ハーレムトライアングル 第五章 運命の五秒間 A |
- 日時: 2022/07/28 08:05
- 名前: 陣
- 「…」
全く憤懣やるかたないといった感じの、ラルフィント王国山麓朝女王メロディア。要するに気に食わないのだ。何もかも。 内部クーデターを起こし雲山朝に寝返ったラージングラードを奪還するための軍勢の動員を掛けたものの、反応は決して芳しくない。 王女時代からのゴットリープの親衛軍を中心に、アンナのカンタータ家などの近しい勢力は即座に対応したが、他の親山麓朝諸勢力の動きは概して鈍い。 中でも腹立たしいのは、親族であるはずのミラージュとバルザック両家の動き。流石に山麓朝全体としてラージングラードの離反は見過ごせないと、奪還戦への参加を表明したのは良い。しかしどちらともメロディアの指揮下には入らず、あくまで友軍的な独自のスタンスを取っている。 中でもバルザック家に関しては、ゴットリープの留守居役を父にして先王のオルディーン自身に依頼したものの、体調不良とガルシャール方面の不穏化を理由に出馬を拒否。結局は義母となるゲリュオンが代わりに入る事になったが、こうしたバルザックの動きの鈍さがミラージュ家をはじめ他家の動向に大きく影響しているのは否めない。
(どいつもこいつも父上の顔色ばかりを窺って! 今の王が誰なのを知らないのか!?)
実権の所在はともかく、要するに父の意図は明らか。現在の事態を招いた責任を取って、独力で何とかして見せろというわけだ。 もちろんそれは望むところ。もしも向こうから加勢を持ち掛けてきたら、むしろこちらから拒否しただろう。しかしここまであからさまに突き放されてはそれはそれで面白くない。
そしてその不快感を更に高めているのが、現在で置かれている境遇。 前年の戦いではラージングラード家が味方だったので、その居城を拠点に出来たが、現在はそれが最初から敵方になっているため、その南方の砦を最前線の集結地点とせざるを得ない。 当然に居住性は格段に悪く、それが不快感をますますに高める。なんで王女の時より女王の今の方が不便を耐え忍ばねばならないのか。 とにかく誰が何と言おうと、彼女にとっては紛れも無い理不尽の極み。力の信望者としても、戦いによらずに一城を手に入れた、同年の同性の所業と結果がどうしても理解も納得も出来ない。
(結婚とは、あくまで個人同士の恋愛の場であるべきよ! それ以外に利用するなんて、私は絶対に認めない!)
人によっては違う意見もあるだろう。しかし彼女自身にとってはそれこそが絶対の真理であり真実。そうでない方が間違っているという信念に絶対の揺るぎは無い。 例え他の全てを犠牲にしても。いやそもそも彼女には犠牲にするという発想自体が無い。全て自分の物にするし出来るという絶対の自信と確信があるから。そしてそれ以外の物はこの世に存在してはならないからだ。
その場に入ってくるアンナ。シュナイゼルとゲルダは政治交渉と情報収集のために各方面を飛び回っているため、現在のメロディアの右腕は彼女が務めている。
「陛下。ラージングラード城にカルシファー家の先遣隊が入りました。指揮は長男のカルデナスの模様」
その表情には明らかな危惧と焦燥が浮かんでいる。カルシファー一族が全面的に出てくるのが明白になったからだ。 それを聞くや、逆に不敵な笑みを浮かべる女王。
「カルシファー家とは願ってもないわね。まとめて叩き潰して、連中など私には不要だって事を、証明して見せるわ!」
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