ハーレムバスタード 第四章 婚儀という名の政治 B |
- 日時: 2022/11/15 03:48
- 名前: 陣
- 「あら。憂かない顔ね。セルシウス」
横を歩きながら、顔を伏せがちな従弟に声を掛けるパールパティ。
「僕が憂かない顔なのはいつもの事だと御承知でしょう。パティ様」
わざとぶっきら棒に返事をするセルシウス。
「はいはい。で。今は何で憂かない顔なのかしら?」
「先日まではバーミア。そして今日はここエルヴィーラ。我れらがサラミス家の御当主たるパティ様をまるで走り使いのように。これを不満に思わなければ従者の資格はありませんよ」
「あら。そうかしら。当主なんてむしろこんな物じゃないの? サラミスには御祖母様がいれば問題ないでしょ」
「ええ。確かに大奥方様は偉大な方ですよ。それは分かってます。だからと言ってパティ様を三家婿入りの一つなんて。まだ跡取娘の他二人と違って、パティ様はれっきとした御当主なんですよ。これはパティ様だけでなく我がサラミス家としても屈辱物です」
「セルシウス。それを提案したのは御祖母様自身よ。それを侮辱するつもり?」
「ええ。他の二つが言ったならふざけるなでしょうけどね。でも格としてはパティ様が上のはずです。それをあのセライナとかいうカレル女。まるで自分こそがケーニアス殿の正主人だと言わんばかりに…」
「仕方ないわね。今はあの家に厄介になっているんだもの。ケー君もエリーも」
より一層苦々しい顔になるセルシウス。
「厄介の割には、結構楽しく遠慮なくやってるようでしたが。ケー二アス殿は」
「そうよね。やっぱりバーミアみたいな場所が気に入りなのかしら。ケー君は」
「僕は嫌いですよ。あんな場所。いかがわしくてやらしくて。あんな場所がこの世にあると思っただけで、イライラしてきます!」
「そう? 結構あなたもモテてたじゃない?」
「あんな連中にモテたって嬉しくもなんともありませんよ! 人妻も母親も色目ばかり! ああいうのを不貞の輩ってんです! あそこに比べればゴットリープの方がまだマシです!」
「あらあら。そういうとこ。まるであなたの御祖母様そっくりね」
「ええ。確かに僕はサラミス第一の御祖母様似で、前の御当主様似の父上とは違いますよ。むしろそれを誇りにしているくらいです」
先日何度目かのバーミア行。それを終えてすぐサラミスで身繕いをした後、ここエルヴィーラまでやってきたばかりなだけに、セルシウスのムシャクシャは大きい。
「それに。今度のここの婿殿も。ゴットリープで悪名の高かった、あの『聖汚物』だって言うじゃないですか。そんな場所にわざわざパティ様を…」
そこで初めて目をキッとさせるパールパティ。
「口を慎みなさい。セルシウス。今度の御婚儀の主人たるジュリエット様の母君は私たちサラミス家の出身。あなたにとっても従姉上になる御方。無礼は許しませんよ」
「…はい。分かりました。パティ様」
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