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ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 @
日時: 2022/11/06 19:13
名前:

「あの女!」

思い切り手に持っていた物を思い切り叩き付けるイヴゥン。

その様子に振り替える妹二人。

「ん?」

「どうしたの? イヴ姉?」

「どうもこうもあるか。あの女。よくもヌケヌケと」

自分で拾うのも悍ましいとばかり、床の上の手紙をワナワナと指先で指し示すイヴゥン。

どれどれとばかりに拾って、それを開くオーフェン。それを横から見詰めるアーリー。

「へえ」

「これは」

「そうだ。あの女。ゴットリープで予定のマックリィの披露宴を自分たちの主催にいつのまにか摩り替えている。さぞ当然のようにな」

「それも。向こうのルキオラちゃんとの婚儀との二部構成でねえ」

「これじゃ。まるでエルヴィーラ家の方がオマケみたいになってしまうじゃない」

「そうだ。こっちとしてマックリィをあちらにも婿入りさせるなど、一言も言っておらんぞ!」

誇り高いレナス家の長女イヴゥンが感情交じりに「あの女」呼びする相手。それは都市貴族バイバルス家の前当主ルドヴィカに他ならない。
バイバルス家としての当主の座は娘の一人のルシタニアに譲っているが、その実権を未だに握り続けており、依然として「ゴットリープの女帝」とまで呼ばれる勢威を誇っている。

バイバルス家。それはゴットリープ土着の都市貴族の有力氏族の一つ。
両朝分立の開始以来、山麓朝の首都としての役割を担っていたゴットリープ。しかし初代のオルディーンが南方のバルザックへの養子となり、ゴットリープへの足掛かりを失っていたため、ゴットリープの市政としては、その当初から統一期から健在の都市貴族たちの合議制が取られていた。彼らはいわゆる豪商でもあり、様々な経済活動の管理推進役でもあった。

分立当初はバイバルス家もそうした都市貴族の一つでしかなかった。しかし二代目のメロディア以降、継承ルールの定まらない山麓朝内部が様々な争いを繰り返す中、いつしかその筆頭格としての地位を固めていった。

一般的に山麓朝としての首都として語られるゴットリープ。しかしそれは一個の経済都市でもあり、ラルフィント王国全体の中央部に位置するだけでなく、大運河を通じて東翡翠海にも通じている。そしてその規模はあの大ドモスの事実上の首都カーリングを未だ遥かに凌駕しており、他国の留学生も受け入れるなど、まさにこの大陸の最大都市である。

但しそのゴットリープにも致命的と言っていい最大の弱点がある。それは平野の真ん中の平城でもあるという点。もちろんそれは経済的に好都合であるが、軍事的には極めて無防備だという事にも他ならない。これはゴットリープが統一時代に作られたため、現在のような分立乱世が全く想定されていなかった事も表している。
もちろん山麓朝として全く手を拱いていたわけではない。防御力を固めるため、その周囲に幾つかの支城を築くという試みが施された時代もある。
但しその支城が内部での叛乱において牙城ないし橋頭保として活用されてしまう事態も多く、現在では全てが破却。それが結局はレナス家による攻略を許す逆の結果にもなっている。

よって都市貴族をはじめとするゴットリープの住人たちにとっては、彼らの身の安全と経済活動の自由を可能とする強力な統治者でなければ意味が無い。
そしてそれは別に山麓朝に限った事でもないわけであり、場合によっては雲山朝と組んでも構わないはずである。

但しそれを実現するには二つの重要なネックがあった。
一つは両朝分立の初期に生じたゴットリープ都市貴族と雲山朝王家との確執。そして経済都市として競合関係にあるバーミアの存在である。
オルディーンの叛乱軍がゴットリープに迫ってきた時、ゴットリープに被害が及ぶのを恐れた当時の都市貴族たちが内部叛乱を起こし、宰相を殺し、当時の国王母子を無理矢理降伏させたと言われる。その十年後にバーミアの雲山朝軍が一時的にゴットリープを占領した時、その報復とばかりに、残留した都市貴族たちを大量粛清したとも言われる。
その中で脱出に成功していた都市貴族の生き残りの一人が現在のバイバルス家の直接の初代当主ルードヴィッヒ。実現には至らなかったものの、当時の雲山朝の重要な一角でもあったベニーシェ家の切り崩しにも動くなど、執拗なまでの対抗を示す。
またそれを実現するため、メロディアの二代目継承を支援したため、それによって粛清されたペルセウスの外孫でもあるギルディーンの憎悪も買い、その代における凄絶な三十年戦争は、その渦中でも継承争いを繰り返した山麓朝王家でなく、むしろバイバルス家とギルディーンの物だとすら呼ばれるくらいである。
また雲山朝の最大のスポンサーでもあるバーミアとしても、その経済都市としての大幅な復権は乱世による防御面と治安の優位が大きく、雲山朝とゴットリープの講和は望む物ではない。よって当然のごとく両者の接近をあらゆる手段で阻止妨害し続けていた。

よってバイバルス家としては、ゴットリープの安寧を保証する政権を常に必要模索していたわけだが、もはや山麓朝では見込みなしと見極めていた時点で目を付けたのが、当時先代のオグミオスを失っていたばかりのレナス家。それについてはルドヴィカの先代当主がオグミオスと親交があったのも大きかったとも言われている。
彼らの得意の縁組外交も、初期においてはバイバルス家らの保証の裏書が大きく、山麓王家からの介入の阻止など、彼ら都市貴族たちの様々なバックアップがあればこそといった面が大きい。

最後のゴットリープの開城も、一世紀半前と同様の、内部からの彼らの呼応が大きく、当然において彼らに対しては多大な恩義がある。
それも出来ればいっそチャラにしてしまいたいくらいの恩義が。

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Re: ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 @ ( No.1 )
日時: 2022/11/06 00:53
名前: 鬼末忠次
参照: http://onisue-chuuji.blog.jp/

これは……凄いですね。陣さんワールドの真骨頂。こうきましたか。読み応えありました。
Re: ハーレムバスタード  第五章 ゴットリープの女帝 @ ( No.2 )
日時: 2022/11/06 01:56
名前:

冒頭で軽く出したバイバルス家をメディチ家な都市貴族の代表とする発想は自分でもヒットでした。

ちなみにルドヴィカの性格モデルは則天武后です。

レナス家の躍進がゴットリープ内部の協力があったのではというのもヒントになりましたので、どうかこれからも御意見を宜しくお願い致します。

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