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ハーレムバスタード  第一章 レナスの聖汚物 A
日時: 2022/10/08 18:28
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「レナス家の紋章だったな」

紋章付の馬車に乗って市内を走る二人。

「ああ。例の聖汚物どもだぜ」

焼け跡の残る中を通って一際大きな建物に入る二人。

ゴットリープにおけるレナス家の拠点にして政庁と言える、宰相府。

レナス家。それは現在のラルフィント王国における最大勢力。

百五十年近く前に始まる王国分裂以来、基本的に山麓朝に仕え続けて来た有力家の一つだが、半世紀くらい前から急速に勢力を伸長。
三年前勃発したミラージュ戦役において、もう一方の相手である雲山朝に鞍替えし、二年掛かりでようやくこの首都ゴットリープを降伏させ、山麓朝を打倒。

これによってラルフィントの分裂状態は遂に収束したかに思われたが、ゴットリープの降伏の前に起きた、戦後構想を巡るトラブルからバーミアの雲山朝と断交。
予想外の事態に、当初は陣営内部では以前から進んでいた、新王朝樹立論の方向を模索。だが予想外に支持が集まりそうに無かったのと、それ以上に誰を王にしてどのような体制を組むかで内部の意見がまとまらず、最終的には侍女に落としたはずの王女シャーミーナを形式的な女王に立てるという、いかにも泥縄の場当たりな決着に落ち着く事となる。

つまりラルフィント王国の歴史を一挙に刷新するかと思われた大戦乱は、結局は旧山麓朝内部の争乱に終わる形になった。
この一連の不手際は当然の事ながら、レナス家へ期待していた各方面の信用を失わせる物となった。当然にレナス家としては雲山朝側の背信と不協調を鳴らしたが、周囲的にはむしろバーミアまで一挙に攻略し力付くで屈服させるまでの力はなく、そもそも内部的な意思統一の実態についての懸念が生じてしまったのだ。
これは誕生初期の山麓朝の問題点の繰り返しを思わせる物でもあり、あちらが愚行なら、今度は醜態かとまで呼ばれる有様。

しかも事態の悪化は国内のみに止まらない。
レナス家の勢力の伸長の要因の一つは、十数年前のインフェルミナ戦役で援軍を送り、オルシーニ・サブリナ二重王国を中心とする反ドモス陣営など、国際的にも評価を受けた事が大きい。
しかし今度の戦乱は逆に、長期化に及んでしまったため、それまでラルフィント方面に貼り付けられていた、ドモス王国の戦力のフレイア方面への移動を可能とし、何とかバロムリスト王国で阻止したものの、フレイア王国までの再拡大までを許す事となる。
当然その間におけるレナス家の貢献は全くのゼロ。それによってそれまでは局外だった西方半島のフルセン王国の比重が増大し、大陸全体の戦略的比重は一気に西方へと移動する。
またそこで国内的にも見逃せないのが、バロムリスト女王アーゼルハイトの主唱で実現した女王同盟。多分に象徴的な物だが、ミラージュ戦役中に即位した雲山朝女王ニルヴァーナも加わり、使節団まで現地派遣した事で、それまでレナス家が掌握していた外交権を侵食する動きも見せ始めていた。
そもそも他国として、自己の王朝を守るためにも革命政権など積極的に支持するはずがない。ヴァスラやオレアンダーのように、対ドモスに貢献するなら話は別だが、むしろ逆に利してるような連中を支持するわけがない。
当然にレナス家としては、国際的な信用を回復するため、国境地域に戦力を戻し、雲山朝と外部の通信の遮断を図るなど、あらゆる手段を取る。傀儡としてシャーミーナを立てたのも、女王同盟を差し替えさせるためという見方もある。
但しただでさえ損耗した戦力を国境に移動させた事は、当然にバーミアに向ける戦力が減る事でもある。ますますもって早急な攻略など出来るわけもない。というかそもそもバーミアを早急に落とせないからこそそちらを優先したという見方すら出来るだろう。

要するにレナス家の周囲は内外全てに渡って完全な手詰まり。
当然に旧山麓朝内部における世相は、長期戦乱の後遺症もあって一気に冷え込み、退廃的なムードすら醸し出し始めていた。

そうした沈滞した世相を象徴するような存在こそが、まさにこの少年。
かつて「時代を決めた男」が存在していたというが、いわば彼は「時代を表した少年」とでも言うべきか。

そしてそうした彼の物語がここより始まる。

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Re: ハーレムバスタード  第一章 奇怪なる一族 A ( No.1 )
日時: 2022/10/02 18:32
名前: 鬼末忠次
参照: http://onisue-chuuji.blog.jp/

これはまた凄い! レナス家の手詰まり感がひと際ハッキリとわかりますね! さて主人公はここからどう挽回するのか、楽しみです!
Re: ハーレムバスタード  第一章 奇怪なる一族 A ( No.2 )
日時: 2022/10/03 00:01
名前:

一番の要因は雲山朝と手切れになる可能性を全く考えていなかったらしい所ですよね。

その辺りはメロディアの政略結婚拒否にも通じる感じですが、今度の場合で困るのは蹴られた方。

ニルヴァーナとしては雲山朝での即位を果たし、旧山麓朝内部の内ゲバを誘っただけで、十分な成果だと。

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