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ハーレムバスタード  第一章 レナスの聖汚物 E
日時: 2022/10/19 06:34
名前:

「…」

今にも頭を下げんばかりの御当主様に複雑な表情を作り、次には左右手前の相手にそれぞれ視線を飛ばすビオラ。

それに対し、それぞれ式に視線を逸らすネメシスとクリエート。

(やっぱり)

ドゴール家関連も含めた、エルヴィーラ家内部への対策も当然にあるだろう。しかしより口に出来ない一番の理由は、エルヴィーラ家領がドゴール家領とレナス本家領との間に位置するという点。
すなわち様々な意味で微妙な関係にある両家の間にあって、双方の対決を阻止する事。それが大レナス家勢力内においてエルヴィーラに求められる最大の任務なのである。

ドゴール家とレナス本家。更に言えばそれぞれの実質トップであるネメシスとクリエート。現在のレナス家勢力における文武の代表といえる二人だが、この二人の関係と立ち位置は極めて微妙である。
そしてその根本的な理由は、彼らの両親にある。

歴史的英雄にして長らく停滞していたレナス家の中興の祖でもあった、先代オグミオスが遺児であるレナス三姉妹に残した相続に関する遺言は「バージゼルと結婚した者が家督を継ぐ」という物。
当然に三人のうち特定の誰かがというのが常識だろうが、なんと三人の談合で三人ともがバージゼルと結婚するという事となり、まずここに家督権が三人に分有。
しかも更に事態を面倒にしたのが、その後において三人の間において交わされた「三人いずれからにしても生まれた順に子供たちのレナス家の継承順位を決める」という物。
もしレナス家が単に一家族のみで終始したなら、それも一種の座興だったろう。しかしレナス家の勢力と権力がそれを超えてしまった時、それは序列化としては極めて難しい状態になってしまった。
三姉妹の中で最初に生まれたのが長女イヴゥンの長女ネメシス、そして僅かに遅れて生まれたのが三女アーリーの長男クリエート、更に少し遅れてが次女オーフェンの長男ケーニアスである。
ケーニアスはともかく、問題となったのはネメシスとクリエートの序列。単に出生順となれば当然にネメシスだが、男系優先となればクリエート。強引な手段を取ってもネメシスをドゴール家に留めさせたのは、乗っ取り云々より、むしろ本家にネメシスが戻ってこられては困るという事情があったとも言われるくらいである。
そして更に事態を複雑にしたのが、先代オグミオスの未亡人であるファシリアの存在。オグミオスの死後、バージゼルの唯一の側室となったが、その直後に懐妊出生したのが、現在はラージングラード家の養子となっているサハウエイ。公式にはバージゼルの庶子にして最長子となっているが、その出生時期からすればオグミオスの実子であっても決しておかしくない。いかに公式の遺言があろうと、オグミオスが懐妊を知らなかったかどうかを合わせれば、それは先例的に決して絶対ではない。
しかもその正当性は山麓朝の先王シャリアスが保証したものであれば、もし山麓朝の権威が損なわれれば失われた物と解釈する事も出来ないわけでない。
特に彼ら自身の手によって、それが失われた場合においては。

とにかく現在の一族統治においては、ドゴール家に身をおいたまま、ネメシスが三姉妹系の弟妹たちを統括する立場にあるが、それは幼少時からの彼らの習慣の延長であり、未だ本家の家督を正式継承していないクリエートとしては一歩譲らざるを得ないからに過ぎない。そしてそれは同時に三姉妹がクリエートに本家家督をなかなか譲れない理由でもある。
しかし独立家の当主として、もしクリエートがレナス本家を継承しても、それはそのままネメシスがクリエートに従わねばならない直接の理由にならない。そうなれば彼女の両親であるバージゼルと三姉妹がネメシスに対し、それを明確に命じなければならない。しかし彼らとしてはドゴール家の継承においてネメシスに対して色々と負い目があるためか、どうしてもそれをしたがらない。それにそれをした所でネメシスがそれに従う保証はどこにも無い。下手をすれば一族の分裂解体の危機を招く可能性もある。自尊と自負の心が人一倍高いネメシスとして、それをやりかねない恐れは十分すぎるだけあった。少なくとも外見的には。
もちろん彼女とてクリエートの本家継承に反対を公言しているわけではない。但しそれはあくまでその資格をクリエートが身に付ければの話であり、身に付けたかどうかは彼女が決めるという話なのだ。

