により面倒な敵を抱えている。
そのため周囲の国々はイシュタールに対し低姿勢を取り続けてきた。西部のシェルファニール王国など、イシュタールから迎えた婿の方に王位を預けたくらいである。

(くだらん。要するに単なるコップの中の茹で蛙だ。いい気になって気が付いたらその外から更に包囲されて呑まれてしまう。西国には全体を合わせても更に外から呑まれないだけの大きさも地形も無い)

あの男の過去の言葉が蘇る。

(同時に茹で玉子だ。薄い殻を剥かれたら残るは柔らかい中身だけだ。太平楽に慣れ切っているイシュタールには大敵を直接相手にするだけの経験も耐性も免疫も無い。国境にまで迫られたら立ち所に恐慌を起こして内部崩壊するぞ。出来るだけ外で防御するしかない)

(例えば。このクレオンレーゼを防壁に使ってか?)

(何が悪い。ここが破られて困るのはイシュタールだぞ。当然可能な限りの援軍も支援も行う。ここが破られた時点でイシュタールも終わりだからな。それに)

(それに?)

(お前も外壁防御を考えろ。ここまで大敵が迫ってくるのをただ黙って待つ気か。例えば目の前のメリシャントを利用するとかだ。そっちを考えるのはここの連中の仕事だぞ。え。宰相家の御次男殿)

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