ハーレムトライアングル 第五章 運命の五秒間 D |
- 日時: 2022/07/22 23:50
- 名前: 陣
- 「あの恩知らずが!?」
天幕の中で思わず声を上げるメロディア。城に対する半包囲が完成しつつあるためか、周囲には落ち着きが出始めている。
傍には先ほど前線から戻ってきたイーディスもおり、お茶と共に軽い歓談を楽しんでいる。そこにアンナが報告を伝えに。
「は。ゲルダを通じての宰相閣下からの連絡です。バーミアからギャナック自らが出陣。直属の親衛隊並びに近衛軍団、更には西方のオレアンダー勢が主力の模様との事です」
フンと鼻で軽く笑い飛ばす女王。
「長らく山奥に引き籠もっていた小心男が。今になって何を。私も舐められた物だな」
「あるいはこちらの『門外不出の孺子』呼びに堪えられずといったところでしょうか?」
「ほう。分かっておるではないか。イーディス」
「…」
景気の良い二人に対して、どこか腑に落ちない表情のアンナ。そんな彼女に対し。
「よし。アンナ。全軍に指令を出せ。ギャナックは殺すな。必ず生け捕りにしろ」
それに対し顔色を変えるアンナ。
「殺すな、ですか?」
「そうだ。お前も聞いたろう。私の誓いを。ギャナックはゴットリープに引き立て、ペルセウスのように私の足の踏み台にして…」
「ダメです!」
「なに?」
「ギャナックだけはダメです! 殺せるとなればすぐその場で殺さなければ! 義母上になられたゲリュオン様の二の舞をなさるおつもりですか!?」
「おまえ! まさか愚民どものあの下劣な噂を信じているのか!? あれは前から内通していたオレアンダーが…」
「ならばそのオレアンダーに引き渡されたオルフェ母后様の御責任です! あの時の僅かな油断の失敗のために、二十年以上も先王陛下が苦しまれたのですよ! もちろん陛下御自身も!」
「失敗! 失敗と言ったな!? 貴様! 大恩あるはずの父上についてよくも! 貴様もギャナックと同じ恩知らずか!」
「何度でも言います! いいですか! 甘い事を考えておられていたから『逃げられた』のです! それともわざと『逃がした』のですか!?」
「く…」
思い切り歯噛みをするメロディア。
「世間への表向きなどどうでもよいです! いいですか! 今度もまた討ち漏らせば! それこそ陛下の御評判は、先王陛下どころではありません!」
「討ち漏らすというのか!? この私が!」
「あの気紛れ者のヴラッドヴェインがまたあっちに味方しないという絶対の保証でもあるのですか!? 先日のリデラート様の件もあります!」
「…」
縋り付くようにもう一人に顔を向ける女王。しかしそれに対して無言で首を左右に振る姫騎士。
「…ええい、分かった! ギャナックだけは必ずその場で殺せ! いいか! 絶対にだぞ!!」
「御意!!」
同時に応じる二人。それに続いて。
「あともう一報。ゴットリープのゲリュオン様から。バルザックから先王陛下がまもなく出立。ゴットリープに入られるとの事です」
先程以上に苦虫の女王。
「この前はこちらの要請を蹴っておいて。今度は勝手にか。どこまで王位を軽んじれば気が済むのだ。父上は」
「時間がありません。それだけ先王陛下はギャナックの動きを重視されているのでしょう。ミラージュもプラクシス殿自らが続かれる模様」
「フン。こちらの戦功に一枚加わりたがっているようだがそうはいかんぞ。今度こそ私の力を思い知らせてやる。イーディス!」
「は!」
「プラクシスには後詰待機を伝えろ! アンナ! 義母上はゴットリープとの中間点だ! あとシュナイゼルは今どこだ!?」
「は。しばらく連絡を切るが心配するなと」
「…」
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