ハーレムトライアングル 第五章 運命の五秒間 L |
- 日時: 2022/08/22 07:15
- 名前: 陣
- 「賊軍が進撃を始めましたようです」
ギャナック本営。
その周囲にはリオレイア率いる近衛軍団を中心に、バーミア周辺の主戦力が待機している。
「部下の報告によれば、主力の中に例のメロディアがいるのは確実のようです」
あくまでクールに報告する親衛隊長のエリザベス。戦場に似合わぬメイド服が異彩を放っている。
「フン。あの猪娘め。大人しく後ろに引っ込んでいればいいものを」
鼻であしらう近衛軍団長のリオレイア。兄のモーゼが動けないので、彼女が事実上の大将軍を兼ねる。
その威勢の良い面子の中で、唯一熟考しているかのような男。
「陛下。このまま一気に包囲殲滅をお狙いでしょうが。相手の速度が尋常でありません。もう少し前面に厚みを加えませんと」
慎重策を献じるサリオン。基本的はモーレ一族の軍師だが、雲山朝のそれも兼ねた地位にある。
「相手がなぜあれだけ大胆に進んで来れるか、だね?」
平然とした調子でそれに答えるギャナック。
「は。もし側面のカルシファー軍を恐れているなら、ここまで深入りしてくるのは不自然です。内通の可能性も考えないといけません」
「あそこまで恥をかかされて、まだ内通するというのか?」
訝し気な表情のリオレイア。
「だからです。だから今こそカルシファー殿を疑う者はいない。違いますか?」
黙るリオレイア。向き直るサリオン。
「陛下。陛下が亡きモーレ大将軍の最後の御免状を頂いた方だというのは承知しております。しかし今回はいささか冒険が過ぎるかと」
「僕もバーミアの中に籠ってばかりだと、いろいろ言われるからね。バーミアの中に安住してゴットリープに戻る気が無いと思われるのも面倒だし」
「しかし」
「従兄さんは馬鹿じゃない。僕たちが隙を見せない限り、博打を打つタイプじゃない。だから僕の従兄さんが務まるんだ」
その今までにないニュアンスの口調に、主君に改めて注目する一同。
「皆は何か誤解してるようだけど、僕は従兄さんを当てにした事も頼りにした事も無いよ。それに。ただの馬鹿なら僕には要らない。そう。従兄さんの兄さんたちみたいにね」
あくまで当然とばかりの淡々とした口調と表情。長らく付き合ってきた一同だが、改めて目の前の主君に瞠目する。
そんな彼らを代表するかのように、述懐するサリオン。
(他のカルシュの息子たちには「従兄」の資格が無かったというわけか…恐ろしい御方だ…)
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