トップページ > 過去ログ > 記事閲覧
ハーレムトライアングル  第四章 無数に書かれた三角形 A
日時: 2022/07/09 10:02
名前:

「御父様…」

思い切り顔に渋面を作っている新女王のメロディア。
せっかくの娘の婚礼だというのに、バルザックに隠居した両親はどちらもゴットリープに出てこない。祝辞の一本も寄越さない。新郎の義母もまた同様に。
結婚相手を決めてバルザックに知らせを送って以来、一向に向こうからの連絡は無い。承諾はおろか否認すら無い。

(勝手にやれと言わんばかりだよな。義母上みたいに)

確かに先王の怒りも当然至極。あくまで義母のゲリュオンを通しての交渉ではあったが、その譲位もカルシファー家との縁組が前提だっただけに、こちらの行った行為は誰がどう見ても明らかに騙し討ち。いかに実の娘の強い意思とは言え、これに軽々と良きに計らえなどとやっては先王陛下としての面子は丸潰れ。あくまで先王第一の義母としては絶対に許し難い所業だろう。
女王は元より、今や宰相にして当事者の自分もバルザックに出向くわけにもいかず、先王のお気に入りでもあったアンナが釈明に出向いたが、これも全く無視の門前払い。
これには「いかに先王の父様でも今の王の勅使を軽んじるとは許せん」と怒り狂った女王を何とか宥めたが、結局は挙式において使者の一人も寄越さず仕舞い。

(それでも…)

ミラージュの新領主であり、女王の異母兄であるプラクテスが親族代表も兼ねた形で参加する事によって一応は格好が付いた形に。ただしこれは明らかにミラージュとバルザックによる示し合わせに他ならない。

(首の皮一枚だけは残してやる、ってだけじゃないよな。やはり)

異母妹の新女王と王位を争った同母兄のペルセウスと違って、全くの堅実派として目立たない存在だったプラクテス。しかし事態がこういう展開になると、スタンドプレーとは無縁の彼の存在が俄然と千金の重みを持って来る。

(参列の連中の関心も明らかにそちらだったなあ)

要するに連中が来た一番の目的は、政治的に大した意味の無い結婚式などではない。バルザックとミラージュ、そしてゴットリープによる山麓朝王家の現状を確認したいのだ。
当然。もし現女王が廃嫡された場合の後釜候補の人物も含めて。
それを鑑みたゲルダがプラクテスも殺るかと言って来たが流石にそれは厳禁した。少なくとも今の時点でプラクテスはこちらに敵対的ではない。それに止むを得なかったとはいえ、いささか今まで内輪で人材を殺し過ぎてしまった。宰相となって改めて実感したが、これ以上殺せばむしろバーミアの穴熊どもを利するだけだ。
あいつら。せめて今度の件を表沙汰にする事でカルシファーとの衝突を期待したというのに、むしろ失敗娘を上手く使って修好しやがった。いかに手駒が多いとはいえ、全くもって実に忌々しい。

(それに現在のゴットリープには、僅かな応援部隊を除いてバルザックとミラージュの者たちは誰もいない。新女王の邪魔をしないと言えば聞こえは良いが…)

ある意味では、距離を置かれたというか。それとも見放されたというべきか。
おそらく両家としては、これからはそれぞれの家の利害をより押し出した態度を出していく事だろう。それに対処するためにも。

(これからはこちらも独自のゴットリープ勢力としての力を養っていかなければならない。御両親はどうであれ、紛れもなくゴットリープ生まれのメロディア様を前面に立て。この都市の勢力とより深く手も結んでの…)

そもそもカルシファー家との縁組の発案者であり仲介役でもあった、元々のゴットリープ勢力にとって必要なのは、何よりも経済活動のための安定と安寧。
たとえ一気呵成の早急な統一は困難であったとしても、彼らの活動を守り保証する事が最低出来れば、彼らの様々な協力も得る事が出来る。

そう。現在の局面は山麓朝と雲山朝とカルシファー家の三角形だけではない。山麓朝内部においてもまたバルザックとミラージュとゴットリープによる三角形がある。
その中において如何にゴットリープの主導性を確立するかが自分の使命。
いくら軍事的戦略的に脆弱とはいえ、政治的経済的に再統一の暁には首都としてゴットリープに勝る場所などどこにも無いのだ。
そしてそれを推進する事こそが、この自分がメロディア様の宰相であり夫である事の意味であり意義にもなる。

(そうなればメロディア様が自分を選んだ事も愚行などと呼ばれなくなるはずだからな)

Page: 1 |

Re: ハーレムトライアングル  第四章 無数に書かれた三角形 A ( No.1 )
日時: 2022/07/08 21:46
名前: ハーレムシリーズ好き
参照: http://blog.livedoor.jp/harem_series_suki/

おお、このシュナイゼルはいいですね。認識、分析がいい。あとは手駒かなー。メロディアを説得できるか、現状を理解させることができるかが、今後のカギになりそうですね。
Re: ハーレムトライアングル  第四章 無数に書かれた三角形 A ( No.2 )
日時: 2022/07/09 04:08
名前:

ナポレオンとタレイランもですが、一番にして最大難関の交渉相手が自分の上司ってのが、まさに彼ならではの苦労ですよね。

まさに悲喜劇という言葉が相応しい。

Page: 1 |