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ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 D
日時: 2022/11/19 11:10
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「それでは御母様。なぜレナス家、いえバージゼル家と今お組みに?」

娘の問いに、軽く苦笑するルドヴィカ。

「分かってるもんだと思ってたんだけど。まだまだ甘いね」

「申し訳ございません」

いささか不機嫌そうな娘に、またも苦笑。

「簡単に言うなら、組み易い相手だからだよ。こっちの権力がシャリアスに狙われたのと同様、レナス家の方も王太子だったシリウスの不興を買っていた。例のオーフェンの件でね」

「例の肘鉄ですね」

「当然シリウスが即位したら家が危ない。シャリアスとしてはレナス家を大きくしてこちらにぶつけようとしていたんだろうけど。シリウスには徹底されてなかったようだね」

「幸いでした」

「ま。レナス家としても、別にその手に乗らなきゃならない義務は無い。例の噂もあるしね」

「御母様の実の父、すなわち私の御祖父様がオグミオスではないかという噂ですか」

「そう。バージゼルは三姉妹というよりオグミオスに忠誠心を持っている。だから無意識にもこちらには積極的に敵対しない。こちらから敵対しない限りはね」

「で。その噂は本当なのですか。御母様?」

「さあ。あたしも自分の母に確認した事は無かったからね。けど」

「けど?」

「お前の祖母はオグミオスの事について話す時、なぜか一番楽し気に見えた。それだけさ」

「…」

「それに。もうレナス家も長く無いしね」

「長くない?」

「あの『歪んだ結婚体制』とやらを見れば分かるだろう。所詮あれはあの三人が互いに今上手くやっていくだけの物だ。先の事など考えていない。あるいは考えようも無い事だろうけどね」

「それは」

「いま連中が考えているのは、ただネメシスとクリエートの間の均衡だけだ。ミラージュ戦役での指揮権の分割。そしてこの間の宮宰と大将軍への任命。全てあの連中が事を先送りしているだけに過ぎん」

「…」

「本来なら、世間的にも受け入れられやすいウェルキンや第三のケーニアスを立て、それらの繋ぎ役をやらせるべきだったろうがな。だが連中はウェルキンをカンタータに自ら追い、ケーニアスには逃げられた。もはやレナスの血の中でその役を果たせる者はいなかろう。今の四人がいなくなれば間違いなく上下を決める一戦が起こる。メロディアの時と同じにね」

「なるほど。だからマックリィを」

「そうだ。マックリィにはレナスの血は無い。だがこの場合はむしろそれが役に立つ。実の母兄姉とも事実上切れてるわけだし。直接の関係はあくまで今ゴットリープで宰相を名乗るバージゼルだけだからな。また例の件で、ネメシスもクリエートもマックリィには負い目がある。だからこそ一番大きな絵を描ける。本人にその気など無くとも。いやそんな物いっそ無い方が良い。アルキピアデスのような半端者になるくらいならな」

「…で。レナス家はその絵の一部になるわけですか。確かにそれならば現在の対立を無意味化する事も出来そうですが。彼らとしては不本意かもしれませんね」

「それは向こうの勝手だよ。ただし将来の対決を避ける他の手があちらにあるのかい。とにかくこちらとしてはそれに巻き込まれる前に手を打たなきゃならない。そうだろ?」

「…」

「もちろんマックリィだけでは十分じゃない。あくまであの御付とペアでなければね。あれがマックリィの弱さを補うだろうし」

「ビオラですか。しかし彼女には」

「『ヴラッドヴェインの子女』でないかというあれだね。本当かは分からないが、それはそれで政治的なブラフに役に立つだろうさ。あたしの母とオグミオスのようにね」

「…」

「心配そうだね。もちろん危険は百も承知さ。そして今は危険を承知で踏み出さなきゃならない時期にある。それも分かるだろ?」

「…」

「そうだ。毒食わば皿じゃないが。いっそテルモピライ家も巻き込むかい。我がバイバルス家とエルヴィーラ家だけでは収まりが悪そうだからね。それならばバランス的にもより優れそうだ」

「ま、まさかルキエラまで。あれは…」

「姉妹同時なんてレナス家が範を示してくれたろ。三家婿入りもね。せっかくのそれを利用しない手は無いだろうが。もちろん正夫人、いや正主人はあくまでルキオラだという点ははっきりさせとかないとだがね」

「…あ、貴女という御方は、どこまで…」

「誤解しないでおくれ。不人情で外道なのはあたしじゃない。政治と権力ってやつさ。違うかい?」

「…」

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Re: ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 D ( No.1 )
日時: 2022/11/13 01:04
名前: 鬼末忠次
参照: http://onisue-chuuji.blog.jp/

いやはや、予想を上回る女傑ぶり。これはマックリィも大変だ。彼とビオラの活躍が楽しみです!
Re: ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 D ( No.2 )
日時: 2022/11/13 08:19
名前:

むしろ前章までのマックリィとビオラの強力コンビに対するには、相手方もこれくらいでないとって感じですね。

出来ればそちらの御感想もお願い致します。

Re: ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 D ( No.3 )
日時: 2022/11/19 05:34
名前: 鬼末忠次
参照: http://onisue-chuuji.blog.jp/

シャリアスは生まれてくる時代を間違えた感じもしますね。器量が足りなかった。まあ英雄と女傑、両方相手どるのだから無理もないかもですかね。
Re: ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 D ( No.4 )
日時: 2022/11/19 07:15
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どちらかと言えば、初期の段階でゴットリープとの関係を上手く構築出来なかった、オルディーンやメロディアの負の遺産を引き継がざるを得なかった、不運な人間って解釈なんですよね。
以後の内部での代々の継承争いも激しく、一丸となってゴットリープの支配権を確立するどころでもなかった。

結局、最後まで山麓朝はゴットリープにとって異邦人でしかなかったと。

あと建武の新政で、傍系出身の後醍醐天皇が名和長年を使って京都内部の既得権益を解体させようと図ったのも意識してみました。

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