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ハーレムトライアングル  第六章 時代を決めた男 K
日時: 2022/09/29 20:38
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そしてその偉大なる叔父を大いに苦しめ続けた、侮れぬ甥もまたこの世を去る。

最大の激戦を戦い抜いた長男の部隊を除き、結果的に三王大会戦で最も戦力を温存した勢力となった梟雄カルシファー。
会戦中に見せた不審な動きは、またしても多くの疑念と懸念を惹起するものであったが、会戦後に結ばれた長男夫婦の間に初孫が生まれた祝いの席で、突如として長男への家督譲渡と引退を表明。驚く周囲の反応を意に介さず、そのまま妻妾たちを引き連れ、領内で最北端の地の館に隠居してしまう。
隠居というよりむしろ自主配流に近い驚愕な行動。当然にまた様々な憶測を生み、一部では長男夫婦によるクーデターまで取り沙汰されたが、真相はあくまで彼らだけの謎である。

そしてその数年後。もはや陰謀など巡らし様もない北端の地において、初期分裂期最大のトリックスターにして遂には「三王」の一人とまで評された男、カルシファーは未だ治まらぬ乱世にも未練は無いとばかりに静かに世を去る。
本館から急ぎ駆け付けた、長男の一家も見守る前で最後に残した言葉は「俺は…嫌だ!」。
これもまた様々な解釈が論じられているが、現状に甘んじる事の出来ない、後の多くの野心家や反逆者たちの合言葉のように伝えられていく事となる。

そして良くも悪くも最大の存在であった父の死後、長男カルデナスは嫡子ガーランドに早くも家督を譲渡。その後見を正妻ガネーシャに委ね、ベニーシェ村に隠遁。事実上の村長として、以後の人生を送ったとも伝えられる。
はっきりした記録が残っていないのは、カルシファーの死後、もはやベニーシェ地方がもはや戦略的な策謀の対象ではなく、昔のように優れた刀剣や彫刻の地としてのみ伝えられるようになったからである。

嫡男の名を敢えてオレアンダー風にし、自分自身すら含めて梟雄の痕跡を徹底的に消し去ろうとする。それが果たしてカルデナスの意図的な物であったかは分からない。
また後世において、その名をそれぞれに轟き響かす英雄ダイストと名工ペンテシレイアが、彼の在野の愛人たちとの間の子たちであるかどうかも分からないのである。


そして紛れもなき「三王」の筆頭であった、ラルフィント王国雲山朝初代国王ギャナックにもいよいよその時が来る。

バーミア入り以来、実に四十年もの長きに渡り、頭上の岩であり背中の瘤ともいえた、ベニーシェ地方。それが長女夫婦の手によってやっと無害化された事に安堵してか、ゴットリープでの最初の即位から五十年目を祝う式典の最中において突如昏倒。
そのまま意識を回復することなく唐突な死を迎える事となる。奇しくも六年前に亡くなった因縁深き従兄と同じ年であった。

彼もまた最後の言葉を残したとされ、公式には「ゴットリープに!」であったとされる。但しそれはあくまでプロパガンダであり、真相は「母上…」だったらしい。
それはむしろ波乱多きギャナックの人生に相応しいと多くの人々に思われ、聖母ミレディの伝説と共に語り継がれて行く事となる。

そしてその後継者と見做されていたのは当然に王太子のギャルソン。
長きに渡り父王の政治戦略を補佐し続けてきた、彼が即位すれば、三王大会戦以来、二十年に渡って平和裏に続けられてきた、それまでの待機持久戦略をそのまま踏襲する物と思われた。

但し、そこにおいてまたしても悲劇が起こる。
仙樹総本山での即位式の直前、王太子ギャルソンまでもが突然の死を迎えたのだ。
度重なる変事に暗殺説すら取り沙汰される中、新たな後継者となったのが。

「余がラルフィント王国国王! ギルディーンである!!」

ギルディーン!

王太子ギャルソンと事実上の王太子妃である第一寵妃リデラートとの間に産まれた息子!

母リデラートの公式な出自はあくまでモーレ一族の軍師サリオンの養女という物。しかし彼女が実は山麓朝初代国王オルディーンの孫であり、無念の死を遂げたその長男ペルセウスの唯一の遺児である事は衆知の事実である。
すなわち彼は父から雲山朝直系の血を受け継いだだけでなく、母からは山麓朝の長子系の血をも受け継いだ事になる。
彼の名が両親からそれぞれに取られているという事は表向きの説明。しかしその真の意味についての説明は不要だろう。
祖父の補佐で多忙な父に代わり、その教育を一手に行った母の教育の成果もあってか、まだ二十前に関わらず、その風貌はいかにも「余はラルフィントなり!」「余は生まれながらの正統王である!」と言わんばかりの矜持に満ちる。そして往時を知る老臣たちは、彼の父や祖父よりも、むしろその外曾祖父母たちを連想する事となる。

そしてその名と風貌の如く、即位後の彼は、それまで二十年に渡って続けられてきた待機持久戦略を放擲。ゴットリープと山麓朝に対する積極的な攻勢戦略に打って出る。
それは自らの父の復讐に燃える母の執念というより、外祖父自身の怨念が乗り移ったのではないのかとすら思える物。その後の三十年もの長きに渡り、憎き大叔母とその子孫たちに対する呵責無き攻撃を執拗なまでに繰り返していく事となる。

本来はバーミアの防衛線として重要なヤザ地方への侵攻すら辞さない、その異常なまでの行動ぶり。それは外曾祖父に因み「セカンド・テンペスト」とも呼ばれ、オレアンダーの独立やラージングラードの再離反すら招く事となるが、それらはまたそれぞれに別個の物語として語られていく事となるだろう。


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Re: ハーレムトライアングル  第六章 時代を決めた男 K ( No.1 )
日時: 2022/09/28 00:09
名前: 鬼末忠次
参照: http://blog.livedoor.jp/harem_series_suki/

完結おめでとうございます! いやー圧巻の後日譚でした! それぞれの覇者の最期の言葉が印象的です。「セカンド・テンペスト」というのも凄い。ギルディーンをこう解釈したわけですね。これもまた予想外でした。ヤザ地方を敵にまわしたというのは後顧の憂いを残していそうです。とにかくお疲れさまでした!
Re: ハーレムトライアングル  第六章 時代を決めた男 K ( No.2 )
日時: 2022/09/28 07:15
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ありがとうございます。

これを最後にやるために今まで頑張って来た感じですね。

セカンド・テンペストについては、当然にセカンド・インパクトからですが、まさにピタリのハマリでした。

自分のギルディーン解釈の元は『テンプテーション』にあった「雲山朝からも侵攻されていたヤザ」から。

どちらかと言えば防御的なギャナックやギャンブレーでは似合わない感じだったので、未知数のギルディーンに当て嵌めてみたというわけで。

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