ハーレムトライアングル 第五章 運命の五秒間 @ |
- 日時: 2022/07/14 18:50
- 名前: 陣
- 「どういうことよ!? これは!!」
思い切り床に叩き付けられる王冠。ここはゴットリープ王宮の大広間。叫ぶは山麓朝女王メロディア。転がった王冠を拾い上げ、汚れを軽く払う夫君兼宰相のシュナイゼル。
(…どういうことと言われましても…)
当然の結果になったという以外に無い。他に一体何が言えるというのか。
唐突かつ盛大にバーミアの仙樹教総本山で行われた、雲山朝王女アデライトとベニーシェ領主次男カルデウスの結婚式。 それは明らかに雲山朝とカルシファー一族の正式な和解の証。王女の異母兄のギャルソン王太子などは人目も憚らずに大泣きしていたとか。
それとほぼ同時に発生したラージングラードでのクーデター劇。それまでの親山麓朝の領主一家は追放され、ラージングラード出身の母を持つアデライト夫妻がそのまま後釜に迎えられたのだ。夫妻にはカンマルク家の当主カーマイン将軍の次女にしてアデライトの異母妹にもなる姫騎士カーミラも同行。かくてそれまで長く山麓朝の勢力圏だったはずのラージングラードは瞬く間に雲山朝の勢力圏に塗り替えられた。
「あのアデライト! 一年前には私の前から尻尾を巻いたアデライトのくせに! 生意気な!!」
(これこそが政治の恐ろしさだな。戦場での失態を婚姻であっさり取り返してしまう。それにしても。よりにもよってその相手があのカルデウスとは…)
メロディアは知ろうともしなかったが、カルシファー家との縁組の相手が実にあのカルデウス。当初は長男で一歳上のカルデナスが候補だったが、メロディアとはタイプが似過ぎるという懸念から、次男で一歳下のカルデナスに差し替えられたという、過去の事情があった。
(芸術家肌の大人しい、御し易い男とは聞いていたが…)
実際にラージングラードでの活動を聞いてみるに、その能力はなかなかに侮れない。あくまで女主人であるアデライトを立てながら、地元の人間たちに腰を低く接し、瞬く間に多くの信望を集めたらしい。
(そんな男がもしメロディア様の夫になっていたなら…)
メロディア様の自尊心を傷付ける事もなく、カルシファー家やゴットリープ勢力を繋ぎ合わせ、バルザックやミラージュに対する主導権を確立した上で、雲山朝を打倒し、ラルフィントの再統一も…
(…いや。ダメだな。きっと俺自身が嫉妬のあまり奴を殺したかもしれん。やはりこうなるしかなかったのだ。こうなるしか)
「それにしても! 腹が立つわ! あいつら!」
誰の事を言ってるのかも分かる。クーデターで追われた前領主一家だが、このゴットリープではなく、なんとミラージュの方に保護を求めたのだ。確かに縁組相手の出身はミラージュだが、これは明らかにゴットリープを頼りにならずと世間に示しているに等しい。
いずれにしても絶対確実の決定打と誰もが認めた政略結婚を拒否した当然の結果。しかも相手がカルデウスとなれば、それは嫌でも新女王の政治的失策を世間に対して際立たせる。 まさに「神は与えた物を拒む者に厳罰を与う」か。だがそんな繰り言をいつまでも繰り返しても、もはや取り返しは付かない。
(政略の失敗は戦略で、そして戦略の失敗は戦術で取り返す事は出来ない。それは分かっている! しかし今は最早それに賭ける以外に我々の生き延びる道はない!)
毅然とした表情で、妻にして女王の前に進み出、王冠を改めて捧げる。
「陛下! こうなれば陛下が行うべき事は一つのみです!」
それを受け取り、不敵な表情を浮かべる女王。
「そうよ! 今こそ我自身の力を示し! 我を軽んじる者ども全てを! あの愚かな兄のように! この足下に踏み敷いて見せるわ!! たとえそれが! 御父様であっても!!」
玉座から立ち上がり、放たれる王者の獅子吼!
「全軍出陣よ! ラージングラードへ!!」
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