ハーレムバスタード 第一章 レナスの聖汚物 J |
- 日時: 2022/10/09 21:07
- 名前: 陣
- 「レナス家の聖なる汚物」
いまや権力者レナス家の光と闇を一身に具現する存在とすらなった、マックリィ。 その「静かなる御乱行」は、確かに政治的に大きな役割ともなったが、当然の事ながら蔭口と顰蹙を伴う物ともなる。 御相手の順番を待たせる者たちの欲求不満も含めて。
兄弟の中で特に潔癖症の強い、クリエートとしては特に苦々しい限り。そしてある日に父と。
「ならばもっと血を流すか。マックリィの件を考えろ。どうせ我々は既に十分すぎる程の恨みや蔑みを買っている。いまさら多少品を良くしたところで意味は無かろう」
「ならばこの国はどうなります! レナス家もまた同じ事を繰り返すのですか!?」
「国など知らん。私が最初から考えているのはただ、オグミオス様から託された、レナスという御家を存続させる事だけだ。たとえこんな国が消えてなくなろうともな」
絶句するクリエート。たとえ息子と二人であっても、このような本心をあっさりと明かすとは。
明らかに父は危険な程に変貌している。いやむしろこれこそが父の真の本質。ならば今のマックリィこそが父の本質を最も現している息子なのではないのか。
(レナス家の、いやバージゼルという男の真の嫡男…)
ならば自分は。他の兄弟姉妹たちは、父にとって一体何なのだ。いや、あの大戦争は一体何のために行われたのだ。 どこかで足元が大きく崩れる音が聞こえた。
(…聞くべきではなかった…)
そしてクリエートの慨歎とはまた別に、レナス家内部におけるマックリィの存在と所業は大きな問題となりつつあった。
末子のマックリィの殺害未遂以来、ファシリアは完全に塞ぎこんでしまい、周りの声にもほとんど無反応。表面的にマックリィが回復したように見える今でも、改善の兆候は大きく見えない。 異母の三姉妹系と共に、最初はマックリィに同情していた同母の兄姉たちも、流石に長男のサハウエイを除いて、母を気にしないようなマックリィの乱行ぶりに不満と顰蹙を浴びせ始めていた。 「あいつのせいだ」「いっそ最初にあそこで死んでくれてれば良かったんだ」と。
そしてそうした同母の家族たちとも疎遠になっていった、マックリィにとって、最後の縁となっていたのが、父のバージゼルと側付のビオラ。
最初に命じられて以来、常にマックリィの傍に付き従い続けるビオラ。 マックリィの外出にも常に付き従い、社交の場でも、あるいは他の者と一緒の寝所においても傍におり、時には得意の曲を奏で、その場その場の興を巧みに添える。
魔性のマックリィとは逆に、その短い髪をはじめとするいで立ちは、むしろ少年的な風貌。卑俗な身分の楽士でありながら、いささかもくたびれた感じのない隙の無さは、独特の貴風すら感じさせる物。その毅然たる姿勢は、いかなる邪念すら起こさせない程の物があり、あの傍若無人の代名詞のネメシスですら無言で引き下がらせたという噂もそれを高める物となる。 実際、彼女は身に何も武器を付けていない。 もしマックリィに対し何者かが過渡なふるまいに出た場合、手持ちの楽器の弦をビンと鳴らすだけ。大抵の相手は、この一つだけで震え上がってしまい、その場から離れてしまう。
これぞまさに絶妙無比のコンビ。「聖なる汚物」と言えばマックリィ個人だが「聖汚物」と言えばこの一組を指すとも呼ばれる。もちろんどちらがどちらを指すかは言うまでもない。
そして下世話な世間が次に連想するとなれば。それは当然にただ一つ。
「あの二人。デキてんのか?」
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