ハーレムバスタード 第六章 庶子の時代へ G |
- 日時: 2022/12/16 10:33
- 名前: 陣
- 「ルパートは気の毒な子でしたよ」
改めて出された茶を口にしながら、述懐するルドヴィカ。
「もしあの子が男子として生まれなければ。あのクリスチアンの子でなければ」
その沈痛な表情を受け、敢えて質問を続けるジュスチーヌ。
「あなたが殺させたというのは本当なのですか?」
「始末したのは当時のテルモピライ家です。だが助命を口にしなかったのも確かです」
「ゴットリープを揺るがす騒乱を起こし掛けたのです。それは無理だったのでは?」
「でも世間はそう見ない。世間に映るのは『腹を痛めた子を見殺しにした非情な母』というだけです」
「でも。助ければ助けたで、身内贔屓とか言われたでしょうね」
「ええ。それこそがあるいはアルシノエ、更にはアルキピアデスの狙いだったでしょうね。正直、私もこの批難は堪えました。一時はあの子の後を追って自決するかと真剣に考えましたよ。笑ってください。世間から『女帝』と呼ばれる。この私がですよ」
「…」
「しかしまだ死ねなかった。もし死ねばまだ未熟のルシタニアとルシアラではテルモピライ家に対抗出来ないのも歴然だった。しかも一番厄介な心中の虫はむしろ中にいた」
「もう一人の御息女ですね」
「そう。ルメリア。ルパートの同種の妹。いいえ。はっきり言いましょう。あの子の父は誰か分かりません。クリスチアンかもしれない。あるいは当時乱行していた相手の一人だったかもしれない。クレメンスに母と心中され、クリスチアンには失望し、当時の私は荒んでいました。要するに若かったのです。あの時期こそバイバルス家を亡ぼすに格好の時期だったでしょうが。多くの連中はむしろ私を篭絡する方が早いと考えたようです」
「…」
「それであってもルメリアが私の娘であるに違いは無い。そして私と同様の権力志向があった。本当の父の分らぬコンプレックスも大きかったのかもしれません」
「…」
「でもやはり自分では殺せなかった。だから始末した事にして放逐しました。バイバルス家の名を出さぬ限りは干渉しないと条件を付けて」
「で。その後は?」
「手切れ金だけ要求して姿を消しました。ほとぼりが冷めてから後を追わせましたが、それきり行方知れず。生死も分かりません」
「御心配なのですか?」
「もちろん。しかし悲惨な最後となっていればと思うと知りたくもないという気もあります」
「どこかで平穏な家庭でもと思いたがるのは当然ですわ」
「あれから十五年以上たちました、もし子供でも残していれば、大きくて…」
その瞬間、カチャリとスプーンを鳴らすルドヴィカ。
(ま、まさか!?)
「どうされました?」
様子を伺うジュスチーヌ。しかしその声は耳に届かない。
(…そう。あの子は音楽が好きだった。そしてあの何もかも見透かすような鋭い眼。な、なぜ今まで気が付かなかったの!?)
|
|