ハーレムトライアングル 第五章 運命の五秒間 H |
- 日時: 2022/08/03 21:08
- 名前: 陣
- 「きゃー! 獅子姉さまカッコイー!!」
眼下で展開されるオレアンダー軍の猛威ぶりに、喚声の上がるラージングラード城内。
「こら! ミラ!」
「よし! このまま一気に呼応するぞ!」
「頼みます兄さん!」
城から飛び出すカルデナスとカーミラの騎馬隊。その煽りを受けて、本軍からの分断孤立を恐れた部隊も後退をはじめ、かくしてラージングラード城に対する半包囲状態は解除された。
「お疲れ様でした」
夕暮れとなり、取り敢えず一旦小康状態になった両軍。ラージングラード城内に入る援軍。それを迎える女城主。
「おまえアデルか。ずいぶんと大きくなったな」
「ガネーシャ姉様にはかないませんわ」
珍しく殊勝に返すアデライト。その乱れた髪をまさに鬣のように大きくなびかせるガネーシャの凄艶ぶりにいつもの勝気も気圧されるという感じか。城内の多くもその艶姿ぶりに見とれるしかないというホウっとした雰囲気。これを見られただけで死闘を行った意味があったというくらいに。
「すまんが。少し風呂を貸してくれんか。いささか汚れてしまったのでな」
「すいませんでした。準備は出来ております」
そこに遅れて戻ってくるカルデナスとカーミラ。
「獅子姉さま!」
思い切り正面から飛び付くカーミラ。それをオイオイとばかりに受け止め、髪の毛を撫でながら、その背後の男を目に止める。
「おい。お前がコイツと一緒にさっき飛び出して来た男か」
「そうですが。貴女がガネーシャ様ですか。自分はこの城の夫君の兄、カルデナスです」
「ほう。するとお前もあのカルシファーの息子か。十一年前のゴットリープ。私の初陣だったが。懐かしいな」
「奇遇ですな。自分もあそこにいましたよ。まだ十にもなってませんでしたがね」
「ほう。そうかそうか」
そのまま興味深げにシゲシゲと眺め、軽く舌なめずりして。
「ちょうど良かった。これから湯を使うところだ。お前も来い」
思わずエエッとなる周囲。特に思い切りムスッとするカーミラ。
「ちょっと。一緒はアタシが…」
「またな」
ヒョイッとカーミラを下ろし、そのまま案内役に導かれて城内に消えるガネーシャ。後に残される一同。
「姉様の悪い癖よ。戦場で思い切り血を浴びた後は、ああやって手近の男に誘いを掛ける。あれだからいつまでも嫁に行けないのよ」
「まあ。そういうことですので。兄さん。大事な援将様への御接待をお願いします」
城主夫妻の要請にフーッと溜息を付くカルデナス。
「あのな。俺も援将なんだがな。一応。ん。そう言えばロザンナはどうした?」
「さっき父さんから呼び出しがあって、向こうに行ってる。まだ向こうの所属だからね」
夫の説明に顔を顰める女城主。
「ちょっとカルディ。さっきも言ったけど。この戦が終わったらロザンナをこっちの所属にするよう、カルシ、いえ御義父様にしっかり言ってよね」
「…親父の呼び出しね…」
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