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ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 A
日時: 2022/11/07 07:05
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「で。どうすんの。断んの?」

手紙と姉の顔を見比べながら、相変わらずの調子でのたまうオーフェン。それに対し、更に忌々しいといった感じで吐き捨てるイヴゥン。

「それとこれとは別だ!!」

「そうよねえ。むしろ願ってもないくらいだもんねえ。それも向こうからなんて」

「でも。ここの貴族って。婚姻は互い同士でしかやらないんじゃなかったの。たとえ王族でもお断りって」

「ああ。マックリィとの事も良くある遊びの類と思ってたんだがな。しかも以前ならともかく、よりによって今のマックリィとは…」

アーリーの問いに、改めて腕を組むイヴゥン。

「前のマーちゃんだったら、ルキオラちゃんとお似合いだったんだけどねえ」

「ああ。今のあいつに似合いなのは、むしろ…」

ゴットリープの都市貴族たちは互いの間でしか縁組をしない。
これは山麓朝が成立してからのゴットリープの都市貴族の最大不文律。たとえ山麓朝王家から望んだとしても、あらゆる口実を使ってでも辞退という名の拒否を行うのが通例。また王家側としても断られれば威信に関わるので、少なくとも表立っては自らオファーをする事も無い。
もちろん王家としては面白くないが、基本的に都市貴族たちはその時々の権力者に協力的であるため、特に弾圧する必要もないし、無理に縁組までする必要も無い。
これは転変の激しい山麓朝王家の内紛に巻き込まれる事を避けるための防衛策だと説明される事が多い。ただしその初期において初代のオルディーンが当時の都市貴族からの申し出を断り、二代目のメロディアが折角の御膳立てを拒否した事によるという説もある。ならばそっちで勝手にやれと。

但し完全な断交はそれでそれで危険な場合もある。よって正式な嫡流嫡子との縁組は断るが、政治的なリスクの少ない相手を選んで、その庶子を婿に迎えたり、愛人を務めたりするという事で対処する事もある。
よって都市貴族の当主は男より女の方が都合が良い場合が増える。女ならば、たとえ生まれた子が夫の子でなく愛人の子であり、あるいはその逆であったとしても政治的な使い分けが容易だからだ。
そしてそうした女系相続への流れにいち早く順応したのがバイバルス家。未だに男系相続への執着を捨てられない他家を差し置いて、都市貴族の筆頭にいつしか就いたのも不思議ではない。
まさに「ゴットリープ女帝家」の誕生である。

実際、代々のバイバルス女当主は他の都市貴族から夫を迎える事が慣例である。但し彼女たちの父、あるいは子供たちの父が同じとは限らない。現在の「ゴットリープの女帝」ルドヴィカにしても、その実の父は当時の山麓朝国王、あるいは前代と親交のあったオグミオスではないかという噂もある。
すなわち後者であるなら、三姉妹の異母姉の可能性もある。あるいはバイバルス家が早くからレナス家に肩入れしたのもそのせいかと勘繰る向きもあるのだ。

「たとえあの女が我らの異母姉上だとしても、マックリィとの血縁は無い。それにしても自ら慣例を破るとは。なんとも大胆な女だ。実に腹立たしいが、まさに傑物だな」

傑物。女帝と共に、まさにルドヴィカについてこれ以上は無いくらいの呼び名。
前当主である母から実力でその座を奪っただけでなく、多くの男と作った息子や娘たちの挑戦は逆に返り討ち。最終的に後継者と選んだルシタニアの夫、すなわちルキオラの父親も愛人にするも、分不相応の増長を始めたと見るや、容赦なく抹殺。
王家以上の修羅の歴史と呼ばれる、バイバルス家においてもここまでの例は無い。

「義母殿がああなってなければ、窓口役をお任せし続けられたんだがな。正直、我らであの女の相手は荷が重い」

「うへえ」

「マックリィはここの貴族たちの受けが良いわ。連中も反対しないんじゃない」

「クーちゃんが喜ぶんじゃないの。とにかく古い慣習を壊したがってるんだから」

「どうかな。下手をすればむしろこちらが取り込まれるとかと考えるんじゃないのかな。クリエートとしては」

「とにかく。バージゼルにも相談しなきゃ」

「その必要はあるまい。おそらく既に婿殿との話は付いている」

「バーくんと?」

「ああ。でなければあの女でもこんな真似は出来ん」

「じゃあ。なぜバージゼルはあたしたちに何も言わないの?」

「婿殿として相談するまでもないと見たんだろう。現状で拒否する選択肢は無い。それにマックリィは我々の子ではないからな」

「ま。王家とも縁組したがらなかった、あのバイバルス家が、自分から言い出すとなれば、あたしたちレナス家の格もまた一段と上がるわけだし。バーくんとしては大歓迎よねえ」

「…意外だな。分かってるじゃないか。オーフェン」

「何よ。あたしがバカだと言いたいの?」

「…」

「なんだアーリー。その顔は。婿殿に相談されなかったのが不満なのか。日頃、婿殿が我々に遠慮し過ぎると言ってたのはお前だろうが」

「それは、そうだけど…」

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Re: ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 A ( No.1 )
日時: 2022/11/07 05:52
名前: 鬼末忠次
参照: http://onisue-chuuji.blog.jp/

これまた…………凄いヒロインの誕生ですね。ルドヴィカ、凄絶の一言。彼女とマックリィの対決?が楽しみです。
Re: ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 A ( No.2 )
日時: 2022/11/07 20:27
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三姉妹丼に対して三世代丼って感じでしょうか。
孫までいてもまだ四十代は可能だと思うので。
あるいはロレントやイレーネと同じく1000年生まれの可能性も。

実在のモデルは則天武后やエカテリーナですね。
このシリーズとしてもクラウディアやパピューム夫人みたいな先例はあるだけに。

とにかくゴットリープみたいなハイリターンだがハイリスクな場所ならどんな人間が出来るかも考えました。

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