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ハーレムトライアングル  第三章 ベニーシェの女鍛冶  @
日時: 2022/07/06 19:00
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「やれやれ。戻ってこれた」

眼下に広がるベニーシェ村の光景。それに深く安堵するカルデナス。
一時は最低でも人質にされるかと思いきや、逆に御荷物を渡されて帰る事になるとは。

(…あくまで「荷物」なんだよなあ…)

要するに「人質」ではない。たとえ盾に取った所で見殺しにされるという類の扱いだ。かといって下手に粗末に扱うわけにもいかない。

馬車の真向かいに座ってる、荷物を注視する。
隣の席のロザンナの胸にしな垂れかかって、心地良さ気に寝息を立てているアデライト。

(この荷物の御祖父様が…)

ギャナック王の父でもある、現在最後のラルフィント統一王チムール。その彼が自身の弟である祖父カルシュの遺領を五人の兄弟に分封。中でも最重要のベニーシェ地方を庶出の末子であるカルシファーに与えたのは、明らかにカルシュ一族の弱体化と内紛を狙っての事だったのは実に目に見えていた。

(しかし。もしチムール王が親父の本性と才能を知っていたら、あんなやり過ぎはしなかったろうな)

実際、ベニーシェ領の相続に関しては、嫡出の兄たちから相当な反発と圧力が加えられ、その継承を保証していたゴットリープのギャナック政権がオルディーンの反逆に潰れた時には、分割相続の取消並びに線の引き直しも考えられた。
ただし伯父たちも決して一枚岩ではなく、当然のように一括継承を狙う長男と他の三人との間で紛糾。またオルディーンとしても、兄たちの一族の存在は同様に脅威であり、取り敢えずは現状維持に留めていたのが幸いだった。

(ま。山麓朝の連中にして見れば、親父もまた「恩知らず」って事になるんだろうなあ)

そして廃王ギャナックがバーミアにおいて新たに雲山朝政権を立ち上げるや、真っ先に参じる事によってベニーシェ領の安堵を取り付け、ゴットリープへの単独遠征も敢行。
そちらは留守中のベニーシェ領を狙った、伯父たちの攻撃もあって頓挫するが。

(むしろそれを誘うためもあっての遠征だったんじゃないかな)

おそらく伯父たちの最大の誤算はバーミアの雲山朝がベニーシェ領の救援のために迅速に動いた事。帰順したばかりのオレアンダー家を先頭に、逆に留守中の四兄弟の本領に向かって進撃して来たのだ。

(あのバカ伯父たち。どうせなら独断専行の弟を始末するとか、バーミアに御伺いの一つも立てておけば良かったのに。日和見の上に、あんな勝手が許されるとでも思ってたのか)

その結果、各自の本領から家族と共に追われた四人の伯父たちの頼った先は。なんとゴットリープから帰り着いたばかりの末弟の元。

(全くアホとしか言えない愚行だったな。それだけ親父を舐めてたのか。それともそれ以上に年若い甥に頭を下げるのが嫌だったのか。あるいはなまじ兄弟顔を合わせて虚勢を張り合ったのか)

それ以降を語るのは正直キツイ。
当然のように保護を要求する兄たちを捕縛するや、互いの家族を始末するように要求。その代わりに一日分の延命を約束。それを果たすや翌日にまた二人ずつ殺し合わせ、次にはまた二人。更に翌日に最後に残った長男を自分自身で抹殺。最後にアソコを抉り取る事で、それまでの恨みを周囲に知らしめる事になったとも言える。

残忍なようだが、こういうケースでは家族ごとの抹殺は当然。むしろ数日も掛けてやったという事の方が例外。
残酷趣味という意味ではない。時間を掛ければ当然に助けなり、特赦なりの報も届くなりが間に合う可能性もあるからだ。だからこそ伯父たちもまたそれに最後の望みを賭けた。

(だからむしろ親父の周りがさっさと処刑しろとせっついたんだよな。約束なんかどうでもいい、早くしろって)

そして結局は何も起こらなかった。ただそれだけの話だ。

(それからがまた面倒だったんだよなあ)

もちろんそれは伯父たちの遺領の配分。
親父たちが戻ってくる前に大方が片付いてしまったので、四つの遺領は四分され、その内の一つだけがベニーシェ家に。そして一つは先鋒を務めたオレアンダー家。そして最後の二つがバーミアの国王直轄領とされたのだ。
軍事的な貢献度からすれば、むしろ当然過ぎるほどの当然。ただし旧カルシュ領の再統一を望む連中としてはやはり面白くない。

(だからこそ御袋の持参金としての名分で、直轄領分の一つをまず渡したんだったな)

そして十一年前には、ゴットリープ一時奪還の功として、オレアンダー本領隣りの新領と交換に、オレアンダー家の分をベニーシェ家の恩賞に。

しかし最後のバーミアに隣接した分だけは依然として直轄領のまま。
そしてこれが祖父以来の連中にとっては、どうしても我慢出来ないらしいが。

(まあ首都防衛としては当然だろうな。今のバーミアは昔のバーミアじゃない。俺だってそうするだろうさ)

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Re: ハーレムトライアングル  第三章 ベニーシェの女鍛冶  @ ( No.1 )
日時: 2022/07/06 08:58
名前: ハーレムシリーズ好き
参照: http://blog.livedoor.jp/harem_series_suki/

これはまた凄惨な過去があったものです。自分のカルシファーのイメージとは違うなあ。カルシファーが性的虐待を受けていたという流れの行為なら納得です。

>本領近くの新領と交換に、オレアンダー家の分を恩賞に。

というのは、わからなかったです。
Re: ハーレムトライアングル  第三章 ベニーシェの女鍛冶  @ ( No.2 )
日時: 2022/07/06 12:41
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これでもまだマージェニックに比べればマシだというのが自分の解釈。

あと野心家系としてヒルクルスと区別するのが二つ。

三つ目はギャナックが既にあれだけの目にあってる以上はってとこでしょうか。


オレアンダーについては、その本領の側に新領をあてがえるようになったので、飛び地と交換ですね。

あるいはそれが後の独立にもつながっていくのかって。

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