ハーレムトライアングル 第三章 ベニーシェの女鍛冶 A |
- 日時: 2022/07/06 21:18
- 名前: 陣
- 「入るぞ。オトレーレー」
返事も待たずにズカズカと入り込むカルデナス。 ここはベニーシェ村の外れに位置する女鍛冶オトレーレーの家。この村を代表する名工であり、事実上の稼ぎ頭。そしてカルデナスとは幼い頃からの馴染同士である。
「あら。来たの」
奥から鉄をキンキン叩く音と共に聞こえてくる女の声。
「なんだ。意外そうだな」
お構いなしにドンドン奥に入ると、やがて眼に入る女の白い背中。汗に濡れた長い後ろ髪が艶めかしさを醸し出している。
「いいの。バーミアからの御相手を放っておいて?」
背中を向けたままで問いを投げる。それに向かって訝しそうに。
「御相手? 何の事だ」
「バーミアで王女様と縁組が決まって連れてきたんでしょ。見掛けた人が村中に言い触らしてるわよ。思いっ切り」
軽い舌打ち。
「おいおい。どうしてそんな話になるんだ。あれはバーミアの王から押し付けられた唯の面倒な御荷物だぞ。まあ。どうやらアレが今度の件についての罰らしいがな」
手近にあった竹筒の水をグイっと飲み干す。 それは自分のだぞ、と言わんばかりにやっと振り返るオトレーレー。傍の手拭いを手に取り、立ち上がる。
「そう。で。どうするの?」
「どうしたもんかな。ま。取り敢えずは上手くやれそうなロザンナに預けてるが。アイツも家族がいないし」
ロザンナの家族は、二十五年前にカルデナスの伯父たちがベニーシェに攻めて来た時に殺されている。当時この村で一番の刀工だった、彼女の父は連行に逆らってその場に居た家族と共に惨殺され、たまたま他の家にいたロザンナだけが助かった。そしてその仇を討ってくれたカルシファーに後に仕え、今日に至っている。
「で。アンタの親父様の御殿様は? 年下好みなんでしょ?」
皮肉っぽい笑みを浮かべる幼馴染に思いっきり顔を顰める。 そう。あのスケベ親父。息子の馴染と承知でコイツにまで粉を掛けやがって。
「真っ先に振ったよ。そしたら何と言ったと思う。親父の奴?」
「さあ」
「『俺はアイツの義理の従弟まではいいが。息子は御免だ』とよ!!」
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