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ハーレムバスタード  第三章 不穏な平穏 D
日時: 2022/10/22 22:17
名前:

「バカ!!」

小屋の中で響く乾いた音。

そのままズカズカと外に出ていき、バンと戸を閉めるジュリエット。

やがてガラガラと馬車の動き出す音が聞こえ、遠退いていく。


「お〜。いてえ〜」

頬を押さえ、顔を顰めるライシュ。そして。

「おい。もういいだろ! いいかげんに出てこい! 鳴らし屋!」

その言葉に続き、小屋の奥からスッと姿を現すビオラ。その片手には楽器が握られている。そして顔は相変わらずの無表情。

それに対し、吐き捨てながら背を向けるライシュ。

「…ったく。いつからそこに居やがった。てめえ。あたいがあれと乳繰ってる時か? それともあたいたちがここに来る前かい?」

「…」

「だとすれば移動魔法って奴か? だとしてもここが分かってるって事はあたいとあいつを良く知ってなくちゃできねえな。おい。もしかして最初からあたいの仕業だって事を。いや。むしろあたいにあれをああさせるためにあんな誘った真似をしたってのか?」

「…」

「そしてあたいがあれにあんなことまでしてたってのに。ただ黙って見てたのかよ。てめえ。一体何考えてやがる?」

「…」

「ったく。全く気色の悪い得体の知れねえ奴だぜ。てめえら鳴らし屋って連中。特に一体てめえはよ」

「…」

「てめえ。その只者じゃねえとこ。もしかして。あたいの爺さんが言ってた『ヴラッドヴェインの子女』って奴じゃねえのか?」

「…」

「不死な奴にガキは作れねえ。だが完全な不死になる前は別だ。奴が不死になる前に作った、ガキの子孫の連中で自分に近い素質の野郎を、今のガキの代わりに仕込む道楽が奴にあるってのを聞いた事がある。あるいはてめえ。それなんじゃねえのか?」

「…」

「だとすりゃ。今は天下のレナス家の当主。いや宰相様はもしかしてあの化け物に魂を売ったってわけか。てめえのガキを救うためだけによお」

「…」

次第に苛々してくるライシュ。

「おい! いい加減に何か…」

思い切り振り向く。

そこには。誰もいなかった。

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