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ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 F
日時: 2022/11/15 23:10
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「ル〜キエ〜ラちゃ〜ん。あ〜そ〜ぼ〜」

馬車の窓から高らかに響く能天気言葉。

その言葉を受けて、大きく開く門。そのまま入っていく馬車。

その光景を見ていた二人の男。

「おい。見たか。あの馬車の家紋。あれはバイバルス家の…」

「ああ。いよいよだな。あそこの。テルモピライ家への…」


テルモピライ家。それは「ゴットリープの女帝家」の異名を持つバイバルス家に次ぐ、ゴットリープの名門都市貴族。
しかしその家門の歴史はバイバルス家を遥かに凌ぎ、ゴットリープの建設期にまで遡るとまで言われる。そして統一期においては都市貴族の筆頭家としての最高の格式すら誇り、ラルフィント王室とも何重もの縁組を行っていたとすら言われる。
しかしオルディーンの謀反に始まる両朝分立期への突入以後において、その栄光のある歴史が却って足枷となる。余りにも重い伝統によって柔軟な政治対応を欠き、女系継承への転換など、素早い対応を行った新興のバイバルス家の後塵を次第に拝するようになる。そして気が付けばバイバルス家歴代女当主の夫君を輩出する立場に後退。「バイバルスの種馬家」とまで呼ばれるようにすらなってしまう。
当然の事ながら、そうした現状への不満を持つ者は同家内に数多く、ここ十数年間に両家の間で起こった二つの事件も、その点に由来するとも言える。
事に後者の「アルキピアデスの乱」の結末は決定的であり、当時の女当主母子はその座を追われ、バイバルス家から送り込まれた義母娘によって、遂に事実上の分家とされてしまう。
もっとも次期当主に擬された少女も、テルモピライ家の前当主の弟の血を引く者であり、ドゴール家のように、決して別物にまでなったわけではない。それこそ本家となったバイバルス家の次期当主と同様に。


その屋敷の居間。

それぞれのソファに深く腰掛け、長テーブルを間に挟んで、向き合う形の二人の少女。

さっきから快活にしゃべってるのが一方の少女。他方はずっと不機嫌そうに黙っている。

「ねえ。ルキエラちゃん」

「…」

「ルキエラちゃん!」

「…」

「ルキエラちゃんってば!」

「…」

「テルモピライ家のルキエラちゃん♪ このごろすこ〜し変よ〜♪ ど〜したの〜か〜な〜♪」

「…」

「広場で遊ぼって言〜っても〜♪ 絵本を見せるって言〜っても〜♪ いつも答えはお〜な〜じ〜♪」

「…」

「あ〜と〜で〜♪ つまんないな〜♪」

そこでバンとテーブルを思い切り叩く、他方の少女。

「いいかげんにしてください!! ルキオラ様!!」

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