更にそれを助長しかねないもう一つの問題が、ラルフィント王国の将来に関する部分。
一言でいえばクリエートは急進の理想派であり、それに比べればネメシスは現実の実権派。
ラルフィント長年の両朝対立の悪癖を克服するにはレナス家が完全に取って代わり、新王朝を樹立するしかない。その際の王に自分しかいなければ進んで引き受けるというのがクリエート。
それに対し、現在の一族運営と同様、その形態や肩書はどうであろうと、実権さえ握れればどうでもいいと考えてるらしいのがネメシスである。
そしてこの二つは単に二人個人個人の考えではない。レナス家をここまで押し上げた各種の支持層を二分代表する考えといっても良い。

そして遂に山麓朝との決別が決定的になった時、レナス家支持の急先鋒役を務めたバルザック分家のベルリアンヌが提唱したように、取り敢えず想定されたのが「雲山朝が君臨しレナス家が統治する」という統一案。
もちろんそこには将来的な易姓簒奪の意図も当然に隠されているわけだが、そんな一方的な相手の都合に従わねばならない義理が雲山朝、特にミラージュ戦役の開始時においてまだ王女であったニルヴァーナにあるわけがない。
統一を餌に、それまで自分の即位に反対してきた層を黙らせ、宿願の雲山朝の女王に即位するや、レナス家側の実権掌握の様々な仕掛けをことごとく阻止。戦いを極力、山麓朝内部の潰し合いに仕向けるという切り返しを絶妙なまでにやってのける。
それにたまりかねたレナス家として、一時は山麓朝への復帰を試みる事までするが、赦免の条件として、当時の山麓朝国王にして元々からレナス家嫌いのシリウスがバージゼルの首を要求するなどして、結局は破談。
ミラージュ戦役が二年も続く長期展開となったのは、単なる軍事的な物でなく、こうした政治的な事情もまた大きい。

そしてゴットリープ陥落前後においての、雲山朝との完全決裂。
ここにおいてレナス家としてはクリエートが主唱した新王朝路線を取り、雲山朝との最終決戦に臨むとも思われた。
しかし実際にそれが現実するとなると、それまでそれを待望していたような層まで及び腰となり、伝統王朝の底力を嫌なくらいに思い知らされる。結局は一度はネメシスの侍女にまで貶めていたシャーミーナを山麓朝の女王として形式的なトップとして祭り上げ、その下で実権をレナス家全体で共有するという形に、取り敢えず落ち着く事になる。
要するにニルヴァーナを担いでのラルフィント全体的な構想を、シャーミーナを担いでの旧山麓朝内部的な構想に縮小したわけである。
そしてそれはまた雲山朝を打倒出来ない限り、山麓朝の看板を下ろせないと認めた事でもある。
その現実を認めざるを得なかった時、クリエートは思い切り吐き捨てたとも言う。「老大国めが!」と。

そしてその理由は突き詰めていけば、やはり「レナス家としての名実を伴う絶対のトップを作れない」という内部事情にも突き当たる。
権力と団結を両立させるには、他を立てた上で権力を共有する以外に道は無い。
要するに二年もの大乱を経ても、結局それを克服できなかったわけであり、むしろその最大の弱点にして欠点を露呈させた二年間だったといっても過言ではない。

よって次のトップを明確に決めない限り先に進めないという明白な現実は、ネメシスとクリエートの個人同士以上に、周囲の思惑を誘う物ともなる。それだけに間に位置するエルヴィーラの重要性を再認識させる物にもなったのである。
その一触即発の危険性と切迫性が以前より遥かに高くなり、前任者アンドレイの死因とすら疑われている現在。
前述の別理由も含め、果たして庶子で最末子のマックリィにその重責が務まるというのだろうか。

それも「レナス家の聖なる汚物」とまで呼ばれるマックリィに。

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Re: ハーレムバスタード  第一章 レナスの聖汚物 E ( No.1 )
日時: 2022/10/05 23:05
名前: 鬼末忠次
参照: http://onisue-chuuji.blog.jp/

なるほど、そういう背景ですか。マックリィがどう動くか、楽しみです。パージゼルたちの思惑を越えるものになるような気がします。
Re: ハーレムバスタード  第一章 レナスの聖汚物 E ( No.2 )
日時: 2022/10/06 19:21
名前:

前作が初期分裂期なら、今回は自分なりのレナスストーリーの総括を試みるつもりです。

とにかく最大のキーは『エンゲージ』以来の「西方四家」で。

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